説明

ポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理方法および表面金属化方法、並びにフレキシブルプリント配線板およびその製造方法

【課題】 連続処理化が容易で、生産性が高く、かつ絶縁抵抗の劣化やマイグレーションの促進することなく、平滑性を維持しながらポリイミド樹脂フィルムと金属との密着性を確保できる。
【解決手段】 ポリイミド樹脂フィルムをアルカリ水溶液で処理してカルボキシル基を生成させて、生成したカルボキシル基に金属イオンを吸着させ、還元剤水溶液で吸着した金属イオンを還元させた後、金属イオンの活性状態を維持しながら無電解めっきに浸漬し、無電解めっきを行なうポリイミド樹脂フィルムの金属化方法であり、この方法を用いたフレキシブルプリント配線板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理方法および表面金属化方法、並びにフレキシブルプリント配線板(以下FPCという)およびその製造方法に関する。特にプラズマ処理やスパッタリング処理等の乾式処理をすることなく、工程が簡素化可能な湿式方法により、金属配線層とフィルム層との平滑性および密着性に優れたポリイミド樹脂フィルムを基材とするFPCおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の多端子化、パッケージの小サイズ化、ベアチップ実装化等による半導体実装技術の革新により、電子機器の小型軽量化は大きく促進されている。半導体パッケージを搭載するTABやCOFにおいても、CPUの高周波化・高密度化に伴い、配線形状加工の精度アップ等が要求されており、銅張フレキシブルフィルム上に銅配線を数10μmあるいは数μmのライン/スペース(L/S)を精度よく加工する必要が生じている。そのためにはフレキシブルフィルムと表面銅箔との界面の平滑性がより必要となってきている。
また、デバイスの高周波化に伴い微細配線では伝送信号が配線の周辺に集中しやすく、配線の表面凹凸が大きいと抵抗が高くなり、高速伝送の妨げとなってくるので配線回路とフィルムとの接着界面では優れた平滑化が必要となってきている。
【0003】
これらの要求に対して、寸法安定性の高い2層銅張FPCが利用されつつある。2層銅張FPCの製造方法にはラミネート法、キャスティング法、めっき法があるが、高密度配線には銅箔とポリイミド樹脂フィルムの界面が最も平滑となるめっき法が適している。しかしながら、従来のめっき法は、前処理方法として、ポリイミド樹脂フィルム表面にプラズマ処理をし、スパッタリングによる金属化処理等を真空中で施した後、めっきを行なうものが一般的である。そのため、プラズマ処理や真空中での処理を行なうには装置が大がかりとなる。また、プラズマ処理、スパッタリング処理等乾式処理を行なった後、めっきによる湿式処理を行なうためにプロセスの連続化が困難であり、生産性が低く、プロセスコストが高くなるという問題がある。
【0004】
プロセスの連続化が困難であり、生産性が低く、プロセスコストが高くなるという問題を解決するために、ポリイミド樹脂フィルム表面を硫酸またはジアミンおよび水酸化第4アンモニウム水溶液でエッチング処理して親水性に変質させた後、パラジウム触媒を付与させた後、無電解めっきを行なうことでポリイミド樹脂フィルム表面を金属化する方法が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、無電解めっきの触媒として利用されるパラジウムはFPCのエッチングに使用される塩化第二鉄、塩化第二銅、硫酸−過酸化水素、過硫酸アンモニウム等のエッチング液で完全に溶解されないため、配線回路パターン形成後の銅を溶解したポリイミド樹脂フィルム表面に金属パラジウムが残留することになる。そのため、配線密度が高くなると配線間に電位が加わりかつ吸湿すると金属のマイグレーションの発生や絶縁抵抗の低下が生じるという大きな問題が発生する。また、無電解めっきによる端子めっきやボンディングパッドのめっき等を行なうときに、金属パラジウムが残留していると不要な部分へのめっき析出が生じるという不具合があった。
従来湿式めっきによるポリイミド樹脂フィルム表面の金属化方法の開示が多数なされている(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。しかしながら、いずれも無電解めっきの触媒としてパラジウムを使用しており特許文献1と同様の問題がある。
【0005】
