説明

ポリアリーレンスルフィド組成物

【課題】 優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性を合わせ有するポリアリーレンスルフィド組成物を提供するものである。
【解決手段】 溶融粘度が100〜5000ポイズであるポリアリーレンサファイド(a)59.9〜98重量%、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)1〜40重量%、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種以上の官能基を有するアルコキシシランカップリング剤(c)0.1〜5重量%からなる樹脂混合物100重量部に対し、ガラスフレーク(d)20〜150重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性を合わせ有するポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、成形性等に優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。ポリアリーレンスルフィドは、ガラス繊維等の繊維状無機充填材や他の無機充填材を配合することにより、機械的強度、耐熱性、剛性等のエンジニアリングプラスチックスとして要求される性能を大きく向上させることができる。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドに限らずプラスチックスをガラス繊維のような繊維状無機充填材で強化した場合には、成形収縮率の異方性が大きく、成形品に変形、すなわちそりが生じるという課題がある。かかる課題を改善する方法として、ガラスビーズなどの粒状物を用いたり、タルク、マイカ(雲母)、ガラスフレークなどの板状無機充填材を用いるなどの方法が数多く提案されてきている。また、繊維状無機充填材と板状無機充填材を併用して、強度と変形の両特性を合わせ満足させることが提案されている。
【0003】
しかしながら、ポリアリーレンスルフィドは、これらの方法でそりの改良はできるものの、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等の各種エンジニアリングプラスチックスと比較し、靭性が乏しく、またエポキシ接着剤による接着強度が低いといった課題を改善することはできないため、多くの用途への適用が制限されている。
【0004】
例えば、ポリアリーレンスルフィドに白マイカを配合し、そり、ウエルド強度の改良されたポリアリーレンスルフィド組成物が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
さらに、ポリアリーレンスルフィドに対し、平均繊維径9μm以上のガラス繊維とフレーク径0.5mm以上のものが50重量%以上含まれ、かつアスペクト比が10〜500であるガラスフレークを配合することにより耐摩耗性に優れる組成物が提案されている(例えば特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平04−72356号公報
【特許文献2】特開平06−122824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案の組成物においては、引張伸び、ウエルド強度に代表される靭性の改良効果は満足できるものではない。また、各種機器部材での使用において重要な材料特性となる接着強度の改良効果については明確にされていない。また、特許文献2に提案の組成物においては、引張伸び、ウエルド強度に代表される靭性、接着強度、そりの改良効果については明確にされていない。
【0008】
そこで、本発明は、優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性を合わせ有するポリアリーレンスルフィド組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のポリアリーレンスルフィド、特定のオレフィン共重合体、特定のアルコキシシランカップリング剤及びガラスフレークからなるポリアリーレンスルフィド組成物が優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性を合わせ有することを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、溶融粘度が100〜5000ポイズであるポリアリーレンスルフィド(a)59.9〜98重量%、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)1〜40重量%、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種以上の官能基を有するアルコキシシランカップリング剤(c)0.1〜5重量%からなる樹脂混合物100重量部に対し、ガラスフレーク(d)20〜150重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド組成物に関するものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(a)は、溶融粘度が100〜5000ポイズのポリアリーレンスルフィドである。ここで、溶融粘度が100未満のポリアリーレンスルフィドである場合、ポリアリーレンスルフィド組成物とした際に靱性、接着性、機械的特性に劣るものとなる。一方、溶融粘度が5000ポイズを越えるポリアリーレンスルフィドである場合、ポリアリーレンスルフィド組成物とした際に接着性、成形加工性に劣るもとなる。本発明における溶融粘度の測定方法としては、例えば測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにより測定することができる。
【0013】
該ポリアリーレンスルフィド(a)としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、その中でもその構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。そして、他の構成成分としては、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位等を挙げることができ、その中でも優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性のバランスに優れたポリアリーレンスルフィド組成物となることからポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0014】
