説明

ポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法並びに無水酢酸の精製方法

【課題】 品質のよい無水酢酸を得ることができる無水酢酸の精製方法と、その精製方法によって得られる精製無水酢酸を用いて、着色の少ない高品質のポリアルキレンエーテルグリコールを得ることができるポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法を提供する。
【解決手段】 UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とした後、該粗無水酢酸を蒸留して精製無水酢酸を分離回収することを特徴とする無水酢酸の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無水酢酸の精製方法に関する。より詳しくはポリアルキレンエーテルグリコールの製造に適した無水酢酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法として、無水酢酸を反応開始剤とし、固体酸触媒を用いて環状エーテルを開環重合し、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルとし、ついで加水分解またはエステル交換をする方法が知られている(例えば、特開
平8−231706号公報)。
この方法でポリアルキレンエーテルグリコールを得るにあたって、その反応条件によって、中間体として生成するポリアルキレンエーテルグリコールジエステル、更には目的生成物であるポリアルキレンエーテルグリコールが着色するという問題があった。この着色の原因の1つとして、反応開始剤である無水酢酸中に含まれるケテン二量体(以下、ジケ
テンと呼ぶ)が影響することが知られており、無水酢酸中のジケテン濃度を10ppm以下に低減する方法として、無水酢酸と金属酸化物及び/又は複合酸化物で接触処理する方法(特開2000−212119号公報)や粗製無水酢酸をオゾン処理する方法(特開2
001−226480号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−231706号公報
【特許文献2】特開2000−212119号公報
【特許文献3】特開2001−226480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業的規模でポリアルキレンエーテルグリコールを製造する場合、上記特許文献2〜3に記載の方法のように、ジケテン濃度を低減した無水酢酸を用いても、低分子量製品の製造で無水酢酸の使用量が多くなる場合や開環重合反応時の温度によっては製品ポリアルキレンエーテルグリコールが着色するという問題が判明した。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、ポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際に反応開始剤として用いる無水酢酸を精製するにあたって、効率よく無水酢酸を精製でき、且つ品質のよい無水酢酸を得ることができる無水酢酸の精製方法、並びに精製された無水酢酸を用いてポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際に、着色の少ない高品質のポリアルキレンエーテルグリコールを得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、粗無水酢酸とポリアルキレンエーテルグリコールを製造するための開環重合用触媒と接触させた際に、粗無水酢酸が着色することから、その着色された粗無水酢酸中にジケテン以外にもポリアルキレンエーテルグリコールの着色原因となる物質が存在するであろうとの考えの下、着色された粗無水酢酸をUVスペクトルで測定したところ、着色成分が多い無水酢酸ほど測定波長300〜330nmでの吸光度が高くなることが判明した。そして、測定波長300〜330nmでのUVスペクトルの吸光度をある特定の値よりも高くすることで、粗無水酢酸は着色原因物質を無水酢酸よりも高い沸点の物質に変換でき、蒸留で容易に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[7]に存する。
[1] UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とした後、該粗無水酢酸を蒸留して精製無水酢酸を分離回収することを特徴とする無水酢酸の精製方法。
