説明

ポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法

【課題】ゲル状物が形成したり分解反応が起こったりすることを充分に抑制することにより、製造工程での不具合の発生や、各種の化学製品の性能や品質の低下を充分に抑制することができるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液として貯蔵及び/又は移送する方法であって、
該ポリアルキレングリコール系単量体は、下記一般式(1)
【化1】


(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、−CO−を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。mは、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、15〜300の数である。)で表される単量体を含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法並びにこれらの方法を用いて得られるセメント添加剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレングリコール系単量体は、例えば、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和単量体とのエステル化反応等により製造される(メタ)アクリル酸エステル系単量体や、不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物等のポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体等として、各種の重合体の製造原料として有用である。このような重合体は、例えば、セメント添加剤(セメント分散剤)や炭酸カルシウム、カーボンブラック、インク等の顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、石炭・水スラリー(CWM)用分散剤、増粘剤等の化学製品に好適に用いられることになる。
【0003】
ところで、ポリアルキレングリコール系単量体を製造した後、重合体の製造原料として用いるときに、通常では貯蔵したり、移送したりした後に使用されることになる。例えば、重合体を製造するまで一時的又は長期的に貯蔵したり、ポリアルキレングリコール系単量体を製造した施設と重合体を製造する施設とが離れたところにある場合には移送したりすることになる。この後に、ポリアルキレングリコール系単量体を重合用反応槽に逐次添加する等により重合工程を行うことになる。
【0004】
しかしながら、重合体の製造原料として通常用いられるポリアルキレングリコール系単量体が常温で固体である場合には、これを貯蔵したり移送したりした後に使用する場合に加熱して融解させることになるが、このときゲル状物が形成することになり、また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体では加水分解したり、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体では熱分解したりすることになる。更に、加熱して融解させた状態で貯蔵したり移送したりすると、ポリアルキレングリコール系単量体が酸化された結果、過酸化物価(POV)が上昇し、使用に際してゲル状物を形成するおそれが高くなる。ここでは不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物が熱分解する反応式と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が加水分解する反応式の一例を下記式(1)及び(2)に示す。
【0005】
【化2】

【0006】
このようなポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵や移送によって生じる不具合によって、重合体を製造するときに純度が低下したり、不純物が増えて品質が低下したりして、重合体から製造される化学製品の品質や性能が低下する。例えば、セメント分散剤は、セメント組成物の流動性を向上させると共に、硬化物の強度や耐久性等も向上させる作用を有するものであるが、不純物が混入したり、重合体の性能や品質が低下したりすると、土木・建築構造物等の硬化物の強度や耐久性等が低下して安全性の低下や修復コストの増大等の問題が生じることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ゲル状物が形成したり分解反応が起こったりすることを充分に抑制することにより、製造工程での不具合の発生や、各種の化学製品の性能や品質の低下を充分に抑制することができるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液として貯蔵及び/又は移送する方法であって、該ポリアルキレングリコール系単量体は、下記一般式(1)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、−CO−を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。mは、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、15〜300の数である。)で表される単量体を含むポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法である。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、下記のような態様が挙げられる。
上記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の粘度が40℃で、36〜520mPa・sであるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
上記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の濃度が40〜80重量%であるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
上記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の流動点が3〜26℃であるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
上記ポリアルキレングリコール系単量体中の過酸化物価(POV)が2以下であるポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
【0012】
本発明者らは、高品質のセメント添加剤用重合体等の各種の重合体を効率良く製造するべく鋭意研究を進めた結果、セメント添加剤用重合体等の製造原料として用いられるポリアルキレングリコール系単量体が通常では固体であるためこのまま貯蔵や移送されると、使用時に加熱して融解されることになるが、加熱に伴って(1)重合してしまうことによりゲル状物が形成されたり、(2)加水分解や熱分解して品質が低下したり、(3)酸化が促進されて過酸化物価(POV)が上昇したりすることにまず着目し、このような不具合が生じないように、すなわち貯蔵時や移送時、使用時に加熱されることがないように工夫すればよいことを見出した。具体的には、ポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法に関し、ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液として貯蔵及び/又は移送することにより、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。また、このような貯蔵及び/又は移送方法を用いたポリアルキレングリコール系単量体を製造原料として得られる重合体が高品質のものとなることから、この重合体をセメント添加剤用重合体等として好適に用いることができることも見出した。
以下に、本発明を詳述する。
【0013】
