説明

ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた2液型塗料組成物

【課題】 低極性有機溶剤への溶解性を向上させた、塗膜の耐汚染性が良好なポリイソシアネート組成物およびそれを用いた2液型塗料組成物の提供する。
【解決手段】 HDIと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート(A)、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)、およびテトラアルコキシシラン又はその縮合物(C)を含み、前記ポリイソシアネートが、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が90%超〜100%であることを特徴とするポリイソシアネート組成物により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた2液型塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートを一成分として用いる2液型のウレタン系塗料は、耐候性や耐摩耗性に優れた塗膜を与えることから、従来、建築物、土木構築物等の屋外基材の塗装や、自動車の補修、プラスチックの塗装などに使用されている。近年、自動車からの排出ガス等に起因する油性の汚染物質が大気中に増加しているため、塗膜表面が汚れ、外観が悪くなる問題がある。したがって、短期間で汚染性が発現する塗膜の形成が望まれている。この塗料では、ポリイソシアネートの極性の高さから、一般的に、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素溶剤や、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などの強溶剤、すなわち、溶解力の強い溶剤が用いられていた。
【0003】
そこで、特許文献1には、脂肪族、あるいは脂環式ジイソシアネート、炭素数が1〜20のモノアルコールから得られ、アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が90/10〜70/30であるポリイソシアネート化合物(A)、及びアニリン点10℃〜70℃の低極性有機溶剤(B)、及びシリケート化合物(C)、を含有するポリイソシアネート組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載のポリイソシアネート組成物では、低極性有機溶剤への溶解性がまだ不足しているため、低極性有機溶剤で希釈したときにポリイソシアネート成分が析出するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の事情を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、低極性有機溶剤への溶解性を向上させた、塗膜の耐汚染性が良好なポリイソシアネート組成物およびそれを用いた2液型塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
1. ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート(A)、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)、およびテトラアルコキシシラン又はその縮合物(C)を含み、
前記ポリイソシアネートが、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が100%であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
2. ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート(A)、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)、およびテトラアルコキシシラン又はその縮合物(C)を含み、
前記ポリイソシアネートが、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が90%超100%未満であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
3. 酸ハロゲン化物(D)を配合してなる1又は2のポリイソシアネート組成物。
4. 1〜3のいずれかのポリイソシアネート組成物と、ポリオール化合物とを含む2液型塗料組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物に含まれるポリイソシアネートは、低極性有機溶剤(弱溶剤)に対する溶解性に優れる。
また、本発明の2液型塗料組成物は、低極性有機溶剤(弱溶剤)に可溶であることから、重ね塗りする際に下地層を侵食することがないため、再コート性に優れているとともに、これを用いて得られる塗膜は優れた耐汚染性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポリイソシアネート(A)は、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネートであって、前記ポリイソシアネートは、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が90%超〜100%を満たすものである。
【0010】
本発明において、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が上記範囲を外れると、得られるポリイソシアネートの低極性有機溶剤に対する溶解性が低下するとともに、この組成物を用いて得られた塗膜の物性が低下する。
