説明

ポリイソプレンコンドーム

本発明は、 合成ポリイソプレンラテックス及び合成ポリイソプレンコンドームの製造方法に関する。ラテックスフィルムを製造するのに適した配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法であって、(a)合成ポリイソプレンラテックスを適切な配合剤と配合すること、(b)該ラテックスを熟成させること、及び任意に(c)該ラテックスを貯蔵することを含み;もし含まれている場合には、ステップ(a)、(b)及び(c)は、該ラテックスの前加硫を最小化させるために低温で実施されることで特徴づけられる。コンドームは、本発明の方法に従って製造されるラテックスから製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ポリイソプレンラテックス及び合成ポリイソプレンコンドームの製造方法、並びに前記方法から得られるコンドームに関する。
【背景技術】
【0002】
主に、シス-1,4-ポリイソプレンを含む天然ゴムは、例えば、外科用手袋、バルーン、コンドームなどの浸漬成形物の構築のための材料として幅広く使用されてきた。しかしながら、天然ゴムラテックスから成形した物品は、多くの健康問題と関連している。一部の使用者は、天然ゴムに対し(より具体的には、天然ゴムに残存するタンパク質に対して、又はフィルムの硬化を促進させるために添加する化学物質に対して)、痛み若しくは不快な症状を生じ得る、アレルギー反応又は他の悪影響(例えば、刺激性皮膚炎)を経験する。
【0003】
天然ゴムの代替物として、様々な合成エラストマーが使用されてきた。二トリル及びクロロプレン合成ゴム材料は、例えば、外科用手袋及び試験用手袋の製造に使用されてきた。しかしながら、これらの材料は、天然ゴムの高弾力性及び低伸張性のセット値(弾力性)を有さない。ポリウレタンも天然ゴムの代替物として使用されてきた。ポリウレタンは非常に高い引張強度を有するが、天然ゴムの弾力性及び低伸張性のセット値に乏しい。結果として、ポリウレタンは、天然ゴムの多くの用途に不適切であることが知られている。
【0004】
合成改良物が典型的に有する、例えば、天然ゴムに対して異なる分子量特性のために、天然ゴムの真の代替品の開発は難しいことが判明している。これは、換言すると、加硫天然ゴムフィルムに比べて、劣った特性バランスを有する合成ポリイソプレンフィルムを生じる。
特に、天然ゴム供給源から残存するタンパク質を含まないシス-1,4-ポリイソプレン(天然ゴムの主要成分)を利用する試みにおいて、結果的に得られる浸漬成形製品、特にコンドームは、該デバイスの重要な特徴である伸長特性に乏しく、かつ機械的に弱い可能性があることが知られている。例えば、US 3,917,746は、非修飾型のシス-1,4-ポリイソプレンから形成された製品は、該成形型から硬化した物品を取り外す際に変形し、かつゴムフィルムに機械的欠陥をもたらす筋及び溝を含むことを認識している。
【0005】
様々な文献が、使用されるポリイソプレンゴムの架橋を増加させることによって、合成ポリイソプレンゴムの引張強度を向上させる試みを記載している。
US 3215649は、硫黄並びに活性化因子としての酸化亜鉛と共に、アルキルジチオカルバミン酸亜鉛及びメルカプトベンゾチアゾール亜鉛を使用して硬化させることができるポリイソプレンゴム格子を開示する。該ラテックスは、40℃又は50℃(40℃で72時間、又は50℃で16時間)にて、適切な架橋密度へと前加硫される。この時間は、より高い温度を使用して短縮できるが、65〜70℃より高温では該ラテックスが崩壊し始めるので推奨されない。所与の最大引張強度値は460psi(約3MPa)であり、これはコンドームに関して不十分である。
【0006】
US 6329444は、ポリイソプレンゴムラテックス浸漬から製造されるが、硫黄含有成分を使用しないデバイスを開示する。一般的に、前記デバイスは、ペルオキシド、及び高温又は高エネルギー放射線を使用する。ペルオキシドを用いる硬化は、硬化中に前記の系から排除されるべき酸素を必要とし、溶融塩槽において(例えば180℃で)、ポリイソプレンゴムラテックスを浸漬させることを伴う。この手法は、従来型のラテックスコンドームの浸漬ラインの使用を妨げ、それゆえコンドームの製造に適さない。
【0007】