本発明のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法では、ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液として貯蔵及び/又は移送することになる。
上記ポリアルキレングリコール系単量体とは、ポリアルキレングリコール鎖を有する不飽和単量体又はそれを含む混合物を意味し、ポリアルキレングリコール鎖を有する不飽和単量体としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体、不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物やポリアルキレングリコールと不飽和アルコールのエーテル化物等のポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体、不飽和アミンのアルキレンオキシド付加物や不飽和アミンとカルボキシル基含有ポリアルキレングリコールのアミド化物等の1種又は2種以上が挙げられる。本発明では、加熱して融解することによる不具合の発生を防止する点から、ポリアルキレングリコール系単量体として常温(20℃)で固体であるものに好適に適用されることになる。また、ポリアルキレングリコール系単量体をセメント添加剤用重合体の製造原料として用いる場合には、ポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体又は、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体を必須として含むことが好ましい。
本発明においては、ポリアルキレングリコール系単量体がポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含むことになる。
【0014】
本発明における貯蔵及び/又は移送方法において、「貯蔵」とは、物質を一時的又は継続的に貯蔵用容器に入れて保存する操作であり、「移送」とは、物質の移動を伴う操作のうちで、コンテナやドラム缶、石油缶、ポリタンク等の移送用容器を用いて移動させる操作を意味し、「輸送」ともいう。また、貯蔵用容器及び移送用容器とは、コンテナやドラム缶の他、貯蔵用容器では地上タンクや地下タンク等を含むものである。このような容器の材質としては、貯蔵及び/又は移送中に密閉状態を保つことができ、−50〜150℃の温度で変質や劣化しにくいものであることが好ましく、例えば、ステンレス(SUS)、アルミニウム、鉄等が好適である。本発明では、ポリアルキレングリコール系単量体を輸送及び貯蔵するために用いてもよく、いずれか一方のみのために用いてもよい。
【0015】
本発明において、ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液とする方法としては、例えば、ポリアルキレングリコール系単量体と水とを混合させることにより行ってもよく、ポリアルキレングリコール系単量体を合成するときに水を含有させることにより行ってもよい。水溶液とする前のポリアルキレングリコール系単量体は、固体であってもよく、水以外の溶媒に溶解した液体であってもよい。
【0016】
上記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液において、水溶液中の水の濃度は、水溶液を100重量%とすると、90重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1〜90重量%であり、更に好ましくは、10〜50重量%である。90重量%を超えると、ポリアルキレングリコール系単量体を貯蔵及び/又は移送するときに大半が水である単量体を貯蔵及び/又は移送することになり、不経済である。水の濃度が、1%未満であると、ポリアルキレングリコール系単量体が固体の状態であるおそれがあり、このような場合には、ポリアルキレングリコール系単量体の使用時に加熱して融解しなければならず、このときにポリアルキレングリコール系単量体の重合や、加水分解、熱分解、POVの上昇等が生じるおそれがある。なお、このような水の濃度は、後述するように、使用するポリアルキレングリコール系単量体の種類により適宜設定することが好ましい。
【0017】
上記水溶液の温度としては、該水溶液の流動点以上であり、かつ、製造工程での不具合の発生や、各種の化学製品の性能や品質の低下を充分に抑制することができるように、ポリアルキレングリコール系単量体の重合や、加水分解、熱分解、POVの上昇等の不具合を抑制することができる温度範囲とすることが好ましい。水溶液の流動点以上とすると、ポリアルキレングリコール系単量体の使用時に加熱して融解しなくてもよくなり、ポリアルキレングリコール系単量体における不具合の発生を効果的に防止することが可能となる。この場合、常温(20℃)で流動するように水溶液中の水の濃度を調整することが好ましい。これにより、より確実に本発明の作用効果を発揮することが可能となる。また、常温で流動しない場合には、110℃以下、好ましくは、100℃以下で加温することが好ましい。このように加温しても、水の比熱や水溶液内での対流があるために局部的に高温になることはなく、ポリアルキレングリコール系単量体における不具合の発生は抑制されることになる。より好ましくは、30〜90℃であり、更に好ましくは、45〜65℃である。
【0018】
本発明では、ポリアルキレングリコール系単量体は、下記一般式(1);
【0019】
【化4】

【0020】
で表される単量体を含むことが好ましい。このような単量体がポリアルキレングリコール系単量体の主成分として含有されることが好ましい。この場合、ポリアルキレングリコール系単量体中には付加的にその他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。これにより、本発明におけるポリアルキレングリコール系単量体をセメント添加剤用重合体の製造原料として好適に用いることができる。なお、上記一般式(1)で表される単量体は、ポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体や不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物の一形態である。上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコール系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体である「ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物」やポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体である「不飽和アルコールへのアルキレンオキシド付加物」が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、−CO−、−CH−、−(CH−又は−C(CH−を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18、好ましくは炭素数2〜8のオキシアルキレン基を表す。mは、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、15〜300の数である。なお、平均付加モル数とは、当該化合物1モル中における当該繰り返し単位のモル数の平均値を意味する。
本発明において、ポリアルキレングリコール系単量体としては、Rが−CO−を表すポリアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含むことになる。
【0022】
上記R及びRの炭素数が30を超えたり、上記ROの炭素数が18を超えたりすると、ポリアルキレングリコール系単量体を製造原料として得られる重合体の水溶性が低下し、セメント添加剤等に用いる場合の用途性能、すなわちセメント分散性能等が低下するおそれがある。また、上記mが15未満であると、セメント添加剤等に用いる場合の用途性能が低下するおそれがあり、また、ポリアルキレングリコール系単量体が液体となって本発明の作用効果を充分に発揮することができないおそれがある。300を超えると、ポリアルキレングリコール系単量体を調製しにくくなるおそれがある。
【0023】
