説明

ポリイミドベルト製造方法

【課題】1種類の塗工液で、抵抗が異なる複数層を積層したポリイミドベルトの製造方法の提供。
【解決手段】複数層構造を有するポリイミドベルト製造方法において、(1)導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液で、金型へ塗布・流延を行う第1層目塗布工程と、塗膜に含まれる溶媒を除去する第1層目乾燥工程と、塗膜をイミド化する第1層目焼成工程とを有し、(2)第1層目作製工程の後に、第2層目作製工程を有し、(3)第2層目作製工程は、第1層目と同じポリイミド前駆体溶液で、第1層目のポリイミド層の上に塗布・流延を行い、乾燥、イミド化する工程を有し、(4)第1層目乾燥工程と第2層目乾燥工程の最高温度が異なり、(5)さらにそれ以上に第n層まで作製する際には、同様に、第1層目と同じポリイミド前駆体溶液で、塗布・流延を行い、乾燥、イミド化する工程を有し、第n層目乾燥工程と、第n−1層目乾燥工程の最高温度も異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドベルトの製造方法に関し、特に、ポリイミド製の無端ベルトの製造方法に関する。このようなベルト部材は画像形成装置用部材として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真装置においては様々な用途でシームレスベルトが部材として用いられている。特に近年のフルカラー電子写真装置においては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の現像画像を一旦中間転写媒体上に色重ねし、その後一括して紙などの転写媒体に転写する中間転写ベルト方式が用いられている。
このような中間転写ベルト方式は、1つの感光体に対して4色の現像器を用いるシステムで用いられていたがプリント速度が遅いという欠点があった。そのため、高速プリントとしては、感光体を4色分並べ、各色を連続して紙に転写する4連タンデム方式が用いられている。しかし、この方式では紙の環境による変動などもあり、各色画像を重ねる位置精度を合わせることが非常に困難であり、色ずれ画像を引き起こしていた。そこで近年では、4連タンデム方式に中間転写方式を採用することが主流になってきている。
【0003】
このような情勢の中で中間転写ベルトにおいても、従来よりも要求特性(高速転写、位置精度)が厳しいものとなっており、これらの要求に対応する特性を満足することが必要となってきている。特に、位置精度に対しては、連続使用によるベルト自体の伸び等の変形による変動を抑えることが求められる。また、中間転写ベルトは、装置の広い領域に渡ってレイアウトされ、転写のために高電圧が印加されることから難燃性であることが求められている。このような要求に対応するため、中間転写ベルト材料として主に、主に高弾性率で高耐熱樹脂であるポリイミド樹脂が用いられている。
【0004】
転写工程で発生する異常画像として、画像部にトナーが転写されず、転写されない部分が微小な白い斑点が生じる、いわゆる「白ポチ」がある。高い転写バイアスが印加される低温低湿環境時、両面印刷時の裏面、抵抗が高い紙種などの条件で、「白ポチ」が発生しやすい。
【0005】
このような「白ポチ」に対する解決手段としては、ベルト外周面側に、抵抗が高い層を積層した多層ベルトで解決できることが知られている。(例えば、特許文献1の特開平11−282277号公報、特許文献2の特開2009−258699号公報、特許文献3の特開2010−122437号公報など参照。)
ベルト外周面側に高抵抗層を積層したことでベルトの耐圧性が高まり、「白ポチ」の発生が抑制されると考えられる。
【0006】
このような抵抗が異なる層を積層したポリイミドベルトの製造方法については、特許文献2の特開2009−258699号公報、特許文献3の特開2010−122437号公報に記載があるように、ベルト内周側とベルト外周側用に、別々の塗工液を用意して、各層を塗工する方法が知れている。カーボン添加量が異なる2種類のポリイミド前駆体溶液(塗工液)を用意して、ベルト内周側の層はカーボン添加量が多いポリイミド前駆体溶液を塗布し、ベルト外周側の層はカーボンブラック添加量が少ないポリイミド前駆体溶液を塗布を行い、各層の形成を行う。このような方法で、ベルト内周面側の層に比べ、ベルト外周面側の層の方が抵抗が高い層を積層したポリイミドベルトの製造方法が知られている。
【0007】
しかしながら、上記のような方法では、管理すべき塗工液の種類が増え、塗工液の管理が複雑になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、1種類の塗工液で、抵抗が異なる複数層、例えば2層を積層したポリイミドベルトを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に関し、鋭意検討の結果、円筒状金型の外面又は内面を用い、特定の前駆体塗工液の塗布、加熱乾燥及び焼成の各工程を経て、順次形成されたポリイミド層の電気抵抗は、イミド化のための焼成工程よりも、その前工程としてのポリイミド層形成用塗工層の加熱乾燥工程によって大きく影響を受けること、及び、加熱乾燥工程強弱の履歴は、その次の焼成工程を経た後にも完全には消えないで残存することを知見し、この知見結果を踏まえてさらなる検討を積ね、本発明を完成するに至った。
而して、上記課題は、以下の(1)〜(7)項記載のポリイミドベルト製造方法を含む本発明によって解決される。
(1)「2層構造を有するポリイミドベルト製造方法において、(i)第1層目作製工程として、導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液を金型へ塗布・流延を行い第1層目の塗膜を形成する第1層目塗布工程と、前記第1層目の塗膜に含まれる溶媒を加熱乾燥により除去する第1層目乾燥工程と、加熱により前記第1層目の塗膜をイミド化する第1層目焼成工程とを少なくとも有し、(ii)前記第1層目作製工程の後に、第2層目作製工程を有し、(iii)第2層目作製工程として、第1層目と同じ「導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液」を、第1層目のポリイミド層の上に塗布・流延を行い第2層目の塗膜を形成する第2層目塗布工程と、前記第2層目の塗膜の溶媒を加熱乾燥により除去する第2層目乾燥工程と、加熱により前記第2層目の塗膜をイミド化する第2層目焼成工程を少なくとも有し、(iv)前記第1層目乾燥工程の最高温度をT、前記第2層目乾燥工程の最高温度をTとすると、TとTが異なることを特徴とするポリイミドベルト製造方法。」
(2)「前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型外面に行い、前記T及びTがT<Tであることを特徴とする前記(1)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(3)「前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型内面に行い、前記T及びTはT>Tであることを特徴とする前記(1)項に記載のポリイミドベルト製造方法
。」
(4)「前記T及びTは、T−Tが50℃以上であることを特徴とする前記(2)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(5)「前記T及びTは、T−Tが50℃以上であることを特徴とする前記(3)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(6)「前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t<tであることを特徴とする前記(2)項及び前記(4)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(7)「前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t>tであることを特徴とする前記(3)項及び前記(5)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
