説明

ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムおよびその製法、それを用いた金属化フィルム

【課題】電気特性、機械特性に優れた耐熱高分子フィルムの提供、および、接着強度が強く、反り、カールが少く、耐マイグレーション特性が良好で、かつ、高い屈曲性を有する銅張り積層フィルムの提供。
【解決手段】ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリアミド酸と、ジフェニルエーテル構造を有するジアミンと芳香族テトラカルボン酸無水物から得られるポリアミド酸とを特定の組成比で特定の時間混合攪拌し、流延法によりフィルム化する。ついで得られたフィルムに下地金属、導電化金属層をスパッタリングし、さらに電気メッキで厚付けして銅張り積層フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器、部品の小型化、軽量化をになうフレキシブルプリント配線基板に用いられるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムおよび、それを用いた金属化(銅張り積層)ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドフィルムに銅箔、アルミニウム箔等の金属箔を接着剤で貼り合わせた、いわゆる3層タイプフレキシブルプリント配線基板に用いられる金属化ポリイミドフィルムが知られている。このものは使用する接着剤に起因すると考えられる次のような問題点がある。まずフィルムより熱的劣性能による寸法精度低下、不純物イオン汚染による電気特性が低下する欠点があり、高密度配線には限界がある。また接着層の厚み分や、両面用のスルホ−ル穴あけ等の加工性が低下する欠点もある。よって、小型、軽量化対応に極めて不都合な点が多いといえる。
【0003】
一方、ポリイミドフィルム上に接着剤を用いず、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレ−ティング、銅めっき等の方法で金属層を形成させた、いわゆる薄膜タイプで接着剤レスの2層フレキシブルプリント配線基板用の金属化ポリイミドフィルムが提案されている。
たとえば、絶縁性フィルムにクロム系セラミック蒸着層、銅または銅合金蒸着層及び銅めっき層を順次設けたフレキシブルな電気回路用キャリヤ−が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−329690号公報
【0004】
また、重合体フィルムにプラズマによる金属酸化物をランダム配置させ、次いで金属蒸着層、及び金属めっき層を具備する金属−フィルム積層板の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
また、電気絶縁性支持体フィルム上に25〜150オングストロ−ムの厚みのクロム/酸化クロムスパッタリング層、1μm未満の厚みの銅スパッタリング層を付与し、前記銅層にフォトレジスト組成物を塗布する回路材料の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献2】特開平4−290742号公報
【特許文献3】特開昭62−293689号公報
【0005】
また、フィルム中に錫をフィルムの0.02〜1質量%含有するポリイミドフィルムの片面または両面に、フィルムの表面より内にむけた厚み方向に、蒸着金属の一部または全部がフィルムに混在し、該混在層を含めた10〜300オングストロ−ムの範囲の厚みからなる第一蒸着金属層を設け、次いで該蒸着層上に銅からなる第二蒸着層を設けたことを特徴とするフレキシブルプリント配線用基板であり、第一金属層が好ましくはクロム、クロム合金及びクロム化合物の群から選択した1種以上であり、さらには、第一蒸着金属層を構成する金属がクロムが20%未満のニクロムであるフレキシブルプリント配線用基板が開示されている(特許文献4参照)。
【特許文献4】特開平8−330728号公報
【0006】
これらの例からも解るように従来の薄膜タイプの金属化ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムに、まず、何らかの下地層を形成し、その上に良導電材である銅を形成することにより作製されている。導電層である金属層の厚付け方法としては一般に電気メッキ法が用いられるが、電気メッキ法で得られる金属箔、特に銅箔は必ずしも繰り返し屈曲性に優れるとはいえず、かかる方法で得られるフレキシブル銅張り積層板を用いたフレキシブルプリント配線板の屈曲性は、圧延銅箔を用いた物より低い物であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、かかる状況に鑑み、薄膜法により金属化を行った場合においても、屈曲性に優れ、なおかつ機械特性電気特性に優れ、高信頼のCOF、TAB、FPCなどの基材として、デバイスとの良好な接続信頼性を実現する銅張り積層フィルムを実現することを目的として研究を続けた結果、特定のポリイミド前駆体組成物を、所定の方法にて処理することにより、前記目的が達成し得ることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、(a)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の残基が全ジアミン成分の5〜95mol%、(b)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類の残基が全ジアミン成分の95〜5mol%で、かつ(a)と(b)の和が全ジアミン成分の60mol%以上であるジアミン残基成分と、(c)芳香族テトラカルボン酸無水物が全酸成分の70mol%以上である酸残基成分とからなるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするフィルムであって、該フイルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の特性が線膨張係数11〜20ppm/℃、引張弾性率5GPa以上、該フイルムの厚さが1〜100μmであることを特徴とするポリイミドベンゾオキサゾールフィルムである。
【0009】