[2] 前記粗無水酢酸をpKa値が4.0以下の酸性物質と接触させて、UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での該粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とすることを特徴とする[1]に記載の無水酢酸の精製方法。
[3] 前記酸性物質が、陽イオン交換樹脂であることを特徴とする[2]に記載の無水酢酸の精製方法。
[4] 前記粗無水酢酸が含窒素化合物を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の無水酢酸の精製方法。
[5] [1]〜[4]いずれか1項に記載の精製方法により無水酢酸を精製する工程を有し、該工程から得られる精製された無水酢酸及び触媒の存在下、環状エーテルを開環重合することによりポリアルキレンエーテルグリコールを生成することを特徴とするポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[6] 前記開環重合時に使用される無水酢酸の使用量が前記環状エーテル100モルあたり5〜50モルであることを特徴とする[5]に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[7] 前記生成されるポリアルキレンエーテルグリコールの平均分子量が500〜2200であることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって精製された無水酢酸は、ポリアルキレンエーテルグリコールの原料として使用すると、着色が少ないポリアルキレンエーテルグリコールを製造できることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されない。
本発明の第一の発明である無水酢酸の精製方法に関して、以下に詳述する。
本発明における粗無水酢酸は、特に限定されないが、一般に市販されている工業グレードの無水酢酸であればよく、工業グレードの無水酢酸は、例えば、酢酸、アセトンまたは酢酸エステルの蒸気を熱分解して、生成するケテンガスを酢酸に吸収、反応させる方法、無水塩化アルミニウムなどを触媒として、酢酸とホスゲンとを反応させる方法、エチリデンジアセテートを塩化亜鉛等の触媒の存在下で加熱する方法などの工業的生産方法によって得ることができる。
【0009】
本発明ではUVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とする必要がある。これにより、粗無水酢酸中の着色原因物質を高沸点化合物に変換することができ、蒸留などの分離操作で容易に粗無水酢酸から除去できる。なお、本発明における、UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での吸光度が0.12以上とは、測定波長300〜330nmの領域での吸光度の値の最小値が0.12以上のことであるが、好ましくは、0.50以上、更に好ましくは、0.75以上である。また、着色原因物質の高沸化の判断のしやすさから、測定波長300〜330nmの中でも、測定波長310nmの1波長を選択して、その波長での吸光度を、0.75以上とすることが好ましく、更に好ましくは、0.80以上とすることが更に好ましい。
【0010】
粗無水酢酸の測定波長300〜330nmのUVスペクトルの吸光度を0.12以上と
する手段としては、pKa値(酸解離定数)が4.0以下の酸性物質と粗無水酢酸を接触させるのが好ましい。好ましい理由としては、粗無水酢酸中の着色原因物質は、主に共役二重結合を有する化合物類が考えられ、pKa値が4.0以下の酸性物質との接触により、それら化合物同士の重合が促され、共役二重結合を多く有する高沸点化合物に変換されやすくなることが推測される。なお、着色原因物質を効率よく高沸化できるという観点から、pKa値が2.0以下の酸性物質との接触がより好ましい。
【0011】
なお、上記のpKa値が4.0以下の酸性物質と接触させる前の粗無水酢酸の測定波長300〜330nmの領域での吸光度と、接触処理をした後の粗無水酢酸の測定波長300〜330nmのUVスペクトルの吸光度との比が、3.0以上であることが好ましく、より好ましくは5.0以上である。
pKa値が4.0以下の酸性物質は、特に限定されないが、硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸又は陽イオン交換樹脂などが挙げられる。この中でも、粗無水酢酸との接触処理において安価で取り扱いが容易であるとの観点からパラトルエンスルホン酸や陽イオン交換樹脂などが好ましく、更には無水酢酸との分離が不要であることや、後述する粗無水酢酸中の含窒素化合物も吸着して除去することが可能であることから、スルホ基を有する強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。陽イオン交換樹脂としては、市販品を使用することができる。また、構造の種類は特に限定されるものではなく、ゲル型、MR型(macroreticular)型、ポーラス型、ハイポーラス型のいずれも用いることができる。