パラジウムを使用しない方法として、ポリイミド樹脂フィルムを水酸化カリウム溶液で処理してカルボキシル基を生成した後、銅イオンをイオン交換反応で吸着させ、水素雰囲気中で熱処理することにより吸着した銅イオンを還元し、樹脂フィルム表面部に銅微粒子を形成してこれをアンカーとして微細配線への密着性を確保しようとする方法が知られている(非特許文献1)。
しかしながら、この方法はプラズマ処理やスパッタリングをしないですむものの、水素雰囲気中で加熱処理を行なうため工程の危険性が高いことや湿式処理から乾式処理へと移るため工程の連続化が難しいことなどから生産性に劣るという問題がある。また、アンカー形成のためポリイミド樹脂フィルムを厚さ方向に深く改質するため、金属アンカーが厚くなる。そのために選択エッチングで必要な配線回路パターンを形成した場合、露出したポリイミド部分の内層の金属が完全に除去されず、絶縁抵抗の劣化やマイグレーションを促進をしてしまうという問題がある。
【0006】
パラジウムを使用しない他の方法として、ポリイミド樹脂を仮硬化させて水酸化カリウムで処理してイミド環の開裂に伴うカルボキシル基に銅(II)イオンを吸着させ、水素化ホウ素ナトリウム水溶液で還元して銅を金属化させた後、電気銅めっきを行ない、その後、260℃以上で20MPa以上の熱圧着を行なうことによりポリイミド樹脂フィルム表面を直接めっきにより金属化する方法が知られている(非特許文献2)。
しかしながら、ポリイミド樹脂フィルムの場合には硬化が進みすぎているので十分な銅が吸着しにくくポリイミドに対する銅の十分な接着力が得られないので銅(II)イオンを吸着・還元を何回も繰り返す必要がある。そのため、工程が煩雑になり量産性に劣る。また、電気銅めっき後の熱圧着に熱プレスや真空プレスが必要となり大がかりな装置が必要となるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平4−72070号公報
【特許文献2】特開平5−112873号公報
【特許文献3】特開平7−243085号公報
【特許文献4】特開平7−286277号公報
【特許文献5】特開平8−167770号公報
【特許文献6】特開平12−286559号公報
【非特許文献1】池田慎吾等、微細配線に対応する銅ナノ粒子分散ポリイミド樹脂の作製、エレクトロニクス実装学会第11回マイクロエレクトロニクスシンポジウム、2001年10月18日
【非特許文献2】池田慎吾等、ポリイミド樹脂の表面改質および熱圧着を利用する銅のDirect Metallization、エレクトロニクス実装学会誌、p603−606、第4巻第7号(2001年11月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の技術のようにプラズマ処理、スパッタリング処理、水素化雰囲気中の熱処理等の乾式処理を減らし湿式処理主体のプロセスにより、連続処理化が容易で、生産性が高く、かつ絶縁抵抗の劣化やマイグレーションを促進することなく、ポリイミド樹脂フィルムと金属との境界面の平滑性および密着性を確保できる無電解めっき前処理方法および表面金属化方法、並びにFPCおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理方法は、ポリイミド樹脂材の表面をアルカリ性水溶液で処理する工程と、ニッケル、コバルトおよび銀からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液で処理する工程と、上記金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
上記前処理方法において、金属イオンを含む水溶液で処理する工程は、該水溶液で処理後に純水を用いて水洗する工程を含み、金属イオンを含む水溶液で処理するときの処理水温度が20℃以下であり、水洗するときの処理水温度が10℃以下であり、また、還元剤を含む水溶液で処理する工程は、該水溶液で処理後に純水を用いて水洗する工程を含み、還元剤を含む水溶液で処理するときの処理水温度が20℃以上であり、水洗するときの処理水温度が10℃以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るポリイミド樹脂材の表面金属化方法は、ポリイミド樹脂材の表面を前処理する工程と、この前処理に引続いて無電解めっきをする工程とを含むポリイミド樹脂材の表面金属化方法であって、上記前処理する工程が本発明に係る無電解めっき前処理方法であることを特徴とする。
また、上記無電解めっきをする工程が無電解ニッケルめっきまたは無電解銅めっきをする工程であることを特徴とする。