また、上記第1層目と第2層目との関係は、2層を超える多層構造のポリイミドベルトの場合にも当て嵌まり、例えば、3層構造である場合には、第2層目乾燥工程の最高温度Tと第3層目乾燥工程の最高温度Tとは異なり、例えば円筒状金型の外面に、順に第1層目、第2層目、第3層目とポリアミド層を形成していく場合には、t<tであることが好ましく、円筒状金型の内面に、順に第1層目、第2層目、第3層目とポリアミド層を形成していく場合には、t>tであることが好ましい。第2層目と第3層目それぞれの乾燥工程の最高温度TとTのそれぞれの保持時間tとtとの関係についても同様である。
そして、前記t<tであるとき(すなわち、t>t>tであるとき)はT−Tが50℃以上であることがより好ましく、また、t>tであるとき(すなわち、t<t<tであるとき)は、T−Tが50℃以上であることがより好ましい。
したがって、本発明のポリイミドベルト製造方法は、つぎの(8)乃至(14)記載の態様を包含する。
(8)「2層以上の複数層構造を有するポリイミドベルト製造方法において、(1)第1層目作製工程は、導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液を金型へ塗布・流延を行い第1層目の塗膜を形成す第1層目塗布工程と、前記第1層目の塗膜に含まれる溶媒を加熱乾燥により除去する第1層目乾燥工程と、加熱により前記第1層目の塗膜をイミド化する第1層目焼成工程とを少なくとも有し、(2)前記第1層目作製工程の後に、第2層目作製工程を有し、(3)第2層目作製工程は、第1層目と同じ、導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液を、第1層目のポリイミド層の上に塗布・流延を行い第2層目の塗膜を形成する第2層目塗布工程と、前記第2層目の塗膜の溶媒を加熱乾燥により除去する第2層目乾燥工程と、加熱により前記第2層目の塗膜をイミド化する第2層目焼成工程を少なくとも有し、(4)前記第1層目乾燥工程の最高温度をT、前記第2層目乾燥工程の最高温度をTとすると、TとTが異なり、(5)さらに第n層まで作製する際には、第n−1層目作製工程は、同様に、前記ポリイミド前駆体溶液を用い形成した第n−1層目のポリイミド前駆体層の塗膜の第n−1層目乾燥工程と、第n−1層目焼成工程を少なくとも含み、第n層目作製工程は、同様に、前記ポリイミド前駆体溶液を用いて、第n層目のポリイミド前駆体溶液を、前記第n−1層目のポリイミド層上に形成する第n層目塗布工程と、前記第n層目の塗膜の溶媒を加熱乾燥により除去する第n層目乾燥工程と、加熱により前記第n層目の塗膜をイミド化する第n層目焼成工程を少なくとも有し、第n層目乾燥工程の最高温度Tは、前記第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1とは異なることを特徴とするポリイミドベルト製造方法。」
(9)「前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型外面に行い、前記T、T、・・・Tn−1及びTが、T<T<・・・Tn−1<Tであることを特徴とする前記(8)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(10)「前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型内面に行い、前記T、T、・・・Tn−1及びTは、T>T>・・・Tn−1>Tであることを特徴とする前記(8)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(11)「前記T、Tは、T−Tが、50℃以上であることを特徴とする前記(9)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(12)「前記T、Tは、T−Tが50℃以上であることを特徴とする前記(10)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(13)「前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1での保持時間をtn−1、前記第n層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t<t・・・Tn−1<Tであることを特徴とする前記(9)項又は(11)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
(14)「前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1での保持時間をtn−1、前記第n層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t>t・・・Tn−1>Tであることを特徴とする前記(10)項又は(12)項に記載のポリイミドベルト製造方法。」
【発明の効果】
【0010】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明によれば、抵抗が異なる複数層を積層したベルトの製造方法において、1種類の塗工液(カーボンを分散させたポリイミド前駆体溶液)で抵抗が異なる層を積層したポリイミドベルトを製造することが可能となり、管理すべき塗工液が1種類になるため、製造工程の管理する負荷が軽減されるというきわめて優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のポリイミドベルト製造方法の1具体例を説明する図である。
【図2】本発明のポリイミドベルト製造方法の他の1具体例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリイミドベルト製造方法は、抵抗が異なる複数のポリイミド層を積層したベルトである。ベルト外周面側の層はベルト内周面側の層に比べ抵抗が高い層が積層されたベルトの製造方法である。
【0013】
[本発明製造方法の概要]
本発明の理解を容易にするため、以下、基本的なものとして、2つのポリイミド層を積層したポリイミドベルトの場合を中心に説明するが、本発明におけるポリイミドベルトは、これに限らず、前記のように、2層を超える積層形のポリイミドベルトの場合にも好適に適用することが勿論できる。本発明の製造方法においては、例えば、1層目と2層目の各層毎に、塗布工程、乾燥工程、焼成工程をそれぞれ有する。塗工液として使用する導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液は、第1層目と第2層目で同一の液を使用する。第1層目の乾燥工程の最高温度をT、第2層目の最高温度をTとすると、TとTを変えることで、同一の塗工液を使用した場合でも、電気抵抗が異なる層を積層することができる。具体的には、乾燥工程の最高温度が高くした層は電気抵抗が高く、TとTの温度差が大きい方が、2層の電気抵抗の差が大きくなる。
【0014】
さらに、乾燥工程の最高温度の温度差だけでなく、乾燥工程の最高温度の保持時間を制御することでも、各層の抵抗差を制御することができる。乾燥工程での最高温度の保持時間を長くする方が、より抵抗が高い層を作製することができる。
上記のように、本発明では、1種類の導電剤を分散させたポリイミド前駆体で、電気抵抗が異なる層を積層させた多層ベルト例えば典型的には2層ベルトを作製することができる。
【0015】
[中間転写ベルトの構成材料(抵抗制御材料)]
本発明に使用する中間転写ベルトの構成材料としては、前記のポリイミド樹脂中に電気抵抗を調整する充填材(又は、添加材)、いわゆる電気抵抗調整材を含有する。
電気抵抗調整材としては、金属酸化物やカーボンブラックなどがある。
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素等が挙げられる。また、分散性を良くするため、前記金属酸化物に予め表面処理を施したものも挙げられる。
カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ガスブラック等が挙げられる。
なお、本発明における電気抵抗調整材は、上記例示化合物に限定されるものではない。
また、本発明のシームレスベルトの製造方法における少なくとも樹脂成分を含む塗工液には必要に応じて、さらに分散助剤、補強材、潤滑材、熱伝導材、酸化防止剤などの添加材を含有してもよい。
【0016】
[中間転写ベルトの電気特性]
前記中間転写ベルトとして好適に装備されるシームレスベルトに含有される電気抵抗調整材は、好ましくは表面抵抗で1×10〜1×1014Ω/□、体積抵抗で1×10〜1×1013Ω・cmとなる量とされるが、機械強度の面から成形膜が脆く割れやすくならない範囲の量を選択して添加することが必要である。
