説明

ポリイミド樹脂ワニス及びそれを用いた絶縁電線、電機コイル、モータ

【課題】芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を得る反応において、ポリイミド前駆体樹脂(ポリアミック酸)の急激な高分子量化に伴う粘度上昇を抑制し、合成反応時間の短縮が可能となるポリイミド樹脂ワニスの製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を含む溶液(ポリイミド樹脂ワニス)を得る、ポリイミド樹脂ワニスの製造方法であって、末端封止剤としてモノカルボン酸無水物又はモノアミンを、末端封止剤がモノカルボン酸無水物の場合は芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して、末端封止剤がモノアミンの場合は芳香族ジアミンの全量に対して0.1mol%以上5mol%以下存在させて反応を行うことを特徴とするポリイミド樹脂ワニスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導体に塗布、焼付けして絶縁皮膜を形成することができるポリイミド樹脂ワニスの製造方法、及びこのポリイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁層を有する絶縁電線およびそれを用いた電機コイル、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等のコイル用巻線として用いられる絶縁電線において、導体を被覆する絶縁層(絶縁皮膜)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度等が求められている。絶縁層を形成する樹脂としてはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等がある。
【0003】
また適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモータ等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加され、その絶縁皮膜表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすくなる。コロナ放電の発生により局部的な温度上昇やオゾンやイオンの発生が引き起こされやすくなり、その結果絶縁電線の絶縁被膜に劣化が生じることで早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなる。高電圧で使用される絶縁電線には上記の理由によりコロナ放電開始電圧の向上も求められており、そのためには絶縁層の誘電率を低くすることが有効であることが知られている。
【0004】
ポリイミド樹脂は絶縁電線の絶縁層として汎用されている樹脂の中では特に耐熱性に優れている。また誘電率が低く機械特性にも優れるため、要求特性の高い絶縁電線の絶縁層として用いられている。たとえば特許文献1には耐熱区分がC種(180℃以上のクラス)のエナメル線として、導体直上にポリイミド樹脂エナメル皮膜層が塗布焼付けされているエナメル線が開示されている。
【0005】
また特許文献2には芳香族エーテル構造を有するポリイミド樹脂が記載されている。具体的には、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族エーテル構造を有する酸無水物と、芳香族エーテル構造を有するジアミン及びフルオレン構造を有するジアミンとを反応させてポリイミド前駆体を合成している。芳香族エーテル構造を有する酸無水物及びジアミンを用いることで可とう性を向上している。またこのような構造のポリイミド樹脂は低誘電率でありコロナ発生抑制に優れた絶縁皮膜を得ることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−198932号公報
【特許文献2】特開2010−67408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリイミド皮膜はポリイミド前駆体樹脂を溶剤に溶解したワニス(ポリイミド樹脂ワニス)を導体上に塗布、焼付けして形成する。焼付け時の熱によってポリイミド前駆体であるポリアミック酸がイミド化してポリイミドとなる。特許文献2に記載されているように、ポリイミド前駆体樹脂は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応させて得られる。このポリイミド前駆体樹脂の合成反応では、モノマーである芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とが順次重合して高分子量化している。反応が急激に進行すると反応系の粘度が急激に上昇し、合成設備に過剰な負担がかかると共に合成反応に長時間が必要となるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を得る反応においてポリイミド前駆体樹脂(ポリアミック酸)の急激な高分子量化に伴う粘度上昇を抑制し、合成反応時間の短縮が可能となるポリイミド樹脂ワニスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を含む溶液(ポリイミド樹脂ワニス)を得る、ポリイミド樹脂ワニスの製造方法であって、末端封止剤としてモノカルボン酸無水物又はモノアミンを、末端封止剤がモノカルボン酸無水物の場合は芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して、末端封止剤がモノアミンの場合は芳香族ジアミンの全量に対して0.1mol%以上5mol%以下存在させて反応を行うことを特徴とする、ポリイミド樹脂ワニスの製造方法である(請求項1)。
【0010】
反応系中に末端封止剤を共存させることで、合成反応の急激な進行を抑制して粘度上昇を抑えることができる。一方、反応系中に多量に末端封止剤が存在すると、できあがったポリイミド前駆体樹脂の分子量が小さくなることで皮膜伸びや耐熱性が低下する。これらの要因を考慮し、末端封止剤の量を対応するモノマーの0.1mol%以上5mol%以下の範囲とすることで、ポリイミドの特性を低下させることなく粘度上昇を抑えることができることを見いだした。末端封止剤としては、モノカルボン酸無水物又はモノアミンのいずれかを使用できる。
