説明

ポリアリーレンスルフィドフィルム

【課題】液晶表示素子や光エレクトロニクス素子、太陽電池用部材などの光学ベースフィルム、サーモテープなどに適用される、透明性と滑り性を兼ね備えたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供する。
【解決手段】ラビング処理を施した、実質的に粒子や異種ポリマーを含有せず、AFMで測定される少なくとも片面の表面粗さ(Ra)が2nm以上であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および滑り性がともに優れたポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子や光エレクトロニクス素子、太陽電池用部材などの光学部材には、無機ガラスが多用されてきたが、近年、薄肉・軽量化の要求に伴い、ガラスに代えて軽く加工性に優れた透明プラスチックフィルムを使用することが多くなってきている。しかしながら、ガラス代替として透明プラスチックフィルムを用いる場合、その耐湿熱性や強度の低さが問題となり、例えば、特許文献1に記載の画像表示装置はレーザー照射工程における耐久性の観点から、耐熱性や強度の高いプラスチックフィルムが好ましく用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などを有することから、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、該樹脂からなるフィルムは各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。また、高い屈折率を有することから、光学用途への使用も期待されている。
【0004】
ポリアリーレンスルフィドフィルムの代表であるポリフェニレンスルフィドフィルム(以下、PPSフィルムと略す)は、優れた耐熱性や耐湿熱性を有することから、補強や保護などを目的とした各種の光学用途へと好適に用いることができる。また、高い屈折率を有することから、異種樹脂間の屈折率差を利用して光の進路を制御する積層フィルムの高屈折率層としても好適に用いることができる。
【0005】
光学用フィルムに用いるにあたっては高い透明性が要求される。しかしながら、PPSフィルムの製造においてフィルムの透明性と良好な滑り性を両立させることは困難であり、光学用途への使用を阻む要因となっていた。また、滑り性の悪いフィルムは、ロール状に巻き取ることが困難であるばかりか、コーティングや印刷、包装などの各種工程においてフィルム送りの際に大きな張力がかかり、作業性を大きく悪化させるという問題があった。
【0006】
PPSフィルムに良好な滑り性を与えるために、例えば、不活性無機粒子等を添加してフィルム表面粗度を制御する例(特許文献2)などが知られているが、透明性を出すには光の波長よりも小さい二次粒径で粒子を分散させなければならないところ該粒子をポリマー中に微分散させることはまず不可能であり、わずかな粗粒が発生するだけでも透明性が損なわれる場合があった。また、特許文献3では透明性と滑り性を両立するために酸化亜鉛をPPSフィルム中に微分散させることが開示されているが、粒子部分の屈折率が異なるため、光の散乱が生じ、光学用途に使用した場合に、期待する物性が得られないおそれがあった。また、添加された粒子が脱落し、製造ラインの汚染が起きるおそれがあった。特許文献4ではPPSフィルムに良好な滑り性を与える目的で、スチレン系ポリマーを配合することが開示されている。しかしながら、異種ポリマーを配合して表面凹凸を形成させる場合、ポリマー同士の相溶性の悪さから、透明性が大きく損なわれる場合があった。
【0007】
また、型押しにてフィルム表面に凹凸を設けて滑り性を改善する技術も知られているが、こうして形成される凹凸は大きいために光軸が歪められてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−86675号公報
【特許文献2】特開昭60−257510号公報
【特許文献3】特開平5−320380号公報
【特許文献4】特開平1−121333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前述した従来の欠点を解消し、透明性と滑り性がともに優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは主として次の構成を有する。すなわち、実質的に粒子や異種ポリマーを含有しないポリアリーレンスルフィドからなり、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される少なくともフィルム片面の表面粗さ(Ra)が2nm以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子や異種ポリマーを添加することなくポリアリーレンスルフィドフィルムの滑り性を改善でき、巻き取り性や取扱い時の作業性に優れ、かつ、透明性に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
【0013】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーあるいはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(L)などで表される繰り返し単位などがあるが、なかでも式(A)で表される繰り返し単位が特に好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(M)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
また、本発明に用いるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を有するランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0018】
これらポリアリーレンスルフィドの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として下記式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%、さらに好ましくは95モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。かかるp−フェニレンスルフィド単位が80モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、ポリアリーレンスルフィドフィルムの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性などを損なうことがある。
