説明

ポリイミド前駆体組成物およびそれを用いた配線回路基板

【課題】低線膨張係数、低吸湿膨張係数を有し、硬化後の剥離が生じない、PIエッチング性に優れたポリイミド前駆体組成物を提供する。
【解決手段】(A)成分と、(B)、(C)成分の少なくとも一方を含有するポリイミド前駆体組成物であり、(B)、(C)成分の割合が、(A)成分100重量部に対して30〜100重量部である。(A)3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンからのポリアミド酸の構造単位(a1)、および、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルからのポリアミド酸の構造単位(a2)を備え、モル比で(a1)/(a2)=20/80〜70/30であるポリイミド前駆体。(B)シクロヘキサンジカルボキシイミド構造を有するアクリレート化合物。(C)ポリエチレングリコール系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低線膨張係数とともに低吸湿膨張係数を両立し、温度および湿度の影響による反りの発生が抑制され、ポリイミドエッチング(PIエッチング)が可能で、配線回路基板上の配線回路パターンとの界面において、ポリイミド硬化後に剥離が生じないポリイミド形成材料であって、例えば、ハードディスクドライブサスペンション用基板等の作製に用いられるポリイミド前駆体組成物およびそれを用いた配線回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターに組み込まれるハードディスクドライブ(以下、「HDD」と略す場合もある)の大容量化および情報伝達速度の高速化が要望されるようになっている。このようなHDDを構成する部品の中に磁気ヘッドと呼ばれる部品があり、さらにこの磁気ヘッドを支持する部品として磁気ヘッドサスペンションと呼ばれるものがある。
【0003】
最近では、HDDの急速な大容量化に伴い、より微細な領域の読み書きに対応するため、磁気ヘッドとディスク間距離がより近接する傾向にある。これに伴い、磁気ヘッドとディスク間距離をより精密に制御するため、磁気ヘッド内の配線回路基板の形成に用いられる絶縁性樹脂が、従来のエポキシ樹脂系感光性材料から、線膨張係数や吸湿膨張係数が小さいポリイミド系感光性材料に移行しつつある。
【0004】
また、特性インピーダンスを下げるため、回路配線の高密度化が進み、その結果、配線間距離が短く、また配線回路基板に対する膜厚が大きく設計されるようになる。
【0005】
一方、携帯機器用途等、各種小型機器に搭載するHDDへの様々な要求が増加してきており、これに伴って情報を記録するためのディスクは、サイズが小さくなるとともに記録密度が高くなっている。この径の小さくなったディスク上のトラックに対するデータの読取りと書込みを行うには、ディスクをゆっくりと回転させる必要があり、磁気ヘッドに対するディスクの相対速度(周速)は低速となり、このためサスペンション用基板は弱い力でディスクに接近する必要があることから、サスペンション用基板の低剛性化を図る必要がある。
【0006】
上記HDDのサスペンション用基板としては、一般的には、パターン状に形成された、金属支持体、絶縁層、配線層、および被覆層等が、この順に積層されたものが用いられている。このようなサスペンション用基板の低剛性化を図る方法としては、比較的剛性の高い材料である金属基板である金属支持体の残存割合を減らす方法が検討されている。しかしながら、剛性の高い金属支持体の残存割合を減らすと、上記サスペンション用基板に反りが生じてしまうといった問題があった。このような点から、上記絶縁層,被覆層の形成材料として、低吸湿膨張係数を有するポリイミド前駆体を用いて反りの発生を抑制することが提案されている(特許文献1参照)。さらに、配線回路基板において、線膨張係数が小さく、薄膜多層基板とした場合であっても、層間に残存応力が蓄積され難いポリイミド前駆体を用いることが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかし、上記のようなポリイミド前駆体からなるポリイミドにおける吸湿膨張係数に関して、充分に低減されたわけではなく、ディスク上での磁気ヘッドの浮上安定性を高めるためには、ポリイミド前駆体材料のさらなる改良が必要である。そして、ポリイミドの吸湿膨張係数を低減させる方策として、ポリイミド構造内にフッ素を含有させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−310946号公報
【特許文献2】特許3332278号公報
【特許文献3】特開2010−276775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3のように、フッ素を含有させた場合、ポリイミドの線膨張係数の増加を引き起こしてしまうという問題があった。一方で、絶縁層と金属支持体の線膨張係数が同程度でないと、反りや絶縁層と金属支持体間の剥離といった問題が生じてしまう。このため、金属支持体に銅やステンレス合金を用いる場合、上記ポリイミドからなる絶縁層の線膨張係数を金属支持体の線膨張係数に近似させるためには、フッ素の導入量を抑制する必要がある。その結果、ポリイミドの吸湿膨張係数の低減が充分になされなくなるという問題が生じたり、配線回路基板の配線間距離が短く、配線厚が大きくなることと相俟って、ポリイミドからなる絶縁性樹脂の硬化時に生じる収縮応力により、絶縁層と配線間に剥離が発生するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、絶縁性樹脂材料となるポリイミド前駆体の低線膨張係数を犠牲にすることなく、吸湿膨張係数を低減し、かつ、導体回路パターンの形成により形成された配線における配線間距離が短く、配線厚が大きくても硬化後の絶縁性樹脂であるポリイミドと配線との間に剥離が生じない、PIエッチング性に優れたポリイミド前駆体組成物およびそれを用いた配線回路基板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(A)成分とともに、下記の(B)成分および(C)成分の少なくとも一方を含有するポリイミド前駆体組成物であって、下記の(B)成分および(C)成分の少なくとも一方の含有割合が、下記のポリイミド前駆体(A)100重量部に対して30〜100重量部であるポリイミド前駆体組成物を第1の要旨とする。
(A)下記の一般式(1)で表される構造単位、および、下記の一般式(2)で表される構造単位を備え、かつ上記一般式(1)で表される構造単位(a1)と一般式(2)で表される構造単位(a2)のモル比が、(a1)/(a2)=20/80〜70/30に設定されているポリイミド前駆体。
【化1】