【0017】
本発明における電気抵抗調整材の含有量としては、カーボンブラックの場合には、塗工液中の全固形分の10〜25wt%、好ましくは15〜20wt%である。また、金属酸化物の場合の含有量としては、塗工液中の全固形分の1〜50wt%、好ましくは10〜30wt%である。
【0018】
[ポリイミド樹脂、原材料、前駆体とその製法]
次に本発明に使用するポリイミド樹脂について説明する。
芳香族系のポリイミドは、芳香族多価カルボン酸無水物(又はその誘導体)と芳香族ジアミンとの反応によって、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)を経由して得られる。
芳香族系のポリイミドは、その剛直な主鎖構造により溶媒等に対して不溶であり、また不融の性質を有する。そのため、先ず、芳香族多価カルボン酸無水物と芳香族ジアミンとの反応により、有機溶媒に可溶なポリイミド前駆体(ポリアミック酸、)を合成し、このポリアミック酸の段階で様々な方法で成形加工が行われ、その後ポリアミック酸を加熱もしくは化学的な方法で脱水反応させて環化(イミド化)しポリイミドとされる。芳香族系のポリイミドを得る反応を例にその概略を下記式(1)に示す。
【0019】
【化1】

【0020】
芳香族系のポリイミドを得る場合には、上記芳香族多価カルボン酸無水物成分と芳香族ジアミン成分とを略等モル用いて有機極性溶媒中で重合反応させることにより、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を得、その後ポリアミック酸を脱水反応させて環化し、イミド化する。下記にポリアミック酸の製造方法について具体的に説明する。
【0021】
ここで、ポリアミック酸を得る際の重合反応に使用される有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、又はp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系、又はヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合溶媒として用いるのが望ましい。
溶媒は、前記ポリアミック酸を溶解するものであれば特に限定されないが、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0022】
ポリイミド前駆体を製造する場合の例として、先ず、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、1種又は複数種のジアミンを上記の有機溶媒に溶解するか、又はスラリー状に分散させる。この溶液に前記した少なくとも1種の芳香族多価カルボン酸無水物(又はその誘導体)を添加(固体状態のままでも、有機溶媒に溶解した溶液状態でも、スラリー状態でもよい)すると、発熱を伴って開環重付加反応が起こり、急速に溶液の粘度増大が見られ、高分子量のポリアミック酸溶液が得られる。この際の反応温度は、通常−20℃〜100℃、望ましくは60℃以下に制御することが好ましい。反応時間は、30分〜12時間程度である。
【0023】
上記は一例であり、反応における上記添加手順とは逆に、先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体を有機溶媒に溶解又は分散させておき、この溶液中に前記芳香族ジアミン(略、「ジアミン」)を添加させてもよい。ジアミンの添加は、固体状態のままでも、有機溶媒に溶解した溶液状態でも、スラリー状態でもよい。すなわち、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分との混合順序は限定されない。さらには、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを同時に有機極性溶媒中に添加して反応させてもよい。
【0024】
上記のようにして、芳香族多価カルボン酸無水物又はその誘導体と、芳香族ジアミン成分とをおよそ等モル、有機極性溶媒中で重合反応することにより、ポリアミック酸が有機極性溶媒中に均一に溶解した状態でポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0025】
本発明におけるポリイミド前駆体溶液(ポリアミック酸溶液:「ポリイミド樹脂前駆体を含む塗工液」)は、上記のようにして合成したものを使用することが可能であるが、簡便には有機溶媒にポリアミック酸組成物が溶解された状態の、いわゆるポリイミドワニスとして上市されているものを入手して使用することもできる。
このような例としては、U−ワニス(宇部興産社製)が代表的なものとして挙げられ。
合成又は入手したポリアミック酸溶液に、必要に応じて充填剤(例えば、電気抵抗調整材、あるいは分散助剤、補強材、潤滑材、熱伝導材、酸化防止剤などの添加剤)を混合・分散して塗工液が調製される。塗工液を後述のように支持体(成形用の型)に塗布した後、加熱等の処理することにより、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸からポリイミドへの転化(イミド化)が行われる。
【0026】
ポリアミック酸は、前述のように加熱する方法(1)、又は化学的方法(2)によってイミド化することができる。
加熱する方法(1)は、ポリアミック酸を、例えば、200〜350℃に加熱処理することによってポリイミドに転化する方法であり、ポリイミド(ポリイミド樹脂)を得る簡便かつ実用的な方法である。
一方、化学的方法(2)は、ポリアミック酸を脱水環化試薬(例えば、カルボン酸無水物と第3アミンの混合物など)により反応した後、加熱処理して完全にイミド化する方法であり、(1)の加熱する方法に比べると煩雑でコストのかかる方法であるため、通常(1)の方法が多く用いられている。
なお、ポリイミドの本来的な性能を発揮させるためには、相当するポリイミドのガラス転移温度以上に加熱して、イミド化を完結させることが好ましい。
【0027】
イミド化の進行状況(イミド化の程度)は、通常行われているイミド化率の測定手法により評価することができる。
このようなイミド化率の測定方法としては、例えば、9〜11ppm付近のアミド基に帰属されるHと、6〜9ppm付近の芳香環に帰属されるHとの積分比から算出する核磁気共鳴分光法(NMR法)、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)、イミド閉環に伴う水分を定量する方法、カルボン酸中和滴定法など種々の方法が用いられているが、中でもフーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)は最も一般的な方法である。
【0028】
フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)では、イミド化率を、例えば、下記式(a)のように定義する。
すなわち、焼成段階(イミド化処理段階)でのイミド基のモル数を(A)とし、100%イミド化された場合(理論的)のイミド基のモル数を(B)とすると、次により表される。
イミド化率(%)=[(A)/(B)]×100・・・(a)
【0029】
この定義におけるイミド基のモル数は、FT−IR法により測定されるイミド基の特性吸収の吸光度比から求めることができる。例えば、代表的な特性吸収として、以下の吸光度比を用いてイミド化率を評価することができる。
(1)イミドの特性吸収の1つである725cm−1(イミド環C=O基の変角振動帯)と、ベンゼン環の特性吸収1,015cm−1との吸光度比
(2)イミドの特性吸収の1つである1,380cm−1(イミド環C−N基の変角振動帯)と、ベンゼン環の特性吸収1,500cm−1との吸光度比
(3)イミドの特性吸収の1つである1,720cm−1(イミド環C=O基の変角振動帯)と、ベンゼン環の特性吸収1,500cm−1との吸光度比
(4)イミドの特性吸収の1つである1,720cm−1とアミド基の特性吸収1,670cm−1(アミド基N−H変角振動とC−N伸縮振動の間の相互作用)との吸光度比
また、3000〜3300cm−1にかけてのアミド基由来の多重吸収帯が消失していることを確認すればさらにイミド化完結の信頼性は高まる。
【0030】
[ポリイミドベルトの作製方法]
導電材を分散させたポリイミド樹脂前駆体を含む塗工液を用いて中間転写ベルトを製造する方法について説明する。
