説明

ポリイミドのアルカリ加水分解方法およびポリイミド金属積層体からの低分子量体および金属の回収方法

【課題】大量に廃棄されている産業廃棄物のうちポリイミド樹脂あるいはポリイミドを金属と共にアルカリ加水分解処理する方法、およびそのアルカリ加水分解物の低分子量体および金属を再利用可能なリサイクル原料として回収する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ポリイミドを含む平均粒径が30μm以下の粉末に塩基性水溶液を接触させることを特徴とするポリイミドのアルカリ加水分解方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大量に廃棄されている産業廃棄物のうちポリイミド樹脂あるいはポリイミドを金属と共にアルカリ加水分解処理する方法、およびそのアルカリ加水分解物の低分子量体および金属を再利用可能なリサイクル原料として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドの成形品あるいはフィルムは、優れた耐薬品性を有するが故にあらゆる溶媒に不溶で、また優れた耐熱性を有するが故に、ポリスチレンなどの熱可塑性プラスチックのように溶融して再利用することが困難であった。
【0003】
したがって再生処理や再資源化が困難で不適なものとして、そのまま埋め立て廃棄処分されるか又は焼却廃棄処分されてきた。しかしながら、埋め立て廃棄処分には用地の確保や、あるいは焼却処分には焼却炉が必要であり、地球環境に対する影響が大きい。特に近年の地球環境汚染問題や資源枯渇の問題が叫ばれるようになって以来、有効に再利用するリサイクル方法が重要な技術課題になってきている。
【0004】
ポリイミドを化学的に分解するケミカルリサイクルの検討としては、以下の様な手段や技術が開示されている。
【0005】
例えば、オートクレーブなどを用いて、ポリイミドを水またはアルコールと共存させて110℃以上、1MPa以上の高温高圧条件で低分子量体に分解する方法が開示されている(特許文献1参照。)。
【0006】
また、ポリイミド系樹脂を有する部材と水を入れたオートクレーブ中で200℃以上400℃以下、かつその温度での水の飽和水蒸気圧以上の条件で分解する方法が開示されている(特許文献2参照。)。
【0007】
また、ポリイミドなどの高分子含有固体を、溶解パラメータが18(MJ/m1/2以上の溶解パラメータを有する溶剤を含有する高分子分解材料に、200℃以上の温度で接触させて、前記高分子固体を分解する方法が開示されている(特許文献3参照。)。
【0008】
また、高分子分解材料として極性の大きい溶剤を用いるかあるいは超臨界水又は亜臨界水などを用いて、200〜700℃の高温、および2〜100MPaの高圧状態で保持することで、ポリイミドを加水分解する方法などが開示されている(特許文献4参照。)。
【0009】
また、亜臨界水や超臨界水などの活性化した水を用いて、廃棄物を有価物に変える研究も強力に押し進められている。温度374℃以上で圧力22.1MPa以上の臨界点以上の水である超臨界水、それ以下の高温・高圧の水を亜臨界水と呼ぶが、亜臨界水は、水のイオン積が大きくなり250℃付近で常温の約1000倍になるためこの温度付近での加
水分解力が最大になり、有機物は高速で分解して小さなタンパク質やペプチド,アミノ酸,有機酸,糖などの有価物に変わること、あるいは水でありながら強力な有機溶剤の働きもして有機物中の油分を100%抽出できること、さらに高温・高圧になり臨界点付近になると加水分解力が減少し熱分解力が大きくなることや、超臨界水では少量の酸化物の存在で強力な酸化力を発揮し水中で有機物が燃焼するかの様に瞬時に二酸化炭素になることなど、超臨界水や亜臨界水を利用した廃棄物の再資源化やエネルギー化について、開示されている(非特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながらこれらの手段では、高温高圧条件であるが故に工業的には大容量の高温高圧反応容器などの特殊な設備を必用とするために、設備投資が高額となることが問題点として挙げられる。あるいは、溶解パラメータが18(MJ/m1/2以上の溶剤や超臨界水や亜臨界水を用いるためには、高度な技術も必用であることも、問題点として挙げられる。また、大容量の高温高圧設備は、安全に維持する為のメンテナンスが必須で高度な運転技術も必要とする等の問題点も挙げられる。