該ポリアリーレンスルフィド(a)の製造方法としては、特に限定はなく、一般的にポリアリーレンスルフィドの製造方法として知られている方法により製造すればよく、例えば重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能である。アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。また、これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られるが、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調整されても、また系外で調整されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、例えばp−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物との仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物=1/0.9〜1.1(モル比)の範囲とすることが好ましい。
【0015】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0016】
さらに、ポリアリーレンスルフィド(a)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。中でも該ポリアリーレンスルフィド(a)として、得られるポリアリーレンスルフィド組成物が、特にエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、金属部材等との接着性、密着性、それらの熱老化性、耐ヒートサイクル性のバランスに優れたものとなることから、アリーレンスルフィド単位あたり0.05〜5モル%に相当する官能基を有する官能基含有ポリアリーレンスルフィド及び/又は線状ポリアリーレンスルフィドであることが好ましい。
【0017】
該官能基含有ポリアリーレンスルフィドとしては、例えばアミノ基含有ポリアリーレンスルフィド、カルボキシル基含有ポリアリーレンスルフィド、チオール基含有ポリアリーレンスルフィド、水酸基含有ポリアリーレンスルフィド等を挙げることができ、その中でも入手の容易さよりアミノ基含有ポリアリーレンスルフィド、カルボキシル基含有ポリアリーレンスルフィドであることが好ましい。
【0018】
該官能基含有ポリアリーレンスルフィドは、例えばアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させる際に、官能基含有芳香族ハロゲン化合物を共存させ重合を行う方法により製造することが可能である。
【0019】
該官能基含有芳香族ハロゲン化合物としては、アミノ基含有ポリアリーレンスルフィドとする際には、例えば2,5−ジクロロアニリン、2,6−ジクロロアニリン、3,5−ジクロロアニリン、3,5−ジアミノクロロベンゼン、2−アミノ−4−クロロトルエン、2−アミノ−6−クロロトルエン、4−アミノ−2−クロロトルエン、3−クロロ−m−フェニレンジアミン、2,5−ジブロモアニリン、2,6−ジブロモアニリン、3,5−ジブロモアニリン、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5−ジクロロアニリン、3,5−ジアミノクロロベンゼンが好ましい。カルボキシル基含有ポリアリーレンスルフィドとする際には、例えば2,5−ジクロロ安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸、2,5−ジブロモ安息香酸、2,6−ジブロモ安息香酸、3,5−ジブロモ安息香酸、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5−ジクロロ安息香酸が好ましい。チオール基含有ポリアリーレンスルフィドとする際には、例えば2,5−ジクロロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、3,5−ジクロロチオフェノール、2,5−ジブロモチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、3,5−ジブロモチオフェノール、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5−ジクロロチオフェノールが好ましい。水酸基含有ポリアリーレンスルフィドとする際には、例えば2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,5−ジブロモフェノール、2,6−ジブロモフェノール、3,5−ジブロモフェノール、及びそれらの混合物等が挙げられ、特に3,5−ジクロロフェノールが好ましい。
【0020】
一方、線状ポリアリーレンスルフィドとしては、線状ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、例えば特公昭52−12240号公報に記載の方法により製造することが可能である。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、該ポリアリーレンスルフィド(a)59.9〜98重量%からなるものである。ここで、ポリアリーレンスルフィド(a)が59.9重量%未満である場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は機械的強度が著しく低下するものとなる。一方、98重量%を越える場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は、接着性、機械的特性、耐ヒートサイクル性が劣るものとなる。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成する無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)としては、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、市販品であってもよい。そして、特に顕著な改良効果を有するポリアリーレンスルフィド組成物となることから、ASTM D747(1995年)を準拠し測定した曲げ剛性率80MPa以下、かつJIS K6730(1995年)を準拠し測定した引張破壊伸び400%以上であり、ガラス転移温度−20℃以下を有する無水マレイン酸含有オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、該無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)1〜40重量%からなるものであり、好ましくは3〜20重量%からなるものである。ここで、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)が1重量%未満である場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は、接着性、靱性、耐ヒートサイクル性が劣るものとなる。一方、40重量%を越える場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は機械的強度が著しく低下するものとなる。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を構成するアルコキシシランカップリング剤(c)は、無水マレイン酸含有オレフィン系共重合体(b)と組み合わせて配合することで、ポリアリーレンスルフィド組成物のエポキシ樹脂等との接着強度、接着強度の熱老化性を向上させると共に、靭性、耐衝撃性、ウエルド強度、耐ヒートサイクル性を改良するために配合されるものであり、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種以上の官能基を有するアルコキシシランカップリング剤である。
