説明

ポリアリーレンスルフィドフィルム

【課題】 スロット、ウェッジなどのモーター加工においてフィルム割れの少ないポリアリーレンスルフィドフィルムを得る。
【解決手段】 厚みが125μm以上450μm以下であるポリアリーレンスルフィドフィルムであり、少なくとも一方向の破断伸度が100%以上200%以下であるポリアリーレンスルフィドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、スロットあるいはウェッジなどのモーター電気絶縁材料に用いた際、モーター加工においてフィルム割れが少ないポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モーターの電気絶縁材には、高温における耐熱性および耐加水分解性を有することが要求されるようになってきた。例えば、冷蔵庫やエアコンディショナーなどに用いられるモーターの電気絶縁材料としては、環境上の問題から、特定フロン全廃に関連した新代替冷媒が提案されているが、該冷媒およびそれに対応する潤滑油は水分を吸着し易く、耐熱性に加えて、耐加水分解性が要求されている。また、ハイブリッド自動車に使用されているモーターの電気絶縁材料には、耐熱性に加え、使用環境下において水分が侵入するため耐加水分解性が要求されている。
【0003】
これらの要求に応えうるものとして種々の高分子フィルムが提案され、その中でも、優れた耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの特性を有した二軸配向されたポリフェニレンスルフィド(以下PPSということがある)フィルムが注目されている。
【0004】
近年、その電気絶縁性や低吸湿性の高さを活かし、電気絶縁材料へのポリフェニレンスルフィドフィルムの適用が進められており、例えば、(1)二軸配向したPPSフィルムを電気絶縁材料として用いることが知られている(特許文献1参照)。しかし、得られた二軸配向PPSフィルムは25μmと薄く、また、破断伸度が低いため、モータスロットの加工適性に優れたものではなかった。また、二軸配向PPSフィルムの揮発成分を低減したフィルムが提案されている(特許文献2参照)。しかし、得られた二軸配向PPSフィルムは、破断伸度が低く、加工適性に優れたものではなかった。また、(2)無配向のPPS層に二軸配向PPS層が接着剤を介することなく積層されている積層体が知られている(特許文献3および4参照)。これは、基層部に無配向のPPSを積層することで、積層フィルムの引き裂き強度が増加するものであったが、表層の二軸配向PPSフィルムの破断伸度が低く、また、層間接着強度が十分でないために、スロット加工における曲げ工程において、表層二軸配向PPSフィルムの破れが生じ、スロットカフス部の割れが発生していた。
【特許文献1】特開平6−1863号公報
【特許文献2】特開2003−48982号公報
【特許文献3】特開平2−45144号公報
【特許文献4】特開平3−227624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、スロット、ウェッジなどのモーター絶縁材料に適した厚みを有したポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することにあり、さらに詳しくは、フィルム幅方向の破断伸度を改善したポリアリーレンスルフィドフィルムによって、モーター加工におけるフィルム割れの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するため以下の構成を有する。すなわち、厚みが125μm以上450μm以下であり、少なくとも一方向の破断伸度が100%以上200%以下であるポリアリーレンスルフィドフィルムを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータ絶縁用フィルムに適したポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることができ、スロットやウェッジなどのモーター加工におけるフィルムの割れのないポリアリーレンスルフィドフィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、望ましい実施の形態を例にとって詳細に説明する。
【0009】
本発明のポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマあるいはコポリマであることが好ましい。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などを用いることができる。
【0010】
【化1】

【0011】
(R1、R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマの主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む樹脂である。かかるp−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0012】
【化2】

【0013】
繰り返し単位中、好ましくは20モル%未満であれば共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。このような繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基等の置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などが具体例としてあげられ、このうち1つまたは2つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれの形態でも差し支えない。
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、温度300℃、せん断速度200sec−1のもとで700〜20,000ポイズの範囲がシートの成形性の点で好ましい。
【0015】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムとしては、ポリアリーレンスルフィドを溶融成形してなるフィルムであることが好ましい。ポリアリーレンスルフィドとしては、p−フェニレンスルフィドを90重量%以上含む樹脂組成物を、溶融成形してなるフィルムであることが好ましい。p−フェニレンスルフィドの含有量が90重量%未満では、組成物としての結晶性が低下し、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性、耐加水分解性などが損なわれる場合がある。該組成物中の10重量%未満はp−フェニレンスルフィド以外のポリマ、無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むことができる。
【0016】
本発明の場合、フィルムの破断伸度およびモータスロットあるいはウェッジに要求される耐熱性を満足するために、ポリアリーレンスルフィドフィルムが二軸配向(二軸延伸)されていることが好ましく、さらには、二軸配向後、熱処理されていることが好ましい。
【0017】
