説明

ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物

【課題】耐熱性(熱老化特性)が改良され、成形性も優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)Na含有量が250〜3000ppmで、且つレジンのpHが7.0〜12.0、重量平均分子量が70,000以上である、実質的に直鎖状のポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(B)アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物を0.01〜3重量部を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性(熱老化特性)が改良され、成形性も優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す場合がある)樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド(以下PASと略す場合がある)は、高い耐熱性、機械的物性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部材、自動車機器部材、化学機器部材等に幅広く使用されているが、近年、より一層の熱的特性の向上が求められている。
従来技術では、各種安定剤(フェノール系安定剤、有機リン酸など)を添加することにより熱安定性を改善しているが(特許文献1〜3)、熱老化特性に関しては、充分満足できるレベルには達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−228830号公報
【特許文献2】特開平4−103664号公報
【特許文献3】特開平5−194848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐熱性(熱老化特性)が改良され、成形性も優れたPAS樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ある一定量以上のNaを含み、分子量が高いPASレジンに、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物を添加することによって耐熱性(熱老化特性)を改善できることを見出した。
【0006】
即ち本発明は、
(A)Na含有量が250〜3000ppmで、且つレジンのpHが7.0〜12.0、重量平均分子量が70,000以上である、実質的に直鎖状のポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、
(B)アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物を0.01〜3重量部
を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性(熱老化特性)および成形性に優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いる(A)成分としてのPAS樹脂は、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で主として構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。
この場合、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で同一の繰返し単位を用いたポリマー、即ちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするPPSが好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。
又、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが好ましく使用できる。
【0009】
本発明に用いる(A)PAS樹脂のNa含有量は250〜3000ppmである。Na含有量が過小であると、十分な耐熱性(熱老化特性)が得られず、又、過大であると結晶化速度が著しく遅くなるため、射出成形における成形サイクル時間が長くなり、生産上好ましくない。又、(A)PAS樹脂におけるレジンのpHは7.0〜12.0である。レジンpHが7.0未満だと、成形時に発生する酸性の腐食ガス量が増大し、12.0を超えると結晶化速度が著しく遅くなるため、射出成形における成形サイクル時間が長くなり、生産上好ましくない。
【0010】
本発明に用いる(A)PAS樹脂の重量平均分子量は70,000以上であり、好ましくは75,000以上200,000以下、特に好ましくは、80,000以上150,000以下である。重量平均分子量が過少であると、十分な機械的強度や耐熱性(熱老化特性)が得られない。又、過大であると、射出成形時に樹脂組成物の流動性が悪く成形作業が困難になるため、好ましくない。
【0011】
このような本発明に使用するPAS樹脂は、Na含有量が250〜3000ppmで、且つレジンのpHが7.0〜12.0、重量平均分子量が70,000以上であれば、その製造方法にはよらないが、製造方法の一つの例として、次に説明する洗浄方法によって得る方法が挙げられる。
即ち、重合終了後の反応混合物を室温付近まで冷却した後、内容物を100メッシュのスクリーンで粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトンで2〜4回、イオン交換水で4〜8回洗浄を行うことで上述のポリマーを得ることができる。アセトン等の有機溶媒による洗浄が不足すると、ポリマー中の不純物(有機化合物、オリゴマー)が多くなり、PAS樹脂の品質上好ましくなく、有機溶媒による過剰な洗浄はコストの上昇を引き起こしてしまう。また、イオン交換水等による水洗浄が不足すると、Na含有量が増大し、逆に洗浄が過剰になるとNa含有量が過小となるため好ましくない。洗浄に使用する水は、イオン交換水または蒸留水が好ましく、不純物の多い水を使用するとレジンのpHが所定の範囲に入らないため好ましくない。
尚、本発明に用いる(A)PAS樹脂は、混合後の重量平均分子量が70,000以上となるのであれば、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いても良い。
【0012】
次に、本発明に用いる(B)成分はアルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物である。アルカリ金属の水酸化物とは、周期律表IA属の金属との水酸化物であり、IA族の金属としてはリチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物とは、周期律表IIA族の金属との水酸化物であり、IIA族の金属としてはカルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。特に水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムが好ましい。(B)成分として、アルカリ金属の水酸化物、またはアルカリ土類金属の水酸化物を用いることにより、耐熱性(熱老化特性)を得ることが可能となる。
【0013】
(B)成分の配合量は、(A)PAS樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部であり、好ましくは0.05〜0.2重量部である。0.05重量部より少ないと耐熱性(熱老化特性)の改良効果が小さく、3重量部より多い場合は成形作業が困難になる。
【0014】
本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能改良のため無機充填剤を配合することもでき、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。
【0015】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維、又はカーボン繊維である。なおポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維物質も使用することができる。一方、粉粒状充填剤としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトのごとき硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。又、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔が挙げられる。これらの無機充填剤は一種又は二種以上併用することができる。
