説明

ポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙及びその製造方法

【課題】 従来技術の問題点を解消し、工程の煩雑さ、絶縁破壊強さが大幅に改善され高電圧下での使用に耐える安価なポリアリーレンスルフィド酸化物紙の製造方法およびポリアリーレンスルフィド酸化物紙を提供する。
【解決手段】 ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60重量%以上、95重量%以下として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙し熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めた後に酸化剤を含む液体存在下で酸化反応処理することを特徴とするポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、耐薬品性に優れるポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)を酸化して得られるポリアリーレンスルフィド酸化物はPPSと比較して耐熱性、耐薬品性、特に耐酸性に優れ、さらには熱溶融しないという優れた特性を有しており、このポリアリーレンスルフィド酸化物の特徴を活かして、各種用途へのポリアリーレンスルフィド酸化物紙の応用が期待されている。特に、各種電気機器の高性能化に伴う小型化の要求の中、機器中の絶縁層の耐熱性と共にコンパクト化が大きな課題となっておりポリアリーレンスルフィド酸化物紙の電気絶縁紙としての応用が期待されている。
【0003】
このポリアリーレンスルフィド酸化物紙の製造方法に関しては、一般的な合成紙において短繊維間の結着の目的で使用される低融点のバインダー繊維は、ポリアリーレンスルフィド酸化物独自の優れた特性を損ねるため使用できない。このため、通常の合成繊維からなる合成紙と同様の製法が適用できず、特殊な製法が必要であり、ポリアリーレンスルフィド酸化物独自の特性を損なうことのないポリアリーレンスルフィド酸化物紙の製造方法が種々検討されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1ではPPS短繊維からなるPPS紙を酸化反応処理することでポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得ているが、絶縁破壊強さの低い紙しか得られておらず、高電圧下での使用に耐える絶縁破壊強さが高いポリアリーレンスルフィド酸化物紙は得られていなかった。
【0005】
また、特許文献2、3ではポリアリーレンスルフィド酸化物のナノファイバーを抄紙、またはPPSのナノファイバーを抄紙後に酸化反応処理することでポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得る記述があり、10kV/mmを超える高い絶縁破壊強さも示すポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られているが、ナノファイバーからなる紙を作成するためにはPPSと異種ポリマーを混練するアロイ化、溶融紡糸によるアロイ繊維化、延伸による細繊度化、アロイ繊維から異種ポリマーの除去を行なうナノファイバー化、ナノファイバーの束をほぐすための叩解といった一連の特殊な加工が必要であり、その工程は極めて煩雑であり、ポリアリーレンスルフィド酸化物紙のコストアップが避けられず、実用化には至っていなかった。
【特許文献1】特開2006−016585号公報(第2〜26頁)
【特許文献2】特開2006−257618号公報(第15頁)
【特許文献3】特開2007−002373号公報(第2〜17頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、工程の煩雑さ、絶縁破壊強さが大幅に改善され高電圧下での使用に耐える安価なポリアリーレンスルフィド酸化物紙の製造方法およびポリアリーレンスルフィド酸化物紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した本発明の課題は以下の手段により達成される。
1.ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を、(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60〜95重量%として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙して、熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めた後に酸化剤を含む液体存在下で酸化反応処理することを特徴とするポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
2.温度150〜285℃、線圧0.01〜20kN/cmでで熱プレスを行なう請求項1記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
3.酸化反応処理の後、平滑化処理を行なうことを特徴とする請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
4.平滑化処理の温度が100℃以上400℃未満である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