また(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/Cが1.5以上のポリアミド酸溶液と、(2)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/Cが1.5以上のポリアミド酸溶液とを混合し、次いで該溶液を少なくとも混合開始から室温にて5分間以上貯留した後に、支持体上に塗布乾燥して前駆体フィルムを得、さらに熱処理を行うことを特徴とするポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの製法である。さらにまた前記のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに、薄膜法により下地層、導電化層を形成し、必要に応じて厚さ1〜12μmの厚付け金属層を形成してなる、金属化ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。である。
【発明の効果】
【0010】
本発明において用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類は、剛直な分子構造を有し、高い弾性率と強度、低い線膨張係数をもたらすことが知られている。一方、ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類は柔軟でありながら高い耐熱性をもたらすことが知られている。これら、両方の特徴を共有させんがために両者を共重合しようとするのは自然な発想である。しかしながら、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類とジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類の反応性には大きな差があり、同時に重合しようとすると、非常に分子量分布と組成分布の広いポリマーしか得ることが出来なかった。本発明に示すように各々のジアミン類を主に用いたポリアミド酸溶液を別個に重合し、所定の条件にて配合することにより、両者の特長を共有するポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが得られるのである。
本発明に用いられるかかる特定組成のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、誘電特性、電気絶縁特性、寸法安定性に優れ、また、引張弾性率が高く薄膜金属層と良好なる接着性を発現する。また線膨張係数が銅箔に極めて近いために、銅張り積層フィルムおよび、そこから得られる製品のソリや歪みが小さく、良好な接続信頼性を実現する。さらに、本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムと金属層を積層した場合、全体を屈曲した場合においても金属層ヘの応力集中が低減され、結果として金属化フィルム全体の屈曲耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における(a)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、特に限定されるものではないが、具体的には以下のものが挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
【化10】

【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
これらのジアミンは、単独であっても二種以上を用いることも可能である。
本発明において好ましく用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類は、非対称構造の芳香族ジアミン類であり、さらに好ましくは5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、6−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、、5−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、6−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンズオキサゾールである。
【0026】
本発明における(b)ジフェニルエーテル構造を有するジアミン類としては、特に限定されるものではないが、例えば3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル等を例示することができ、より好ましく用いられるるジフェニルエーテル構造を有するジアミン類は4,4’−ジアミノジフェニルエーテルである。
【0027】
長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の線膨張係数を11〜20ppm/℃、引張弾性率を5GPa以上であるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得るには、フィルム組成が、(a)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類 5〜95mol%と、(b)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類 95〜5mol% とすることが必須である。(a)が10〜90mol%、(b)が10〜90mol% が好ましく、さらに、(a)が25〜80mol%、(b)が20〜75mol%が好ましく、特に、(a)が40〜75mol%、(b)が25〜60mol% が好ましい。ただし、(a)+(b)は全ジアミン類の60mol%以上であることが必須であり、さらに75mol%以上であることが好ましい。
【0028】
本発明においては、全ジアミンの40モル%未満であれば前記のベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類以外のジアミンを一種または二種以上を併用しても構わない。例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン。
【0029】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン,4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド。
【0030】
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン。
【0031】