【0012】
粗無水酢酸とpKa値が4.0以下の酸性物質とを接触させる形式は特に限定されない。具体的には、流通型、半回分型、回分型のいずれでも差し支えないが、生産性確保の観点からも流通型が好ましい。また、懸濁床、固定床、流動床のいずれでも良い。接触させる際の容器の型は、塔型、管型、槽型のいずれでも差し支えない。pKa値が4.0以下の酸性物質が陽イオン交換樹脂の場合には固定床の流通形式が好ましい。
【0013】
接触処理に用いるpKa値が4.0以下の酸性物質の量は、特に限定されないが、好ましくは蒸留する粗無水酢酸の量に対して0.0001重量%以上、100%重量%以下であり、より好ましくは0.001重量%以上、10重量%以下である。この量が少なすぎると効果を発現することが難しくなるだけでなく、樹脂の劣化による交換頻度が増大する問題がある。この量が多すぎる場合には、接触に用いる反応器容量が増大し、生産性の観点から問題となってしまう。
【0014】
粗無水酢酸とpKa値が4.0以下の酸性物質を接触する時間は、通常0.01〜100時間であり、好ましくは0.1〜10時間である。なお、流通方式の場合、接触時間は空塔基準での滞留時間(塔内部に充填物の無い状態での滞留時間)を意味する。接触時間が短いと着色原因物質の高沸化が不十分となり、長すぎると処理効率が悪くなる。
接触温度は、通常0℃以上、300℃以下であり、好ましくは30℃以上、200℃以下である。特に好ましくは35℃以上、100℃以下である。温度が30℃より低いと着色原因物質の高沸化の効率が悪くなり、150℃以上では無水酢酸が気化し液層が保持できなくなる。また、陽イオン交換樹脂を用いる場合には100℃を超えると樹脂の劣化が速くなる。接触時の圧力は特に限定されないが、通常は常圧〜10MPaであり、好ましくは常圧〜1MPaである。
【0015】
粗無水酢酸中にはアンモニアに由来する塩基性窒素原子を含む微量の含窒素化合物が含まれていてもよい。含窒素化合物とは、具体的には、アンモニアがアセチル化された化合物類などが挙げられる。これらの化合物が粗無水酢酸中に含まれている場合、粗無水酢酸に対して窒素原子換算での含有量は、通常、10wtppm以下である。
これらの含窒素化合物が含まれる無水酢酸を用いて、ポリアルキレンエーテルグリコー
ルを製造すると、製造されたポリアルキレンエーテルグリコール中に含窒素化合物が残存することがある。そして、更にこのポリアルキレンエーテルグリコールを用いて重合を行ってポリウレタンを製造すると、重合反応を行う際にゲル化を引き起こす恐れがある。そのため、含窒素化合物は粗無水酢酸から除去しておくことが好ましい。除去する方法としては、例えば、pKa値が4.0以下の酸性物質として陽イオン交換樹脂を使用すると、その陽イオン交換樹脂に吸着でき、粗無水酢酸から除去することができる。接触して除去した後の粗無水酢酸中に含まれる含窒素化合物の含有量は窒素原子換算で0.05〜3.
0wtppmであることが好ましい。
【0016】
上述のように、一般的な工業グレードの粗無水酢酸を、UVスペクトルの測定波長300〜330nmでの吸光度を0.12以上とすることで、粗無水酢酸中には着色原因物質が高沸化された高沸点化合物と含窒素化合物が含有され、その粗無水酢酸の蒸留を行うことで、塔頂より精製無水酢酸を分離回収し、塔底より着色成分からなる高沸点化合物と含窒素化合物を分離することができる。
【0017】
使用される蒸留塔の形式には特に制限はなく、棚段塔、充填塔から自由に選択できるが、この蒸留は必ずしも多段である必要はなく、蒸発缶のような単蒸留でも十分である。棚段塔の場合、理論段数として1〜100段、好ましくは1〜20段である。充填塔の場合はそれに相当する充填高さを有するものが使用される。理論段数が高すぎると設備費、ランニングコストが高くなる。また、理論段数が低すぎた場合には分離が不十分となってしまう。
【0018】
蒸留する際の圧力は特に制限はないが、塔頂圧力は10torr以上、5MPa以下が好ましく、特に100torr以上、1000torr以下が好ましい。圧力が低すぎる場合、塔頂おける液の凝縮が低温度となりすぎるために困難となる。また、圧力が高すぎる場合には塔底の温度が高くなりすぎて、蒸留に必要なエネルギーの使用量が高くなりすぎてしまう。蒸留する粗無水酢酸の仕込み量に対する留出率は特に限定されないが、80%以上が好ましく、特に好ましくは90%以上、99%以下である。低すぎると生産性が悪くなり、高すぎる場合には分離が不十分となってしまう。還流比は原料液の組成、求められる無水酢酸の純度によって異なるが、通常1〜1000の範囲から選ばれる。
