説明

ポリイミド前駆体成形物の製造方法

【課題】耐熱性及び力学的性質の優れたポリイミド成形体を製造するために有用なポリイミド前駆体成形物を提供する。
【解決手段】下記式(I)
【化1】


(I)
(R1は、炭素数が1から18の脂肪族アルコール残基、炭素数が7から18の芳香族アルコール残基、および炭素数が6から18の脂環族アルコール残基より選ばれ、同一または異なっていてもよい。Arは、パラ配向性の2価の芳香族基である。)
で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミック酸エステルを含有する成形用ドープを成形し、得られた成形物を凝固液中に浸漬して凝固物を得た後、該凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリイミド前駆体成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び力学的性質の優れたポリイミド成形体を製造するために有用なポリイミド前駆体成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドはその高い耐熱性や機械的物性から幅広く開発が成されている。とりわけ全芳香族ポリイミドはその剛直構造から特に高い耐熱性や機械的物性を発揮することが期待されている。
しかしながら、全芳香族ポリイミドは不融不溶であることから、ポリイミドの状態での成形加工が困難である。
【0003】
そこでこの問題を回避するために、当該ポリイミドの前駆体の段階での成形加工、すなわちジアミン成分と酸無水物との反応生成物であるポリアミド酸の状態で成形または配向操作を行った後、イミド化してポリイミド成形体を得る方法が行なわれている。しかし、ポリアミド酸は一般に極めて加水分解しやすく、成形時及び熱イミド化時にその分子量が低下するという問題を有している。
【0004】
この問題点を解決すべく、ポリイミド前駆体としてポリアミド酸エステルを用いてポリイミド繊維、またはフィルムの検討が行われている。例えばポリアミック酸エステル、hexamethylphosphoric triamideとベンゼンからなるポリマー溶液をメタノールにて凝固後、延伸させてポリアミック酸エステル繊維を得ることが記載されている(非特許文献1)。しかし、ポリマー溶液を調整するのに使用する溶媒が人体に有害であることや、凝固するためにアルコールを使用していることから煩雑な設備が必要であり、工業的に簡易的なプロセスでポリイミド前駆体成形物を製造する方法が切望されていた。
【0005】
【非特許文献1】Am.Chem.Soc.Polym.Prepn.,34(1),746(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる目的は、上述の如き先行技術の問題点を解決し、分子量の低下を抑制可能で成形物の物性、構造に悪影響を及ぼすことなく、高度に配向したポリイミド繊維またはフィルム等の前駆体成形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、凝固後の成形物にアミド系溶媒と水との混合液からなる膨潤剤を使用して膨潤処理を行い、続いて延伸処理をすることで簡便なプロセスで所望の成形物が得られることを発見し、本発明を導き出したものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.下記式(I)
【化1】

(I)
(R1は、炭素数が1から18の脂肪族アルコール残基、炭素数が7から18の芳香族アルコール残基、および炭素数が6から18の脂環族アルコール残基より選ばれ、同一または異なっていてもよい。Arは、以下のいずれかにより表される2価の芳香族基である。)
【化2】


で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミック酸エステルを含有する成形用ドープを成形し、得られた成形物を凝固液中に浸漬して凝固物を得た後、該凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリイミド前駆体成形物の製造方法。
2.凝固液が、水とアミド系溶媒とからなる混合液であり、混合液における水の含有量が50重量%以上であることを特徴とする上記に記載のポリイミド前駆体成形物の製造方法。
3.アミド系溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,Nジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする上記に記載のポリイミド前駆体成形物の製造方法。
4.上記のいずれかの方法により得られるポリイミド前駆体成形物。
5.上記のいずれかの方法により得られたポリイミド前駆体成形物を熱処理することを特徴とするポリイミド成形物の製造方法。
6.上記の方法により得られるポリイミド成形物、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高度に配向したポリイミド前駆体成形物を得ることができる。
また、本発明で得られるポリイミド前駆体成形物を熱処理することにより、分子量低下が抑制され、高度に配向したポリイミド成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記(I)式の繰り返し単位からなるポリマーは、(a)芳香族ジアミン化合物と(b)下記式
【化3】

(R1は式(I)における定義と同じである。)
で表される酸塩化物とを用いて溶液重合を行うことにより製造される。
【0011】
本発明で使用される(a)芳香族ジアミン化合物としては、
【化4】