上記R及びRやROの好適な炭素数の範囲は、ポリアルキレングリコール系単量体の使用用途により設定されることになる。例えば、セメント添加剤用重合体の製造原料として用いる場合には、Rとしては、水素原子又はメチル基とすることが好ましい。また、Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基等のアルキルフェニル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基等のアルケニル基;アルキニル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜18の直鎖又は枝分かれ鎖のアルキル基及びアリール基とすることが好ましい。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基である。
【0024】
上記ROとしては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基等が挙げられ、これらの中でも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましい。なお、ROは、一般式(1)で表される単量体を構成する繰り返し単位であり、各繰り返し単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。このうち、2種以上の異なる繰り返し単位を有する場合には、各繰り返し単位はブロック状に付加していてもよく、ランダム状に付加していてもよく、特に限定されるものではない。
【0025】
上記mの範囲についても、ポリアルキレングリコール系単量体の使用用途により設定されることになり、例えば、セメント添加剤用重合体の製造原料として用いる場合には、15〜300とすることが好ましい。より好ましくは、20〜200であり、更に好ましくは、25〜150である。また、増粘剤等として用いる場合には、15〜250とすることが好ましい。より好ましくは、50〜200である。
【0026】
上記mが0の場合には、水との溶解性や沸点の点から、上記Rは、炭素数4以上の炭化水素基であることが好ましい。すなわちmが0の場合には、後述するようにアルコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和単量体とを脱水しながらエステル化反応させてポリアルキレングリコール系単量体を得るときに、特にメタノールやエタノール等のアルコールでは低沸点のため生成水と共に蒸発して生成水中に溶解することにより、当該アルコール原料の一部が反応系外に留去され、目的とするポリアルキレングリコール系単量体の収率が低下することから、これを防止するためである。
【0027】
上記一般式(1)で表される単量体において、mの数が増加するほどポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の流動点は高くなる。すなわちポリアルキレングリコール系単量体の水溶液において、常温で流動させるには、mの数が増加するのに合わせて、水溶液中の水の濃度を高くすることになる。例えば、目安として表1に示されるように、mが25であると、単量体濃度が80重量%(水の濃度が20重量%)であるときには液体となり、単量体濃度が100重量%(水の濃度が0重量%)であるときには固体となり、また、mが120であると、単量体濃度が60重量%(水の濃度が40重量%)であるときには液体となり、単量体濃度が80重量%(水の濃度が20重量%)であるときには固体となる。
【0028】
【表1】

【0029】
上記一般式(1)中Rとしては、−CO−、−CH−、−(CH−が好ましく、Rが水素原子である場合には、−CO−又は−(CH−が好ましく、Rが炭素数1〜3の炭化水素基である場合には、−CO−又は−CH−が好ましい。
本発明においては、Rが−CO−を表すものを含む。
【0030】
本発明ではまた、上記ポリアルキレングリコール系単量体が、セメント添加剤用重合体の製造原料として用いられることが好ましい。すなわち本発明におけるポリアルキレングリコール系単量体から得られる重合体をセメント添加剤の製造原料として用いることが好ましい。これにより、セメント添加剤の製造において、その性能や品質が低下することが抑制されて安定的に製造することが可能となる。
【0031】
本発明では更に、上記貯蔵及び/又は移送中やその後に、上記ポリアルキレングリコール系単量体中のPOVが2以下、好ましくは1以下、更に好ましくは0.7以下となるようにすることが好ましい。これにより、より確実にゲル状物の形成を抑制することが可能となる。POVの測定方法としては、例えば、下記のような方法が好適である。
【0032】
過酸化物価(POV)の測定方法
ポリアルキレングリコール系単量体10gを活栓付き三角フラスコに精秤し、溶媒50ml(イソプロピルアルコール500ml、水100ml及び酢酸150mlの混合液)を入れて、試料を溶解する。試料が溶解したら、フラスコ内を窒素ガスで置換しながら、飽和ヨウ化カリウム1mlを加えて1分間攪拌し、30分間暗所で放置して、黄色透明の試験溶液を調製する。次に、この試験溶液に、0.01Nのチオ硫酸ナトリウムを、試験溶液の褐色が消えるまで滴下し、この際のチオ硫酸ナトリウムの滴定量(ml)を測定し、下記式に従って、過酸化物価を算出する。なお、ブランク値(ml)は、試験溶液の代わりに、ポリアルキレングリコール系単量体を添加しない試験溶液を用いた以外は上記と同様の操作をすることによって得る。
【0033】
【数1】

【0034】
上記一般式(1)において、例えば、Rが水素原子又はメチル基であって、Rが−CO−である場合には、一般式(1)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を表す。このような(メタ)アクリル酸エステル系単量体を製造する方法としては、例えば、エステル化反応工程に続けて、必要に応じて中和工程、溶剤留去工程等を含んでなる製造方法を好適に適用することができる。
上記エステル化反応工程は、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とを含む反応液をエステル化反応させる工程である。これにより、一般式(1)で表される単量体を工業的に簡便に製造することができることとなる。このような工程において反応原料とされる化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、このようなエステル化反応工程により生成する単量体は、エステル、エステル化物又は脱水反応生成物とも呼ばれる。
【0035】
上記エステル化反応工程では、エステル化反応が化学平衡となるため、反応によって生成される生成水を反応槽から取り除くと反応が進行することになる。このような工程では、(1)反応槽中で生成する生成水を取り除きやすくするため、必要により反応液に脱水溶剤を混合し、該脱水溶剤と水とを共沸させることにより気化された留出物を生じさせる操作、(2)該留出物が反応槽とコンデンサとを接続する連結管を通過してコンデンサに入り、該コンデンサ中で留出物を凝縮液化させる操作、(3)凝縮液化された留出物をコンデンサに接続された水分離器中で脱水溶剤と水とに分離する操作、(4)分離された脱水溶剤を反応槽中に還流させる操作、等の操作が行われることになる。このような工程では、例えば、反応槽、コンデンサ及び該反応槽と該コンデンサとを接続する連結管を必須とするエステル化反応装置と、該コンデンサと供給管により接続された水分離器とを用いて行われることになる。
【0036】
上記反応槽とは、反応器や、反応容器、反応釜等と同じ意味内容で用いられるものであって、エステル化反応を行うことができる容器であれば特に限定されるものではない。反応槽の形状は、特に限定されるものではない。多角型、円筒型等があるが、攪拌効率、取扱い性、汎用性等の点から円筒型が好ましい。また邪魔板の有無は問わない。反応槽の加熱方式は外部ジャケットにスチーム等の熱媒を接触させることによって加熱するものであっても良いし、反応槽の内部にコイル等の伝熱装置を備えていて加熱するものであっても良い。このような反応槽の内部の材質としては特に限定されず、公知の材質が使用できるが、例えば、SUS製、好ましくは、耐蝕性の点から、SUS304、SUS316、SUS316L、より好ましくは、SUS316、SUS316L等が挙げられる。また、反応槽の内部にグラスライニング加工等が施されて反応原料及び生成物に対して不活性なものとしてもよい。このような反応槽は、通常ではエステル化反応を均一に効率よく行うため攪拌機が備えられている。攪拌機は特に限定されるものではない。攪拌機は通常、電動モーター、軸、攪拌機から構成されるがその攪拌翼も形状を問わない。攪拌機としては、デスクタービン、ファンタービン、わん曲ファンタービン、矢羽根タービン、多段ファンタービン翼、ファウドラー翼、ブルマージン型、角度付き羽根、プロペラ型、多段翼、アンカー型、ゲート型、二重リボン翼、スクリュー翼、マックスブレンド翼等を挙げることができ、なかでも多段ファンタービン翼、ファウドラー翼が汎用性の点で好ましい。
