説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ、その製造方法、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、及びそれからなる発泡成型品

【課題】 成形加工前にポリアリーレンスルフィド樹脂ペレットと適量ブレンドするという簡便な方法にて、微細で均一な気泡を有し、軽量で表面状態も良好な発泡成形体が得られるポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチを提供する。
【解決手段】 エチレンから導かれる繰り返し単位からなり、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が910〜935kg/mの低密度ポリエチレン100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合されたポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ、このマスターバッチの製造方法、およびこの発泡剤マスターバッチを用いてポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性及び剛性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、射出成形用を中心として、電気・電子機器部材、自動車機器部材および精密機械部材などに広く使用されている。
【0003】
これらの分野においては、機器の軽量化が重要な課題となっており、その構成部品である樹脂成形品に対しても、樹脂の優れた特性を保持したまま軽量化することが求められている。
軽量化の技術として樹脂発泡技術がある。樹脂発泡体を作成する方法には、樹脂に化学発泡剤を混合する方法(化学発泡)、水や溶媒等の液状物、あるいは窒素等の気体をそのまま、もしくは超臨界流体等の状態で加工時に直接混合する方法(物理発泡)がある。
【0004】
しかし、上記物理発泡法で、良好な発泡体が得られる超臨界流体を用いる方法は、熱可塑性樹脂に超臨界流体を含浸させる機構が複雑で高価であり、成形品コストが上昇する問題がある。
一方、安価かつ容易なことから、化学発泡は多くの熱可塑性樹脂において広く用いられている。しかし、耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂は、加工温度が300℃程度に達するため、用い得る発泡剤は高温にてガスを発生する発泡剤に限定される。
【0005】
例えば、特許文献1には、化学発泡剤を用いたポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形体の製造法と、当該方法により反り変形量が改善された成形品が得られることが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法により、ペレット状ポリフェニレンスルフィド樹脂に粉末状の発泡剤をブレンドして成形に給すると、均一に混合されたポリフェニレンスルフィド樹脂のペレットと粉末状の発泡剤が、直径、比重の差などにより、ブレンド物を輸送中または成形機のホッパーに投入したときに両者の組成比が変化したり、両者が分離を起こしたりして、均一に発泡した成形品が得られないなどの問題がある。
【0006】
一方、特許文献2にはビニル芳香族ポリマー、スチレン/ジエンブロックコポリマー、炭化水素系展延オイルおよび発泡剤を含む発泡剤濃縮物が開示されている。しかしながら、成形加工温度が270℃に達するポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂用の発泡剤マスターバッチとして、特許文献2に開示された方法により製造される発泡剤濃縮物(発泡剤マスターバッチ)を用いた場合、発泡剤マスターバッチの溶融温度が成形加工温度より低すぎるため、樹脂の食い込み不良が起きて成形できないなどの問題がある。また、配合した炭化水素系展延オイルの耐熱性が不足して、分解物が金型を汚染したり、成形品の外観を損ねるなどの問題がある。
【0007】
特許文献3には、ポリアリーレンスルフィド樹脂、フィラーおよび化学発泡剤を圧縮成形した錠剤を、溶融成形して、耐熱性と機械的強度に優れる発泡成形体を得る方法が開示されている。しかしながら、当該方法において錠剤を得るには、操作が煩雑であり、錠剤の組成比が均一でないなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7-107131号公報
【特許文献2】特開平7−11035号公報