また、上記無電解めっきをする工程が無電解ニッケルめっきまたは無電解銅めっきをする工程と、次に塩化パラジウム水溶液で処理する工程と、再度無電解ニッケルめっきまたは無電解銅めっきをする工程であることを特徴とする。
本発明に係るポリイミド樹脂材の表面金属化方法は、更に上記無電解めっきをする工程後に電気金属めっきをする工程と、150〜350℃で熱処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るFPCの製造方法は、ポリイミド樹脂フィルムの表面をアルカリ性水溶液で処理する工程と、ニッケル、コバルトおよび銀からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液で処理する工程と、上記金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理する工程と、無電解めっきをする工程と、電気銅めっきをする工程と、150〜350℃で熱処理する工程と、選択エッチングにより不要な金属層を溶解して配線回路パターンを形成する工程とを含むことを特徴とする。
本発明に係るポリイミド樹脂フィルムを基材とするFPCは、エッチング処理後のポリイミド樹脂フィルム表面に金属パラジウムを含まないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理方法は、アルカリ性水溶液で処理する工程と、ニッケル、コバルトおよび銀からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液で処理する工程と、上記金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理する工程とを含むので、パラジウムを使わないで湿式処理だけで無電解めっきの前処理ができる。
特に処理水温および洗浄純水の処理温度を所定の範囲内とすることにより、めっき析出性の安定化、ピール強度の確保ができる。
本発明に係るポリイミド樹脂材の表面金属化方法は、上記方法を用いて前処理した後、無電解ニッケルめっきまたは無電解銅めっきにより無電解めっきを行なうのでパラジウムを使わず、しかも簡単なプロセスでポリイミド樹脂材上に金属膜を形成できる。また、該無電解めっき後に塩化パラジウム水溶液で処理工程を加えることで、ポリイミド樹脂基材に対して密着性に優れた金属膜を形成できる。これら無電解めっき後に電気金属めっきをする工程と、150〜350℃で熱処理する工程とを含むので、フィルムと金属層との密着性に優れ、接着界面が平滑なポリイミド樹脂フィルムの表面金属化方法が得られる。
本発明に係るFPCの製造方法は、上記ポリイミド樹脂材の表面金属化方法により得られるので、スルーホールめっきおよび両面同時めっきを連続的に製造できる。その結果、連続処理化が容易で生産性が高い。
また得られるFPCは、選択エッチング後のパラジウム残差による影響を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用できるポリイミド樹脂材は、式(1)で表される繰返し単位を有する樹脂の成形体、シートまたはフィルムである。式(1)で表される繰返し単位を有するポリイミド樹脂は、FPCの製造および使用に耐える芳香族ポリイミド樹脂であることが好ましい。
芳香族ポリイミド樹脂は、式(1)において、R1が芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の残基であり、R2が芳香族ジアミンまたはその誘導体の残基である。そのようなR1またはR2としては、フェニル基、ナフチル基、ジフェニル基、およびこれらがメチレン基、エーテル基、カルボニル基、スルホン基等の連結基で連結されている芳香族基由来の基が挙げられる。R1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。
芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の例としては、ピロメリット酸二無水物、2,2´,3,3´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。
芳香族ジアミンまたはその誘導体の例としては、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類または該アミン誘導体の芳香族ジイソシアネート類が挙げられる。
【0015】
【化1】

