説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂発泡体からなる冷却水循環用ウォータポンプ関連部品

【課題】 内燃機関を有する自動車や、船舶、航空機のエンジンなどの発熱源を冷却するための冷却水を循環するウォータポンプを提供する。
【解決手段】 車両に搭載され、冷却水を循環するウォータポンプであって、ウォータポンプを構成する部品の一部が、ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体からなることを特徴とするウォータポンプ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載して発熱源を冷却するための冷却水を循環するウォータポンプにおいて、ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体からなる冷却水循環用ウォータポンプ関連部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウォータポンプの構成部品は、アルミニウム切削品などの金属製品が主に使用されてきた。
【0003】
ところが、近年の軽量化および低コスト化の要望に応えるべく、樹脂製のウォータポンプ構成部品が使われ始めている(例えば、特許文献1、2、3参照)。具体的には、ウォータポンプハウジング、インペラ、ウォータポンプインレット、ウォータポンプアウトレットなどのウォータポンプ構成部品について、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、PPSとポリフェニレンオキシド(PPO)の混合物、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などが樹脂材料として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129395号公報
【特許文献2】特開平6−116494号公報
【特許文献3】特表2008−545095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの樹脂では、次のような欠点があることから、こうした欠点を伴わない代替材料が望まれていた。
【0006】
すなわち、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、シンジオタクチックポリスチレンは、いずれも結晶性樹脂であるため、射出成形時に金型内で溶融状態から固化した際の体積収縮量が大きく、ソリが発生しやすく寸法精度に劣るため、特に、ウォータポンプハウジングなど大型の部品には適さない。また、ウォータポンプインペラの軸部に、金属部品をインサート成形した場合、体積収縮による応力集中が起こり、樹脂部に亀裂が発生するなどの不良現象が発生しやすいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、上述した欠点のないウォータポンプ関連部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は、ウォータポンプハウジングの成形時の寸法精度を向上させ、更にウォータポンプインペラ軸部の応力集中を防ぎ、ウォータポンプ関連部品の耐熱性を十分に高め、かつエンジン冷却水との接触による材料特性の低下を防ぐために、材料としてポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体を採用することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、冷却水を循環するウォータポンプであって、ウォータポンプを構成する部品の一部がポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体からなることを特徴とする。
【0010】
また、ウォータポンプを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体からなる部品が、ウォータポンプハウジング、ウォータポンプインペラ、ウォータインレット、ウォータアウトレットから選択された部品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性及び剛性などに優れるという特性を有する。本発明によれば、ウォータポンプを構成する部品としてポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体を採用したことから、高温のエンジン冷却水との接触、高温度のエンジンルームという環境下においても材料特性の低下が少なく、耐不凍液性、耐塩化カルシウム性、低吸水性に優れ、さらに、成形時の体積収縮が少なく寸法精度に優れることにより、製品デザインの自由度が高く、機能を優先した形状の最適化が可能になり、併せて発泡成形体の効果によりウォータポンプを軽量化させることができる。
【0012】
また、ウォータポンプインペラをポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体にて作成することにより、軸部にインサートした金属部品による応力集中を防ぎ、樹脂部に亀裂が発生するなどの不良現象が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明において用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0015】
また、該ポリアリーレンスルフィドとしては、その構成単位として下記の一般式(1)で示されるp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。
【0016】
【化1】