より好ましいアロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率は、91〜99%、より一層好ましくは92〜98%である。
なお、上記各官能基のモル比は、1H−NMR測定により算出することができる。
【0011】
ヘキサメチレンジイソシアネートと反応させる炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、イソトリデカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−エイコサノール、1−ヘプタデカノール、1−ノナデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、3−エチル−4,5,6−トリメチルオクタノール、4,5,6,7−テトラメチルノナノール、4,5,8−トリメチルデカノール、4,7,8−トリメチルデカノール、2−ヘキシルドデカノール、2−オクチルドデカノール、2−ドデシルデカノール、2−ヘキサデシルオクタデカノールなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらのアルコールの中でも、得られるポリイソシアネート組成物の低極性有機溶剤に対する溶解性をより高めることを考慮すると、炭素数11〜20の脂肪族モノアルコールが好ましく、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−ドデカノール、1−エイコサノール、1−ヘプタデカノール、1−ノナデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールがより好ましく、1−トリデカノール、イソトリデカノールが特に好ましい。
【0012】
ヘキサメチレンジイソシアネートとモノアルコールとの反応は、有機溶剤の存在下または非存在下、50〜150℃程度に加熱して行うことができる。
アロファネート化は、ウレタン化と同時に行っても、ウレタン化後に行ってもよいが、本発明ではウレタン化後に行うことが好ましい。ウレタン化とアロファネート化とを同時に行う場合、アロファネート化触媒の存在下で反応を行えばよく、ウレタン化後にアロファネート化を行う場合、アロファネート化触媒の非存在下で、所定時間ウレタン化反応を行った後、アロファネート化触媒を添加してアロファネート化反応を行えばよい。
【0013】
アロファネート化触媒としては、公知の触媒から適宜選択して用いることができ、例えば、カルボン酸の金属塩を用いることができる。上記カルボン酸としては、例えば、酢酸,プロピオン酸,酪酸,カプロン酸,オクチル酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,2−エチルヘキサン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸,シクロペンタンカルボン酸等の飽和単環カルボン酸、ビシクロ(4.4.0)デカン−2−カルボン酸等の飽和複環カルボン酸、ナフテン酸等の上述したカルボン酸の混合物、オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,大豆油脂肪酸,トール油脂肪酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、ジフェニル酢酸等の芳香脂肪族カルボン酸、安息香酸,トルイル酸等の芳香族カルボン酸等のモノカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、クルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、α−ハイドロムコン酸、β−ハイドロムコン酸、α−ブチル−α−エチルグルタル酸、α,β−ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のポリカルボン酸類が挙げられる。
【0014】
また、カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;スズ、鉛等のその他の典型金属;マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム等の遷移金属などが挙げられる。
これらのカルボン酸金属塩は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、アロファネート化触媒の使用量は、ポリイソシアネートとアルコールとの合計質量に対して0.0005〜1質量%が好ましく、0.001〜0.1質量%がより好ましい。
【0015】
有機溶媒の存在下で反応を行う場合、反応に影響を与えない各種有機溶媒を用いることができ、その具体例としては、n−ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、臭化メチル、ヨウ化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
反応終了後、リン酸やリン酸エステル等の反応停止剤を反応系内に加え、30〜100℃で1〜2時間停止反応を行い、アロファネート化反応を停止させる。
反応停止後は、薄膜蒸留等の公知の手法により未反応成分を除去してアロファネート変性ポリイソシアネートを得ることができる。
得られたアロファネート変性ポリイソシアネートは、(上述のアロファネート基/イソシアヌレート基の範囲を満たすものである場合)そのままポリイソシアネート組成物とすることができる。
【0017】
なお、以上のようにして得られるアロファネート変性ポリイソシアネートは、アロファネート基を主として有するものであるが、イソシアネート基が過剰に存在する条件下で反応を行うなどによって副反応が生じ、イソシアヌレート基が生成する。