1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、および上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシ基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシ基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシ基で置換された芳香族ジアミン。
【0032】
本発明において用いられる(c)芳香族テトラカルボン酸無水物が全酸成分の70mol%以上である酸残基成分は芳香族テトラカルボン酸無水物類であり、芳香族テトラカルボン酸無水物としては、特に限定されないが、好ましくは具体例として以下のものが挙げられる。
【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
【化16】

【0036】
【化17】

【0037】
【化18】

【0038】
【化19】

【0039】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独でも二種以上を用いることも可能である。本発明で好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸無水物、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物である。
【0040】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。用いられるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6ラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等である。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独でも二種以上を用いることも可能である。
【0041】
また、本発明の線状ポリイミドまたは線状ポリアミド酸の分子末端を炭素−炭素二重結合を有する末端基で封止するためにジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物を用いることが出来る。本発明で好ましく用いられるのは、無水フタル酸、無水マレイン酸であり、さらに無水マレイン酸の使用が好ましい。無水マレイン酸の使用量は、芳香族ジアミン成分1モル当たり0.001〜1.0モル比である。
【0042】
本発明のポリアミド酸の合成時に使用する極性有機溶剤としては、原料モノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられ,これらの溶媒は,単独あるいは混合して使用することができる。極性有機溶媒の使用量は,仕込みモノマーを溶解するのに十分な量であればよく,通常は5〜50質量%であり,好ましくは10〜20質量%の固形分を含むものであればよい。
【0043】
本発明おいては、(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類からなるポリアミド酸溶液と、(2)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類からなるポリアミド酸溶液とを、各々別個に重合し、各々還元粘度ηsp/cが1.5以上、好ましくは2.0以上、なお好ましくは3.0以上、なおさらに好ましくは4.0以上とした物を用いることが好ましい。重合条件は、各々の組成に適した条件を採用すればよい。
【0044】
本発明で用いるポリアミド酸の有機溶媒溶液は、固形分を好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%を含有するものであって、またその粘度はブルックフィールド粘度計による測定で10〜2000Pa・s、好ましくは100〜1000Pa・sのものが、安定した送液が可能であることから好ましい。重合反応は、有機溶媒中で撹拌および/または混合しながら、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して進められるが、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両反応体の添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。
本発明では閉環触媒を用いても良い。本発明で使用される閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミンおよびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環式第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンを使用することが好ましい。
本発明で使用される閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミンおよびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環式第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンを使用するのが好ましい。
【0045】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効な方法である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封鎖剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。
本発明で使用される脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられるが、無水酢酸および/または無水安息香酸が好ましい。ポリアミド酸に対する閉環触媒の含有量は、閉環触媒の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が0.5〜8となる範囲が好ましい。また、ポリアミド酸に対する脱水剤の含有量は、脱水剤の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が0.1〜4となる範囲が好ましい。尚、この場合には、アセチルアセトンなどのゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0046】