5.請求項1〜4のいずれか1項記載の方法で製造されたポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙。
6.紙の融解熱量が5〜30J/gである請求項5記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物紙は優れた耐熱性、高い電気絶縁破壊強さを有することから、高電圧下で使用される機器、例えば変圧器やモーターなどに使用される電気絶縁紙として用いることが可能である。また、電気絶縁破壊強さに優れるため、電気絶縁紙の薄葉化が可能となり各種電気機器類の小型化に寄与する。なお、本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物紙はポリアリーレンスルフィド酸化物樹脂独自の耐熱性、耐薬品性、難燃性、不融性、機械的強度、電気的特性を有することから、耐熱性ワイパー、プリント回路基板、各種フィルター材、防音断熱材、ルーフィング材、バッテリーセパレーターなどとしても利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物紙の製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明におけるPPSとは、主として下記構造式(1)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0011】
【化1】

【0012】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。
【0013】
また、本発明のPPSは、その溶融粘度が5〜5000Pa・s(320℃、せん断速度1000/秒)の範囲が好ましい。
【0014】
また、本発明のPPSはプレス工程における分解ガスの発生を抑制する目的で、例えば特開2006−336140号公報に記載される熱酸化処理を施してオリゴマー量を低減したものを用いることもできる。
【0015】
本発明においては、PPSからなる未延伸糸(A)を用いることを特徴とする。PPSからなる未延伸糸(A)を用いることで熱プレス工程において未延伸糸(A)が変形することにより延伸糸(B)間を充填、融着することが可能となる。
【0016】
本発明における未延伸糸(A)とは、通常の溶融紡糸法で紡糸し延伸を施す前の配向、結晶化度の低いPPS繊維を指し、熱プレス時の変形による延伸糸(B)間の充填、融着の効果を高める目的で未延伸糸(A)の配向度合いを示す複屈折率の値としては好ましくは0.050未満、より好ましくは0.040未満、最も好ましくは0.030未満である。なお、複屈折率の値とは実施例C.項記載の方法で求められる値である。また、同様の目的で1分間に20℃の昇温速度で測定したときの示差熱分析計による結晶化ピークが実質的に認められることが好ましい。ここでいう実質的とは結晶化ピークにおける結晶化熱量が5J/g以上であることをいう。なお、ここでいう結晶化熱量とは実施例D.項記載の方法で求められる値である。
【0017】
また、本発明における未延伸糸(A)とはステープル状にカットしたものを指し、その長さは紙の強度向上の目的で1mm以上が好ましく、抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で5cm以下が好ましい。より好ましくは5mm以上、2cm以下である。
【0018】
未延伸糸(A)の直径は抄紙原液中での繊維の分散性を向上し、地合いの良い紙を得る目的で30μm以下が好ましい。より好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μ以下である。なお、現行の直接紡糸法によって得られる繊維直径の下限としては5μm程度である。
【0019】
未延伸糸(A)は水中での開繊性向上と紙の強度向上の目的で捲縮を有していてもよい。紙の強度向上と抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で捲縮数としては4山/25mm以上、18山/25mm以下が好ましい。
【0020】
未延伸糸(A)は繊維表面を改質し、抄紙時の水への馴染みを改善し分散性を向上する目的で油剤が付与されていてもよい。油剤種としては水への馴染みを改善し、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系油剤が好ましい。
【0021】
本発明においては、PPSからなる未延伸糸(A)と組み合わせてPPSからなる延伸糸(B)を用いることを特徴とする。延伸糸(B)を用いることで延伸糸(B)間の絡み合いによる紙力の向上が可能となる。
【0022】
本発明でいう延伸糸(B)とは、通常の溶融紡糸法で紡糸した後に延伸を施し配向、結晶化度を高めたPPS繊維を指し、分子鎖の配向、結晶化が進んでいるために熱プレス工程において変形量が少なく、繊維形状を保つことができる。熱プレス後も繊維形状を保ち、得られる紙の強力を保つ目的で延伸糸(B)の配向度合いを示す複屈折率の値としては好ましくは0.100以上、より好ましくは0.150以上である。なお、複屈折率の値とは実施例C.項記載の方法で求められる値である。また、同様の目的で1分間に20℃の昇温速度で測定したときの示差熱分析計による結晶化ピークが実質的に認められないことが好ましい。ここでいう実質的に認められない、とは結晶化ピークにおける結晶化熱量が5J/g未満であることをいう。なお、ここでいう結晶化熱量とは実施例D.項記載の方法で求められる値である。
【0023】
