説明

ポリイミド樹脂前駆体及びその硬化物

【課題】成形性、取り扱い性及び保存安定性を向上できるポリイミド前駆体及びその降下物並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマー(A)及び酸無水物(B)を含む硬化性樹脂組成物を調製する。前記ウレタンプレポリマー(A)は、フルオレン骨格を有するジオールと芳香族ジイソシアネートとの反応生成物であってもよい。この硬化性樹脂組成物を、溶媒を用いることなく、150〜300℃で加熱することにより、靱性、耐熱性及び耐薬品性の高いポリイミド成形体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマーを含むポリイミド樹脂前駆体及びその硬化物並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、高い耐熱性及び耐薬品性を有するエンジニアリングプラスチックであり、その製造方法としては、原料としてジアミンを用いて2段階の反応工程を経る方法(2段法)と、原料としてジイソシアネートを用いて1段階で反応を行う方法(1段法)とが知られている。しかし、ポリイミド樹脂は、熱溶融性が低く、溶媒にも難溶であるため、中間体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を利用可能な2段法が工業的に汎用されている。
【0003】
詳しくは、2段法では、ジアミンと酸無水物とを反応させてポリアミド酸を生成する工程と、得られたポリアミド酸を溶媒に溶解した溶液を加熱して脱水環化(熱イミド化)する工程とを経てポリイミド樹脂が得られる。しかし、この方法では、ポリアミド酸の熱イミド化反応が脱水を伴う反応であるため、熱イミド化工程において、ポリアミド酸溶液を100℃付近から段階的に加熱し、脱水環化反応により生じた水を系外に排除しながら350℃程度にまで加熱処理する必要があり、成形性が低い。また、前駆体であるポリアミド酸の溶液を用いるため、ポリアミド酸の溶液の熱イミド化反応と同時に成形する必要があり、得られるポリイミド樹脂の硬化物は、薄膜のフィルム又はその積層体に限定されている。さらに、前記ポリアミド酸溶液に使用できる溶媒は、極性の高い化合物に限定され、好ましい極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が使用されている。しかし、このような極性の高い溶媒は、吸湿し易く、ポリアミド酸の加水分解が起こるため、ポリアミド酸溶液の保存安定性の向上が求められている。
【0004】
一方、1段法においても、最終生成物であるポリイミド樹脂の特性及び成形性を向上する検討がされている。例えば、ポリイミド樹脂の工業的に有利な製造方法として、特開平8−295734号公報(特許文献1)には、イソシアネート基がブロック化されていてもよい脂環族又は芳香族環を含むジイソシアネート化合物と、酸無水物とを反応させることによるポリイミド樹脂の製造方法が提案されている。この文献では、脂環族又は芳香族ジイソシアネート化合物を使用することにより、着色が少なく、溶解性の高いポリイミド樹脂を工業的に有利に製造している。また、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基がブロック化されてもよいことが記載されている。
【0005】
しかし、この文献の方法では、ポリイミド樹脂の溶媒に対する溶解性を向上でき、溶媒を用いてフィルムは製造できるが、溶媒を用いずに肉厚又は複雑な形状の成形体を得ることはできない。
【0006】
また、特開2008−13635号公報(特許文献2)には、分子末端イソシアネート官能基をブロック剤で封止したポリアミドイミド樹脂及びポリアミド酸を含有する耐熱性樹脂ワニスが開示されている。この文献には、ポリアミドイミド樹脂として、トリカルボン酸無水物と多価イソシアネートとを反応させたポリアミドイミド、又はトリカルボン酸無水物と多価アミンと反応させてイミド結合を形成した後、多価イソシアネートを反応させてアミド化したポリアミドイミドが記載されており、前記多価アミンの一例として、アミノフェニルフルオレンが例示されている。さらに、前記ポリアミドイミドのイソシアネート基をブロック剤で封止することにより、ポリアミド酸との混合物が高粘度化(ゲル化)するのを抑制できることが記載されている。しかし、この文献でも、ポリイミド樹脂の成形体は得られていない。
【0007】
一方、特開2005−220340号公報(特許文献3)には、ジイソシアネートとジオールから得られたポリウレタンオリゴマーをテトラカルボン酸二無水物で鎖延長したブロック共重合体で構成されたポリウレタンイミド樹脂が開示されている。しかし、この文献でも、ポリウレタンイミド樹脂は接着剤組成物として調製され、成形体は得られていない。
【0008】
さらに、特許文献1〜3のいずれにおいても、ポリイミド樹脂の成形性や加工性が改良されることにより、耐熱性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−295734号公報(請求項4、段落[0020][0021]、実施例)
【特許文献2】特開2008−13635号公報(請求項1、段落[0008][0010][0018])