が挙げられ、各々の芳香族環は核置換していてもよい。これらの芳香族ジアミン化合物群をパラ配向性芳香族ジアミンという。中でも
【化5】

が好ましい。
【0012】
上記パラ配向性芳香族ジアミンと異なる芳香族ジアミン成分としては、例えばm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
【0013】
ジアミン成分は、パラ配向性芳香族ジアミン単独からなるかあるいはパラ配向性芳香族ジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、パラ配向性芳香族ジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0014】
また、(b)の酸塩化物は公知の方法を用いて製造することが可能である。例えば、(1)ピロメリット酸二無水物をアルコールと反応させることでピロメリット酸ジエステルを合成する。ここで用いるアルコールとしては、炭素数が1から18の脂肪族アルコール、炭素数が6から18の芳香族アルコール、または炭素数が6から18の脂環族アルコールが使用され、特に炭素数が1から12の脂肪族アルコール、炭素数が6から12の脂環族アルコールが好ましく、中でも1級または2級のアルコールが好ましい。この反応は、単にピロメリット酸二無水物をアルコール中室温〜還流温度で反応させればよい。ただしこの際水分をできるだけ少なくすることが収率を上げるのに好ましい。(2)かくして得られるピロメリット酸ジエステルにオキサリルクロライド、塩化チオニル等を加えカルボン酸を塩化物とし、再結晶により(b)を得ることができる。
【0015】
重合を行うのに用いる溶媒については、特に限定はされないが上記の如き原料モノマー(a)、(b)を溶解し、かつそれらと実質的に非反応性であり、好ましくは固有粘度が少なくとも1.0以上、より好ましくは1.2以上のポリマーを得ることが可能なものであれば如何なる溶媒も使用できる。例えば、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルピロリドン−2(NMP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPR)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等のアミド系溶媒、p−クロルフェノール、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,4−ジクロルフェノール等のフェノール系溶媒もしくはこれらの混合物をあげることができる。
【0016】
この場合、溶解性を上げるために重合前、途中、あるいは終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0017】
ポリアミック酸エステルの製造は、前記モノマー(a)、(b)を脱水した上記の溶媒中で通常のポリアミドの溶液重合法と同様に製造することができる。この際の反応温度は80℃以下、好ましくは60℃以下とする。温度が高すぎるとイミド化反応が起こることがあるためである。また、この時の濃度はモノマー濃度として1〜20wt%程度が好ましい。
【0018】
また、本発明ではトリアルキルシリルクロライドをポリマー高重合度化の目的で使用することも可能である。
また、ポリアミック酸エステルを製造する際、これらの(a)芳香族ジアミン化合物と(b)酸塩化物のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0019】
ポリアミック酸エステルの末端は封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0020】
一般に用いられる酸塩化物とジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
【0021】
ポリアミック酸エステルを含有する成形用ドープを得る方法としては、重合で得られたポリマー溶液をアルコール、水といった非溶媒に投入しポリマーを単離した後、適当な溶媒に再溶解して成形に用いる方法と重合で得られたポリマーをそのまま成形に用いる方法が好ましく挙げられる。再溶解して成形用ドープを調整する場合は、ポリマーの重合に用いた上記記載の溶媒を使用することができる。
【0022】
成形用ドープにおけるポリマーの濃度としては、ポリマーの種類により好ましい濃度が異なるので特に限定はされないが、0.1重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜25重量%である。
【0023】
以上の如き成形用ドープは、成形性にすぐれ、湿式法あるいはドライジェット湿式法により繊維、フィルム、パルプ状粒子等に成形することができる。
ドライジェット湿式法とは、紡糸用口金または成形用ダイから吐出したドープを一旦気体雰囲気下を通過させた後に凝固浴中に導入する方法で、特に成形物の表面の平滑化、ドラフトの増大等に効果がある。
【0024】
吐出(成形)したドープを凝固液中に浸漬して、凝固物を得る。
ここで凝固液としては、アミド系溶媒と水の混合溶媒を使用することができる。アミド系溶媒としては、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルピロリドン−2(NMP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPR)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0025】
アミド系溶媒と水との混合比率としては、凝固液の50重量%以上が水であり、より好ましくは55重量%以上が水である。50重量%よりも少ない場合は、凝固性が十分ではなく、ハンドリングが困難となる。
ついで、得られた凝固物を膨潤剤に浸漬してから適宜の延伸倍率の下で延伸した後、乾燥することでポリイミド前駆体成形物が得られる。
【0026】
ここで、膨潤剤としては、糸状を溶解することなく膨潤可能なアミド系溶媒と水の混合溶媒を使用することができる。アミド系溶媒としては、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルピロリドン−2(NMP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPR)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0027】