【0025】
該アルコキシシランカップリング剤(c)としては、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種以上の官能基を有するアルコキシシランカップリング剤であれば特に限定されるものではなく、例えば3−アミノプロピルプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びこれらの混合物が挙げられ、中でもN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、該アルコキシシランカップリング剤(c)0.1〜5重量%からなるものである。ここで、アルコキシシランカップリング剤(c)の配合量が0.1重量%未満である場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は接着性、接着強度の熱老化性、靭性、耐衝撃性、ウエルド強度、耐ヒートサイクル性に劣るものとなる。一方、5重量%を越える場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は機械的強度が著しく低下するものとなる。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、該ポリアリーレンスルフィド(a)59.9〜98重量%、該無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)1〜40重量%、該アルコキシシランカップリング剤(c)0.1〜5重量%からなる樹脂混合物100重量部に対し、ガラスフレーク(d)20〜150重量部を配合してなるものであり、好ましくは40〜100重量部を配合してなるものである。ここで、ガラスフレーク(d)が20重量部未満である場合、得られたポリアリーレンスルフィド組成物を成形品とした際に反りの改良効果が不十分となる。また、150重量部を越える場合、得られるポリアリーレンスルフィド組成物は、靭性、強度の低下が著しく、また成形性も悪化する。
【0028】
該ガラスフレーク(d)としては、ガラスフレークの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、特に成形品とした際に反りの改良効果に優れ、製品外観に優れる成形品が得られることから、重量平均フレーク径50〜1000μm、アスペクト比10〜500を有するガラスフレークであることが好ましく、特に重量平均フレーク径100〜800μm、アスペクト比20〜200であるガラスフレークであることが好ましい。また、極めて優れたそり、加工性、成形品外観に対する要求を満足するためには、フレーク径、アスペクト比の異なる2種以上のガラスフレークを併用することが好ましく、その際には特に(i)重量平均フレーク径100〜300μm、アスペクト比20〜80であるガラスフレーク20〜80重量%と(ii)重量平均フレーク径400〜800μm、アスペクト比100〜200であるガラスフレーク80〜20重量%を併用することが好ましい。
【0029】
該ガラスフレーク(d)としては、樹脂との界面接着強度をより向上させるため、必要によりシラン系,チタン系カップリング剤で表面処理をして使用することができる。また、取り扱い性を改良するため、そのフレークに適当なバインダーを用いて顆粒化して使用することもできる。バインダーとしてはウレタン系バインダー、エポキシ系バインダーまたはウレタン−エポキシ系バインダーなどが挙げられ、特にエポキシ系バインダー、ウレタン−エポキシ系バインダーが樹脂との密着性、耐熱性に優れるため好ましい。ガラスフレークの組成は特に限定されるものではなく、Eガラスが入手しやすく、物性のバランスがよい。
【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、より機械的強度が向上したポリアリーレンスルフィド組成物となることから該樹脂混合物100重量部に対し、さらにガラス繊維及び/又はウィスカーから選ばれる繊維状強化材(e)5〜100重量部を配合してなるものであることが好ましい。その際のガラス繊維、ウィスカーから選ばれる繊維状強化材は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。ガラス繊維としては、平均繊維径3〜20μmのものであることが好ましく、これらのガラス繊維としては例えばロービング、チョップドストランド、ミルドファイバーなどが挙げられる。また、ガラス繊維は公知のカップリング剤、バインダーで処理を施してもよい。バインダーとしてはウレタン系バインダー、エポキシ系バインダー、ウレタン−エポキシ系バインダーなどが挙げられ、特にエポキシ系バインダー、ウレタン−エポキシ系バインダーが樹脂との密着性、耐熱性に優れるため好ましい。ウィスカーとしては例えばチタン酸カリウムウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ウォラストナイト等が挙げられ、その際のウィスカーのアスペクト比は5〜40であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で通常の樹脂組成物に用いられている充填剤等を配合してもよく、該充填剤としては例えば炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、タルク、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、ワラステナイト、ゼオライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムなどの粒状充填材を配合することができ、これらの充填材は2種以上を併用することができる。また、必要によりシラン系,チタネート系カップリング剤で表面処理をして使用することができる。