したがって、アロファネート化における[NCO]/[OH]の比などの各種条件を適宜調整することで、得られるポリイソシアネートにおけるアロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率を、90%超〜100%の範囲で適宜調整することができる。
【0018】
また、以上の方法でアロファネート化したポリイソシアネートを、さらにイソシアヌレート化して、アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比を調整することもできる。
イソシアヌレート化反応としては、イソシアヌレート化触媒の存在下、ポリイソシアネートを変性(三量体化)する方法が挙げられる。このような変性方法としては、例えば、特許第3371480号公報、特開2002−241458号公報に記載の方法を用いることができる。
【0019】
イソシアヌレート化触媒としては、例えば、脂肪族カルボン酸の金属塩、カリウムフェノラート等のフェノラート、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4−ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ジメチルアミノトリメチルシランフェノール、トリエチルアミン、N,N’,N’’−トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン系化合物を用いることができる。中でも、脂肪族カルボン酸の金属塩が好ましく、例えば、酢酸、プロピオン酸、ウンデシル酸、カプリン酸、オクチル酸、ミリスチル酸等のカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、スズ塩などが好適である。また、市販品として、2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム・オクチル酸塩(DABCO TMR、三共エアープロダクツ社製)、オクチル酸カリウム(DABCO K−15、三共エアープロダクツ社製)を用いることもできる。
【0020】
以上のように、本発明に係るポリイソシアネートは、アロファネート化とイソシアヌレート化とを同時に行う手法、またはアロファネート化とイソシアヌレート化とを段階的に行う手法により製造することができる。
この際、触媒としては、反応制御を行い易いという点から、上述した各種触媒の中でもオクチル酸スズを用いることが好ましい。
また、ポリイソシアネートは2種以上混合して用いることもでき、この際、混合物として上述したアロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比を満たす限り、上記アロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比を満たさないポリイソシアネートを用いることもできる。
【0021】
本発明に係るポリイソシアネートそのものの粘度は、特に限定されるものではないが、25℃で2,000mPa・s以下であることが好ましく、1,500mPa・s以下であることがより好ましく、1,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。ポリイソシアネートの粘度が、2,000mPa・sを超えると、塗料組成物の粘度が高くなり、取り扱い難くなる場合がある。一方、粘度の下限値は特に制限されないが、取り扱いの観点から、50mPa・s以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリイソシアネート組成物は、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)を含有する。これらの低極性有機溶剤は、ポリイソシアネートに予め添加しておいてもよく、ポリイソシアネートとポリオールとの混合前に粘度を調整する目的でポリイソシアネートに添加してもよい。
また、低極性溶剤は、必要に応じてポリオール組成物の調製時に添加してもよく、ポリイソシアネート組成物とポリオールとの混合時にさらに添加してもよい。
【0023】
ここで、「アニリン点」とは、等容量のアニリンと試料(有機溶剤)とが均一な混合溶液として存在する最低温度のことである。また、「混合アニリン点」とは、アニリン2容量、試料1容量および1−ヘプタン1容量が均一な混合溶液として存在する最低温度のことである。アニリン点および混合アニリン点はJIS K 2256に記載のアニリン点および混合アニリン点試験方法に準じて測定することができる。
なお、アニリンは凝固点が−6℃であるため、それ以下の温度ではアニリン点は測定できない。そこで、アニリンにヘプタンを混合して有機溶剤の溶解力をより広域に測定するために、混合アニリン点が用いられる。
【0024】
上記アニリン点は10〜70℃が好ましく、10〜60℃がより好ましく、10〜50℃がより好ましい。また、混合アニリン点の場合は5〜50℃が好ましい。アニリン点が10℃未満または混合アニリン点が5℃未満では下地を侵し易くなり、アニリン点が70℃を超えるまたは混合アニリン点が50℃を超えると本発明のポリイソシアネートを溶解し難くなる。
【0025】
