説明

ポリイミド樹脂組成物

【課題】 耐熱性、電気絶縁性、透明性及び光学特性等の特性を有するポリイミド樹脂組成物、屈折率の制御可能なポリイミド樹脂組成物の提供。
【解決手段】 脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質から得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、反応させて得られるポリイミド樹脂組成物。前記脂環式炭化水素を含むポリイミド樹脂組成物は、(1)脂環式炭化水素ジアミンと脂肪族炭化水素テトラカルボン酸又は芳香族炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物、(2)脂肪族炭化水素ジアミン又は芳香族炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物、及び(3)脂環式炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分野に使用することができ、着色が少なく透明で耐熱性、電気絶縁性を有し、電子線照射により屈折率制御ができるポリイミド樹脂組成物、及びその前駆体ワニスに関するものである。
より詳細には、ポリイミド樹脂組成物の構成成分として脂肪族環状構造を含むポリイミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、
高透明性、優れた機械的性質を有し、低誘電率、低熱膨張係数、高ガラス転移温度であり、且つ十分な膜靭性を併せ持つ優れた高分子化合物として知られている。ポリイミドは1960年代の初めに航空宇宙産業用の材料として開発され、極低温から250℃から300℃までの広い温度範囲で物性変化が少なく、この点が評価された。その後、産業用機器、電気・電子分野への用途が開発されている。現在でもその特性の改良を目指して積極的に開発が進められている。
ポリイミドは分子構造上、着色する傾向がある。一般に汎用プラスチックは無色透明であることが要求されるので、汎用プラスチックとしてのポリイミドはその利用範囲が限定される。このことから、ポリイミドは構造材料や機能を補足する材料として用いられることが多い。ポリイミドは前記の通り、機械的特性などの諸特性の点で優れていることから、光学分野の利用が期待されているものの、本格的に利用される段階に至っていない。
【0003】
無色ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアルキレンジアミンを反応させて得られる(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。このようにして得られる芳香族ポリイミドは、低波長領域で光線透過率の著しく低下するとされている。このポリイミドの着色の問題を解決すべく、これまでに種々の透明性のポリイミドが開発されてきた(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6など)。
【0004】
又、透明ポリイミドに対して、電子線を照射することにより、屈折率を増加させることも公知である。具体的には、以下に記載のものが知られている(特許文献7、特許文献8)。しかし、この場合には構成する元素としてフッ素原子を含むフッ素含有ポリイミドあるため、製造工程は複雑となり、その材料自体は高価であり、焼却処分する際には有害なフッ素化合物を発生する恐れがあり、その点から将来問題視されることが考えられる。また、一般にポリイミド骨格中へのフッ素置換基を導入すると分子間相互作用が弱まり、低熱膨張化の要因であるイミド化時の自発的分子配向が妨害される傾向がある。更に過剰なフッ素化はコスト面でも不利である。例えば、フッ素化酸二無水物、2,2−ビス(3,4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物とフッ素化ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られる全フッ素化ポリイミド膜は前述のように極めて低誘電率を示すが、線熱膨張係数は64ppm/Kと非常に高く、低熱膨張特性を満足しない(非特許文献1参照)。
【0005】
近年、ポリイミド重合体に、透明性、光学特性[高屈折率、低色収差(高アッベ数)、低複屈折率]等の物性を付与する目的で、脂環式の骨格を有する化合物を導入する検討がなされている。例えば、脂環式の骨格としては、シクロヘキサン、ノルボルナン、テトラシクロドデカン等が知られている(特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16)。
【0006】
これらのポリイミド化合物について、機械的特性、耐熱性、電気絶縁性、透明性、及び光学特性などのポリイミドの特性を維持している透明ポリイミド樹脂組成物、更に屈折率を向上させるポリイミド樹脂組成物が求められている。
【0007】
【特許文献1】特許第2585552号明細書
【特許文献2】特許第2567375号明細書
【特許文献3】特開平8−225645号公報
【特許文献4】特許3702579号明細書
【特許文献5】特開2003−192787号公報
【特許文献6】特開2003−176354号公報
【特許文献7】特許第2759726号明細書
【特許文献8】特許第3327356号明細書
【特許文献9】特開2004−83532号公報
【特許文献10】特開2004―109311号公報
【特許文献11】特開2005−336244号公報
【特許文献12】特開2005−336246号公報
【特許文献13】特開2006−169534号公報
【特許文献14】特開2006−83209号公報
【特許文献15】特開2006−103289号公報
【特許文献16】特開2006−131510号公報
【非特許文献1】「High Performance Polymers」15巻,2003年,p.47−64。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐熱性、電気絶縁性及び透明性が優れ、また、光学特性が良好な物性を有し、高価なフッ素化合物を含まない構成成分からなるポリイミド樹脂組成物及び屈折率を制御することができるポリイミド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質から得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、反応させて製造するポリイミド樹脂組成物は、耐熱性、電気絶縁性及び透明性が優れ、また光学特性が良好であり、平面レンズ、光導波路やカラーフィルターなどの材料として用いることができるものであり、電子線を照射することにより、従来のポリイミドの優れた特性を残したままで、屈折率を変化向上させることができることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質から得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、反応させて製造することを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
(2)前記脂環式炭化水素を含むポリイミド樹脂組成物原料物質が、(1)脂環式炭化水素ジアミンと脂肪族炭化水素テトラカルボン酸又は芳香族炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物からなるもの、(2)脂肪族炭化水素ジアミン又は芳香族炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物からなるもの、及び(3)脂環式炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物からなるものから選ばれることを特徴とする(1)記載のポリイミド樹脂組成物。
(3)前記ポリイミド樹脂組成物が、脂環式炭化水素構造を含むポリイミド樹脂組成物原料物質を溶媒中に溶解させて得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、塗布、加熱反応を行なって得られるポリイミド樹脂フィルムであることを特徴とする(1)又は(2)記載のポリイミド樹脂組成物。
