説明

ポリイミドフィルムの製造方法、およびポリイミドフィルム

【課題】優れた接着性を有するポリイミドフィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸の溶液を支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを製造し、この自己支持性フィルムの少なくとも片面に、絶対湿度が13g/m以下の環境下で、表面処理剤を塗布した後、これを加熱処理してポリイミドフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性に優れたポリイミドフィルムの製造方法、およびポリイミドフィルムに関する。また、本発明は、ポリイミドフィルムに金属層を積層してなるポリイミド金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、電気・電子デバイス分野、半導体分野などの分野で広く使用されている。例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)としては、ポリイミドフィルムの片面または両面に銅箔を積層してなる銅張り積層基板が使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリイミドフィルムは、エポキシ樹脂系接着剤などの耐熱性接着剤を介して銅箔などの金属箔と接合した際に、十分な接着強度を有する積層体が得られないことがある。また、ポリイミドフィルムに金属蒸着やスパッタリングなどの乾式めっきにより金属層を設けた場合も、十分に剥離強度の大きい積層体が得られないことがある。
【0004】
ポリイミドフィルムの接着性を改良する方法として、特許文献1には、ポリアミック酸の固化フィルムの表面に、耐熱性表面処理剤(カップリング剤)を含有する表面処理液を塗布し、その後、表面処理液の塗布された固化フィルムを100〜600℃の温度に加熱して、固化フィルムを形成しているポリアミック酸をイミド化すると共にフィルムを乾燥し熱処理するポリイミドフィルムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−267330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた接着性を有するポリイミドフィルムを製造する方法を提供することである。さらには、この方法により得られるポリイミドフィルムを用いた、剥離強度の大きなポリイミド金属積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の事項に関する。
【0008】
(1)テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸の溶液を準備する工程と、このポリアミック酸の溶液を支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを得る工程と、この自己支持性フィルムの少なくとも片面に、絶対湿度が13g/m以下の環境下で、表面処理剤を塗布する工程と、表面処理剤を塗布した自己支持性フィルムを加熱処理してポリイミドフィルムを得る工程と、を有することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0009】
(2)自己支持性フィルム製造時から少なくとも表面処理剤の塗布時まで、自己支持性フィルムを絶対湿度が13g/m以下の環境下におくことを特徴とする上記(1)に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0010】
(3)自己支持性フィルム製造時から、表面処理剤塗布後の自己支持性フィルムの加熱処理の開始時まで、自己支持性フィルムを絶対湿度が13g/m以下の環境下におくことを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0011】
(4)前記表面処理剤がシランカップリング剤であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0012】
(5)前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および/またはピロメリット酸二無水物を主成分として含むものであり、前記ジアミン成分が、パラフェニレンジアミンおよび/またはジアミノジフェニルエーテル類を主成分として含むものであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法により製造されるポリイミドフィルム。
【0014】
(7)上記(6)に記載のポリイミドフィルムの、製造時に表面処理剤を塗布した面に金属層を積層してなるポリイミド金属積層体。
【0015】
(8)接着剤を介してポリイミドフィルムに金属層を積層してなる上記(7)に記載のポリイミド金属積層体。
【0016】
(9)メタライジング法によりポリイミドフィルムに金属層を形成してなる上記(7)に記載のポリイミド金属積層体。
【0017】
(10)メタライジング法によりポリイミドフィルムに下地金属層を形成し、その上に湿式メッキ法により金属メッキ層を形成してなる上記(7)に記載のポリイミド金属積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ポリイミドフィルムの接着性を改良するために、カップリング剤などの表面処理剤をポリアミック酸溶液の自己支持性フィルムの表面に塗布し、これを加熱、イミド化するが、この表面処理剤の塗布を絶対湿度13g/m以下、好ましくは6〜12g/mの環境下で行う。表面処理剤の塗布時だけではなく、自己支持性フィルムの製造時(例えば、自己支持性フィルムを支持体から剥離した時)から少なくとも表面処理剤の塗布時まで、より好ましくは表面処理剤塗布後のイミド化のための加熱処理の開始時(例えば、イミド化のための加熱炉(キュア炉)へ挿入する時)まで、自己支持性フィルムを絶対湿度13g/m以下の環境下で搬送することが好ましい。