そして、他の構成成分としては、例えば
下記の一般式(2)に示されるm−フェニレンスルフィド単位、
【0017】
【化2】

一般式(3)に示されるo−フェニレンスルフィド単位、
【0018】
【化3】

一般式(4)に示されるフェニレンスルフィドスルホン単位、
【0019】
【化4】

一般式(5)に示されるフェニレンスルフィドケトン単位、
【0020】
【化5】

一般式(6)に示されるフェニレンスルフィドエーテル単位、
【0021】
【化6】

一般式(7)に示されるジフェニレンスルフィド単位、
【0022】
【化7】

一般式(8)に示される置換基含有フェニレンスルフィド単位、
【0023】
【化8】

一般式(9)に示される分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、
【0024】
【化9】

等を含有していてもよく、中でもポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0025】
該ポリアリーレンスルフィドの製造方法としては、特に限定はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られるが、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調整されても、また系外で調整されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1.00/0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。
【0026】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0027】
さらに、該ポリアリーレンスルフィドは、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0028】
また、上記のポリアリーレンスルフィド樹脂は、脱イオン処理を行うことによってイオンを低減させたものであってもよい。脱イオン処理の方法としては、未架橋ポリアリーレンスルフィド樹脂を130〜250℃の高温水によって洗浄する方法、有機溶剤で洗浄する方法、酸またはその水溶液にて洗浄する方法、あるいはこれらの組合せによる洗浄などから、所望により任意に選択できる。
【0029】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、必要に応じ、通常の各種樹脂添加剤を配合することができる。配合できる樹脂添加剤としては、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、潤滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、防錆剤、ガラス繊維や炭素繊維などの充填剤などが挙げられる。樹脂添加剤は、これら例示されたものに限定されるものではない。これらの樹脂添加剤は、ポリアリーレンスルフィド樹脂に予め溶融混練により配合しておくことが望ましいが、発泡剤マスターバッチと混合する際に配合することも可能である。
【0030】
本発明において、ウォータポンプを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体は、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤が配合された、ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチを混合して、射出発泡成形することが好ましい。
【0031】
ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチとしては、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が900〜955kg/m3のエチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合され、溶融混練されてなることを特徴とする。
【0032】
特定のポリエチレン系樹脂による発泡剤マスターバッチを用いることにより、微細で均一な気泡を有するポリアリーレンスルフィド樹脂発泡体が得られることから、寸法特性、耐熱性および耐薬品性を要するウォータポンプ関連部品に好適であり、さらにウォータポンプの軽量化が可能になる。
【0033】
本発明に用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が900〜955kg/m3である。ここで、密度が900kg/m3未満である場合、成形体の耐熱性が劣るものとなる。一方、密度が955kg/m3より大きい場合は、分散性が悪くなり、好ましくない。また、MFRが0.1g/10分より小さいエチレン・α−オレフィン共重合体である場合、溶融せん断粘度が高くなり、PPSを成形加工する際の分散性が劣るため、気泡が不均一なものとなる。一方、10g/10分以上のエチレン・α−オレフィン共重合体である場合、溶融張力が小さくなるため発泡倍率が低下する。160℃における溶融張力が50mN未満の場合、ガスが十分保持できず、発泡倍率が低下する。また、歪硬化性を有さない場合、気泡が合一するため、気泡が巨大化してしまい好ましくない。
【0034】
歪硬化性は、マイスナー型一軸伸長粘度計を用いて、160℃で、ひずみ速度0.07〜0.1s-1の条件で測定した伸長粘度の最大値を、その時間の線形領域の伸長粘度で除した値を非線形パラメーターλと定義し、λが1を超える歪硬化性があると確認できる。なお、M. Yamaguchi et al.Polymer Journal 32,164(2000).に記載のように、線形領域の伸長粘度は動的粘弾性より計算できる。λが1の場合、歪硬化性がないと判断できる。
【0035】