US 6618861は、ポリイソプレンゴムラテックスを含む一連の材料から、透明な手首部分を有する手袋の製造方法を開示する。所与の方法の詳細は限定的であるが、実施例2においてポリイソプレンゴムラテックスについての配合が与えられており、これは、5つの促進剤(テトラメチルチウラムジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、及び1,2-ジフェニル-2-チオ尿素)、並びに加硫剤として硫黄及び酸化亜鉛を包含する。このポリイソプレンゴムラテックスから製造されたフィルムの引張特性は、引張強度13.22MPa、破断伸長点1028%、及び300%歪度での応力が1.03MPaとして与えられている。この方法で得られる引張強度は、コンドームに関して不十分である。プロセスパラメータに関する教示は、本質的に存在しない。
【0008】
WO 02/090430は、ジチオカルバメート、チアゾール及びグアニジン配合物を含む、新規な3部の促進剤系を使用する、ポリイソプレン物品を製造する方法を開示する。3つの好ましい促進剤成分のいずれかの欠落は、顕著な引張強度の減少をもたらすことが明確に教示されており、これはそれゆえ、該3部の促進剤系の使用が必須であるとの教示である。該方法は、配合後に、20℃より高い、好ましくは25〜30℃への加熱を必要とする前加硫工程を含み、かつ浸漬も20℃以上の温度で実行される。20℃の前硬化温度は、引張強度値の低下(15〜17MPaに相当)をもたらし、これはより高い温度が使用されているであろうことを示唆する。 前記の特許請求の範囲された方法を使用して得られた引張強度で報告された最も高いものは、周囲温度で6日間貯蔵した後に3939psi(27.2MPaに相当)である。コンドームについては、より高い引張強度が望ましい。
【0009】
WO 03/072340は、ジイソプロピルキサントゲンポリスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛の1つ以上から選択される促進剤を使用して硬化されたポリイソプレンゴムラテックスから製造されたコンドームを開示する。該明細書は、硫黄、酸化亜鉛及びジチオカルバメートを硬化パッケージとして使用して製造された、先行技術のポリイソプレン物品に言及している。しかしながら、該ラテックスは、配合の数日以内に凝固する低い貯蔵性を示すものとして記載されている。
【0010】
老化に伴う物理特性の劣化を示さないコンドーム、及び配合されたポリイソプレンゴムラテックスの熟成に伴う特性の劣化を示さないコンドームについての必要性が記載されている。該特許請求の範囲された配合がこれらの特性を提供することを示すデータは該明細書において提供されておらず、実際に、該コンドーム又は該ラテックスの老化の影響についてのデータは提供されていない。
該明細書はさらに、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛などのジチオカルバミン酸亜鉛を使用する、従来型の促進剤系(おそらく、キサントゲン酸塩は含有していない)が、ポリイソプレンゴムラテックスの許容可能な浸漬時間を顕著に短くさせることを記載している。
【0011】
所与のプロセスパラメータは、第1の浸漬をして60℃で3〜4分間乾燥させ、室温以下に冷却し、それから第2の浸漬を60℃で3〜4分間乾燥させ、ビードが形成され、該コンドームを60℃で1分間浸出させ、その後60℃〜65℃で1分間の最後の浸出前に、300℃[sic]で5分間硬化させることを必要とする。最初のラテックスは、華氏77度(25℃)の温度を有することが記載されている(表2)。
US 6828387は、ポリイソプレンゴムラテックスから物品を製造する方法を開示する。US 6828387は、ジチオカルバメート、チアゾール及びグアニジンを含む、3部の促進剤系を使用し、該配合ラテックスは、ポリイソプレンゴムラテックスの典型的な3〜5日に比較して、8日までの延長された貯蔵安定性を示すことを記載している。
【0012】
35℃未満で90〜150分間実施することで進む最初の前硬化が存在し、該配合ラテックスは15℃〜20℃で8日までの間、貯蔵することができる。実施例において、該ラテックスは、25℃の温度で配合され、25度より低い温度で維持される。凝固剤−被覆剤を有する手袋浸漬型を、周囲温度又は20℃〜25℃の温度で配合ポリイソプレンゴムラテックスに浸漬させ、70℃で1分間加熱してから65℃で5分間浸出させ、その後120℃で約20分間での最終硬化前に、70℃で5分間乾燥させる。
【0013】
先に記載した全ての方法において、ある程度の前加硫がラテックスへと導入される。本発明者らは今や、低レベルの前加硫でさえも、製品の物理特性に顕著な有害な影響を有し得ることを見いだしている。この問題を認識することにより、本発明者らは今や、該問題を実質的に克服又は最小化する方法を考え出した。
【発明の開示】
【0014】