このような有機溶剤としては、例えば、メチルシクロヘキサン(アニリン点:40℃)、エチルシクロヘキサン(アニリン点:44℃)、ミネラルスピリット(アニリン点:56℃)、テレビン油(アニリン点:44℃)が挙げられ、また、石油系炭化水素として市販されている商品名で、High Aromatic White Spirit(以下、「HAWS」と表記する)(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:17℃)、Low Aromatic White Spirit(以下、「LAWS」と表記する)(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:44℃)、エッソナフサNo.6(エクソンモービル社製、アニリン点:43℃)、ペガゾール3040(エクソンモービル社製、アニリン点:55℃)、Aソルベント(新日本石油社製、アニリン点:45℃)、クレンゾル(新日本石油社製、アニリン点:64℃)、ミネラルスピリットA(新日本石油社製、アニリン点:43℃)、ハイアロム2S(新日本石油社製、アニリン点:44℃)、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)、ソルベッソ150(エクソンモービル社製、混合アニリン点:18.3℃)、スワゾール100(丸善石油化学社製、混合アニリン点:24.6℃)、スワゾール200(丸善石油化学社製、混合アニリン点:23.8℃)、スワゾール1000(丸善石油化学社製、混合アニリン点:12.7℃)、スワゾール1500(丸善石油化学社製、混合アニリン点:16.5℃)、スワゾール1800(丸善石油化学社製、混合アニリン点:15.7℃)、出光イプゾール100(出光興産社製、混合アニリン点:13.5℃)、出光イプゾール150(出光興産社製、混合アニリン点:15.2℃)、ペガゾールARO−80(エクソンモービル社製、混合アニリン点:25℃)、ペガゾールR−100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)、昭石特ハイゾール(シェルケミカルズジャパン社製、混合アニリン点:12.6℃)、日石ハイゾール(新日本石油社製、混合アニリン点:17℃以下)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
アニリン点が10℃以上または混合アニリン点が5℃以上である有機溶剤は臭気が少ないという特徴がある。そのため、このような低極性有機溶剤を含有する本発明の塗料組成物は、耐環境性の観点からも優れるものとなる。
また、上記のような低極性溶剤は、溶解力が低く下地を侵し難いため、塗料用組成物の重ね塗りが可能となり、補修用の塗料としても有用である。
【0027】
本発明のポリイソシアネート組成物は、テトラアルコキシシラン又はその縮合物(以下シリケート化合物という)(C)を含有する。これらのシリケート化合物は、ポリイソシアネートに予め添加しておいてもよい。
また、シリケート化合物は、必要に応じてポリオール組成物の調製時に添加してもよく、ポリイソシアネート組成物とポリオールとの混合時にさらに添加してもよい。
【0028】
このようなシリケート化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラフェノキシシラン及びこれらの縮合物が挙げられる。この中でも、テトラメトキシシランの縮合物及びテトラエトキシシランの縮合物は、塗膜を作製した場合、塗膜表面が親水性になりやすいため、好ましい。また、テトラアルコキシシラン又はその縮合物として、炭素数が異なるアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン及びそれらの縮合物を用いることもできる。テトラアルコキシシラン又はその縮合物は、市販品として入手可能であり、コルコート社製のメチルシリケート51、エチルシリケート48、エチルシリケート40、エチルシリケート28、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、EMS−485、MCS−18、多摩化学社製のシリケート40、シリケート45、Mシリケート51、信越化学工業社製のテトラメトキシシラン等を用いることができる。
【0029】
また(C)としては、前記シリケート化合物の誘導体を用いることもできる。ここで、シリケート化合物の誘導体とは、アルコキシ基の一部を、例えば、ポリアルキレングリコールモノアルキルエステル、ポリアルキレングリコールモノアリールエステル等に置換したテトラアルコキシシラン又はその縮合物をいう。
【0030】
シリケート化合物の含有割合は、ポリイソシアネート100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましく、5〜40質量部であることがより好ましく、10〜30質量部であることがさらに好ましい。シリケート化合物の含有割合が1質量部未満では、親水性が低下する傾向があり、50質量部を超えると、塗膜の耐水性が低下し、硬度等の物性が低下する傾向がある。
【0031】
本発明では、酸ハロゲン化物(D)をさらにポリイソシアネート組成物に添加することが好ましい。これはシリケート化合物が配合された塗膜は、その塗膜表面付近にシリケート化合物成分の多い層で形成された状態となっている。そのため、上述のようにして基材上に塗膜を形成した後、水との接触により酸ハロゲン化物から発生した酸によって該シリケート化合物の誘導体中のアルコキシル基が加水分解しヒドロキシル基が生じると共に、縮合反応も進行する。そのため、塗膜表面の親水性の発現が早まるのみでなく、塗膜の硬化も進み、十分に優れた耐汚染性を発現することができると考えられるからである。
【0032】
酸ハロゲン化物としては、水との接触により加水分解して、酸を生成することができるものであれば、特に限定されない。酸ハロゲン化物としては、例えば、フタル酸クロライド、o−トルイル酸クロライド、m−トルイル酸クロライド、無水トリメリット酸クロライド、トリメトキシ安息香酸クロライド、カプロン酸クロライド、カプリル酸クロライド、ペラスゴン酸クロライド、カプリン酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、オレイン酸クロライド、2−エチルヘキシル酸クロライド、ヘプタン酸クロライド、ネオデカン酸クロライド、ピバリン酸クロライド、サイクロアシッド、p−ニトロ安息香酸クロライド、フェニル酢酸クロライド、2−クロロニコチン酸クロライド、ケイ皮酸クロライド、モノクロロ酢酸クロライド、酢酸クロライドを用いることができる。この中でも、臭気や分子中の酸クロライド濃度の観点から、フタル酸クロライド、2−エチルヘキシル酸クロライドが好ましい。
【0033】