式(1)で表される繰返し単位を有するポリイミド樹脂はアルカリ性水溶液で処理すると、式(2)で表されるように、表面の一部が加水分解を受けてイミド環の一部が開裂し、アミド結合とカルボキシル基が生成する。生成したアミド結合は金属イオンと配位結合し錯体を形成しやすく、カルボキシル基はカチオンイオン交換をしやすいので金属イオンを吸着させることができる。
【0016】
アルカリ性水溶液としては、強アルカリ性水溶液が好ましく、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の水溶液が挙げられる。
アルカリ性水溶液によるポリイミド樹脂材の表面改質処理は、その水溶液濃度、処理温度、処理時間に依存する。アルカリ性水溶液濃度が高く、処理温度が長く、処理時間が長くなるにつれてポリイミド樹脂材の表面改質が進み、その結果、その後のめっき面が鏡面から光沢面、さらには無光沢面へと変化する。すなわち、表面改質が進むと表面粗さが大きくなり、界面の平滑性が損なわれる。
アルカリ性水溶液の濃度としては、例えば水酸化カリウムの濃度として、0.5〜5mol/l、好ましくは0.5〜2mol/lの範囲でポリイミドの表面改質に利用できる。0.5mol/l未満では表面の加水分解が十分に進まず、5mol/lをこえると、ポリイミドの表面から内部まで加水分解が進むため、平滑性の低下とともに、錯体の形成やカチオンイオン交換で吸着し、その後の還元で生成した金属微粒子が内部にまで形成される。なお、ポリイミド樹脂フィルムをFPCとして用いる場合には、0.5〜2mol/lの範囲が特に好ましい。2mol/lをこえるとポリイミド樹脂フィルムの厚さ方向への改質がすすみ、金属が厚さ方向に残りやすくなり、配線回路パターンをエッチングして形成する時に足残りとして金属微粒子が残留することになる。そのため、FPCとしたときに、絶縁抵抗の低下、金属マイグレーションが発生しやすくなるという問題が生じる。
アルカリ性水溶液の処理温度としては、35〜45℃の範囲が好ましく、処理時間としては、5〜20分が好ましい。この範囲内であると、上記アルカリ性水溶液の濃度範囲、例えば0.5〜2mol/lの範囲で密着性に優れ、絶縁抵抗の低下、金属マイグレーションが発生しないFPCが得られる。
具体的に、5mol/lの水酸化カリウム濃度を用いて、50℃にて5分間処理するとポリイミド樹脂フィルムの厚さ方向1.5〜2μm程度まで後述する還元処理で金属微粒子が入り込んだ。一方、1mol/lの水酸化カリウム濃度を用いて、45℃にて10分間処理するとポリイミド樹脂フィルムの表面粗さ(Ra)は10〜30nmであるが厚さ方向の金属微粒子は観察されなかった。
【0017】
アルカリ性水溶液で処理した後は、過剰のアルカリ性水溶液を除去するために水洗する。使用できる水としては、不要なイオンの少ない蒸留水あるいはイオン交換水などの純水が好ましく、また、洗浄はアルカリ性水溶液を十分に除去するために、複数回に亘って行なう。
なお、次工程でポリイミド樹脂材表面に金属イオンを吸着させる前に、室温にて1〜5重量%の過酸化水素水溶液で処理すると、表面に残留するカリウムイオンを完全に除去し、ニッケルイオン等の吸着性を向上できる。
【0018】
アルカリ性水溶液処理および水洗した後、または更に過酸化水素水で処理した後、ニッケルイオン含む水溶液、コバルトイオン含む水溶液、銀イオン含む水溶液、ニッケルおよびコバルトイオン含む水溶液、コバルトおよび銀イオン含む水溶液、銀およびニッケルイオン含む水溶液、または、ニッケル、コバルトおよび銀イオンの全てを含む水溶液で処理する。
これらの金属イオンに限定した理由を以下に述べる。吸着させる金属イオンは金属塩溶液に浸漬させるだけで処理できるので、水溶液中でイオン化する金属は使用できる。ポリイミド樹脂材表面に吸着した金属イオンは、後述する水素化ホウ素系の水溶液で処理すると発生する活性水素により還元され、目視で金属の付着が判断できる。銅も吸着するが吸着量が少ないため、一回の処理では吸着量が少なくポリイミド全体が銅で被覆されにくい。そのため析出粒径の大きな無電解銅めっき、電気銅めっき等を行なった後のポリイミド樹脂と銅との密着強度が不十分となる。十分な密着強度が得られる金属イオンについて研究した結果、上記ニッケルイオン、コバルトイオン、銀イオンの単独あるいは混合物であれば、ポリイミド樹脂と金属との密着強度が十分であることが分かった。
【0019】
これら3つの金属の中で、銀はプリント配線板に使用するとマイグレーションが発生しやすいのでマイグレーション防止対策を講じる必要があることから、FPCへの利用はニッケル、コバルトが好ましい。
処理液濃度は、金属塩濃度として、0.05〜0.5mol/lが好ましい。処理液温度は0〜20℃で数分間浸漬させればよい。好ましくは5〜10℃の温度がよい。実験の結果、金属塩溶液の温度が低いほど吸着量が多くなる傾向が見られた。このため、金属イオンの吸着は化学吸着ではなく物理吸着と考えられる。