本発明の第1の態様によると、ラテックスフィルムを製造するのに適切な配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法が提供され、該方法は、(a)合成ポリイソプレンラテックスを適切な配合剤と配合すること、(b)該ラテックスを熟成させること、及び任意に(c)該ラテックスを貯蔵することを含み;もし含まれている場合には、ステップ(a)、(b)及び(c)は、該ラテックスの前加硫を最小化させるために低温で実施されることで特徴づけられる。本発明は、このようにして提供された配合ラテックス由来の薄フィルム物品、特にコンドームも含む。
【0015】
また、第2の態様において、合成ポリイソプレンコンドームの製造方法が提供され、該方法は、適切に成形された浸漬型を配合合成ポリイソプレンラテックスに浸漬すること、及び該ラテックスを加硫してコンドームを成形することを含み、製造中及び任意に貯蔵中、該ラテックスは該ラテックスの前加硫を最小化させるために低温で維持されることで特徴づけられる。該ラテックスの製造は、本発明の第1の態様に適切に従う。
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、先に概要を示した先行技術の方法の欠点を克服し得る、すなわち、ラテックスの前加硫量を制御することによって、非常に低いレベルへと実質的に減少させ得ることを見出した。本発明者らはそれが、前加硫がほとんど又は実質的に起こらないような温度にラテックスを冷却することにより達成し得ることを見出した。「低温」とは、きわめて低いレベルの前加硫が起こる温度をいい、典型的には、周囲温度又は室温(25℃)数度低い程度の℃であり、例えば20℃より低い温度の使用が好ましい。
【0017】
ラテックスを、約17℃以下、より好ましくは15℃以下の温度に維持又は冷却するのが好ましい。約15℃±2℃の温度が特に好ましい。
本発明者らは、非常に低いレベルの前加硫を受けたラテックスから製造されたラテックスフィルム、特にコンドームが、多くの有益な特性を有することを見出している。硬化フィルムは、破裂の体積及び圧力;及び優れた引張特性の観点から、よりよい破裂特性を有し、これらの特性は、老化後70℃までの温度でも維持される。これらの特性は、潤滑なコンドーム及び乾燥したコンドームの両方で見出される。
【0018】
また、本発明は、「マッドクラッキング」などの最低限のフィルム欠陥を生じ、かつ、フィルム厚に望ましくないばらつきをもたらし得るラテックスの非均一的な流れを最小化させる。
適切には、合成ポリイソプレンラテックスは、本方法の全ての準備段階、すなわち、加硫点までの、ラテックスの配合の間、熟成の間、予備タンクでの貯蔵の間、浸漬ラインへの移送の間、及び浸漬中の可能な限り、低温、特に約15℃±2℃で維持される。
【0019】
したがって、本発明の第3の態様は、ラテックスフィルムの製造に適切な配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法を提供し、該方法は、(a)合成ポリイソプレンラテックスを適切な配合剤と配合すること、(b)該ラテックスを熟成させること、及び任意に(c)該ラテックスを貯蔵することを含み;もし含まれている場合には、ステップ(a)、(b)及び(c)は、20℃未満、好ましくは約17℃以下、適切には約15℃±2℃で実行されることで特徴づけられる。
また、第4の態様において、合成ポリイソプレンコンドームの製造方法が提供され、該方法は、適切に成形された浸漬型を配合合成ポリイソプレンラテックスに浸漬すること、及び該ラテックスを加硫してコンドームを成形することを含み、製造中及び任意に貯蔵中、該ラテックスは20℃未満、好ましくは約17℃以下、適切には約15℃±2℃で維持されることで特徴づけられる。
【0020】
ラテックスの前加硫量の1つの測定は架橋密度であり、これは例えば、前加硫緩和弾性率測定(prevulcanisate relaxed modulus measurement)(PRM)で測定することができる。緩和弾性率の測定方法は、Gorton及びPendleの文献 (Natural Rubber Technology, 1976, 7(4), 77-81)により考案された当初の方法に基づいた。前加硫から流延されたフィルムの緩和弾性率の測定は、該フィルムにおける加硫状態、すなわち該フィルムの架橋密度の再現可能な指標を提供する。PRMは、下記手順を使用して測定することができる:
1.確実にラテックスの撹拌する
2.(既知の外周がCセンチメートルの)試験管などの先の丸いチューブをとり、それをラテックスに浸漬させ、ゆっくりと着実に引き抜く
3.余剰のラテックスを落とし、前記チューブをオーブンの中に70℃で2.5分間置く
4.ティッシュで該チューブの開口端の縁の余剰のラテックスをふき取る
5.前記開口端から該チューブの長さまでのラテックスフィルムを巻いてリングを形成し、該チューブから該リングを外す