【0032】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物には本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;タルク、カオリン、有機リン化合物などの結晶核剤;離型剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;難燃剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加することができる。また、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物には本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンスルフィドケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用することができる。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物の製造方法としては、従来公知の加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなどによる加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことができる。さらに、得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機などを用いて任意の形状に成形することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、優れた靭性、接着強度、寸法精度および成形加工性を合わせ有するポリアリーレンスルフィド組成物であり、各種成形品として用いることが可能であり、その工業的価値は極めて高いものである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(ポリアリーレンスルフィドの溶融粘度測定)
測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにより測定した。
【0037】
参考例1(ポリアリーレンスルフィドの合成)
15リットルオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン5リットルを仕込み、120℃に昇温した後、NaS・2.8HO1866gを仕込み、攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、水407gを留出した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2080gを添加した。225℃に昇温し、2時間重合反応を行った後、250℃に昇温し、さらに250℃にて1.3時間重合反応を行った。重合反応終了後、室温まで冷却し重合スラリーを大量の水中に投入してポリマーを析出させ、濾別、純水による洗浄を繰り返し行った後、一晩加熱真空乾燥を行うことによりポリマーを単離した。得られたポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−1と記す。)の溶融粘度は220ポイズであった。
【0038】
参考例2(ポリアリーレンスルフィドの合成)
参考例1で得られたPPS−1を、さらに空気雰囲気下235℃で加熱硬化処理し、溶融粘度2000ポイズを有するポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−2と記す。)を得た。
【0039】
参考例3(ポリアリーレンスルフィドの合成)
参考例2で得られたPPS−2を、さらに空気雰囲気下235℃で加熱硬化処理し、溶融粘度6000ポイズを有するポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−3と記す。)を得た。
【0040】
参考例4(ポリアリーレンスルフィドの合成)
参考例1と同様にして重合を行った後、得られたポリアリーレンスルフィドを窒素雰囲気下235℃で加熱処理し、溶融粘度340ポイズを有する実質的に熱酸化架橋されていない線状ポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−4と記す。)を得た。
【0041】
参考例5(ポリアリーレンスルフィドの合成)
15リットルオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン5リットルを仕込み、120℃に昇温した後、NaS・2.8HO1866gを仕込み、攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、水407gを留出した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2080gを添加した。225℃に昇温し、3時間重合反応を行った後、250℃に昇温し、さらに250℃にて1.5時間重合反応を行った。重合反応終了後、室温まで冷却したスラリーを大量の水中に投入してポリマーを析出させ、濾別、純水およびアセトンによる洗浄を繰り返し行った。その後、さらに酸洗浄、中和を行った後、一晩加熱真空乾燥を行うことによりポリマーを単離した。得られたポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−5と記す。)の溶融粘度は480ポイズであった。
【0042】
参考例6(アミノ基含有ポリアリーレンスルフィドの合成)
15リットルオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン5リットルを仕込み、120℃に昇温した後、NaS・2.8HO1866gを仕込み、約2時間かけて攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、水407gを留出した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2080gおよび3,5−ジクロロアニリン22.9g(p−ジクロロベンゼンに対して約1モル%)を添加し、225℃に昇温し、3時間重合反応を行った後、250℃に昇温し、さらに250℃にて2時間重合反応を行った。重合反応終了後、室温まで冷却したスラリーを一部サンプリングし、濾液を採取して、濾液中に残存する未反応の3,5−ジクロロアニリンをガスクロマトグラフィー(島津製作所製、(商品名)GC−12A)で測定したところ、3,5−ジクロロアニリンの転化率は68%であった。残りのスラリーは、大量の水中に投入してポリマーを析出させ、濾別し、アセトン、純水による洗浄を行った後、一晩加熱真空乾燥を行うことによりポリマーを単離した。得られたアミノ基含有ポリアリーレンスルフィドの溶融粘度は160ポイズであった。この様にして得られたポリマーを、さらに空気雰囲気下235℃で加熱硬化処理し、溶融粘度500ポイズを有するアミノ基含有ポリアリーレンスルフィド(以下、PPS−6と記す。)を得た。
【0043】
実施例1