【特許文献3】特開2006−328327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上述の問題を鑑み、特定の低密度ポリエチレンと特定の発泡剤からなるマスターバッチを用いることにより、微細で均一な気泡を有するポリアリーレンスルフィド樹脂発泡体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、エチレンから導かれる繰り返し単位からなり、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が910〜935kg/mの低密度ポリエチレン100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合され、溶融混練されてなることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡マスターバッチ、およびマスターバッチを用いたポリアリーレンスルフィド樹脂発泡体の製造方法を提供される。
【0011】
特定の低密度ポリエチレンによる発泡剤マスターバッチを用いることにより、微細で均一な気泡を有するポリアリーレンスルフィド樹脂発泡体が得られることから、寸法特性、耐熱性および耐薬品性を要する部位に用いることが可能で、軽量化を求める多くの用途に実用的に用いることが可能である。
以下、本発明に係わる低密度ポリエチレンと熱分解型発泡剤からなる発泡剤マスターバッチ、およびその発泡剤を用いたポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明に用いる低密度ポリエチレンは、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が910〜935kg/mである。ここで、密度が910kg/m未満である場合、成形体の耐熱性が劣るものとなる。一方、密度が935kg/mより大きい場合は、分散性が悪くなり、好ましくない。また、メルトフローレートが0.1g/10分より小さい低密度ポリエチレンである場合、溶融せん断粘度が高くなり、ポリアリーレンスルフィドを成形加工する際の分散性が劣るため、気泡が不均一なものとなる。一方、10g/10分以上である場合、マスターバッチとして使用する際に、成形機のホッパー下部で軟化あるいは溶融してスクリューに固着して樹脂の食い込み不良が発生したり、成形できたとしても溶融張力が小さくなるため発泡倍率が低下する。160℃における溶融張力が50mN未満の場合、ガスが十分保持できず、発泡倍率が低下する。また、歪硬化性を有さない場合、気泡が合一するため、気泡が巨大化してしまい好ましくない。
【0013】
歪硬化性は、マイスナー型一軸伸長粘度計を用いて、160℃で、ひずみ速度0.07〜0.1s−1の条件で測定した伸長粘度の最大値を、その時間の線形領域の伸長粘度で除した値を非線形パラメーターλと定義し、λが1を超える歪硬化性があると確認できる。なお、M. Yamaguchi et al.Polymer Journal 32,164(2000).に記載のように、線形領域の伸長粘度は動的粘弾性より計算できる。λが1の場合、歪硬化性がないと判断できる。
【0014】
本発明に用いられる低密度ポリエチレンは、該範疇に属するものであれば如何なる低密度ポリエチレンであってもよい。また、市販品として入手したものであってもよく、例えば(商品名)ペトロセン 172(東ソー(株)製)、(商品名)ペトロセン 204(東ソー(株)製)等が入手可能である。
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチを構成するポリエチレン系樹脂には、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて、さらに安定剤、滑剤、難燃剤、分散剤、充填剤、発泡剤、発泡核剤、架橋剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、着色剤などを含有させることができる。
【0016】
本発明において、熱分解型発泡剤はポリアリーレンスルフィド樹脂との成形時に、熱分解してポリアリーレンスルフィド樹脂成形品を発泡させる機能を果たす。熱分解型発泡剤の分解温度は170℃以上である。170℃未満の場合、発泡剤マスターバッチを調整する際に発泡剤が分解し易く、発泡剤マスターバッチとしての調整が難しい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂を成形加工する際に、発泡剤が容易に分解して、発生したガスが散逸して、所望の発泡倍率を有する成形体を得にくい。発泡剤の好ましい分解温度は190℃〜300℃である。発泡剤の分解温度が高すぎると、より高温での成形が必要になり、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度が低下して発生したガスの散逸が起こり所望の発泡成形体が得られない。
【0017】
熱分解型発泡剤としては、有機系および無機系の各種が挙げられるが、170℃以上で分解してガスを発生する有機熱分解型発泡剤が好ましい。具体的には、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、およびテトラゾール化合物などの単独あるいは併用系が好ましく用いられる。
【0018】