本発明でいう延伸糸(B)とは、ステープル状にカットしたものを指し、その長さは紙の強度向上の目的で1mm以上が好ましく、抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で5cm以下が好ましい。より好ましくは5mm以上、2cm以下である。
【0024】
延伸糸(B)の直径は抄紙原液中での繊維の分散性を向上し、地合いの良い紙を得る目的で30μm以下が好ましい。より好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μ以下である。なお、現行の直接紡糸法によって得られる繊維直径の下限としては5μm程度である。
【0025】
延伸糸(B)は水中での開繊性向上と紙の強度向上の目的で捲縮を有していてもよい。紙の強度向上と抄紙原液中での繊維同士の絡まりを抑制する目的で捲縮数としては4山/25mm以上、18山/25mm以下が好ましい。
【0026】
延伸糸(B)は繊維表面を改質し、抄紙時の水への馴染みを改善し分散性を向上する目的で油剤が付与されていてもよい。油剤種としては水への馴染みを改善し、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系油剤が好ましい。
【0027】
本発明における未延伸糸(A)と延伸糸(B)の総重量に対する(A)の割合は、60重量%以上95重量%以下である。60重量%以上とすることで、熱プレス工程において未延伸糸(A)が変形し延伸糸(B)間を充填し、延伸糸(B)間の空隙を十分に埋めることが可能となる。また、95重量%以下とすることで延伸糸(B)間の絡み合いを保ち、紙力が向上する。繊維の分散斑により延伸糸(B)間に空隙が生じることを防ぎ、紙力を向上する目的で未延伸糸(A)の混率はより好ましくは65重量%以上90重量%以下、最も好ましくは70重量%以上85重量%以下である。
【0028】
本発明においては、未延伸糸(A)と延伸糸(B)を水に分散させた抄紙原液を抄紙する。このような方法は一般に湿式抄紙法と呼ぶが、本発明においては湿式抄紙法とすることで未延伸糸(A)と延伸糸(B)との均一な混合が可能となり、物性の安定した紙が得られる。一方で、水への分散を行なわない乾式抄紙法においては未延伸(A)と延伸糸(B)の均一な混合が難しく、物性の安定した紙を得ることが困難である。
【0029】
抄紙原液の調製手順としては、未延伸糸(A)、延伸糸(B)をそれぞれ水に分散させた液を混合しても、予め未延伸糸(A)と延伸糸(B)を混ぜた状態で水に分散しても良い。水分散させる方法としては例えばナイアガラビーター、リファイナー、パルパーなど、各種ブレンダー、ラボ用粉砕器やバイオミキサー、PFI叩解機、撹拌子、撹拌翼など各種撹拌機、叩解機を好ましく用いることができる。分散時に起こる未延伸糸(A)と延伸糸(B)のダメージを最小限にし、得られる紙の品質を保つ目的で、これら手法のうち比較的せん断力が小さい状態で分散させることが可能なナイアガラビーターやパルパー、ブレンダーの使用がより好ましい。
【0030】
抄紙原液の濃度としてはろ水時間の面から0.01重量%以上、分散性の面から10重量%以下が好ましい。また、抄紙原液には未延伸糸(A)と延伸糸(B)の分散性向上の目的で各種分散剤を添加することが好ましい。
【0031】
分散剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤が挙げられ、このうち、含有イオンによる絶縁劣化を防ぐ目的でノニオン系の界面活性剤の使用が好ましい。ノニオン系の界面活性剤としては、PPSとの相性からポリグリコールやポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどが好ましい。分散剤は水への溶解を速やかに行なう目的で予め希釈して0.1重量%以上10重量%以下の水溶液として用いることが好ましい。分散剤の添加時期は未延伸糸(A)、延伸糸(B)の水分散前でも、水分散と同時でも、あるいは水分散後でも良い。
【0032】
抄造工程としては連続工程では丸網抄紙機や長網抄紙機、バッチ工程ではシートマシンなどを使った公知の湿式抄造技術が好ましく用いられる。
【0033】
抄紙工程における乾燥時の乾燥温度としては乾燥時間の面と未延伸糸(A)の結晶化を防ぎ熱プレスにおける変形を容易にする目的で100℃以上135℃以下で行なうことが好ましい。
【0034】
本発明においては、抄紙後の紙に対し熱プレスを施すことを特徴とする。熱プレス工程においては、PPS未延伸糸(A)と延伸糸(B)を構成するPPSの分子鎖の配向状態の違いを利用して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間を充填する。PPS未延伸糸(A)は分子鎖の配向が低く、一方、延伸糸(B)は分子鎖の配向が高く結晶化が進んでいるため延伸糸(B)の流動開始温度および融点は未延伸糸(A)よりも高くなる。このため、熱プレスにより未延伸糸(A)は流動または溶融して延伸糸(B)間を充填するが、延伸糸(B)は配向、結晶化が進んでいるためにその形状を保つことができる。
【0035】
本発明における熱プレス温度は150℃以上285℃以下とすることが好ましい。熱プレス温度を150℃以上とすることでプレスにより未延伸糸(A)を変形させ延伸糸(B)間の充填が可能となる。また、285℃以下でプレスを行なうことでPPSの融解、熱分解による紙の強度劣化が抑制される。紙の強度向上の目的でプレス温度のより好ましい範囲としては175℃以上270℃以下、最も好ましくは200℃以上250℃以下である。
【0036】