【化2】

(B)下記の一般式(3)で表されるイミドアクリレート化合物。
【化3】

(C)下記の一般式(4)で表されるポリエチレングリコール系化合物。
【化4】

【0012】
そして、本発明は、導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、上記ポリイミド前駆体組成物溶液を塗工してポリイミド前駆体組成物層が形成されてなる配線回路基板を第2の要旨とする。
【0013】
また、本発明は、導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、上記ポリイミド前駆体組成物からなり、ウェットエッチングプロセスからなる所定パターンのポリイミド樹脂製絶縁層が形成されてなる配線回路基板を第3の要旨とする。
【0014】
すなわち、本発明者は、上記のように低線膨張係数を犠牲にすることなく、吸湿膨張係数の低減化が可能で、硬化後のポリイミドと配線との間に剥離が生じない、PIエッチング性に優れたポリイミド前駆体組成物を得るために一連の研究を重ねた。その結果、前記一般式(1)で表される構造単位、および、前記の一般式(2)で表される構造単位を備え、かつ上記両構造単位の割合が特定範囲に設定された特定のポリイミド前駆体〔(A)成分〕と、前記一般式(3)で表されるイミドアクリレート化合物〔(B)成分〕および前記一般式(4)で表されるポリエチレングリコール系化合物〔(C)成分〕の少なくとも一方を特定量用いると、所期の目的が達成されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明は、前記一般式(1)で表される構造単位、および、前記の一般式(2)で表される構造単位を備え、かつ上記両構造単位の割合が特定範囲に設定された特定のポリイミド前駆体〔(A)成分〕と、前記一般式(3)で表されるイミドアクリレート化合物〔(B)成分〕および前記一般式(4)で表されるポリエチレングリコール系化合物〔(C)成分〕の少なくとも一方を特定量用いるポリイミド前駆体組成物である。そして、導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、上記ポリイミド前駆体組成物溶液を塗工してポリイミド前駆体組成物層が形成されてなる配線回路基板であり、また、導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、上記ポリイミド前駆体組成物からなり、ウェットエッチングプロセスからなる所定パターンのポリイミド樹脂製絶縁層が形成されてなる配線回路基板である。このため、形成されたポリイミド樹脂製絶縁層は、低線膨張係数および低吸湿膨張係数を備えており、硬化後のポリイミドと導体回路パターンとの間に剥離が生じず、PIエッチング性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、特定のポリイミド前駆体(A成分)とともに、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方を用いて得られるものである。さらには、これらに加えてピリジン系感光剤を含有するものである。
【0018】
《特定のポリイミド前駆体:A成分》
上記特定のポリイミド前駆体(A成分)は、下記の一般式(1)で表される構造単位、および、下記の一般式(2)で表される構造単位を備えたポリイミド前駆体(ポリアミド酸)である。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
本発明における、上記一般式(1)および一般式(2)で表される各構造単位を有する特定のポリイミド前駆体は、通常のイミド化処理、例えば加熱閉環や無水ピリジンを用いた化学閉環等によって、イミド化反応を生起しイミド閉環を形成してポリイミドとなる。
【0022】
上記一般式(1)で表される構造単位において、繰り返し数mは好ましくは0であり、繰り返し数nは好ましくは1である。
【0023】
このような上記一般式(1)および一般式(2)で表される各構造単位からなる特定のポリイミド前駆体は、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを用い、有機溶媒中で反応させることにより得られる。
【0024】
上記テトラカルボン酸成分としては、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物があげられる。
【0025】
また、上記ジアミン成分としては、少なくとも二種類のジアミンを用いる必要があり、その一つとしては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、トリフェニル、ターフェニル、トルエン、キシレン、トリジン等の芳香族環を有する芳香族ジアミン、具体的には、p−フェニレンジアミン等があげられる。
【0026】
そして、もう一つのジアミン成分としては、ベンジジンのフッ素化メチル化物であって、例えば、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル等が用いられる。
【0027】
上記二種類のジアミン成分を用いる際の前者のジアミン成分と後者のジアミン成分の比率は、モル比で、前者のジアミン成分(a1)/後者のジアミン成分(a2)=20/80〜70/30となるように設定される。好ましくは、モル比で、前者のジアミン成分(a1)/後者のジアミン成分(a2)=50/50〜60/40である。すなわち、前者のジアミン成分(a1)が多過ぎると、吸湿膨張係数が充分に低減されず、一方で、前者のジアミン成分(a1)が少な過ぎると、線膨張係数が大きくなり過ぎてしまうからである。また、後者のジアミン成分(a2)が少な過ぎると、配線間距離が短く、配線厚が大きい配線回路基板に、絶縁層を形成する場合、ポリイミド前駆体組成物により形成された絶縁層と配線間に剥離が発生する場合があるからである。なお、本発明において、前記特定のポリイミド前駆体(A成分)は、上記構造単位を有するものであれば、線膨張係数や弾性率等に悪影響を及ぼさない範囲で他のテトラカルボン酸成分やジアミン成分を併用してもよいものである。
【0028】
上記有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド等の有機溶媒があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
そして、本発明の、特定のポリイミド前駆体(A成分)では、上記一般式(1)で表される構造単位(a1)と一般式(2)で表される構造単位(a2)のモル比が、(a1)/(a2)=20/80〜70/30である必要がある。特に好ましくは(a1)/(a2)=50/50〜60/40である。すなわち、一般式(1)で表される構造単位が、ポリイミド前駆体全体中多過ぎると、吸湿膨張係数が充分に低減されず、一方で、一般式(1)で表される構造単位が少な過ぎると、線膨張係数が大きくなり過ぎてしまうからである。
【0030】
《特定のイミドアクリレート化合物:B成分》
上記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)は、下記の一般式(3)で表される化合物である。
【0031】
【化7】

