説明

ポリイミド前駆体ワニス、およびポリイミドワニスの製造方法

【課題】高い透明性を有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスの製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも有機溶剤と、下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体またはそのポリイミドを含有するワニスの製造方法であって、前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(以下、使用される有機溶剤という)として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して、前記ワニスを製造することを特徴とするワニスの製造方法。


(一般式(H1)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性の光学材料として最適な高い透明性有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニス、およびポリイミドワニスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。さらに表示装置分野では、ガラス基板代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討が行なわれ、それを用いて曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が進んでいる。
【0003】
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られる樹脂であるが、高寸法安定性や高耐熱性などの優れた特性を有することから高性能光学材料としての用途展開が望まれている。しかし、ポリイミドはその化学構造に起因して着色しやすい問題がある。ポリイミドの透明性を構造的な面から解決する試みとして、例えば、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いた半脂環式ポリイミドが提案されている(非特許文献1)。半脂環式ポリイミドは、芳香族ポリイミドでの着色原因であるCT吸収を有しないことから、光学材料用途へ展開が期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Hasegawa, High Perform. Polym. 13 (2001) S93-S106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いた半脂環式ポリイミドの場合でも、光透過スペクトルに400nm付近の吸収が見られた。これは、ポリイミドの着色が、CT吸収などの分子構造に由来する着色だけでなく、ポリイミド前駆体ワニスの原料に由来する着色に起因しているためと推定される。ポリイミド前駆体およびポリイミドは難溶性であるため、一般に窒素含有溶剤が用いられている。窒素含有溶剤は、高温で着色しやすいため、溶剤に由来する着色が疑われるが、これをどのように抑制するかは従来技術では検討されていない。
【0006】
本発明の目的は、フレキシブルディスプレイ用や、太陽電池用、タッチパネル用の透明基材に最適な高い透明性を有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニスおよび、ポリイミドワニスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の各項に関する。
【0008】
1. 少なくとも有機溶剤と、下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または下記一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの製造方法であって、
前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(以下、使用される有機溶剤という)として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して、前記ワニスを製造することを特徴とするワニスの製造方法。
【0009】
【化1】

(一般式(H1)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。)
【0010】
【化2】

(一般式(H2)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基である。)
【0011】
2. 使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が20%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする前記項1に記載のワニスの製造方法。
【0012】
3. 使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする前記項1または2に記載のワニスの製造方法。
【0013】
4. 使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.2%未満である有機溶剤を使用することを特徴とする前記項1〜3のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0014】
5. 使用される有機溶剤の純度が、99.9%以上であることを特徴とする前記項1〜4のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0015】
6. 使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.1%以下であることを特徴とする前記項1〜5のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0016】
7. 使用される有機溶剤の金属成分の含有率が、10ppm以下であることを特徴とする前記項1〜6のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0017】
8. 使用される有機溶剤が、窒素含有化合物であることを特徴とする前記項1〜7のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0018】
9. 使用する有機溶剤が、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンおよびこれらの2種以上の組み合わせからなる群より選ばれることを特徴とする前記項8に記載のワニスの製造方法。
【0019】
10. 一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の芳香族基であることを特徴とする前記項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0020】
11. 一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の脂肪族基であることを特徴とする前記項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0021】
12. 一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の脂肪族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の芳香族基であることを特徴とする前記項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0022】
13. 一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが、下記式(H3)で表される4価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする前記項10または11に記載のワニスの製造方法。
【0023】
【化3】

【0024】
14. 一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが、下記一般式(H4)で表される4価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする前記項12に記載のワニスの製造方法。
【0025】
【化4】

(一般式(H4)中、R〜Rは、独立して、CH基、C基、酸素原子、または硫黄原子を表し、R6は直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0026】
15. 一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが、下記一般式(H5−1)〜(H5−5)で表される2価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする前記項10または12に記載のワニスの製造方法。
【0027】
【化5】

(一般式(H5−1)〜(H5−5)中、Rは水素、メチル基、エチル基であり、R8は1価の有機基であり、Ar〜Ar28は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、nは1〜5の整数であり、n〜n7は、それぞれ独立に、0〜5の整数である。)
【0028】
16. 一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが、下記一般式(H6)で表される2価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする前記項11に記載のワニスの製造方法。
【0029】
【化6】

