説明

ポリアルキレングリコール系重合体

【課題】目標の物性に対して、重合体の構造設計が容易となる、新規なポリアルキレングリコール系重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される構成単位を含むポリアルキレングリコール系重合体。
【化1】


〔式中、A1、A2、A3はそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、n1、n2、n3はそれぞれ6〜300の数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアルキレングリコール系重合体、及び該重合体からなる分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性組成物用分散剤として、ポリアルキレングリコール鎖による立体反発による分散効果を付与する重合体が用いられている。例えば、重合体に用いられる単量体として(メタ)アクリル酸とアルコキシポリアルキレングリコールのエステルや、不飽和結合を有するアルコールのアルキレングリコールの付加物等が挙げられる。そして、水硬性組成物用分散剤として、種々の性能を向上するためにポリアルキレングリコール鎖を導入した新規な重合体の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、1分子あたりのポリアルキレングリコール鎖の数を2個に抑えると共に、ポリアルキレングリコール鎖におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数を多くすることにより、重合反応性を低下させることなく、立体反発による分散効果の向上が期待できる不飽和単量体、この不飽和単量体を含有する単量体成分を重合して得られる共重合体、ならびに、この共重合体を含有する分散剤およびセメント混和剤を提供することを課題として、エチレン性不飽和結合とアミノ基とを有する不飽和単量体であって、該アミノ基が1分子あたり1個存在し、該アミノ基の窒素原子に2個のポリアルキレングリコール鎖が結合していることを特徴とする不飽和単量体を用いる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、石膏スラリーの流動性の改善効果に優れ、且つ、石膏スラリーの硬化遅延を生じさせない、硬化性と分散性のバランスに優れた石膏用分散剤及び石膏用分散剤組成物を提供することを課題として、アミド基、アミノ基及びイミノ基から選ばれる少なくとも一種を有する窒素原子含有の構造単位と、カルボン酸基を有する構造単位と、ポリアルキレングリコール基を有する構造単位を含み、重合により得られた水溶性両性高分子化合物を主成分とすることを特徴とする石膏用分散剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、従来セメント分散剤の分散効果の向上とスランプロスの抑制を課題として、アクリル又はメタクリル酸のアルカリ金属塩と、アクリル又はメタクリル酸のポリアルキレングリコールエステルと、ポリアルキレンポリアミンの二塩基酸及びアクリル酸又はメタクリル酸とのアミド又はそれらのアルキレンオキサイド付加物を共重合した共重合体を主成分とするセメント分散剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−115371号公報
【特許文献2】特開2007−320786号公報
【特許文献3】特開平7−033496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、分子内にポリアルキレングリコール鎖を2個以上導入すれば、分散性能を向上させることが有利であることが記載されているが、特許文献1では、ポリアルキレングリコール鎖を2個導入したものしか具体的に開示されていない。特許文献3には、分子内にポリアルキレングリコール鎖を3個以上導入した重合体が開示されているが、重合体の原料の単量体としてアクリル酸又はメタクリル酸を反応せしめたポリアルキレンポリアミンのアマイドのアルキレンオキシド付加物を用いるために、重合の際に架橋反応を生じてゲル化する場合があり、得られる重合体が制限される。
【0008】
本発明は、水硬性組成物の粘性を低くする場合、水硬性組成物の流動保持性を向上する場合など、目標の物性に対して、重合体の構造設計が容易となる、新規なポリアルキレングリコール系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I)で表される構成単位〔以下、構成単位(I)という〕を含むポリアルキレングリコール系重合体〔以下、重合体(I)という〕に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、A1、A2、A3はそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、n1、n2、n3はそれぞれ6〜300の数である。〕
【0012】