【0019】
粗無水酢酸の蒸留はpKa値が4.0以下の酸性物質と接触したまま行ってもよいし、粗無水酢酸からpKa値が4.0以下の酸性物質を分離した後に行ってもよい。
以上のような処理を行うことでガスクロマトグラフィー分析での留出液組成が無水酢酸と酢酸の合計面積比率で99%以上の精製無水酢酸を得ることができる。
次に第二の発明であるポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法について、以下に説明する。
【0020】
本発明で用いられる環状エーテルとしては、通常炭素数2〜10の環状エーテルが用いられる。具体的にはテトラヒドロフラン(THF)、エチレンオキサイド、プロピオンオキサイド、オキセタン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサンが例示でき、特にTHFが入手しやすさ、扱いやすさの点から好ましい。
触媒としては、通常金属酸化物からなる固体酸触媒が用いられ、好ましくは3族、4族、13族もしくは14族の金属酸化物、または3族、4族、13族もしくは14族の金属元素を含む複合酸化物が用いられる。より具体的には酸化イットリウム、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカなどの金属酸化物、またはジルコニアシリカ、ハフニアシリカ、シリカアルミナ、チタニアシリカ、チタニアジルコニアのような複合酸化物が例示できる。また、これらの複合酸化物にさらに他の金属元素を含有する複合酸化物も好ましい。
【0021】
触媒の使用量は、反応形式が固定床であるか懸濁床であるかによって、あるいは連続反
応であるか回分反応であるかによって異なるが、懸濁床連続反応の場合には、液供給量100重量部あたり、0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部の範囲から選択される。
ポリアルキレンエーテルグリコールを製造する前に予め、上述の第一の発明である無水酢酸の精製方法を行う工程を有することが好ましく、重合開始剤として使用される無水酢酸は、その工程で精製された無水酢酸であることが好ましい。無水酢酸の使用量は、通常、環状エーテル100モルあたり0.1〜100モルであるが、本発明の第1の発明の精製方法で精製された無水酢酸を用いる場合には5〜50モルが好ましい。
【0022】
また、精製無水酢酸とともに対応する酢酸を併用することが触媒寿命の点で好ましい。酢酸の使用量は、通常無水酢酸100モルあたり0.1〜10モルである。反応形式は固体触媒を用いた液相反応であり、連続反応でも回分反応でもよく、連続反応の場合、触媒は懸濁床であっても固定床であってもよいが、生産コストの面から懸濁床連続反応が好ましい。連続反応の場合、未反応液を重合域に再循環することが好ましい。
【0023】
反応温度は液層を保持できる温度であれば特に制限はないが、通常0〜200℃、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。反応圧力は常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜5MPaの範囲から選択される。反応時間は特に制限はないが、0.1〜20時間が好ましく、より好ましくは0.5〜15時間である。なお、ここで反応時間とは連続反応では平均滞留時間を意味する。
【0024】
また、本発明の方法では、通常、無溶媒で反応が行われるが、溶媒を使用することを妨げない。本発明の方法で得られる重合体の分子量は、環状エーテルの種類によって異なるが、THFを原料としてポリテトラメチレンエチレングリコールを製造する場合には、数平均分子量(Mn)は、通常500〜5万の範囲であるが、本発明の第一の発明である無水酢酸の精製方法の工程を有し、その工程で精製した無水酢酸を用いる場合には500〜2200が好ましく、600〜1800が更に好ましい。数平均分子量と重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、通常、1.0〜3.0の範囲となる。
【0025】