参考例1で得られたPPS−1、アルコキシシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、(商品名)KBE−402;3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン)、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(アルケマ社製、(商品名)ボンダイン AX−8390;曲げ剛性率<10MPa、引張破壊伸び900%)、ガラスフレーク(重量平均フレーク径160μm、アスペクト比30)、およびガラス繊維を表1に示す割合で配合した後、二軸押出機を用いて330℃で溶融混練し、ペレット化した。ついで、成形品の反り変形量、引張強度、引張伸び、接着強度を評価するため、射出成形機によって試験片を作成し、以下の方法により測定を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は反り変形量が少なく、靭性、接着性および成形加工性に優れたものであった。
【0044】
(a)反り変形量
70×70×2mmの平板を成形し、これを定盤上に乗せ、最も定盤から浮き上がり量の大きい角部の間隙を隙間ゲージを用いて測定し、反り変形量とした。
【0045】
(b)引張強度、引張伸び、引張強度、引張伸び
ASTM D638に準拠し測定した。
【0046】
(c)接着強度
接着剤として2液性エポキシ接着剤(ナガセケムテックス(株)製、(商品名)アラルダイトXN5002/XNH5002)を使用し、接着面積1.27×1.0cm、厚み80μmとなるように試験片に塗布し、100℃×1時間予備硬化、さらに150℃×3時間本硬化を行った。接着強度は、ASTM D−638に準拠して引張剪断接着強度の測定を行った。
【0047】
実施例2
参考例2で得られたPPS−2を使用し、ガラスフレークとしてフレーク径の異なる2種を併用し(GFL−1;重量平均フレーク径160μm、アスペクト比30、GFL−2;重量平均フレーク径600μm、アスペクト比120)、その他の各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。配合組成を表1に、結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は反り変形量が極めて少なく、靭性、接着性および成形加工性に優れたものであった。
【0048】
実施例3、4
ガラスフレークとしてフレーク径の異なる2種を併用し、その他の各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。配合組成を表1に、結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は反り変形量が極めて少なく、靭性、接着性および成形加工性に優れたものであった。
【0049】
実施例5〜10
各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。配合組成を表1に、結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は反り変形量が少なく、靭性、接着性および成形加工性に優れたものであった。
【0050】
比較例1
参考例2で得られたPPS−2を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は成形加工性に優れるものであったが、反り変形量が大きく、靭性、接着性はいずれも劣るものであった。
【0051】
比較例2
参考例2で得られたPPS−2を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は成形加工性、靭性に優れるものであったが、反り変形量が極めて大きく、接着性に劣るものであった。
【0052】
比較例3
参考例3で得られたPPS−3を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は成形加工性に優れるものであったが、反り変形量が大きく、靭性、接着性はいずれも劣るものであった。
【0053】
比較例4
参考例3で得られたPPS−3を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は極めて成形加工性が悪く、成形ができなかった。
【0054】
比較例5
参考例1で得られたPPS−1を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は成形加工性、接着性に優れるものであったが、反り変形量が極めて大きく、引張強度に劣るものであった。
【0055】
比較例6
参考例2で得られたPPS−2を用い、各成分を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の操作および評価を行った。結果を表2に示す。得られた樹脂組成物は成形加工性、靭性に優れるものであったが、反り変形量が極めて大きく、接着性に劣るものであった。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度が100〜5000ポイズであるポリアリーレンスルフィド(a)59.9〜98重量%、無水マレイン酸含有オレフィン共重合体(b)1〜40重量%、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種以上の官能基を有するアルコキシシランカップリング剤(c)0.1〜5重量%からなる樹脂混合物100重量部に対し、ガラスフレーク(d)20〜150重量部を配合してなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド(a)が、官能基含有ポリアリーレンスルフィド又は線状ポリアリーレンスルフィドであることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項3】
ガラスフレーク(d)が、(i)重量平均フレーク径100〜300μm、アスペクト比20〜80であるガラスフレーク20〜80重量%と(ii)重量平均フレーク径400〜800μm、アスペクト比100〜200であるガラスフレーク80〜20重量%からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド組成物。
【請求項4】
樹脂混合物100重量部に対し、さらにガラス繊維及び/又はウィスカーから選ばれる繊維状強化材(e)5〜100重量部を配合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド組成物。

【公開番号】特開2010−13515(P2010−13515A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173066(P2008−173066)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】