【0011】
一方、酸およびアルカリによる加水分解手段については、中和工程が必用となることから、分解と中和に用いた薬品に起因する分解低分子量体への不純物の混入が、問題点として一般的に認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−163973号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2002−284924号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平2002−256104号公報(第2頁)
【特許文献4】特開平10−287766号公報(第2頁)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「未来材料」第4卷9号(2004年9月)/エヌ・ティー・エス、亜臨界水の応用と展望、(第34−38頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
大量に廃棄されている産業廃棄物のうちポリイミド樹脂あるいはポリイミドを金属と共にアルカリ加水分解処理する方法、およびそのアルカリ加水分解物の低分子量体および金属を再利用可能なリサイクル原料として回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ポリイミドを含む平均粒径が30μm以下の粉末に塩基性水溶液を接触させることを特徴とするポリイミドのアルカリ加水分解方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリイミド分解方法は微細に粉砕されたポリイミドと金属の積層体を柔和な条件でポリイミドを分解することでポリイミドの低分子量体および金属を回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のポリイミドのアルカリ加水分解方法および低分子量体の回収方法について詳細に説明する。
【0018】
(A)ポリイミド
本発明で分解対象となるポリイミドとは、ポリマー主鎖にイミド基結合を反復単位として有するポリイミド系の廃棄物全般のことであり、芳香族ポリイミド系樹脂の成形品やフィルム製品の廃棄物、あるいは製造工程から排出される芳香族ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0019】
たとえば、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするポリイミドが挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
また、下式(2)で表される繰り返し単位の様に、一部のイミド基が閉環せずにポリアミド酸で留まっている繰り返し単位を含んでいても良い。
【0022】
【化2】

【0023】
(式(1)と(2)中、Arは下式(3)で表される4価の芳香族残基であり、Arは下式(4)で表される2価の芳香族残基である。)
【0024】
【化3】

【0025】
(式(3)中のXは、−O−、−CO−、−SO−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、等から選ばれる2価の有機基である。)
【0026】
【化4】

【0027】
(式(4)中のYは、直接結合、−O−、−CO−、−SO−、−CH−、−C(
CH−、−C(CF−、等から選ばれる2価の有機基である。)
【0028】
一方、ポリイミドの廃棄物としては、ガラス繊維や金属繊維、金属粒子(各種金属酸化物)、黒鉛、無機フィラー(二硫化モリブデン、ワラステナイト、カオリン、マイカなど)、またはテフロン(登録商標)等の他樹脂、あるいは炭素繊維など、無機系や有機系の充填材を含んでいる状態のものも挙げることができる。