【0037】
上記コンデンサとは、反応槽から生じる留出物を凝縮液化させる装置であり、該凝縮液化は、冷却液である管外流体と留出物とを熱交換させることにより行われる。なお、留出物とは、エステル化反応工程やその他の工程により反応槽から留出されるものすべてを意味する。すなわち反応槽から留去される生成水や、必要に応じて生成水と共沸させるために用いられる脱水溶剤の他、留出された(メタ)アクリル酸等の反応原料等を含むものを意味し、その形態としては、ガス状、液状等が挙げられる。
【0038】
上記コンデンサの材質としては、SUS304、SUS316、SUS316L等のSUS製や炭素鋼(CS)等、公知のものが使用できるが、好ましくは、ゲル状物の発生をより低減するために、内面を鏡面仕上げやグラスライニング加工されたコンデンサを使用できるが、加工やメンテナンスにかかるコストの点から、SUS304、SUS316、SUS316L、好ましくは、SUS316、SUS316L等のSUS製のコンデンサを用いることが好ましい。
【0039】
上記コンデンサの伝熱面積としては、反応槽の容積等によって異なるが、例えば、反応槽30mでは、50〜500mとすることが好ましい。より好ましくは、100〜200mである。このようなコンデンサに使用される冷却媒体としては、例えば、水やオイル等が挙げられる。
【0040】
上記水分離器の容積としては、反応槽の容積や留出物の留出量等によって異なるが、例えば、反応槽30mでは、1〜20mとすることが好ましい。より好ましくは、3〜10mである。
【0041】
上記エステル化反応に使用されるポリアルキレングリコールとしては、下記一般式(2)で表される化合物を含有することになる。このような化合物は、ポリアルキレングリコールにおける主成分として含有されることが好ましい。この場合、ポリアルキレングリコール中には付加的にその他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。
O(RO)mH (2)
式(2)中、RO及びmは、上記一般式(1)の場合と同じである。Rは、上記Rと同じである。
【0042】
上記Rの好適な炭素数の範囲は、ポリアルキレングリコール系単量体の使用用途により設定されることになる。例えば、セメント添加剤用重合体の製造原料として用いる場合には、Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基、ノニルフェニル基等のアルキルフェニル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜18の直鎖又は枝分かれ鎖のアルキル基及びアリール基とすることが好ましい。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基である。
【0043】
上記エステル化反応では、(メタ)アクリル酸と共に、その他のカルボキシル基を有する不飽和単量体を用いることができる。カルボキシル基を有する不飽和単量体とは、少なくともカルボキシル基と不飽和結合を有する単量体である。具体的には、クロトン酸、チグリン酸、シトロネル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記エステル化反応においては、必要に応じて、反応系に触媒を添加して行ってもよく、触媒の存在下で反応を行うことが好ましい。特にエステル化反応では酸触媒が好適であり、反応を速やかに進行させることができる。このような酸触媒としては、水和物及び/又は水溶液の形態で用いてもよく、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物、キシレンスルホン酸、キシレンスルホン酸水和物、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸水和物、トリフルオロメタンスルホン酸、「Nafion(商品名、デュポン社製)」レジン、「Amberlyst 15(商品名)」レジン、リンタングステン酸、リンタングステン酸水和物、塩酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記酸触媒の中でも、後述する脱水溶剤と水との共沸温度や反応温度等の点から、常圧(1013hPa)における沸点が高いもの、具体的には、常圧における沸点が150℃以上であるものが好ましい。より好ましくは、200℃以上である。このような酸触媒としては、例えば、硫酸(常圧における沸点:317℃)、パラトルエンスルホン酸(沸点:185〜187℃/13.3Pa(0.1mmHg))、パラトルエンスルホン酸水和物、メタンスルホン酸(沸点:167℃/1333.2Pa(10mmHg))等が挙げられる。これらの中でも、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸水和物を用いることが好適である。
【0046】
上記酸触媒の使用量としては、所望の触媒作用を有効に発現することができる範囲であれば特に限定されず、例えば、0.4ミリ当量/g以下とすることが好ましい。0.4ミリ当量/gを超えると、エステル化反応時に反応系内で形成されるジエステルの量が増加し、それらを用いて合成されるセメント添加剤用重合体のセメント分散能が低下するおそれがある。より好ましくは、0.36〜0.01ミリ当量/gであり、更に好ましくは、0.32〜0.05ミリ当量/gである。なお、酸触媒の使用量(ミリ当量/g)とは、反応に使用した酸触媒のHの当量数(ミリ当量)を、反応原料の合計仕込み量(g)で割った値で表され、具体的には、下記式により算出される値を意味する。また、上記酸触媒の反応系への添加方法としては、一括、連続又は順次行ってもよいが、作業性の面からは、反応槽に、反応原料と共に一括で仕込むことが好ましい。
【0047】
【数2】

【0048】
上記エステル化反応は、重合禁止剤の存在下で行われることが好ましい。これにより、反応原料中の不飽和カルボン酸とその生成物である一般式(1)で表される単量体の重合を防止することできる。このような重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用でき、特に限定されず、例えば、フェノチアジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジ−p−フルオロフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキノン、ブチルカテコール、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、クペロン、塩化銅(II)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、溶解性の点から、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンを用いることが好ましい。これらは、エステル化反応工程においても溶剤留去工程においても極めて有効に重合禁止能を発揮することができる点から極めて有用である。
【0049】
上記重合禁止剤の使用量としては、反応原料であるアルコール(即ちポリアルキレングリコール)及び酸の合計仕込量を100重量%とすると、0.001〜1重量%とすることが好ましい。0.001重量%未満であると、重合禁止能の発現が充分でなく、反応原料や生成物の重合を有効に防止しにくくなり、1重量%を超えると、ポリアルキレングリコール系単量体中に残留する重合禁止剤量が増えるため、品質及び性能が低下するおそれがあり、また、過剰に添加することに見合う効果も得られず、経済的な面から不利となるおそれがある。より好ましくは0.001〜0.1重量%である。
【0050】