(一般式(H6)中、R9は、水素または炭素数1〜3の炭化水素基を表し、R10は、直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0030】
17. 前記項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムの400nmの光透過率が、各前記項で規定される条件を満たさない有機溶剤を使用して製造されたポリイミドフィルムに比べて増加することを特徴とする前記項1〜16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0031】
18. 前記項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムが、400nmの光透過性70%以上の透明性を有することを特徴とする前記項1〜16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【0032】
19. 前記項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0033】
20. 前記項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、光を透過または反射させて使用する光学材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高い透明性を有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスの製造方法を提供することができる。これらポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスは、フレキシブルディスプレイ用や、太陽電池用、タッチパネル用の透明な耐熱基材として好適に使用される。
【0035】
本発明者は、鋭意検討した結果、有機溶剤の純度がポリイミドの着色に強く影響を与えることを見いだした。前述のとおり、ポリイミドの着色は一般にその化学構造に基づくと考えられており、また一方で、窒素含有溶剤が高温で劣化して着色することは避けられないと考えられたため、有機溶剤の純度がポリイミドの着色に強く影響を与えることは、予想外であった。特に有機溶剤は、ワニス中に占める重量が多いため、微量な不純物等がポリイミドの着色原因となると考えられる。
【0036】
以下に詳述するように、使用される有機溶剤の純度に関わる特性、即ち、光透過率、加熱還流処理後の光透過率、ガスクロマトグラフィー分析による純度、ガスクロマトグラフィー分析による不純物ピークの割合、不揮発成分の量、および金属成分の含有率の少なくとも一つを指標として厳密に純度が管理された有機溶剤を使用して、ポリイミド前駆体またはポリイミドを含有するワニスを製造することにより、そのワニスを用いて透明性が大幅に改良されたポリイミドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 純度99.96%のGC分析の結果を示すチャートである。
【図2】N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc) 純度99.99%のGC分析の結果を示すチャートである。
【図3】N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 純度99.62%のGC分析の結果を示すチャートである。
【図4】1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI) 純度99.30%のGC分析の結果を示すチャートである。
【図5】溶剤の純度(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係を示すグラフである。
【図6】長保持時間不純物のピーク面積(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係を示すグラフである。
【図7】溶剤の400nm光透過率(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係を示すグラフである。
【図8】加熱還流処理後の溶剤の400nm光透過率(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明により製造されるワニスは、少なくとも有機溶剤と、下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または下記一般式(H2)であらわされるポリイミドとを含有する。
【0039】
【化7】

