説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びそれよりなる複合体

【課題】 熱伝導性、金属との接合性、成形流動性、電気絶縁性に優れることから、特に電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びそれからなる複合体を提供する。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部、並びに、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性、金属との良好な接合性、成形流動性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属部材とを一体化した複合体に関するものであり、さらに詳しくは、電気・電子部品或いは自動車部品に特に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びそれよりなる複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPSと略記することもある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記することもある。)は、優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性、耐薬品性を有し、自動車機器部材、電気・電子機器部材及びOA機器部材等に幅広く使用されている。しかし、PASは熱伝導性が低いことから、例えば発熱を伴うような電子部品を封止すると、発生した熱を効率よく拡散することができず、部品に不具合を生じることがあった。
【0003】
PASの熱伝導性を改良する試みについては、これまでにもいくつかの検討がなされ、例えば(a)PPSとポリフェニレンエーテルとからなる樹脂、(b)特定の熱伝導率を有する炭素繊維、及び(c)黒鉛を配合する樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)PPS、(b)平均粒径が5μm以下のアルミナ粉末、及び(c)繊維状強化材を配合する樹脂組成物(例えば特許文献2参照。)、また、(a)PAS、(b)リン含有被覆酸化マグネシウム、(c)アルコキシシラン化合物を配合する樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)等が提案されている。
【0004】
一方、金属との良好な接合性を有するPAS樹脂組成物については、これまでにもいくつかの検討がなされ、例えば、(a)PAS、(b)極性基含有ポリエチレン系共重合体、及び(c)トリアジンチオール類を配合する樹脂組成物(例えば特許文献4参照。)、また、(a)PPS、(b)極性基含有ポリオレフィン、及び(c)相溶化剤を配合する樹脂組成物(例えば特許文献5参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−137401号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開平04−033958号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開2006−282783号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献4】特開2010−070712号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献5】特開2010−284899号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に提案された樹脂組成物においては、熱伝導性と同時に電気伝導性が付与されるため、電気絶縁性を要求される分野では使用できないという課題があった。特許文献2及び3に提案された樹脂組成物においては高い熱伝導性を付与するためには、高いフィラー含有量とすることが必須となり、このため得られる樹脂組成物は成形流動性の悪化をきたすものであり、かつ、金属との接合性については何ら述べられていなかった。特許文献4及び5に提案された樹脂組成物においては金属との接合性は良好であるものの、熱伝導性については何ら述べられていない。即ちこれらの提案樹脂組成物はおしなべて、高い熱伝導性と金属との良好な接合性、良好な成形流動性、電気絶縁性とを同時に得ることは難しいものであった。
【0007】
そこで、本発明は、熱伝導性、金属との良好な接合性、成形流動性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びそれよりなる複合体を提供することを目的とし、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びそれよりなる複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、少なくとも特定のエチレン系共重合体、エポキシ樹脂、特定の熱伝導性フィラーを含んでなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、高い熱伝導性、金属との接合性に優れると共に、成形流動性に優れ電気絶縁性となる樹脂組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明はポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部、並びに、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属部材とを一体化してなる複合体に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部及び熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなるものである。
【0012】
該ポリアリーレンスルフィド(A)(以下、PAS(A)と記すことがある。)としては、一般にポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであればよく、該PASとしては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該PASの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0013】
そして、該PAS(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が50〜2000ポイズのPASであることが好ましく、特に機械的強度と薄肉流動性に優れるPAS樹脂組成物となることから100〜1000ポイズのPASであることが好ましい。
【0014】
該PAS(A)の製造方法としては、PASの製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロビフェニル等を挙げる事ができる。
【0015】
また、PAS(A)としては、直鎖状のものであっても、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したものであっても、PASの分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性されたものであっても、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。また、該PAS(A)は、加熱硬化前又は後に脱イオン処理(酸洗浄や熱水洗浄など)、あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってイオン、オリゴマーなどの不純物を低減させたものであってもよい。さらに、重合反応終了後に不活性ガス又は酸化性ガス中で加熱処理を行い硬化を行ったものであってもよい。