【0032】
上記式(3)において、好ましくは、R3はアルキレン基である。特に好ましくは、R2は水素原子であり、R3はエチレン基である。このような特定のイミドアクリレート化合物(B成分)としては、具体的には、n−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等があげられる。
【0033】
上記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)の含有割合は、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方の含有割合が前記特定のポリイミド前駆体(A)100重量部に対して30〜100重量部であることに基づき設定される。すなわち、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)のみが配合される場合は、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)の含有割合は上記特定のポリイミド前駆体(A成分)100重量部に対して30〜100重量部とする必要がある。B成分の含有割合が少な過ぎると、線膨張係数を充分に低減することができず、一方で、B成分の含有割合が多過ぎると、加熱処理時の膜厚の減少が大きくなる。
【0034】
《特定のポリエチレングリコール系化合物:C成分》
上記特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)は、下記の一般式(4)で表される化合物である。
【0035】
【化8】

【0036】
上記式(4)で表される化合物において、例えば、(1)両末端がOH基、すなわち、R4がヒドロキシル基であり、R5が水素原子である、(2)片末端がメトキシ基で、もう一端が水素原子、すなわち、R4がメトキシ基であり、R5が水素原子である、(3)片末端がメトキシ基で、もう一端がメチル基、すなわち、R4がメトキシ基であり、R5がメチル基である、という態様の化合物があげられる。そして、上記式(4)において、好ましくは、R4がヒドロキシル基であり、R5が水素原子である。また、繰り返し数kは、上述のとおり4〜23の正数である。
【0037】
上記特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)は、重量平均分子量が200〜1000の範囲である。特に好ましくは重量平均分子量が200〜400である。上記重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法にて測定し、ポリエチレンオキサイドで換算して算出することができる。
【0038】
上記特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の含有割合は、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方の含有割合が前記特定のポリイミド前駆体(A)100重量部に対して30〜100重量部であることに基づき設定される。すなわち、特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)のみが配合される場合は、特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の含有割合は上記特定のポリイミド前駆体(A成分)100重量部に対して30〜100重量部とする必要がある。C成分の含有割合が少な過ぎると、線膨張係数を充分に低減することができず、一方で、C成分の含有割合が多過ぎると、加熱処理時の膜厚の減少が大きくなる。
【0039】
そして、本発明のポリイミド前駆体組成物において、前記特定のポリイミド前駆体(A成分)とともに、上記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方を用いる場合、通常、コスト等の点から、特定のイミドアクリレート化合物(B成分)もしくは特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)のいずれか一方が用いられる。さらには、優れたPIエッチング性という観点から、上記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)を単独で用いることが好ましい。
【0040】
《ピリジン系感光剤》
本発明のポリイミド前駆体組成物には、用途,特性等を考慮した場合、上記A〜C成分に加えて、さらに、感光性を付与する目的で、ピリジン系感光剤が適宜用いられる。
【0041】
上記ピリジン系感光剤としては、例えば、下記の一般式(5)で表される化合物等があげられる。
【0042】
【化9】