上記エステル化反応操作としては、脱水溶剤がなくても行なえるが、脱水溶剤を用いて行うことにより、例えば、反応系外に生成水と脱水溶剤とを共沸させ、凝縮液化して生成水を分離除去させながら還流させることにより行うことが好ましい。これにより、エステル化反応で生成する反応生成水を効率よく共沸させることができることになる。このような脱水溶剤としては、水と共沸する溶剤であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、イソプロピルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水との共沸温度が150℃以下であるものが好ましく、60〜90℃であるものがより好ましい。このような脱水溶剤として具体的には、シクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、ベンゼン、イソプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。水との共沸温度が150℃を超えると、反応時の反応系内の温度管理や留出物の凝縮液化処理等の制御等を含む取り扱い性が低下するおそれがある。
【0051】
上記脱水溶剤を用いるエステル化反応操作において、脱水溶剤の使用量としては、反応原料であるアルコール(即ち一般式(2)で表されるポリアルキレングリコール)及び酸の合計仕込量を100重量%とすると、0〜100重量%とすることが好ましい。100重量%を超えると、過剰に添加することに見合う効果が得られず、また、反応温度を一定に維持するために多くの熱量が必要となり、経済的な面から不利となるおそれがある。より好ましくは、2〜50重量%である。
【0052】
上記エステル化反応工程において、エステル化反応は、回分式や連続式いずれの反応操作方法によっても行ない得るが、回分式で行うことが好ましい。また、反応条件としては特に限定されず、反応が円滑に進行する条件であればよいが、例えば、反応温度としては、30〜180℃とすることが好ましい。より好ましくは、60〜130℃であり、更に好ましくは、90〜125℃であり、最も好ましくは、100〜120℃である。30℃未満であると、脱水溶剤の還流が遅くなり、脱水に時間がかかる他、反応が進行しにくくなるおそれがあり、180℃を超えると、反応原料の一部が分解することにより、ポリアルキレングリコール系単量体により得られる重合体において、セメント分散性能等の各種用途における分散性能や増粘特性の低下や、反応原料の重合、留出物への反応原料の混入量の増加、ポリアルキレングリコール系単量体の性能及び品質の劣化等が生じるおそれがある。
【0053】
上記反応条件において、反応時間としては、後述するようにエステル化の反応率が70%以上に達するまでとすることが好ましい。より好ましくは、80%以上に達するまで、更により好ましくは、98%以上に達するまでである。通常では、1〜100時間、好ましくは3〜60時間である。また、反応圧力としては、常圧又は減圧下のいずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが好ましい。
【0054】
上記エステル化反応の反応率としては、70%以上となるように設定することが好ましい。70%未満であると、製造されるエステルの収率が不充分であり、これを重合原料として得られるセメント添加剤用重合体等の用途性能、すなわちセメント分散能等が低下するおそれがある。より好ましくは、70〜99%、更に好ましくは、80〜98%である。なお、上記反応率とは、反応原料であるアルコールの仕込み時及び反応終了時の量の比率であって、例えば、下記測定条件で液体クロマトグラフィー(LC)により各々のピーク面積として測定することにより、下記式により算出される値(%)である。
【0055】
【数3】

【0056】
反応率測定条件
解析装置:Waters社製 Millennium クロマトグラフィーマネージャー(商品名)
検出器:Waters社製 410 RI検出器(商品名)
使用カラム:GLサイエンス社製 イナートシルODS−2(内径4.6mm、長さ250mm)(商品名) 3本
カラム温度:40℃
溶離液:水8946g、アセトニトリル6000g及び酢酸54gを混合して、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH4.0に調整した溶液を用いる。
流速:0.6ml/min
【0057】
上記エステル化反応工程において酸触媒を用いた場合には、酸触媒や(メタ)アクリル酸を中和する中和工程を行うことが好ましい。これにより、触媒が活性を失い、エステル化反応により得られる一般式(1)で表される単量体の加水分解が抑制され、重合に関与しない不純物の発生が抑制された結果、重合体の品質や性能の低下を抑制することが可能となる。また、脱水溶剤を用いた場合には、該脱水溶剤を取り除くため、脱水溶剤を留去する溶剤留去工程を行うことが好ましい。
【0058】
上記中和工程の方法としては、例えば、エステル化反応の終了後、酸触媒を中和剤で中和することにより行う方法が好ましい。
上記中和剤としては、酸触媒を中和できるものであれば特に制限はない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類等を挙げらることができ、これらが1種又は2種以上使用される。また、中和剤の形態としては特に限定されず、例えば、アルカリ水溶液の形態とすることが好ましい。
【0059】
上記中和工程では、酸触媒や(メタ)アクリル酸が中和されることになるが、酸触媒の全部と、(メタ)アクリル酸の一部が中和されるように設定することが好ましい。この場合、中和される(メタ)アクリル酸は、エステル化反応後の残りの(メタ)アクリル酸を100重量%とすると、20重量%以下、好ましくは、0.01〜5重量%であることが好ましい。なお、酸触媒と(メタ)アクリル酸とでは、酸触媒の方が酸強度が大きいため、酸触媒から中和されることになる。
【0060】
上記中和工程における中和方法では、脱水溶剤中でエステル化反応を行う場合には、アルカリと共に水を反応系に添加することが好ましい。すなわち水がない状態では、アルカリが脱水溶剤に難溶であるために濃い状態で系内に浮遊し、このような高濃度のアルカリの浮遊は中和に消費されるまでの長時間にわたって消失せず、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の加水分解を引き起こすことになる。この場合、水の添加量としては、アルカリの使用形態にもよるが、例えば、40〜60重量%のアルカリ水溶液を中和剤として添加する場合には、アルカリ水溶液とは別に、アルカリ水溶液の1重量部に対して、通常5〜1000重量部とすることが好ましい。より好ましくは、10〜100重量部である。5重量部未満であると、アルカリが反応系内で不均一になるおそれがあり、1000重量部を超えると、生産性を確保するために中和槽が別途必要となる等、生産コストが上昇するおそれがある。
【0061】
上記中和工程における中和温度としては、例えば、90℃以下とすることが好ましい。より好ましくは、0〜80℃である。更により好ましくは25〜65℃である。90℃を超えると、添加される中和剤が加水分解の触媒として作用し、加水分解生成物を多量に生成するようになるおそれがある。80℃以下であると、加水分解生成物の生成がより充分に抑制されることになるが、0℃未満であると、反応液が粘稠になることに起因して攪拌がしにくくなる他、反応後に水を留去するため所定の温度まで降温するのに長時間を要したり、室温よりも低い温度まで降温するのに新たに冷却手段(装置)を設けたりする必要が生じて生産コストが上昇するおそれがある。
【0062】
上記溶剤留去工程において、脱水溶剤の留去方法としては特に限定されず、例えば、脱水溶剤のみを留出するようにして留去してもよく、他の適当な添加剤を加えて留去してもよいが、水を用いて脱水溶剤と共沸させて留去することが好ましい。この場合、中和工程が行われたことにより、反応系内に酸触媒やアルカリが実質的に存在しないため、水を加えて昇温しても加水分解反応が起こらない。このような方法により、より低い温度で脱水溶剤を除去することができることになる。
【0063】