本発明ではさらに、フィルムの改質を目的として有機、無機の公知のフィラーを配合することが出来る。フィラーとしては酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、等の金属酸化物、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のリン酸塩を好ましく用いることが出来る。
【0047】
以下、本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの製法について説明する。本発明では、例えば、
(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/cが1.5以上のポリアミド酸溶液と、
(2)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/cが1.5以上のポリアミド酸溶液とを、
(a)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類 5〜95mol%と、
(b)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類 95〜5mol%
ただし (a)+(b) > 60mol%以上
となるように配合、混合した溶液を、少なくとも混合開始から、室温にて5分間以上貯留した後(混合時間を含む)に、支持体上にに塗布乾燥し、乾燥後の自己支持性となった前駆体フィルムを、さらに熱処理を行うことによりポリイミドフィルムを得る。
【0048】
ポリアミド酸溶液を塗布する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラムまたはベルト状回転体などが挙げられる。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面加工する、あるいは梨地状に加工することができる。
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0049】
支持体上に塗布したポリアミド酸溶液を乾燥して前駆体フィルムを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、好ましくは80〜120℃であり、乾燥時間としては、5〜180分間が例示され、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間である。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られた前駆体フィルムから目的のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。一般には上記乾燥よりも高温での処理によりイミド化反応が進行して、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得ることができる。
【0050】
本発明において、2種類のポリアミド酸溶液を混合攪拌する方法は特に限定されず、通常の攪拌翼、高粘度用の攪拌翼を用いて混合攪拌する方法、多軸の押し出し機、あるいはスタティックミキサーなどを用いる方法、さらには、ロールミルなどの高粘度用混合分散機を用いる方法を例示することが出来る。本発明では、混合開始より、少なくとも室温にて3分間以上の貯留時間を経てから次の塗工工程に進むことが必須である。貯留時間は、好ましくは10分間以上、さらに好ましくは30分以上、なおさらに好ましくは100分以上、なおさらに好ましくは5時間以上である。ここに室温とは5〜40℃とし、好ましくは15〜30℃、なお好ましくは18〜28℃である。本発明ではポリアミド酸溶液を3種以上としてもよい。
【0051】
上述したように、一般にポリイミドフィルムは、ポリアミド酸溶液を乾燥して得られる前駆体フィルムを加熱してイミド化反応を行わせることによって得られる。得られるフィルムが良好な屈曲性を呈しやすくなるという点からは以下のイミド化の方法・条件が挙げられる。
イミド化の方法・条件:
熱閉環法による2段階の熱処理、
1段目の熱処理:150〜250℃で1〜10分間の処理、
2段目の熱処理:400〜600℃で0.1〜15分間の処理、
1段目の熱処理終了後から2段目の熱処理開始までの昇温条件:1〜15℃/秒。
【0052】
熱閉環法とは、ポリアミド酸を加熱することでイミド化する方法である。ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を促進しても構わない。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、溶媒の一部を乾燥するとともにイミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。
【0053】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。
【0054】
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1〜4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。
支持体に形成されたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの前駆体フィルムを完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
【0055】
かかる構成、および製法において作製される本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、以下の構成、および方法で金属化フィルムとする事ができる。すなわち、本発明ではポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに、必要に応じて、真空プラズマ処理、コロナ処理、常圧プラズマ処理、逆スパッタ処理、、あるいはアルカリ処理、酸処理、溶剤洗浄処理等を行った後、真空装置内にて、必要に応じて、真空蒸着、ないしはスパッタリング等の真空薄膜技術を用いて下地金属層を形成し、さらに銅、アルミニウム、金等の導電化層を、形成し、さらに必要に応じて電気メッキ等にて導電性金属を厚付けすることにより金属化フィルムを得ることが出来る。
【0056】