【0029】
あるいはまた、金属等のインサート成形品や、金属や異種樹脂等が接続されたり組み付けられたポリイミド廃棄物であっても、本発明の目的が達成される限り問題はない。すなわち、本発明でアルカリ加水分解によって得られる非溶解物は、そのまま再利用してもよいし、付着物質の除去操作等をしてから再利用してもよい。
【0030】
本発明で分解対象となるポリイミドは、化学構造の明確なポリイミドの廃棄物の方が好ましい。例えば、樹脂成形品の製造工程(成形工程)での寸法規格外れ品やあるいはフィルム製造工程における端数などであって、化学構造や添加物の配合処方が明確なポリイミドの廃棄物の方が、本発明におけるアルカリ加水分解に要する薬品量が算出し易く、より少ない薬品使用量でアルカリ分解することができるので好ましい。
【0031】
(B)水
水は、本発明でポリイミドをアルカリ加水分解するために用いる反応溶媒である。この水は、特に制限は無いが、好ましくは蒸留水あるいはイオン交換水など精製されたもので不純物の少ない水が好ましい。たとえば、カルシウムやマグネシウムなどのイオンが比較的多量に存在している硬水よりは、これらイオン含有量の少ない軟水の方が好ましい。
【0032】
特にpH(水素イオン濃度)は、6〜8程度が好ましい。さらに好ましくは7〜8程度であって、後述する塩基性物質を添加した場合に添加量に相当する水酸イオン(OH)を生成する状態であるものが好ましい。
【0033】
(C)水酸イオン
本発明で、水酸イオン(OH)とは、次項の塩基性物質を水中に添加した時に生成される水酸イオン(OH)を示す。水酸イオン(OH)の量は、次項の塩基性物質を水中に添加した量によって変化する量である。本発明では、水酸イオン(OH)の量は、分解対象となるポリイミド中のイミド基1モルに対し1〜10倍モルに相当する量の水酸イオン(OH)の量である。
【0034】
最も好ましい水酸イオン(OH)の量は、分解対象となるポリイミド中のイミド基1モルに対し2〜6倍モルに相当する量の水酸イオン(OH)の量である。例えば、分解対象となるポリイミドの化学構造式が、下式(5)で表される繰り返し単位から成るポリ-4,4'-オキシジフェニレンピロメリトイミドの場合は、次のa)〜d)の様に算出される。
【0035】
【化5】

【0036】
a)まず、ポリイミドの繰り返し単位のモル質量を求める。式(5)のポリイミドの場合、繰り返し単位のモル質量は、382g/molである。
【0037】
b)次に分解対象とするポリイミドの重量中に含まれる前記繰り返し単位のmol量を求める。式(5)のポリイミド2gが分解対象であれば、ポリイミド2g中には、前項の繰り返し単位が、2g÷382g/mol=5.24×10−3mol存在する。
【0038】
c)次に繰り返し単位1molあたりに含まれるイミド基量を求める。式(5)のポリイミドの場合は、その構造式(5)から繰り返し単位1molあたりに2倍molのイミド基を含有する。
【0039】
d)上記で求めた繰り返し単位のモル量と繰り返し単位中のイミド基量から、分解対象のポリイミドに含まれるイミド基量を求める。式(5)のポリイミド2gが分解対象の場合、5.24×10−3mol×2=0.0104molのイミド基モル量と算出される。
【0040】
e)イミド基1molに対して1〜10倍モル量の水酸イオン(OH)とは、前項で算出されたイミド基モル量が0.0104molであるので、1倍で0.0104mol〜10倍で0.104molの水酸イオン(OH)と算出できる。
【0041】
ここで、塩基性物質がイミド基モル量に対し10倍モル量を超える水酸イオン(OH)を生成する量が投入される場合には、分解後の中和に用いる酸性物質の量が多くなるだけでなく、最終的な分解回収物中の不純物が多くなるので好ましくない。また過剰な添加は、経済的に無駄であり、さらに、反応系の温度上昇の阻害や、反応容器の腐食等のトラブルを引き起こす恐れが生じるので好ましくない。
【0042】