アミド系溶媒と水との混合比率としては、膨潤剤の50重量%以上がアミド系溶媒であり、より好ましくは55重量%以上がアミド系溶媒である。50重量%よりも少ない場合は、膨潤効果が十分ではなく、延伸処理を行うことが困難となる。
【0028】
これらの1例を示すと、ポリアミック酸エステルとアミド系溶媒とからなる成形用ドープを水/N−メチル−2−ピロリドン=70/30(wt/wt)の混合溶液からなる凝固液にドライジェット湿式法により吐出し、凝固を完了させ、続いて水/N−メチル−2−ピロリドン=30/70(wt/wt)の混合溶液からなる膨潤剤に通過させて凝固糸を膨潤させる。膨潤後、延伸、水洗および乾燥することにより高度に配向したポリイミド前駆体成形物を得ることができる。
【0029】
続いて、該ポリイミド前駆体成形物を熱処理することで、高度に配向したポリイミド成形物を得ることが可能である。
熱処理する温度としては200〜600℃の範囲であり、250〜550℃の範囲が好ましい。また、熱処理の雰囲気として空気中および窒素、アルゴンといった不活性雰囲気下で行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによっていささかも限定されるものではない。
固有粘度(ηinh)は、3wt%LiCl N−メチル−2−ピロリドンを用いてポリマー濃度0.5g/dlで30℃において測定した値である。
【0031】
[参考例1]
無水ピロメリット酸(以下PMDAということがある)200gと脱水エタノール600mlとを混合、還流しPMDAを完全に溶解させたのち、エタノール300mlを減圧留去した。得られた反応物を冷却後、沈澱物を濾別し、酢酸エチルを用いて数回洗浄することで2,5−ジカルボメトキシテレフタル酸を得た。得られた2,5−ジカルボメトキシテレフタル酸(70g)を酢酸エチル(500ml)に分散した後、オキサリルクロライド(65g)を添加して完全に溶解するまで反応した。減圧濃縮により溶媒を除去した後、ヘキサンで再結晶して得られる酸塩化物はNMR、赤外分析の結果、2,5−ジカルボメトキシテレフタル酸塩化物であることを確認した。250℃で脱水乾燥した塩化リチウムをN−メチルピロリドン(以下NMPということがある)に3wt%溶解し、パラフェニレンジアミン1.4852gを上記溶媒100ml中に乾燥窒素気流中で溶解した。このアミン溶液を外部冷却により−10℃に保ち、トリメチルシリルクロライド(1.8ml)を添加した。さらに上述の2,5−ジカルボメトキシテレフタル酸塩化物を2.3838gおよびテレフタル酸クロライドを1.3941g添加し、重合反応1時間せしめた。更に撹拌を室温で2時間続行し重合反応を終了した。反応終了後、常温に戻し大量のイオン交換水中に投入し重合体を析出させた。得られた重合体を濾別し、更にエタノール、アセトンで洗浄後、真空乾燥した。なお、3wt%LiCl N−メチル−2−ピロリドン溶液で測定したηinhは4.3であった。
3wt%LiCl NMP溶液に上記重合体を8wt%の濃度で溶解して成形用ポリマードープを調整した。
【0032】
[実施例1]
得られた成形用ドープを口金0.3mm、吐出温度50℃で50℃の30wt%NMP水溶液に吐出して得られた凝固糸を70wt%NMP水溶液に浸漬し膨潤させた後、1.8倍に延伸した。水洗、150℃で乾燥することでポリアミック酸エステル繊維を得た。得られた繊維の繊度は18.26デシテックス、引張弾性率は25.4GPaであった。
【0033】
さらにポリアミック酸エステル繊維を450℃で10分間熱処理することによりポリイミド繊維を作製した。得られた繊維の繊度は14.2デシテックス、引張弾性率は75.2GPaであった。
【0034】
[比較例1]
参考例1で得られた成形用ドープを口金0.3mm、吐出温度50℃で50℃の30wt%NMP水溶液に吐出して得られた凝固糸を延伸しようと試みたが延伸できなかった。そこで未延伸凝固糸を150℃で乾燥することでポリアミック酸エステル繊維を得た。得られた繊維の繊度は35.31デシテックス、引張弾性率は6.7GPaであった。
【0035】
さらにポリアミック酸エステル繊維を450℃で10分間熱処理することによりポリイミド繊維を作製した。得られた繊維の繊度は25.96デシテックス、引張弾性率は13.3GPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(R1は、炭素数が1から18の脂肪族アルコール残基、炭素数が7から18の芳香族アルコール残基、および炭素数が6から18の脂環族アルコール残基より選ばれ、同一または異なっていてもよい。Arは、以下のいずれかより選択される2価の芳香族基である。)
【化2】

で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミック酸エステルを含有する成形用ドープを成形し、得られた成形物を凝固液中に浸漬して凝固物を得た後、該凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリイミド前駆体成形物の製造方法。
【請求項2】
凝固液が、水とアミド系溶媒とからなる混合液であり、混合液における水の含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体成形物の製造方法。
【請求項3】
アミド系溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,Nジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のポリイミド前駆体成形物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られるポリイミド前駆体成形物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られたポリイミド前駆体成形物を熱処理することを特徴とするポリイミド成形物の製造方法。
【請求項6】
請求項5の方法により得られるポリイミド成形物。

【公開番号】特開2006−299079(P2006−299079A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122481(P2005−122481)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】