説明

ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物

【課題】高い誘電率且つ低い誘電正接を示し、成形性に優れ、耐衝撃性が改良されたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)カルボキシル末端基を有するポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)1MHzにおける比誘電率が50以上、誘電正接が0.05以下であるチタン酸アルカリ土類金属塩10〜400重量部、及び(C)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体であって、オレフィン系共重合体中のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量が4〜8重量%であるオレフィン系共重合体0.5〜20重量部を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の(C)グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が0.2〜0.5モル%であり、(A)のカルボキシル末端基量(mmol/kg)に対する(C)のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量(mmol/kg)の比が0.4〜1.0であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い誘電率且つ低い誘電正接を示し、成形性に優れ、耐衝撃性が改良されたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す場合がある)樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド(以下PASと略す場合がある)樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料に広く使用されている。一方、近年、携帯電話や無線LAN、あるいはGPS、VICSおよびETC等のITS技術など、情報通信分野において著しい技術発達がなされているが、これに応じてマイクロ波やミリ波の高周波領域において適用できる高性能な高周波対応電子部品のニーズが強くなっており、これら電子部品を構成する材料としては、それぞれの設計に応じて適切な誘電特性を有することが求められている。
【0003】
PAS樹脂を始めとする熱可塑性樹脂は、広く射出成形用途に用いられ、その易成形性から、比較的複雑な形状を有する部品を作成することが容易であり、従来、高周波対応電子部品の素材として使用されてきた金属や熱硬化性樹脂あるいはセラミックなどでは制限されてきた設計自由度が格段に高くなるという優位性を有している。また、リサイクル性など環境面においても従来技素材に比べ有利であると言える。
【0004】
このような背景から、PAS樹脂をマトリックスとした特定性状の高誘電率樹脂組成物が各種提案されている(特許文献1〜4)。これらの手法によれば、高い比誘電率を有するPAS樹脂組成物は得られるものの、特許文献1に記載の樹脂組成物は誘電正接が比較的高く、また、特許文献2〜4に記載の樹脂組成物は溶融粘度が高く、必ずしも射出成形用途に適しているとは言えない。また、これらの樹脂組成物は高誘電率の無機フィラーを多量に添加するため耐衝撃性に弱点があった。携帯電話に代表される通信機器への適用の際には、落下衝撃に耐えられるだけの耐衝撃性への要求は高く改善の必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2814288号公報
【特許文献2】特許第2873541号公報
【特許文献3】特開2005−93096号号公報
【特許文献4】特開2005−94068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、高い誘電率且つ低い誘電正接を示し、成形性に優れ、耐衝撃性が改良されたPAS樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PAS樹脂をマトリックスとした高誘電率樹脂組成物に特定のオレフィン系共重合体を特定量配合することによって耐衝撃性を改善できることを見出した。
【0008】
即ち本発明は、
(A)カルボキシル末端基を有するポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対して、
(B)1MHzにおける比誘電率が50以上、誘電正接が0.05以下であるチタン酸アルカリ土類金属塩10〜400重量部、及び
(C)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体であって、オレフィン系共重合体中のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量が4〜8重量%であるオレフィン系共重合体0.5〜20重量部
を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の(C)グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が0.2〜0.5モル%であり、(A)のカルボキシル末端基量(mmol/kg)に対する(C)のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量(mmol/kg)の比が0.4〜1.0であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い誘電率且つ低い誘電正接を示し、成形性に優れ、耐衝撃性も改良されたPAS樹脂組成物を提供することができ、本発明のPAS樹脂組成物は、マイクロ波やミリ波の高周波領域において適用できる高性能な高周波対応電子部品に好適に利用される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に用いる(A)成分としてのPAS樹脂は、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で主として構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。この場合、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰返し単位を用いたポリマー、すなわちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。
【0011】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするものが特に好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、流動性(成形性)、機械的特性等の物性上の点から適当である。