6.前記リングを、化学天秤上で秤量し、その質量(Mグラム)を求める
7.前記リングを引張テスター上の適切な台の上に置き、該リングを100%伸び率まで引き伸ばして維持する
8.1分後、前記リングに働いたニュートン負荷を測定する
9.該リングの読み取った負荷及び質量を使用して、下記のようにPRMを(メガパスカルで)計算する:
【数1】

式中、
F=100%伸び率で1分後に該リングに働いた負荷(N)
d=該ラテックスリングの密度(g.cm-3
C=浸漬チューブの外周(cm)
M=ラテックスリングの質量(g)
【0021】
典型的には、PRMは、4つのサンプル及び該記録平均で決定される。該試験は、例えば、Malaysian Rubber Board (www.lgm.gov.mv/services/rptu/rrimrelax.htmlを参照されたい)から入手可能なRRIM Relaxed Modulus Tester, Model M403を使用して実施できる。
適切には、ラテックスのPRMは、約0.1MPaを超えるべきではなく、ラテックスの前加硫を最低限化することは、実質的にこのレベル以下のPRM(及び、暗示的に架橋密度)を維持することを本質的にいう。
【0022】
約0.08〜約0.10MPaのPRM値が好ましく、それゆえこの特性を有するラテックスが特に適切である。配合ラテックスの熟成時間は、所望のPRM(架橋密度)を与えるように、適宜調整することができる。
したがって、本発明の第5の態様はまた、ラテックスフィルムを製造するために適切な配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法を提供し、該方法は、(a)合成ポリイソプレンラテックスを適切な配合剤と配合すること、(b)該ラテックスを熟成させること、及び任意に(c)該ラテックスを貯蔵することを含み;もし含まれている場合には、ステップ(a)、(b)及び(c)は、該ラテックスのPRMが約0.1MPa以下であるような低温で実施されることで特徴づけられる。
【0023】
また、第6の態様は、合成ポリイソプレンコンドームの製造方法を提供し、該方法は、適切に成形された浸漬型を配合合成ポリイソプレンラテックスに浸漬すること、及び該ラテックスを加硫してコンドームを成形することを含み、上記製造中及び任意に貯蔵中、該ラテックスは、該ラテックスのPRMが約0.1MPa以下であるような低温で維持されることで特徴づけられる。
本発明は、本発明の第2の態様、第4の態様及び第6の態様の方法により得られるコンドームも提供し、かつ、本発明の第1の態様、第3の態様及び第5の態様によって提供された配合合成ポリイソプレンラテックスから得られるラテックスフィルム物品、特にコンドームも提供する。それゆえ、本発明は、ラテックスフィルム物品、特にコンドームの製造に関して本明細書にて提供される配合ラテックスの使用を包含する。
【0024】
背景として、ラテックスフィルムを製造するための3つの基本的な配合アプローチがある。
a)非加硫ラテックス
該ラテックスは加熱せずに配合し(すなわち、硬化する化学物質をラテックスに混合する)、該ラテックスをそれから浸漬プラントに添加し、該生成物を浸漬させ、最終的にプラントにて加硫する(硬化させる)。
b)部分前加硫ラテックス
該ラテックスは、高温で配合して前加硫して熟成させ、その後所望であれば浸漬プラントへの添加前にさらに配合し、生成物を浸漬させて加硫を完了する。これは、最も一般的なアプローチである。
c)完全前加硫ラテックス
該ラテックスは、プラント外で配合され、完全に加硫される。その後、浸漬プラントに添加し、生成物を浸漬させる。限定ではないが、加硫は、プラントにて実施する。
【0025】
上記の全ては、ラテックスの凝固剤を使用しない「ストレートディッピング」であり得るか、又は凝固剤への浸漬がラテックス浸漬に先行する「凝固剤ディッピング」であり得る。一般的に、ストレートディッピングはコンドームなどの薄壁製品の製造に使用され、凝固剤ディッピングは手袋などのより厚い製品の製造に使用される。
天然ゴムラテックス(NRL)に関する典型的な前加硫工程を以下に示す:
1)前加硫−配合剤をNRLに添加し、ラテックスを撹拌しながら60℃±2℃に加熱して、この温度で14時間維持する;
2)熟成−前記ラテックスを周囲温度まで冷却し、(必要に応じて)さらなる加硫活性剤を添加し、該ラテックスを周囲温度にて6日〜10日間熟成させる;
3)貯蔵(又は、配合の最終段階)−必要に応じてさらに加硫活性剤を添加し、前記ラテックスを40℃±2℃で18時間加熱する;
4)移行−前記ラテックスを周囲温度に冷却し、粘度を調整し、該ラテックスをプラントの浸漬タンクに移す;
5)浸漬−前記浸漬タンク内のラテックスを周囲温度(典型的には20℃より高い)で維持する。