(一般式(H1)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。)
【0040】
【化8】

(一般式(H2)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基である。)
本明細書において、用語「ワニス」は、特に明示しない場合、一般式(H1)で表されるポリイミド前駆体を含有するワニスおよび一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの両方を意味する。
【0041】
ワニス製造プロセスのいくつかのステップにおいて、有機溶剤が使用される。製造工程において使用された有機溶剤は、少量の蒸発した量を除き、ほぼそのままの量がワニス中に含有されることになる。本発明において、「使用される有機溶剤」は、ワニスの製造に関わる全ての工程において使用された有機溶剤の総和を意味する。より具体的には、「使用される有機溶剤」は、重合工程で使用される重合溶媒としての有機溶剤を含み、さらに、必要により使用される溶剤、例えばワニスを目的の濃度・粘度に希釈する工程で使用される有機溶剤、添加剤を加える際にあらかじめ希釈溶液とする際に使用される有機溶剤などを包含する。
【0042】
本発明において、使用される有機溶剤は、下記の純度に関わる特性、即ち、(a)光透過率、(b)加熱還流処理後の光透過率、(c)ガスクロマトグラフィー分析による純度、(d)ガスクロマトグラフィー分析による不純物ピークの割合、(e)不揮発成分の量、および(f)金属成分の含有率からなる特性の少なくとも1つに関して、下に規定される条件を満たす。
【0043】
即ち、本発明は、少なくとも有機溶剤と、前記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または前記一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの製造方法であって、条件(a)〜(f):
(a)使用される有機溶剤として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して、前記ワニスを製造すること;
(b)使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が20%以上である有機溶剤を使用すること;
(c)使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上である有機溶剤を使用すること;
(d)使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.2%未満である有機溶剤を使用すること;
(e)使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.1%以下であること;および
(f)使用される有機溶剤の金属成分の含有率が、10ppm以下であること
から選ばれる条件の少なくとも1つ満たす。
【0044】
また、これらの特性における条件は、使用される有機溶剤の総和に基づくものである。即ち、使用される有機溶剤は、1種類に限らず、2種類以上であってもよい。使用される有機溶剤が2種類以上とは、特定の工程において混合溶剤が使用される場合と、例えば重合溶媒と添加剤の希釈溶剤が異なる場合のように工程により異なる溶剤を使用する場合のどちらも意味する。使用される有機溶剤が2種類以上のときは(以下、混合溶剤という)、混合溶剤全体に対して純度に関わる各特性の条件が適用され、複数の工程で有機溶剤が使用される場合には、最終的にワニス中に含まれることになる全ての有機溶剤を混合した混合溶剤に対して、純度に関わる各特性の条件が適用される。実際に有機溶剤を混合して、各特性を測定してもよいし、個別の有機溶剤について特性を求め、計算により混合物全体の特性を求めてもよい。例えば、純度100%の溶剤Aを70部、純度90%の溶剤Bを30部使用したとき、使用される有機溶剤の純度は、97%と計算される。
【0045】
各条件について、さらに詳細に検討する。
【0046】
(a)光透過率
使用される有機溶剤は、光路長1cm 400nmにおける光透過率が、89%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上が特に好ましい。光透過率の高い溶剤を用いた場合、ポリイミドフィルムの製造工程でフィルムの着色が低減するため好ましい。
【0047】
一般に、10μm膜厚のポリイミドフィルム(自立フィルムに加え、塗膜も意味する。)を形成したとき、波長400nmにおける透過率が70%以上になると、透明性用途の幅が格段に広がるため、「10μm膜厚で波長400nmにおける透過率70%以上」は、一つの基準である。本発明においては、使用される有機溶剤の上記を光透過率が89%以上となるように、有機溶剤の純度を管理することで、この基準を超える透明性の高いポリイミドを与えるワニスを得ることができる(実施例参照)。
【0048】
(b)加熱還流処理後の光透過率
使用される有機溶剤は、使用する有機溶剤を窒素雰囲気下で3時間加熱還流した後、光路長1cm 400nmにおける光透過率が、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。窒素中で3時間加熱還流した際の光透過率高い溶剤を用いた場合、ポリイミドフィルムの製造工程でフィルムの着色が低減するため好ましい。上記の範囲を満たすように純度が管理された有機溶剤を使用することで、「10μm膜厚で波長400nmにおける透過率70%以上」のポリイミドを与えるワニスを得ることができる(実施例参照)。
【0049】
(c)ガスクロマトグラフィー分析による純度
使用される有機溶剤は、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上が好ましく、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。有機溶剤の純度が高い場合、最終的に得られるポリイミドフィルムの光透過率が高いため、好適である。
【0050】
一般に、ワニス中に含有される有機溶剤の純度を分析した結果が上記範囲であれば、使用される有機溶剤の純度は上記範囲にあると言える。
【0051】
有機溶剤は、微量のその他の溶剤(例えば後で例示する有機溶剤以外のもの)を含む場合があるが、着色に影響を与えないもの(例えば主成分より低沸点のもの等)は、本発明では有機溶剤の純度に影響を与える「不純物」としては考慮しない。
【0052】
(d)ガスクロマトグラフィー分析による不純物ピークの割合
使用される有機溶剤は、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、好ましくは0.2%未満であり、より好ましくは0.1%以下であり、特に好ましくは0.05%以下である。溶剤の主成分ピークの対し、保持時間が長時間側に現れる不純物は、高沸点な不純物であったり、分子間相互作用が大きい不純物であったりするため、ポリイミドフィルムの製造工程で揮発しにくく、フィルム中の不純物として残りやすいため、着色の原因となる。2種以上の有機溶剤が使用される場合、ガスクロマトグラフィー分析で保持時間が長時間側に現れる主成分のピークより、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、上記範囲であることが好ましい。
【0053】
(e)不揮発成分の量
本発明で使用する有機溶剤は、使用する有機溶剤の250℃、30分加熱後の不揮発成分が、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、0.01%以下が特に好ましい。溶剤の不揮発成分は、ポリイミドフィルムの製造工程で揮発しにくく、フィルム中の不純物として残りやすくフィルムの着色原因となるため、少ないことが好ましい。
【0054】
(f)金属成分の含有率
使用される有機溶剤は、使用する有機溶剤の金属(例えば、Li,Na,Mg,Ca,Al,K,Ca,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Cd)成分の含有率が10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましく、特に500ppb以下、より特に好ましくは300ppb以下である。金属成分の含有率が低い場合、高温処理にした場合の溶剤への着色が低く、ポリイミドフィルムの製造工程でフィルムの着色が低減するため好ましい。
【0055】
上記の(a)〜(f)について述べた条件は、透明性の高いポリイミドを与える条件として、それぞれ独立して採用することができる。即ち、(a)〜(f)について述べた条件のそれぞれについて、独立して本発明の1態様が成立する。但し、(a)〜(f)の中の2つ以上の条件すべてを満たすことも好ましく、通常、より多くの条件を満たすことが好ましい。
【0056】
使用される有機溶剤の種類は、前記ポリイミド前駆体またはポリイミドを溶解できる溶剤(混合溶剤の場合は、混合溶剤として、ポリイミド前駆体またはポリイミドを溶解できればよい。)であれば、特に限定されない。例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。特に溶解性が優れることから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒がより好ましい。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。ポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスの溶解性に優れることから、窒素含有化合物であることが好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンであることがより好ましい。その中でも、N,N−ジメチルアセトアミドは、高温で着色しにくいことから、ポリイミドフィルムの製造工程でフィルムの着色が低減するため好ましい。
【0057】
本発明で製造されるワニスに含まれるポリイミド前駆体またはポリイミドは前記のとおりである。一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAで表される4価の脂肪族基または芳香族基は、テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基(−COOH)を除いた4価の残基であり、4つのカルボキシル基を除く前のテトラカルボン酸およびその無水物等を、以下、テトラカルボン酸成分という。また、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)中のBで表される2価の脂肪族基または芳香族基は、ジアミンから2つのアミノ基(−NH)を除いた残基であり、2つのアミノ基を除く前のジアミンを、以下、ジアミン成分という。
【0058】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分の組み合わせ(テトラカルボン酸成分/ジアミン成分)は、芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミン成分、芳香族テトラカルボン酸成分/脂肪族ジアミン成分、脂肪族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミン成分が耐熱性に優れるために好ましく、各成分に脂肪族を用いる場合には、脂環構造を有するものがより好ましい。
【0059】
芳香族テトラカルボン酸成分としては、一般的にポリイミドのテトラカルボン酸成分として用いられる芳香族テトラカルボン酸成分であれば特に限定されないが、AまたはAが式(H3)で表される芳香族基から選ばれるテトラカルボン酸成分は、得られるポリイミドの耐熱性が高いため好ましい。
【0060】
【化9】