本発明の破断伸度を満足していれば、上記の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム以外のフィルムが積層されていてもよいが、本発明の場合、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム単膜であることが好ましい。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、少なくとも一方向の破断伸度が100%以上200%以下であることが重要である。より好ましくは120%以上180%以下であり、さらに好ましくは140%以上160%以下である。少なくとも一方向の破断伸度が100%未満の場合、スロットの折り曲げの加工工程において、フィルム割れが発生することがあり、破断伸度が200%を超えるとフィルム強度が低下し、スロットおよびウェッジの加工工程において挫屈欠点が発生する場合がある。
【0019】
本発明の場合、スロットカフスの折り曲げによって引き延ばされるフィルム方向が上記の破断伸度を有するフィルム方向と一致することが好ましい。
【0020】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの破断強度は、100MPa以上300MPa以下であることが好ましく、より好ましくは、100MPa以上250MPa以下であり、さらに好ましくは、100MPa以上200MPa以下である。該破断強度が100MPa未満である場合、フィルムの強度が十分でない場合があり、また、300MPaを超えると、スロットの折り曲げの加工工程において、フィルム割れが発生することがある。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みは、125μm以上450μm以下であることが好ましい。より好ましくは、200μm以上350μm以下であり、さらに好ましくは、250μm以上300μm以下である。該フィルム厚みが125μm未満である場合、フィルムの電気絶縁性が低下する場合がある。また、450μmを超えるとスロットやウェッジの加工性が落ち、製膜性が低下することがある。フィルムが上記の厚みを有していることにより、モータスロット用電機絶縁フィルムとして好適に用いることができる。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムのDSC測定における融点直下の微小吸熱ピーク(Tmeta)は、200℃以上260℃以下であることが、本発明の破断伸度を得るために好ましく、より好ましくは、225℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは、235℃以上245℃以下である。融点直下の微少吸熱ピーク(Tmeta)が200℃未満の場合、耐熱性が不十分となる場合があり、融点直下の微少吸熱ピーク(Tmeta)が260℃を超えると、破断伸度が本発明の範囲を満足しない場合がある。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、DSC測定における溶融結晶化温度(Tmc)が、140℃以上220℃以下であることが、本発明の厚みを満足するポリアリーレンスルフィドフィルムを製膜する上で好ましい。より好ましくは、150℃以上200℃以下であり、さらに好ましくは、160℃以上180℃以下である。溶融結晶化温度(Tmc)が140℃未満の場合、ポリマの結晶性が低下し、フィルムの耐熱性が不十分となる場合があり、溶融結晶化温度(Tmc)が220℃を超えると溶融ポリマを製膜する際、ポリマが結晶化し易く、延伸工程で破断しやすくなる場合がある。
【0024】
上記溶融結晶化温度を有するポリアリーレンスルフィドを得るためには、例えばポリフェニレンスルフィドの場合、ポリマ末端基をアミノカルボン酸金属塩末端変性することでコントロールすることができる。例えば、400〜600ppmのCa濃度となるように末端基をCOOCa1/2変性することで、溶融結晶化温度を170℃程度に調整することができる。また、末端基をカルボン酸末端とすることで、溶融結晶化温度を240℃程度に調整することができる。
【0025】
本発明の場合、上記のように、ポリマの溶融結晶化温度を低下させ、ポリマの結晶化速度を低下させることで、本発明の厚みを有するポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることが容易となるが、さらに、溶融押出し製膜において、キャスティングドラム上でポリマを急冷する際、非ドラム面(ドラムと対向するフィルムの面(ドラム面)と反対側の面)側からフィルム表面を冷却する方法が好ましく用いられる。非ドラム面側からフィルム表面を冷却する方法としては、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などを用いることができるが、エアーチャンバー法が本発明においては好ましく用いられる。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの耐衝撃強度は、3N/μm以上10N/μm以下であることがスロットおよびウェッジの加工工程でフィルムの割れ発生を抑制するために好ましく、より好ましくは、4N/μm以上10N/μm以下であり、さらに好ましくは、5N/μm以上10N/μm以下である。耐衝撃強度が3N/μm未満の場合、スロットおよびウェッジの加工工程においてフィルムの割れを発生する場合があり、耐衝撃強度が10N/μmを超えるとポリアリーレンスルフィドフィルムの強度が低下する場合があり、スロットおよびウェッジの加工工程において挫屈欠点を発生する場合がある。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィド樹脂としてポリフェニレンスルフィドを用いた場合を例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
PPS樹脂の重合法は、例えば、次のような方法がある。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中に高温高圧化で反応させる。必要によって、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることもできる。重合度調整剤として、400〜600ppmの苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し、230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルタで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粒状ポリマを得る。得られた粒状ポリマを、酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、副生塩、重合助剤、未反応モノマ等を分離する。上記で得られたポリマに必要に応じて、無機または有機の添加剤等を本発明の目的に支障を与えない程度添加し、Tmcが140℃以上、220℃以下のPPS樹脂を得る。
【0029】