塩としては、イオン化しやすい無機塩が好ましく、具体的には、硫酸塩、塩化物、硝酸塩が挙げられる。但し、銀は硝酸塩が好ましい。
【0020】
金属イオンを含む水溶液で処理後水洗する。この水洗は、吸着した金属イオンを流出させないため、蒸留水またはイオン交換水などの純水の使用が好ましく、しかも冷水で行なう。ここで冷水とは20℃以下のことをいい、好ましくは10℃以下である。水洗温度が20℃をこえると吸着した金属イオンが流出しやすいからである。ここでも、イオンは物理吸着と考えられるので水洗温度は低いほど吸着量が多くなる。
【0021】
表面に吸着した金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理することにより、該金属イオンを湿式で金属粒子に還元する。
還元剤としては、水溶液で活性水素を発生しやすい水素化化合物が好ましい。水素化化合物としては、水素化ホウ素系の水素化ホウ素酸、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ナトリウム等が好ましい。これらの水素化ホウ素系還元剤は、水溶液中で自然分解しやすいが、他の還元剤に比べて、比較的安定なためである。
還元剤の濃度は、例えば水素化ホウ素カリウムであれば0.1〜5g/lで液の安定性を得るためPH8〜12のアルカリ溶液とすることが好ましい。
還元反応温度は、20〜40℃に維持することが好ましい。20℃未満では、めっき析出にムラが生じやすく、均一な金属化が困難となる。また、40℃をこえると水素化化合物が分解しやすく、還元能力の低下が速くなり、液管理が難しくなるので好ましくない。還元反応は、目視で金属層の生成が確認できる条件で行なう。
【0022】
水素化化合物による還元処理後水洗する。この水洗も金属イオン処理後の水洗と同様に20℃以下、好ましくは10℃以下の冷水で行なう。この水洗処理により、ポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理が終了する。
無電解めっき前処理が終了した後、上記還元処理により生成した金属粒子表面には活性水素が存在している。この活性水素は、次工程の無電解めっきの還元反応を開始させることができる。このため、無電解めっきが速やかに進行して金属層の厚みを増大させることができる。
【0023】
無電解めっき前処理終了後のポリイミド樹脂材は、水洗後の表面が乾燥しないうちに無電解めっき液に浸漬させる。乾燥させてしまうと水素活性が失活し、パラジウム等の触媒金属を付与させないと無電解めっきが難しくなるためである。
本発明で使用できる無電解めっきとしては、めっき析出粒子が数10nmと比較的小さいため密着強度が得やすいことから、無電解ニッケルめっきを利用することが好ましい。
【0024】
本発明は、上記のようにポリイミド樹脂に接する最初の無電解めっきのための触媒としてパラジウムを使用せず、ポリイミド樹脂に吸着した金属イオンを還元した活性状態の金属を利用して無電解めっきの開始反応を引き起こすものである。無電解めっきは自触媒作用のものを使用すれば、金属表面でめっき反応が開始すると、後は自触媒反応によりめっき金属が引き続き析出するのでめっき金属層の堆積が可能になる。
無電解めっき液としては、還元性金属イオン、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤、PH緩衝剤などを含有する公知の無電解ニッケルめっきまたは無電解銅めっきを使用することができる。
また、無電解めっきの温度条件としては、20〜40℃である。低温で無電解めっきすることにより、ポリイミド樹脂材とめっき層が熱収縮の相違による密着性低下を防ぐことができる。
【0025】
ポリイミド樹脂材表面に無電解ニッケルめっきを金属光沢の呈する程度まで施す場合、ニッケルめっき厚さは数10〜100nmの厚さが好ましい。すなわち、ニッケルめっき粒子1〜数層析出させればよい。上記無電解ニッケルめっきまたは銅めっきを施した後、電気銅めっきすることでポリイミド樹脂材の表面に金属化処理ができる。