【0061】
この中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸およびこれらの酸無水物から選ばれるテトラカルボン酸成分は、得られるポリイミドの透明性が高いことからより好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸およびこれらの酸無水物は、更に得られるポリイミドの熱膨張係数が低いことから特に好ましい。
【0062】
脂肪族テトラカルボン酸成分としては、一般的にポリイミドのテトラカルボン酸成分として用いられる脂肪族テトラカルボン酸成分であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの耐熱性が高いため、脂環構造を有するテトラカルボン酸成分が好ましく、AまたはAが一般式(H4):
【0063】
【化10】

(一般式(H4)中、R〜Rは、独立して、CH基、C基、酸素原子、または硫黄原子を表し、R6は直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
で示される6員環の脂環構造を有するテトラカルボン酸成分がより好ましく、その中でも多脂環型や架橋環型のテトラカルボン酸成分は、更に得られるポリイミドの耐熱性、熱膨張係数が低いことから特に好ましい。
【0064】
6員環の脂環構造を有する脂肪族テトラカルボン酸成分としては、例えばシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−オキシビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−チオビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−スルホニルビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(テトラフルオロプロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)およびこれらの酸無水物が挙げられる。
【0065】
これらのうちでは、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸およびこれらの酸無水物が好ましい。
【0066】
多脂環型や架橋環型の脂肪族テトラカルボン酸成分としては、例えばオクタヒドロペンタレン−1,3,4,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、6−(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5−トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ−5−エン−2,3,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ−7−エン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、9−オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらのうち、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸およびこれらの酸無水物は、製造方法が容易であり、得られるポリイミドの耐熱性に優れることから好ましい。
【0067】
芳香族ジアミン成分としては、一般的にポリイミドのジアミン成分として用いられる芳香族ジアミン成分であれば特に限定されないが、BまたはBが、一般式(H5−1)〜(H5−5)で表される2価の芳香族基から選ばれるジアミン成分は、得られるポリイミドの耐熱性が高いため好ましい。BまたはBが、前記一般式(H5−3)〜(H5−5)で表されるジアミンは、得られるポリイミドの熱膨張係数が低いことからより好ましい。
【0068】
【化11】

(一般式(H5−1)〜(H5−5)中、Rは水素、メチル基、エチル基であり、R8は1価の有機基であり、Ar〜Ar28は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、nは1〜5の整数であり、n〜n7は、それぞれ独立に、0〜5の整数である。)
【0069】
一般式(H5−1)で表される芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、2,5-トルエンジアミン、2,6‐トルエンジアミン等やこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、p−フェニレンジアミン、2,5-トルエンジアミンは、特に耐熱性に優れるため好ましい。
【0070】
一般式(H5−2)で表されるエーテル結合を有する芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン等やこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、特に耐熱性に優れるため好ましい。
【0071】
一般式(H5−3)で表されるアミド結合を有する芳香族ジアミンとしては、例えば4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’,6’−ジクロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’,6’−ジメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−ブロモ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−ブロモ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−フルオロ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−クロロ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−ブロモ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、4−クロロ−3,4’−ジアミノベンズアニリド、4−メチル−3,4’−ジアミノベンズアニリド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジクロロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジメチルテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラフルオロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラフルオロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラクロロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラブロモテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−4−ブロモイソフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−5−tert−ブチルイソフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、N,N’−m−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)等やこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、4,4’−ジアミノベンズアニリド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)が好ましく、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)が、特に得られるポリイミドの熱膨張係数が低いことからより好ましい。
【0072】
一般式(H5−4)で表されるエステル結合を有する芳香族ジアミンとしては、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、3−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、4−アミノフェニル−3−アミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタル酸、ビス(4−アミノフェニル)イソフタル酸、ビス(4−アミノフェニル)ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、ビフェニル−4,4‘−ジイル ビス(4−アミノベンゾエート)等やこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタル酸、1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼンは、特に得られるポリイミドの熱膨張係数が低いことからより好ましく、1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼンは、得られるポリイミドの光透過率に優れることから特に好ましい。
【0073】
一般式(H5−5)中、Rで表される有機基としては、例えば、水素、炭素数20までのアルキルまたはアリール基、炭素数20までのアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいアミノ基等が挙げられる。具体的には、一般式(H5−5)で表されるトリアジン構造を有する芳香族ジアミンとしては、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジエチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジフェニルアミノ−1,3,5−トリアジン等やこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち特に得られるポリイミドの熱膨張係数が低いことから、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジンが好ましく、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジンがより好ましい。
【0074】
脂肪族ジアミン成分としては、一般的にポリイミドのジアミン成分として用いられる脂肪族ジアミン成分であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの耐熱性が高いため、2価の脂環構造を有するジアミン成分が好ましく、BまたはBが、一般式(H6)で示される6員環の脂環構造から選ばれるジアミン成分がより好ましい。
【0075】
【化12】