【0026】
先に記載したように、特定の先行技術も合成ポリイソプレンラテックスからの製造物品又はその製造方法を開示し、その各々の場合においては、配合ラテックスを熟成させ、ある程度の前加硫を該ラテックスに導入する。本発明者らは、低レベルの前加硫でさえも浸漬前に導入することは、製造物品に、不適切な物理特性、又は該特性が高温老化又は長期貯蔵で急速に劣化するような顕著な影響を与え得ることを見出している。さらに、前加硫は、ポリイソプレンラテックスのフィルム形成特性に有害な影響を与えることがあり得る。
【0027】
本方法用の出発物質は全て、容易に商業的に利用可能であり、任煮の適切な供給源から得ることができる。例えば、未加工のポリイソプレンラテックスは、Kraton社, Houston, Texasから得ることができる。
当業界で理解されるように、ラテックスフィルムを提供するために後に硬化させることのできるラテックスを与えるために、未加工のラテックスは、適切な配合剤と配合されなければならない。一般的には、典型的な配合ラテックスの配合は下記の通りである:
【表1】

【0028】
上記配合は例示のためにのみ与えられ、原理的には任意の適切な配合合成ポリイソプレンラテックスを使用してよいことが理解される。ポリイソプレンは主要な(又は唯一の)ゴム重合体であるが、本発明は、少量の他の適切な共重合体の存在を除外しないことに留意されるべきである。
任意の促進剤又は促進剤の組み合わせを、前記配合に使用することができる。しかしながら、本発明者らは、ラテックスの前加硫を最小化するために、配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法の配合工程、熟成工程及び任意に貯蔵工程を低温で実施した場合に、一種類の促進剤を使用することが可能であることを見出している。したがって、組み合わせよりも、一種類の促進剤を使用することが好ましい。例えば、該一種類の促進剤は、適切にはジチオカルバメート、好ましくはジブチルジチオカルバミン酸亜鉛である。チアゾール又はグアニジンを使用することは好ましくない。
【0029】
配合工程は、未加工のラテックスを望ましい配合剤と混合することを含み、ラテックスの温度を制御できる任意の適切な容器内で実行することができる。配合中、ラテックスは、いかなる前加硫をも最小化させるために、約17℃以下、好ましくは約15℃±2℃で適切に維持される。任意の適切な配合剤を使用してよく、当業者は、利用可能な適切な化合物をよく承知している。
配合の後、典型的には、ラテックスを熟成させる。例えば、これは、典型的には、浸漬タンクへの移行前に、ある程度の時間、該配合ラテックスの貯蔵することを含む。好ましくは、熟成時間は最低限である。適切な時間は、約24〜48時間である。熟成時間は、ラテックスの架橋密度の進行による。熟成時間については、約0.1MPa以下、より好ましくは0.08〜0.1MPaのPRMを生じる時間よりも長くないことが好ましいが、該PRMは、所望であれば前記範囲よりも低くてよい。熟成は、低温、好ましくは20℃より低い温度、より好ましくは約17℃以下、より好ましくは約15℃±2℃で、例えば24〜48時間実施されるべきである。
【0030】
ラテックスの最小限の架橋/熟成は、ラテックスのレオロジーの正確な調節を可能にし、「マッドクラッキング」及び非均一的な流れなどの欠陥(後者は、フィルムに厚さのばらつきをもたらす)を防ぐのを助ける。
従来の架橋密度測定は、典型的には、ラテックスフィルムから切り出すべき特定の直径のディスクを必要とする。これはその後、トルエン又はn-ヘプタンなどの溶媒に入れられ、フィルムの膨潤が起こる。該ディスクの直径は、膨潤が平衡化したときに測定し、最終直径及び初期直径を使用して「膨潤指数」を計算する。しかしながら、本発明のフィルムは全て、これらの炭化水素溶媒中で膨潤させたときに崩壊し、これは、該フィルムの架橋密度がきわめて低いレベルであることを実証するものである。架橋密度測定を記載している先行技術は常に、溶媒中でのフィルムサンプルの膨潤を示している。これは、それゆえ、前記先行技術が、本発明に従って製造されたフィルムよりも架橋レベルが明らかに高いものを開発していたことを実証するものである。
【0031】
配合ラテックスの熟成後、ラテックスへの成形心棒の浸漬が実行される浸漬タンクへの移行前に、リザーブタンク又はストレージタンクへと任意に移してよい。配合ラテックスのいかなる貯蔵も、低温、好ましくは配合及び熟成に関して先に記載した温度で実施すべきである。本質的には、全てのさらなる前加硫を回避するために、いったん最大レベルに達したら、心棒上の配合ラテックスの加硫まで、該ラテックスを低温で維持することはきわめて好ましい。好ましくは、加硫までの全ての工程の間、ラテックスは約15℃±2℃で維持される。