また、本発明は、上記本発明のポリアルキレングリコール系重合体からなる分散剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水硬性組成物の粘性を低くする場合、水硬性組成物の流動保持性を向上する場合など、目標の物性に対して、重合体の構造設計が容易となる、新規なポリアルキレングリコール系重合体が提供される。
【0014】
本発明の重合体では、分子中に3個のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体を用いることで、例えば、従来の1個のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体を用いる場合よりも、重合体中のポリアルキレングリコール鎖の数を減らさずに、ポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体の割合を減らすことができる。前記単量体を減らした分、ポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体以外の単量体、例えばカルボン酸系単量体、の割合を調整する範囲が拡がるので重合体の設計の自由度が増加する。その結果、目的とする効果に優れる水硬性組成物用分散剤を提供することが容易になる。また、本発明の重合体は後述する一般式(i)で表されるポリアルキレングリコール系化合物(i)を用いて得ることができる。特許文献3では単量体中に二重結合を2個以上含む化合物が存在し重合の際にゲル化する場合があるのに対し、ポリアルキレングリコール系化合物(i)を用いる場合は、二重結合が1個の化合物のみを含むため重合の際にゲル化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で製造したポリアルキレングリコール系化合物(i)のNMR測定結果
【図2】実施例で製造した本発明品1のポリアルキレングリコール系重合体(I)のNMR測定結果
【図3】実施例、比較例で粘性の算出に用いたポリエチレングリコール(Mw20,000)によるトルク−粘度の関係式
【発明を実施するための形態】
【0016】
<重合体(I)>
一般式(I)、n1、n2、n3は、それぞれA1O、A2O、A3Oの平均付加モル数であり、水硬性組成物の分散性を向上する観点から、それぞれ6〜300の数であり、7〜150の数が好ましく、8〜100の数がより好ましい。
【0017】
1、A2、A3は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、得られる重合体の水への溶解性を向上する観点から、炭素数2〜3のアルキレン基が好ましく、炭素数2のアルキレン基がより好ましい。
【0018】
重合体(I)は、例えば下記一般式(i)で表されるポリアルキレングリコール系化合物(i)〔以下、化合物(i)という〕を単量体とした重合反応から得ることができる。
【0019】
【化2】

【0020】
〔式中、A1、A2、A3はそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、n1、n2、n3はそれぞれ6〜300の数である。〕
【0021】
一般式(i)中、n1、n2、n3は、それぞれA1O、A2O、A3Oの平均付加モル数であり、水硬性組成物の分散性を向上する観点から、それぞれ6〜300の数であり、7〜150の数が好ましく、8〜100の数がより好ましい。
【0022】
1、A2、A3は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、得られる重合体の水への溶解性を向上する観点から、炭素数2〜3のアルキレン基が好ましく、炭素数2のアルキレン基がより好ましい。
【0023】
化合物(i)は、グリシジルエーテルとアルカノールアミンを反応させアリルグリセリルエーテルアルカノールアミンを得た後、アルキレンオキサイドを付加することにより、製造することができる。
【0024】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミンが挙げられ、中でもグリシジルエーテルとの反応性の観点から、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましく、モノエタノールアミンがより好ましい。
【0025】
化合物(i)は、グリシジルエーテルとアルカノールアミンとが1対1のモル比で反応した化合物であるが、原料としてのモル比[グリシジルエーテル/アルカノールアミン]は、副反応を抑えて化合物(i)の収率を上げる観点から、2/1〜1/100が好ましく、1/2〜1/50がより好ましく、1/3〜1/30が更に好ましく、1/5〜1/50がより更に好ましい。いずれか一方を過剰に用いた場合は、必要に応じ蒸留による留去や、溶媒抽出を用いて除くことができる。
【0026】
グリシジルエーテルとアルカノールアミンの反応では、溶媒を用いても用いなくても良い。溶媒を用いない場合は、アルカノールアミンを過剰に用いて溶媒とすることができる。溶媒を用いる場合は、プロトン性溶媒を用いるのが好ましく、具体的には、水、低級アルコール、グリコール系溶剤が好ましい。その使用量はグリシジルエーテルに対して0.1〜100モル倍の溶媒を用いることが好ましい。さらに、トルエン、ヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどを併用してもよい。