【特許文献3】特開2005−220340号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、成形性、取り扱い性及び保存安定性を向上できるポリイミド前駆体及びその硬化物(ポリイミド)並びにその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、溶媒を用いずに、低温かつ短時間で、肉厚の成形体を簡便に成形できるポリイミド前駆体及びその硬化物並びにその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、靱性などの機械的特性、耐熱性及び耐薬品性が高いポリイミド成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマーと酸無水物とを組み合わせることにより、成形性、取り扱い性及び保存安定性を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマー(A)及び酸無水物(B)を含む。前記ウレタンプレポリマー(A)は、下記式(1)で表されるジオールとジイソシアネートとの反応生成物をケトオキシム類で末端封止したプレポリマーであってもよい。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、R1はシアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基、R2は、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、A1はアルキレン基を示す。kは0〜4の整数、m及びnは0以上の整数である)。
【0017】
前記ジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートであってもよい。前記酸無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。前記ウレタンプレポリマー(A)の末端封止イソシアネート基と、酸無水物(B)の酸無水物基との当量比は、前者/後者=1/1〜1/1.8程度である。
【0018】
本発明には、前記硬化性樹脂組成物を加熱し、ポリイミド成形体を製造する方法も含まれる。この樹脂組成物は、混合物(コンパウンド)としてハンドリング性に優れるため、溶媒に溶解する必要がない。従って、前記製造方法では、溶媒を用いることなく、180〜300℃で加熱することにより、ポリイミド成形体が得られる。さらに、本発明には、前記方法により得られるポリイミド成形体も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマーと酸無水物とを組み合わせるため、成形性、取り扱い性及び保存安定性を向上できる。また、溶媒を用いずに、低温かつ短時間で、肉厚のポリイミド成形体を簡便に成形できる。さらに、靱性などの機械的特性、耐熱性及び耐薬品性が高いポリイミド成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[硬化性樹脂組成物]
本発明の硬化性樹脂組成物(ポリイミド前駆体)は、末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマー(A)及び酸無水物(B)を含む。
【0021】
(A)ウレタンプレポリマー
ウレタンプレポリマー(A)は、末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーをブロック剤で封止することにより得られる。本発明では、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基をブロック剤で封止することにより、樹脂組成物の保存安定性を向上できる。
【0022】
このようなウレタンプレポリマー(A)は、ウレタン骨格を有し、かつ末端にイソシアネート基を有する限りに特に限定されず、通常、ポリオール類に対して過剰量のポリイソシアネート類を反応させて得られる。
【0023】
(ポリイソシアネート類)
ポリイソシアネート類としては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する限り特に制限されず、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、ポリイソシアネートの誘導体などが挙げられる。
【0024】
前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネート(例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどのC2−16アルカンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなど)、分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(例えば、リジンエステルトリイソシアネートなどのC6−20アルカントリイソシアネートなど)などが挙げられる。
【0025】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネート(例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなど)、分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(例えば、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなどのトリイソシアネートなど)などが挙げられる。
【0026】
前記芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネート[例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなど]、分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(例えば、1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどのトリイソシアネートなど)などが挙げられる。