【0016】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するエチレン系共重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属との接合性を改良するものであり、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体である。
【0017】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:40〜1:10〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインTX8030(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインAX8390(アルケマ(株)製)等が挙げられる。
【0018】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位(重量比)=85〜99:15〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0019】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニル残基単位(重量比)=50〜98:15〜1:35〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0020】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=50〜98:10〜1:40〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0021】
該無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α−オレフィン残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:45〜1:5〜1の範囲からなるものであることが好ましく、具体的には無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレンゴム等が挙げられる。該無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)は、例えばエチレン−α−オレフィン共重合体、過酸化物、無水マレイン酸を共存し、グラフト化反応を進行することにより入手することが可能である。
【0022】
そして、エチレン系共重合体(B)を構成するα−オレフィンとは、炭素数が3以上のα−オレフィンを言い、例えばプロピレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。また、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0023】
該エチレン系共重合体(B)の配合量としては、金属との接合性、成形性に優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、5〜50重量部であり、より好ましくは8〜30重量部である。ここで、エチレン系共重合体(B)の配合量が5重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は金属との接合性に劣るものとなる。一方、配合量が50重量部を超える場合、成形加工時の金型汚染がひどくなり好ましくない。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂(C)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属との接合性を改良するものであり、該エポキシ樹脂(C)としては、一般にエポキシ樹脂と称すものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でもとりわけ取扱いに優れ金属との接合性に優れたPAS樹脂組成物となることからエポキシ当量300〜2500の固形状ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。該エポキシ当量300〜2500の固形状ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば(商品名)エピクロン7050(DIC(株)製)、(商品名)エピクロン3050(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0025】
該エポキシ樹脂(C)の配合量は、特に金属との接合性、成形流動性が優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、1〜15重量部である。ここで、該エポキシ樹脂(C)の配合量が1重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は金属接合性に劣るものとなる。一方、配合量が15重量部を超える場合、成形流動性に劣るものとなる。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する熱伝導性フィラー(D)は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラーである。
【0027】
該高純度酸化マグネシウム(D1)としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末であれば如何なるものを用いることも可能である。該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤で表面処理が施されたものであり、該シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、該チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、該アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)は、機械的特性、熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に2〜100μmを有するものであることが好ましい。該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)としては、(商品名)パイロキスマ5301K(協和化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0028】
該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)としては、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末であり、該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば特開2004−027177号公報に記載の方法より入手することが可能である。また、ケイ素とマグネシウムの複酸化物とは、フォルステライト(MgSiO)等に代表されるケイ素、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化ケイ素の複合物である。一方、アルミニウムとマグネシウムの複酸化物とは、スピネル(AlMgO)等に代表されるアルミニウム、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの複合物である。該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)は、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)は、特に機械的特性、熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に2〜100μmを有するものであることが好ましい。
【0029】