なお、本発明の開環重合反応で得られるのは、ポリアルキレンエーテルグリコールの中間体であるポリアルキレンエーテルグリコールのジ酢酸エステル体であり、これを低級脂肪族アルコールと混合し、エステル交換触媒の存在下でアルコリシス反応によりエステル交換し、最終製品のポリアルキレンエーテルグリコールに変換する。ここで用いる低級脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1から4のアルコールが好ましく、特にメタノール、エタノール、プロパノールが好ましい。上記アルコリシス反応に用いる触媒として、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等のアルカリ金属アルコキシドが用いられ、中でもナトリウム、カリウムのアルコキシドが好ましい。具体例としてはナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシドが好ましい。アルコリシス反応は常圧または加圧の条件で行う事ができ、加圧下の圧力は0.1〜2.0MPaが好ましく、1.0〜1.5MPaの範囲が特に好ましい。反応温度は60〜180℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実験の一例を実施例として示すが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例1と2及び比較例1と2でPTMGを製造する際に使用したジルコニアシリカ触媒は参考例1で調整した触媒を用いた。
また、無水酢酸中の吸光度、及びガスクロマトグラフィー分析は以下の条件で実施した。
(無水酢酸の吸光度分析)
UVスペクトル分析装置: (株)島津社製 UV−2400
検出器: ホトマル
測光: 透過
使用セル: 10mm角 石英密栓セル(SQグレード)
測定温度: 常温
測定領域: 190〜800nm
光学リファレンス: 蒸留水
(無水酢酸のガスクロマトグラフィーの分析)
装置: (株)島津社製 (型式)GC−2014
カラム: DB−1 0.25mmφ×30m×膜圧1μm
カラム温度: 50℃(7分保持)→10℃/minで昇温→190℃→25℃/minで昇温→240℃(10min保持)
気化室温度: 240℃
検出室温度: 240℃
無希釈のサンプルを面積百分率法により定量した。
【0027】
<参考例1>
23.4重量部のZrO(NO・2HOを100重量部の水に溶解した後、粒径75 〜 500μmφのCARiACTQ15( 商品名:富士シリシア化学(株)製
シリカ担体)100重量部に添加し、この混合物を空気流通下105℃で3時間乾燥した。続いて乾燥品の2.2倍量の9wt%重炭酸水溶液に得られた乾燥品を加え、1時間
攪拌した。得られた粉体を濾液が中性になるまで水洗した後、120℃で一晩乾燥させた。更に空気流通下2時間で900℃に昇温し、900℃で3時間焼成した後、1時間で4
00℃に冷却しジルコニアシリカ触媒を調製した。
【0028】
<実施例1>
工業グレードの無水酢酸(測定波長が310nmでのUVスペクトルの吸光度0.11、含窒素化合物濃度:0.4wtppm(窒素原子換算))470gにスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、型式:PK216H、pKa値は1.0以下)100mlを含浸し、40℃で1.5時間攪拌した。攪拌後の無水酢酸の測定波長310nmでのUVスペクトルの吸光度は3.2であった。その後、粗無水酢酸から陽イオン交換樹脂を濾別して、この無水酢酸466gを圧力101.3kPa、温度139.5℃で蒸留し、精製無水酢酸459gを分離して回収した。蒸留での留出率は98.5%、精製無水酢酸のガスクロマトグラフィー分析での留出液組成は面積百分率法で無水酢酸94.3%、酢酸5.6%であった。測定波長が310nmでのUVスペクトルの吸光度は0.91であった。また、釜残液には4.9gの高沸点化合物を含む液が残っていた。
【0029】
この精製無水酢酸を参考例1で調整したジルコニアシリカを接触させたところ、ジルコニアシリカに着色は見られなかった。
そして、内容積500mlのナスフラスコに、上記の精製無水酢酸71g、THF100
g(THF/無水酢酸モル比=0.501、触媒濃度100kg/m)とジルコニアシリカ触媒17.8gを仕込み、反応温度35℃で6時間攪拌し、開環重合反応を行った。
得られたポリテトラメチレンエーテルグリコールのジ酢酸エステル体(以下、PTMEと略記する)はMn=671、Mw/Mn=2.05、色相はAPHA単位(JIS K 1557−1970)で10であり、THF転化率は39.3%あった。
【0030】
<実施例2>
実施例1で精製した精製無水酢酸を用い、内容積500mlのナスフラスコに、精製無水酢酸17.8g、THF97.8g(THF/無水酢酸モル比=0.129、触媒濃度1
00kg/m)とジルコニアシリカ触媒12.6gを仕込み、反応温度35℃で4時間
