説明

ポリイミド樹脂の無電解めっき処理方法

【課題】ポリイミド樹脂の表面に、過マンガン酸塩処理などによる樹脂の表面粗化処理および錫を含む触媒付着処理を必要とせず、均一かつ密着性に優れためっき皮膜を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂を、陰イオン性界面活性剤、有機溶媒およびアルカリ成分を含む前処理溶液で処理し、その後、特定pH値の貴金属イオン含有溶液により処理し、無電解めっき処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂上に金属めっき皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の導電性の低い材料の表面に金属皮膜を提供する方法として、電解めっき処理に先立ち基材の表面に導電性を付与するためスッパッタリングなどの乾式法や無電解めっき処理など湿式法を行い、その後に電解めっき処理を行う方法が広く知られている。無電解めっき処理とは、溶液中の金属イオンを化学的に析出させることにより基材の表面に金属めっき皮膜を形成する方法をいい、電解析出させる電解めっきと異なり基材の表面に導電性を必要としない。このため、無電解めっき処理は、装飾用、電子機器など広い分野に用いられている。電子機器の分野においては、ポリイミド樹脂などの各種プラスチック材がプリント配線版、フレキシブルプリント配線版、テープ自動ボンディング実装基板の基材として用いられており、その金属化に無電解めっき方法が用いられている。この分野においては、形成されるめっき皮膜は、被めっき材の表面に均一に形成されることが求められる。さらに、めっき皮膜の膨れや剥がれがあることは望ましいものではない。
【0003】
しかしながら、無電解めっき処理によって樹脂上に形成されためっき皮膜は、樹脂素材に対する密着性が不十分であるという問題があった。特に、他の樹脂と比較すると、ポリイミド樹脂は、無電解めっき処理により良好な密着性を有するめっき皮膜を形成することが困難であった。樹脂表面とめっき皮膜との密着性が低いとめっき皮膜の膨れや剥がれの原因となる。そのため、無電解めっき処理に先立ち基材の表面を処理するさまざまな方法、例えば樹脂表面に対して化学エッチング処理を行うことによりその表面を粗化する方法など、が提案されている。しかし、ポリイミド樹脂に対しては、その疎水化された表面のため、他の樹脂に対して用いられるエッチング処理では所望の密着性を得るには不十分で、エッチング処理前にアミド類、ピロリドン類および複素環系カーボネ−ト類を主成分とする溶液に浸漬して樹脂表面を膨潤させるプリエッチングを行い、クロム酸・硫酸混合液によるエッチングを行った後、無電解めっきを行う方法が提案されている(例えば、特許文献1)。また、抱水ヒドラジンとアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液で処理する工程の後に、触媒付与工程を含む無電解めっき方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
しかしながら、クロム酸またはヒドラジン類により樹脂表面を粗化することは、導体回路の微細化が進む中において、導体回路特性の低下を招く恐れがある。導体回路特性、特に高周波数における基板表面粗さに依存する伝送損失の特性に対しては、基材表面の平滑性が重要となり、樹脂表面の粗化を可能な限り少なくすることが望まれる。また、クロム酸やヒドラジン類は毒性が高く、廃液処理など環境汚染に配慮する必要がある。
【0005】
別の方法として、C=OおよびC−OHから選ばれる少なくとも一方の官能基を有する樹脂を、陰イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤の少なくとも一方とアルカリ成分を含む溶液で処理する工程の後、触媒付与工程を含む無電解めっき方法(例えば、特許文献3)、絶縁樹脂に紫外線を照射する工程、ノニオン系および/またはアニオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬する工程、酸性コロイド触媒溶液に浸漬する工程、および金属めっきを施す工程を含むめっき方法(例えば、特許文献4)、が提案されている。
【0006】
これらの発明は、樹脂表面の粗化を必要とせず、めっき皮膜の密着性の向上を提案する。しかしながら、これらに開示されている方法は、触媒付与工程において、従来用いられている錫・パラジウム混合コロイド触媒を用いている。この錫・パラジウムコロイド触媒は、さまざまな基体に付着しやすいという特徴を有するが、そのコロイド状態を維持するための前処理浴や触媒付与後に酸性液による活性化処理を必要とするため、全体の工程が長くなり、その管理が煩雑となる。また、毒性が高い錫を用いるため廃液処理などに問題がある。これらの問題を解決すべく、出願人は、特許出願番号2006−161415号として、ポリイミド樹脂の表面を陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液で処理し、陰イオン性界面活性剤を含む貴金属イオン含有処理液で貴金属を付着し、加熱乾燥を経てアルカリ性水溶液で処理した後、無電解めっき処理する方法を見出し、特許出願をした。しかしながら、このめっき処理方法で得られるめっき皮膜とポリイミド樹脂との密着性について更なる向上の要望がある。