【0012】
また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できるが、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させさせるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーも使用できるし、比較的低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素又は酸化剤の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマー、あるいはこれらの混合物も使用可能である。
【0013】
また、(A)成分のPAS樹脂は、前記直鎖状PAS樹脂(310℃・ズリ速度1200sec-1における粘度が10〜300Pa・s)を主体とし、その一部(1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%)が、比較的高粘度(300〜3000Pa・s、好ましくは500〜2000Pa・s)の分岐又は架橋PAS樹脂との混合系でも構わない。また、本発明に用いるPAS樹脂は、従来公知の重合方法で製造することができる。通常、副生不純物等を除去するために、重合後、PAS樹脂は水或いはアセトン洗浄で数回洗浄した後、酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄する。結果、PAS樹脂末端には、カルボキシル末端基を所定量含む。
【0014】
後述する通り、本発明ではPAS樹脂のカルボキシル末端基量を、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量に対して、特定の範囲に調整する必要がある。本発明において、カルボキシル末端基量とは、実施例に記載された方法により得られる値を採用する。
【0015】
次に、本発明で用いる(B) 成分としてのチタン酸アルカリ土類金属塩は、1MHzにおける比誘電率が50以上、誘電正接が0.05以下である。1MHzにおける比誘電率が50以上という高誘電率のチタン酸金属塩を用いることにより、効率的に高誘電率の成形品を得ることができる。比誘電率が50未満のものでは誘電率があまり上がらず実用性に欠ける。また、1MHzにおける誘電正接は0.05以下にする必要があり、0.05よりも大きい場合は、誘電損失が大きくなり電子部品としての性能低下につながる。
【0016】
このような1MHzにおける比誘電率が50以上、誘電正接が0.05以下であるチタン酸アルカリ土類金属塩としては、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0017】
このような(B)チタン酸アルカリ土類金属塩の配合量は、PAS樹脂100重量部に対して10〜400重量部である。配合量が10重量部未満の場合は誘電率向上効果が小さく、400重量部より多いと加工性が悪化する。
【0018】
更に、本発明に用いられるチタン酸アルカリ土類金属塩は、熱水にて抽出されるチタン酸アルカリ土類金属塩中の含有金属イオン量が500ppm未満のものであることが好ましく、特に100ppm未満のものであることがより好ましい。このようなチタン酸アルカリ土類金属塩は、フラックス法など従来から知られている方法により合成されるチタン酸アルカリ土類金属塩を、熱水あるいは塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸などの無機酸で処理することにより得ることができる。熱水にて抽出される金属イオン量が500ppm未満のもの用いれば、樹脂組成物の溶融粘度の上昇が少なく、成形性が悪化することが少ない。
【0019】
次に、本発明に用いる(C)オレフィン系共重合体は、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体である。
【0020】
本発明に用いる(C)オレフィン系共重合体において、この共重合体に含まれるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が多過ぎても少な過ぎてもPAS樹脂組成物の生産性、あるいは誘電特性の低下を伴ってしまう。特定の範囲内のオレフィン系共重合体を選択することで、生産性と誘電特性を損なうことなく高誘電率PAS樹脂組成物の耐衝撃性を改善できる。この点から、オレフィン系共重合体中のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量が4〜8重量%であることが必要である。
【0021】
また、(C)オレフィン系共重合体の配合量としては、(A)PAS樹脂100重量部に対し、0.5〜20重量部、好ましくは2〜11重量部が用いられる。
【0022】
(C)オレフィン系共重合体を構成する一方の成分であるα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられるが、エチレンが好ましい。これらα−オレフィンは2種以上を用いることもできる。また、オレフィン系共重合体を構成するもう一方の成分であるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、一般式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
(但し、R1 は水素又は低級アルキル基を示す。)
で示される成分であり、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられるが、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【0025】
α−オレフィン(例えばエチレン)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルから成るオレフィン系共重合体は、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合させることによって得ることができる。(C)オレフィン系共重合体は、α−オレフィン100重量部に対してα,β−不飽和酸のグリシジルエステル1〜40重量部を用いて共重合することが好適である。
【0026】
更に(C)オレフィン系共重合体は、耐衝撃性、耐熱性向上のために、下記一般式(2)で示される繰返し単位で構成された重合体又は共重合体の一種又は二種以上が分岐又は架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体であることが好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