上記で得られたPPS樹脂を十分に乾燥した後、固有粘度が低下しないように窒素気流下あるいは減圧下で樹脂組成物の融点以上の温度に加熱された溶融押出機に供給し、口金より押し出し、密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの表面温度が樹脂組成物のガラス転移点以下のキャスティングドラム上で密着冷却固化させ、無配向ポリフェニレンスルフィドシートを作成する。本発明においては、静電印加法およびエアーチャンバー法を併用することが、キャスティングドラム上で溶融ポリマを急冷することができるため好ましい。エアーチャンバーの内圧としては、5〜500Paとすることが好ましく、より好ましくは50〜400Paであり、さらに好ましくは、100〜300Paである。また、キャスティングドラム表面温度は、10℃〜40℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは、10℃〜30℃の範囲であり、さらに好ましくは、10℃〜20℃の範囲ある。また、溶融押出機中で異物や変質ポリマを除去するために各種フィルタ、例えば、燒結金属、多孔性セラミック、サンド、金網などの素材からなるフィルタを用いることが好ましい。
【0030】
ついで、得られた無配向シートを種々の方法で二軸延伸、熱処理する。延伸は、長手方向に90℃〜120℃で3.0〜3.8倍の範囲で行うことが好ましい。本発明の場合、より好ましい延伸倍率は、3.0〜3.7倍であり、さらに好ましくは、3.0〜3.5倍である。本発明において、延伸倍率が3.0倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有したポリフェニレンスルフィドフィルムを得られない場合があり、延伸倍率が3.8倍を超えると本発明の破断伸度を得られない場合がある。ついで、幅方向に90℃〜120℃で2.5〜3.5倍に延伸することが好ましい。より好ましくは、2.7〜3.3倍であり、さらに好ましくは、2.8〜3.0倍である。本発明において、延伸倍率が2.5倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有したポリフェニレンスルフィドフィルムを得られない場合があり、延伸倍率が3.5倍を超えると本発明の破断伸度を得られない場合がある。
【0031】
熱処理は、180℃〜(PPSの融点−15℃)の範囲で、定長または15%以下の制限収縮下に1〜60秒間行うことが好ましい。本発明の場合、破断伸度を本発明の範囲とするために、熱処理温度は、200℃〜(PPSの融点−25℃)がより好ましく、220℃〜(PPSの融点−35℃)がさらに好ましい。
【0032】
本発明の場合、上記倍率の範囲で延伸後、上記温度の範囲で熱処理することによって、本発明の破断伸度を有したポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【0033】
(物性の測定方法ならびに効果の評価方法)
本発明で用いた特性値の測定法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0034】
(1)破断伸度
ASTM−D882に規定された次の方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”)を用いて測定した。幅10mmの試料フィルムを、試長間100mm、引張り速度200mm/分の条件で引っ張る。測定は25℃、65%RHの雰囲気下で行う。
【0035】
(2)溶融結晶化温度(Tmc)、Tmeta
溶融結晶化温度、Tmetaは、セイコーインスツルメンツ社製ロボットDSCを用いて、以下の条件で測定を行った。溶融結晶化温度は、2nd run降温過程における発熱ピークを測定し、Tmetaは、1st run昇温過程に現れる融点直下の微少吸熱ピークを測定した。
1st run 昇温過程 25℃→350℃(20℃/分)5分hold、急冷(取り出し)
2nd run 昇温過程 25℃→350℃(20℃/分)5分hold
降温過程 350℃→25℃(20℃/分)
(3)スロット加工性
モータスロット加工機(小田原エンジニアリング社製)を用い、250μm厚みの試料を、幅24mm、長さ39mmのスロットに加工速度2ヶ/秒で加工し、目視でフィルム割れの発生したものを不良品とし、不良品発生率を次の基準で評価した。なお、加工個数は各試料100個ずつとする。
【0036】
◎:不良率が0%
○:不良率が0%を超え5%以下
△:不良率が5%を超え20%
×:不良率が20%を超える
(4)衝撃強度
ASTM−D−256に規定された方法に従って、25℃の雰囲気下で測定を行った。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒中で高温高圧下で反応させる。重合調整剤として苛性カリを添加し、280℃で重合反応させた。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリとしてフィルタで濾過後、粒状ポリマを得た。これを酢酸塩の80℃水溶液中で60分間攪拌処理し、イオン交換水にて80℃で5回洗浄、乾燥を繰り返してPPS粉末を得た。
【0038】
この粉末ポリマを酸素分圧1トール以下でNMP中で洗浄後、80℃のイオン交換水で5回洗浄し、1トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマは、実質的に洗浄のPPSポリマであり、溶融結晶化温度Tmcは170℃であった。
【0039】
得られたPPSポリマを180℃にて3時間、1mmHgの減圧下で乾燥後、平均粒径0.7μmのシリカ微粒子粉末0.1wt%、ステアリン酸カルシウム0.05wt%を添加したのち、押出機に原料を供給し310℃で溶融させる。ついで、金属繊維を用いた95%カット孔径10μmフィルタで濾過し、リップ幅1,200mm、リップ間隙2.7mmのカラス口タイプの口金から溶融シートを押し出した。このようにして得られた溶融フィルムに静電荷を印加させて、表面温度15℃に保たれ、しかも非ドラム面側には、内圧300Paであるエアチャンバーを設置したキャスティングドラム(直径1,500mm)に密着冷却固化させた。
【0040】
このようにして得られたキャストフィルムは、非晶、無配向のフィルムであった。該フィルムを加熱ロール群からなる長手方向延伸機に供給し、フィルム温度102℃で3.5倍に延伸し、続いてテンターを用いて幅方向に103℃で3.0倍延伸し、さらに245℃で10秒間熱処理して250μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0041】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0042】
(実施例2)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を3.5×3.3倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0043】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0044】
(実施例3)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を3.5×3.5倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0045】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0046】
(実施例4)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を3.7×3.0倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0047】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0048】