【0007】
【特許文献1】特開平5−112872号公報
【特許文献2】特開平5−90737号公報
【特許文献3】特開2002−275638号公報
【特許文献4】特開2006−219715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記技術の問題点を解決することのできる、環境汚染の問題が少なく、工程数を減らした、ポリイミド樹脂の金属めっき方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、均一かつ密着性の良いめっき皮膜を得ることが困難である熱可塑性ポリイミド樹脂に対して均一かつ密着性の優れためっき皮膜を形成することが可能であり、環境上問題のある毒性の高い化合物を用いない新規な無電解めっき方法および金属皮膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、被めっき材の表面を特定の条件下において陰イオン性界面活性剤、有機溶媒およびアルカリ成分を含む溶液で前処理を行い、特定のpH値の貴金属イオン含有溶液により触媒を付与した後に、無電解めっき処理を行うことにより、ポリイミド樹脂の表面に、均一かつ密着性の高いめっき皮膜を得ることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリイミド樹脂基板の表面への無電解めっき方法であって、
(i)ポリイミド樹脂基板の表面と、陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液とを、60℃から100℃の間の温度で接触させる工程、
(ii)前処理溶液で処理された表面を、pH値が5.0から7.0であって、錫イオンおよび界面活性剤を実質的に含まない貴金属イオン含有溶液と接触させる工程、および
(iii)貴金属イオン含有溶液で処理された表面を、無電解めっき処理する工程、
を含む無電解めっき方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、ポリイミド樹脂基板の表面へ金属皮膜を形成する方法であって、
(i)ポリイミド樹脂基板の表面と、陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液とを、60℃から100℃の間の温度で接触させる工程、
(ii)前処理溶液で処理された表面を、pH値が5.0から7.0である錫イオンおよび界面活性剤を実質的に含まない貴金属イオン含有溶液と接触させる工程、
(iii)貴金属イオン含有溶液で処理された表面を、無電解めっき処理する工程、
(iv)無電解めっき皮膜を有するポリイミド樹脂基板を加熱処理する工程、および
(v)無電解めっき皮膜上に電解めっき処理をする工程、
を含むポリイミド樹脂基板への金属皮膜形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、ポリイミド樹脂、特に立体成形可能な熱可塑性のポリイミド樹脂の表面に、工程数の少ない方法で、密着性の優れた均一なめっき皮膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明のめっき方法は、錫などの毒性の高い化合物を用いない処理溶液により、密着性の高いめっき皮膜を形成することができる。本発明の方法は、クロム酸や過マンガン酸塩処理などの被めっき材の表面を粗化する必要がなく、比較的平滑な表面であっても密着性の高いめっき皮膜を形成することができる。また、従来の無電解めっき方法と比較し、本発明の方法は、煩雑な管理を要する触媒溶液を用いる必要がないため管理が容易となり、かつ、全体の処理工程を短縮することができる。すなわち、従来の方法と比較し、本発明の方法は、毒性の高い化合物を用いる必要がなく、環境に対する負荷を低減し、低工程数によりコストの低減を可能にし、なおかつ、ポリイミド樹脂との密着性に優れためっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の無電解めっき方法は、ポリイミド樹脂、特に、その表面の疎水性の高い熱可塑性ポリイミド樹脂を被めっき材とする。ポリイミド樹脂は、その電気的、機械的および化学的特性、耐薬品性ならびに耐熱性が優れるため、板状のプリント配線板やフィルム状のフレキシブルプリント配線板などの電気回路用基板として用いられている。本発明の無電解めっき方法は、従来の方法では密着性の優れためっき皮膜を形成することが困難である、熱可塑性のポリイミド樹脂基板に特に好適である。本明細書において「基板」には、プリント配線版などの板状のものおよびフレキシブルプリント配線板などのフィルム状のものを含む。