本発明における熱プレス時の線圧は0.01〜20kN/cmとすることが好ましい。線圧を0.01kN/cm以上とすることで未延伸糸(A)の変形により延伸糸(B)間の充填を可能とし、かつ20kN/cm以下とすることで過大な装置となることが避けられる。未延伸糸(A)の十分な変形により紙の欠点となる延伸糸(B)間の空隙を無くす目的でより好ましくは0.1kN/cm以上、最も好ましくは1.0kN/cm以上でのプレスが好ましい。
【0037】
熱プレスの方法としては連続で処理可能なカレンダープレスがより好ましく用いられる。
【0038】
プレス回数としては1回でも良いが、紙面全体に熱を伝え変形を可能とし、紙の熱劣化を避けるため2回以上10回未満が好ましい。
【0039】
プレス速度としては生産性の面から1m/分以上、ロール上での紙の加熱時間を十分とる目的で100m/分以下の範囲が好ましい。
【0040】
本発明においては、熱プレス後の紙に酸化剤を含む液体存在下で酸化反応処理をすることを特徴とする。熱プレス後の紙に酸化反応処理を行なうことが非常に重要であり、手順を逆にして酸化反応処理後の紙に熱プレスを行なうと、未延伸糸(A)、延伸糸(B)共にポリアリーレンスルフィド酸化物となってしまい熱溶融しないため、未延伸糸(A)と延伸糸(B)は変形するが繊維間の結着が弱いために得られる紙の強度低下、絶縁破壊強さの低下が起きる。一方で、抄紙と酸化反応処理の間に熱プレスを行なうことで、未延伸糸(A)と延伸糸(B)を溶融させることができるため、未延伸糸(A)の流動と溶融による延伸糸(B)間の充填が可能となり得られるポリアリーレンスルフィド酸化物紙の引張強度、絶縁破壊強さが向上する。
【0041】
また、熱プレス前に酸化反応処理を行なうと繊維間の空隙に酸化反応液が浸透し、繊維全体を酸化するため酸化剤が多量に消費されることになるが、熱プレス後に酸化反応処理を行なうことで、紙内部への酸化剤の浸透を防ぎ、紙表面を効率的にポリアリーレンスルフィド酸化物とすることが可能となり、より短時間の処理、少量の酸化剤で効率的に紙に不融性を付与することが可能となる。
【0042】
なお、本発明の酸化反応処理においてPPSがポリアリーレンスルフィド酸化物となることで不融化するため、酸化反応処理の進行に伴い、紙の示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が減少する。本発明で得られるポリアリーレンスルフィド酸化物紙において、ポリアリーレンスルフィド酸化物特有の耐熱性、耐薬品性、不融性を発現させ、かつ紙に効率的に不融性を付与する目的で紙の融解熱量は5J/g以上、30J/g以下とすることが好ましい。ここでいう、融解熱量とは実施例G.項に記載する方法により求められる値である。
【0043】
このようなポリアリーレンスルフィド酸化物紙は酸化反応処理条件を以下の好ましい条件とすることにより製造することができる。
【0044】
本発明において、酸化反応処理に使用される液体は、PPS紙の形態を保持するものであれば任意に用いることができ、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであることが好ましい。中でも、反応効率を高める目的で有機酸、有機酸無水物または鉱酸を含む液体であることが好ましい。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸などが挙げられる。有機酸無水物としては、下記一般式(2)
【0045】
【化2】

【0046】
(R、Rは、それぞれ炭素数1〜5の脂肪族置換基、芳香族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、RおよびRは互いに連結して環状構造を形成していてもよい。)で示される酸無水物が挙げられ、具体例としては無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水−クロロ安息香酸などが挙げられる。鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。
【0047】
酸化剤の活性を高める目的で、液体として好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸である。中でも特に好ましいのは、水、酢酸および硫酸が混合された液体である。その混合組成比としてより好ましいのは、水:5重量%以上20重量%以下、酢酸:60重量%以上90重量%以下、硫酸:5重量%以上20重量%以下であり、この範囲の濃度において特に紙の諸物性を損なうことなく、かつ安全性、処理効率、コストに優れる酸化反応処理が可能である。
【0048】
本反応に使用される酸化剤としては液体に均一に溶解する目的で無機塩過酸化物および過酸化水素水から選ばれる少なくとも1つが好ましく、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選択される一種以上と、有機酸および有機酸無水物から選択される一種以上との混合物から形成される過酸化物(過酸を含む)であっても構わない。酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく挙げられる。ここで塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、なかでも溶解性の面からナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。その具体例としては、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸塩としては過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸アンモニウム、過炭酸塩としては過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどが挙げられる。過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などが挙げられる。