本発明において前処理に用いられるプラズマは不活性ガスプラズマ、ないし活性ガスプラズマであり、窒素、アルゴン、酸素、等が用いられる。スパッタリング時に用いられるプラズマは不活性ガスプラズマであり、窒素ガス、Ne、Ar、Kr、Xe、等を好ましく用いることができる。プラズマを発生させる方法に格別な制限はなく、不活性気体をプラズマ発生装置内に導入し、プラズマを発生させればよい。プラズマ処理の方法に格別な制限はなく、基材フィルム上に金属層を形成する際に用いるプラズマ処理装置を用いて行えばよい。プラズマ処理に要する時間は特に限定されず、通常1秒〜30分、好ましくは10秒〜10分である。プラズマ処理時のプラズマの周波数と出力、プラズマ発生のためのガス圧、処理温度に関しても格別な制限はなく、プラズマ処理装置で扱える範囲であれば良い。周波数は通常13.56MHz、出力は通常50W〜1000W、ガス圧は通常0.01Pa〜10Pa、温度は、通常20℃〜250℃、好ましくは20℃〜180℃である。出力が高すぎると、基材フィルム表面に亀裂の入るおそれがある。また、ガス圧が高すぎると電気絶縁層表面の平滑性が低下するおそれがある。スパッタリングの方法に格別な制限はなく、直流2極スパッタリング、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、ECRスパッタリング、バイアススパッタリング、プラズマ制御型スパッタリング、マルチ・ターゲットスパッタリングなどを用いることができる。これらのうち、直流2極スパッタリング、又は高周波スパッタリングが好適である。スパッタリング処理時の出力、プラズマ発生のためのガス圧、処理温度に関しても格別な制限はなく、スパッタリング装置で扱える範囲であれば良い。出力は通常10W〜1000W、ガス圧は通常0.01Pa〜10Pa、温度は、通常20℃〜250℃、好ましくは20℃〜180℃である。また、成膜レートは0.1Å/秒〜1000Å/秒、好ましくは1Å/秒〜100Å/秒である。成膜レートが高すぎると、形成した金属膜に亀裂の入るおそれがある。また、ガス圧が高すぎると密着性が低下するおそれがある。
【0057】
次いで、この表面処理した面に、下地金属層を形成する。本発明において好ましい下地金属は、ニッケル、ニッケル−クロム合金、クロム合金、モネル合金、モリブデン、モリブデン合金、亜鉛、亜鉛合金、銅−亜鉛合金、銅−ニッケル合金、銅−錫合金などであり、好ましくはニッケル−クロム合金である。ニッケル−クロム合金をスパッタリングにより付着させ、厚さ20〜2000Åのニッケル−クロム合金のスパッタ層を形成する。スパッタリング条件は任意である。なお、ニッケル−クロム合金のスパッタ層は、ニッケル−クロムの合金ターゲットを用いる方法、二元同時スパッタリングを行う方法、あるいはニッケルとクロムを独立にスパッタリングし、後工程で両者を拡散させる方法など用いることができる。
【0058】
次に、厚付け金属層銅層を形成する。この厚付け金属層はスパッタ法、蒸着法、湿式の無電解メッキ法のいずれを用いて形成しても良く、また好ましくは2つ以上の方法を組み合わせて形成される。本発明では、ニッケル−クロム合金のスパッタ層の後に、スパッタ法、蒸着法、無電解メッキ法の何れかで、まず0.1〜3μm程度の銅層を形成した後に、電気メッキ法にてさらに銅層の厚みを稼ぐ方法を好ましく用いることができる。該厚付け金属層の金属としては、銀、銅、金、白金、ロジウム、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、黄銅、白銅、青銅、モネル、錫鉛系半田、錫銅系半田、錫銀系半田、等が用いられるが銅を用いるのが性能と経済性のバランスにおいて好ましい実施態様である。
【0059】
基材フィルムの表面に設けられた下地金属層、好ましくはニッケル−クロム合金のスパッタ層は、その厚さが20〜2000Å、好ましくは40〜1000Å、さらに好ましくは80〜500Åである。下地金属層の厚さが20Å未満では、接着性が充分でなく、2000Åを超えるとエッチングが困難になり、線間絶縁抵抗の低下を招く場合がある。
ニッケル−クロム合金においては、合金中のクロム含有量は、1〜30質量%であることが望ましく、5〜25質量%がさらに好ましく、10〜25質量%がなお好ましい。クロム含有量が1質量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10質量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえって、導体の導電性が阻害され、かつパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。
【0060】
下地金属層の上に設けられる導電化層は、その厚さが1〜12μmであることが好ましく、さらには1〜9μm、なおさらには2〜5μm程度が適当である。かかる導電化層はスパッタリング法、蒸着法、ないし電気メッキ法の単独、あるいは組み合わせで形成することができる。本発明において好ましい形態はスパッタリング法、ないし蒸着法により100〜10000Å程度の導電化層を形成し、さらに製膜速度の速い蒸着、あるいは無電解メッキ、電気メッキにより厚付けする方法である。導電化層の金属としては、銅、銅合金、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル、等を用いる事ができる。
【0061】
本発明の厚付け金属層として、導電化層と同種の金属ないし合金、好ましくは金、銀、白金、錫鉛半田、鉛フリー半田、錫、アルミニウム、銅、ニッケルを用いることができ、最も好ましい金属は銅である。銅層の形成方法としては、電気メッキを好ましく用いることができ、電気メッキ法としては、ピロリン酸銅メッキ、あるいは硫酸銅メッキを好ましく用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0063】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/c)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローゼ型の粘度管により30℃で測定した。
【0064】
2.フィルム厚さ
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン(R)1245D)を用いて測定した。
【0065】
3.フィルムの引張弾性率、引張破断強度および破断伸度
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ長さ100mm、幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、引張試験機(島津製作所製オートグラフ(R)、機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmで測定し、引張弾性率、引張強度及び破断伸度を求めた。