該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、六方晶構造を有するものであり、該条件を満たすものであれば如何なるものを用いることが可能であり、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、例えば粗製窒化ホウ素粉末をアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩の存在下、窒素雰囲気中、2000℃×3〜7時間加熱処理して、窒化ホウ素結晶を十分に発達させ、粉砕後、必要に応じて硝酸等の強酸によって精製することにより製造することができ、この様にして得られた窒化ホウ素粉末は、通常、鱗片状を有するものである。そして、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物中における分散性に優れ、機械的特性の優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)3〜30μmを有するものであることが好ましい。また、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)は、高結晶性を示し、特に熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とすることが可能となることから、X線回折法で求められる、(102)回折線の積分強度値(I(102))に対する、(100)回折線及び(101)回折線の積分強度値の和(I(100)+(101))の比で示されるG.I値(G.I=(I(100)+(101))/(I(102)))が0.8〜10の範囲となるものであることが好ましい。
【0030】
該熱伝導性フィラー(D)の配合量は、特に熱伝導性、成形流動性、機械的強度が優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、100〜400重量部である。ここで、該熱伝導性フィラー(D)の配合量が100重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は熱伝導性に劣るものとなる。一方、配合量が400重量部を超える場合、成形流動性に劣るものとなる。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、特に機械的強度に優れるものとなることから、さらに、ガラス繊維(E)を配合してなるものが好ましい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられる。これらのガラス繊維(E)は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該ガラス繊維の配合量としては、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましい。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素繊維、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ロックウール、ジルコニア、チタン酸バリウム、炭化珪素、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維、全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維が添加されたものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カーボンブラック、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークが添加されたものであっても構わない。
【0033】
また、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;アマイドワックスやカルナバワックスなどの離型剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。
【0034】
さらに、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えば、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0035】
本発明のPAS樹脂組成物を製造する際の製造方法としては特に制限はなく、一般的な混合・混練方法として知られている方法を用いる事が可能であり、例えば全ての原材料を配合し溶融混練する方法;原材料の一部を配合した後で溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法;あるいは原材料の一部を配合後単軸又は二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法、など、いずれの方法を用いてもよい。また、小量の添加成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することで使用してもよい。そして、溶融混練を行う方法としては、従来から使用されている加熱溶融混練方法を用いることができ、例えば単軸又は二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなどによる加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことができる。
【0036】
本発明のPAS樹脂組成物は、とりわけ金属、金属部材との接合性に優れ、金属部材と一体化した複合体となることから、特に表面を化学処理した金属部材と一体化した複合体として使用することが好ましい。
【0037】
その際の金属、金属部材としては、金属の範疇に属するものであればいかなるものでもよく、その中でも得られる複合体が特に各種用途に適応可能となることから、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、銅、チタン、鉄及びそれらの合金並びにそれよりなる部材であることが好ましく、特にアルミニウム、マグネシウム、ステンレス、銅、鉄及びそれらの合金並びにそれよりなる部材が好ましく、特にアルミニウム及びアルミニウム合金並びにそれよりなる部材が好ましい。また、該金属は、展伸材であっても鋳造材でもかまわない。
【0038】
また、金属、金属部材は、複合体とした際のその接合強度が高いものとなることから、表面を化学処理したものであることが好ましく、その際の化学処理方法としては、金属表面を化学処理する方法であれば如何なる方法を用いて化学処理する事が可能であり、該化学処理方法としては、例えばトリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液、PH10以上のアルカリ性水溶液、PH1〜5の酸性水溶液、硫酸及び過酸化物の混合液、陽極酸化により化学処理する方法;特開平02−298284、特開平04−32585、特開2000−127199、特開平10−96088、WO2004/055248等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0039】
本発明のPAS樹脂組成物は、金属部材、好ましくは表面を化学処理した金属部材とPAS樹脂組成物とを一体化した複合体として好適に用いられる。PAS樹脂組成物は、射出成形機、圧縮成形機、押出成形機などを用いて任意の形状で、該金属部材と一体化した複合体とすることができ、とりわけ、化学処理をした金属部材を金型内にセットし、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形し一体化した複合体とする射出インサート成形が好適に用いられる。
【0040】