【0027】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネート(例えば、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなど)、分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(例えば、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネートなどのトリイソシアネート、例えば、4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどのテトライソシアネートなど)などが挙げられる。
【0028】
ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、前記ポリイソシアネートのダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、炭酸ガスと上記ポリイソシアネート単量体との重合物である2,4,6−オキサジアジントリオン環を有するポリイソシアネート、カルボジイミド、ウレットジオンなどが挙げられる。
【0029】
これらのポリイソシアネートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのポリイソシアネートのうち、HDIなどの脂肪族ジイソシアネート、IPDI、水添XDIなどの脂環族ジイソシアネート、XDIなどの芳香脂肪族ジイソシアネート、TDI、MDI、NDIなどの芳香族ジイソシアネートなどが汎用され、耐熱性や機械的強度の点から、MDI、NDIなどの芳香族ジイソシアネートが特に好ましい。
【0030】
(ポリオール類)
前記ポリオール類としては、例えば、脂肪族ジオール[アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2−22アルカンジオール)など]、脂環族ジオール(1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロアルカンジオール類、水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノール類、又はこれらのC2−4アルキレンオキサイド付加体など)、芳香族ジオール(キシリレングリコールなどの芳香脂肪族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、又はこれらのC2−4アルキレンオキサイド付加体、フルオレン骨格を含有するジオール類など)などのジオール類、トリオール類(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミンなど)、テトラオール類(ペンタエリスリトール、ソルビタン又はこれらの誘導体など)など]、ポリマーポリオール類などが挙げられる。
【0031】
前記ポリマーポリオール類には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリル系ポリマーポリオールなどのポリマーポリオールなどが含まれる。
【0032】
前記ポリエステルポリオールは、例えば、ポリカルボン酸(又はその無水物)とポリオールとの反応生成物、開始剤に対してラクトン類を開環付加重合させた反応生成物であってもよい。
【0033】
ポリカルボン酸としては、ジカルボン酸類[例えば、芳香族ジカルボン酸又はその無水物(テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸など)、脂環族ジカルボン酸又はその無水物(テトラヒドロ無水フタル酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸など)、脂肪族ジカルボン酸又はその無水物(コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC4−20アルカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸など)など]、多価カルボン酸類(例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、又はこれらのカルボン酸類のアルキルエステルなどが例示できる。これらのポリカルボン酸のうち、脂肪族ジカルボン酸又はその無水物(アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC6−20アルカンジカルボン酸などが好ましい。
【0034】
ラクトン類としては、例えば、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、エナントラクトン(7−ヒドロキシヘプタン酸ラクトン)などのC3−10ラクトンなどが挙げられる。
【0035】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、前記オキシラン化合物の開環重合体(例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど)などが挙げられる。
【0036】
前記ポリエーテルエステルポリオールとしては、例えば、前記ジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸など)又はこれらのジアルキルエステルと、前記ポリエーテルポリオールとの重合物であるポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
【0037】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのアルカンジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコール;1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環族ジオール;ビスフェノールAなどのビスフェノール類、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体などの芳香族ジオールから選択された一種又は二種以上のグリコール)とカーボネート(ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジフェニルカーボネートなど)又はホスゲンなどとの重合体などが挙げられる。