本発明においては、上記無電解ニッケルめっきを薄く施した後、次に塩化パラジウム水溶液で処理することにより、無電解ニッケルめっきの析出性が著しく改善され、密着性が向上する。0.05〜0.5g/l程度の塩化パラジウムの0.1規定塩酸溶液に室温(25℃)で30〜60秒程度浸漬することにより上記効果が得られることを本発明者等は見出した。密着性が向上する理論は明確でないが、ニッケル微粒子で全面薄く被覆させた後、パラジウムがニッケル粒子のピンホールを補強するのではないかと考えられる。ごく一部はポリイミド樹脂表面と接触するパラジウムが存在すると考えられるが、最終的に電気銅めっきやその下層の無電解ニッケルめっきをエッチングすると無電解ニッケルめっき上のほとんどのパラジウムが除去され、ポリイミド樹脂表面に残留するパラジウムの量は表面分析でも検出できない程度で極めて少なく、絶縁劣化に影響を与えることはほとんどない。
【0026】
本発明に係るポリイミド樹脂材の表面金属化方法において、無電解めっき工程後に施される電気金属めっき工程は、電気銅めっきが好ましく、電気銅めっきとしては公知の電気銅めっき浴が使用できる。例えば、シアン化銅浴、ピロリン酸銅浴、硼フッ化銅浴または硫酸浴が使用できる。これらの中でFPC用としては、スルーホール用めっき浴として均一電着性に優れた各種添加物が配合された硫酸めっき浴が好ましい。
本発明においては、電気銅めっき工程後、150〜350℃で熱処理することが好ましい。熱処理することにより、ポリイミド樹脂材中の吸湿した水分を除去し、かつポリイミド樹脂材を改質することによりめっき金属の密着強度を向上できる。
【0027】
本発明に係るFPCの製造方法は、上記表面金属化方法でポリイミド樹脂フィルム表面に金属銅層を形成し、選択エッチングにより不要な金属銅層を溶解して配線回路パターンを形成する工程からなる。配線回路パターンを形成する方法は、公知の方法を採用できる。
また、必要に応じて、配線回路パターンを形成後150〜350℃で熱処理をすることができる。
【0028】
本発明に係るFPCは、ポリイミド層の表層のみ改質して金属化して、エッチング工程で完全にその金属が除去できるので足残りがなく、絶縁信頼性の高いFPCが得られる。
【実施例】
【0029】
実施例1
ポリイミド樹脂フィルム(デュポン社商品名:カプトン200−H)を50℃の5mol/lの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬処理した後、純水で十分に水洗した。
次いで、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硝酸銀の各0.05mol/l水溶液を準備し、この水溶液に上記水酸化カリウム水溶液で処理したポリイミド樹脂フィルムをそれぞれ20℃で1分間浸漬し、純水(10℃)で水洗した。
次いで、各フィルムを1g/l水素化ホウ素カリウム水溶液(20℃)にそれぞれ3分浸漬し、純水(10℃)で水洗した後、直ちに下記の無電解ニッケルめっきを5分間施した。その結果、ポリイミド樹脂フィルム全面をニッケルで金属化できた。
無電解ニッケルめっき浴組成とめっき条件
浴組成:硫酸ニッケル 0.1mol/l
硫酸コバルト 0.0015mol/l
次亜リン酸ナトリウム 0.2mol/l
クエン酸ナトリウム 0.05mol/l
アンモニア水 0.25mol/l
安定剤 少量
めっき条件:液温 35℃
PH 9.0〜9.5
【0030】
比較例1
実施例1の金属塩水溶液を、硫酸亜鉛、塩化鉄、塩化マンガン、塩化マグネシウム、硝酸インジウム、塩化パラジウム、硫酸銅の0.05mol/l水溶液に代える以外は、実施例1と同一の条件で無電解めっき前処理を行ない、実施例1と同一の条件で無電解ニッケルめっきを5分間施した。その結果、全て金属化できず、ポリイミド樹脂フィルムのままであった。
【0031】
実施例2
ポリイミド樹脂フィルム(デュポン社商品名:カプトン200−H)を40℃の1mol/lの水酸化カリウム水溶液に12分浸漬処理した後、純水で十分に水洗した。
次いで、20℃の0.05mol/l硫酸ニッケル水溶液を準備し、この水溶液に上記水酸化カリウム水溶液で処理したポリイミド樹脂フィルムを3分間浸漬し、10℃の純水で水洗した。
次いで、20℃の1g/l水素化ホウ素カリウム水溶液に浸漬してニッケルイオンを還元させて金属化し、10℃の純水で十分に洗浄し、実施例1に示す無電解ニッケルめっき処理を5分間行なった。引き続き、下記組成および条件の電気銅めっきを行ない35μmの銅をめっきした。200℃30分間の熱処理を行なってポリイミド樹脂フィルムの表面金属化を行ない、FPC用基材を得た。この基材のポリイミド樹脂フィルムと金属層とのピール強度(JIS C 5017、90度方向引きはがし方法)を測定した結果、0.8KN/mであった。
電気銅めっき組成と条件
浴組成:硫酸(濃度 重量%) 190g/l
硫酸銅5水和物 75g/l
塩素イオン 50mg/l
カパーグリームST‐901AM 2ml/l
カパーグリームST‐901BM 20ml/l