いったん熟成ラテックスを浸漬タンクに移したら、全てのさらなる熟成を回避するために、できるだけすぐに生成物の浸漬を始めることが好ましい。浸漬タンク内の温度は、好ましくは15℃、より好ましくは15℃未満である。
【0032】
ストレートディッピング−すなわち、ラテックスの凝固を使用しないことが好ましい。任意の適切な浸漬数を使用してよいが、本発明者らは、少なくとも2回(すなわち、ダブルディッピング)、ラテックスに浸漬させることを好む。第1の浸漬後、フィルムを伴う心棒を、例えばそれらを乾燥オーブンに通すことによって、好ましく乾燥させる。その後、それらを、さらなる浸漬の前に、例えば冷却ユニットを通すことによって、好ましくは約15℃±2℃に好ましく冷却する。これは、第2浸漬タンク中でラテックスのあらゆる加熱を妨げる。この冷却工程は、任意の次の浸漬前に繰り返してよい。
【0033】
浸漬及び乾燥の後、従来の硬化手法に従って、フィルムの後加硫を達成してよい。例えば、フィルムは、ある時間、高温で、典型的には10分間、120〜130℃で加熱してよい。
本発明は、優れた物理特性を有する高品質コンドームの製造を可能にする一方で、従来の系のさらなる利用、例えば従来の促進剤系を使用できる、
下記の表は、本発明のコンドームの優れた特性を説明する:
【0034】
【表2】

【0035】
「後加硫」ポリイソプレンラテックスは、実施例3に記載されているように、最小限の前加硫を受けている。その結果得られたコンドームの優れた特性は、明らかに明白である。
したがって、本発明は、優れた物理特性を有する合成ポリイソプレンコンドームも提供する。特に、本発明は、24MPa以上の初期引張強度、又は70℃で7日間老化した後に23MPa以上の引張強度、若しくは50℃で3ヶ月老化した後に20MPa以上の引張強度を有する合成ポリイソプレンコンドームを提供する。あるいは、しかし好ましくはさらに、該コンドームは、1.3kPa以上の初期破裂圧力、又は70℃で7日間の老化後に1.2kPa以上の破裂圧力、若しくは50℃で3ヶ月間の老化後に1.4kPa以上の破裂圧力も有する。あるいは、しかし好ましくはさらに、該コンドームは、44dm3以上の初期破裂体積、又は70℃で7日間の老化後に41dm3以上の破裂体積、若しくは50℃以上で3ヶ月間の老化後に42dm3の破裂体積も有する。あるいは、しかし好ましくはさらに、該コンドームは、1000%以上の初期破断点伸長値、又は70℃で7日間若しくは50℃で3ヶ月間の老化後に1000%の破断点伸長値も有する。好ましくは、該コンドームは、先に言及した引張強度特性、破裂圧力特性、破裂体積特性及び破断点伸長特性の少なくとも2つ又は3つを有する。より好ましくは、定義した4つ全ての特性が存在する。
【0036】
【表3】

【0037】
表3のデータは、本発明の方法に従って製造され、それぞれ30℃及び50℃で完全に包装されて貯蔵されたコンドームの安定性を明示する。該コンドームの優れた特性は、明白である。
したがって、本発明の一実施態様は、
(a)30MPa以上の初期引張強度、又は70℃で28日間老化した後の23MPa以上の引張強度、若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の27MPa以上の引張強度;
(b)1.7kPa以上の初期破裂圧力、又は70℃で28日間老化した後の1.3kPa以上の破裂圧力、若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の1.5kPa以上の破裂圧力c;
(c)55dm3以上の初期破裂体積、又は70℃で28日間老化した後の55dm3以上の破裂体積、若しくは50℃以上で6ヶ月間老化した後の45dm3以上の破裂体積;又は、
(d)1000%以上の初期破断点伸長値、又は70℃で28日間若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の1000%以上の破断点伸長値;
から選択される1以上の物理特性を含む、合成ポリイソプレンコンドームも提供する。
【0038】
好ましくは、該コンドームは、先に言及した引張強度(a)、破裂圧力(b)、破裂体積(c)及び破断点伸長(d)の特性の少なくとも2つ又は3つを有する。例えば、該コンドームは、先に定義した特性(a)及び(b)を有することができ、又は該コンドームは特性(a)及び(c)を有することができ、又は該コンドームは特性(a)及び(d)を有することができ、又は該コンドームは特性(b)及び(c)を有することができ、又は該コンドームは先に言及した特性(b)及び(d)、若しくは特性(c)及び(d)を有することができる。より好ましくは、該コンドームは、先に定義した特性の3つを有することができ、例えば、該コンドームは、先に定義した特性(a)、(b)及び(c)、又は先に定義した特性(a)、(b)及び(d)、又は先に定義した特性(b)、(c)及び(d)、又は該コンドームは先に定義した特性(a)、(c)及び(d)を有することができる。さらにより好ましくは、先に定義した特性(a)、(b)、(c)及び(d)の4つ全てが存在する。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本発明を説明する:
(実施例1)
典型的な配合は以下のようなものである:
【表4】

1 ゴムの1/100部
2 セチルステアリン酸/エチレンオキシド縮合物
3 アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
4 p-クレゾール及びジシクロペンタジエンのブチル化された反応副産物の水性分散液
【0040】
(実施例2)
実施例1に従う配合の具体的実施例は以下のようなものである:
【表5】

1 ゴムの1/100部
2 セチルステアリン酸/エチレンオキシド縮合物
3 アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
4 p-クレゾール及びジシクロペンタジエンのブチル化された反応副産物の水性分散液
【0041】
(実施例3)
好ましい一製造方法は、以下のようなものである:
1 合成ポリイソプレンラテックスを15℃±2℃に冷却し、その後、実施例1の成分と配合する。
2 その後、該配合合成ポリイソプレンラテックスを、PRMの必要なレベルに達するまで、15℃±2℃で24〜48時間貯蔵する。
3 その後、該合成ポリイソプレンラテックスを予備タンクへと移し、15℃±2℃で維持する。
4 その後、該合成ポリイソプレンラテックスを浸漬タンクへと移し、全てのさらなる熟成を回避するためにできるだけすぐに生成物の浸漬をはじめる;該タンク内のラテックスを15℃未満で維持する。
5 第1の浸漬後、前記フィルムの浸漬心棒を乾燥オーブンに通す。
6 その後、第2の浸漬タンク内の合成ポリイソプレンラテックスを加熱させないために、前記浸漬心棒を冷却ユニットに通して15℃±2℃へと冷却する。
7 第2の浸漬後、前記浸漬心棒上のフィルムを乾燥させ、約120℃〜130℃で約10分間加硫する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックスフィルムを製造するのに適した配合合成ポリイソプレンラテックスの製造方法であって、(a)合成ポリイソプレンラテックスを適切な配合剤と配合すること、(b)該ラテックスを熟成させること、及び任意に(c)該ラテックスを貯蔵することを含み;もし含まれている場合には、ステップ(a)、(b)及び(c)は、該ラテックスの前加硫を最小化させるために低温で実施されることで特徴づけられる、前記方法。
【請求項2】
合成ポリイソプレンコンドームの製造方法であって、適切に成形された浸漬型を配合合成ポリイソプレンラテックスに浸漬すること、及び該ラテックスを加硫してコンドームを成形することを含み、製造中及び任意に貯蔵中、該ラテックスは該ラテックスの前加硫を最小化させるために低温で維持されることで特徴づけられる、前記方法。
【請求項3】
前記配合合成ポリイソプレンラテックスが、請求項1記載の方法によって製造される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記合成ポリイソプレンラテックスが、加硫点までの、前記ラテックスの配合の間、熟成の間、予備タンクでの貯蔵の間、浸漬ラインへの移送の間、及び浸漬中の可能な限り、低温で維持される、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記ラテックスが、20℃未満の温度で維持されるか、又は20℃未満の温度に冷却される、請求項1、2、3又は4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ラテックスが、約17℃以下の温度で維持されるか、又は約17℃以下の温度に冷却される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ラテックスが、約15℃以下の温度で維持されるか、又は約15℃以下の温度に冷却される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ラテックスが、約15℃±2℃の温度で維持されるか、又は約15℃±2℃の温度に冷却される、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