【0049】
酸化剤の濃度としては、処理効率の面から0.1重量%以上、安全性の面から20重量%以下が好ましい。この範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。より好ましくは1〜15重量%であり、さらに好ましくは5〜10重量%である。
【0050】
酸化反応処理の温度としては、処理効率の面からは処理温度は高いことが好ましいが、酸化剤の分解促進による暴走反応による爆発を避けるなど安全性の面からは、使用される液体の沸点以下の温度でできるだけ低温で行うことが好ましい。具体的には、用いる液体の沸点により異なるが、処理効率と安全性を両立する目的で液体の沸点が許容する範囲内において、0℃〜100℃の間、中でも30℃〜80℃の間が好ましく、特に40℃〜70℃が好ましい。例えば、液体が酢酸の場合には50℃〜70℃の酸化反応処理温度が好ましい。
【0051】
酸化反応処理時間は、反応温度と酸化剤の濃度により左右されるため一概にはいえないが、安全性の面から処理時間は1時間以上、またコスト面から100時間以下に制御することが好ましい。
【0052】
なお、酸化反応処理後の紙は直ちに水洗し酸化反応処理に使用した薬液を除くことが安全性の面また酸化反応処理に続く工程における装置保護の面から好ましい。
【0053】
酸化反応処理を行うための処理方式に特に制限はないが、バッチ式または連続式、あるいはそれらを組み合わせたものも採用できる。
【0054】
ここで、バッチ式とは、任意の反応容器内にPPS紙および酸化剤の含まれる液体を投入し、任意の濃度、温度、時間で酸化反応処理した後、ポリアリーレンスルフィド酸化物紙または液体を取り出す処理方式を意味する。連続式とは、任意の形態で固定化したPPS紙に対して、酸化剤の含まれる液体を流通または循環させて酸化反応処理する方法、あるいは、酸化剤の含まれる液体を任意の反応容器内に投入し、そこへPPS紙を連続的に流通または循環させて酸化反応処理する方法を意味する。
【0055】
次に、本反応により得られるポリアリーレンスルフィド酸化物について説明する。
【0056】
上述の酸化反応処理により、PPS中のチオエーテル部分が酸化されてポリアリーレンスルフィド酸化物が得られる。なお、PPSのチオール部分が酸化されるのみでなく、ポリマーの分子鎖間での架橋も生ずる。
【0057】
すなわち本発明でいうポリアリーレンスルフィド酸化物とは、一般式(3)
【0058】
【化3】

【0059】
(R’’は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、分子間のR’’同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。R’’’はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位からなるポリマー、または、主要構造単位としての上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(4)〜(10)
【0060】
【化4】

【0061】
(R’’は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R’’’’は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表し、分子間のR’’またはR’’’’同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。R’’’はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表し、nは0〜2のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体である。また、一般式(3)で示される繰り返し単位のうち、Xが0、1、2である構造単位中に占める、Xが1または2である構造単位の比率は、0.5以上が好ましく、さらに好ましくは0.7以上である。
【0062】
本発明においては酸化反応処理をした後に平滑化処理を行なうことが好ましい。本発明でいう平滑化処理とは、平板間またはロール間に紙面を挟み圧力を加える処理をいう。酸化反応処理においては紙が収縮するのに伴い繊維間に微細な空隙が発生するが、平滑化処理を行なうことで、空隙が潰れて紙の強度が向上する。また、平滑化処理によって酸化反応処理に伴い発生する紙の毛羽立ちや凹凸が低減でき、表面の平滑性が向上し紙の品位が向上する。
【0063】
本発明における平滑化処理には平板プレス、ニップロール、カレンダープレスを用いることができ、連続で処理可能なニップロール、カレンダープレスがより好ましく、加熱可能なカレンダープレスが最も好ましく用いられる。なお、平滑化処理は酸化反応処理後に紙が濡れた状態で行なっても、乾燥した後に行なっても良い。また平滑化処理は酸化反応処理と連続した装置構成で行なっても良いし、酸化反応処理の後に一度巻き取った状態にし、これを再度引き出して別途平滑化処理を行なっても良い。
【0064】
該平滑化処理における好ましい温度範囲としては紙の変形を容易とし、またポリアリーレンスルフィド酸化物の熱劣化や熱分解による紙の強度劣化を避ける目的で100℃以上400℃未満の温度が好ましい。同様の理由からより好ましくは150℃以上350℃以下、最も好ましくは200℃以上300℃以下である。