(カパーグリームは日本リーロナール社製)
めっき条件:浴温 23℃
電流密度 2A/dm2
【0032】
実施例3
硫酸ニッケル水溶液に浸漬した後、純水水洗の温度を15℃に代える以外は実施例2と同一の条件で無電解ニッケルめっきおよび電気銅めっきを行なってFPC用基材を得た。実施例2と同一の条件でピール強度を測定した結果、0.7KN/mであった。
【0033】
実施例4
硫酸ニッケル水溶液に浸漬した後、純水水洗の温度を20℃に代える以外は実施例2と同一の条件で無電解ニッケルめっきおよび電気銅めっきを行なってFPC用基材を得た。実施例2と同一の条件でピール強度を測定した結果、0.5KN/mであった。
【0034】
比較例2
硫酸ニッケル水溶液に浸漬した後、純水水洗の温度を30℃に代える以外は実施例2と同一の条件で無電解ニッケルめっきを行なったが無電解ニッケルめっきができず、金属層が生成しなかった。
【0035】
実施例5
ポリイミド樹脂フィルム(デュポン社商品名:カプトン200−H)を40℃の1mol/lの水酸化カリウム水溶液に12分間浸漬処理した後、純水で十分に水洗した。20℃の0.05mol/lの硫酸ニッケル水溶液に3分間浸漬した後、10℃の純水で十分に洗浄し、20℃の1g/l水素化ホウ素カリウム水溶液に浸漬して、ニッケルイオンを還元させて金属化し、10℃の純水で十分に洗浄した。実施例1に示す浴組成および条件の無電解ニッケルめっき処理を1分間行なった後、水洗し、0.5g/lの塩化パラジウム液に30秒間浸漬し、水洗後再び無電解ニッケルめっきを4分間行なった。引き続き、実施例2に示す浴組成および条件の電気銅めっきを行ない35μmの銅をめっきした。200℃30分間の熱処理を行なった後、実施例2同一の条件でピール強度を測定した結果、1.0KN/mであった。この結果、塩化パラジウム処理を施すと、無電解ニッケルめっきの均一析出性が良好であることが観察された。
【0036】
実施例6
ポリイミド樹脂フィルム(デュポン社商品名:カプトン200−H)を40℃の1mol/lの水酸化カリウム水溶液に12分浸漬処理した後、純水で十分に水洗した。次いで、10℃、15℃、20℃、25℃の0.05mol/lの硫酸ニッケル水溶液にそれぞれ3分浸漬後、10℃の純水で十分に洗浄し、10℃、20℃、30℃、40℃の1g/lの水素化ホウ素カリウム水溶液にそれぞれ浸漬して、ニッケルイオンを還元させて金属化し、10℃の純水で十分に洗浄し、実施例1に示す浴組成および条件の無電解ニッケルめっき処理を5分間行なった。引き続き、実施例2に示す浴組成および条件の電気銅めっきを行ない35μmの銅をめっきした。200℃30分の熱処理を行なった後、実施例2と同一の条件でピール強度を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

表1に示すように、水素化ホウ素カリウム水溶液の液温は20〜40℃で優れためっき析出性がみられた。
また、表1に示すピール強度が測定できた試料は、めっき面がすべて鏡面を呈した。めっき面が鏡面を呈したことは、めっき表面に光の波長よりも大きな凹凸がないことを示しており、めっき界面が平滑性に優れていることがわかった。
【0038】
実施例7
ポリイミド樹脂フィルム(東レ社商品名:カプトン200−H)の必要な部分に穴加工を施して貫通穴を設けた。次に45℃の1mol/lの水酸化カリウム水溶液に12分間浸漬処理した後、純水で十分に水洗し、1重量%の過酸化水素水に3分間浸漬し、純水で水洗した。次いで、20℃の0.05mol/lの硫酸ニッケル水溶液に3分間浸漬した後、10℃の純水で十分に洗浄し、常温の1g/lの水素化ホウ素カリウム水溶液に浸漬して、ニッケルイオンを還元させて金属化し、10℃の純水で十分に洗浄し、実施例1に示す組成および条件の無電解ニッケルめっき処理を1分間行なった後、水洗し、0.5g/lの塩化パラジウム水溶液に30秒間浸漬し、水洗後再び無電解ニッケルめっきを4分間行なった。これにより、ポリイミド樹脂フィルムの両面および貫通穴全面にニッケル薄膜が形成できた。次に、180℃で30分間の加熱処理を行ない、ポリイミド樹脂フィルム中およびニッケル薄膜中の水分およびガスを除去した。引き続き、実施例2に示す組成および条件の電気銅めっきを行ない35μmの銅をめっきした。200℃30分間の熱処理を行なってFPC用基材を得た。
【0039】