【0043】
上記式(5)において、好ましくは、R11,R12はともに水素原子またはメチル基であり、R13はメチル基またはエチル基であり、R14,R15はともにメチル基またはエチル基である。そして、Arはオルソ位にニトロ基を有するアリル基であるが、具体的には2−ニトロフェニル基があげられる。
【0044】
上記一般式(5)で表されるピリジン系感光剤であるピリジン誘導体は、例えば、つぎのようにして得ることができる。すなわち、上記一般式(5)で表されるピリジン誘導体は、例えば、置換ベンズアルデヒドとその2倍モル量のアルキルプロピオレート(プロパルギル酸アルキルエステル)と相当する第1級アミンとを氷酢酸中で還流下に反応させたり(Khim.Geterotsikl.Soed.,pp.1067-1071,1982)、4−o−ニトロフェニル−3,5−ジメトキシカルボニル−1,4−ジヒドロピリジン等の相当する1,4−ジヒドロピリジン誘導体へのN−アルキル化によるエステル基の導入とその選択的加水分解によって得ることができる。
【0045】
そして、上記ピリジン系感光剤は、紫外線等の活性光線を照射することによって分子構造にピリジン骨格を有する構造に変化して塩基性を呈するようになり、露光部分は前記特定のポリイミド前駆体の加熱によるイミド化が進行しやすくなる。また、上記ピリジン系感光剤の光反応生成物はその後の加熱処理でさらに化学反応が進行して有機溶剤に溶解しにくい特性が発現される。これらの効果が相俟って、露光部はアルカリ溶解性が低下し、未露光部分との間に溶解速度差が生じて良好な所望のパターン形状を得ることができる。
【0046】
上記ピリジン系感光剤の使用量は、上記特定のポリイミド前駆体(A成分)100重量部に対して5〜70重量部に設定することが好ましく、特に好ましくは10〜55重量部の範囲である。すなわち、ピリジン系感光剤の使用量が少な過ぎると、パターン形成時の露光部の溶解阻止能が悪くなって溶解性コントラストが不鮮明になりやすい傾向がみられる。一方、含有量が多過ぎると、溶液状態で保存する際に固形分の析出が生じて溶液保存性が低下したり、パターン形成後の加熱処理時の膜厚減少が大きくなり、機械的強度も低下させる傾向がみられる。
【0047】
本発明のポリイミド前駆体組成物には、前記A〜C成分、ピリジン系感光剤に加えて必要に応じて各種増感剤を配合することができる。さらに、本発明のポリイミド前駆体組成物には、現像液による未露光部分の溶解除去速度を速めるために溶解促進剤を含有させることもできる。このような溶解促進剤は活性光線の照射に対しては全く不活性であるが、含有させることによって現像速度を向上させて、さらに実用的なものとすることができる。
【0048】
このような溶解促進剤としては、例えば、2,6−ジメチル−3,5−ジシアノ−4−メチル−1,4−ジヒドロピリジンや、2,6−ジメチル−3,5−ジシアノ−1,4−ジヒドロピリジン等があげられる。上記溶解促進剤の配合量は、特定のポリイミド前駆体(A成分)100重量部に対して好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは5〜15重量部の範囲に設定される。
【0049】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、例えば、前記特定のポリイミド前駆体(A成分)を合成した後、これと前記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方、さらにはピリジン系感光剤および必要に応じて他の配合成分(各種増感剤、溶解促進剤等)を配合し混合することにより得られる。
【0050】
《ポリイミド樹脂フィルムの物性》
このようにして得られる本発明のポリイミド前駆体組成物を用いて作製したフィルム状ポリイミド樹脂は、吸湿膨張係数が0〜20ppm/%RHの範囲内であり、さらに線膨張係数が0〜20ppm/℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、吸湿膨張係数が0〜12ppm/%RHのであり、さらに線膨張係数が15〜20ppm/℃の範囲内である。すなわち、線膨張係数および吸湿膨張係数が上記範囲を外れると、配線回路基板の金属材料のポリイミド樹脂性フィルムとの差異が大きくなり、各層間に生ずる応力等により反りが発生する傾向がみられるからである。
【0051】
なお、上記線膨張係数は、例えば、つぎのようにして測定される。すなわち、ポリイミド前駆体組成物を用いてフィルム状ポリイミド樹脂を作製し、幅5mm×長さ20mmに切断する。ついで、これを熱機械的分析装置(Thermo Plus TMA8310、リガク社製)を用いて測定する。測定条件としては、測定試料の観測長を15mm、昇温速度を5℃/min、測定試料は引張荷重を49mNとし、100℃から250℃の間の平均の線膨張係数(CTE)とする。
【0052】
また、上記吸湿膨張係数は、例えば、つぎのようにして測定される。すなわち、ポリイミド前駆体組成物を用いてフィルム状ポリイミド樹脂を作製し、幅5mm×長さ20mmに切断する。ついで、これを湿度型熱機械分析装置(HC−TMA4000SA、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて測定する。測定条件としては、充分に乾燥させた試料をチャンバー内30℃で5%RHの環境下にて3時間保持させて安定させた後、相対湿度を75%RHに変化させ、3時間保持させて安定とする。その際の試料伸びと相対湿度の変化量から吸湿膨張係数を算出する。また、測定試料の引張荷重を196mNとする。