このように、表面処理剤の塗布時の絶対湿度を13g/m以下、好ましくは6〜12g/mで表面処理剤を塗布することにより、ポリイミドフィルムの接着性を向上させることができ、優れた接着性を有するポリイミドフィルムが得られる。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムを用いることにより、実用上十分な剥離強度を有するポリイミド金属積層体を得ることができる。例えば、90度剥離強度が0.42N/mm以上、さらには0.45N/mm以上、さらには0.5N/mm以上である銅積層ポリイミドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを有機溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸溶液を支持体上に流延し、これを加熱乾燥して自己支持性フィルムを得て、この自己支持性フィルムの片面または両面に表面処理剤を塗布し、必要に応じて乾燥させた後、この自己支持性フィルムを加熱、イミド化することにより得ることができる。
【0021】
本発明のポリイミドフィルムは、熱イミド化および/または化学イミド化により得られるものであり、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを複数含む場合には、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよく、またはこれらが併用されていてもよい。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムを製造する方法としては、
(1)ポリアミック酸溶液、またはポリアミック酸溶液に必要に応じてイミド化触媒、脱水剤、離型助剤、無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、この自己支持性フィルムの片面または両面に表面処理剤を塗布し、次いで、熱的に脱水環化、脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法、
(2)ポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を加え、さらに必要に応じて無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、化学的に脱水環化させて、必要に応じて加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、この自己支持性フィルムの片面または両面に表面処理剤を塗布し、次いで、これを加熱脱溶媒、イミド化することによりポリイミドフィルムを得る方法、が挙げられる。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)が挙げられ、その他に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるテトラカルボン酸二無水物は、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0024】
テトラカルボン酸成分としては、s−BPDAおよび/またはPMDAを主成分として含むテトラカルボン酸成分が好ましい。例えば、酸成分100モル%中に、s−BPDA及びPMDAから選ばれる酸成分を、好ましくはs−BPDAを50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含むテトラカルボン酸成分が、得られるポリイミドフィルムが機械的特性などに優れるために好ましい。
【0025】
ジアミンの具体例としては、
1)パラフェニレンジアミン(1,4−ジアミノベンゼン;PPD)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−トルエンジアミン、2,5−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミンなどのベンゼン核1つのジアミン、
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン、
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン、
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン、
などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0026】
ジアミン成分としては、PPDおよび/またはジアミノジフェニルエーテル類を主成分として含むジアミン成分が好ましい。例えば、ジアミン成分100モル%中に、PPD及びジアミノジフェニルエーテル類から選ばれるジアミン成分を、好ましくはPPD、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、または3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのいずれか1種以上を、特に好ましくはPPDを50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含むジアミン成分が、得られるポリイミドフィルムが機械的特性などに優れるために好ましい。
【0027】
ポリイミドとしては、中でも、s−BPDAとPPD、あるいは場合によりPPDおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類とから製造されるポリイミドが好ましい。この場合、PPD/ジアミノジフェニルエーテル類(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
【0028】
また、PMDA、あるいはs−BPDAとPMDAとの組み合わせである芳香族テトラカルボン酸二無水物と、PPD、トリジン(オルト体、メタ体)あるいは4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類などの芳香族ジアミンとから製造されるポリイミドも好ましい。芳香族ジアミンとしては、PPD、あるいはPPD/ジアミノジフェニルエーテル類が90/10〜10/90である芳香族ジアミンが好ましい。この場合、s−BPDA/PMDAは0/100〜90/10であることが好ましい。