【0015】
本発明のめっき方法は、ポリイミド樹脂基板を被めっき材とする、次の工程を含む方法である。本発明の方法の第一の工程として、被めっき材の表面を陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液により処理する。
【0016】
上記陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などのアルキル硫酸塩、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルフォスフェートなどのリン酸エステル塩などが用いることが可能である。特に、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルフォスフェートなどのリン酸エステル塩およびベンゼンスルホン酸塩が好ましい。陰イオン性界面活性剤は単独としても2以上の混合物として用いても良い。前処理溶液中の界面活性剤の濃度は、例えば1〜35g/Lの範囲を用いることが可能であり、好ましくは3〜12g/Lの範囲である。
【0017】
上記有機溶剤としては、水溶解性または水混和性を有し、被めっき材、すなわちポリイミド樹脂の表面を膨潤させるものである。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルエステル、ブチルアセテートなどのエステル類またはこれらの混合物が挙げられる。なお、本発明で用いる有機溶剤とは、前述の陰イオン性界面活性剤と比べ、陰イオン性の交換基を有しない点で異なるものをいう。前処理溶液中の有機溶媒の濃度は、例えば1〜100g/Lの範囲を用いることが可能であり、好ましくは5〜50g/L、より好ましくは10〜30g/Lの範囲である。
【0018】
本発明の前処理溶液で用いるアルカリ成分は、ポリイミド樹脂の表面の改質処理作用を有する。これらアルカリ成分としては、溶液中でアルカリ性を示す化合物であればよく、例えばカリウム、ナトリウムもしくはリチウムなどのアルカリ金属またはマグネシウムもしくはカルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましいアルカリ成分である。前処理溶液中のアルカリ成分の濃度は、例えば20〜80g/Lの範囲を用いることが可能であり、好ましくは25〜50g/L、より好ましくは30〜40g/Lの範囲である。本発明の前処理水溶液がpH12以上となるようアルカリ成分の濃度を調整することが好ましい。
【0019】
上記前処理溶液は、上記成分を水に溶解または混和することにより調製される。水としては、水道水、脱イオン水などが好ましく、被めっき材表面を膨潤する作用のない他の有機溶媒を含んでも良い。
【0020】
本発明の方法において、前処理溶液の被めっき材への処理方法については特に制限はなく、被めっき材の表面を前処理溶液に十分接触させることができる方法であればいずれの方法でも良い。例えば、噴霧などの方法であっても良いが、前処理溶液中に被めっき材を浸漬する方法が好ましい。本発明の方法において前処理溶液の温度は、60℃以上であること、例えば60℃〜100℃、特に65℃〜100℃であることが好ましい。被めっき材と前処理溶液との接触時間は、特に制限はないが、5分から20分の間、特に7分から15分の間であることが好ましい。前処理溶液の温度を高くすると、被めっき材と前処理溶液との接触時間を短くすることができる。
【0021】
本発明の方法の第二の工程として、上記前処理溶液により処理された被めっき材の表面に貴金属イオンを付着させる処理を行う。本発明のめっき方法は、pH5からpH7の貴金属イオン含有溶液を用いる。かかる貴金属イオン含有溶液は、貴金属イオン、酸成分およびアルカリ成分から調製される水溶液を用いることが好ましい。本発明の貴金属イオン含有溶液は、錫およびそのイオンならびに錯化剤、界面活性剤などの有機化合物を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において実質的に含まないとは、意図的に添加されるイオン、金属または化合物を含まないことを意味する。
【0022】
上記貴金属イオンとしては、パラジウム、銀、白金、ルテニウムなど無電解めっき用触媒として公知のものを用いることができる。本発明の貴金属イオンには、無電解めっき用触媒として公知のパラジウム−錫コロイドのようなコロイド状のものは含まれない。本発明の貴金属イオン含有溶液への貴金属イオンの供給は、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムなどの無機金属塩を単独で、または2以上を混合して溶液に添加することが好ましい。溶液中の貴金属イオンの濃度は、例えば、塩化パラジウムとして0.01〜2g/Lの範囲を用いることが可能であり、好ましくは0.1〜1g/Lの範囲である。