(一般式(H6)中、R9は、水素または炭素数1〜3の炭化水素基を表し、R10は、直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0076】
前記一般式(H6)で示される6員環の脂環構造を有するジアミン成分としては、例えば1,4−ジアミノシクロへキサン、1,4−ジアミノ−2−メチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−エチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−n−プロピルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−イソプロピルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−n−ブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2−イソブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2―sec―ブチルシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−2―tert―ブチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロへキサン、ビ(シクロヘキサン)−4,4’−ジアミン、4,4’−メチレンジシクロヘキサンアミン、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’−スルホニルジシクロヘキサンアミン、4,4’−(ジメチルシランジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’−(パーフルオロプロパン−2,2−ジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’−オキシジシクロヘキサンアミン、4,4’−チオジシクロヘキサンアミン、イソホロンジアミンが好ましく、特に得られるポリイミドの熱線膨張係数が低いことから、1,4−ジアミノシクロヘキサンがより好ましい。また、上記の1,4−シクロヘキサン構造を有するジアミンの1,4位の立体構造は、特に限定されないが、トランス構造であることが好ましい。シス構造では着色しやすくなるなどの不具合が生じることがある。
【0077】
本発明で製造されるポリイミド前駆体ワニスの前記一般式(H1)中のR、Rは、いずれも独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。
【0078】
、Rが、いずれも水素原子である場合、製造コストが低い点で、好ましい。
【0079】
、Rが、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である場合、ポリイミド前駆体ワニスの粘度安定性に優れ、また得られるポリイミドの耐熱性が優れる点で、好ましい。
【0080】
、Rが、それぞれ独立に、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基である場合、ポリイミド前駆体ワニス製造時に生じる析出等の問題が改善できること、また得られるポリイミドの耐熱性が優れる点で、好ましい。
【0081】
また、本発明で製造されるポリイミドワニスは、ポリイミド前駆体ワニスに比べ、低温でポリイミドフィルムを製造できる点で、好ましい。
【0082】
本発明で製造されるワニスは、化学構造に従って、1)ポリアミド酸ワニス、2)ポリアミド酸エステルワニス、3)ポリアミド酸シリルエステルワニス、4)ポリイミドワニス、に分類することができる。1)〜3)は、ポリイミド前駆体を含有するワニスであり、前記一般式(H1)中のR、Rが取る化学構造に従って分類され、4)は、前記一般式(H2)で表されるポリイミドを含有するワニスである。そしてこれら化学構造の分類ごとに、以下の重合方法により容易に製造することができる。ただし、本発明のポリイミド前駆体ワニスまたはポリイミドワニスの製造方法は、以下の製造方法に限定されるわけではない。
【0083】
1)ポリアミド酸ワニスの製造方法
有機溶剤にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0084】
2)ポリアミド酸エステルワニスの製造方法
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールで反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを−20〜120℃好ましくは−5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加え再沈殿などの精製をおこなうこともできる。
【0085】
3)ポリアミド酸シリルエステルワニスの製造方法
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る(必要に応じて、蒸留等によりシリル化されたジアミンの精製をおこなう。)。脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させ、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0086】
4)ポリイミドワニスの製造方法
あらかじめ前述の1)〜3)のポリイミド前駆体を得た後、もしくはテトラカルボン酸成分、ジアミン成分と溶剤を加えた後、150℃以上に加熱し熱イミド化する方法、または、化学イミド化剤(例えば、無水酢酸などの酸無水物および、ピリジン、イソキノリンなどのアミン系触媒)を加える方法により、ポリイミドワニスが得られる。なお、熱イミド化する場合、溶剤の着色を低減するため、窒素雰囲気中で反応させることが好ましい。
【0087】
また、前記製造方法は、いずれも有機溶媒中で好適に行なうことができるので、その結果として、本発明のポリイミド前駆体ワニスもしくはポリイミドワニスを容易に得ることができる。
【0088】
これらの製造方法においては、いずれも、テトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比は、必要とするポリイミド前駆体の粘度により任意に設定できるが、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0089】
本発明の製造方法において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比がジアミン成分過剰である場合、必要に応じて、過剰ジアミン分のモル数に概略相当する量のカルボン酸誘導体を添加し、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を当量に近づけることができる。ここでのカルボン酸誘導体としては、実質的にポリイミド前駆体溶液の粘度を増加させない(つまり実質的に分子鎖延長に関与しない)テトラカルボン酸、末端停止剤として機能するトリカルボン酸およびその無水物、ジカルボン酸およびその無水物から選ばれる。
【0090】
使用されるカルボン酸誘導体として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸等のテトラカルボン酸;トリメリット酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸等のトリカルボン酸およびこれらの酸無水物;フタル酸、テトラハイドロフタル酸、シス−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、マレイン酸等のジカルボン酸およびこれらの酸無水物を挙げることができる。これらのカルボン酸誘導体を用いることで、加熱時の熱着色、熱劣化を防止できることがある。特に、ビフェニルテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸誘導体や、反応性官能基を有するカルボン酸誘導体は、イミド化する際反応し、耐熱性を向上させることができるため、好ましい。
【0091】
本発明で製造されるワニスは、有機溶剤とテトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量に対して、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量が5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上の割合であることが好適である。なお、通常は60質量%以下、好ましくは50質量%以下であることが好適である。濃度が低すぎると得られるポリイミドフィルムの膜厚の制御が難しくなることがある。
【0092】
本発明のポリイミド前駆体ワニスもしくはポリイミドワニスの製造方法では、ポリイミド前駆体もしくはポリイミドを重合した後、さらに有機溶剤を加え、希釈することができる。希釈に使用する有機溶剤も、前述の条件(a)〜(f)から選ばれる条件の少なくとも1つ満たす有機溶剤であることが好ましい。
【0093】
本発明のポリイミド前駆体ワニスもしくはポリイミドワニスの製造方法では、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などの添加剤を添加することができる。これらは、高純度の有機溶剤を用いてポリイミド前駆体ワニスまたはポリイミドワニスを製造した後、添加することもできるし、あらかじめ、高純度(例えば、純度99.8%以上)の有機溶剤にこれらを溶解もしくは分散して添加して、ポリイミド前駆体ワニスまたはポリイミドワニスを製造することもできる。
【0094】
本発明の製造方法で製造されるワニスは、膜厚10μmのポリイミドフィルムにしたとき400nmの光透過性が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
【0095】
本発明の製造方法で製造されるワニスは、得られるポリイミドの着色が改善され、光透過性に優れることから、光学用途、例えば光を透過させてまたは反射させて使用する光学材料用途において用いられるワニスとして好適である。
【0096】
本発明の製造方法で製造されるワニスから、次のようにしてポリイミドを製造するができる。まずポリイミド前駆体ワニスの場合、ポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで好適にポリイミドを製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、化学イミド化の方法を適用することができる。また、ポリイミドワニスの場合、ポリイミドワニスに含まれる有機溶剤を加熱蒸発、減圧蒸発させるか、またはポリイミドを析出させることで、ポリイミドを得ることができる。得られるポリイミドの形態は、特に限定されないが、フィルム、ポリイミドフィルムと他の基材との積層体、コーティング膜、粉末、中空ビーズ、成型体、発泡体などを好適に挙げることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
以下の各例で使用した原材料の略称、純度は、次のとおりである。
[ジアミン成分]
1,4−t−DACH: トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン 純度 99.1%(GC分析)
1,2−t−DACH: トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン
ODA: 4,4’−オキシジアニリン 純度 99.9%(GC分析)
DABAN: 4,4’−ジアミノベンズアニリド 純度 99.90%(GC分析)
4−APTP: N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド 純度 99.95%(GC分析)
AZDA: 2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン 純度 99.9%(GC分析)
BABB: 1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン 純度 99.8%(GC分析)
【0099】
[テトラカルボン酸成分]
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 純度99.9%(開環した後3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.8%、Na,K,Ca,Al,Cu,Si:それぞれ<0.1ppm、Fe:0.1ppm、Cl:<1ppm
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 純度99.6%(開環した後2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.5%、Na,K,Al,Cu,Si:それぞれ<0.1ppm、Ca,Fe:それぞれ0.1ppm、Cl:<1ppm