より具体的には、アゾ化合物としてアゾジカルボンアミドやアゾジカルボン酸バリウム、ニトロソ化合物としてはN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、スルホニルセミカルバジド化合物としてはp−トルエンスルホニルセミカルバジド、テトラゾール化合物としては5−フェニル−1H−テトラゾール、アゾビステトラゾール・グアニジン、アゾビステトラゾール・ジアミノグアニジンなどが、170℃以上で分解する発泡剤として例示される。
【0019】
発泡剤マスターバッチを調製する際に、発泡剤の分解温度を調整するために、必要に応じ、他の助剤を配合することができる。他の助剤としては、サリチル酸、ステアリン酸、アジピン酸、尿素、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。これらは単独でも、2種以上の混合物であってもよい。また、発泡剤マスターバッチを調製する際に、必要に応じ、発泡剤の分散性向上剤、核剤、潤滑剤、着色剤、防錆剤などを配合することもできる。
【0020】
本発明に係る発泡剤マスターバッチを調製するには、まず、基体となるポリエチレン系樹脂100重量部に対し、発泡剤1〜100重量部の範囲で配合する。ポリエチレン系樹脂に対する発泡剤の配合量が1重量部未満であると、発泡剤の量が少なすぎて、成形品製造時にマスターバッチを多量配合する必要があり、マスターバッチの機能を果たさないので好ましくない。ポリエチレン系樹脂に対する発泡剤の配合量が100重量部を超えると、発泡剤の量が多すぎ発泡剤マスターバッチの調製が困難となるので好ましくない。上記範囲の中では、ポリエチレン系樹脂100重量部に対し、発泡剤5〜50重量部の範囲が好ましく、とりわけ好ましいのは、ポリエチレン系樹脂100重量部に対し、発泡剤10〜30重量部の範囲である。
【0021】
本発明に係る発泡剤マスターバッチを調製するには、配合したポリエチレン系樹脂と発泡剤とを、発泡剤の熱分解以下の温度で溶融混練する。発泡剤マスターバッチを調製する際に、高温にすると発泡剤が熱分解してしまい、生成物は発泡剤マスターバッチとして機能しなくなるからである。溶融混練する際に使用できる混練機には制限がなく、シグマ羽根型混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、高速二軸連続ミキサー、押出機などの従来から知られているものが挙げられる。
【0022】
発泡剤を熱分解させないで発泡剤マスターバッチを調製するには、例えば押出機により溶融混練させ、次に示す方法によることができる。
(1)押出機のシリンダー温度を140〜170℃に設定する。
(2−1)フルフライトスクリューを装備した単軸押出機を用いて混練する。
(2−2)二軸押出機の場合には、2本のスクリュの相互剪断作用による樹脂の発熱を抑制するために、フルフライト半噛み合いスクリュを装備し、相互に異方向に回転させる。
(3)ポリエチレン系樹脂はホッパーに投入して溶融させ、発泡剤をシリンダーの中間に穿設した穴から投入して、ポリエチレン系樹脂に溶融混練させて押出しペレットとする。
【0023】
上記の方法により調製した発泡剤マスターバッチを使用して、ポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形品を製造するには、まず、成形用ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対し、上記発泡剤マスターバッチを0.1〜40重量部を混合する。ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対する前記発泡剤マスターバッチの配合量が0.1重量部未満の場合は、発泡剤の量が少なすぎて、目的とする発泡倍率が1.01以上の成形品が得られない。発泡剤マスターバッチの配合量が40重量部を超えるときは、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対する発泡剤の量が多すぎて、均一な気泡が得られないため、好ましくない。発泡剤マスターバッチの配合量は、上記範囲の中では、0.5〜10重量部が好適である。
【0024】
ポリアリーレンスルフィド樹脂に発泡剤マスターバッチを混合する際に使用できる混合機には制限がなく、ボールミル、ブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサーなどの従来から知られているものが挙げられる。
【0025】
本発明において用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0026】
また、該ポリアリーレンスルフィドとしては、その構成単位として下記の一般式(1)で示されるp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
そして、他の構成成分としては、例えば
下記の一般式(2)に示されるm−フェニレンスルフィド単位、
【0029】
【化2】