【0027】
重合体(I)を製造するための原料としては、前記グリシジルエーテルとアルカノールアミンとの反応の生成物中に未反応のグリシジルエーテルが残存していてもよい。化合物(i)と共に残存するグリシジルエーテルは、重合体(I)を製造する際の共重合成分として使用してもよい。また、未反応のアルカノールアミンが残存していてもよい。
【0028】
得られたアリルグリセリルエーテルアルカノールアミンにアルキレンオキサイドを付加するには、オートクレーブ中に、アリルグリセリルエーテルアルカノールアミンを入れ、例えばアルカリ触媒存在下、100〜150℃で、アルキレンオキサイドを導入する方法が挙げられる。
【0029】
得られた化合物(i)はそのまま貯槽や適当な容器などで保管できる。化合物(i)の融点によっては固体状態で保管してもよいし、加熱して溶融状態でもよい。水などの溶媒で希釈して溶液としてもよい。常温で保管できる事や取り扱いやすさの観点から溶液での保管、中でも水溶液とすることが好ましい。
【0030】
重合体(I)は構成単位(I)を含むが、その他の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕を含んでいてもよい。重合体(I)を構成する全構成単位中、構成単位(I)の好ましい割合は、重合体の構造設計を容易にする観点から、3〜60モル%、更に5〜50モル%、より更に5〜40モル%である。
【0031】
構成単位(II)としては、カルボキシル基又はそれら中和塩からなる基を有する構成単位〔以下、構成単位(II−1)という〕等が挙げられ、例えば下記一般式(II−1)で表される構成単位が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子、メチル基、COOH又はCOOM1、R3は水素原子、メチル基、OH、COOH、COOM、CH2COOH又はCH2COOM1、M、M1は、それぞれ、水素原子、金属原子、アンモニウム基又は有機アンモニウム基を表す。〕
【0034】
構成単位(I)の好ましい割合は、重合体の構造設計を容易にする観点から、構成単位(I)と構成単位(II−1)の合計中、5〜50モル%、より更に5〜40モル%である。また、構成単位(II−1)の好ましい割合は、水硬性組成物の分散性を向上する観点から、構成単位(I)と構成単位(II−1)の合計中、50〜95モル%、より更に60〜95モル%である。構成単位(I)及び構成単位(II−1)の割合は、これらの構成単位を与える単量体の比率で調整することができる。
【0035】
構成単位(I)と構成単位(II−1)の合計は全構成単位中、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0036】
一般式(II−1)の構成単位を与える単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、α−ヒドロキシアクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸等の単量体が挙げられる。これらの中でも、化合物(i)との共重合の観点からアクリル酸が好ましい。
【0037】
重合体(I)が含み得る一般式(II−1)以外のその他の構成単位を与える単量体として、以下のものが挙げられる。
(1)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸エステル類
【0038】
(2)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、酢酸ビニル、酢酸アリル、アリルアルコール、メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等の不飽和アルコール類
【0039】
(3)ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩
【0040】
(4)ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の不飽和アミノ化合物類
【0041】
(5)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類
【0042】
(6)1,3−ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のジエン類
【0043】
(7)スチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、メチルスチレン等のスチレン類
【0044】
(8)ヘキセン、ヘプテン、デセン等のオレフィン類
【0045】
重合体(I)の好ましい重量平均分子量は、10000〜200000、更に20000〜150000、より更に30000〜100000である。重量平均分子量は、実施例に述べる測定条件により測定される。
【0046】
重合体(I)は、上述した化合物(i)の重合や、化合物(i)と構成単位(II)を与える単量体との共重合により得ることができる。
【0047】