(実施例5)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を3.8×3.0倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0049】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0050】
(実施例6)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を3.5×3.7倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0051】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0052】
(実施例7)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの熱固定温度を255℃と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0053】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0054】
(実施例8)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの熱固定温度を265℃と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0055】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0056】
(実施例9)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの厚みを350μmと変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0057】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0058】
(実施例10)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの厚みを125μmと変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0059】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0060】
(実施例11)
実施例1でエアチャンバーの内圧を50Paとする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0061】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムは、スロット加工におけるフィルム割れのないものであった。
【0062】
(比較例1)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を4.0×3.7倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0063】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムはフィルム長手方向および幅方向の破断伸度が低く、スロット加工においてフィルム割れが多発した。
【0064】
(比較例2)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸倍率を4.0×3.5倍(長手方向×幅方向)と変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0065】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムはフィルム長手方向および幅方向の破断伸度が低く、スロット加工においてフィルム割れが多発した。
【0066】
(比較例3)
実施例3で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの熱固定温度を270℃と変更する以外は実施例3と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成した。
【0067】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このフィルムはフィルム長手方向および幅方向の破断伸度が低く、スロット加工においてフィルム割れが多発した。
【0068】
(比較例4)
実施例1でキャスティングドラムにエアチャンバーを設置しない以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成したが、キャストシートが結晶化してしまい、テンターでフィルム破れが多発し、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができなかった。
【0069】
(比較例5)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの厚みを500μmと変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成したが、キャストシートが結晶化してしまい、テンターでフィルム破れが多発し、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができなかった。
【0070】
(比較例6)
実施例1で用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの厚みを100μmと変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作成したが、フィルム厚みが薄く、スロットおよびウェッジの加工をすることができなかった。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが125μm以上450μm以下であり、少なくとも一方向の破断伸度が100%以上200%以下であるポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
二軸配向されてなる、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
融点直下の微少吸熱ピーク(Tmeta)が200℃以上260℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融結晶化温度(Tmc)が140℃以上220℃以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。

【公開番号】特開2006−199734(P2006−199734A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10138(P2005−10138)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】