一方、1倍モル量未満に相当する水酸イオン(OH)を生成する量が投入される場合には、本発明のアルカリ加水分解条件においては、アルカリ加水分解に係る時間が8時間以上等の長時間が必要となるので好ましくない。
【0043】
(D)塩基性物質
本発明で水酸イオン(OH)を生成させる塩基性物質とは、水に溶解させた時に塩基性水溶液となる物質である。塩基性水溶液とは水素イオン濃度[H]より水酸イオン濃度[OH]の方が高い溶液である。
【0044】
塩基性物質としては例えば、アンモニア(NH)やヒドラジン(N)やアニリン(C6H5NH2)やエチルアミン(CNH)などの有機塩類、あるいはZn(OH)、Al(OH)、AgOH、Cr(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、NaOH、KOH、LiOH、Ca(OH)、Ba(OH)などの無機塩類などが挙げられる。
【0045】
ただし、前記のアンモニア(NH)やヒドラジン(N)やアニリン(CNH)やエチルアミン(CNH)などの有機塩基類は、水と不完全に反応してイオンを生成する弱塩基類であり水中で完全に解離しないので、水酸イオン(OH)の量を算出するのに平行定数などを用いる必要があり注意を要する。
【0046】
また、前記の無機塩基類のうちBa(OH)は空気中の二酸化炭素を吸収してBaCO3の沈殿を生じることや、LiOHは水への溶解度が12.5g/100g水(25℃)程度であり水に対して難溶といった欠点がある。
【0047】
同じくZn(OH)、Al(OH)、AgOH、Cr(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、どは水に対して難溶である。
【0048】
本発明で用いる塩基性物質として、水中で100%解離して化学量論的にイオンの濃度が計算できるアルカリ金属水酸化物などが好ましく、特に好ましくは、NaOHおよび/
またはKOHが挙げられる。
【0049】
(E)ポリイミドの水に対する濃度
本発明で分解対象となるポリイミドの水に対する濃度とは、下式(6)のとおり、ポリイミドの質量を総質量(水の重量+ポリイミドの重量)で除した値のことである。
ポリイミドの水に対する濃度(wt%)=ポリイミドの質量/(水の質量+ポリイミドの質量)×100・・・・・・(6)
【0050】
この濃度は、ポリイミドの分解反応を均一に進める観点から1〜10wt%のポリマー濃度とし、さらに好ましくは1〜5wt%のポリマー濃度に調整するのが好ましい。
【0051】
この様に10wt%以下程度にすることは、水中に存在する分解対象のポリイミド量を低減することで前記塩基性物質の濃度を低減することとなり、比較的柔和な条件下でのアルカリ分解条件とすることができる。すなわち、分解して得られる低分子量体においては、分解や中和に用いた薬品に起因する不純物が少ない状態として回収することができる。
【0052】
(F)水の温度
本発明で分解対象とするポリイミドを投入する水の温度は、常温でも問題ないが、分解時間を短縮するために40〜95℃に昇温するのが好ましい。本発明では、水の温度は60℃から80℃の温度が好ましい。
【0053】
水の温度が40℃未満であると、本発明におけるアルカリ加水分解条件ではポリイミドの分解を充分に促進できず、分解に要する時間が4時間以上となり工業的に好ましくない。
【0054】
一方、95℃を越えると、蒸発して飛散する水を凝縮させて回収する設備や、密閉系では高耐圧容器が必要となり、特殊な設備が必要となり好ましくない。また、このアルカリ加水分解反応においては、添加する塩基性物質の種類によるものの、温度によってはこれが蒸発する場合があるので、95℃を超えない温度が好ましい。
【0055】
95℃を超えない温度でも水の蒸発があるが、この蒸発を防ぐために反応容器を閉鎖系にする必要はなく、容器上部などに還流器あるいは環流器に相当する設備を設け、凝縮した物質が直接あるいは間接的にアルカリ加水分解溶液に滴下されるようにしておけば、反応容器内圧力は最大でも0.1MPaを越えることはなく、実質、常圧条件の下で、ポリイミドのアルカリ加水分解が充分に為される。
【0056】
(G)ポリイミドを含む粉体の大きさ