重合体(I)の製造方法として、化合物(i)を含む単量体の重合は、重合開始剤を使用できる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸、アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のパーオキシド等が挙げられる。分解促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸、亜リン酸塩や次亜リン酸塩等の還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物を併用することもできる。これらの中でも、過硫酸ナトリウムと過酸化水素の併用が好ましい。重合開始剤は全単量体の合計に対して0.1〜20モル%、0.5〜15モル%、0.75〜10モル%、の割合で用いられることが好ましい。
【0048】
また、化合物(i)を含む単量体の重合は、連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロパノール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム);亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム);四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;等が挙げられる。連鎖移動剤は全単量体の合計に対して0.1〜20モル%、1〜10モル%、2.5〜7.5モル%、の割合で用いられることが好ましい。
【0049】
化合物(i)を含む単量体の重合は、必要に応じて、リン酸等のpH調整剤、キレート剤、消泡剤等を使用することができる。
【0050】
上記共重合方法としては、例えば、単量体成分と重合開始剤とを用いて、溶液重合や塊状重合等により行うことができる。
【0051】
化合物(i)を含む単量体の重合は、ポリカルボン酸系の分散剤の重合方法に準じて行うことができる。例えば、溶液重合法が挙げられ、水や炭素数1〜4の低級アルコール中、重合開始剤存在下、必要なら連鎖移動剤を添加し、40〜100℃で0.5〜10時間反応させる。反応温度は更に50〜90℃、更に60〜90℃で行うことができる。重合反応の終了は、高速液体クロマトグラフィーやNMRを用いて残存する単量体を定量することにより確認することができる。反応終了後、必要に応じて中和、濃度の調整を行い、本発明の重合体(I)を得ることができる。
【0052】
本発明の重合体(I)は、分散剤、増粘剤、洗浄剤ビルダー、スケール防止剤など多様な用途に用いることができる。
【0053】
本発明の重合体(I)は、分散剤、中でも粉体用の分散剤として有用である。粉体としては、無機粉体又は有機粉体が使用できる。また、粉体は無機粉体であることが好ましい。無機粉体としては、水和反応により硬化する物性を有する水硬性粉体を用いることができる。例えば普通ポルトランドセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、高ビーライト含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカフュームセメントなどの水硬性粉体セメントや石膏が挙げられる。また、無機粉体としてフィラーも用いることができ、例えば炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。本発明の重合体(I)は、水硬性粉体用分散剤として好適である。
【0054】
本発明により、重合体(I)と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物が提供される。水硬性組成物は、モルタル、コンクリート、グラウト等が挙げられる。水硬性組成物は、セメント、水、細骨材、粗骨材、炭酸カルシウム等フィラー等を含有することができる。また、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、石灰石等の微粉体を添加したものであってもよい。かかる水硬性組成物において、重合体(I)は、水硬性粉体100重量部に対して0.01〜10重量部、更に0.05〜8重量部、更に0.1〜5重量部使用することができる。
【0055】
本発明の重合体では、分子中に3個のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体を用いることで、例えば、従来の1個のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体を用いる場合よりも、ポリアルキレングリコール鎖の数を減らさずに、重合体を構成する全単量体中のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体の割合を減らすことができる。したがって、本発明では構成単位(I)の含有量を減らすことができ、その結果、構成単位(II−1)の含有量の範囲を目的とする物性に調整することが容易になる。例えば、本発明の重合体を添加した水硬性組成物の粘性を低くする場合は、水硬性粉体への吸着基を有する構成単位(II−1)の含有量を増やすことが好ましく、例えば構成単位(I)が5〜20モル%で構成単位(II−1)が80〜95モル%とするのが好ましい。流動保持性を向上する場合は、立体反発基となるポリアルキレングリコール鎖を有する構成単位(I)の含有量を増やすことが好ましく、例えば構成単位(I)が10〜25モル%で構成単位(II−1)が75〜90モル%とするのが好ましい。