【0023】
本発明の貴金属イオン含有溶液の溶媒は、極性溶媒を用いることができ、水が好ましい。任意に、有機溶媒と水との混合溶媒とすることができる。有機溶媒としては、上記した前処理溶液に用いるものの中から適宜選択して用いることができる。
【0024】
本発明に用いる貴金属イオン含有溶液は、pH5〜7の間で調整される。一般的に、かかるpH域においては、パラジウムイオンが溶液中で不安定となり、パラジウム塩として析出する傾向にある。そのため、公知の中性パラジウム触媒溶液は、パラジウムイオンをキレートする錯化剤を触媒溶液中に含有する。しかしながら、錯化剤を含有する溶液は、廃水処理が煩雑となり、金属錯化合物自体が被めっき剤に吸着する恐れがある。そこで、本発明の貴金属イオンを含む溶液は、以下に述べる方法により調製する。これにより、錯化剤を用いることなく、pH5〜7の貴金属イオン含有溶液を調製することができる。
【0025】
すなわち、パラジウム塩と酸成分を溶媒に溶解し、強酸性のパラジウム溶液を調製する。かかる強酸性パラジウム溶液に、アルカリ成分を注意深く徐々に添加することにより、パラジウム溶液のpH値を5.0から7.0の間に調整する。パラジウム溶液のpH値が7.0より大きくなると、パラジウムイオンと水酸化物イオンとが反応し、水酸化パラジウム塩として析出する。
【0026】
本発明の貴金属イオン含有溶液に用いる酸成分としては、無機酸が好ましい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸または硝酸などが挙げられるが、特に塩酸が好ましい。酸成分は、得られる溶液の全体量に対して、塩酸として、例えば0.3〜30g/Lの範囲で、好ましくは、5〜15g/Lの範囲で添加することができる。
【0027】
本発明の貴金属イオン含有溶液に用いるアルカリ成分は、上記した前処理溶液に用いるものの中から適宜選択して用いることができる。貴金属イオン含有溶液に用いるアルカリ成分は、アルカリ金属の水酸化物、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化リチウムが好ましい。アルカリ成分は、貴金属イオン含有溶液のpH値が、5.0から7.0の間、好ましくは6.0から7.0の間になるように添加される。アルカリ成分の添加量は、酸性分など他の成分との関係により定まるが、一般的には、溶液全体量に対して、1〜30g/Lの範囲である。
【0028】
前処理された被めっき材の表面に貴金属を付着させるためには、上記貴金属イオン含有溶液の温度が50〜80℃であることが好ましい。特に50〜60℃であることが好ましい。被めっき材と貴金属イオン含有溶液との接触時間は、特に制限はないが、2分から20分の間であることが好ましい。貴金属イオン含有溶液の処理方法についても特に制限はなく、被めっき材の表面を貴金属イオンを含む溶液に十分接触させることができる方法であれば良い。例えば、噴霧などの方法であっても良いが、溶液中に被めっき材を浸漬する方法が好ましい。
【0029】
本発明の方法は、貴金属イオンを被めっき材の表面に付着させる工程の後、無電解めっき処理の工程を含む。本発明の方法は、貴金属触媒付着処理の後で一般的に行われる酸性溶液による活性化処理や加熱乾燥処理を必要としないが、貴金属イオンの付着処理工程の後に、基板の加熱乾燥を行ってもよい。
【0030】
本発明の方法の無電解めっき処理の工程における、無電解めっき液は、公知の無電解ニッケルめっき液または無電解銅めっき液などを用いることができる。めっき方法およびめっき条件などは、従来の無電解めっき処理の方法および条件で行うことができる。本発明のめっき方法においては、特に、無電解めっき皮膜を薄く形成することが好ましい。具体的には、形成される無電解めっき皮膜の膜厚が、0.01μm〜0.07μm、さらには0.02μm〜0.07μm、特に0.03μm〜0.05μmであることが好ましい。例えば、ローム・アンド・ハース電子材料製のNIPOSIT(商標)468無電解ニッケルめっき液を用いてニッケルめっき皮膜を形成する場合、50℃〜60℃の温度において10秒から60秒間のめっき処理を行うことにより所望の膜厚を得ることができる。
【0031】
本発明の無電解めっき処理の後に加熱乾燥を行うことは、樹脂表面と無電解めっき皮膜との密着性を向上するために有利である。かかる加熱乾燥処理は、被めっき材を5分から60分、好ましくは10分から40分の間、90℃〜150℃、好ましくは100℃〜130℃の温度に曝すことにより行われる。
【0032】
本発明の無電解めっき方法においては、さらに前記各工程の間に被めっき材の表面を水により洗浄する工程を含んでも良い。特に、前処理溶液を適用した後、貴金属イオン含有溶液による処理の前に、室温より高い温度、例えば、30℃〜60℃において洗浄することが好ましい。