本発明において、前記導電材を分散させたポリイミド樹脂前駆体を含む塗工液を用いてシームレスベルトを製造する方法としては、ノズルやディスペンサーによって金型(円筒状の型)の外面に塗布する方法がある。金型外面に形成した塗膜を乾燥及び/又は硬化させてシームレスベルト状の成形膜とした後に、脱型することにより、目的のシームレスベルトが得られる。
また遠心成形のように塗工液を金型(円筒状の型)の内面に塗布する方法も広く一般的に知られている。
金型外面への塗工、金型内面への塗工、どちらでも製造することが可能であり、また2つの方法に制限されるものではない。
【0031】
[金型外面への塗工による2層ベルト製造方法]
円筒状金型の金型外面への塗工による2層ベルト製造方法の例について説明する。
図1に示すように、金型外面への塗工では、最初に塗工した層(第1層目)がベルト内周面側の層になり、2回目に塗工した層(第2層目)がベルト外周面側の層になる。
外周面側の層の抵抗を高くするために、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tを、前記第1層目乾燥工程の最高温度Tより高くする。特にT−Tの温度差が大きい方が、第1層目と第2層目の電気抵抗の差が大きくなり、T−Tが50℃以上であることが好ましい。また、第1層目乾燥工程の最高温度Tの保持時間t、第2層目乾燥工程の最高温度Tの保持時間tとすると、t<tとすることにより、さらに、第1層目と第2層目の電気抵抗の差を大きくすることができる。2層を超えるベルトの場合もこれに準ずる。
【0032】
[第1層目 塗布工程]
円筒状の金型をゆっくりと回転させながら、前記導電材を分散させたポリイミド樹脂前駆体溶液(塗工液)をノズルやディスペンサーのような液供給装置にて円筒の外面全体に均一になるように塗布・流延を行い、塗膜を形成する。その後、回転速度を所定速度まで上げ、所定速度に達したら一定速度に維持し、所望の時間回転を継続する。
【0033】
[第1層目 乾燥工程]
回転させつつ、徐々に昇温させて加熱乾燥を行う。第1層目乾燥工程の最高温度Tについては、80℃〜120℃で塗膜中の溶媒を蒸発させる。この過程では、雰囲気の蒸気(揮発した溶媒等)を効率よく循環して取り除くことが好ましい。自己支持性のある膜が形成されたところで、徐冷を行う。
【0034】
[第1層目 焼成工程]
自己支持性のある膜が形成されたところで金型ごと高温処理の可能な加熱炉(焼成炉)に移して昇温を行い、最終的に250℃〜450℃程度の高温加熱処理(焼成)し、十分にポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行う。イミド化が完了後、徐冷を行い、金型外面に第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出す。
【0035】
[第2層目 塗工工程]
円筒状の金型をゆっくりと回転させながら、第1層目と同じ塗工液をノズルやディスペンサーのような液供給装置にて、第1層目が形成された円筒外面に均一になるように塗布・流延(塗膜を形成)する。その後、回転速度を所定速度まで上げ、所定速度に達したら一定速度に維持し、所望の時間回転を継続する。
【0036】
[第2層目 乾燥工程]
回転させつつ徐々に昇温させて加熱乾燥を行う。第2層目乾燥工程の最高温度T120℃〜180℃で塗膜中の溶媒を蒸発させる。
はTより高い温度に設定を行う。T−Tが50℃以上であることが好ましい。このT−Tの温度差が大きいほど、1層目と2層目の電気抵抗差が大きくなる。
また第2層目乾燥工程の乾燥最高温度Tの保持時間t、第1層目乾燥工程の乾燥最高温度Tの保持時間をtとするとt<tとすることにより、さらに1層目と2層目の抵抗差が大きくなる。
この過程では、雰囲気の蒸気(揮発した溶媒等)を効率よく循環して取り除くことが好ましい。自己支持性のある第2層目の膜が形成されたところで、除冷を行う。
【0037】
[第2層目 焼成工程]
第2層目の自己支持性のある膜が形成されたところで金型ごと高温処理の可能な加熱炉(焼成炉)に移して昇温を行い、最終的に250℃〜450℃程度の高温加熱処理(焼成)し、十分にポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行う。イミド化が完了後、徐冷を行い、金型の取り出しを行い、金型外面に形成された2層構造のポリイミド膜の脱型を行い、ポリイミドベルトが得られる。
得られたポリイミドベルトは、第2層目がベルト外周面側に、第1層目がベルト内周面側に形成された2層構造のベルトである。
【0038】
[内面塗工による2層ベルト製造方法]
次に、内面塗工による2層ベルト製造方法について説明する。
図2に示すように、内面塗工では、最初に塗工した層(第1層目)がベルト外周面側の層になり、2回目に塗工した層(第2層目)がベルト内周面側の層になる。
外周面側の層の抵抗を高くするために、第1層目乾燥工程の最高温度Tは、第2層面乾燥工程の最高温度Tより高くする。
(ベルト層構成は、外面塗工の場合と比較して、第1層目と第2層目の位置関係が逆になる。)
【0039】
[第1層目 塗布工程]
円筒状の金型をゆっくりと回転させながら、塗工液をノズルやディスペンサーのような液供給装置にて、円筒の内面全体塗布・流延する。さらに、膜厚を均一にするために高速の遠心力で回転して塗布液の凝集の表面エネルギーに打ち勝つ力で塗布膜を押し広げて膜の均一化を行う。
【0040】
[第1層目 乾燥工程]
回転させつつ徐々に昇温させて加熱乾燥を行う。第1層目乾燥工程の最高温度Tは120℃〜180℃の温度で塗膜中の溶媒を蒸発させる。
この過程では、雰囲気の蒸気(揮発した溶媒等)を効率よく循環して取り除くことが好ましい。自己支持性のある膜が形成されたところで、除冷を行う。
【0041】
[第1層目 焼成工程]
自己支持性のある膜が形成されたところで金型ごと高温処理の可能な加熱炉(焼成炉)に移して昇温を行い、最終的に250℃〜450℃程度の高温加熱処理(焼成)し、十分にポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行う。イミド化が完了後、徐冷を行い、金型内面に第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出す。
【0042】
[第2層目 塗工工程]
円筒状の金型をゆっくりと回転させながら、第1層目と同じ塗工液をノズルやディスペンサーのような液供給装置にて、第1層目が形成された円筒の内面に、均一になるように塗布・流延(塗膜を形成)を行い、さらに膜厚を均一にするために高速の遠心力で回転して塗布液の凝集の表面エネルギーに打ち勝つ力で塗布膜を押し広げて第2層目の膜の均一化を行う。
【0043】
[第2層目 乾燥工程]
回転させつつ徐々に昇温させて加熱乾燥を行う。この時の乾燥最高温度Tは80℃〜120℃の温度で塗膜中の溶媒を蒸発させる。この時、TはTより低い温度に設定を行い、T−Tが50℃以上であることが好ましい。このT−Tの温度差が大きいほど、1層目と2層目の抵抗差が大きくなる。
また第2層目乾燥工程の乾燥最高温度Tの保持時間t、第1層目乾燥工程の乾燥最高温度Tの保持時間をtとするとt>tとすることにより、1層目と2層目の抵抗差が大きくなる。
この過程では、雰囲気の蒸気(揮発した溶媒等)を効率よく循環して取り除くことが好ましい。第2層目の自己支持性のある膜が形成されたところで、徐冷を行う。
【0044】
[第2層目 焼成工程]
第2層目の自己支持性のある膜が形成されたところで金型ごと高温処理の可能な加熱炉(焼成炉)に移して昇温を行い、最終的に250℃〜450℃程度の高温加熱処理(焼成)し、十分にポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行う。イミド化が完了後、徐冷を行い、金型を取り出す。金型内面に形成された2層構造のポリイミド膜の脱型を行い、ポリイミドベルトが得られる。
得られたポリイミドベルトは、第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された2層構造のベルトである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、これら実施例は、本発明についての理解を容易ならしめるためのものであって、本発明を限定するためのものではない。以下の各例中、「%」及び「部」は、別段の断りないかぎり、「重量%」及び「重量部」を表わす。
【0046】
[実施例1]
[2層ポリイミドベルトの製造1]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0047】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗布工程)