酸ハロゲン化物(D)の含有割合は、ポリイソシアネート100質量部に対し、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることがさらに好ましい。酸ハロゲン化物の含有割合が0.01質量部未満では、本発明の効果を奏し難くなり、20質量部を超えると、塗料用硬化剤組成物の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明の塗料組成物は、上述したポリイソシアネートに特徴があるため、これと反応硬化させるもう一方の成分としては、当該用途に一般に用いられているポリオール化合物から適宜選択すればよい。
具体例としては、アクリル系ポリオール、フッ素系ポリオールなどが挙げられ、これらの中でも、耐候性を考慮するとフッ素系ポリオールが好適であり、耐候性とコスト面のバランスを考慮するとアクリル系ポリオールが好適である。
また、本発明においては、低極性有機溶剤に対する溶解性が良好であるという上記ポリイソシアネートの特性から、ポリオール化合物も低極性溶剤に可溶なものが好適である。
【0035】
低極性有機溶剤に可溶なアクリル系ポリオールとしては、特に限定されるものではなく、公知の弱溶剤可溶型アクリル系ポリオールを用いることができる。その具体例としては、市販品である、アクリディックHU−596(大日本インキ化学工業社製)、エクセロール410(亜細亜工業社製)、ヒタロイド6500(日立化成工業社製)等が挙げられる。
【0036】
低極性有機溶剤に可溶なフッ素系ポリオールとしては、特に限定されるものではなく、公知の弱溶剤可溶型フッ素系ポリオールを用いることができる。その具体例としては、フルオロエチレン−ビニルエーテル(ビニルエステル)共重合体等が挙げられる。市販品としては、ルミフロンLF800(旭硝子社製)等が挙げられる。
【0037】
上記ポリオール化合物の水酸基価は特に限定されるものではないが、本発明の塗料では、水酸基価は、1〜300mgKOH/gであることが好ましく、1〜250mgKOH/gであることがより好ましい。水酸基価が1mgKOH/g未満では、塗膜の架橋が不十分となり、塗膜強度等の物性が低下する傾向があり、300mgKOH/gを超えると塗膜の架橋密度が高くなり過ぎて硬くなり、基材に対する追従性および柔軟性が低下する場合がある。
【0038】
本発明の塗料組成物中における、ポリイソシアネート組成物とポリオール化合物との配合割合は、ポリオール化合物100質量部に対し、ポリイソシアネート組成物1〜150質量部であることが好ましく、1〜130質量部であることがより好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0039】
なお、上記塗料組成物は、一般的に塗料に用いられる各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、触媒、硬化促進剤、脱水剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、界面活性剤などが挙げられる。
【0040】
本発明の塗料組成物から塗膜を作製する場合、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、磁器タイル、金属、ガラス、木材、プラスチックなどの適宜な基材に、ハケ塗り、ローラー塗り、吹きつけ塗装などの方法により塗布し、適宜な手法で乾燥、硬化させればよい。
また、乾式建材に塗装を行う場合は、フローコーターまたはロールコーターにより工場等でプレコートしてもよい。
なお、塗料用組成物は基材に直接塗布してもよく、目止め、電着や下塗り(プライマー塗布)、中塗り(着色等)の上から塗布してもよい。また、基材が金属の場合、リン酸鉄処理またはリン酸亜鉛処理等の表面処理が施された上に塗布してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、粘度はB型回転粘度計による測定値である。
【0042】
[1]ポリイソシアネートの製造
[製造例1]
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、NCO含量:49.9質量%、以下HDIという)を880g、トリデカノール(協和発酵工業社製)を120g仕込み、これらを撹拌しながら85℃に加熱し、3時間ウレタン化反応を行った。
その後、この反応液中にアロファネート化触媒であるオクチル酸ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製)を0.1g添加し、110℃にてNCO含量が38.9質量%に達したら、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)を0.2g添加し、50℃で1時間停止反応を行った。
この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量14.8質量%、粘度(25℃)130mPa・s、遊離のHDI含量0.1質量%の変性ポリイソシアネートNCO−1を得た。また、 H−NMR分析値:アロファネート基=96%、イソシアヌレート基=4%であった。トレランスは20倍以上であった。
【0043】
[製造例2]
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDIを880g、およびトリデカノール(協和発酵工業社製)を120g仕込み、これらを撹拌しながら85℃に加熱し、3時間ウレタン化反応を行った。
その後、この反応液中にアロファネート化およびイソシアヌレート化触媒であるオクチル酸スズ(日本化学産業社製)0.1gを添加し、110℃にてNCO含量が33.7質量%に達したら、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)を0.4g添加し、50℃で1時間停止反応を行った。