【0029】
また、PMDAと、PPDおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類とから製造されるポリイミドも好ましい。この場合、ジアミノジフェニルエーテル類/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
【0030】
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを公知の方法で反応させて得ることができる。例えば略等モル量のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを有機溶媒中で反応させて、ポリアミック酸の溶液(均一な溶液状態が保たれていれば一部がイミド化されていてもよい)を得ることができる。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリアミック酸を合成しておき、これらのポリアミック酸溶液を一緒にした後、反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリアミック酸溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0031】
ポリアミック酸溶液の有機溶媒としては、公知の溶媒を用いることができ、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリアミック酸溶液には、必要に応じて、熱イミド化であればイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。
【0033】
ポリアミック酸溶液には、必要に応じて、化学イミド化であれば環化触媒及び脱水剤、無機微粒子などを加えてもよい。
【0034】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0035】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0036】
環化触媒としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリンなどの複素環第3級アミンなどが挙げられる。
【0037】
脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0038】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0039】
ポリアミック酸溶液の自己支持性フィルムは、ポリアミック酸溶液、またはポリアミック酸溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度にまで加熱して製造される。
【0040】
本発明において用いるポリアミック酸溶液の固形分濃度は、製造に適した粘度範囲となる濃度であれば特に限定されないが、通常、10質量%〜30質量%が好ましく、15質量%〜27質量%がより好ましく、18質量%〜26質量%がさらに好ましい。
【0041】
自己支持性フィルム作製時の加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、熱イミド化では、例えば、温度100〜180℃で1〜60分間程度加熱すればよい。
【0042】
支持体としては、ポリアミック酸溶液をキャストできるものであれば特に限定されないが、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレスなどの金属製のドラムやベルトなどが使用される。
【0043】
自己支持性フィルムは、支持体上より剥離することができる程度にまで溶媒が除去され、および/またはイミド化されていれば特に限定されないが、熱イミド化では、その加熱減量が20〜50質量%の範囲にあることが好ましく、加熱減量が20〜50質量%の範囲で且つイミド化率が7〜55%の範囲にあることがさらに好ましい。自己支持性フィルムの加熱減量およびイミド化率が上記範囲内であれば、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、また、自己支持性フィルムの上面に表面処理剤を均一に、きれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されない。
【0044】
ここで、自己支持性フィルムの加熱減量とは、自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた値である。
【0045】
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
【0046】
また、自己支持性フィルムのイミド化率は、自己支持性フィルムと、そのフルキュア品(ポリイミドフィルム)のIRスペクトルをATR法で測定し、振動帯ピーク面積または高さの比を利用して算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の非対称伸縮振動帯や、ベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。
【0047】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、絶対湿度を13g/m以下、好ましくは0〜12g/m、より好ましくは6〜12g/m、特に好ましくは8.5〜12g/mの環境下でカップリング剤などの表面処理剤を塗布する。
【0048】
ここで、絶対湿度とは、一定体積の空気(m)に含まれている水蒸気の量(g)をいう。絶対湿度は、次のようにして求める。既知の方法で、温度、相対湿度を測定し、測定した温度での飽和水蒸気量を一般的に知られている飽和曲線より導き出し、その飽和水蒸気量から下式によって求める。
【0049】
絶対湿度(g/m)=飽和水蒸気量(g/m)×相対湿度(%)÷100
【0050】