【0038】
前記ポリエステルアミドポリオールとしては、前記ポリエステルポリオールの反応(ジカルボン酸とジオールとの重合など)において、末端カルボキシル基含有ポリエステルとジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアミノ基を有する脂肪族ジアミンなど)とを反応成分とするポリエステルアミドポリオールなどが挙げられる。
【0039】
前記アクリルポリオールとしては、ヒドロキシル基を有する重合性単量体(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなど)と、ヒドロキシル基を含まない(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、又はそのエステル)との重合物であるアクリルポリオールなどが挙げられる。
【0040】
これらのポリオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオール類のうち、機械的特性及び耐熱性の点から、芳香族ジオール、特に、フルオレン骨格を有するジオールが好ましい。フルオレン骨格を有するジオールを用いることにより、エンジニアリングプラスチックとしてのポリイミドの耐熱性を低下させることなく、成形性や加工性を向上できる。さらに、靱性などの機械的特性及び耐薬品性も向上できる。
【0041】
(フルオレン骨格を有するジオール)
フルオレン骨格を有するジオールは、下記式(1)で表されるジオールであってもよい。
【0042】
【化2】

【0043】
(式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、Rはシアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Aはアルキレン基を示す。kは0〜4の整数、m及びnは0以上の整数である)。
【0044】
前記式(1)において、環Arで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Arは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0045】
好ましい環Arには、ベンゼン環及びナフタレン環が含まれる。なお、環Arが、縮合多環式芳香族炭化水素環である場合、フルオレンの9位に置換する環Arの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0046】
また、前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0047】
また、前記式(1)において、Rで表される置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−20アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基;アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基;アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0048】
これらのうち、基Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基であるのが好ましく、特に、好ましい基Rは、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)などである。特に、環Arがベンゼン環である場合、基Rは、C1−4アルキル基、アリール基及びハロゲン原子から選択された基であってもよい。
【0049】
なお、同一の環Arにおいて、mが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Arにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、環Arがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位の適当な位置(例えば、3位、3,5位など)に置換していてもよい。
【0050】
また、好ましい置換数mは、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。特に、環Arがベンゼン環である場合、好ましい置換数mは、0〜4、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、2つの環Arにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0051】
前記式(1)において、基Aは、アルキレン基である。アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレン基が挙げられる。これらのうち、エチレン基、プロピレン基などのC2−4アルキレン基が好ましい。
【0052】
オキシアルキレン基の繰り返し数nは、0以上の整数であり、通常、0〜10程度であり、好ましくは0〜5、さらに好ましくは0〜3(特に0〜2)程度である。さらに、オキシアルキレン基の繰り返し数nは、通常1である。
【0053】
式(1)で表される代表的なジオールには、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−8アリール−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−フェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[1−(6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシナフチル)フルオレンなど]などが含まれる。