次に、外径310mm、長さ380mmの外面をブラスト処理にて粗面化した円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒外面に均一に流延するようにディスペンサーにて塗布を行い、所定の全量を流し終えて塗膜をまんべんなく広げて、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を形成した。
【0048】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を100rpmに上げ、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い、90℃で60分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=60分)
【0049】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行った。金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。
冷却後に、金型を取り出した。
【0050】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗布工程)
前記、第1層目が形成された金型を50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、第1層目の上に、均一に流延するようにディスペンサーにて塗工を行った。塗工液の液量は第1層目の液量に対して1/2の量を塗布して、塗膜がまんべんなく広げて、第2層目のポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成した。
【0051】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を100rpmに上げ、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで130℃まで加熱を行い(第1層目の乾燥工程に比べ最高温度が40℃高い)、130℃で60分間の加熱処理を行い、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を乾燥させた
(第2層目乾燥工程の最高温度T=130℃、保持時間t=60分)
【0052】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行なった。
冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行い、ベルトの端部を切断した。
第1層目がベルト内周面側に、第2層目がベルト外周面側に形成された、周長973mm、幅320mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
(金型の外面に塗工しているため、ベルト内周面側の層が第1層目になる。)
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが59μm、ベルト外周面側の層は厚みが32μmであった。
【0053】
[ベルト物性測定]
<表面抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。
500V/10秒印加時の表面抵抗値を測定した。ベルト周方向に対して3箇所、ベルト幅方向に3箇所(中央部及び両端部)、周方向x幅方向で合計9箇所で計測を行い、その平均値を採用した。ベルトの外周面、内周面、それぞれについて測定を実施した
ベルト内周面の表面抵抗率ρs内(Ω/□)の常用対数値が11.25であり、ベルト外周面側の表面抵抗率ρs外の常用対数値は11.51であった。
【0054】
<体積抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。
体積抵抗については、ベルトの内周面で測定を行い、100V/10秒印加時の測定を行った。ベルト内周面の体積抵抗率ρ(Ω・cm)の常用対数値は10.21あった。
【0055】
[実施例2]
[2層ポリイミドベルトの製造2]
第2層目乾燥工程の乾燥最高温度(T)を150℃に変更した以外は、実施例1と同様にポリイミドベルトを作製した。
第1層目がベルト内周面側に、第2層目がベルト外周面側に形成された、周長973mm、幅320mm、厚み90μmのポリイミドベルトを得た。
得られたベルトの断面観察を行ったところ、内周面側の層は厚さが59μm、外周面側の層は厚みが31μmであった。
【0056】
[ベルト物性測定]
実施例1と同じ方法で、表面抵抗率、体積抵抗率の測定を行った。ベルト内周面の表面抵抗率ρs内(Ω/□)の常用対数値が11.29であり、ベルト外周面の表面抵抗率ρs外(Ω/□)の常用対数値は11.65であった。また、体積抵抗率ρv(Ω・cm)の常用対数値は10.64であった。
【0057】
[実施例3]
[2層ポリイミドベルトの製造3]
第1層目乾燥工程の乾燥最高温度の保持時間tを45分に変更して、第2層目乾燥工程の乾燥温度(T)を150℃に変更を行い、かつその保持時間tを75分に変更をおこなった以外は、実施例1と全く同様にベルトの作製を行った。
第1層目がベルト内周面側に、第2層目がベルト外周面側に形成された、周長973mm、幅320mm、厚み89.5μmのポリイミドベルトを得た。
得られたベルトの断面観察を行ったところ、内周面側の層は厚さが59.5μm、外周面側の層は厚みが30μmであった。
【0058】
[ベルト物性測定]
実施例1と同じ方法で、表面抵抗率、体積抵抗率の測定を行った。
ベルト内周面の表面抵抗率ρs内(Ω/□)の常用対数値が11.23であり、ベルト外周面の表面抵抗率ρs外(Ω/□)の常用対数値は11.72であった。また、体積抵抗率ρv(Ω・cm)の常用対数値は11.45であった。
【0059】
[実施例4]
[2層ポリイミドベルトの製造4]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0060】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗工工程)
次に、内径320mm、長さ450mmの円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒内面に均一に流延するようにディスペンサーにて塗布を行った。(実施例1〜3では金型の外面に塗工を行ったが、実施例4では、金型内面に塗布を行う遠心成型で行った)所定の全量を流し終えて、金型の回転数を200rpmに上げて塗膜の均一化を行い、ポリイミド樹脂前駆体の塗膜を形成した。
【0061】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmで回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで130℃まで加熱を行い、130℃で60分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=130℃、保持時間t=60分)
【0062】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行って、金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。
冷却後に、加熱炉から第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出した。
【0063】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗工工程)
前記、第1層目のポリイミド層が形成された金型を、50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、金型内面に形成した第1層目のポリイミド層の上に均一に流延するようにディスペンサーにて、第2層目の塗布を行った。塗工液の量は第1層目の液量に対して2倍の量を流しこみ、金型の回転数を200rpmに上げて塗膜の均一化を行い、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を形成した。