上記FPC用基材を用いて、IPC‐B25の櫛形テストパターンを作成し、130℃、85%RH、印加電圧50ボルトでHAST試験を2000時間行なったが銅マイグレーションの発生はなかった。また、別の櫛形テストパターンの電極部分に無電解ニッケルめっきおよび端子やランド部分への無電解金めっきを施したが、不要な部分へのめっき析出はなかった。これは、本発明方法では金属パラジウムがポリイミド樹脂フィルム上に直接形成されていないためにエッチングでニッケルと共に除去されるからである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、従来のように無電解めっきの触媒としてパラジウムを使わず、しかも簡単なプロセスでポリイミド上に金属膜を形成できるので、選択エッチング後のパラジウム残差による影響を防止可能であり、接着界面が平滑であり高速伝送に適したポリイミド樹脂材の金属化が可能となる。
また、ポリイミド樹脂材と配線回路となる金属との密着性が高いFPCの製造方法とし、スルーホールめっきおよび両面同時めっきを連続的に製造が可能となる湿式処理工程により提供できることから工業上の利用価値が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂材の表面をアルカリ性水溶液で処理する工程と、ニッケル、コバルトおよび銀からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液で処理する工程と、前記金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理する工程とを含むことを特徴とするポリイミド樹脂材の無電解めっき前処理方法。
【請求項2】
前記金属イオンを含む水溶液で処理する工程は、該水溶液で処理後に純水を用いて水洗する工程を含み、前記金属イオンを含む水溶液で処理するときの処理水温度が20℃以下であり、前記水洗するときの処理水温度が10℃以下であり、
前記還元剤を含む水溶液で処理する工程は、該水溶液で処理後に純水を用いて水洗する工程を含み、前記還元剤を含む水溶液で処理するときの処理水温度が20℃以上であり、前記水洗するときの処理水温度が10℃以下であることを特徴とする請求項1記載の無電解めっき前処理方法。
【請求項3】
ポリイミド樹脂材の表面を前処理する工程と、この前処理に引続いて無電解めっきをする工程とを含むポリイミド樹脂材の表面金属化方法であって、
前記前処理する工程が請求項1または請求項2記載の無電解めっき前処理方法であることを特徴とするポリイミド樹脂材の表面金属化方法。
【請求項4】
前記無電解めっきをする工程は、無電解ニッケルめっきおよび無電解銅めっきから選ばれた少なくとも1つの無電解めっきをする工程であることを特徴とする請求項3記載のポリイミド樹脂材の表面金属化方法。
【請求項5】
前記無電解めっきする工程は、無電解ニッケルめっきおよび無電解銅めっきから選ばれた少なくとも1つの無電解めっきをする工程と、次に塩化パラジウム水溶液で処理する工程と、再度無電解ニッケルめっきおよび無電解銅めっきから選ばれた少なくとも1つの無電解めっきをする工程であることを特徴とする請求項3記載のポリイミド樹脂材の表面金属化方法。
【請求項6】
前記無電解めっきをする工程後に電気金属めっきをする工程と、150〜350℃で熱処理する工程とを含むことを特徴とする請求項4または請求項5記載のポリイミド樹脂材の表面金属化方法。
【請求項7】
ポリイミド樹脂フィルムの表面をアルカリ性水溶液で処理する工程と、ニッケル、コバルトおよび銀からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む水溶液で処理する工程と、前記金属イオンを還元できる還元剤を含む水溶液で処理する工程と、無電解めっきをする工程と、電気銅めっきをする工程と、150〜350℃で熱処理をする工程と、選択エッチングにより不要な金属層を溶解して配線回路パターンを形成する工程とを含むことを特徴とするフレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
ポリイミド樹脂フィルムを基材とするフレキシブルプリント配線板であって、エッチング処理後のポリイミド樹脂フィルム表面に金属パラジウムを含まないことを特徴とするフレキシブルプリント配線板。

【公開番号】特開2006−104504(P2006−104504A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289893(P2004−289893)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(302050721)
【出願人】(502199637)株式会社  ティー アンド ケー (9)
【Fターム(参考)】