【0054】
(A)ウレタンプレポリマーの製造方法
ウレタンプレポリマー(A)は、前記ポリイソシアネート類と前記ポリオール類とを反応させて、末端イソシアネート基を有するプレポリマーを生成した後、ブロック剤でイソシアネート基を封止することにより製造できる。
【0055】
前記ポリイソシアネート類とポリオール類との反応において、ポリイソシアネート類の割合は、ポリオール類に対して過剰量使用されるが、例えば、ポリオール類のヒドロキシル基1モルに対して、ポリイソシアネート類のイソシアネート基が0.7モル以上(例えば、0.8〜5モル)、好ましくは1〜4モル(例えば、1.5〜3.5モル)、さらに好ましくは1.8〜3モル(特に1.9〜2.5モル)、通常、ポリオール類のヒドロキシル基1モルに対して、ポリイソシアネート類のイソシアネート基が約2モル(1.8〜2.2モル)となる割合で使用される。
【0056】
ポリイソシアネート類とポリオール類との反応は、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、ポリイソシアネート類及びポリオール類に対して不活性な又は非反応性の溶媒であれば特に限定されず、例えば、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、1,4−ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、N置換ピロリドン類(N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−3−ピロリドンなど)、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類)、ニトリル類(アセトニトリルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
また、ポリイソシアネート類とポリオール類との反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、例えば、有機スズ系化合物(例えば、オクチル酸スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジラウレートなどのスズカルボキシレート類)、ナフテン酸金属塩(ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなど)などの有機金属触媒;第3級アミン類[例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン、ベンジルジメチルアミンなどの鎖状第3級アミン;ピリジン、メチルピリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミンなどの環状第3級アミンなど]などが挙げられる。これらの触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0058】
触媒の使用量は、例えば、ポリイソシアネート類及びポリオール類の総量100重量部に対して、例えば、0.001〜3重量部、好ましくは0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部(例えば、0.02〜0.5重量部)程度であってもよい。触媒の使用量は、ジオール100重量部に対して0.005〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部程度であってもよい。
【0059】
ポリイソシアネート類とポリオール類との反応は、常温下で行ってもよく、加温下(例えば、0〜100℃、好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは23〜50℃程度)で行ってもよい。なお、反応は、不活性雰囲気(窒素、ヘリウム、アルゴンなどの雰囲気)下で行ってもよい。
【0060】
(ブロック剤)
得られたウレタンプレポリマーは、ブロック剤との反応に先立って分離してもよいが、通常、前記ウレタンプレポリマーを含む反応系に、そのまま、ブロック剤を混合して反応を行う。
【0061】
ブロック剤としては、慣用のイソシアネート基のブロック剤、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのC1−10アルカノールなど)、フェノール類(例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトールなど)、ラクタム類(例えば、プロピオラクタム、ブチロラクタム、バレロラクタム、カプロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ドデカノラクタムなどのC4−20ラクタムなど)、オキシム類(例えば、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム(2−ブタノンオキシム)、メチルプロピルケトオキシム、メチルブチルケトオキシム、メチルプロピルケトオキシム、メチル(イソ)ブチルケトオキシム、メチルイソペンチルケトオキシム、ジエチルケトオキシム、エチルプロピルケトオキシム、エチルブチルケトオキシム、ジイソプロピルケトオキシム、ジイソブチルケトオキシムなどのC3−10ジアルキルケトオキシムなど)、イミダゾール類(例えば、イミダゾール、イミダゾリン、オキシイミダゾールなど)、アセト酢酸エステル(例えば、アセト酢酸エチルなどのアセト酢酸C1−4アルキルエステルなど)などが挙げられる。
【0062】