(但し、R は水素又は低級アルキル基、Xは-COOCH3、-COOC2H5、-COOC4H9、-COOCH2CH(C2H5)C4H9、-C6H5、-CNから選ばれた一種又は二種以上の基を示す。)
分岐又は架橋鎖としてグラフト共重合させる重合体又は共重合体セグメントとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル及びスチレンから選ばれる一種又は二種以上からなる重合体又は共重合体が挙げられる。好ましくは、メタクリル酸重合体、アクリロニトリルとスチレンの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルの共重合体等であり、特に好ましくはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルの共重合体である。これら重合体又は共重合体は、通常よく知られたラジカル重合によって調製される。
【0029】
また、これら重合体又は共重合体の分岐又は架橋反応も、ラジカル反応によって容易に調製できる。例えば、これら重合体又は共重合体に過酸化物等でフリーラジカルを生成させ、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルのオレフィン系共重合体を溶融混練することによって、所望のグラフト共重合体を調製できる。
【0030】
分岐又は架橋鎖となる重合体又は共重合体は、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルのオレフィン系共重合体100重量部に対し、10〜100重量部を分岐又は架橋することが好適である。
【0031】
このようなα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量が4〜8重量%であるオレフィン系共重合体としては、市販のものを用いることができ、例えば住友化学(株)製ボンドファースト2C等が挙げられる。
【0032】
更に、PAS樹脂組成物中の(C)グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が0.2〜0.5モル%であり、(A)のカルボキシル末端基量(mmol/kg)に対する(C)のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量(mmol/kg)の比(グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量/カルボキシル末端基量)が0.4〜1.0であることが必要である。
【0033】
本発明においては、エラストマー(オレフィン系共重合体)中のグリシジルエステルとPAS樹脂のカルボキシル基末端基とが反応し、PAS樹脂とオレフィン系共重合体との相互作用が高まり、衝撃特性が向上すると推測される。
【0034】
ここで、上記グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が多過ぎると、オレフィン系共重合体のグリシジル基同士が反応し、その結果、樹脂の粘度が増大し、樹脂組成物の流動性が低下するため充填不良(ショート・ショット)が発生する、離型不良等の原因となり成形安定性が悪くなる、あるいは薄肉成形品を成形するのが困難となるため好ましくない。
【0035】
また、グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が少な過ぎるとPAS樹脂とオレフィン系共重合体との反応が起こらないため衝撃特性向上の効果が十分に得られない。
【0036】
このため、上記の通り、グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量とPAS樹脂のカルボキシル基末端量との比(グリシジルエステル含有量/カルボキシル基量)を特定の範囲(0.4〜1.0)に調整する必要がある。
【0037】
本発明においては、更に(D)成分としてアルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物を配合することにより、高い誘電率、低い誘電正接および優れた成形性を維持しつつ、更に金属腐食性が改良されたPAS樹脂組成物を得ることができる。このような化合物の金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウムが挙げられ、好ましくはカルシウムである。
【0038】
(D) アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物の配合量は、PAS樹脂100重量部に対して0.01〜15重量部である。配合量が0.01重量部未満であると金属腐食性改良効果が小さく、15重量部より多いと樹脂組成物の溶融粘度が高くなり成形性が悪化する。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能改良のため無機充填剤を配合することもでき、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。
【0040】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維、又はカーボン繊維である。なおポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維物質も使用することができる。一方、粉粒状充填剤としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトのごとき硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。又、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔が挙げられる。これらの無機充填剤は一種又は二種以上併用することができる。
【0041】
これらの充填剤の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することが望ましい。この例を示せば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。これ等の化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製の際同時に添加してもよい。
【0042】
無機充填剤の使用量は特に制限されないが、一般的には、(A) 成分のPAS樹脂100重量部あたり10〜300重量部である。過小の場合は機械的強度がやや劣り、過大の場合は成形作業が困難になるほか、機械的強度にも問題がでる。
【0043】
又、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、バリ等を改良する目的としてシラン化合物を配合することができる。シラン化合物としては、ビニルシラン、メタクリロキシシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メルカプトシラン等の各種タイプが含まれ、例えば、ビニルトリクロルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