【実施例】
【0056】
I-1.アリルグリセリルエーテルエタノールアミン(AGEA)の合成
攪拌棒、還流管、温度計、窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコにモノエタノールアミン240gとプロトン性溶媒としてエタノールを36g仕込んだ。攪拌、窒素フロー下で78℃まで昇温した後、1時間かけてアリルグリシジルエーテル45gを滴下した。滴下後、1.5時間熟成することで、反応終了とした。反応終了後、過剰のモノエタノールアミンを留去した。反応生成物は1H-NMRより、アリルグリセリルエーテルエタノールアミン(AGEA)であることを確認した。
【0057】
I-2.末端に水酸基を有する化合物のエチレンオキシド付加
前記合成で得られたアリルグリセリルエーテルエタノールアミン(AGEA)にエチレンオキシド(以下、EOと表記する)を付加することにより重合体(I)を得る。
【0058】
オートクレーブにAGEA120gを仕込み、窒素置換後130oCに昇温した。内圧を0.1MPaに保ちながら、そこへEO29gを添加した。(原料AGEAと等モル量)。0.5時間反応させた後、50oCまで降温し、触媒として水酸化カリウム0.73g(AGEAの2mol%)を加え、混合系内を再度窒素置換後、減圧下(1.3kPa)、110oCにて0.5時間脱水を行った。ついで、残る所定のEOを130oCにて圧力を0.1〜0.4MPaに保ちながら添加し、付加反応を行った。EOの添加終了後、さらに同じ温度及び圧力下で0.5時間反応させた。固形分収率は99%であった。反応生成物を、1H-NMRにより同定した。
【0059】
化合物(AGEAのEO付加物)を、1H-NMRにより下記の条件で測定した。化合物の1H-NMRによる解析結果のチャートを図1に示した。各ピークの積分比から、一般式(i)で表される化合物であることがわかり、副生成物のピークは観測されなかった。
【0060】
1H-NMR測定条件>
測定サンプル100mg(固形分)を化合物(i)は重クロロホルム1.0mlで希釈し、重合体(I)は重水1.0mlで希釈し、直径5.0mmの1H-NMR用チューブにて測定を行なった。
機種:Mercury400(varian社製,400MHz)
パルス幅:45μs(45°パルス)
データポイント:42052
観測幅:6410Hz
待ち時間:10s
データ取込時間:3.28s
積算回数:32回
測定温度:室温
【0061】
II.重合工程
II-1.重合体の合成
攪拌棒、還流管、温度計、窒素導入管を備えた四つ口フラスコに上記で合成を行ったAGEAのEO付加物(以下、AE(PEG23×3)と表記する)130gと蒸留水52gを仕込んだ。系内を窒素置換行った後、85℃まで昇温した。そこへ(1)35重量%アクリル酸水溶液51.3g、(2)ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NaPS)2.0gと35重量%過酸化水素水1.6gを28.5gの蒸留水に溶解させた水溶液、(3)β-メルカプトプロピオン酸(BMPA)0.9gを蒸留水28.8gに溶解させた水溶液の3つの水溶液の滴下を下記の要領で行った。(1)、(2)及び(3)の水溶液の滴下は、全量の50体積%を最初の30分間で、30体積%を次の30分間で、そして残量20体積%をさらに90分間で行った。前記3つの水溶液の滴下終了後、さらに8重量%NaPS水溶液12.5gを30分かけて滴下し、そのままの温度を保ちながら3時間熟成を行った。熟成終了後、冷却し、目的とする本発明品1の重合体を含有する水溶液を得た。得られた重合体水溶液の固形分は40重量%、重量平均分子量は51200であった。
【0062】
得られた重合体を、1H-NMRにより前記の条件で測定した(図2)。各ピークの積分比から、得られた重合体は一般式(I)で表される構成単位を含むポリアルキレングリコール系重合体であることがわかり、副生成物のピークは観測されなかった。
【0063】
共重合モル比を表4のように変えて本発明品1の合成と同様に重合を行い、本発明品2の重合体の水溶液を得た。また、比較品1の重合体の水溶液は、AE(PEG23×3)に代えて、アリルエーテルEO付加物(EO平均付加モル数23)を用い、(1)、(2)及び(3)の水溶液の滴下を、全量の35体積%を最初の30分間で、20体積%を次の30分間で、そして残量45体積%をさらに90分間に変更した以外は、本発明品1の合成と同様に重合を行って得た。
【0064】
得られた共重合体の重量平均分子量Mwを、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した。Mw、Mw/Mnを表1に示す。
GPC分子量測定条件
使用カラム:東ソー(株)製
TSKguardcolumn PWxl
TSKgel G4000PWxl+G2500PWxl
溶離液:0.2mol/Lリン酸バッファー(伸陽化学工業(株)製)/高速液体クロマトグラフ用アセトニトリル(和光純薬工業(株)製)=9/1(vol%)
流速:1.0mL/min.