上記留去方法の条件としては、反応系内の脱水溶剤を好適に留出(蒸発)させるように設定すれば特に限定されず、例えば、溶剤留去中の反応槽内の液温(常圧下)としては、水を用いる場合には、通常80〜120℃とすることが好ましい。より好ましくは、90〜110℃である。また、水を用いない場合には、通常80〜160℃とすることが好ましい。より好ましくは、90〜150℃である。上記のいずれも場合にも、上記温度よりも低いと、脱水溶剤を蒸発させるのに充分な温度(熱量)とはならないおそれがあり、上記温度よりも高いと、重合を引き起こすおそれがある他、多くの熱量が大量の低沸点原料の蒸発に消費されるおそれがある。反応槽内の圧力としては、常圧下又は減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが好ましい。
上記溶剤留去工程において用いる装置系としては、エステル化反応工程で用いた装置系をそのまま使用することが好ましい。
【0064】
また、上記一般式(1)において、Rが−CH−、−(CH−又は−C(CH−である場合には、一般式(1)は不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物を表し、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体の一形態であって、これもまたポリアルキレングリコール系単量体の一形態である。この様なポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体の製造に使用されるアルコールとしては、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール等の不飽和アルコールが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
本発明におけるポリアルキレングリコール系単量体の水溶液、すなわち本発明により貯蔵及び/又は移送されたポリアルキレングリコール系単量体の水溶液は、各種の重合体を製造するための製造原料として好適に適用されることになる。このような重合体は、例えば、セメント添加剤の製造原料として好適に用いることができるが、その他にも、炭酸カルシウム、カーボンブラック、インク等の顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、石炭・水スラリー(CWM)用分散剤、増粘剤等の化学製品に用いることもできる。
【0066】
以下では、本発明により貯蔵及び/又は移送されたポリアルキレングリコール系単量体の水溶液を製造原料とするセメント分散剤用重合体の製造方法や、該セメント分散剤用重合体を含有するセメント添加剤を製造する方法、該セメント添加剤を使用する方法について説明する。
【0067】
上記セメント分散剤用重合体としては、ポリアルキレングリコール系単量体と不飽和カルボン酸系単量体を必須成分とする単量体成分を重合して得られるポリカルボン酸系重合体が挙げられる。このようなポリカルボン酸系重合体の重合方法としては、特に制限はなく、例えば、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法を採用できる。
【0068】
上記不飽和カルボン酸系単量体としては例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、チグリン酸、シトロネル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;これらのジカルボン酸とアルコールのモノエステル類等を挙げることができ、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を挙げることができる。
【0069】
ポリカルボン酸系重合体には、必要に応じて不飽和カルボン酸系単量体以外の単量体を共重合させることもできる。この様な単量体としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類やそれらの一価金属塩、二価金属塩、アルモニウム塩、有機アミン塩類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類等が挙げられる。
【0070】
上記ポリカルボン酸系重合体は、特定の重量平均分子量を有する重合体であることが好ましい。例えば、下記測定条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算での重量平均分子量としては、例えば、500〜500000であることが好ましい。500未満であると、セメント添加剤の減水性能が低下するおそれがあり、500000を超えると、セメント添加剤の減水性能、スランプロス防止能が低下するおそれがある。より好ましくは、5000〜300000であり、最も好ましくは8000〜100000の範囲である。
【0071】
上記GPCは、溶離液貯蔵槽、溶離液の送液装置、オートサンプラー、カラムオーブン、カラム、検出器、データ処理機等から構成される。例えば、下記の市販の装置を組み合わせることにより測定条件を設定して分子量を測定することができる。
【0072】
分子量測定条件
機種 :LCモジュール1plus(商品名、WATERS社製)
検出器:示差屈折計(RI)410示差屈折計(商品名、WATERS社製)
溶離液:0.05M 酢酸ナトリウム、アセトニトリル/イオン交換水=40/60混合液を酢酸でpHを6に調整したものを使用する。
溶離液の流量:1.0ml/min
カラム:
TSK−GEL ガードカラム(内径6mm、長さ40mm)
+TSK−GEL G−4000SWXL(内径7.8mm、長さ300mm)+TSK−GEL G−3000SWXL(内径7.8mm、長さ300mm)+TSK−GEL G−2000SWXL(内径7.8mm、長さ300mm)(いずれも商品名、東ソー社製)
カラムオーブンの温度:40℃
【0073】
検量線:検量線は、標準試料の分子量や数、ベースラインの引き方、検量線近似式の作製方法等により変化する。このため、以下の条件を設定することが好ましい。
1.標準試料
標準試料には、市販の標準ポリエチレンオキシド(PEO)と標準ポリエチレングリコール(PEG)を使用する。標準試料には、次の分子量のものを使用することが好ましい。
1470、4250、7100、12600、24000、46000、85000、219300、272500(合計9点)
これらの標準試料は、以下の点に配慮して選択した。
(1)分子量900以上の標準試料を7点以上使用する。
(2)分子量900〜2000の標準試料を少なくとも1点含む。
(3)分子量2000〜60000の標準試料を少なくとも3点含む。
(4)分子量200000±30000の標準試料を少なくとも1点含む。
(5)分子量270000±30000の標準試料を少なくとも1点含む。
【0074】
2.ベースラインの引き方
分子量の上限:水平で安定なベースラインからピークが立ち上がる点とする。
分子量の下限:主ピークの検出が終了した点とする。
3.検量線の近似式
上記標準試料を用いて作製した検量線(「溶出時間」対「log分子量」)は3次式の近似式を作製し、これを計算に用いる。
【0075】
上記ポリカルボン酸系重合体を含有するセメント分散剤では、良好なセメント分散性能及びスランプ保持性能を発揮することができるが、必要により、ポリカルボン酸系重合体以外の公知のセメント添加剤(セメント分散剤)を更に配合してもよい。
【0076】
上記セメント分散剤ではまた、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等を配合することができる。
このようにして得られるセメント分散剤は、セメントや水を含有するセメント組成物として、例えば、ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメント等の水硬セメントや、石膏等のセメント以外の水硬性材料に用いられることになる。
【0077】
上記セメント分散剤の水硬性材料への添加量としては、従来のセメント分散剤に比較して少量の添加でも優れた効果を発揮することになるが、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメントの重量を100重量%とすると、0.001〜5重量%となるような比率の量を練り混ぜの際に添加すればよい。0.001重量%未満であると、セメント分散剤の作用効果が充分に発揮されないおそれがあり、5重量%を超えると、その効果は実質的に頭打ちとなり、経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは、好ましくは0.01〜1重量%である。これにより、高減水率の達成、スランプロス防止性能の向上、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の作用効果を奏することになる。