これらのブロック剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのブロック剤のうち、ポリイミド化を200℃以下の比較的低温で行うことを考慮すると、ケトオキシム類(特に、メチルエチルケトオキシムなどのC3−6ジアルキルケトオキシム)が好ましい。
【0063】
前記ウレタンプレポリマーとブロック剤との反応において、ブロック剤の割合は、前記ウレタンプレポリマーに対して過剰量使用され、例えば、前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基1モルに対して、例えば、2モル以上(例えば、2〜10モル)、好ましくは1.5モル以上(例えば、1.5〜5モル)、さらに好ましくは1.05モル以上(例えば、1.05〜2モル)程度であってもよい。前駆体と他方の成分との反応において、溶媒や触媒を新たに添加してもよく、その種類や割合は前記と同様である。また、反応条件も前記と同様である。
【0064】
なお、反応終了後、生成物である末端封止ウレタンプレポリマーは、慣用の分離方法、例えば、濃縮、沈殿(又は析出)、抽出、濾過などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。通常、反応終了後の生成物から、減圧蒸留などを利用して、溶媒成分を分離してもよい。
【0065】
このようにして得られた末端封止ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量は、例えば、500〜30,000程度の範囲から選択でき、例えば、700〜20,000、好ましくは800〜10,000、さらに好ましくは1000〜5,000(特に1200〜4000)程度であってもよい。
【0066】
(B)酸無水物
酸無水物(B)としては、複数の酸無水物基を有していればよく、テトラカルボン酸二無水物、特に、ポリイミド樹脂で使用される慣用の酸無水物である芳香族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物が利用できる。芳香族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物には、単環式又は縮合環式芳香族テトラカルボン酸二無水物(例えば、ピロメリット酸二無水物やナフタレンテトラカルボン酸二無水物など)、及び下記式(2)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が含まれる。
【0067】
【化3】

【0068】
(式中、Xは、直接結合、−O−、−CO−、−S−、−SO−又は−O−X−O−で表される結合を示し、Xは二価の有機基である)。
【0069】
で表される有機基は、通常、炭化水素を含む基であり、アルキレン基やシクロアルキレン基などの脂肪族又は脂環族炭化水素基であってもよいが、耐熱性などの観点から、芳香族環を含む基であるのが好ましい。
【0070】
芳香族環を含む基としては、例えば、アリーレン基(例えば、フェニレン、トリレン、キシリレン、ナフチレンなど)、ビフェニレン基(4,4′−ビフェニレン基、3,3′−ビフェニレン基など)、ビスフェノール残基[ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイル基(ビスフェノールA残基)、ジフェニルメタン−4,4′−ジイル基(ビスフェノール−F残基)、ジフェニルカルボニル−4,4′−ジイル基、ジフェニルスルホニル−4,4′−ジイル基(ビスフェノール−S残基)、ジフェニルチオ−4,4′−ジイル基、ジフェニルオキシ−4,4′−ジイル基など]などが挙げられる。
【0071】
芳香族テトラカルボン酸二無水物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、機械的特性及び耐熱性の点から、ピロメリット酸二無水物などの単環式芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0072】
(硬化性樹脂組成物)
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記ウレタンプレポリマー(A)及び酸無水物(B)を含み、ポリイミド樹脂の前駆体として用いられる。本発明の樹脂組成物は、プレポリマー(A)の種類や分子量に応じて、(半)固形状物又は液状物として調製でき、ウレタンプレポリマー(A)がフルオレン骨格を有する場合には、通常、固形状物として調製できる。さらに、フルオレン骨格を有する固形状の混合物(コンパウンド)は、ウレタンプレポリマー(A)の末端イソシアネート基がブロック剤で封止されているため、保存安定性及び取り扱い性に優れている。すなわち、本発明の樹脂組成物は安定であるため、成形材料としての取り扱い性にも優れており、従来のように、溶媒を用いて溶液にすることなく、そのまま成形に供することができる。さらに、後述するように、成形性及び加工性に優れており、低温かつ短時間で簡便に樹脂組成物をイミド化できる。
【0073】
両成分の割合は、ウレタンプレポリマー(A)の末端封止イソシアネート基と、酸無水物(B)の酸無水物基との当量比が、前者/後者=1/0.5〜1/3程度の範囲から選択でき、例えば、1/0.8〜1/2.0、好ましくは1/0.9〜1/1.5、さらに好ましくは1/1〜1/1.2(特に1/1.1)程度である。このような範囲(特に、酸無水物を過剰の割合)で両成分を配合することにより、硬化物の耐熱性及び靱性を向上できる。
【0074】