本反応に用いるポリイミドを含む粉末は平均粒径が30μm以下のものであり、ポリイミドの加水分解時間をより短時間でゲル化を起こさず均一に進める観点から10〜20μmが好ましい。30μm以下の大きさ粉砕することで、低水酸基濃度かつポリイミドの分解時間が短時間でゲル化を起こさず、均一に低分解反応が進み可溶化することができる。また、柔和な条件で処理することでポリイミドと同時に処理された金属への腐食も最低限に抑えることが可能となる。
【0057】
ここで平均粒径とは粉砕されたポリイミドを含む粉末を電子顕微鏡で300倍の倍率で観察を行い、コンピュータ画面上にて200個の粉末の粒径を測定し、平均した値を平均粒径とする。各粉末の粒径は最長径と最短径を測定し平均した値である。
【0058】
ポリイミドの粉砕方法は特に限定されないが、ボールミル、カッターミキサー、一軸回転カッター式粉砕機、二軸回転カッター式粉砕機、二軸剪断式破砕機などの粉砕器を使用して粉砕する方法が挙げられる。
【0059】
ポリイミドが単体でフィルム状の場合は前記の粉砕方法で30μm以下に粉砕するにはごく低温中で、複数回におよぶ凍結粉砕処理が必要であり、常温かつ短時間で30μm以下に粉砕することは困難である。一方、ポリイミドと金属の積層体であれば上記粉砕方法で常温かつ短時間で容易に30μm以下に粉砕可能である。 また、ポリイミドを含む粉体が30μm以下であればアルカリ加水分解により容易に均一な溶液となるため、遠心濾過、遠心沈降、沈殿濃縮、加圧濾過、減圧濾過、圧搾など、様々な方法で容易に金属を回収できる。
【0060】
(H)アルカリ加水分解の操作手順本発明におけるアルカリ加水分解の手順は、水を反応溶媒として分解対象のポリイミド中のイミド基1モルに対して1〜10倍モルの水酸イオン(OH)を生成する量の塩基性物質の存在下、ポリイミドのアルカリ加水分解を行い低分子量体に分解することを特徴とするものであって、特に限定される手順は無いが、例えば、次の操作手順a)〜h)等が挙げられる。
【0061】
a)分解対象のポリイミド中のイミド基量を算出する。例えば、前述したように、前記式(5)のポリマー2gが分解対象の場合は、0.0104molと算出される。
【0062】
b)次に、算出したイミド基量に対して、1〜10倍モルに相当する水酸イオンの量を求める。前記式(5)のポリマーを2gの場合では、イミド基量の1倍量の水酸イオン(OH)は、0.0104molと算出される。10倍量の水酸イオン(OH)は、0.104molと算出される。
【0063】
c)次に、前記の水酸イオンを生成するための塩基性物質とその添加量を求める。例えば、塩基性物質としてNaOH(約40g/mol)を使用する場合は、NaOHが水中で100%解離して水酸イオンを生成するので、ポリイミド中のイミド基量の2倍量(0.0208mol)の水酸イオンを生成させるNaOHの量は、0.832g(=約40g/mol×0.0208mol)と算出される。
【0064】
d)この時、分解対象のポリイミド、あるいは塩基性物質を水に投入する順番は限定されない。すなわち、前項までの例では、分解対象のポリイミド2gとNaOH0.832gとが水に添加されれば、手順は限定しない。
【0065】
e)ここで、分解対象のポリイミドの水に対する濃度は、ポリイミドの分解反応を均一に進める観点から1〜10wt%のポリマー濃度とし、さらに好ましくは1〜5wt%のポリマー濃度に調整するのが好ましい。例えば前記式(5)のポリマー2gの場合には、蒸留水50mlに投入して、攪拌する。
【0066】
f)また、前項の塩基性物質とポリイミドとのスラリー状の水の温度は、常温でも問題ないが、分解時間を短縮するために約40〜95℃に昇温するのが好ましい。更に好ましくは、水の温度は60℃から80℃の温度に加熱昇温されるのが好ましい。
【0067】
g)前記の手順でポリイミドを塩基性物質と共に水中で所定時間攪拌することによって、ポリイミドがアルカリ加水分解されて低分子量体となり、ポリイミドのアルカリ加水分解低分子量体の均一な水溶液となる。
【0068】
(I)ポリイミド分解溶液からの金属の回収