【0066】
4.フィルムの線膨張係数(CTE)
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、下記条件で伸縮率を測定し、30〜300℃までを15℃間隔で分割し、各分割範囲の伸縮率/温度の平均値より求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0067】
5.フィルムの融点、ガラス転位温度
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、下記条件でDSC測定し、融点(融解ピーク温度Tpm)とガラス転移点(Tmg)をJIS K 7121に準拠して下記測定条件で求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製DSC3100SA
パン ; アルミパン(非気密型)
試料質量 ; 4mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0068】
6.フィルムの熱分解温度
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、充分に乾燥した試料を下記条件でTGA測定(熱天秤測定)して、5%質量減をもって規定した。
装置名 ; MACサイエンス社製TG−DTA2000S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料質量 ; 10mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0069】
7.平面性
一辺10cmの正方形に切り取った銅張り積層フィルムを平らな定盤に銅箔が上になるように置き、定盤から4つの角までの高さを測定し4で除した値を「ソリ」の値とした。なお、銅箔面が凸にそっている場合には、表裏を逆に置き、同様に測定し、値を負の数として表示した。ネジレ、ウネリについては目視にて判定した。
【0070】
8.金属化フィルムの初期の導体接着性
90度剥離試験をJIS C5016準拠の方法にて行った。
【0071】
9.初期の導体接着性
銅箔面にフォトレジスト:FR−200、シプレー社製を塗布・乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2質量%KOH水溶液にて現像した。次に、HClと過酸化水素を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kgf/cm2のスプレー圧でエッチングし、幅2.00mm長さ180mmの長矩形テストパターンを作製し、長矩形が中央になるように余白を配した幅20mm、長さ200mmに試験片を切り抜き、JIS5016方法Aにより、90度剥離試験を行った。
【0072】
10.加熱試験後の導体接着性
150℃のドライオーブン中に100時間放置した後、90度剥離試験をJIS C5016準拠の方法にて行った。
【0073】
11.加圧加湿試験後の導体接着性
平山製作所製PCT試験機にて、121℃にて2気圧(飽和)条件下にて100時間処理した後、初期と同じ方法にて90度剥離試験を行った。
【0074】
12.体積抵抗率
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、得られたフィルムについてJIS6481準拠の方法にて行った。
【0075】
13.表面抵抗
得られた銅張り積層フィルムの金属(銅)をエッチングにより除去し、得られたフィルムについてJIS6481準拠の方法にて行った。
【0076】
14.金属化ポリイミドフィルムの耐マイグレーション性
40μmピッチの櫛形電極に、電圧(DC60V)を印可し、85℃・85%RHの恒温恒湿槽(FX412Pタイプ、エタック社製)の中に入れ電圧負荷状態のまま5分毎に絶縁抵抗値を測定記録し、線間の抵抗値が100Mオーム以下に達する時間を測定しマイグレーション評価とした。
なお、評価パターンは初期の導体接着強度項と同じ手法で形成した。
【0077】
15.フロー半田耐熱性(初期)
得られた銅張り積層フィルムを50.8mm×50.8mmの正方形にカットし、280℃に加熱した錫−銅−銀系の鉛フリー半田槽に10秒間浸漬し、剥離、フクレ等の有無を目視にて観察した。
【0078】
16.加湿後の半田耐熱性
得られた銅張り積層フィルムを50.8mm×50.8mmの正方形にカットし、85℃85%RHの恒温恒湿槽に72時間放置後に、同様に280℃に加熱した錫−銅−銀系の鉛フリー半田槽に10秒間浸漬し、剥離、フクレ等の有無を目視にて観察した。
【0079】
17.手半田耐熱性
得られた銅張り積層フィルムを50.8mm×50.8mmの正方形にカットし、金属面側に直径2mm、長さ10mmの糸半田を置き、こて先を450℃に加熱した半田ごてを糸半田にあてて、30秒間保持し、その後、フィルム面側の状態を観察した。
【0080】
18.屈曲性(MIT)
JIS C 6471 に準拠し、
測定機器:MIT耐揉疲労試験機(東洋精機製作所)
測定条件:静止荷重500g、屈曲速度175cpm、屈曲角度135度、曲率2mm
使用パターン:回路幅:0.4mm、回路間隔0.2mm−3本、
回路幅0.15mm、回路間隔0.15mm−9本、
回路本数計12本、試料幅9mm、試料方向MD
にて測定した。
【0081】
19.屈曲性(IPC)
IPC−FC−233に準拠し、
測定機器:FPC高速屈曲試験機(信越エンジニアリング株式会社)
測定条件:ストローク20mm、屈曲速度1500cpm、
曲率4.0mmφ、カバーレイ面−内側
使用パターン:回路幅:0.5mm、回路間隔0.5mm回路本数8本、
試料幅12.5mm、試料方向MD
にて測定した。
なお、カバーレイフィルムには、厚さ12.5μmのカプトンフィルムに15μmの接着剤層を有する市販品を用いた。
【0082】
〔ポリアミド酸の重合(1)〕
<ベンゾオキサゾール構造を有するジアミンからなるポリアミド酸の重合>
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで、N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後,ピロメリット酸二無水物485質量部を加え,25℃の反応温度で48時間攪拌すると、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(1)が得られた。得られた溶液のηsp/Cは4.2dl/gであった。
【0083】
〔ポリアミド酸の重合(2)〕