本発明に用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体は、該範疇に属するものであれば如何なるエチレン・α−オレフィン共重合体であってもよい。また、市販品として入手したものであってもよく、例えば(商品名)TOSOH−HMS JK46(東ソー(株)製)、(商品名)TOSOH−HMS JK25(東ソー(株)製)等が入手可能である。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体には、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて、さらに安定剤、滑剤、難燃剤、分散剤、充填剤、発泡剤、発泡核剤、架橋剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、着色剤などを含有させることができる。
【0037】
本発明において、熱分解型発泡剤はポリアリーレンスルフィド樹脂との成形時に、熱分解してポリアリーレンスルフィド樹脂成形品を発泡させる機能を果たす。熱分解型発泡剤としては、有機系および無機系の各種が挙げられるが、170℃以上で分解してガスを発生する有機熱分解型発泡剤が好ましい。170℃以上の場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂を成形加工する際に、発泡剤が容易に分解して、発生したガスが散逸して、所望の発泡倍率を有する成形体を得やすい。170℃未満の場合、発泡剤マスターバッチを調整する際に発泡剤が分解し易く、発泡剤マスターバッチとしての調整が難しい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂を成形加工する際に、発泡剤が容易に分解して、発生したガスが散逸して、所望の発泡倍率を有する成形体を得にくい。発泡剤の好ましい分解温度は190℃〜300℃である。発泡剤の分解温度が高すぎると、より高温での成形が必要になり、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度が低下して発生したガスの散逸が起こり所望の発泡成形体が得られない。
【0038】
具体的には、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、およびテトラゾール化合物などの単独あるいは併用系が好ましく用いられる。
【0039】
より具体的には、アゾ化合物としてアゾジカルボンアミドやアゾジカルボン酸バリウム、ニトロソ化合物としてはN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、スルホニルセミカルバジド化合物としてはp−トルエンスルホニルセミカルバジド、テトラゾール化合物としては5−フェニル−1H−テトラゾール、アゾビステトラゾール・グアニジン、アゾビステトラゾール・ジアミノグアニジンなどが、170℃以上で分解する発泡剤として例示される。
【0040】
発泡剤マスターバッチを調製する際に、発泡剤の分解温度を調整するために、必要に応じ、他の助剤を配合することができる。他の助剤としては、サリチル酸、ステアリン酸、アジピン酸、尿素、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。これらは単独でも、2種以上の混合物であってもよい。また、発泡剤マスターバッチを調製する際に、必要に応じ、発泡剤の分散性向上剤、核剤、潤滑剤、着色剤、防錆剤などを配合することもできる。
【0041】
本発明に係る発泡剤マスターバッチを調製するには、まず、基体となるエチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対し、発泡剤1〜100重量部の範囲で配合する。エチレン・α−オレフィン共重合体に対する発泡剤の配合量が1重量部未満であると、発泡剤の量が少なすぎて、成形品製造時に多量配合する必要があり、マスターバッチの機能を果たさないので好ましくない。エチレン・α−オレフィン共重合体に対する発泡剤の配合量が100重量部を越えると、発泡剤の量が多すぎ発泡剤マスターバッチの調製が困難となるので好ましくない。上記範囲の中では、エチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対し、発泡剤5〜50重量部の範囲が好ましく、とりわけ好ましいのは、エチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対し、発泡剤10〜30重量部の範囲である。
本発明に係る発泡剤マスターバッチを調製するには、配合したエチレン・α−オレフィン共重合体と発泡剤とを、発泡剤の熱分解以下の温度で溶融混練する。発泡剤マスターバッチを調製する際に、高温にすると発泡剤が熱分解してしまい、生成物は発泡剤マスターバッチとして機能しなくなるからである。溶融混練する際に使用できる混練機には制限がなく、シグマ羽根型混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、高速二軸連続ミキサー、押出機などの従来から知られているものが挙げられる。
【0042】
発泡剤を熱分解させないで発泡剤マスターバッチを調製するには、例えば押出機により溶融混練させ、次に示す方法によることができる。
(1)押出機のシリンダー温度を140〜170℃に設定する。
(2−1)フルフライトスクリューを装備した単軸押出機を用いて混練する。
(2−2)二軸押出機の場合には、2本のスクリュの相互剪断作用による樹脂の発熱を抑制するために、フルフライト半噛み合いスクリュを装備し、相互に異方向に回転させる。
(3)エチレン・α−オレフィン共重合体はホッパーに投入して溶融させ、発泡剤をシリンダーの中間に穿設した穴から投入して、エチレン・α−オレフィン共重合体に溶融混練させて押出しペレットとする。
【0043】
上記の方法により調製した発泡剤マスターバッチを使用して、ポリアリーレンスルフィド樹脂発泡成形品を製造するには、まず、成形用ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対し、上記発泡剤マスターバッチを0.1〜40重量部を混合する。ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対する前記発泡剤マスターバッチの配合量が0.1重量部未満の場合は、発泡剤の量が少なすぎて、目的とする発泡倍率が1.01以上の成形品が得られない。発泡剤マスターバッチの配合量が40重量部を超えるときは、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対する発泡剤の量が多すぎて、均一な気泡が得られないため、好ましくない。発泡剤マスターバッチの配合量は、上記範囲の中では、0.5〜10重量部が好適である。