加硫前の全ての段階の間、前記ラテックスが約15℃±2℃で維持される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記温度が、前記ラテックスのPRMが約0.1MPa以下であるような温度で特徴づけられる、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記温度が、前記ラテックスのPRMが約0.08〜0.10MPaであるような温度で特徴づけられる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ラテックスが、約24〜約48時間熟成される、上記のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記熟成時間が、約0.1MPa以下の前記ラテックスのPRMを生じる時間よりも長くない、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記熟成時間が、約0.08〜0.1MPaのPRMを生じる時間よりも長くない、請求項12記載の方法。
【請求項15】
浸漬が、前記ラテックスの凝固を伴わずに実施される、請求項2〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
浸漬が、少なくとも2回実施される、請求項2〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記ラテックスが、浸漬と浸漬の間に冷却される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
一種類の促進剤が使用される、上記のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項19】
前記促進剤が、ジチオカルバメートである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記促進剤が、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)30MPa以上の初期引張強度、又は70℃で28日間老化した後の23MPa以上の引張強度、若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の27MPa以上の引張強度;
(b)1.7kPa以上の初期破裂圧力、又は70℃で28日間老化した後の1.3kPa以上の破裂圧力、若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の1.5kPa以上の引張強度;
(c)55dm3以上の初期破裂体積、又は70℃で28日間老化した後の55dm3以上の破裂体積、若しくは50℃以上で6ヶ月間老化した後の45dm3以上の破裂体積;又は、
(d)1000%以上の初期破断点伸長値、又は70℃で28日間若しくは50℃で6ヶ月間老化した後の1000%以上の破断点伸長値;
から選択される1以上の物理特性を含む、合成ポリイソプレンコンドーム。
【請求項22】
前記コンドームが、特性(a)、(b)、(c)及び(d)の2つ以上を含む、請求項21記載のコンドーム。
【請求項23】
前記コンドームが、特性(a)、(b)、(c)及び(d)の3つ以上を含む、請求項21又は22記載のコンドーム。
【請求項24】
前記コンドームが、特性(a)、(b)、(c)及び(d)を含む、請求項21、22又は23のいずれか1項記載のコンドーム。
【請求項25】
請求項1記載の方法、又は請求項5〜14のいずれか1項記載の方法で製造された配合合成ポリイソプレンラテックスから得られる、ラテックスフィルム物品。
【請求項26】
前記物品がコンドームである、請求項25記載のラテックスフィルム物品。
【請求項27】
請求項2〜17のいずれか1項記載の方法で得られるコンドーム。
【請求項28】
ラテックスフィルム物品を製造するための、請求項1記載の方法、又は請求項5〜14のいずれか1項記載の方法によって製造された配合ラテックスの使用。
【請求項29】
前記ラテックスフィルム物品がコンドームである、請求項28記載の使用。

【公表番号】特表2009−531509(P2009−531509A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502181(P2009−502181)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000842
【国際公開番号】WO2007/113463
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508292660)
【Fターム(参考)】