【0053】
つぎに、本発明のポリイミド前駆体組成物を用いて、配線回路基板の絶縁層形成材料として用いた一例を以下に示す。
【0054】
まず、前述のように、前記特定のポリイミド前駆体(A成分)と、前記特定のイミドアクリレート化合物(B成分)および特定のポリエチレングリコール系化合物(C成分)の少なくとも一方、さらにはピリジン系感光剤および必要に応じて他の配合成分(各種増感剤、溶解促進剤等)を、有機溶剤に溶解することにより感光液(絶縁層形成材料)を調製する。このときの有機溶剤の使用量は、例えば、上記(A成分)100重量部に対して150〜2000重量部程度に設定することが好ましい。
【0055】
ついで、この感光液をシリコンウエハ、セラミック板、アルミニウム板、ステンレス板、各種合金板等の支持基材上に乾燥後の膜厚が、好ましくは1〜30μm、特に好ましくは5〜20μmとなるように塗布する。
【0056】
上記塗布した塗膜を、170℃以上、好ましくは170〜200℃で10分程度、より好ましくは170〜190℃で10分程度加熱乾燥することにより被膜を形成する。ついで、上記被膜に対して紫外線照射等の活性光線によって露光を行ない、露光後、さらに、例えば、10Pa以下の減圧下、200〜400℃程度に加熱処理することによって、骨格材料となるポリイミド前駆体が脱水閉環して難溶性のポリイミドに変化し、現像液等によって膨潤することがない解像度に優れた絶縁層が形成される。このようにして、支持基材上に絶縁層が形成された二層の基材が得られる。
【0057】
一方、ステンレス箔等の金属製基板上に、感光液(絶縁層形成材料)を用い上記方法に従い絶縁層を形成する。さらに、上記絶縁層上に所定パターンの導体回路パターンをセミアディティブ法により形成する。ついで、この導体回路パターン上にニッケル薄膜を形成した後、この導体回路パターン上のニッケル薄膜および絶縁層上に、感光液(絶縁層形成材料)をスピンコーター等にて塗布した後、170℃以上、好ましくは170〜200℃で10分程度、より好ましくは170〜190℃で10分程度加熱乾燥することにより被膜を形成する。ついで、上記被膜に対して紫外線照射等の活性光線によって露光を行ない、露光後、さらに、例えば、10Pa以下の減圧下、200〜400℃程度に加熱処理することによって、骨格材料となるポリイミド前駆体が脱水閉環して難溶性のポリイミドに変化し、所定厚みのポリイミド樹脂製絶縁層(カバー層)を形成する。このようにして、その表面にポリイミド樹脂製絶縁層(カバー層)が形成された配線回路基板が得られる。
【0058】
上記露光に際して使用される活性光線の光源としては、各種光源、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等の紫外線を有効に照射するものが用いられる。また、写真用フラッド電球、太陽ランプ等の可視光を有効に照射するものも用いられる。
【0059】
そして、活性光線の照射条件としては、例えば、露光量300〜450mJ/cm2(波長300〜450nm程度)の範囲に設定することが好ましく、その露光積算光量は、好ましくは100〜1000mJ/cm2である。
【0060】
さらに、上記のようにして形成されたポリイミド樹脂製の絶縁層は、例えば、所望の形状(厚み等)となるように、ポリイミド(PI)エッチングが行なわれる。上記PIエッチングとしては、例えば、NaOH20%のエタノールアミン溶液を用いた、温度60〜90℃程度の浴での浸漬による処理等があげられる。
【0061】
このようなポリイミド樹脂製絶縁層の形成方法としては、HDD等の、例えば、回路付きサスペンション基板の作製に適用される、すなわち、このような露光等によるポリイミド樹脂製絶縁層の形成方法によって、例えば、HDD等のサスペンション用基板における、外部側接続端子を、両面が露出するフライングリード形状とした後の、平滑な端子部分等を作製することができる。
【実施例】
【0062】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0063】
まず、下記の方法に従って、ポリアミド酸a〜fを合成した。
【0064】
〔ポリアミド酸aの合成〕
1000mlの四つ口フラスコに、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)94.15g(320mmol)と、p−フェニレンジアミン(PPD)27.68g(256mmol)と、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル(TFMB)20.50g(64mmol)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)874gを仕込み、室温(25℃)にて撹拌することにより、前記一般式(1)および一般式(2)で表される各構造単位を有するポリアミド酸のNMP溶液を合成した〔一般式(2)で表される構造単位の含有量は、ポリアミド酸全体の20モル%〕。なお、前記一般式(1)中、nは1であり、mは0である。
【0065】
〔ポリアミド酸b〜fの合成〕
各配合成分を、下記の表1に示す割合に変えた。それ以外は上記ポリアミド酸aの合成方法と同様にして前記一般式(1)および一般式(2)で表される各構造単位を有するポリアミド酸のNMP溶液を合成した。また、ポリアミド酸全体における一般式(2)で表される構造単位の含有量(モル%)についても表1に併せて示す。なお、ポリアミド酸aと同様、ポリアミド酸b〜fにおける前記一般式(1)中、nは1であり、mは0である。
【0066】
【表1】