i−BPDA:2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 純度 99.9%(開環した後2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%
6FDA:4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸二無水物 純度99%
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物 純度100%(開環した後4,4’−オキシジフタル酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.8%
DPSDA:4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物 純度99.8%(開環した後4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%
PMDA:ピロメリット酸無水物
s−BPTA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
PMDA−H: 1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物 純度 92.7%(GC分析),水素化ピロメリット酸二無水物としての純度99.9%(GC分析)
BTA−H: ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物 純度 99.9%(GC分析)
BPDA−H: 3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物純度 99.9%(GC分析)
【0100】
[有機溶剤]
NMP:N−メチル−2−ピロリドン 適宜、精密蒸留精製等の処理を行い、モレキュラーシーブを用いて脱水したもの
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド 適宜、精密蒸留精製等の処理を行い、モレキュラーシーブを用いて脱水したもの
DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン 適宜、精密蒸留精製等の処理を行い、モレキュラーシーブを用いて脱水したもの
【0101】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0102】
有機溶剤の評価
[GC分析:溶剤の純度]
島津製作所製GC−2010を用い以下の条件で測定した。純度(GC)はピーク面積分率より求めた。
カラム: J&W社製DB−FFAP 0.53mmID×30m
温度:40℃(5分保持)+40℃〜250℃(10分/分)+250℃(9分保持)
注入口温度: 240℃
検出器温度: 260℃
キャリアガス: ヘリウム 10ml/分
注入量: 1μL
【0103】
[不揮発分]
ガラス製容器に溶剤5gを秤量し、250℃の熱風循環オーブン中で30分加熱した。室温に冷却し、その残分を秤量した。その質量より、溶剤の不揮発分(質量%)を求めた。
【0104】
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの石英標準セルを用いて測定した。超純水をブランクとして、溶剤の400nmにおける光透過率を測定した。
【0105】
なお、還流後の光透過率では、酸素濃度200ppm以下の窒素雰囲気下、3時間加熱還流した溶剤を測定した。
【0106】
[金属分の定量]
パーキン・エルマー製ElanDRC II 誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用い、溶剤に含まれる金属成分を定量した。
【0107】
ポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスの評価
[ワニス固形分]
アルミシャーレに溶液(ワニス)1gを量り取り、200℃の熱風循環オーブン中で2時間加熱して固形分以外を除去し、その残分の質量よりワニス固形分(加熱残分 質量%)を求めた。
【0108】
[回転粘度]
東機産業製TV−22 E型回転粘度計を用い、温度25℃、せん断速度20sec−1での溶液(ワニス)の粘度を求めた。
【0109】
[対数粘度]
0.5g/dLのワニスのN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定し、対数粘度を求めた。
【0110】
ポリイミドフィルムの評価
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
【0111】
[弾性率、破断伸度]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度を測定した。
【0112】
[熱膨張係数(CTE)]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0113】
〔参考例H1〕
ポリイミド前駆体ワニス、ポリイミドワニスの製造に用いた有機溶剤の評価を表H1に示す。また、図1〜図4に、それぞれN−メチル−2−ピロリドン(NMP) 純度99.96%(図1)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc) 純度99.99%(図2)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 純度99.62%(図3)、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI) 純度99.30%(図4)のGC分析の結果を示す。
【0114】
〔実施例H1〕
窒素雰囲気下、反応容器中にトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(1,4−t−DACH) 1.40g(0.0122モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン(純度99.96%) 28.4gに溶解した。この溶液を50℃に加熱し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA) 3.50g(0.0119モル)と、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA) 0.09g(0.0003モル)とを徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体ワニスを得た。このワニスの特性を測定した結果を表H2に示す。
【0115】
得られたポリイミド前駆体ワニスをガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られた共重合ポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表H2に示す。
【0116】
〔実施例H2〜18〕
表H1に記載したジアミン成分、テトラカルボン酸成分、有機溶剤を用いた以外は、実施例H1と同様にして、ポリイミド前駆体ワニスおよび、ポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表H2に示す。
【0117】
〔実施例H19〕
反応容器中にトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン3.00g(0.026モル)を窒素雰囲気下にてN,N−ジメチルアセトアミド(純度99.99%) 60.35gに溶解した。その後、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド 5.55g(0.0273モル)を加え、80℃で2時間攪拌してシリル化を行った。この溶液を40℃に冷却した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物6.77g(0.023モル)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物0.88g(0.003モル)を添加した。40℃で攪拌し、1時間以内にすべての固体が溶解した。更に40℃で8時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体ワニスを得た。
【0118】
得られたポリイミド前駆体ワニスをガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)そのまま基板上で、120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、次いで350℃で3分、熱処理して熱的にイミド化を行なって、無色透明な共重合ポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られた共重合ポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmの共重合ポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表H2に示す。
【0119】
〔実施例H20〕
反応容器に1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(BABB)1.742g(0.005モル)、モレキュラーシーブを用い脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(純度99.99%) 22.44gを加え、室温(25℃)、窒素気流下で溶解した。その溶液にN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA) 2.70g(0.0105モル)、ピリジン 0.79g(0.01モル)を加え、2時間攪拌してシリル化を行った。さらに、この溶液に4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)2.223g(0.005モル)を徐々に加え、室温(約25℃)で12時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体ワニスを得た。
【0120】
得られたポリイミド前駆体ワニスをガラス基板に塗布し、そのまま基板上で100℃ 15分、200℃ 60分、300℃ 10分 熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。さらにポリイミド/ガラス積層体を、水に浸漬した後剥離し、膜厚約10μmのフィルムを得、そのフィルムの特性を測定した。結果を表H2に示した。
【0121】
〔実施例H21〕
窒素ガスで置換した反応容器中に4,4’−オキシジアニリン 2.00g(10ミリモル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(純度99.99%)を仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が15質量%となる量の24.03gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0122】
この溶液にPMDA−H 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌した後、160℃に加熱した。ディーン・スターク・トラップで精製した水を除去しながら、攪拌した。赤外吸収スペクトル測定にて、イミド化反応が完了していることを確認した後、室温まで冷却し、均一で粘稠なポリイミドワニスを得た。
【0123】
このポリイミドワニスの特性を測定した結果を表H2に示す。
【0124】
PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)そのままガラス基板上で120℃で1時間、150℃で30分間、200℃で30分間、350℃まで昇温して5分間、加熱して無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。
【0125】
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表H2に示す。
【0126】
〔比較例H1〜2〕
表H2に記載したジアミン成分、テトラカルボン酸成分、有機溶剤を用いた以外は、実施例H1と同様にして、ポリイミド前駆体ワニスおよび、ポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表H2に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
【表3】