又、本発明の樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂を補助的に少量併用することも可能である。他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な熱可塑性樹脂であればいずれのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール或いはオキシカルボン酸などからなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアリレートなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を混合して使用することもできる。
【0045】
更に、本発明の樹脂組成物には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤等の安定剤、難燃剤、染・顔料等の着色剤、潤滑剤および結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0046】
本発明の樹脂組成物の調製は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。一般的には必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練し、押出して成形用ペレットとすることができる。また、樹脂成分を溶融押出し、その途中でガラス繊維の如き無機成分を添加配合するのも好ましい方法の1つである。
【0047】
このようにして得た材料ペレットは、射出成形、押出し成形、真空成形、圧縮成形等、一般に公知の熱可塑性樹脂の成形法を用いて成形することができるが、最も好ましいのは射出成形である。
【実施例】
【0048】
次に実施例、比較例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた各(A)、(B)、(C)、(D)の具体的物質は以下の通りである。
(A) ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂
・(A-1): (株)クレハ製フォートロンKPS(310℃、ズリ速度1000sec-1における溶融粘度30Pa・s)
20LのオートクレーブにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)5700gを仕込み、窒索ガスで置換後、約1時間かけて、撹拌機の回転数を250rpmで撹拌しながら、100℃まで昇温した。100℃に到達後、濃度74.7重量%のNaOH水溶液1170g、硫黄源水溶液1990g(NaSH=21.8モル及びNa2S=0.50モルを含む)、及びNMP1000gを加え、約2時間かけて、徐々に200℃まで昇温し、水945g、NMP1590g、及び0.31モルの硫化水素を系外に排出した。
【0049】
上記脱水工程の後、170℃まで冷却し、p-DCB(p-ジクロロベンゼン)3427g、NMP2800g、水133g、及び濃度97重量%のNaOHを23g加えたところ、缶内温度は130℃になった。引き続き、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、180℃まで30分間かけて昇温し、さらに、180℃から220℃までの間は60分間かけて昇温した。その温度で60分間反応させた後、230℃まで30分間かけて昇温し、230℃で90分間反応を行い、前段重合を行った。
【0050】
前段重合終了後、直ちに撹拌機の回転数を400rpmに上げ、水340gを圧入した。水圧入後、260℃まで1時間で昇温し、その温度で5時間反応させ後段重合を行った。後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンで粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトン洗いを3回、水洗を3回、0.3%酢酸洗を行い、その後、水洗を4回行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒伏ポリマーは、105℃で13時間乾操した。このようにして得られた粒状ポリマーは、溶融粘度が30Pa・sであった。この操作を5回繰返し必要量のポリマーを得た。
・(A-2): (株)クレハ製フォートロンKPS(310℃、ズリ速度1000sec-1における溶融粘度40Pa・s)
20LのオートクレーブにNMP5700gを仕込み、窒索ガスで置換後、約1時間かけて、撹拌機の回転数を250rpmで撹拌しながら、100℃まで昇温した。100℃に到達後、濃度74.7重量%のNaOH水溶液1170g、硫黄源水溶液1990g(NaSH=21.8モル及びNa2S=0.50モルを含む)、及びNMP1000gを加え、約2時間かけて、徐々に200℃まで昇温し、水945g、NMP1590g、及び0.31モルの硫化水素を系外に排出した。
【0051】
上記脱水工程の後、170℃まで冷却し、p-DCB3427g、NMP2800g、水133g、及び濃度97重量%のNaOHを23g加えたところ、缶内温度は130℃になった。引き続き、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、180℃まで30分間かけて昇温し、さらに、180℃から220℃までの間は60分間かけて昇温した。その温度で60分間反応させた後、230℃まで30分間かけて昇温し、230℃で90分間反応を行い、前段重合を行った。
【0052】
前段重合終了後、直ちに撹拌機の回転数を400rpmに上げ、水340gを圧入した。水圧入後、260℃まで1時間で昇温し、その温度で5時間反応させ後段重合を行った。後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンで粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトン洗いを3回、水洗を5回行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒伏ポリマーは、105℃で13時間乾操した。このようにして得られた粒状ポリマーは、溶融粘度が40Pa・sであった。この操作を5回繰返し必要量のポリマーを得た。
(B) チタン酸アルカリ土類金属塩
・チタン酸カルシウム、繊維径0.5μm、繊維長5μm、1MHzにおける比誘電率95、誘電正接0.001、熱水抽出含有金属イオン量80ppm