<ジフェニルエーテル構造を有するジアミンからなるポリアミド酸の重合>
ピロメリット酸無水物545質量部、4,4’ジアミノジフェニルエーテル500質量部を5000質量部のジメチルアセトアミドに溶解し、温度を20℃以下に保ちながら同様に反応させてポリアミド酸溶液(2)を得た。得られた溶液のηsp/Cは2.5dl/gであった。
【0084】
〔ポリアミド酸の重合(3)〕
テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物588質量部、パラフェニレンジアミン216質量部を用いる以外は、〔ポリアミド酸の重合(1)〕と同様にしてポリアミド酸溶液(3)を得た。得られた溶液のηsp/cは3.2dl/gであった。
【0085】
(実施例1)
299質量部のポリアミド酸溶液(1)と、5743質量部のポリアミド酸溶液(2)ポリ容器に入れ、60分間、十分に攪拌混合した。
続いて得られたポリアミド酸溶液をコンマコーターを用いて幅800mm、厚さが125μmのポリエステルフィルムの片面に塗膜乾燥厚みが24μm、幅が540mmとなるようにコーティングして110℃で60分間乾燥した後、ポリエステルフィルムから剥がし、前駆体フィルムを得た。得られた前駆体フィルムをピンテンターにて200℃5分間、450℃5分間の二段階熱処理を行い、茶褐色のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。
【0086】
(実施例2〜9)(比較例1〜4)
以下、ポリアミド酸の比率と混合時間を変え、同様に操作し、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム及びポリイミドフィルムを得た。ポリアミド酸の比率と混合時間および得られたポリイミドベンゾオキサゾールフィルム及びポリイミドフィルムの特性を表1〜2に示す。
【0087】
<金属化フィルムの製造法>
実施例1にて得られたフィルムを25cm×25cmの正方形に切り取り、直系24cmの開口部を有するステンレス製の枠に挟んで固定した。次いでフィルム表面のプラズマ処理を行った。プラズマ処理条件はキセノンガス中で、周波数13.56MHz、出力100W、ガス圧0.8Paの条件であり、処理時の温度は25℃、処理時間は5分間であった。次いで、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、ニッケル−クロム(10%)合金のターゲットを用い、キセノン雰囲気下にてRFスパッタ法により、10Å/秒のレートで厚さ200Åのニッケル−クロム合金被膜を形成した。次いで、100Å/秒のレートで銅をスパッタリングし、厚さ0.2μmの銅薄膜を形成させた。
得られた金属化フィルムをプラスチック製の枠に固定し直し、硫酸銅めっき浴をもちいて、厚さ15μmの厚付け銅メッキ層を形成し、引き続き200℃で10分間熱処理し目的とする金属化ポリイミドフィルムを得た。
得られた金属化フィルムを使用し、フォトレジスト:FR−200、シプレー社製を塗布・乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2%KOH水溶液にて現像した。次に、HClと過酸化水素を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kgf/cm2のスプレー圧でエッチングし、後述する評価試験に必要なテストパターンを形成後、0.5μm厚に無電解スズメッキを行った。その後、125℃、1時間のアニール処理を行った。
得られた試験パターンを用いて試験評価を行った。結果を表1〜2に示す。以下同様に実施例2〜9、比較例1〜4にて得られたフィルムを用い、銅張り積層フィルムを作製し、特性を評価した。結果を表1〜2に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0090】
以上述べてきたように本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、優れた電気特性、機械的特性、屈曲性を有し、耐熱絶縁フィルム、フレキシブルな銅張り積層板など金属化フィルムの基材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の残基が全ジアミン成分の5〜95mol%、(b)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類の残基が全ジアミン成分の95〜5mol%で、かつ(a)と(b)の和が全ジアミン成分の60mol%以上であるジアミン残基成分と、(c)芳香族テトラカルボン酸無水物が全酸成分の70mol%以上である酸残基成分とからなるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするフィルムであって、該フイルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の特性が線膨張係数11〜20ppm/℃、引張弾性率5GPa以上、該フイルムの厚さが1〜100μmであることを特徴とするポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項2】
(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/Cが1.5以上のポリアミド酸溶液と、(2)ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られる還元粘度ηsp/Cが1.5以上のポリアミド酸溶液とを混合し、次いで該溶液を少なくとも混合開始から室温にて5分間以上貯留した後に、支持体上に塗布乾燥して前駆体フィルムを得、さらに熱処理を行うことを特徴とするポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの製法。
【請求項3】
請求項1記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに、薄膜法により下地層、導電化層を形成し、必要に応じて厚さ1〜12μmの厚付け金属層を形成してなる、金属化ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。

【公開番号】特開2006−2004(P2006−2004A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178400(P2004−178400)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】