本発明においては、自己支持性フィルムの製造時、例えば、自己支持性フィルムを支持体から剥離した時から表面処理剤の塗布時まで自己支持性フィルムを絶対湿度13g/m以下の環境下で搬送することが好ましい。
【0051】
また、特に、自己支持性フィルムの製造時から表面処理剤の塗布時、さらには、その後の自己支持性フィルムのイミド化のための加熱処理の開始時まで、例えば、イミド化のための加熱炉(キュア炉)へ挿入する時まで、自己支持性フィルムを絶対湿度13g/m以下の環境下で搬送することが好ましい。なお、自己支持性フィルムの搬送中、絶対湿度は、上記の範囲内であれば、一定でなくてもよい。
【0052】
また、表面処理剤の塗布時の温度は、適宜選択することができる。
【0053】
表面処理剤の塗布時の絶対湿度が13g/m以下の環境下であれば、湿度の調整を行う必要がない。絶対湿度が13g/mを超える場合には、絶対湿度が13g/m以下になるように、前記環境下の絶対湿度を調整する。調整手段としては、乾燥ガスをその環境に送風する方法などが挙げられる。
【0054】
また、自己支持性フィルムの製造時から表面処理剤の塗布時まで、および、表面処理剤の塗布後から自己支持性フィルムのイミド化のための加熱処理の開始時までのうちの少なくとも1つの工程の絶対湿度が13g/mを超える場合には、絶対湿度が13g/m以下になるように、前記環境下の絶対湿度を調整することができる。調整手段としては、乾燥ガスをその環境に送風する方法が挙げられる。
【0055】
ここで、絶対湿度13g/m以下の環境下の「環境下」とは、自己支持性フィルムが搬送、塗工される雰囲気をいい、より具体的には、自己支持性フィルムが搬送、塗工されるガスゾーン、フィルムの表面などをいう。
【0056】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。表面処理剤は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0057】
特に、表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いることが好ましい。
【0058】
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系カップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系カップリング剤;N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0059】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0060】
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリエトキシシランなどのアミノシラン系カップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリメトキシシランが好ましい。
【0061】
表面処理剤は、そのまま単独で、または適当な溶媒が混合されて使用される。溶媒を用いる場合において、カップリング剤やキレート剤など、表面処理剤の溶媒としては、例えばポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であっても、相溶しない貧溶媒であってもよい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。また、溶媒としては水も用いることができる。すなわち、表面処理剤と水を混合した水溶液として用いることができる。以下の説明においては、表面処理剤を、表面処理剤と溶媒とを混合した表面処理剤の溶液として説明する。
【0062】
自己支持性フィルムに塗布するカップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液は、表面処理剤の含有量が0.1質量%以上、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは0.3〜20質量%、特に好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。
【0063】
表面処理剤の溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は、自己支持性フィルムに塗布できる粘度であればよく、0.5〜50000センチポイズ、より好ましくは0.8〜5000センチポイズであることが好ましい。
【0064】
表面処理剤の有機溶媒溶液としては、特に、表面処理剤が0.1質量%以上、特に好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%の濃度でアミド系溶媒に均一に溶解している、低粘度(特に、回転粘度0.8〜5000センチポイズ)のものが好ましい。
【0065】
表面処理剤の溶液は、本発明の特性を損なわない範囲で、表面処理剤以外に他の添加成分を含んでいてもよい。
【0066】
表面処理剤の溶液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、自己支持性フィルムの支持体と接していた側の面、その反対側の面ともに、1〜50g/mが好ましく、2〜30g/mがさらに好ましく、3〜20g/mが特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0067】
表面処理剤の溶液は、公知の方法で自己支持性フィルムに塗布することができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0068】
本発明においては、次いで、表面処理剤の溶液を塗布した自己支持性フィルムを、必要に応じて乾燥させた後、加熱処理してポリイミドフィルムを得る。乾燥は、例えば、60〜150℃程度の熱風乾燥により行うことができる。
【0069】