【0033】
本発明の無電解めっき処理に引き続き、更なる無電解めっき処理または電解めっき処理を行うことによりポリイミド樹脂上に厚い金属めっき皮膜を形成することができる。更なる無電解めっき処理または電解めっき処理は、公知のめっき方法を用いることができ、無電解銅めっき処理および電解銅めっき処理が挙げられる。めっきの方法および条件は、公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
前処理溶液の調製
ガラス容器に脱イオン水を1リットル充填し、水酸化ナトリウム34.50g、ジエチレングリコールモノブチルエーテル14.33gおよびポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルフォスフェート4.98gを添加し、溶液を70℃に保って撹拌することにより、前処理溶液を作成した。
【0036】
貴金属イオン含有溶液の調製
ガラス容器に脱イオン水を1リットル充填し、塩化パラジウム14.00gおよび35%塩酸87.50gを添加した。ガラス容器に、得られた溶液を3%容量、35%塩酸を2%容量および脱イオン水が残部となるよう充填し、室温(20℃)で撹拌することによりpH値0.82の酸性パラジウム溶液Aを作成した。
【0037】
得られた酸性パラジウム溶液のpH値を調整するために、水酸化ナトリウム水溶液(345g/L濃度または40g/L濃度)および脱イオン水を添加し、以下のようにパラジウム溶液B−Fを作成した。
【0038】
パラジウム溶液B−Fの調製
ガラス容器に酸性パラジウム溶液Aを充填した。室温にした溶液を撹拌しつつ、表1に示す量の水酸化ナトリウム水溶液(345g/L)を用いて、酸性パラジウム溶液のpH値が1.5になるまで調整した(パラジウム溶液B)。パラジウム溶液Bと同様にpH値1.5までは水酸化ナトリウム水溶液(345g/L)を用い、その後表1に示すpH値となるように水酸化ナトリウム水溶液(40g/L)を添加してパラジウム溶液C−Fを調製した。用いた水酸化ナトリウムの総添加量を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1
被めっき材として、東レ・デュポン株式会社製の真空成形加工など可能な熱成形性を有する熱可塑性ポリイミドフィルムKapton(商標)500SKJ(寸法:5cm×10cm)を用いた。
上記被めっき材を70℃に加熱した前記前処理溶液に10分間浸漬した後、その表面を50℃に加熱した脱イオン水で1分間洗浄し、さらに室温(25℃)の脱イオン水で3分間洗浄した。
引き続き、前処理溶液で処理した被めっき材を55℃に加熱した前記パラジウムイオン含有溶液Fに5分間浸漬した。
【0041】
その後、パラジウムが付着した被めっき材の表面を室温で3分間脱イオン水により洗浄した後、被めっき材は、公知のNIPOSIT(商標)468無電解ニッケルめっき液(硫酸ニッケル無電解めっき浴、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)により、無電解めっき処理を施された。かかる無電解ニッケルめっき液の温度は60℃で、30秒間無電解めっき処理された。得られたニッケルめっき皮膜を重量法で膜厚を測定したところ約0.045μmの厚さであった。得られたニッケルめっき皮膜の析出率およびその外観(均一性および膨れの有無)を目視により確認した。析出したニッケルめっき皮膜は、全面に析出しており、均一で膨れのないものであった。
【0042】
実施例2−3および比較例1−3
パラジウム溶液Fに代えてパラジウム溶液A−Eを用いたことを除き、実施例1と同様の処理を行い、ニッケルめっき皮膜の形成を行い、評価を行った。
その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
析出率は、被めっき材の表面の全域にニッケル皮膜が析出したものを100%とし、ニッケル皮膜が析出しないものを0%とした。
【0045】
実施例4
無電解ニッケルめっき処理を2分間行ったことを除き、実施例1と同様の処理を行った。得られたニッケルめっき皮膜は、被めっき材の全面に析出しており、均一で膨れのないものであった。
【0046】
実施例5
パラジウム溶液Fに代えてパラジウム溶液Dを用いたことを除き、実施例4と同様の処理を行った。得られたニッケルめっき皮膜は、被めっき材の全面に析出しており、均一で膨れのないものであった。
【0047】
比較例4
パラジウム溶液Fに代えてパラジウム溶液Cを用いたことを除き、実施例4と同様の処理を行った。得られたニッケルめっき皮膜は、被めっき材の表面上の90%に析出し膨れのないものであったが、不均一であった。
【0048】
密着性試験
実施例6