本発明のPAS樹脂組成物は、優れた熱伝導性、金属との良好な接合性、電気絶縁性、成形流動性をあわせもつことから、発熱性の高い半導体素子、抵抗などの封止用樹脂、あるいは高い摩擦熱が発生する部品に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、熱伝導性、金属との良好な接合性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物及び複合体を提供するものであり、該ポリアリーレンスルフィド組成物及び複合体は、特に電気・電子部品又は自動車電装部品等の電気部品用途に有用なものである。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0043】
実施例及び比較例において用いたポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン系共重合体(B)、エポキシ樹脂(C)、熱伝導性フィラー(D)、その他添加剤を以下に示す。
【0044】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(a1−2)と記す。):溶融粘度300ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(a2−1)と記す。):溶融粘度450ポイズ。
【0045】
<エチレン系共重合体(B)>
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b1−1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸−グリシジルエステル共重合体(b2−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b2−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファーストE。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b3−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7B。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−アルキルエステル共重合体(b4−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b4−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7M。
無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(b5−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b5−1)と記す。)。
【0046】
<エポキシ樹脂(C)>
エポキシ樹脂(c−1); DIC(株)製、(商品名)エピクロン3050;エポキシ当量780、ビスフェノールA型、固形状。
エポキシ樹脂(c−2);DIC(株)製、(商品名)エピクロン7050;エポキシ当量1900、ビスフェノールA型、固形状。
【0047】
<熱伝導性フィラー(D)>
高純度酸化マグネシウム粉末(d1−1);協和化学工業(株)製、(商品名)パイロキスマ5301K;シランカップリング剤による表面処理、酸化マグネシウム含有率99.5重量%、平均粒子径2μm。
被覆酸化マグネシウム粉末(d2−1);タテホ化学工業(株)製、(商品名)クールフィラーCF2−100;フォルステライトによる表面被覆、平均粒子径20μm。
鱗片状窒化ホウ素粉末(d3−1);電気化学工業(株)製、(商品名)デンカボロンナイトライドSGP;平均粒子径18μm、比表面積2m/g、G.I値0.9。
【0048】
<ガラス繊維(E)>
ガラス繊維(e−1); オーシーヴィー津(株)製、(商品名)RES03−TP91;繊維径9μm、繊維長3mm。
【0049】
<合成例1(PPS(a1−2)の合成)>
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、硫化ナトリウム2.9水和物6214g及びN−メチル−2−ピロリドン17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン7160gとN−メチル−2−ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し固形分を遠心分離機により単離した。該固形分を温水で繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することによりポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a1−1)と記す。)を得た。
【0050】
このPPS(a1−1)を、さらに窒素雰囲気下250℃で1時間硬化を行いポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a1−2)と記す。)を得た。
【0051】
得られたPPS(a1−2)の溶融粘度は300ポイズであった。
【0052】
<合成例2(PPS(a2−1)の合成)>
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム水溶液5607g、48%水酸化ナトリウム水溶液3807g及びN−メチル−2−ピロリドン10773gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、4533gの水を留去した。この系を170℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン7060gとN−メチル−2−ピロリドン5943gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて1時間重合し、さらに250℃まで昇温し、250℃にて2時間重合した。更に、250℃で水1503gを圧入し、再度255℃まで昇温し、225℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を130℃のN−メチル−2−ピロリドンで洗浄し、続いて温水で繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、溶融粘度が450ポイズの直鎖状ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a2−1)と記す。)を得た。
【0053】
<合成例3(エチレン系共重合体(b5−1)の合成)>
直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー(株)製、(商品名)ニポロンL F13)10kgに対し無水マレイン酸(和光純薬工業(株)製)250g、ジアルキルパーオキサイド(日本油脂(株)製、(商品名)パーヘキサ25B)10gをヘキシェルミキサーにて均一に混合した。その後、二軸押出機(東芝機械(株)、(商品名)TEM−35B)にて、シリンダー温度220℃で押し出し、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンを得た。赤外線吸収スペクトルによりカルボニル基による吸収を測定し、別途作成した検量線から求めた無水マレイン酸付加量は1.4wt%であった。また、密度は929kg/m、メルトマスフローレートは1.7g/10min(測定温度190℃、荷重21.18N)であった。
【0054】
<調製例1(化学処理アルミニウム部材の調整)>
縦50mm×横12mm×厚さ1.5mmの短冊形状を有するアルミニウム(A5052)製板をアセトンによる脱脂処理後、1%水酸化ナトリウム水溶液、次いで10%硫酸水溶液に浸漬し、さらに15%硫酸水溶液中で電流密度0.5A/cmで陽極酸化処理することにより、表面を化学処理したアルミニウム製板を得た。
【0055】
得られたポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0056】
〜PASの溶融粘度測定〜