【0130】
表H2に示した結果から分かるとおり、本発明の製造方法で得られたポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスから得られたポリイミドフィルムは、400nmにおける光透過率が70%以上であり、光学材料用途ポリイミドとして好適であった。一方、比較例H1〜2で示されるように、不適当な溶剤を用いて製造したポリイミド前駆体ワニスは、400nmにおける光透過率が70%を下回り、黄色の着色が確認された。
【0131】
〔実施例H22〜31、比較例H3〜4〕
表H3に記載した有機溶剤を用いた以外は、実施例H1と同様にして、ポリイミド前駆体ワニスおよび、ポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表H3に示す。
【0132】
【表4】

【0133】
図5には、溶剤の純度(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係、図6には、長保持時間不純物のピーク面積(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係、図7には、溶剤の400nm光透過率(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係、図8には、還流後溶剤の400nm光透過率(%)とポリイミドフィルムの400nm光透過率(%)との関係を示す。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、高い透明性有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニスおよび、ポリイミドワニスの製造方法を提供することができる。これらポリイミド前駆体ワニスおよびポリイミドワニスは、フレキシブルディスプレイ用や、太陽電池用、タッチパネル用の透明な耐熱基材として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶剤と、下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または下記一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの製造方法であって、
前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(以下、使用される有機溶剤という)として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して、前記ワニスを製造することを特徴とするワニスの製造方法。
【化1】