【0065】
該平滑化処理における平板プレスの際のプレス時間としては紙面全体に圧力、熱を伝え変形を可能とし、かつ紙の熱劣化を避けるため平板プレスの場合は1分以上30分未満、より好ましくは3分以上10分未満が好ましい。また、ニップロール、カレンダープレスの際のプレス回数としては1回でも良いが、同様の理由から2回以上10回未満が好ましい。なお、平板プレスにおけるプレス圧力は変形を可能とし、かつ過大な装置となることを避ける目的で0.1MPa以上100MPa以下の範囲が好ましい。特に電気絶縁紙用途、プリント回路基板用途など高密度の紙が要求される際には1MPa以上でのプレスが好ましい。
【0066】
カレンダープレスの際のプレス速度としては生産性の面から1m/分以上、ロール上での紙の加熱時間を十分とる目的で100m/分以下の範囲が好ましい。なお、カレンダープレスにおけるプレス圧力は変形を可能とし、かつ過大な装置となることを避ける目的で0.01kN/cm以上20kN/cm以下が好ましい。特に電気絶縁紙用途、プリント回路基板用途など高密度の紙が要求される際には0.1kN/cm以上でのプレスが好ましい。
【0067】
次に、本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙について説明する。
【0068】
本発明の紙の厚みとしては紙の十分な強度を得る目的で、1〜1000μmが好ましい。なお、本発明でいう紙の厚みとは実施例E.項に記載する方法により求められる値である。
【0069】
本発明の紙の坪量としては10.0g/m以上、400g/m以下が好ましい。なお、本発明でいう坪量とは実施例F.項に記載する方法により求められる値である。
【0070】
本発明の紙の密度としては紙の強度を保つ目的で0.3g/cm以上、1.3g/cm以下が好ましい。強度向上、および樹脂含浸を可能とする目的でより好ましくは0.5g/cm以上1.2g/cm以下、最も好ましくは0.7g/cm以上、1.1g/cm以下である。なお、本発明でいう密度とは実施例F.項に記載する方法により求められる値である。
【0071】
本発明における紙の絶縁破壊強さは10kV/mm以上が好ましい。なお、本発明でいう絶縁破壊の強さとは実施例H.項に記載する方法により求められる値である。絶縁破壊強さを10kV/mm以上とすることで変圧器やモーターなどの高電圧下で使用される絶縁紙の用途へも展開が可能となる。絶縁性の信頼の観点から、絶縁破壊の強さは好ましくは20kV/mm以上、より好ましくは30kV/mm以上、最も好ましくは40kV/mm以上である。なお、絶縁破壊の強さには特に上限値はないが、現時点で到達可能である上限値としては80kV/mm程度である。
【0072】
本発明の紙の引張強度は取り扱い性の観点から10N/15mm以上であることが好ましい。より好ましく20N/15mm以上、最も好ましくは50N/15mm以上である。なお、本発明でいう引張強度とは実施例I.項に記載する方法により求められる値である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0074】
A.融点
サンプル約10mgを精秤し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主吸熱ピークがあらわれる温度を測定することにより行った。
【0075】
B.粘度
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、320℃、せん断速度1,000/秒での見かけ粘度を測定した。
【0076】
C.複屈折率
オリンパス社製BH−2偏光顕微鏡により、Na光源で波長589nmにてコンペンセーター法により単糸のレターデーションと糸径を測定することにより求めた。
【0077】
D.結晶化熱量
サンプル紙の断面全面が均等に含まれるように紙表面に対して垂直方向にカットを行い、約10mgの紙片を精秤し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で窒素下、50℃で1分間保持した後、50℃から340℃まで20℃/分で昇温して測定した時の結晶化熱量を求めた。
【0078】
E.厚み
10cm角、計4枚にカットした紙片を用い、JIS−L−1906(2000年改正)の試験法に準じて荷重10kPaで、23℃、相対湿度50%下で各々の紙面の中央部1点の厚みを1μmのオーダーまで測定した。計4枚で測定した結果の平均の値を求め、0.1μmのオーダーを四捨五入した値を厚みL(μm)とした。
【0079】
F.坪量、密度
10.0cm角、計4枚にカットした紙片を用い、紙の重量(g)を23℃、相対湿度50%で測定し、紙の面積(m)で除し、計4枚の平均値を求めて有効数字3桁で坪量(g/m)を算出した。また、cmの単位に換算した坪量の値を上記E.項で測定した厚みで除して有効数字3桁で密度(g/cm)を算出した。
【0080】
G.融解熱量
サンプル約10mgを精秤し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で窒素下、温度プログラムを50〜340℃(50℃で1分間保持、50℃から20℃/分で340℃まで昇温、340℃で1分間保持、続いて20℃/分で100℃まで降温、100℃で1分間保持、続いて20℃/分で340℃まで再昇温)と設定し、測定した時の再昇温時の融解熱量を求めた。
【0081】
H.絶縁破壊強さ