これらの充填剤の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することが望ましい。この例を示せば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。これ等の化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製の際同時に添加してもよい。
【0016】
無機充填剤の使用量は特に制限されないが、一般的には、(A) 成分のPAS樹脂100重量部あたり10〜300重量部である。過小の場合は機械的強度がやや劣り、過大の場合は成形作業が困難になるほか、機械的強度にも問題がでる。
【0017】
又、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、バリ等を改良する目的としてシラン化合物を配合することができる。シラン化合物としては、ビニルシラン、メタクリロキシシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メルカプトシラン等の各種タイプが含まれ、例えば、ビニルトリクロルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
又、本発明の樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂を補助的に少量併用することも可能である。他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な熱可塑性樹脂であればいずれのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール或いはオキシカルボン酸などからなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアリレートなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を混合して使用することもできる。
【0019】
更に、本発明の樹脂組成物には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤等の安定剤、難燃剤、染・顔料等の着色剤、潤滑剤および結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0020】
本発明の樹脂組成物の調製は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。一般的には必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練し、押出して成形用ペレットとすることができる。
【0021】
本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の用途としては、特に限定されるものではなく、例えば、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、コンピューター関連部品、照明部品、洗浄用治具、モーター部品、オルタネーターコネクター、燃料ポンプ、ウォーターポンプインペラー、モノフィラメント、繊維、チューブ、ホース、パイプ、ロッド、各種ブラシ類、ネット、コンベアベルト、Vベルト、ギア、カム、軸受、ベアリング、パッキング、ガスケット、Oリング、ファスナー、バルブ、ジョイント、グリップ、キャスター、ローラー、スイッチケース、エンブレム、ガソリンタンク、タンク内部のコート剤、フィルム、シート、電線・ワイヤー・光ファイバー等の各種コーティング材、その他各種自動車部品、電気・電子用部品、精密機械部品、電子部品用封止剤、ホットメルト接着剤、塗料用等に用いることが出来、特に、耐熱性(熱老化特性)に優れる点から高温環境下で使用される部品用に好適に用いることが出来、また成形流動性が良好であるため、特に電気電子部品等の小型の成形部品としても有用である。
【実施例】
【0022】
次に実施例、比較例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた各(A)、(B)の具体的物質は以下の通りである。
(A) ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂
・(A-1):(株)クレハ製フォートロンKPS(Mw=95,000)W300,(Na含有量300ppm、レジンpH10)
・(A-2):(株)クレハ製フォートロンKPS(Mw=58,000)W312,(Na含有量800ppm、レジンpH10)
・(A-3):(株)クレハ製フォートロンKPS(Mw=80,000)W220A,(Na含有量50ppm、レジンpH6.3)
(B)アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物
・(B-1):水酸化カルシウム
・(B-2):水酸化ナトリウム30重量%水溶液(但し、表1中の配合量は水酸化ナトリウムに換算した値を記載した。)
【0023】
実施例1〜3、比較例1〜6
(A)成分、(B) 成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し、溶融混練し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物のペレットを作った。得られたペレットについて、下記の方法にて各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0024】
[引張り試験]
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度140℃で厚み1mmtのダンベル試験片を作製し、ASTMD638に準じて引張り強度および伸びを測定した(引張速度50mm/min)。また、上記の試験片を200℃に設定したオーブン中に放置し、500時間経過後取り出し、ASTMD638に準じて引張強度および伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0025】
[重量平均分子量(Mw)の測定法]
溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、オイルバスで230℃/10分間加熱溶解後、必要に応じ高温濾過により精製し、0.05 wt%濃度溶液を調製した。高温GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算で分子量を算出した。
・測定装置: センシュー科学製SSC-7000、UV検出器
【0026】
[レジンpHの測定]
室温(15〜25℃)にて、サンプル6gとアセトン15ml、及び精製水( 関東化学製)30mlをフラスコに入れ、振とう機を用いて30分間振とうした後、分液ロートで濾過した。その上澄みのpHをpHメーターで測定した。
【0027】
[Na含有量の測定法]
サンプル1gに濃硫酸15mlを加え、煮沸したところへ更に35% H22を5ml加えて、得られた分解液を水で希釈し、ICP発光分光分析装置でNa含有量を定量した。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Na含有量が250〜3000ppmで、且つレジンのpHが7.0〜12.0、重量平均分子量が70,000以上である、実質的に直鎖状のポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、
(B)アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物の中から選ばれた1種以上の化合物を0.01〜3重量部
を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−82761(P2013−82761A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221662(P2011−221662)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】