【0019】
【化3】

【0020】
本発明においてポリアリーレンスルフィドの溶融粘度としては特に制限は無いが、温度310℃、剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜2,000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。また、ポリアリーレンスルフィドの分子量にも特に制限は無く、一般的なポリアリーレンスルフィドを用いることが可能であり、この様なポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量としては5,000〜1,000,000が例示でき、7,500〜500,000が好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。
【0021】
ポリアリーレンスルフィドの製造方法は特に限定されないが、例えば特開平5−163349号公報に代表される、少なくとも1個の核置換ハロゲンを含有する芳香族化合物またはチオフェンとアルカリ金属モノスルフィドとを極性有機溶媒中で高められた温度において反応せしめる方法、好ましくはスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で接触させることによって得ることができる。
【0022】
本発明において、得られたポリアリーレンスルフィドを、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネ−トおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィドは、実質的に粒子を含まないことが必要である。かかる粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、カオリン、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、酸化亜鉛、金属などの無機粒子や、ポリテトラフルオロエチレン粒子、シリコーン粒子、架橋ポリスチレン粒子のような有機粒子があげられる。ここで実質的にとはポリアリーレンスルフィドの生産上混入を避けられないものを除くという意味である。具体的な目安としては次に述べるように重量比で500ppm以下である。本発明によれば粒子を全く含むことなく滑り性を獲得できるのであるが、ポリアリーレンスルフィドの製造工程においては原料や工程水に微量の無機物が含まれる可能性があるところそれらが除去しきれないで多くとも重量比で500ppmの粒子がポリマーに残留するケースがあるからである。粒子が実質的に含まれる場合、粒子部分の屈折率が異なるため、光の散乱が生じ、光学用途に使用した場合に、期待する透明性やその他の光学特性が得られないおそれがある。また、添加された粒子の脱落により製造ラインが汚染されるおそれがある。
【0024】
また、本発明のポリアリーレンスルフィドは実質的にポリアリーレンスルフィド以外の樹脂(異種ポリマー)を含まないことが必要である。異種ポリマーが含まれる場合、ポリアリーレンスルフィドの優れた耐久性が損なわれるおそれがある。また、異種ポリマーの分散不良によりフィルムの透明性が大きく損なわれる場合がある。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、該フィルムの少なくとも片面において、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した表面粗さ(Ra)が2nm以上であることが、滑り性向上の観点から必要である。かかる表面粗さを達成するための方法としては、例えば、後述するようにフィルム表面に対してラビング処理を施すことなどが挙げられる。表面粗さの上限は特に限定されないが、ラビング処理によって達成可能な表面粗さは30nm以下である。ラビング処理を施す以外の方法で前記の表面粗さを達成する方法としては、例えばフィルム表面をプラズマ処理によりエッチングする方法が挙げられるが、プラズマ処理によるエッチングには非常に長い時間を要するため、実用上、適用は困難である。
【0026】
ポリアリーレンスルフィドフィルムの表面に対して、布を用いて被処理材をこする処理として知られるラビング処理を施すことで前述の表面粗さを達成しようとする場合、ラビングの方法としては特に限定されないが、例えば、既知のラビング装置を用いることができる。ラビング条件としては、ラビング時における、フィルム表面とラビングローラーとの距離、ラビングローラーの回転速度、フィルムの移動速度、ラビング回数、ラビング方向などがある。フィルム表面にラビング処理が施される時期は特に限定されないが、例えば二軸延伸フィルムの場合、延伸前の未延伸フィルムに対してラビングする、一方向に延伸された後にラビングする、二軸に延伸された後の巻き取り前にラビングする、巻き取り後、後加工としてラビングするなどがあげられる。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みは、特に限定されないが、ラビング処理の作業性の観点から1μm以上であることが好ましく、より好ましくは、2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。
【0028】
また、本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは延伸されたものであっても、未延伸のものであっても良く、用途に応じて適当な延伸条件のフィルムを用いることが可能である。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、光学用途向けフィルムとして好適に用いることができる。光学用途向けフィルムとは、例えば、液晶表示素子や光エレクトロニクス素子、太陽電池用部材などの光学ベースフィルム、また、サーモテープなどを挙げることができる。
【0030】
次に、本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィドとしてポリフェニレンスルフィドを用いた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法を例にとって説明するが、本発明はこれに限定して解釈されない。