攪拌し、開環重合反応を行った。得られたPTMEはMn=1753、Mw/Mn=2.25、色相はAPHA単位(JIS K 1557−1970)で10以下であり、THF転化率は58.0%あった。
【0031】
<実施例3>
工業グレードの無水酢酸(測定波長が310nmでのUVスペクトルの吸光度:0.094、含窒素窒素濃度:1.4wtppm(窒素原子換算))500gにスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂(三菱化学社製:型名:PK216H、pKa値は1.0以下)100mlを含浸し、40℃で1.5時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂を濾別して、得られた無水酢酸の測定波長310nmのUVスペクトルの吸光度は1.21、含窒素化合物濃度は1.2wtppm(窒素原子換算)であった。次いで、この無水酢酸475.5gを圧力101.3kPa、温度120.3〜130.0℃で蒸留し、精製無水酢酸466.4gを分離して回収した。蒸留での留出率は98.1%であった。精製無水酢酸のガスクロマトグラフィー分析での留出液組成は面積百分率法で無水酢酸89.85%、酢酸10.1%、測定波長310nmのUVスペクトルの吸光度は0.25、精製無水酢酸の含窒素化合物濃度は0.7wtppm(窒素原子換算)であった。また、釜残液は、5.7gの高沸点化合物を含む液が残っていた。
【0032】
<比較例1>
実施例1と同様の工業グレードの無水酢酸(測定波長が310nmでのUVスペクトルの吸光度0.11、含窒素化合物濃度:0.4wtppm(窒素原子換算))を、陽イオン交換樹脂と接触させずに、そのままジルコニアシリカ触媒に接触させると、1時間経過後ジルコニアシリカ触媒に着色が見られた。
【0033】
次に、この無水酢酸71g、THF100g、ジルコニアシリカ触媒17.8g(THF/無水酢酸モル比=0.501、触媒濃度100kg/m)、反応温度35℃、6時間で開環重合反応を行った。得られたPTMEはMn=667、Mw/Mn=2.10、THF転化率42.3%であり、色相はAPHA単位で35であった。
<比較例2>
比較例1と同様の無水酢酸を用い、無水酢酸17.8g、THF97.8g(THF/無
水酢酸モル比=0.129、触媒濃度100kg/m)とジルコニアシリカ触媒12.6gを仕込み、反応温度35℃で4時間で開環重合反応を行った。得られたPTMEはMn=1779、Mw/Mn=2.32、THF転化率58.41%であり、色相はAPHA単位で10であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とした後、該粗無水酢酸を蒸留して精製無水酢酸を分離回収することを特徴とする無水酢酸の精製方法。
【請求項2】
前記粗無水酢酸をpKa値が4.0以下の酸性物質と接触させて、UVスペクトルの測定波長300〜330nmの領域での該粗無水酢酸の吸光度を0.12以上とすることを特徴とする請求項1に記載の無水酢酸の精製方法。
【請求項3】
前記酸性物質が、陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の無水酢酸の精製方法。
【請求項4】
前記粗無水酢酸が含窒素化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無水酢酸の精製方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の精製方法により無水酢酸を精製する工程を有し、該工程から得られる精製された無水酢酸及び触媒の存在下、環状エーテルを開環重合することによりポリアルキレンエーテルグリコールを生成することを特徴とするポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項6】
前記開環重合時に使用される無水酢酸の使用量が前記環状エーテル100モルあたり5〜50モルであることを特徴とする請求項5に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項7】
前記生成されるポリアルキレンエーテルグリコールの平均分子量が500〜2200であることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。

【公開番号】特開2012−153667(P2012−153667A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15323(P2011−15323)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】