【発明の効果】
【0078】
本発明のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法は、上述の構成よりなるので、ゲル状物が形成したり分解反応が起こったりすることを充分に抑制することにより、製造工程での不具合の発生や、各種の化学製品の性能や品質の低下を充分に抑制することができることとなる。また、本発明により貯蔵及び/又は移送したポリアルキレングリコール系単量体から製造される重合体は、セメント添加剤や炭酸カルシウム、カーボンブラック、インク等の顔料分散剤、スケール防止剤、石膏・水スラリー用分散剤、石炭・水スラリー(CWM)用分散剤、増粘剤等の化学製品の製造原料として用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味し、「%」は、「重量%」を意味する。
【0080】
製造例1
温度計、圧力計及び撹拌機を備えたオートクレーブに、不飽和アルコールである3−メチル−3−ブテン−1−オール1870部及びフレーク状水酸化ナトリウム6部を仕込み、窒素加圧と排気を繰り返すことによって充分に窒素置換を行った。この混合液の温度を120℃まで昇温し、初期圧力を0.09MPaに設定して、エチレンオキシド9560部を15時間かけて添加した。この間の反応温度は120±5℃、反応圧力は0.78MPa以下に維持した。更に1時間、反応温度を維持して、エチレンオキシドのメタノールへの付加反応を完結させ、3−メチル−3−ブテン−1−オール1モルに対してエチレンオキシド10モルが付加した3−メチル−3−ブテン−1−オールのポリ(n=10)エチレングリコール付加物[CH=C(CH)CHCHO(CHCHO)10H]を得た。このようにして得られたポリアルキレングリコール系単量体(1)の凝固点は17℃であった。
【0081】
製造例2
温度計、圧力計及び撹拌機を備えたオートクレーブに、ポリアルキレングリコール系単量体(1)1145部及び50%水酸化ナトリウム水溶液4部を仕込み、減圧・加熱して脱水後、窒素で加圧して窒素置換を行った。温度を120℃に設定した後、圧力を0.16MPaに設定し、エチレンオキシド3825部を12時間かけて添加した。この間の反応温度は120±5℃、反応圧力は0.78MPa以下に維持した。更に1時間、反応温度を維持して、3−メチル−3−ブテン−1−オール1モルに対してエチレンオキシド50モルが付加した3−メチル−3−ブテン−1−オールのポリ(n=50)エチレングリコール付加物[CH=C(CH)CHCHO(CHCHO)50H]を得た。このようにして得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)の凝固点は52℃、水酸基価は25.1mg−KOH/g、PEG量は6.1%、イソプレン量は960ppmであった。
【0082】
得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)を80℃以下に降温した後に、水1240部を入れ、ポリアルキレングリコール系単量体(2)の80%水溶液を得た。この水溶液の粘度は、30℃で2.8×10−1Pa・s、40℃で1.76×10−1Pa・s、50℃で1.28×10−1Pa・sであった。
【0083】
水酸基価の測定方法
(1)無水フタル酸35gを、ピリジン(試薬特級)200mlに溶解してフタル化試薬を調製し、褐色瓶に保存した。(2)テフロン性の蓋付きフラスコに試料約2.4gを採取し、0.1mgの単位まで精秤した。(3)フタル化試薬9mlを分注器で加えた。分注器内のフタル化試薬は、測定誤差を減らすため使用前に充分パージを行なった。(4)ブランク操作として、試料の入っていないフラスコを3個用意して、フタル化試薬9mlを分注器で加えた。(5)フラスコに蓋をして、表面温度120±5℃に調節したホットプレート(東芝社製、商品名「HGT−180」)で加熱し、エステル化反応させた。反応時間は30分とした。また、ブランクについては加熱を行わなかった。(6)加熱中に反応溶液が飛散しないように注意して、1〜2度攪拌した。(7)室温まで冷却後、純水を約50ml加えた。(8)フラスコを自動滴定装置(平沼産業社製、商品名「COMTITE−500」)にセットし、0.5N−水酸化カリウム溶液で滴定した。ビュレット内の0.5N−水酸化カリウム溶液は使用前に充分パージを行なって、気泡を抜いておいた。(9)1試料につき、2〜3個ずつ測定を行ない、平均値を採った。(10)試料がアルカリ性又は酸性の場合には、得られた水酸基価を補正して下記に示す式により試料の水酸基価を求めた。(11)必要に応じて、得られた水酸基価から平均分子量及び酸化エチレン(エチレンオキシド)の付加モル数を求めた。
【0084】
水酸基価=(B−A)×0.5×56.11/G−AC+AG
B:空試験の滴定量(ml)
A:試料の滴定量(ml)
F:0.5N 水酸化カリウム溶液の濃度
G:試料採取量(g)
AC:試料のアルカリ価(mg−KOH/g)
AV:試料の酸価(mg−KOH/g)
【0085】
PEG量は、高速液体クロマトグラフィーにより以下に示す測定条件で測定した。
PEG量の測定条件
送液装置:日立社製、L−6000(商品名)
オートサンプラー:日立社製、L−7200(商品名)
解析装置:島津製作所社製、LC−10(商品名)
RI検出器:GLサイエンス社製、504R(商品名)
使用カラム:Shodex社製、GF−310(商品名)(長さ300mm)×1本
カラム温度:40℃
溶離液:純水
流速:1.5ml/min
注入量:20μl
【0086】
イソプレン量は、GC−MSにより以下に示す測定条件で測定した。
イソプレン量の測定条件
GC−MS:島津製作所社製、GC−17A及びQP−5000(商品名)
ヘッドスペース:パーキンエルマー社製、HS−40(商品名)
カラム:J&W社製、DB−1(商品名)(内径0.32mm×長さ60m×膜厚1μm)
移動相:ヘリウムガス
流量:130kPa(ヘッドスペース入口レギュレータ)
カラム昇温:80〜250℃まで5℃/minで昇温、250℃で10分間保持した。
注入温度:250℃
HSサンプル加熱条件:130℃×10分
HSニードル温度:170℃
HSトランス温度:170℃
GC−MSインターフェース温度:250℃
【0087】
参考例1
製造例2で得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)の80%水溶液を、60℃の乾燥器中で、空気雰囲気で保存した場合の水溶液中のPEG量の推移を表2に示した。60℃の温度下であっても、ポリアルキレングリコール系単量体(2)が分解したときに発生するPEG量は増加せず、安定に保存できていることが確認できた。
【0088】
参考例2
製造例2で得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)の80%水溶液を1分間窒素バブリング後、窒素雰囲気、60℃で保存した場合の水溶液中のPEG量の推移を表2に示した。60℃の温度下であっても、ポリアルキレングリコール系単量体(2)が分解したときに発生するPEG量は増加せず、安定に保存できていることが確認できた。
【0089】
比較例1
製造例2で得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)をSUS316製容器に採取し、密閉して室温で放置した。内容物はまもなく凝固した。2ヶ月後、容器を120℃の蒸気で加熱して、内容物を融解した。17時間後内容物は完全に融解した。融解後、容器から試料を抜き出し、分析を行なった。このようにして得られたポリアルキレングリコール系単量体(2)の水酸基価は26.5mg−KOH/g、PEG量は10.9%、イソプレン量は2330ppmに増加していた。安定に保存できた実施例1及び2のポリアルキレングリコール系単量体(2)と同じようにセメント添加剤の原料として扱うことができず、廃棄した。表2に、水溶液中のPEG量の推移を示した。
【0090】
【表2】

【0091】
製造例3