(一般式(H1)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。)
【化2】

(一般式(H2)中、Aは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Bは2価の脂肪族基または芳香族基である。)
【請求項2】
使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が20%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項3】
使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のワニスの製造方法。
【請求項4】
使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.2%未満である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項5】
使用される有機溶剤の純度が、99.9%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項6】
使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項7】
使用される有機溶剤の金属成分の含有率が、10ppm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項8】
使用される有機溶剤が、窒素含有化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項9】
使用する有機溶剤が、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンおよびこれらの2種以上の組み合わせからなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載のワニスの製造方法。
【請求項10】
一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項11】
一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の脂肪族基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項12】
一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが4価の脂肪族基であり、一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項13】
一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが、下記式(H3)で表される4価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または11に記載のワニスの製造方法。
【化3】

【請求項14】
一般式(H1)中のAおよび一般式(H2)中のAが、下記一般式(H4)で表される4価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項12に記載のワニスの製造方法。
【化4】

(一般式(H4)中、R〜Rは、独立して、CH基、C基、酸素原子、または硫黄原子を表し、R6は直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項15】
一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが、下記一般式(H5−1)〜(H5−5)で表される2価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または12に記載のワニスの製造方法。
【化5】

(一般式(H5−1)〜(H5−5)中、Rは水素、メチル基、エチル基であり、R8は1価の有機基であり、Ar〜Ar28は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基であり、nは1〜5の整数であり、n〜n7は、それぞれ独立に、0〜5の整数である。)
【請求項16】
一般式(H1)中のBおよび一般式(H2)のBが、下記一般式(H6)で表される2価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項11に記載のワニスの製造方法。
【化6】

(一般式(H6)中、R9は、水素または炭素数1〜3の炭化水素基を表し、R10は、直接結合、CH基、C(CH基、SO基、Si(CH基、C(CF基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムの400nmの光透過率が、各請求項で規定される条件を満たさない有機溶剤を使用して製造されたポリイミドフィルムに比べて増加することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムが、400nmの光透過性70%以上の透明性を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、光を透過または反射させて使用する光学材料を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−23597(P2013−23597A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160371(P2011−160371)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】