本発明の硬化性樹脂組成物は、さらに慣用の添加剤、例えば、架橋又は硬化剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、染料、顔料、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、アンチブロッキング剤、充填剤、ゲル化剤などを含んでいてもよい。また、ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリメリット酸又はその無水物など)を配合して硬化物にアミド結合を導入してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記ウレタンプレポリマー(A)と酸無水物(B)とを慣用の混合方法により混合することにより容易に調製できる。本発明では、硬化性樹脂組成物は、溶媒を実質的に含有していないため、保存安定性に優れており、プレポリマーの分解などの問題が発生しない。
【0076】
[硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶媒を用いることなく、そのまま加熱又は熱硬化してイミド化することによりポリイミド樹脂(ポリイミド成形体)とすることができる。成形方法としては、例えば、液状樹脂組成物の場合には、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、注型成形などを利用でき、(半)固体状樹脂組成物の場合には、射出成形、圧縮成形(加圧成形)などを利用できる。特に、固体状樹脂組成物の場合、粉体状のコンパウンドを熱プレス(粉末加圧成形)するだけで、厚肉の成形体を簡便に得ることができる。
【0077】
樹脂組成物を硬化させるための加熱温度は、例えば、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、さらに好ましくは170〜220℃(特に180〜200℃)程度である。本発明では、この範囲の温度で加熱することにより、ブロック剤の脱離とイミド化とを同時に速やかに行うことができる。加熱時間は、例えば、10分〜2時間、好ましくは20分〜1.5時間、さらに好ましくは30分〜1.2時間程度である。本発明では、比較的低温及び短時間で硬化できる上に、ポリアミド酸の硬化のように段階的に温度を上昇させる必要もないため、生産性に優れている。
【0078】
固体状のコンパウンドを加圧成形する場合、圧力は、例えば、5〜50MPa、好ましくは10〜45MPa、さらに好ましくは20〜40MPa程度である。
【0079】
このような方法で得られた硬化物(ポリイミド樹脂)は、高い耐熱性を有しており、例えば、フルオレン骨格を有するポリイミドの場合、ガラス転移温度が250℃以上(例えば、250〜400℃)、好ましくは260〜350℃、さらに好ましくは280〜330℃程度であり、10%重量減少温度も250℃以上(例えば、250〜400℃)、好ましくは260〜380℃、さらに好ましくは280〜350℃程度を示す。
【0080】
本発明の硬化物は、二次元的構造(フィルム状、シート状、板状など)に限定されず、三次元的構造も形成できる。さらに、成形体の厚みも、用途に応じて、0.01μm〜10.0mm程度の広い範囲から選択でき、従来のポリイミドとは異なり、溶媒を用いないため、厚肉の成形が可能であり、例えば、0.1〜10.0mm(特に2.0〜5.0 mm)程度の厚みを有する成形体も形成できる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
実施例1
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪ガスケミカル(株)製)10.02gに、乾燥したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)84.22gを添加し、さらに1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI、三井化学ポリウレタン(株)製)9.64gを添加して室温で15分間撹拌し、添加したNDIを完全に溶解させた。この溶液に、1重量%に希釈したジ−n−ブチルスズジラウレート(DTD、ナカライテスク(株)製)のNMP溶液を1.02g添加し、さらに1時間撹拌して、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。このプレポリマーのイソシアネート基含有割合(NCO%)を測定したところ、7.80%であった。また、イソシアネート基が存在することを反応溶液のIR分析で確認した。続いて、反応溶液に2−ブタノンオキシム3.77gを添加して、室温で3時間撹拌し、末端イソシアネート基をブロックした。イソシアネート基の消失を反応溶液のIR分析で確認した。反応溶液をメタノール500mlに滴下し、析出した白色の固体をろ過、乾燥し、BPEF−NDIのブロック化ウレタンプレポリマー11.79gを収率50%で得た。
【0083】
実施例2
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、日本ポリウレタン工業(株)製)11.70gに、乾燥したジオキサン40.01gと、1重量%に希釈したDTDのジオキサン溶液を1.02gとを添加した。乾燥したジオキサン49.32gにBPEF10.04gを溶解させて、前記MDIを含む溶液に添加し、室温で1.5時間撹拌撹拌して、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。このプレポリマーのイソシアネート基含有割合(NCO%)を測定したところ、8.00%であった。また、イソシアネート基が存在することを反応溶液のIR分析で確認した。続いて、反応溶液に2−ブタノンオキシム3.80gを添加して、室温で2時間撹拌し、末端イソシアネート基をブロックした。イソシアネート基の消失を反応溶液のIR分析で確認した。反応溶液をメタノール500mlに滴下し、析出した白色の固体をろ過、乾燥し、BPEF−MDIのブロック化ウレタンポリマー14.35gを収率57%で得た。
【0084】
実施例3