ポリイミドを含む粉体が金属を含んでいる場合は、ポリイミドが均一な溶液となるため金属を容易に分離できる。分離方法としては、遠心濾過、遠心沈降、沈殿濃縮、加圧濾過、減圧濾過、圧搾など、が挙げられる。
【0069】
(J)アルカリ加水分解低分子量体の析出
本発明で、ポリイミドのアルカリ加水分解によって得られたアルカリ加水分解低分子量体の均一な水溶液から、低分子量体を析出させるには、後述する酸性物質を当該水溶液に添加することで低分子量体を析出させることができる。
【0070】
(K)酸性物質
本発明でアルカリ分解低分子化合物水溶液に添加する酸性物質とは、水に溶解した時に水素イオン(H+)を生成して酸性溶液となる物質である。酸性溶液とは水素イオン濃度
[H+]が水酸イオン濃度[OH]よりも高い溶液である。
【0071】
酸性物質とは、例えば、HSや、HFや、HCOや、HBO、酢酸(CHCOOH)安息香酸(CCOOH)などの有機酸類、あるいはHCl、HNO、HClO、HSO、あるいはHBr、HI、HSeO、などが挙げることができる。
【0072】
ただし、前記のHSやHFやHCOやHBOや酢酸(CHCOOH)や安息香酸(CCOOH)などは、水と不完全に反応してイオンを生成するいわゆる弱酸であり水中で完全に解離しないので、本発明に用いる酸性物質としては濃度調整が困難である欠点がある。
【0073】
一方、HCl、HNO、HClO、HSO、あるいはHBr、HI、HSeO、などは水中で完全に解離するが、これらのうち一部のHNOなどは比較的薄い溶液(1M以下)のみで完全にイオン化することが知られている。このうち、HCl、HClO、HSOは、10mol/リットル以下の溶液では99%以上イオン化していることが知られている。
【0074】
すなわち本発明で用いる酸性物質として、特に好ましくは、水中で100%解離して化学量論的にイオンの濃度が計算できるHClが挙げられる。
【0075】
(L)析出させた分解低分子量体の分離
中和によって析出させた低分子量体を分離する方法は、特に限定されるものではなく、遠心濾過、遠心沈降、沈殿濃縮、加圧濾過、減圧濾過、圧搾など、様々な方法で実施してよいし、さらに、各種分離方法を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
なお、本発明においては、設備としては煩雑でなく、また析出させた低分子量体の回収率が高いほど望ましい方法であるから、遠心濾過や圧搾などの方法が好ましい。
【0077】
(M)低分子量体
本発明で得られる低分子量体とは、分解対象のポリイミドの重合原料である酸無水物やジアミンなどの誘導体などで、例えばテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメリット酸、およびこれらの金属塩、あるいはオキシジアニリン、フェニレンジアミン、メチレンジアニリンなどが挙げられる。またアルカリ分解が更に進んだ場合のテレフタル酸、安息香酸、およびこれらの金属塩、あるいはアニリン、更には二酸化炭素や窒素なども挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例・比較例における評価は以下の方法で行った。また各実施例、比較例におけるアルカリ添加量、温度、反応時間等の実験条件を表1に示した。
【0079】
1.ポリイミドを含む粉末中のポリイミド重量の計算
ポリイミドを含む粉末を分解する際にはイミド基に対する水酸基濃度を決定するために粉末中のポリイミド量を算出剃る必要がある。下記ポリイミドと金属からなる積層体を例として計算例を示す。粉砕前の金属層とポリイミド層の厚み、およびポリイミド、金属の比重を用いて以下の式(7)にて計算を行った。
ポリイミドを含む粉末中のポリイミド重量=(ポリイミド層の厚み×ポリイミドの比重)/((ポリイミド層の厚み×ポリイミドの比重)+(銅箔層の厚み×銅箔の比重))×ポリイミドを含む粉末の重量・・・(7)
【0080】
具体的には25μmのカプトンフィルム(カプトン−100H/東レ・デュポン(株))と16μmの銅泊からなる積層体の場合、カプトンフィルムの比重が1.4、銅の比重が8.9であることからポリイミドが粉末15gに占めるポリイミド重量は3g((1.4×25)/(1.4×25+8.9×16)×15)と計算できる。