調製法;フラックス法によりチタン酸カリウム繊維を合成し、その後脱アルカリ処理をしたチタン酸繊維を原料としてカルシウムの炭酸塩を沈着させ、その後加熱処理を行いチタン酸カルシウム繊維を合成した。その後、90℃の純水中に投入して2時間攪拌し、濾炉後110℃にて2時間乾燥することにより調製した。
【0053】
得られたチタン酸カルシウムから熱水により抽出される金属イオン量は、チタン酸カルシウムを80℃の純水中にスラリー濃度1%で分散させ2時間攪拌し、濾液中の金属イオン量を原子吸光法により定量することにより、チタン酸カルシウム中の含有金属イオン量を求めた。
【0054】
フィラー誘電率; 東洋精機製ラボプラストミルを用い、ポリエチレンに充填率をふってフィラーを配合、混練し、得られたサンプルを粉砕した後、誘電特性測定用試験片を成形し、インピーダンスアナライザーを用い、アジレントテクノロジー製誘電体テスト・フィクスチャ(アジレント16451B:ASTM D150を準拠)による容量法(電極接触法)にて1MHzにおける比誘電率(εr)、誘電正接(tanδ)を測定して、得られたデータをフィラー充填率との関係でプロット、グラフ化させ、本フィラーの割合が100vol%になる値をそれぞれ、フィラーの比誘電率(εr)、誘電正接(tanδ)とした。
(C)オレフィン系共重合体
・(C-1): 住友化学(株)製ボンドファースト2C
・(C-2): 住友化学(株)製ボンドファースト7L
・(C-3): 住友化学(株)製ボンドファーストE
・(C-4): ARKEMA社製「LOTADER AX8840」
(D) アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物
・(D-1):水酸化カルシウム
・(D-2):水酸化ナトリウム30重量%水溶液(但し、表1中の配合量は水酸化ナトリウムに換算した値を記載した。)
【0055】
実施例1〜5、比較例1〜7
(A) 成分、(B) 成分、(C) 成分、更に必要に応じて(D)成分を表1に示す比率でヘンシェルミキサーにより5分間混合し、これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し、樹脂温度350℃にて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを作った。得られたペレットについて、下記の方法にて各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[誘電特性]
射出成形機にてシリンダー温度320℃、金型温度150℃で、誘電特性測定用試験片を成形し、空調室室温(23℃±2℃、50%RH±5%RH)雰囲気下に2時間以上放置後、インピーダンスアナライザーを用い、アジレントテクノロジー製誘電体テスト・フィクスチャ(アジレント16451B:ASTM D150を準拠)による容量法(電極接触法)にて1MHzにおける比誘電率(εr)、誘電正接(tanδ)を測定した。
【0057】
[溶融粘度]
東洋精機製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1000sec-1での溶融粘度を測定した。
【0058】
[機械物性]
・曲げ強度:ISO3167に準じた試験片(幅:10mm,厚み4mm)を成形し、ISO 178 に準じて測定した。
・シャルピー衝撃強度(ノッチ無し):ISO3167に準じた試験片(幅:10mm,厚み4mm)を成形し、ISO 179/1eU に準じて測定した。
[カルボキシル末端基量の測定](以下の方法は一例である)
(i)FT−IR測定により、安息香酸のベンゼン環の吸収ピーク3065cm-1、カルボキシル基の吸収ピーク1704cm-1でのピーク高さを測定する。それぞれ、0.0117、0.143である。したがって、ベンゼン環のC−H結合に対するカルボキシル基の吸収ピークの相対強度は、61.1となる。
(ii)PPS樹脂中の不純物由来のカルボキシル基を除去するため、一旦、シリンダー温度320℃の二軸押出機で溶融混練して得られたペレットをサンプルとした。得られたペレットをプレスしFT−IR測定を行ったところ、ピーク高さ(吸収強度)が3065cm-1の位置で0.102、1704cm-1の位置で0.0071であった。
(iii)測定対象となる樹脂組成物について、上記と同様にして、ピーク高さ(3065cm-1、及び1704cm-1)から、ベンゼン環のC−H結合1つに対するカルボキシル基1つの吸収ピークの相対強度を求めると、0.28となった。ベンゼン環にカルボキシル基が1つ置換されている安息香酸の吸収ピークの相対強度から、カルボキシル基がベンゼン環に対して0.46モル%含まれていると求めた。
(iv)PPS樹脂1kg中に含まれる繰り返し単位−(Ar−S)−(Arはベンゼン環)の量は、9.3mol/kgであり、PPS樹脂1kg中に含まれるカルボキシル基は、42mmol/kgとなった。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル末端基を有するポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対して、
(B)1MHzにおける比誘電率が50以上、誘電正接が0.05以下であるチタン酸アルカリ土類金属塩10〜400重量部、及び
(C)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体であって、オレフィン系共重合体中のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの含有量が4〜8重量%であるオレフィン系共重合体0.5〜20重量部
を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の(C)グリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量が0.2〜0.5モル%であり、(A)のカルボキシル末端基量(mmol/kg)に対する(C)のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量(mmol/kg)の比が0.4〜1.0であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
更に、(D)成分として、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物を(A)成分100重量部に対して0.01〜15重量部配合してなる請求項1記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−177015(P2012−177015A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39848(P2011−39848)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】