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT−500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0057】
〜熱伝導率の測定〜
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE−75S)によって、70mm×70mm×厚さ2mmの平板状のテストピースを作製した。
本テストピースを、熱伝導率測定装置((株)アルバック製、(商品名)TC7000;ルビーレーザー)を用い、23℃の条件下で、レーザーフラッシュ法にて測定した。厚み方向の熱伝導率は、一次元法により、熱容量Cpと厚み方向の熱拡散率αを求めて、次式より熱拡散率を算出した。
厚み方向の熱伝導率=ρ×Cp×α
ここで、密度ρは、ASTMD−792A法(水中置換法)に準じ測定した。
熱伝導率として1.0W/(m・K)以上であるものを実用上十分な値を示すと判断した。
【0058】
〜金属との接合強度の測定〜
調製例1により得られた表面を化学処理した金属板を金型内にセットし、シリンダー温度330℃、金型温度150℃に設定した射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE75S)を用いて、インサート成形を行うことにより複合体からなる試験片を作製した。該試験片を、測定装置(島津製作所製、(商品名)オートグラフAG−5000B)を用い、引張速度10mm/minで、引張試験を実施した。
【0059】
金属と樹脂がはく離した時の最大荷重を接合面積で除し接合強度とした。接合強度として5MPaを超えるものを実用上十分な接合強度を有すると判断した。
【0060】
〜体積固有抵抗の測定〜
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE−75S)によって、70mm×70mm×厚さ2mmの平板状のテストピースを作製した。
本テストピースを、ハイ・メグオーム・メータ((株)アドバンテスト製、(商品名)TR−8601;測定範囲1010〜1016Ω・m)ないしデジタルマルチメータ((株)アドバンテスト製、(商品名)TR−6855;測定範囲10〜10Ω・m)を用い、23℃、湿度50%RHの条件下で、体積固有抵抗を測定した。体積固有抵抗として1012Ω・mを超えるものを電気絶縁性を有すると判断した。
【0061】
〜成形流動性の測定〜
射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE75)に、深さ1mm、幅10mmの溝がスパイラル状に掘られた金型を装着し、次いで、シリンダー温度を330℃、射出圧力を190MPa、射出速度を最大、射出時間を1.5秒、及び金型温度を135℃に設定した該射出成形機のホッパーにポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を投入し、射出した。そして金型内のスパイラル状の溝を溶融流動した長さを成形流動性として測定した。成形流動性として50mmを超えるものを実用上十分な値を示すと判断した。
【0062】
実施例1
PPS(a2−1)100重量部、エチレン系共重合体(b1−1)20重量部、エポキシ樹脂(c−1)10重量部及び熱伝導性フィラー(d1−1)350重量部とを配合して、シリンダー温度320℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(e−1)50重量部を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。
【0063】
該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の、熱伝導率、体積固有抵抗、成形流動性、及び、調製例1で得られた表面を化学処理したアルミニウム製板を用いて金属接合強度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0064】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、実用上十分な熱伝導率を有し、金属との良好な接合性も良好であった。また、機械的強度、成形流動性も実用上十分な値を示した。
【0065】
実施例2〜8
PPS(a1−2、a2−1)、エチレン系共重合体(b1−1、b2−1、b3−1、b4−1、b5−1)、エポキシ樹脂(c−1,c−2)、熱伝導性フィラー(d1−1、d2−1、d3−1)を表1に示す構成割合で配合して、二軸押出機のホッパーに投入し、一方、ガラス繊維(e−1)を表1に示す構成割合で配合して、二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0066】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、実用上十分な熱伝導率を有し、金属接合強度も良好であった。また、体積固有抵抗が高く絶縁性であり、成形流動性も実用上十分な値を示した。
【0067】
【表1】

比較例1〜5
PPS(a1−2)、エチレン系共重合体(b1−1)、エポキシ樹脂(c−1)、熱伝導性フィラー(d1−1)を表2に示す構成割合で配合して、二軸押出機のホッパーに投入し、一方、ガラス繊維(e−1)を表1に示す構成割合で配合して、二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
比較例1、比較例2により得られた樹脂組成物は、金属接合強度に劣るものであった。比較例3により得られた樹脂組成物は、熱伝導率が低かった。比較例4により得られた樹脂組成物は、実用上十分な成形流動性の値を示さなかった。また、比較例5により得られた樹脂組成物は、成形時に多量のガスが発生し成形を中断した。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、熱伝導性、金属との良好な接合性、成形流動性、電気絶縁性に優れるものであり、特に電気・電子部品或いは自動車電装部品などの電気部品用途に用いられる樹脂組成物、金属部材との複合体として期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部、並びに、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、さらに、ガラス繊維(E)10〜100重量部を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド(A)が、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度50〜2000ポイズのポリアリーレンスルフィドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(C)が、エポキシ当量300〜2500の固形状ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
表面を化学処理した金属部材と請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とを一体化してなることを特徴とする複合体。
【請求項6】
表面を化学処理した金属部材が、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、鉄製部材及びステンレス製部材からなる群より選択される1種以上の金属部材であることを特徴とする請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
射出インサート成形にて一体化された複合体であることを特徴とする請求項5又は6に記載の複合体。

【公開番号】特開2013−35950(P2013−35950A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173642(P2011−173642)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】