【0081】
2.ポリイミドを含む粉末の平均粒径測定
粉砕されたポリイミドを含む粉末を電子顕微鏡(SEMEDX Type N/日立製作所製)で観察を行い、コンピュータ画面上にて200個の粉末の粒径を測定し、数平均した値を平均粒径とした。各粉末の粒径は最長径と最短径を測定し平均した値とした。電子顕微鏡の倍率は粉末の粒径が鮮明に測定できるよう、300倍で行った。
【0082】
3.アルカリ加水分解低分子量体の定性分析
分別回収できた粉末の2.5mgを秤取り、BSTFA(n,o−Bis(trimethylsilyl)trifluoroacetamide)50μリットルに溶かして、GC分析(GC−17A/SHIMADZU製)をおこなうことで、定性分析することができる。
【0083】
例えば、標品として当該ポリイミドの重合原料に起因するピロメリット酸、あるいは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを(以下DDE)用いて、GC測定チャートのピークの帰属を行うことによって、粉体中にこれらの原料が含有されていることが確認できる。
【0084】
[実施例1]
<ポリイミドの粉砕>
25μmのカプトンフィルム(カプトン−100H/東レ・デュポン(株))と16μmの銅泊からなる積層体をφ3mmのパンチングメタルを設置した樹脂用粉砕機(型番P−1314/株式会社ホーライ)に投入して常温で粉砕した結果、平均粒径が22μmの粉砕品を得た。
【0085】
<ポリイミドの加水分解>
4つ口フラスコ(500ml)には、スリーワンモータ(型式600RT/HEIDON)に取り付けたテフロン(登録商標)製攪拌羽根と温度計とを取り付けた。
【0086】
式(7)よりポリイミドが3gフラスコに入るように、ポリイミドを含む粉末を15g4つ口フラスコに投入した。
【0087】
イオン交換水(カートリッジ純水器G10C型/オルガノ株式会社)の200gを4つ口フラスコに投入した。
【0088】
カプトンフィルムの化学構造式は、前記式(5)で表される様に一般文献などで広く知られていることから、カプトンフィルム3g中の理論イミド基量は式(5)を用いて、0.0156molと算出した。
【0089】
塩基性物質としては、NaOHを用いることとした。
分解対象のポリイミド中のイミド基1モルに対して、2倍モルの水酸イオン(OH)を生成するNaOHの量は、1.25g(=約40g/mol×0.0156mol×2)と計算した。
【0090】
NaOHを1.25g投入し、ウォーターバスで60℃に保ちながら攪拌羽根を150r/minで回転させて、4つ口フラスコの内容物の攪拌を開始し4時間反応を行った。
【0091】
<金属の回収>
反応後にフラスコ内の固形分を分離するため濾過を行い、固形分得た。固形分は金属のみであり、ポリイミドの不溶物あるいはゲル化物は含まれていなかった。濾過後のろ液は均一な溶液であった。
【0092】
<低分子量体の回収>
反応に用いた水酸イオンを中和するため、水酸イオンと等モルになるように2mol/Lの塩酸を15.6mlをろ液に添加し、中和を行った。この中和処理により低分子量体の沈殿物が得られた。この沈殿物を濾過により分離し、前記の定性分析を実施したところ、低分子量体にポリイミドのモノマーであるDDEが含まれることが確認された。
【0093】
[実施例2〜4]
ポリイミドを含む粉末粒径、NaOHの添加量、水に対するポリイミド濃度を表1の通り変更した以外は実施例と同様の処理をして表2の結果を得た。
【0094】
[比較例1]
<ポリイミドの粉砕>
カプトンフィルム(カプトン−100H/東レ・デュポン(株)製)をφ3mmのパンチングメタルを設置した樹脂用粉砕機(型番P−1314/株式会社ホーライ)に投入して常温で粉砕した結果、平均粒径が152μmの粉砕品を得た。
【0095】
<ポリイミドの加水分解>
4つ口フラスコ(500ml)には、スリーワンモータ(型式600RT/HEIDON)に取り付けたテフロン(登録商標)製攪拌羽根と温度計とを取り付けた。
【0096】