加熱処理は、最初に約100℃〜400℃の温度においてポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.1〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100℃〜約170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170℃〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220℃〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理することが好ましい。必要であれば、400℃〜550℃の高い温度で第四次高温加熱処理してもよい。
【0070】
イミド化のための加熱処理の際、キュア炉中においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定し、必要に応じて幅方向および/または長さ方向に拡縮して加熱処理を行ってもよい。
【0071】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、3〜250μm程度、好ましくは4〜150μm程度、より好ましくは5〜125μm程度、さらに好ましくは5〜100μm程度である。
【0072】
本発明のポリイミドフィルムの表面処理剤を塗布した面は、さらに、サンドプラスト処理、コロナ処理、プラズマ処理、エッチング処理などを行ってもよい。
【0073】
本発明のポリイミドフィルムは、製造時に表面処理剤を塗布した面に金属層を積層したポリイミド金属積層体を得ることができる。
【0074】
また、本発明のポリイミドフィルムは接着性、スパッタリング性や金属蒸着性が良好であり、接着剤を使用して金属層として銅箔などの金属箔を接着する、あるいはスパッタリングや金属蒸着などのメタライジング法により銅層などの金属層を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有する銅積層ポリイミドフィルムなどの金属積層ポリイミドフィルムを得ることができる。さらに、メタライジング法によりポリイミドフィルムに下地金属層を形成し、その上に湿式メッキ法により金属メッキ層を形成することにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有するポリイミド金属積層体を得ることができる。また、熱圧着性ポリイミドなどの熱圧着性のポリマーを使用して、本発明のポリイミドフィルムに銅箔などの金属箔を積層することにより、金属箔積層ポリイミドフィルムを得ることができる。金属層の積層は公知の方法に従って行うことができる。
【0075】
銅積層ポリイミドフィルムの銅層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1μm〜50μm程度、さらには2μm〜20μm程度である。
【0076】
ポリイミドフィルムに接着剤を介して貼り合わせる金属箔としては、金属の種類や厚みは用いる用途により適宜選択して用いればよく、例えば圧延銅箔、電解銅箔、銅合金箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、チタン箔、鉄箔、ニッケル箔などを挙げることができ、その厚みは好ましくは1μm〜50μm程度、さらには2μm〜20μm程度である。
【0077】
また、本発明により得られるポリイミドフィルムと、他の樹脂フィルム、銅などの金属、あるいはICチップなどのチップ部材などとを直接、または接着剤を使用して、貼り合わせることができる。
【0078】
接着剤としては、絶縁性および接着信頼性に優れたもの、あるいはACFなどの圧着による導電性と接着信頼性に優れたものなど、用途に応じて公知のものを用いることができ、熱可塑性接着剤や熱硬化性接着剤などを挙げることができる。
【0079】
接着剤としては、ポリイミド系、ポリアミド系、ポリイミドアミド系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの接着剤、及びこれらを2種以上含む接着剤などを挙げることができ、特にアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリイミド系の接着剤を用いることが好ましい。
【0080】
メタライジング法は、金属メッキや金属箔の積層とは異なる金属層を設ける方法であり、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、電子ビーム等の公知の方法を用いることができる。
【0081】
メタライジング法に用いる金属としては、銅、ニッケル、クロム、マンガン、アルミニウム、鉄、モリブデン、コバルト、タングステン、バナジウム、チタン、タンタル等の金属、またはこれらの合金、あるいはこれらの金属の酸化物や金属の炭化物などの金属化合物などを用いることができるが、特にこれらの材料に限定されない。
【0082】
メタライジング法により形成される金属層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択でき、通常、1nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmの範囲が実用に適するために好ましい。
【0083】
金属層の層数は、使用する目的に応じて適宜選択でき、1層でも、2層でも、3層以上の多層でもよい。
【0084】
メタライジング法により得られる金属積層ポリイミドフィルムは、金属層の表面に、電解メッキまたは無電解メッキなどの公知の湿式メッキ法により、銅、錫などの金属メッキ層を設けることができる。
【0085】
銅メッキなどの金属メッキ層の膜厚は、使用する目的に応じて適宜選択でき、通常、1μm〜40μmの範囲が実用に適するために好ましい。
【0086】
本発明によれば、例えば、90度剥離強度が0.42N/mm以上、さらには0.45N/mm以上、さらには0.5N/mm以上である銅積層ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0087】
本発明のポリイミドフィルムは、FPC、TAB、COFあるいは金属配線基材などの絶縁基板材料、金属配線、ICチップなどのチップ部材などのカバー基材、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパー、太陽電池などのベース基材などとして好適に用いることができる。