【0011】
前記芳香族ジアミンは、下記式(1)で表される芳香族エーテル結合を有すると共にベンゼン環、ナフタレン環の一方又は両方を合計3つ以上有する第1の芳香族ジアミンと、
下記式(2)で表される第2の芳香族ジアミンとからなり、前記ポリイミド前駆体樹脂のイミド化後のイミド基濃度が15%以上35%以下であると好ましい(請求項2)。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
ポリイミド樹脂の柔軟性を上げるため、芳香族エーテル構造を有すると共にベンゼン環、ナフタレン環の一方又は両方を合計3つ以上有する第1の芳香族ジアミンを用いる。第1の芳香族ジアミンはベンゼン環又はナフタレン環を3つ以上有していることから分子量が大きく柔軟な成分である。また第1の芳香族ジアミンと併用してベンゼン環を2つ有する第2の芳香族ジアミンを使用する。第2の芳香族ジアミンを併用することでポリイミド樹脂の強度を上げることができる。
【0015】
また本発明者らはポリイミド樹脂のイミド基濃度に着目した。イミド基濃度は、ポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100(%)
で計算される値である。ポリイミド前駆体は芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるので、各モノマー(芳香族ジアミン又は芳香族テトラカルボン酸二無水物)の分子量が大きくなるとイミド基濃度は小さくなる。イミド基濃度が低いと柔軟性が向上すると共に誘電率が低くなり電気特性に優れたポリイミドが得られる。一方イミド基濃度が低くなると耐熱性が低下する。イミド基濃度を15%以上35%以下の範囲とすることで耐熱性と柔軟性とのバランスの取れたポリイミド樹脂を得ることができる。さらに好ましいイミド基濃度の範囲は25%以上35%以下である。このような分子構成のポリイミド前駆体樹脂を合成する反応系において末端封止剤を用いると、特に合成反応の急激な進行を抑制する効果が高く得られる。
【0016】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物(以下、PMDA)であると好ましい(請求項3)。ピロメリット酸二無水物は比較的分子量が小さく、剛直な構造であるため、第1の芳香族ジアミンとして分子量が大きく柔軟な成分を選択した場合でもポリイミドのイミド基濃度を15%以上35%以下とすることができ、ポリイミド樹脂の柔軟性と耐熱性を両立できる。
【0017】
前記第1の芳香族ジアミンとしては、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選択される1種以上を選択することが好ましい(請求項4)。これらの芳香族ジアミンは分子量が大きく、ポリイミド樹脂の柔軟性を向上できる。特に酸無水物としてPMDAを選択した場合には柔軟性と耐熱性、機械強度(引張強度)のバランスが取れて好ましい。
【0018】
前記第1の芳香族ジアミンと、前記第2の芳香族ジアミンとの含有比率(モル比)は30:70〜90:10とすると好ましい。50:50〜80:20がより好ましい。第1の芳香族ジアミン量がこの範囲よりも少ない場合はポリイミド樹脂の伸びが小さく柔軟性が不十分となる場合がある。また第2の芳香族ジアミンの量がこの範囲よりも少ない場合はポリイミド樹脂皮膜にピンホールなどの欠陥が生じやすく、十分な靭性が得られにくくなる。
【0019】
前記末端封止剤は、無水フタル酸又は無水マレイン酸であると好ましい(請求項5)。モノカルボン酸無水物である無水フタル酸又は無水マレイン酸を使用することで、特に合成時の粘度上昇を抑制する効果が高くなる。
【0020】
また本発明は、導体及び該導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は上記のポリイミド樹脂ワニスの製造方法で得られたポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである絶縁電線を提供する(請求項5)。本発明の製造方法で得られるポリイミド樹脂ワニスは、合成時の急激な粘度上昇を抑制することで合成反応時間を短縮できるため、従来のポリイミド樹脂ワニスと比べて低コストである。従って、絶縁電線のコストを低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、合成反応時の急激な粘度上昇を抑制することで合成反応時間を短縮し、低コストで製造可能なポリイミド樹脂ワニスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】誘電率の測定方法を説明する模式図である。
【図2】本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を得る。反応系に末端封止剤を存在させること以外は、従来のポリイミド前駆体樹脂の合成反応と同様の条件で行うことができる。
【0024】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が例示される。
【0025】
この中でも下記式(3)で表されるピロメリット酸二無水物(PMDA)は低分子量で剛直な構造を持つため、ポリイミド樹脂の耐熱性を向上できる点で好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン(4−APBZ)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(3−APB)、1,5−ビス(3−アミノフェノキシ)ナフタレン(1,5−BAPN)等が例示される。
【0028】