この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量16.6質量%、粘度(25℃)710mPa・s、遊離のHDI含量0.1質量%の変性ポリイソシアネートNCO−2を得た。また、 H−NMR分析値:アロファネート基=52%、イソシアヌレート基=48%であった。トレランスは6倍であった。
【0044】
H−NMR測定法]
H−NMR(Gemini2000、300MHz、バリアン社製)を用いて、8.5ppm付近のアロファネート基の窒素原子に結合した水素原子のシグナルと、3.7ppm付近のイソシアヌレート基の窒素原子に隣接したメチレン基の水素原子のシグナルの面積比から求めた。具体的な測定条件は以下のとおりである。
測定温度:23℃
試料濃度:0.1g/1ml
積算回数:32回
緩和時間:5秒
溶媒:重水素ジメチルスルホキシド
化学シフト基準:重水素ジメチルスルホキシド中のメチル基の水素原子のシグナル(2.5ppm)
【0045】
[トレランス測定法]
ポリイソシアネート1gを量り取り、ここへミネラルスピリットA(新日本石油社製(株)製)を加えていき、濁ったところを終点とし、その時点のミネラルスピリットAの添加量(g)を求めた。
この添加量を用い、下記式(1)からトレランス(倍)を算出した。
トレランス=有機溶剤の所要量(g)/サンプル量(1g) (1)
【0046】
[2]2液型塗料用硬化剤の製造
[実施例1〜3、比較例1〜3]
製造例で得られた各ポリイソシアネートを用いて2液塗料用硬化剤CA−1〜6を配合した。配合割合を表1に示す。なお、シリケート化合物は、エチルシリケート48(コルコート社製)を用いた。
【0047】
[3]2液型塗料組成物の製造
上記実施例1〜3および比較例1〜3で調製した2液型塗料用硬化剤と主剤を配合して得られた2液型塗料組成物を、それぞれメチルエチルケトンで脱脂した鋼板(JIS G3141 商品名SPCC−SB、PF−1077処理、日本テストパネル工業社製)にアプリケーターを用い、ウェット膜厚100μmで塗布し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で7日間養生を行い、乾燥膜厚40〜50μmの塗膜を形成させた。得られた塗膜について、屋外暴露試験測定法について評価を行った。なお、主剤には、ネオペイントウレタン#5000AB(亜細亜工業社製)を用いた。主剤と硬化剤の仕込み比は、主剤の水酸基と硬化剤のイソシアネート基が当量となるように配合した。結果を表1に示す。
【0048】
[屋外暴露試験測定法]
試験条件
暴露場所:神奈川県横浜市
暴露期間:六ヶ月
【0049】
耐汚染性評価基準
◎:汚れがほとんどない
○:わずかに汚れが残る
△:汚れが少し目立つ
×:汚れがかなり目立つ
【0050】
[接触角測定法]
塗膜表面の親水性(濡れ性)を評価するために、前述のCA−1〜6を硬化剤に、アクリル樹脂(アクリディックHU−596、DIC社製)を主剤に用いて配合し(配合比:主剤/硬化剤=20/8、質量比)、それぞれアルミニウム板(商品名A−1050P、日本テストパネル工業社製)にアプリケーターを用い、ウェット膜厚100μmで塗布し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で3日間養生を行い、乾燥膜厚30〜40μmの塗膜を形成させた。この塗装サンプルを水に24時間浸漬して、浸漬前後の水に対する接触角を測定した。測定装置は、協和界面科学社製のCA−A型接触角測定装置を使用し、温度23℃、相対湿度50%の条件で行った。なお、測定は塗膜表面の5箇所で行い、得られた値の3点(最大値、最小値を除く)平均を接触角とした。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されるように、実施例の塗料組成物から得られた塗膜は、耐汚染性に優れていることがわかる。また、酸ハロゲン化物を配合したものは、短時間で接触角が小さくなり、塗膜表面の親水性の発現時間が短くなることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート(A)、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)、およびテトラアルコキシシラン又はその縮合物(C)を含み、
前記ポリイソシアネートが、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が100%であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
【請求項2】
ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜20の脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート(A)、アニリン点が70℃以下の低極性有機溶剤または混合アニリン点が5〜50℃の低極性有機溶剤(B)、およびテトラアルコキシシラン又はその縮合物(C)を含み、
前記ポリイソシアネートが、アロファネート基とイソシアヌレート基の合計モルにおけるアロファネート基のモル分率が90%超100%未満であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
酸ハロゲン化物(D)を配合してなる1又は2のポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの1項に記載のポリイソシアネート組成物と、ポリオール化合物とを含む2液型塗料組成物。

【公開番号】特開2010−215870(P2010−215870A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67207(P2009−67207)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】