【0031】
(1)ポリフェニレンスルフィドの重合方法
硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。
【0032】
重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマーを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られた粉末ポリマーは、実質的に線状のPPSポリマーであるので、安定した延伸製膜が可能になる。
【0033】
(2)無粒子ペレットの製法
上述のようにして得られたポリフェニレンスルフィド粉末をベント押出機に供給し、押出機から吐出されたガット状のポリマーを常法により水浴中などで冷却後、切断することでペレットを得る。
【0034】
(3)二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造
上述のようにして得られたペレットを減圧下で乾燥した後、押出機の溶融部を300〜350℃の温度、好ましくは310〜340℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマーをフィルター内に通過させ、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このフィルター部分や口金の設定温度は、押出機の溶融部の温度より3〜20℃高い温度にすることが好ましく、より好ましくは5〜15℃高い温度にする。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0035】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、またはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いた例で説明する。
【0036】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱した後、長手方向(MD方向)に2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.0倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は70〜130℃が好ましく、より好ましくは80〜110℃である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0037】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度は70〜130℃が好ましく、より好ましくは80〜110℃である。延伸倍率は2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.0倍の範囲である。
【0038】
次に、この二軸延伸フィルムを緊張下で熱処理する。熱処理温度は160〜280℃の範囲が好ましく、1段もしくは2段以上の多段で行う。この際、該熱処理温度でフィルム幅方向に0〜10%の範囲で弛緩処理することが熱的寸法安定性の点で好ましい。熱処理後はフィルムを室温まで冷却する。
【0039】
(4)ラビング処理
上述のようにして得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを、ラビング装置を使用してラビング処理する。ラビング装置は公知のものを用いても良い。その概要は、前記フィルムに対してラビング布を巻き着けたロールを押し付け、ロールを回転させながら相対的に移動させることにより行われる。ロールの回転方向は巻き着けられたラビング布の植毛方向の順目方向が好ましく、フィルムの移動方向に逆らう方向に回転させることが好ましい。なお、ロール軸と前記フィルムの移動方向とを、ある角度θで接触するようにしてもよい。ラビングの強さは周速比、押し込み量などによって適宜変更できる。周速比とは相対的なロールの線速度を相対的なフィルム移動速度で割った値であり、押し込み量とは一般にフィルム表面とラビング布表面とが接する位置からラビング布(ロール)をフィルム表面に押し付ける長さである。好ましいラビングの強さは、ラビング布を構成する繊維の太さや織り方、被ラビングフィルムまたはシートの材質などにより変化するため一概に決定はできないが、押し込み量0.2〜1.0mmかつ周速比5〜250程度であることが好ましい。ラビング布の素材としては酢酸セルロース、綿、レーヨン、ポリアミド、アクリル、アラミドなどが好適に用いられる。ラビング布の形態としては、不織布、パイル織り、ベルベット織りが好ましい。ラビング方向は、フィルムの長手方向(MD方向)に対してラビングローラーの回転方向を平行にするのが、生産性向上の観点から好ましい。また、フィルムへの塵埃等の付着を防止する観点から、ラビング後に除電気による除電を行うことが好ましい。以上のようにして得られたポリフェニレンスルフィドフィルムは、透明性、滑り性がともに優れており、光学用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
物性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
(1)原子間力顕微鏡(AFM)による表面粗さ(Ra)
DigitalInstruments製の原子間力顕微鏡NanoScopeIIIを用い、下記条件による測定で算出されるRa(中心面平均粗さ)を10回測定し、その平均値をAFMによるRaとした。
深針:単結晶シリコンナイトライド
走査モード:タッピングモード
走査範囲:5μm×5μm
画素数:256×256
スキャン速度:0.5Hz
測定環境:25℃、大気中
(2)全光線透過率
日立製作所製 分光光度計(U−4100)を用い、透過モードで400nm〜700nmの範囲の透過率を測定した。各波長(1nmごと)に対する透過率を加算し、測定点数(波長点数)で除して、400nm〜700nmの範囲の透過率平均値を算出し、全光線透過率(%)とした
(3)滑り性
滑り性の良否は、長尺状のフィルムを巻取りロール(心棒の外径:15cm)に20m/minの速度で巻取る際に、フィルム同士が張り付き、皺や巻きズレが発生して円滑に巻取りが出来ない場合を滑り性が不良とし、皺や巻きズレが生じず円滑に巻取りが可能である場合を滑り性が良好とした。
【0041】
(実施例1)
ポリフェニレンスルフィド粉末の作製