【0067】
〔感光性ポリアミド酸組成物A〜Jの調製〕
つぎに、上記のようにして合成した各ポリアミド酸a〜fのNMP溶液と、後記の表2に示す各配合成分を用い、同表に示す割合(各ポリアミド酸a〜f100gに対する割合)で配合し、混合することにより感光性のポリアミド酸組成物(ポリイミド前駆体組成物)の溶液を調製した。なお、調製に使用した表2中の、感光剤、イミドアクリレート化合物(B)、ポリエチレングリコール系化合物(C)の各成分について下記に示す。
【0068】
感光剤:下記の構造式(x)で表される、1−エチル−3,5−ジメトキシカルボニル−4−(2−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジンである。
【化10】

【0069】
イミドアクリレート化合物(B):下記の構造式(b1)で表される、n−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド(東亞合成社製、Aronix M140)。
【化11】

【0070】
ポリエチレングリコール系化合物(C):前記一般式(4)で表される、重量平均分子量400g/molのポリエチレングリコール系化合物である。なお、式(4)において、R4はヒドロキシル基であり、R5は水素原子である。繰り返し数kは重量平均分子量400g/molに相当する正数(k=9)である。
【0071】
【表2】

【0072】
〔実施例1〕
《ポリイミド樹脂フィルムの作製》
厚み20μmのステンレス箔(SUS304)の上に、上記感光性ポリアミド酸組成物Aの溶液をスピンコーターにて塗布した後、170℃で10分間加熱乾燥して、感光性ポリアミド酸組成物Aからなる皮膜(厚み14μm)を形成した。ついで、皮膜を紫外線照射(波長365nm、400mJ/cm2)し、185℃で3分間加熱した。さらに、10Pa以下の気圧下、350℃に加熱して硬化(イミド化)させることにより、ステンレス箔付きポリイミド樹脂フィルムを作製した。その後、塩化第二鉄溶液を用いて、上記ステンレス箔を除去した。このようにして特性評価用のポリイミド樹脂フィルムを作製した。
【0073】
《ポリイミド樹脂製カバー層付き配線回路基板の作製》
一方、厚み20μmのステンレス箔(SUS304)の上に、硬化後の線膨張係数が20ppm/K以下となるポリイミド樹脂層(厚み10μm)を形成し、その全面に、下地として、厚み30nmのクロム薄膜と厚み70nmの銅薄膜からなるベース層をスパッタ蒸着法によって順次形成した。つぎに、ドライフィルムレジストを用いて、所定の配線パターンと逆パターン形状となるめっきレジストを形成した後、電解銅めっきにより、ベース層におけるめっきレジストが形成されていない部分に、所定の配線パターンとなる導体回路パターンを、セミアディティブ法により形成した。なお、上記導体回路パターンの厚みは14μmであり、その導体回路パターンの各配線の幅は12μm、各配線間の間隔は12μmであり、互いに所定の間隔を隔てて平行状に配置される10本の配線パターンとして形成した。
【0074】
その後、上記めっきレジストを、化学エッチングによって除去した後、めっきレジストが形成されていたクロム薄膜と銅薄膜を化学エッチングにより除去した。ついで、無電解ニッケルめっきによって、上記導体回路パターンの表面に、厚み0.1μmの硬質のニッケル薄膜を形成した。その後、このニッケル薄膜およびベース層の表面上に、感光性ポリアミド酸組成物Aの溶液を、スピンコーターにて塗布した後、170℃で10分間加熱乾燥して、感光性ポリアミド酸組成物Aからなる皮膜(厚み28μm)を形成した。つぎに、皮膜を紫外線照射(波長365nm、400mJ/cm2)し、185℃で3分間加熱した。さらに、10Pa以下の気圧下、350℃に加熱して硬化(イミド化)させることにより、厚み20μmのポリイミド樹脂からなるカバー層を導体部分の表面に形成した。このようにして、ポリイミド樹脂製カバー層付き配線回路基板を作製した。