【0044】
ポリアリーレンスルフィド樹脂に発泡剤マスターバッチを混合する際に使用できる混合機には制限がなく、ボールミル、ブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサーなどの従来から知られているものが挙げられる
なお、ウォータポンプ構成部品の成形方法としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体を得るために、射出成形法が特に好ましい。
【0045】
射出成形法によって発泡成形品を製造するには、ポリアリーレンスルフィド樹脂、発泡剤マスターバッチ、必要に応じて他の樹脂添加剤を配合・混合した混合物を、ホッパーに投入し、温度を例えば230〜350℃に設定したシリンダー内で加熱し、金型に射出圧入し、冷却して目的の成形品とする。通常の射出成形においては、樹脂の固化収縮分を保圧工程によって補うが、本発明においては、樹脂の固化収縮分を気泡の拡大により補うため、保圧工程は不要である。尚、ウォータポンプ構成部品の発泡倍率としては、任意に設定可能であるが、好ましくは1.01倍から1.2倍の間が、寸法特性、耐熱性、機械的強度、製品外観等の観点から好適である。
【0046】
以上説明したように、本発明におけるウォータポンプは、ウォータポンプハウジング、インペラ、ウォータポンプインレット、ウォータポンプアウトレットなどのウォータポンプ構成部品が、ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体から構成されている。したがって、高温のエンジン冷却水との接触、高温度のエンジンルームという環境下においても材料特性の低下が少なく、耐不凍液性、耐塩化カルシウム性、低吸水性に優れ、約150℃の高温に達するエンジンルームに設置することが可能となる。
【0047】
また、ウォータポンプ関連部品としてポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体を採用することにより、射出成形後の寸法精度を著しく高めることが可能になる。通常の射出成形では、樹脂が金型内で固化収縮する分を保圧によって補う。この保圧工程は金型内の樹脂圧力に分布を生じさせ、不均等な収縮を起こさせるため、得られる成形体がソルなどして、寸法特性を悪化させる原因となる。ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出発泡成形することにより、樹脂の固化収縮分を気泡の拡大で補うため、金型内の圧力が均等に掛かり、不均等な収縮を抑制される。そのため、極めて寸法精度に優れるウォータポンプ関連部品を得ることが可能になる。
【0048】
さらに、ウォータポンプインペラをポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体にて作成することにより、軸部にインサートした金属部品による応力集中を防ぎ、樹脂部に亀裂が発生するなどの不良現象が抑制される。
ウォータポンプ関連部品はポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体から構成されているため、従来のウォータポンプよりも軽量化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、内燃機関を有する自動車や、船舶、航空機のエンジンなどの発熱源を冷却するための冷却水を循環するウォータポンプに広く適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、冷却水を循環するウォータポンプであって、ウォータポンプを構成する部品の一部が、ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体からなることを特徴とするウォータポンプ。
【請求項2】
ウォータポンプを構成する部品が、ウォータポンプハウジング、ウォータポンプインペラ、ウォータインレット及びウォータアウトレットから選択された部品であることを特徴とする請求項1に記載のウォータポンプ。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の発泡成形体が、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤が配合された、ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチを、ポリアリーレンスルフィド樹脂に混合し、発泡剤マスターバッチに含まれる発泡剤の分解温度以上に加熱して成形することを特徴とする、請求項1又は2記載のウォータポンプ。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド樹脂用発泡剤マスターバッチが、
メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、160℃における溶融張力が50mN以上、歪硬化性を有し、密度が900〜955kg/mのエチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対して、分解温度が170℃以上の熱分解型発泡剤1〜100重量部が配合されたことを特徴とする、請求項3又は4記載のウォータポンプ。
【請求項5】
熱分解型発泡剤が、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、テトラゾール化合物及びそれらの混合物からなる群より選択されたものであることを特徴とする、請求項3又は4に記載のウォータポンプ。

【公開番号】特開2013−92089(P2013−92089A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234154(P2011−234154)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】