実施例1で得られたBPEF−NDIのブロック化ウレタンポリマー1gに対してピロメリット酸二無水物(PMDA)0.087g(ウレタンプレポリマーに対して当量比で0.5)、0.17g(同じく当量比で1.0)、0.26g(同じく当量比で1.5)の割合で配合した混合物(ポリイミド樹脂の前駆体)を作製した。この混合物を200℃に加熱した加圧成形機で30MPaの圧力で1時間プレスして、厚み0.3mmのポリイミド樹脂(硬化物)のフィルムを得た。当量比1.0のフィルムのガラス転移温度は309℃、10%重量減少温度288℃であった。
【0085】
実施例4
実施例2で得られたBPEF−MDIのブロック化ウレタンポリマー1gに対してピロメリット酸二無水物(PMDA)0.089g(ウレタンプレポリマーに対して当量比で0.5)、0.18g(同じく当量比で1.0)、0.27g(同じく当量比で1.5)の割合で配合した混合物(ポリイミド樹脂の前駆体)を作製した。この混合物を200℃に加熱した加圧成形機で30MPaの圧力で1時間プレスして、厚み0.3mmのポリイミド樹脂(硬化物)のフィルムを得た。当量比1.0のフィルムのガラス転移温度は323℃、10%重量減少温度318℃であった。
【0086】
比較例1
三口セパラブルフラスコに、9,9−ビスアニリンフルオレン(BAF、JFEケミカル(株)製)8.71gを添加し、さらに乾燥したNMP75.04gを添加した。この溶液を窒素でバブリングして、0℃で撹拌しながら、この溶液にPMDA5.74gを添加し、メカニカルスターラーで2時間撹拌した後、室温で17時間撹拌した。反応溶液を蒸留水1.5リットルに滴下し、得られた固体をメタノールで洗浄した後、乾燥し、NMPを含むポリアミド酸22.22gを得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は37900、数平均分子量は6390であった。
【0087】
比較例2
BAFの代わりに4,4′−メチレンジアニリン(東京化成工業(株)製)4.97gを用いた以外は比較例1と同様にして、NMPを含むポリアミド酸17.27gを得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は44400、数平均分子量は7890であった。
【0088】
比較例3
比較例1で得られたポリアミド酸を23重量%含むジメチルホルムアミド溶液をガラス板上にキャストし、加熱により乾燥及び熱イミド化を行った。加熱処理は、120℃で30分間処理した後、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃で各10分間処理して段階的に行い、ポリイミドフィルムを得た。フィルムのガラス転移温度は349℃、3%重量減少温度は500℃であった。
【0089】
比較例4
比較例2で得られたポリアミド酸を23重量%含むジメチルホルムアミド溶液をガラス板上にキャストし、加熱により乾燥及び熱イミド化を行った。加熱処理は、120℃で30分間処理した後、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃で各10分間処理して段階的に行い、ポリイミドフィルムを得た。フィルムのガラス転移温度は検出されなかったが、3%重量減少温度は500℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリイミド成形体は、高い耐熱性や耐薬品性を有するだけでなく、成形性に優れるため、耐熱性や耐薬品性が要求されるフィルムや接着剤(絶縁被膜、絶縁フィルム、絶縁テープ、絶縁ワニスなど)に限定されず、各種分野の成形体、例えば、電気・電子機器のケーシングやパーツ(コネクター、可変抵抗器、回路配線板、コンデンサ、印刷回路基板、メンブレンスイッチ、発熱体、駆動部、トランス、発電器など)、機械・機器(自動車、旅客車、航空機、ミサイル、発動機、電動機、コンピュータなど)などに用いられる部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端イソシアネート基がブロック剤で封止されたウレタンプレポリマー(A)及び酸無水物(B)を含む硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
ウレタンプレポリマー(A)が、下記式(1)で表されるジオールとジイソシアネートとの反応生成物をケトオキシム類で末端封止したプレポリマーであり、酸無水物(B)が芳香族テトラカルボン酸二無水物である請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、R1はシアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基、R2は、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、A1はアルキレン基を示す。kは0〜4の整数、m及びnは0以上の整数である)
【請求項3】
ジイソシアネートが芳香族ジイソシアネートである請求項2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
ウレタンプレポリマー(A)の末端封止イソシアネート基と、酸無水物(B)の酸無水物基との当量比が、前者/後者=1/0.5〜1/3である請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を加熱するポリイミド成形体の製造方法。
【請求項6】
溶媒を用いることなく、180〜300℃で加熱する請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の方法により得られるポリイミド成形体。

【公開番号】特開2010−235785(P2010−235785A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85529(P2009−85529)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】