この中でも2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)は分子量が大きく、イミド基濃度を低減できるため好ましく使用できる。これらの芳香族ジアミンとODA、MDA等の分子量の小さい芳香族ジアミンとを組み合わせて使用することで、イミド基濃度を調整できる。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンは、イミド化後のイミド基濃度が15%以上35%以下となるように選択すると好ましい。イミド基濃度はポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100
で計算される値である。具体的には以下の方法でイミド基濃度を計算する。
【0030】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンの分子量からユニット単位でのイミド基濃度を計算する。例えば下記式(4)で示されるポリイミドの場合、イミド基濃度は
イミド基分子量=70.03×2=140.06
ユニット分子量=894.96となるため、
イミド基濃度(%)=(140.06)/(894.96)×100=15.6%
となる。
【0031】
【化4】

【0032】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを混合して反応させる。芳香族ジアミンの合計量(当量)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計量(当量)を約1:1とすると反応が良好に進行して好ましい。それぞれの材料を混合し、有機溶媒中で加熱して反応させてポリイミド前駆体樹脂を得る。
【0033】
反応系にはさらに末端封止剤を存在させる。末端封止剤としてモノカルボン酸無水物を選択した場合は芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して末端封止剤を0.1mol%以上5mol%以下、末端封止剤としてモノアミンを選択した場合は芳香族ジアミンの全量に対して末端封止剤を0.1mol%以上5mol%以下添加する。このような量の末端封止剤を反応系に添加することで、生成するポリイミド前駆体樹脂の特性を低下させることなく、酸成分とジアミン成分とが縮合反応する際の急激な粘度上昇を抑制することができる。さらに好ましい末端封止剤の添加量は、0.1mol%以上2mol%以下である。
【0034】
モノカルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、フェニルエチニルフタル酸無水物、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、2,3−ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4−ビフェニルジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらのモノカルボン酸無水物は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
モノアミンとしては、アニリン、メチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2,3−キシリジン、2,5−キシリジン、2,6−キシリジン等が挙げられる。これらのモノアミンは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、モノカルボン酸無水物とモノアミンとを共存させると末端封止剤同士が反応する可能性があるため、モノカルボン酸無水物、モノアミンのいずれか一方を使用することが好ましい。
【0036】
有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶媒が使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を組み合わせても良い。
【0037】
有機溶媒の量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン及び末端封止剤を均一に分散させることができる量であれば良く特に制限されないが、通常これらの成分の合計量100質量部あたり100質量部〜1000質量部(樹脂濃度で10%〜50%程度となるように)使用する。有機溶媒量を少なくするとできあがったポリイミド樹脂ワニスの固形分量が多くなりコスト低減に有効である。
【0038】
ポリイミド樹脂ワニスには顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を添加しても良い。密着向上剤としてメラミンを添加すると、導体との密着力を向上できる。さらに本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を混合して使用することもできる。
【0039】
ポリイミド樹脂ワニスを導体上に直接又は他の層を介して塗布、焼き付けして絶縁層を形成する。焼付け工程でポリイミド前駆体樹脂がイミド化してポリイミドとなる。塗布、焼付けは通常の絶縁電線の製造と同様に行うことができる。例えば、導体に樹脂ワニスを塗布した後、設定温度を350〜500℃とした炉内を1パス当たり5〜10秒間通過させて焼付ける作業を数回繰り返して絶縁層を形成する。絶縁層の厚みは10μm〜150μmとする。
【0040】
導体としては、銅や銅合金、アルミニウム等を使用できる。導体の大きさやその断面形状は特に限定されないが、丸線の場合は導体径が100μm〜5mmのものが、平角線の場合は一辺の長さが500μm〜5mmのものが一般に使用される。
【0041】
絶縁層は単層であっても多層であっても良い。絶縁層が単層である場合は上記のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けして形成された絶縁層のみが絶縁層となる。絶縁層を多層にする場合は、上記のポリイミドからなる絶縁層の形成前又は形成後に他の絶縁層を形成する。他の絶縁層を形成する樹脂としてはポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド等任意の樹脂を使用できる。
【0042】
さらに、絶縁層として、最外層に表面潤滑層を有するとさらに加工性が向上して好ましい。また絶縁電線の外側に表面潤滑油を塗布しても良い。この場合はさらにインサート性や加工性が向上する。
【0043】