【0064】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmで回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い(第1層目の乾燥工程に比べ温度が40℃低い)、90℃で60分間の加熱処理を行い、第2層目の塗膜の乾燥を行った。
(第2層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=60分)
【0065】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を起こった。
冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行い、ベルト両端部をカットした。
第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された、周長1005mm、幅330mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
(金型内面に塗工液の塗布を行っているため、ベルト外周面側の層が第1層目となり、ベルト内周面側の層が第2層目になる;第1層目と第2層目の位置関係が、外面塗工と内面塗工で逆になる。)
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが59μm、ベルト外周面側の層は厚みが32μmであった。
【0066】
[ベルト物性測定]
実施例1と同じ方法で、表面抵抗率、体積抵抗率の測定を行った。ベルト内周面の表面抵抗率ρs内の常用対数値ρs内が11.22であり、ベルト外周面の表面抵抗率ρs外の常用対数値は11.5であった。
体積抵抗率ρvの常用対数値は10.33であった。
【0067】
[実施例5]
[2層ポリイミドベルトの製造5]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0068】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗工工程)
次に、内径320mm、長さ450mmの円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒内面に均一に流延するようにディスペンサーにて塗布を行い(実施例1〜3では金型の外面に塗工を行ったが、実施例5では、金型内面に塗布を行う遠心成型で行った)、所定の全量を流し終えて、金型の回転数を200rpmに上げて塗膜の均一化を行い、ポリイミド樹脂前駆体の塗膜を形成した。
【0069】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmに回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで150℃まで加熱を行い、150℃で60分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=150℃、保持時間t=60分)
【0070】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で30分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行って、金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。
冷却後に、加熱炉から第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出した。
【0071】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗工工程)
前記、第1層目のポリイミド層が形成された金型を、50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、金型内面に形成した第1層目のポリイミド層の上に均一に流延するようにディスペンサーにて、第2層目の塗布を行った。塗工液の液量は第1層目の2倍の量を流しこみ、金型の回転数を200rpmに上げて、塗膜の均一化を行い、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を形成した。
【0072】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmに上げたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い(第1層目の乾燥工程に比べ温度が60℃低い)、90℃で60分間の加熱処理を行い、第2層目のポリイミド樹脂前駆体の塗膜の乾燥を行った。
(第2層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=60分)
【0073】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を起こった。冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行った。
第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された、周長1005mm、幅330mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
(金型内面に塗工液の塗布を行っているため、ベルト外周面側の層が第1層目となり、ベルト内周面側の層が第2層目になる;第1層目と第2層目の位置関係が、外面塗工と内面塗工で逆になる。)
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが60μm、ベルト外周面側の層は厚みが31μmであった。
【0074】
[ベルト物性測定]
実施例1と同じ方法で、表面抵抗率、体積抵抗率の測定を行った。ベルト内周面の表面抵抗率ρs内の常用対数値が11.25であり、ベルト外周面の表面抵抗率の常用対数値ρs外は11.64であった。体積抵抗率ρvの常用対数値は10.54であった。
【0075】
[実施例6]
[2層ポリイミドベルトの製造6]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0076】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗工工程)
次に、内径320mm、長さ450mm円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒内面に均一に流延するようにディスペンサーにて塗布を行い(実施例1〜3では金型の外面に塗工を行ったが、実施例6では、金型内面に塗布を行う遠心成型で行った)、所定の全量を流し込み、回転数を200rpmに上げて、塗膜の均一化を行い、ポリイミド樹脂前駆体の塗膜を形成した。
【0077】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmで回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで150℃まで加熱を行い、150℃で75分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=150℃、保持時間t=75分)
【0078】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行って、金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。
冷却後に、加熱炉から第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出した。
【0079】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗工工程)
前記、第1層目のポリイミド層が形成された金型を、50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、金型内面に形成した第1層目のポリイミド層の上に均一に流延するようにディスペンサーにて、第2層目の塗布を行った。塗工液の液量は、第1層目の2倍の量を流し込み、回転数を200rpmに上げて、塗膜の均一化を行い、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を形成した。