前記の方法で粉砕したポリイミドフィルム粉末3.0gを4つ口フラスコに投入した。
【0097】
イオン交換水(カートリッジ純水器G10C型/オルガノ株式会社)の150gを4つ口フラスコに投入した。
【0098】
化学構造式は、前記式(5)で表される様に一般文献などで広く知られていることから、カプトンフィルム3g中の理論イミド基量は式(5)を用いて、0.0156molと算出した。
【0099】
塩基性物質としては、NaOHを用いることとした。
分解対象のポリイミド中のイミド基1モルに対して、10倍モルの水酸イオン(OH)を生成するNaOHの量は、6.2g(=約40g/mol×0.0156mol×10倍)と計算した。
【0100】
NaOHを6.2g投入し、ウォーターバスで40℃に保ちながら攪拌羽根を150r/minで回転させて、4つ口フラスコの内容物の攪拌を開始し4時間反応を行った。
【0101】
フラスコ内部には部分的にゲル化物が存在し、ポリイミドの低分子量体を均一な溶液として得ることはできなかった。このゲル化物を回収し、定性分析を試みたが、溶媒への溶解性がなく、定性には至らなかった。本条件では反応後に一部ゲル化を起こすために、ポリイミドを含む粉末が金属を含む場合に金属を分離し、回収することが困難であると考えられる。
【0102】
[比較例2]
ポリイミドを含む粉末の粒径、反応温度、反応時間を表1の通りに変更した以外は比較例1と同じ処理を行い表2の結果を得た。
【0103】
実施例1と同様に低分子量体を均一な溶液として得ることはできなかった。本条件では反応後に一部ゲル化を起こすために、ポリイミドを含む粉末が金属を含む場合に金属を分離し、回収することが困難であると考えられる。
【0104】
[比較例3]
ポリイミドを含む粉末の粒径、NaOH添加量、水量、反応温度を表1の通りに変更した以外は比較例1と同じ処理を行い表2の結果を得た。
【0105】
フラスコ内容物には変化が見られず、4時間反応後もポリイミドが残存していた。回収した固形分は溶媒溶解性なく、低分子量体は得られなかった。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを含む平均粒径が30μm以下の粉末に塩基性水溶液を接触させることを特徴とするポリイミドのアルカリ加水分解方法。
【請求項2】
ポリイミドを含む粉末が更に金属を含む請求項1に記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法。
【請求項3】
前記ポリイミド中のイミド基1モルに対して1〜10倍モルの水酸イオン(OH)を生成する量の塩基性水溶液に接触させることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法。
【請求項4】
塩基性水溶液の温度が40〜95℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法。
【請求項5】
ポリイミドの水に対する濃度が、1.0〜10重量%となることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法。
【請求項6】
ポリイミドと金属の積層体を平均粒径が30μm以下の粉末に粉砕して請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法で分解しポリイミドの低分子量体と金属を回収する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドのアルカリ加水分解方法によって得られた水溶液中に酸性物質を添加することで低分子量体を析出させて分離回収することを特徴とする請求項6に記載のポリイミドの低分子量体と金属を回収する方法。

【公開番号】特開2013−87148(P2013−87148A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226743(P2011−226743)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】