図2は本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。導体3の外側に多層の絶縁層があり、絶縁層は導体側から第1の絶縁層1、第2の絶縁層2となっている。例えば密着向上剤を添加したポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けして第1の絶縁層1を形成し、本発明のポリイミド樹脂ワニスを塗布焼き付けして第2の樹脂層2を形成する。なお本発明の絶縁電線はこの形状に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1、2、比較例1、2)
(ポリイミド前駆体樹脂の作製)
表1に示す種類と量の芳香族ジアミン(ODA、BAPP)をN−メチルピロリドンに溶解させた後、表1に示す種類と量の芳香族テトラカルボン酸無水物(PMDA)及び末端封止剤(無水フタル酸、無水マレイン酸)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。その後60℃で表1に示す時間撹拌し反応を終え、室温まで冷却してポリイミド樹脂ワニスを得た。合成反応時、反応溶液の粘度はいったん上昇した後低下していく。反応溶液の粘度が目的粘度(8,000cps)に達した時点を反応終了として反応に要した時間を測定した。また合成反応時の最大粘度を測定した。粘度は、反応溶液から試料をサンプリングし、B型粘度計(東機産業(株)製RB−80L)を用いて測定温度30℃、回転数6rpmで3分間回転させた時の粘度を測定した。なお表1に記載している配合量の数値はモル比である。各成分の分子量から計算したイミド基濃度を表1中に記載している。
【0046】
(絶縁電線の作製)
ポリイミド樹脂ワニスを導体径(直径)約1mmの導線の表面に常法によって塗布、焼付けして厚み約40μmの絶縁層を形成し、実施例1〜2、比較例1〜2の絶縁電線を作製した。
【0047】
(ガラス転移温度の評価)
得られた絶縁電線から導体を取り除いてチューブ状の絶縁層とし、動的粘弾性測定装置(DMS)を用いて温度範囲20℃〜500℃、昇温速度10℃/分でガラス転移温度を測定した。
【0048】
(機械特性の評価)
得られた絶縁電線から導体を取り除いてチューブ状の絶縁層とし、引張試験機を用いてチャック間距離20mm、10mm/minで引張試験を行い、皮膜の伸び(破断伸び)を測定した。
【0049】
(誘電率の測定)
得られた各絶縁電線について、絶縁層の誘電率を測定した。図1に示すように、絶縁電線の表面3カ所に銀ペーストを塗布して測定用のサンプルを作製した(塗布幅は両端2カ所が10mm、中央部分が100mmである)。導体と銀ペースト間の静電容量をLCRメータで測定し、測定した静電容量の値と被膜の厚みから誘電率を算出した。なお測定は温度30℃、湿度50%の条件で行った。以上の評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1は末端封止剤として無水フタル酸を、実施例2は末端封止剤として無水マレイン酸を、酸無水物に対して2mol%存在させて反応を行っている。末端封止剤を用いていない比較例1の合成時最大粘度251,000cpsに対して実施例1、2の合成時最大粘度は低くなっており、末端封止剤による粘度上昇抑制効果が認められる。また合成時間も比較例1より短くなっている。皮膜伸び、誘電率は実施例と比較例とで差はなく、ポリイミドの特性低下がないことも確認できる。
【0052】
比較例2は末端封止剤として無水フタル酸を酸無水物に対して10mol%存在させて反応を行っている。合成時最大粘度は低いが皮膜伸びが低く、実施例1、2に比べると特性低下している。
【符号の説明】
【0053】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応してポリイミド前駆体樹脂を含む溶液(ポリイミド樹脂ワニス)を得る、ポリイミド樹脂ワニスの製造方法であって、
末端封止剤としてモノカルボン酸無水物又はモノアミンを、末端封止剤がモノカルボン酸無水物の場合は芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して、末端封止剤がモノアミンの場合は芳香族ジアミンの全量に対して0.1mol%以上5mol%以下存在させて反応を行うことを特徴とする、ポリイミド樹脂ワニスの製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ジアミンは、
下記式(1)で表される芳香族エーテル結合を有すると共にベンゼン環、ナフタレン環の一方又は両方を合計3つ以上有する第1の芳香族ジアミンと、
下記式(2)で表される第2の芳香族ジアミンとからなり、
前記ポリイミド前駆体樹脂のイミド化後のイミド基濃度が15%以上35%以下である、請求項1に記載のポリイミド樹脂ワニスの製造方法。

【請求項3】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物である、請求項2に記載のポリイミド樹脂ワニスの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ジアミンが、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選択される1種以上を含有する、請求項2又は3に記載のポリイミド樹脂ワニスの製造方法。
【請求項5】
前記末端封止剤は、無水フタル酸又は無水マレイン酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂ワニスの製造方法。
【請求項6】
導体及び該導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂ワニスの製造方法で得られたポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28695(P2013−28695A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165086(P2011−165086)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】