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム9.44kg(80モル)、96%水酸化ナトリウム3.43kg(82.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13.0kg(131モル)、酢酸ナトリウム2.86kg(34.9モル)、及びイオン交換水12kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水17.0kgおよびNMP0.3kg(3.23モル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)11.5kg(78.4モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン 0.007kg(0.04モル)、NMP22.2kg(223モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温した。270℃で30分経過後、水1.11kg(61.6モル)を10分かけて系内に注入し、270℃で更に反応を100分間継続した。その後、水1.60kg(88.8モル)を系内に再度注入し、240℃まで冷却した後、210℃まで 0.4℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、32リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度NMP38リットルで85℃で洗浄した。その後67リットルの温水で5回洗浄、濾別し、0.05重量%酢酸カルシウム水溶液70,000gで5回洗浄、濾別し、PPSポリマー粒子を得た。これを、60℃で熱風乾燥し、120℃で20時間減圧乾燥することによって白色のポリフェニレンスルフィド粉末を得た。
【0042】
無粒子ペレットの作製
上記で得られたポリフェニレンスルフィド粉末を、30mm径の二軸のスクリューを有するベント押出機に供給し、温度320℃で溶融した。この溶融物を金属繊維からなる95%カット孔径10μmのフィルターに通して瀘過した後、2mm孔径ダイから押し出し、ガット状の樹脂組成物を得た。さらに該組成物を約3mm長に裁断し、ポリフェニレンスルフィドの無粒子ペレットを得た。
【0043】
二軸配向PPSフィルムの作製
上記で得られた無粒子ペレットを、回転式真空乾燥機を用いて、3mmHgの減圧下にて温度180℃で4時間乾燥させた。得られた乾燥チップを、溶融部が310℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給し、温度320℃に設定したフィルターで濾過した後、温度310℃に設定したTダイの口金から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0044】
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、予熱後、ロールの周速差を利用して、101℃のフィルム温度でフィルムの縦方向に3.5倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度101℃、延伸倍率3.7倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度260℃で10秒間熱処理を行った。熱処理の間、フィルム幅方向に5%の弛緩処理を施した。フィルムを室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ25μmの二軸配向PPSフィルムを作製した。
【0045】
ラビング処理
作製したフィルムの片面を、ニュートム社製のラビング装置を用いて均一にラビングした。ラビング布はレーヨン製のパイル布を用い、周速比は20、押し込み量は0.5mmとした。
【0046】
ラビングした面の表面粗さ(Ra)および全光線透過率を測定すると表1の通りであり、このフィルムは滑り性が良好で円滑に巻き取ることができた。
【0047】
(比較例1)
実施例1で、フィルムにラビング処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にしてPPSフィルムを作製した。このフィルムは滑り性が不良であり、巻き取りが困難であった。
【0048】
(比較例2)
実施例1で、ラビング時の押し込み量を0.1mmとした以外は、実施例1と同様にしてPPSフィルムを作製した。このフィルムは滑り性が不良であり、巻き取りが困難であった。
【0049】
(比較例3)
粒子ペレットの作製
平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に50重量%分散させたスラリーを調製した。このスラリーをフィルターで濾過した後、ヘンシェルミキサーを用いて実施例1と同様にして作製したポリフェニレンスルフィド粉末に混合した。この際、ポリフェニレンスルフィド粉末の重量に対して炭酸カルシウムの重量が20重量%となるよう混合した。得られた混合物を、30mm径の二軸のスクリューを有するベント押出機に供給し、温度320℃で溶融した。この溶融物を金属繊維からなる95%カット孔径10μmのフィルターに通して瀘過した後、2mm孔径ダイから押し出し、ガット状の樹脂組成物を得た。さらに該組成物を約3mm長に裁断し、粒子含有量20重量%の粒子ペレットを得た。
【0050】
上記で得られた粒子ペレットと実施例1と同様にして作製した無粒子ペレットとを、炭酸カルシウムの含有量がポリフェニレンスルフィド樹脂の重量に対して0.5重量%となるように混合した後、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。このフィルムの物性は表1の通りであり、滑り性が良好で円滑に巻き取ることができたが、全光線透過率の値が低く、透明性が不十分であった。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、液晶表示素子や光エレクトロニクス素子、太陽電池用部材などの光学ベースフィルム、サーモテープなど、透明性が必要とされる光学用途向けフィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に粒子や異種ポリマーを含有しないポリアリーレンスルフィドからなり、原子間力顕微鏡で測定される少なくとも片面の表面粗さ(Ra)が2nm以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
全光線透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。