温度計、圧力計及び撹拌機を備えたオートクレーブに、フレーク状水酸化ナトリウム4部を仕込み、窒素加圧と排気を繰り返すことによって充分に窒素置換を行った。次にメタノール575部を仕込み、この混合液の温度を90℃まで昇温した。初期圧力を0.15MPaに設定し、エチレンオキシド7900部を8時間かけて添加した。この間の反応温度は125±5℃、反応圧力は0.78MPa以下に維持した。更に2時間、反応温度を維持して、エチレンオキシドのメタノールへの付加反応を完結させ、メタノール1モルに対してエチレンオキシド10モルが付加したメトキシポリ(n=10)エチレングリコール[CHO(CHCHO)10H]を得た。このようにして得られたアルコキシポリアルキレングリコール(3)の凝固点は10℃であった。
【0092】
製造例4
温度計、圧力計及び撹拌機を備えたオートクレーブに、アルコキシポリアルキレングリコール(3)を751部仕込み、窒素加圧と排気を繰り返すことによって充分に窒素置換を行った。温度を153℃に設定した後、圧力を0.15MPaに設定し、エチレンオキシド1050部を6時間かけて添加した。この間の反応温度は153±5℃、反応圧力は0.78MPa以下に維持した。更に1時間、反応温度を維持して、エチレンオキシドのメタノールへの付加反応を完結させ、メタノール1モルに対してエチレンオキシド25モルが付加したメトキシポリ(n=25)エチレングリコール[CHO(CHCHO)25H]を得た。このようにして得られたアルコキシポリアルキレングリコール(4)の凝固点は40℃であった。
【0093】
製造例5
温度計、圧力計及び撹拌機を備えたオートクレーブに、アルコキシポリアルキレングリコール(4)1800部及び50%水酸化ナトリウム水溶液7.7部を仕込み、減圧加熱して脱水後、窒素で加圧して窒素置換を行った。温度を153℃に設定した後、圧力を0.15MPaに設定し、エチレンオキシド6647部を5時間かけて添加した。この間の反応温度は153±5℃、反応圧力は0.78MPa以下に維持した。更に1時間、反応温度を維持して、エチレンオキシドのメタノールへの付加反応を完結させ、メタノール1モルに対してエチレンオキシド120モルが付加したメトキシポリ(n=120)エチレングリコール[CHO(CHCHO)120H]を得た。このようにして得られたアルコキシポリアルキレングリコール(5)の凝固点は55℃であった。
【0094】
アルコキシポリアルキレングリコール(5)の水酸基価は11.2mg−KOH/g、粘度は、74℃で6.0×10−1Pa・s、89℃で3.02×10−1Pa・s、124℃で1.64×10−1Pa・s、流動点(凝固点)は55℃であった。粘度の測定には、HAAKE社製、高温粘度計PK100(商品名)を使用した。
【0095】
実施例1
エステル化
温度計、攪拌機、生成水分離器及び還流冷却管を備えたガラス製反応容器に、このアルコキシポリアルキレングリコール(5)7420部、メタクリル酸605部、脱水溶剤としてのシクロヘキサン401部、酸触媒としてのパラトルエンスルホン酸一水和物177部及び重合禁止剤としてのフェノチアジン2部を仕込み、混合溶液を攪拌しながら温度を115℃にまで昇温してエステル化反応を開始した。40時間後、エステル化率が98%以上になったことを確認して60℃以下まで冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液132部及び水1702部を加えた。次に、再び昇温してシクロヘキサンを水との共沸によって追い出し、80%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比80)を得た。なお、上記エステル化反応中に、ゲル状物は形成しなかった。
80%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比80)に水を加えて濃度を調整することで、70%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比70)、40%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比40)を得た。これらのポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液の流動点(℃)、並びに、40℃、50℃、60℃及び70℃における粘度(Pa・s)を表3に示した。
【0096】
【表3】

【0097】
比較例2
室温20℃の実験室において、80%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(流動点26℃)は一部が凝固し、内容物が局在化した。重合に使用するとき、90℃の乾燥器中で3時間加熱し、凝固した成分を融解して均一にした。融解後、ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液を1%に希釈して、0.45μmのフィルターでろ過したところ、高分子量不純物に起因する抵抗があった。
【0098】
実施例2
40%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比40)及び70%ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液(比70)は均一な溶液だったので、そのまま用いた。各々ポリアルキレングリコール系単量体混合物水溶液を1%に希釈して、0.45μmのフィルターでろ過したところ、どちらも加熱に起因すると考えられる高分子量不純物に起因する抵抗はなかった。
【0099】
実施例3
市販のメトキシポリ(n=23)エチレングリコール(モノ)メタクリレート(新中村化学社製、商品名「M−230G」)(流動点:35℃)8000部に水2000部及び重合禁止剤としてのフェノチアジン1部を加えて、よく攪拌して溶解し、濃度80%の水溶液(A)を用意した。水溶液(A)は、室内(温度20℃)で少なくとも1ヶ月は重合せず安定だった。1か月後、水溶液(A)1000部にアクリル酸200部及び水50部を加えて単量体混合液(A)を調製したが、その際にすぐに所定量の計量ができた。
【0100】
比較例3
上記M−230Gを800部に、アクリル酸200部及び水250部を加えて、実施例4と同一の単量体混合液(A)を得ようとした。しかるに、M−230Gが融解するまで攪拌したところ、この混合液は発熱を伴いながらゲル化した。上記M−230Gを水溶液として保存しなかったためにゲル化が起こったと考えられる。ゲル化した混合液は廃棄した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール系単量体を水溶液として貯蔵及び/又は移送する方法であって、
該ポリアルキレングリコール系単量体は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、−CO−を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。mは、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、15〜300の数である。)で表される単量体を含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の粘度が40℃で、36〜520mPa・sである請求項1に記載のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の濃度が40〜80重量%である請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコール系単量体の水溶液の流動点が3〜26℃である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。
【請求項5】
前記ポリアルキレングリコール系単量体中の過酸化物価(POV)が2以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系単量体の貯蔵及び/又は移送方法。

【公開番号】特開2006−117946(P2006−117946A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331522(P2005−331522)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【分割の表示】特願2000−371086(P2000−371086)の分割
【原出願日】平成12年12月6日(2000.12.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】