【0080】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmに保ったまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い(第1層目の乾燥工程に比べ温度が60℃低い)、90℃で45分間の加熱処理を行い、第2層目のポリイミド樹脂前駆体の塗膜の乾燥を行った。
(第2層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=45分)
【0081】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を起こった。冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行い、両端部をカットした。
第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された、周長1005mm、幅330mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
(金型内面に塗工液の塗布を行っているため、ベルト外周面側の層が第1層目となり、ベルト内周面側の層が第2層目になる;第1層目と第2層目の位置関係が、外面塗工と内面塗工で逆になる。)
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが58.5μm、ベルト外周面側の層は厚みが31μmであった。
【0082】
[ベルト物性測定]
実施例1と同じ方法で、表面抵抗率、体積抵抗率の測定を行った。ベルト内周面ρs内の表面抵抗率の常用対数値が11.21、べルト外周面の表面抵抗率ρs外の常用対数値は11.76であった。体積抵抗率ρvの常用対数値は11.52であった。
【0083】
[比較例1]
[2層ポリイミドベルトの製造7]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0084】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗工工程)
次に、内径320mm、長さ450mmの円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒外面に均一に流延するようにディスペンサーにて塗布を行い、所定の全量を流しこみ、回転数を200rpmに上げて、塗膜の均一化を行い、ポリイミド樹脂前駆体の塗膜を形成した。
【0085】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmで回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い、90℃で60分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=60分)
【0086】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行って、金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。冷却後に、加熱炉から第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出した。
【0087】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗工工程)
前記、第1層目のポリイミド層が形成された金型を、50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、第1層目のポリイミド層の上に均一に流延するようにディスペンサーにて、第2層目の塗布を行った。塗工液の液量は第1層目の2倍の量を流し終えて、回転数を200rpmに上げて、塗膜がまんべんなく広げて、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を形成した。
【0088】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を200rpmで回転させたまま、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで90℃まで加熱を行い(第1層目と同じ乾燥温度 T=T)、90℃で60分間の加熱処理を行い、第2層目のポリイミド樹脂前駆体の塗膜の乾燥を行った。
(第2層目乾燥工程の最高温度T=90℃、保持時間t=60分)
【0089】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を起こった。冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行った。第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された、周長1005mm、幅330mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが59μm、ベルト外周面側の層は厚みが32μmであった。
【0090】
[ベルト物性測定]
<表面抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。500V/10秒印加時の表面抵抗値を測定した。ベルト周方向に対して3箇所、ベルト幅方向に3箇所(中央部及び両端部)、周方向x幅方向で合計9箇所で計測を行い、その平均値を採用した。ベルトの外周面、内周面、それぞれについて測定を実施した
ベルト内周面の表面抵抗率ρs内の常用対数値が11.24、べルト外周面側の表面抵抗率ρs外の常用対数値11.29であった。
【0091】
<体積抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。
体積抵抗については、ベルトの内周面で測定を行い、100V/10秒印加時の測定を行った。ベルト内周面の体積抵抗率の常用対数値ρは8.75であった。
【0092】
[比較例2]
[2層ポリイミドベルトの製造8]
<塗工液の作製>
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを反応させたポリイミド樹脂前駆体を主成分とするポリイミドワニス(U−ワニスA;宇部興産社製)と、予めビーズミルにてN−メチル−2−ピロリドン中に分散させたカーボンブラック(SpecialBlack4;エボニックデグサ社製)の分散液を、カーボンブラック含有率(以下CB含有率と記す)がポリアミック酸固形分の17重量%になるように調合し、よく攪拌混合を行った、CBを分散させたポリイミド前駆体の塗工液Aを調製した。
【0093】
<第1層目のポリイミド層作製>
(第1層目 塗工工程)
次に、外計310mm、長さ380mmの外面をブラスト処理にて粗面化した円筒状の金型を用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記の塗工液Aを円筒外面にディスペンサーにて塗布を行い、所定の全量を流し終えて塗膜をまんべんなく広げて、ポリイミド樹脂前駆体の塗膜を形成した。
【0094】
(第1層目 乾燥工程)
金型の回転数を100rpmに上げ、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3度/minで150℃まで加熱を行い、150℃で60分間の加熱処理を行い、ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗膜を乾燥させた。
(第1層目乾燥工程の最高温度T=150℃、保持時間t=60分)
【0095】
(第1層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、ポリイミド樹脂前駆体のイミド化を行って、金型外面に第1層目のポリイミド層を形成した。
冷却後に、加熱炉から第1層目のポリイミド層が形成された金型を取り出した。
【0096】
<第2層目のポリイミド層作製>
(第2層目 塗工工程)
前記、第1層目のポリイミド層が形成された金型を、50rpm(回/分)で回転させながら、第1層目と同じ塗工液Aを、第1層目のポリイミド層の上に均一に流延するようにディスペンサーにて、第2層目の塗布を行った。塗工液の液量は第1層目の1/2の量を流しこみ、塗膜がまんべんなく広げて、第2層目のポリイミド前駆体の塗膜を形成した。
【0097】
(第2層目 乾燥工程)