【0075】
〔実施例2〜6、比較例1〜4〕
後記の表3に示す感光性ポリアミド酸組成物を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂フィルム、および、ポリイミド樹脂製カバー層付き配線回路基板を作製した。
【0076】
このようにして得られた、ポリイミド樹脂フィルムを用い、その特性評価(線膨張係数、吸湿膨張係数、PIエッチング性)について後記の方法に従って測定,評価した。また、上記の方法により作製したポリイミド樹脂製カバー層付き配線回路基板を用いて、ポリイミド樹脂からなるカバー層については、下記の方法に従って、導体部分との界面における剥離現象を目視により観察した。これらの結果を後記の表3に併せて示す。
【0077】
〔線膨張係数〕
上記ポリイミド樹脂フィルムを、幅5mm×長さ20mmに切断し、評価用サンプルとして用いた。そして、上記サンプルを熱機械的分析装置(Thermo Plus TMA8310、リガク社製)を用いて測定した。測定条件としては、測定試料の観測長を15mm、昇温速度を5℃/min、測定試料は引張荷重を49mNとし、100℃から250℃の間の平均線膨張係数を線膨張係数(CTE)とした。そして、上記線膨張係数が25ppm/K以下であるものを○、25ppm/Kを超えるものを×として評価した。
【0078】
〔吸湿膨張係数〕
上記ポリイミド樹脂フィルムを、幅5mm×長さ20mmに切断し、評価用サンプルとして用いた。そして、上記サンプルを湿度型熱機械分析装置(HC−TMA4000SA、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて測定した。測定条件としては、充分に乾燥させた試料をチャンバー内30℃で5%RHの環境下にて3時間保持させて安定させた後、相対湿度を75%RHに変化させ、3時間保持させて安定させた。その際の試料伸びと相対湿度の変化量から吸湿膨張係数を算出した。また、測定試料の引張荷重を196mNとした。その結果、吸湿膨張係数が12ppm/%RH以下だったものを○、12ppm/%RHを超えるものを×として評価した。
【0079】
〔PIエッチング性〕
上記ポリイミド樹脂フィルムのSUS面側に対してエッチング性を評価した。すなわち、ポリイミド樹脂フィルムの初期の膜厚を測定した後、80℃に保持したエッチング液(水酸化カリウム30.97重量%、2−アミノエタノール36.03重量%、水33.00重量%からなる溶液)に撹拌させながら浸漬させた。その後、エッチング後の膜厚を測定することによりPIエッチング性を評価した。浸漬後すぐにエッチングされるものを○、浸漬後エッチングが開始されるのに1分程時間を要したものを△として評価した。
【0080】
〔剥離性〕
上記ポリイミド樹脂製カバー層付き配線回路基板において、配線回路基板上に形成された導体回路パターンと、カバー層との界面での剥離状態を目視により観察できように、ミクロトームを用いて配線回路基板の断面を露出させた。そして、露出した断面を光学顕微鏡を用いて観察し、剥離しているか否かを確認した。その結果、剥離が確認されなかったものを○、剥離が確認されたものを×として評価した。
【0081】
【表3】