【0030】
一般式(3)に示されるo−フェニレンスルフィド単位、
【0031】
【化3】

【0032】
一般式(4)に示されるフェニレンスルフィドスルホン単位、
【0033】
【化4】

【0034】
一般式(5)に示されるフェニレンスルフィドケトン単位、
【0035】
【化5】

【0036】
一般式(6)に示されるフェニレンスルフィドエーテル単位、
【0037】
【化6】

【0038】
一般式(7)に示されるジフェニレンスルフィド単位、
【0039】
【化7】

【0040】
一般式(8)に示される置換基含有フェニレンスルフィド単位、
【0041】
【化8】

【0042】
一般式(9)に示される分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、
【0043】
【化9】

【0044】
等を含有していてもよく、中でもポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0045】
該ポリアリーレンスルフィドの製造方法としては、特に限定はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られるが、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調整されても、また系外で調整されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1.00/0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。
【0046】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0047】
さらに、該ポリアリーレンスルフィドは、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0048】
また、上記のポリアリーレンスルフィド樹脂は、脱イオン処理を行うことによってイオンを低減させたものであってもよい。脱イオン処理の方法としては、未架橋ポリアリーレンスルフィド樹脂を130〜250℃の高温水によって洗浄する方法、有機溶剤で洗浄する方法、酸またはその水溶液にて洗浄する方法、あるいはこれらの組合せによる洗浄などから、所望により任意に選択できる。
【0049】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、必要に応じ、通常の各種樹脂添加剤を配合することができる。配合できる樹脂添加剤としては、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、潤滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、防錆剤、ガラス繊維や炭素繊維などの充填剤などが挙げられる。樹脂添加剤は、これら例示されたものに限定されるものではない。これらの樹脂添加剤は、ポリアリーレンスルフィド樹脂に予め溶融混練により配合しておくことが望ましいが、発泡剤マスターバッチと混合する際に配合することも可能である。
【0050】
上記の方法により調製した発泡剤マスターバッチとポリアリーレンスルフィド樹脂との混合物を使用して、ポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形品を製造するには、つぎに、発泡剤マスターバッチに含まれる発泡剤の分解温度以上に加熱して成形する。発泡成形品を製造する方法は、射出成形法が代表的であるが、これに限られるものではなく、成形品の種類、形状に応じて、熱可塑性樹脂の他の成形方法、例えば押出成形法、溶融圧縮成形法などによってもよい。
【0051】
射出成形法によって発泡成形品を製造するには、ポリアリーレンスルフィド樹脂、発泡剤マスターバッチ、必要に応じて他の樹脂添加剤を配合・混合した混合物を、ホッパーに投入し、温度を例えば230〜350℃に設定したシリンダー内で加熱し、金型に射出圧入し、冷却して目的の成形品とする。成形品の種類には制限がなく、電気・電子部品、家電製品部品、機械部品、自動車部品、事務機器部品、日用雑貨製品などが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例および比較例に用いたポリエチレン系重合体、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び得られた発泡体の諸物性は、下記の方法により測定した。
<密度>
JIS K 7112(1980年)に従い、100℃の沸騰水中に1時間浸した後に室温で放冷したものを、23℃に保った密度勾配管にて測定した。
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K 7210(1995年)に従い、190℃,21.18Nの荷重下で測定した。
<溶融張力>
溶融張力の測定用試料は、サンプルに耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0054】
溶融張力の測定は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。
<溶融粘度>
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、島津製作所製CFT−500型フローテスター(ダイス:φ=1.0mm,L=2.0mm)を用いて、315℃で5分間保持した後、10kgf荷重にて測定した。
<エチレン系重合体>
実施例および比較例に使用したポリエチレン系重合体は、市販品を用いた。
【0055】
A-1 低密度ポリエチレン:東ソー社製、(商品名)ペトロセン 204(MFR7.0g/10分、密度922kg/m、溶融張力60mN、歪み硬化性あり)
A-2 低密度ポリエチレン:東ソー社製、(商品名)ペトロセン 172(MFR0.3g/10分、密度920kg/m、溶融張力150mN、歪み硬化性あり)
A-3 直鎖状低密度ポリエチレン:東ソー社製、(商品名)ニポロン−Z ZF230(MFR2g/10分、密度920kg/m、溶融張力15mN、歪み硬化性なし)
A-4 高密度ポリエチレン:東ソー社製、(商品名)ニポロンハード 2400(MFR8g/10分、密度953kg/m、溶融張力10mN、歪み硬化性なし)
このエチレン系樹脂ペレットをポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチに用いた。
〈ポリアリーレンスルフィド樹脂〉
攪拌機を装備する15リットルチタン製オートクレーブにNMP3232g、47%硫化水素ナトリウム水溶液1682g及び48%水酸化ナトリウム水溶液1142gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、1360gの水を溜出させた。この系を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン2118gとNMP1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて1時間重合し、続けて250℃まで昇温し、250℃にて2時間重合した。更に、250℃で水451gを圧入し、再度255℃まで昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを固液分離した。ポリマーをNMP、アセトン及び水で順次洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0056】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS)は直鎖状のものであり、その溶融粘度は380ポイズであった。
[発泡剤マスターバッチの製造]
M−1:発泡剤として5−フェニル−1H−テトラゾール(和光純薬工業製、分解温度216℃)20重量%、ポリエチレン系重合体(A−1)80重量%を、溶融混練ゾーンを145℃に設定した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)を用いて発泡剤マスターバッチ(M−1)を得た。
【0057】
M−2:ポリエチレン系重合体としてA−2を用いた以外は、発泡剤マスターバッチ(M−1)を製造したのと同様の方法により、発泡剤マスターバッチ(M−2)を得た。
【0058】
M−3:ポリエチレン系重合体としてA−3を用いた以外は、発泡剤マスターバッチ(M−1)を製造したのと同様の方法により、発泡剤マスターバッチ(M−3)を得た。