カラム温度:40℃
検出:RI
注入量:10μL(0.5重量%水溶液)
標準物質:ポリエチレンオキシド、重量平均分子量(Mw)875000、540000、235000、145000、107000、24000
検量線次数:三次式
装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
ソフトウエア:EcoSEC-WS(東ソー(株)製)
【0065】
<モルタルの製造及び評価>
(1)モルタルの調製
表2又は表5に示す配合条件で、表1又は表4に示した重合体の水溶液を含む練り水(W)を加え、モルタルミキサー(ダルトン社製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いてモルタルを調製した。
【0066】
(2)モルタル粘性
モルタル粘性は、モルタルミキサーにトルクメーターと記録計を接続し、原料を仕込み200rpm(回転子は直径80mm、ハネは6枚)で3分混練後のモルタルのトルクを測定した。予め、図3に示すポリエチレングリコール(Mw20,000)で作成したトルク−粘度の関係式より、モルタルのトルクから粘性を算出した。結果を表3、6に示すが、モルタル粘性は、モルタルフロー(直後)が240mmの場合に換算して表示した。
【0067】
(3)モルタルフロー
モルタルフローはJIS R5201に従って測定を行った。なお、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。本混練り直後及び30分後(モルタル調製時にセメントに接水してから30分後)のモルタルフローを測定した。
【0068】
<試験例1>
表1の重合体を用いて、表2の配合で試験を行った。重合体の添加量と結果を表3に示す。表1中、本発明品1と比較品1の間で、重合体の立体反発性に関係するEO鎖の量を揃えるために構成単位(I)の単量体と構成単位(II)の単量体の重量比を合わせた。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
・W:練り水(重合体を含む)
・C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製の普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント社製の普通ポルトランドセメント=1/1、重量比)、密度3.16g/cm3
・S:細骨材(S):城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm3
【0072】
【表3】

【0073】
表3中、重合体添加量は、セメント重量に対する重量%である(以下同様)。
【0074】
・比較品2:ポリカルボン酸塩型共重合体、アクアロックFC900、日本触媒社製
・比較品3:ポリカルボン酸エーテル系の化合物、レオビルドSP8SV、BASFポゾリス社製
【0075】
表3の結果から、本発明品1は比較品1や、コンクリートの粘性を低減できるとされている市販品の比較品3に比べ、スラリー粘性が低いことがわかる。
【0076】
ポリアルキレングリコール鎖の本数を減らさずにポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体を減らして、水硬性粉体への吸着基を有するカルボン酸系単量体の割合を増やす設計が可能となった。このことにより、重合体が水硬性粉体に吸着しやすくなり、スラリーの粘度が低くなったと考えられる。
【0077】
<試験例2>
表4の重合体を用いて、表5の配合(用いた成分は表2と同じ)で試験を行った。重合体の添加量と結果を表6に示す。表4中、本発明品2と比較品1の間で、セメントへの吸着基の量を揃えるために構成単位(I)の単量体と構成単位(II)の単量体の共重合モル比を合わせた。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
表6の結果から、本発明品2は比較品1に比べ、流動保持性が高いことがわかる。
【0082】
ポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体の割合を同じにすることで、ポリアルキレングリコール鎖を増やす設計が可能となった。ポリアルキレングリコール鎖の本数が増えることで、水硬性粉体への吸着力が同じであっても相対的に重合体の親水性が増加することで水硬性粉体への吸着速度が低下して、重合体の継続的な水硬性粉体への吸着が進むことで、流動保持性が向上したと考えられる。
【0083】
本発明品である一般式(I)で表される構成単位を含む重合体と、アリルエーテルのEO付加物を含む重合体とを比較して、ポリアルキレングリコール鎖の数を同じにした場合、粘度が低くなり、同一の共重合モル比にした場合、流動保持性が高くなることがわかる。つまり、構成単位(I)の単量体と構成単位(II)の単量体とのモル共重合比率は10:90ではスラリー粘性が低いものが得られ、構成単位(I)の単量体と構成単位(II)の単量体とのモル共重合比率は15:85では高い流動保持性を得られた。
【0084】
重合体を構成する単量体中のポリアルキレングリコール鎖を導入した単量体の割合を減らすことが可能になったので、他の機能を持つ単量体、(例えば吸着基として働くポリカルボン酸系の単量体)の導入する割合の選択の幅が広がり、目的の物性を実現するポリマーの設計が容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構成単位を含むポリアルキレングリコール系重合体。
【化1】


〔式中、A1、A2、A3はそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、n1、n2、n3はそれぞれ6〜300の数である。〕
【請求項2】
更にカルボキシル基又はその中和塩からなる基を有する構成単位(II−1)を含む請求項1記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項3】
構成単位(I)と構成単位(II−1)の合計中、構成単位(I)が5〜50モル%、構成単位(II−1)が50〜95モル%である請求項2記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項4】
請求項1〜3記載のポリアルキレングリコール系重合体からなる分散剤。
【請求項5】
水硬性粉体用である請求項4記載の分散剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131883(P2012−131883A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284313(P2010−284313)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】