10cm角、計4枚にカットした紙片を用い、JIS−K−6911(2006年改正)の試験方法に準じて、電極として上部φ5mm球状電極、下部φ10mm円板電極を使用して23℃、相対湿度50%の大気中にて、電圧上昇速度0.25kV/secにて測定を行い、絶縁破壊電圧の値を0.1kVのオーダーまで得た。得られた絶縁破壊電圧の値をおのおのの紙の厚みの値をmm単位にした値で割って得られた4つの値I(kV/mm)を平均した値を有効数字2桁で求め、絶縁破壊の強さ(kV/mm)とした。
【0082】
I.引張強度
23℃、相対湿度50%の雰囲気下でオリエンテック社製テンシロンUTM−III−100を用いて、試料幅15mm、初期長20mm、引張速度20mm/分で最大点荷重の値を測定し、5回の測定の平均値を有効数字2桁で求め、引張強度(N/15mm)とした。
【0083】
参考例1
(PPS未延伸糸の作成)
融点282℃、温度320℃での粘度200Pa・sのPPS樹脂からなるペレットを使用し、公知の紡糸機を用い、320℃の温度で紡糸を行なった。このとき、吐出量15g/分、冷却チムニーは温度25℃、風速25m/分、収束剤として一般的な油剤を付与し、紡糸速度1000m/分で引き取り、150dtex48フィラメントの糸を作成した。この糸にノニオン系の抄紙用油剤を付与し、クリンパーに通し、13山/25mmの捲縮をかけた後にECカッター(帝人製機製)にて6mm長にカットしてPPS未延伸糸(A)を得た。得られたPPS未延伸糸の直径は17μm、複屈折率は0.012であった。また、示差走査熱量計で測定した結晶化熱量は35J/gであった。
【0084】
参考例2
(PPS延伸糸の作成)
参考例1と同様に紡糸し、得られた糸を95℃の熱水浴で3.0倍に延伸し、48dtex48フィラメントの延伸糸を得た後、ノニオン系の抄紙用油剤を付与した。さらにクリンパーに通し、13山/25mmの捲縮をかけた後、これをECカッター(帝人製機製)にて6mmの長さに切断し、PPS延伸糸を得た。得られたPPS延伸糸の直径は10μm、複屈折率は0.202であった。また、示差走査熱量計で測定したところ結晶化のピークは実質的に認められなかった。
【0085】
実施例1
未延伸糸(A)として参考例1で作成したPPS未延伸糸を11.7g、延伸糸(B)として参考例2で得たPPS延伸糸3.9gを計量し、各々を0.5〜1.0gずつに分け、それぞれに1リットルの水と分散剤としてノイゲンEA−87(第一工業製薬社製)の1.0重量%水分散液2滴を加え、ブレンダー(オスター社製「オスターブレンダーOB−1」)に投入し、撹拌速度10300rpmで10秒間撹拌して得た液を全て合わせたものを繊維分散液として得た。
【0086】
この繊維分散液に、全量が20000gとなるように水を追加し、抄紙原液を得た。この抄紙原液を使用し、熊谷理機工業製の実験用抄紙機(25cm角のシート形成可能な角形シートマシン)の120メッシュの金属製の網の上に抄紙し、未乾燥紙を得た。得られた未乾燥紙を熊谷理機工業製の標準型回転型乾燥機(ドラム直径404mm)で温度110℃、ドラムの回転スピード3で表裏が交互にドラム面に接するように未乾燥紙を計6回通して乾燥紙を得た。
【0087】
得られた乾燥紙を10cm角にカットした後、鉄ロールとペーパーロールからなるロールカレンダー加工機(由利ロール社製)に通し熱プレスした。熱プレス条件は、プレス温度220℃、荷重は10cm幅の紙に対して150kNでプレス圧力15kN/cm、ロール周速度2m/分で、表裏をそれぞれ2回、計4回の処理を行なった。
【0088】
熱プレス後の紙を、あらかじめ混合し60℃に保った99.0%酢酸418g(キシダ化学製)、35%過酸化水素水139g(キシダ化学製)、95%硫酸35g (和光純薬工業製)の酸化剤濃度(過酸化水素濃度)8.2重量%の混合溶液に浸漬させて60℃、3時間酸化反応処理した後、直ちに流水で10分間濯いで薬液を除き、50℃の熱風乾燥機で60分間乾燥し、PPSの酸化物であるポリアリーレンスルフィド酸化物の紙を得た。
【0089】
酸化反応処理後の紙を鉄ロールとペーパーロールからなるロールカレンダー加工機(由利ロール社製)に通し平滑化処理を実施した。熱プレス条件は、温度250℃、荷重は25cm幅の紙に対して120kNで圧力4.8kN/cm、ロール周速度2m/分で、表裏をそれぞれ2回、計4回の処理を行なった。
【0090】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり絶縁破壊強さに優れたポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られた。
【0091】
実施例2〜8、比較例1
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥、プレス、酸化反応処理、平滑化処理を実施しポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0092】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり実施例2〜8で密度が高く、絶縁破壊強さに優れたPPS紙が得られた。
【0093】
一方、本発明の範囲外の比較例1のポリアリーレンスルフィド酸化物紙は表1に示す通り密度は高いものの絶縁破壊強さが低かった。この原因としては、未延伸糸(A)の混率が少ないために延伸糸間の空隙が残存し、絶縁破壊強さの低下を引き起こしたものと推測する。
【0094】
実施例9〜14