金型の回転数を100rpmに上げ、50℃に加熱しておいた熱風循環乾燥機に導入して、昇温速度3℃/minで140℃まで加熱を行い(第1層目と同じ乾燥温度 T=T)、150℃で60分間の加熱処理を行い、第2層目のポリイミド樹脂前駆体の塗膜の乾燥を行った。
(第2層目乾燥工程の最高温度T=150℃、保持時間t=60分)
【0098】
(第2層目 焼成工程)
金型の回転を止めて、さらに高温処理可能な加熱炉(焼成炉)に導入し、昇温速度3℃/minで340℃まで加熱する。340℃で60分間の加熱処理(焼成)をして、第2層目のポリイミド樹脂前駆体のイミド化を起こった。
冷却後に、加熱炉から金型を取り出し脱型を行い、ベルトの両端部をカットした。
第1層目がベルト外周面側に、第2層目がベルト内周面側に形成された、周長973mm、幅320mm、厚み91μmのポリイミドベルトを得た。
得られたベルトの断面観察を行ったところ、ベルト内周面側の層は厚みが59μm、ベルト外周面側の層は厚みが32μmであった。
【0099】
[ベルト物性測定]
<表面抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。
500V/10秒印加時の表面抵抗値を測定した。ベルト周方向に対して3箇所、ベルト幅方向に3箇所(中央部及び両端部)、周方向x幅方向で合計9箇所で計測を行い、その平均値を採用した。ベルトの外周面、内周面、それぞれについて測定を実施した
ベルト内周面の表面抵抗率ρs内の常用対数値が13.2であり、ベルト外周面側の表面抵抗率の常用対数値ρs外は13.22であった。
【0100】
<体積抵抗率測定>
ハイレスター(三菱化学製)にて、URSプローブを使用して測定した。
体積抵抗については、ベルトの内周面で測定を行い、100V/10秒印加時の測定を行った。ベルト内周面の体積抵抗率の常用対数値ρは10.65であった。
実施例及び比較例のベルト製造条件、及び電気抵抗測定結果を表1に記す。
【0101】
【表1】

【0102】
[実施例と比較例の対比]
比較例1と比較例2では、同一の塗工液で2層の積層を行っているが、第1層目の乾燥工程と、第2層目の乾燥工程で、乾燥最高温度を同じ条件で作製している。得られたベルベルト外周面とベルト内周面で表面抵抗率にほとんど差がなく、同一の塗工液の積層で、抵抗が異なる2層の作り分けができていない。
一方、実施例1〜実施例6では、比較例1と比較例2と同様に、同一の塗工液で2層の積層を行っているが、第1層目の乾燥工程の乾燥最高温度Tと、第2層目の乾燥工程の乾燥最高温度Tを異なる温度で作製している。
得られたベルトのベルト外周面、及びベルト内周面の表面抵抗率は、外周面の方が高く、同一の塗工液で抵抗が異なる2層の作り分けができている。
実施例1〜実施例3では金型外面に塗工液の塗布を行っている。T<Tとすることで、ベルト内周面に比べ、ベルト外周面の方が、表面抵抗率が高いベルトが得られている。特にT−Tが50℃以上である、実施例2及び実施例3の方が、ベルト内周面と外周面の表面抵抗率の差が大きい。また実施例2と実施例3では乾燥最高温度の条件は同一であるが、実施例3では、第2層目の最高温度保持時間tを、第1層目の最高温度保持時間tより長く設定することで、実施例3の方が、ベルト内周面と外周面の表面抵抗率の差がさらに大きい。
また実施例4〜実施例6では、金型の内面に塗工液を塗布を行って作製している。T>Tとすることで、ベルト内周面に比べベルト外周面の方が、表面抵抗率が高いベルトが得られている。特にT−Tが50℃以上である、実施例5、実施6の方が、ベルト内周面と外周面の表面抵抗率の差が大きい。また実施例5と実施例6では乾燥最高温度の条件は同一であるが、実施例5では、第1層目の最高温度保持時間t1を、第2層目の最高温度保持時間t2より長く設定することで、実施例6の方が、ベルト内周面と外周面の表面抵抗率の差がさらに大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0103】
【特許文献1】特開平11−282277号公報
【特許文献2】特開2009−258699号公報
【特許文献3】特開2010−122437号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の複数層構造を有するポリイミドベルト製造方法において、(1)第1層目作製工程は、導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液を金型へ塗布・流延を行い第1層目の塗膜を形成す第1層目塗布工程と、前記第1層目の塗膜に含まれる溶媒を加熱乾燥により除去する第1層目乾燥工程と、加熱により前記第1層目の塗膜をイミド化する第1層目焼成工程とを少なくとも有し、(2)前記第1層目作製工程の後に、第2層目作製工程を有し、(3)第2層目作製工程は、第1層目と同じ、導電剤を分散させたポリイミド前駆体溶液を、第1層目のポリイミド層の上に塗布・流延を行い第2層目の塗膜を形成する第2層目塗布工程と、前記第2層目の塗膜の溶媒を加熱乾燥により除去する第2層目乾燥工程と、加熱により前記第2層目の塗膜をイミド化する第2層目焼成工程を少なくとも有し、(4)前記第1層目乾燥工程の最高温度をT、前記第2層目乾燥工程の最高温度をTとすると、TとTが異なり、(5)さらにそれ以上に第n層まで作製する際には、第n層目作製は、同様に、第1層目と同じポリイミド前駆体溶液を、第n−1層目のポリイミド層の上に塗布・流延を行い第n層目の塗膜を形成する第n層目塗布工程と、前記第n層目の塗膜の溶媒を加熱乾燥により除去する第n層目乾燥工程と、加熱により前記第n層目の塗膜をイミド化する第n層目焼成工程を少なくとも有し、第n層目乾燥工程の最高温度Tと、その前の第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1、第2層目乾燥工程の最高温度T、第1層目乾燥工程の最高温度Tもそれぞれ異なることを特徴とするポリイミドベルト製造方法。
【請求項2】
前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型外面に行い、前記T、T、・・・Tn−1及びTが、T<T<・・・Tn−1<Tであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドベルト製造方法。
【請求項3】
前記金型は円筒状であり、前記第1層目の塗膜形成を金型内面に行い、前記T、T、・・・Tn−1及びTは、T>T>・・・Tn−1>Tであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドベルト製造方法。
【請求項4】
前記T、T、・・・Tn−1及びTのうち隣接する2層T及びT、又は、Tn−1及びTは、少なくとも、T−T又はT−Tn−1が、50℃以上であることを特徴とする請求項2に記載のポリイミドベルト製造方法。
【請求項5】
前記T、T、・・・Tn−1及びTのうち隣接する2層T及びT、又は、Tn−1及びTは、少なくとも、T−T又はTn−1−Tが50℃以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリイミドベルト製造方法。
【請求項6】
前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1での保持時間をtn−1、前記第n層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t<t・・・Tn−1<Tであることを特徴とする請求項2又は請求項4に記載のポリイミドベルト製造方法。
【請求項7】
前記第1層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第2層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をt、前記第n−1層目乾燥工程の最高温度Tn−1での保持時間をtn−1、前記第n層目乾燥工程の最高温度Tでの保持時間をtとすると、t>t・・・Tn−1>Tであることを特徴とする請求項3又は請求項5に記載のポリイミドベルト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52549(P2013−52549A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191029(P2011−191029)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】