実施例1で得られたニッケルめっき皮膜を有する被めっき材について、さらにその表面を室温で3分間脱イオン水により水洗いし、加熱乾燥(120℃、30分間)を行った。その後、公知の電解銅めっき方法によりニッケルめっき皮膜上に銅めっき皮膜を形成した。すなわち、被めっき材の表面を硫酸を含むアシッドクリーナー(液温35℃)に2分間浸漬することにより酸洗浄し、次いで、公知のELECTROPOSIT(商標)1100電解銅めっき液(硫酸銅電解めっき浴、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)により電解めっき処理を行った。得られた被めっき材の表面を室温で3分間脱イオン水により水洗いした後、加熱乾燥(120℃、60分間)を行った。得られた銅めっき皮膜は膜厚が15μmであり、その皮膜に膨れは見られなかった。この銅めっき皮膜を1cm幅で切断し、プリント配線板試験方法JIS C5012に準拠し、角度90℃で引き上げ速さ50mm/分でINSTON−5564試験機によりその密着強度を測定した。その結果、ピール強度は0.91kN/mであった。
【0049】
実施例7−12および比較例5−7
実施例1と同様の方法において、無電解ニッケルめっき処理のめっき浴温度およびめっき時間を表3に示す温度と時間とすることにより、得られるニッケルめっき皮膜の膜厚を表3としたことを除き、実施例6と同様の方法で銅めっき皮膜を形成し、得られた銅めっき皮膜の密着強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
上記結果より、本発明の方法によれば、ポリイミド樹脂、特に立体成形可能な熱可塑性ポリイミド樹脂の表面に、工程数の少ない方法で、密着性の優れた均一なめっき皮膜が形成されたことがわかる。
【0052】
すなわち、本発明のめっき方法は、ポリイミド樹脂の表面に密着性の優れためっき皮膜を形成するにあたり、クロム酸や過マンガン酸塩処理などの被めっき材の表面を粗化する必要がなく、煩雑な管理を要する触媒溶液を用いる必要がなく、かつ、全体の処理工程を短縮することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂基板の表面への無電解めっき方法であって、
(i)ポリイミド樹脂基板の表面と、陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液とを、60℃から100℃の間の温度で接触させる工程、
(ii)前処理溶液で処理された表面を、pH値が5.0から7.0であって、錫イオンおよび界面活性剤を実質的に含まない貴金属イオン含有溶液と接触させる工程、および
(iii)貴金属イオン含有溶液で処理された表面を、無電解めっき処理する工程、
を含む無電解めっき方法。
【請求項2】
該貴金属イオンが、パラジウムイオンであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
各工程の間に、該基板の表面を水洗いする工程、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
無電解めっき処理が、0.01μm〜0.07μmの膜厚のニッケルめっき皮膜を析出する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリイミド樹脂が、熱可塑性ポリイミド樹脂である請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ポリイミド樹脂基板の表面へ金属皮膜を形成する方法であって、
(i)ポリイミド樹脂基板の表面と、陰イオン性界面活性剤、有機溶剤およびアルカリ成分を含む前処理溶液とを、60℃から100℃の間の温度で接触させる工程、
(ii)前処理溶液で処理された表面を、pH値が5.0から7.0である錫イオンおよび界面活性剤を実質的に含まない貴金属イオン含有溶液と接触させる工程、
(iii)貴金属イオン含有溶液で処理された表面を、無電解めっき処理する工程、
(iv)無電解めっき皮膜を有するポリイミド樹脂基板を加熱乾燥処理する工程、および
(v)無電解めっき皮膜上に電解めっき処理をする工程、
を含むポリイミド樹脂への金属皮膜形成方法。
【請求項7】
無電解めっき処理が、0.01μm〜0.07μmの膜厚のニッケルめっき皮膜を析出する工程である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各工程の間に、基板の表面を水洗いする工程、を含む請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2008−255460(P2008−255460A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102003(P2007−102003)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】