【0088】
ポリイミドフィルムの線膨張係数は、使用する目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、上記のような用途においては、ポリイミドフィルムの線膨張係数が銅の線膨張係数に近いことが好ましく、具体的には、MDおよびTDともに10〜40ppm/℃であることが好ましく、11〜30ppm/℃であることがより好ましく、12〜25ppm/℃であることがさらに好ましい。本発明によれば、接着性に優れると共に、線膨張係数が銅の線膨張係数に近いポリイミドフィルムが得られる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
銅積層ポリイミドフィルムの90度剥離強度は以下の方法に従って測定した。銅積層ポリイミドフィルムを、銅幅3mmとなるようにスクリーンを用いてインクを印刷し、エッチング装置を用いてインク印刷部以外の銅をエッチングする。90度剥離用支持金属に両面テープを用いて、試験片を固定し、引張り試験機を用いて50mm/minの速度で50mm以上引き剥がし、その間の荷重を測定する。引き剥がし荷重を、試験片の引き剥がし幅(mm)で除した値を求め、90度剥離強度とした。
【0091】
絶対湿度は、以下の方法で求めた。既知の方法で、温度、相対湿度を測定し、測定した温度での飽和水蒸気量を一般的に知られている飽和曲線より導き出し、その飽和水蒸気量から下式によって計算した。
【0092】
絶対湿度(g/m)=飽和水蒸気量(g/m)×相対湿度(%)÷100
【0093】
<実施例1>
重合槽に所定量のN,N−ジメチルアセトアミドを加え、次いで3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、次いでパラフェニレンジアミンを加え、30℃で10時間重合反応させて、ポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100mL溶媒、溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)が1.60、ポリマー濃度が18質量%であるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)溶液を得た。このポリイミド前駆体溶液に、ポリイミド前駆体100質量部に対して0.1質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩および0.5質量部の割合で平均粒径0.08μmのコロイダルシリカを添加し、均一に混合してポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の回転粘度は3000ポイズであった。
【0094】
このポリイミド前駆体溶液組成物をTダイ金型のスリットから連続的にキャスティング・乾燥炉中の平滑な金属支持体上に押出し、薄膜を形成した。この薄膜を120〜160℃で10分間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。
【0095】
この自己支持性フィルムを25℃・52%RH、絶対湿度12.0g/mの環境下で3分間搬送した後に、B面(ポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上にキャスティングしたときの支持体側の面)上に、4質量%の濃度で表面処理剤としてのシランカップリング剤(N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)を含有するN,N−ジメチルアセトアミド溶液を7g/mの塗布量で塗布し、80〜120℃の熱風で乾燥させた。シランカップリング剤を含有するN,N−ジメチルアセトアミド溶液を塗布する環境下の絶対湿度は12.0g/mであった。次いで、25℃・52%RH、絶対湿度12.0g/mの環境下で3.5分間搬送した後に、この乾燥フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉へ挿入し、炉内における最高加熱温度が500℃程度となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、平均膜厚が34μmの長尺状ポリイミドフィルムを連続的に製造した。
【0096】
得られたポリイミドフィルムのB面上に、常法によって厚み5nmのNi/Cr(質量比:8/2)層および厚み400nmのCu層から成るスパッタ下地金属層を形成し、その上に厚み8μmで銅メッキして、銅積層ポリイミドフィルムを得た。この銅積層ポリイミドフィルムの90度剥離強度を測定したところ、0.58N/mmであった。結果を表1に示す。
【0097】
<実施例2>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは25℃・32%RH、絶対湿度10.1g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは25℃・32%RH、絶対湿度10.1g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.59N/mmであった。結果を表1に示す。
【0098】
<実施例3>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは25℃・37%RH、絶対湿度8.5g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは32℃・69%RH、絶対湿度23.3g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.45N/mmであった。結果を表1に示す。
【0099】
<比較例1>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは27℃・55%RH、絶対湿度13.8g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは27℃・55%RH、絶対湿度13.8g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.41N/mmであった。結果を表1に示す。