【0082】
上記結果から、前記一般式(2)で表される構造単位がポリアミド酸全体の30〜80モル%の範囲で含有されたポリアミド酸に、ポリアミド酸100gに対して52〜74gのイミドアクリレート化合物(B)を配合してなるポリアミド酸組成物を用いて作製されたポリイミド樹脂フィルムとなる実施例1〜3,5,6は、低線膨張係数および低吸湿膨張係数、さらには優れたPIエッチング性を備えたものであることが明らかである。しかも、導体回路パターンが形成された基板上に形成したポリイミド樹脂からなるカバー層と導体回路パターンとの界面において剥離が生じず好ましいものであった。また、前記一般式(2)で表される構造単位がポリアミド酸全体の40モル%の範囲で含有されたポリアミド酸に、ポリアミド酸100gに対して52gのポリエチレングリコール系化合物(C)を配合してなるポリアミド酸組成物を用いて作製されたポリイミド樹脂フィルムとなる実施例4は、低線膨張係数および低吸湿膨張係数を有するものであり、ポリイミド樹脂からなるカバー層と導体回路パターンとの界面において剥離が生じず好ましいものであった。ただ、PIエッチング性に関して他の実施例と比べて問題となる程ではないが若干劣るものであった。
【0083】
これに対して、前記一般式(2)で表される構造単位がポリアミド酸全体の20モル%となるよう含有してなるポリアミド酸に、ポリアミド酸100gに対して20gのイミドアクリレート化合物(B)を配合してなるポリアミド酸組成物を用いて作製されたポリイミド樹脂フィルムとなる比較例1は、低線膨張係数であるものの、吸湿膨張係数が充分に低減されておらず、またポリイミド樹脂からなるカバー層と導体回路パターンとの界面において剥離が生じた。また、前記一般式(2)で表される構造単位がポリアミド酸全体の30〜40モル%の範囲となるよう含有してなるポリアミド酸を用いたとしても、ポリアミド酸100gに対するイミドアクリレート化合物(B)の配合割合が20gとなるポリアミド酸組成物を用いて作製されたポリイミド樹脂フィルムとなる比較例2,3では、線膨張係数が充分に低減されなかった。さらに、前記一般式(2)で表される構造単位がポリアミド酸全体の100モル%となるポリアミド酸を用い、イミドアクリレート化合物(B)の配合割合が200gとなるポリアミド酸組成物を用いた比較例4では、上記比較例2,3と同様、線膨張係数が充分に低減されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、低線膨張係数および低吸湿膨張係数を両立しており、導体回路パターンが形成された基板上のカバー層形成材料として用いても上記導体回路パターンとの界面において剥離が生じず、PIエッチング性に優れたパターン画像を形成することが可能となり、例えば、HDDの回路付きサスペンション基板に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分とともに、下記の(B)成分および(C)成分の少なくとも一方を含有するポリイミド前駆体組成物であって、下記の(B)成分および(C)成分の少なくとも一方の含有割合が、下記のポリイミド前駆体(A)100重量部に対して30〜100重量部であることを特徴とするポリイミド前駆体組成物。
(A)下記の一般式(1)で表される構造単位、および、下記の一般式(2)で表される構造単位を備え、かつ上記一般式(1)で表される構造単位(a1)と一般式(2)で表される構造単位(a2)のモル比が、(a1)/(a2)=20/80〜70/30に設定されているポリイミド前駆体。
【化1】

【化2】

(B)下記の一般式(3)で表されるイミドアクリレート化合物。
【化3】

(C)下記の一般式(4)で表されるポリエチレングリコール系化合物。
【化4】

【請求項2】
上記(A)成分とともに、上記(B)成分を含有するポリイミド前駆体組成物であって、上記(B)成分の含有割合が、ポリイミド前駆体(A)100重量部に対して30〜100重量部である請求項1記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
ピリジン系感光剤を含有する請求項1または2記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物溶液を塗工してポリイミド前駆体組成物層が形成されてなる配線回路基板。
【請求項5】
導体回路パターンが形成された配線回路基板の表面に、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体組成物からなり、ウェットエッチングプロセスからなる所定パターンのポリイミド樹脂製絶縁層が形成されてなる配線回路基板。

【公開番号】特開2013−100441(P2013−100441A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246093(P2011−246093)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】