【0059】
M−4:ポリエチレン系重合体としてA−4を用いた以外は、発泡剤マスターバッチ(M−1)を製造したのと同様の方法により、発泡剤マスターバッチ(M−4)を得た。
[射出発泡成形]
PPSと発泡剤マスターバッチを表1に示す割合で混合物して、シャットオフノズル付きの射出成形機(住友重機製、(商品名)SE75D)を用いて、70mm×70mm角の平板(厚さ2mm)を成形した。
主な成形条件は次の通りであり、各実施例および比較例における射出容量と保圧条件は、表1に示すように、良好な成形体が得られるように調整した。ここで言う良好な成形体とは、未充填部分が無く、成形体の表面が平滑である状態を指す。
シリンダー温度設定:ホッパー部 265℃/275℃/280℃/290℃/290℃ ノズル部
金型温度:130℃
射出速度:150mm/秒
尚、成形体の発泡倍率は、発泡剤無しの成形体の重量/発泡剤入りの成形体の重量 にて求めた。
[実施例1〜5、比較例1〜6]
実施例1
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−1)= 100重量部/ 2重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0060】
得られた発泡体は、気泡が良好であり、かつ発泡倍率が1.20倍の発泡体であった。
【0061】
得られた結果を表1に示す。
【0062】
実施例2
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−2)= 100重量部/ 0.5重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0063】
得られた発泡体は、気泡が良好であり、かつ発泡倍率が1.10倍の発泡体であった。
【0064】
得られた結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−2)= 100重量部/ 4重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0066】
得られた発泡体は、気泡が良好であり、かつ発泡倍率が倍の1.25発泡体であった。
【0067】
得られた結果を表1に示す。
【0068】
実施例4
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−1)= 100重量部/ 1重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0069】
得られた発泡体は、気泡が良好であり、かつ発泡倍率が1.13倍の発泡体であった。
【0070】
得られた結果を表1に示す。
【0071】
実施例5
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−1)= 100重量部/ 5重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0072】
得られた発泡体は、気泡が良好であり、かつ発泡倍率が1.32倍の発泡体であった。
【0073】
得られた結果を表1に示す。
【0074】
比較例1
PPSを、上記および表1の成形条件で射出成形体とした。
【0075】
得られた成形体の表面状態は、良好であった。
【0076】
得られた結果を表1に示す。
【0077】
比較例2
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−3)= 100重量部/ 2重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0078】
得られた発泡体は、気泡径が不均一で、成形体表面にあばたがあった。発泡倍率は1.09倍の発泡体であった。
【0079】
得られた結果を表1に示す。
【0080】
比較例3
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−4)=100重量部/ 0.5重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0081】
得られた発泡体は、気泡径が不均一で、成形体表面にあばたがあった。発泡倍率は1.04倍の発泡体であった。
【0082】
得られた結果を表1に示す。
【0083】
比較例4
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−3)=100重量部/ 4重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0084】
得られた発泡体は、気泡径が不均一で、成形体表面にあばたがあった。発泡倍率は1.16倍の発泡体であった。
【0085】
得られた結果を表1に示す。
【0086】
比較例5
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−3)=100重量部/ 1重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0087】
得られた発泡体は、気泡径が不均一で、成形体表面にあばたがあった。発泡倍率は1.04倍の発泡体であった。
【0088】
得られた結果を表1に示す。
【0089】
比較例6
PPS/発泡剤マスターバッチ(M−4)=100重量部/ 9重量部をタンブラーブレンダーで混合し、上記および表1の成形条件で射出発泡体とした。
【0090】
得られた発泡体は、気泡径が不均一で、成形体表面にあばたと剥離があった。発泡倍率は1.22倍の発泡体であった。
【0091】
得られた結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチは、ポリアリ−レンスルフィド樹脂の発泡成形に好適に使用し得るものであり、成形加工前にポリアリーレンスルフィド樹脂ペレットと適量ブレンドするという簡便な方法にて、微細で均一な気泡を有し、軽量で表面状態も良好な発泡成形体が得られる。
【0094】
上記特性を活用して、本発明による発泡成型品は、軽量かつ高度な特性を求められる電子・電気機器部材、自動車機器部材などの用途に対して幅広く用いられ得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから導かれる繰り返し単位からなり、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が910〜935kg/mの低密度ポリエチレン100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合されたことを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ。
【請求項2】
熱分解型発泡剤が、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、およびテトラゾール化合物及びそれらの混合物からなる群より選択されたものである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ。
【請求項3】
メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が910〜935kg/mの低密度ポリエチレン100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合し、ついで、熱分解型発泡剤の熱分解温度以下の温度で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチの製造方法。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチ0.1〜40重量部を混合したことを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、発泡剤マスターバッチに含まれる発泡剤の分解温度以上に加熱して成形することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる発泡成形品。

【公開番号】特開2013−67735(P2013−67735A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207854(P2011−207854)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】