【0100】
<比較例2>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは29℃・73%RH、絶対湿度21.0g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは29℃・73%RH、絶対湿度21.0g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.39N/mmであった。結果を表1に示す。
【0101】
<比較例3>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは27℃・75%RH、絶対湿度19.3g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは25℃・37%RH、絶対湿度8.5g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.38N/mmであった。結果を表1に示す。
【0102】
<比較例4>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは36℃・44%RH、絶対湿度18.4g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは34℃・70%RH、絶対湿度26.3g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.31N/mmであった。結果を表1に示す。
【0103】
<比較例5>
自己支持性フィルムを、製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時(塗布後の乾燥工程も含む)までは34℃・70%RH、絶対湿度26.3g/mの環境下で搬送し、シランカップリング剤溶液の塗布後から連続加熱炉へ挿入するまでは34℃・70%RH、絶対湿度26.3g/mの環境下で搬送した以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。そして、このポリイミドフィルムを用いて、実施例1と同様にして銅積層ポリイミドフィルムを作製し、90度剥離強度を測定したところ、0.18N/mmであった。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
自己支持性フィルムを製造時からシランカップリング剤溶液の塗布時まで絶対湿度13g/m以下の環境下で搬送して製造した実施例1〜3のポリイミドフィルムは、絶対湿度が13g/mを超える環境下で搬送して製造した比較例1〜5のポリイミドフィルムと比較して、銅積層ポリイミドフィルムの90度剥離強度が大きかった。比較例3のポリイミドフィルムは、シランカップリング剤溶液の塗布後、自己支持性フィルムを絶対湿度13g/m以下の環境下で搬送して製造したが、銅積層ポリイミドフィルムの90度剥離強度は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上のように、本発明によれば、ポリイミドフィルムの接着性を簡便な方法で向上させることができる。本発明のポリイミドフィルムは接着性に優れており、十分な剥離強度を有するポリイミド金属積層体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸の溶液を準備する工程と、このポリアミック酸の溶液を支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを得る工程と、この自己支持性フィルムの少なくとも片面に、絶対湿度が13g/m以下の環境下で、表面処理剤を塗布する工程と、表面処理剤を塗布した自己支持性フィルムを加熱処理してポリイミドフィルムを得る工程と、を有することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
自己支持性フィルム製造時から少なくとも表面処理剤の塗布時まで、自己支持性フィルムを絶対湿度が13g/m以下の環境下におくことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
自己支持性フィルム製造時から、表面処理剤塗布後の自己支持性フィルムの加熱処理の開始時まで、自己支持性フィルムを絶対湿度が13g/m以下の環境下におくことを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記表面処理剤がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および/またはピロメリット酸二無水物を主成分として含むものであり、前記ジアミン成分が、パラフェニレンジアミンおよび/またはジアミノジフェニルエーテル類を主成分として含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造されるポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミドフィルムの、製造時に表面処理剤を塗布した面に金属層を積層してなるポリイミド金属積層体。
【請求項8】
接着剤を介してポリイミドフィルムに金属層を積層してなる請求項7に記載のポリイミド金属積層体。
【請求項9】
メタライジング法によりポリイミドフィルムに金属層を形成してなる請求項7に記載のポリイミド金属積層体。
【請求項10】
メタライジング法によりポリイミドフィルムに下地金属層を形成し、その上に湿式メッキ法により金属メッキ層を形成してなる請求項7に記載のポリイミド金属積層体。

【公開番号】特開2012−211218(P2012−211218A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76500(P2011−76500)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】