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥した後、表1記載のプレス温度、プレス圧力12kN/cm、ロール周速度2m/分で、実施例1と同様に熱プレスを施した後、酸化反応処理、平滑化処理を実施してポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0095】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり実施例10〜14で密度が高く、絶縁破壊強さに優れたポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られた。
【0096】
実施例15〜19
未延伸糸(A)と延伸糸(B)を表1記載の添加量使用して、実施例1と同様にして抄紙、乾燥した後、表1記載のプレス圧力、プレス温度220℃、ロール周速度2m/分で、実施例1と同様に熱プレスを施し、さらに酸化反応処理、平滑化処理を実施してポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0097】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり実施例15〜19で密度が高く、熱プレス時の圧力が高くなるにつれ絶縁破壊強さに優れたポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られた。
【0098】
実施例20
平滑化処理は実施しない以外は実施例1と同様にして抄紙、乾燥、プレス、酸化反応処理を行ないポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0099】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり密度が高く、絶縁破壊強さに優れたポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られた。
【0100】
比較例2
酸化反応処理を熱プレスの前に実施した以外は実施例1と同様にして抄紙、乾燥、プレス、酸化反応処理を行ないポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0101】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり密度が高いものの実施例1と比較して引張強度、絶縁破壊強さに劣った。これは酸化反応処理を熱プレス前に実施したために熱プレス時に未延伸糸(A)が不融化しており延伸糸(B)間の結合、充填が十分できなかったためと推測する。
【0102】
実施例21〜26
平滑化処理の温度を表1記載の値に変えた以外は実施例1と同様にして抄紙、乾燥、プレス、酸化反応処理を行ないポリアリーレンスルフィド酸化物紙を得た。
【0103】
得られた紙の厚み、坪量、密度、融解熱量、絶縁破壊強さ、引張強度は表1に示す通りであり密度が高く、絶縁破壊強さに優れたポリアリーレンスルフィド酸化物紙が得られた。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物紙は優れた耐熱性、高い電気絶縁破壊強さを有することから、高電圧下で使用される機器、例えば変圧器やモーターなどに使用される電気絶縁紙として用いることが可能である。また、電気絶縁破壊強さに優れるため、電気絶縁紙の薄葉化が可能となり各種電気機器類の小型化に寄与する。なお、本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物紙はポリアリーレンスルフィド酸化物樹脂独自の耐熱性、耐薬品性、難燃性、不融性、機械的強度、電気的特性を有することから、耐熱性ワイパー、プリント回路基板、各種フィルター材、防音断熱材、ルーフィング材、バッテリーセパレーターなどとしても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィドからなる未延伸糸(A)およびポリフェニレンスルフィドからなる延伸糸(B)を(A)と(B)の総重量に対する(A)の割合が60〜95重量%として水に分散させて抄紙原液とし、該抄紙原液を抄紙して、熱プレスを施して未延伸糸(A)により延伸糸(B)間の空隙を埋めた後に酸化剤を含む液体存在下で酸化反応処理することを特徴とするポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
【請求項2】
温度150〜285℃、線圧0.01〜20kN/cmで熱プレスを行なう請求項1記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
【請求項3】
酸化反応処理の後、平滑化処理を行なうことを特徴とする請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
【請求項4】
平滑化処理の温度が100℃以上400℃未満である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法で製造されたポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙。
【請求項6】
紙の融解熱量が5〜30J/gである請求項5記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙。

【公開番号】特開2009−174091(P2009−174091A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14669(P2008−14669)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】