(4)前記ポリイミド樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムの厚さを25μmとした場合、黄色度35以下(「黄色度」はASTM#D1925に準拠する)であり、400nmでの光線透過率が75%以上であり、500nmでの光線透過率が80%以上であるポリイミドフィルムであることを特徴とする(1)から(3)いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
(5)前記ポリイミド樹脂フィルムの熱分解温度(Td)が400℃以上であることを特徴とする(1)から(4)いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
(6)前記ポリイミド樹脂フィルムの絶縁破壊電圧が200kV/mm以上である(1)から(5)いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
(7)前記ポリイミド樹脂組成物が電子線照射により屈折率を制御可能であることを特徴とする(1)から(6)いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、ポリイミドの構成成分として芳香族炭化水素などに替えて脂環式炭化水素化合物を導入したものであり、ポリイミド樹脂本来の優れた諸特性を保持したまま着色の少ない、一層透明なポリイミドフィルムを得ることを可能としたものである。該ポリイミドフィルムに電子線を照射した場合、脂環式炭化水素が存在するか、又は存在しないかにより、その屈折率の度合は大きく異なる。本発明のポリイミド樹脂組成物は脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物であり、電子線を照射することにより、屈折率を制御することができるポリイミド樹脂組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質から得られる脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド前駆体ワニス組成物を反応させて、ポリイミド樹脂組成物を製造する。
初めに、ポリイミド樹脂組成物原料物質を重合させることにより、ポリイミド前駆体ワニス組成物を得ることができる。
次に、閉環反応によりポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
ポリイミド前駆体ワニス組成物を反応させてポリイミド樹脂組成物を製造することは、脂環式炭化水素構造を含むポリイミド樹脂組成物原料物質を溶媒中に溶解させて得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、塗布、加熱してイミド化反応を完結させ、ポリイミド樹脂フィルムを製造することにより行う。
【0013】
前記脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質及びポリイミド前駆体ワニス組成物原料物質は以下の通りである。
(1)脂環式炭化水素ジアミンと脂肪族炭化水素テトラカルボン酸又は芳香族炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物の反応生成物を反応させて得られるもの、(2)脂肪族炭化水素ジアミン又は芳香族炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物の反応生成物を反応させて得られるもの、及び(3)脂環式炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物を反応させて得られるものである。
【0014】
(1)脂環式炭化水素ジアミン化合物と脂肪族系炭化水素又は芳香族系炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物の反応生成物を反応させて得られる場合について
(イ)脂環式炭化水素ジアミン化合物としては以下の通りである。
1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、2,3-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン。
(ロ)脂肪族系炭化水素又は芳香族系炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物は以下の通りである。
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル、エチレングリコ−ルビス(トリメリテート)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,4,5,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、若しくはその二無水物などが例示できる。
【0015】
(2)脂肪族系炭化水素又は芳香族系炭化水素ジアミン化合物と脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物の反応生成物を反応させて得られる場合について
(a)脂肪族系炭化水素又は芳香族系炭化水素ジアミン化合物は以下の通りである。
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,1-ジアミノブタン、1,2-ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,1−ジアミノペンタン、1,2−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、2,3−ジアミノペンタン、2,4−ジアミノペンタン、1,1−ジアミノヘキサン、1,2−ジアミノヘキサン、1,3−ジアミノヘキサン、1,4−ジアミノヘキサン、1,5−ジアミノヘキサン、1,6−ジアミノヘキサン、2,3−ジアミノヘキサン、2,4−ジアミノヘキサン、2,5−ジアミノヘキサン、1,1−ジアミノへプタン、1,2−ジアミノへプタン、1,3−ジアミノへプタン、1,4−ジアミノへプタン、1,5−ジアミノジアミノヘプタン、1,6-ジアミノへプタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,1−ジアミノオクタン、1,2−ジアミノオクタン、1,3−ジアミノオクタン、1,4−ジアミノオクタン、1,5-ジアミノオクタン、1,6-ジアミノオクタン、1,7-ジアミノオクタン、1,8-ジアミノオクタン、1,1-ジアミノノナン、1,2-ジアミノノナン、1,3-ジアミノノナン、1,4-ジアミノノナン、1,5-ジアミノノナン、1,6-ジアミノノナン、1,7-ジアミノノナン、1,8-ジアミノノナン、1,9-ジアミノノナン、1,1-ジアミノデカン、1,2-ジアミノデカン、1,3-ジアミノデカン、1,4-ジアミノデカン、1,5-ジアミノデカン、1,6-ジアミノデカン、1,7-ジアミノデカン、1,8-ジアミノデカン、1,9-ジアミノデカン、1,10-ジアミノデカン、
パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス(4-アミノジフェニル)プロパン、2,2',6,6'-テトラメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2',6,6'-テトラエチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテルなどが例示できる。
(b)脂環式炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物について
シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸若しくはその二無水物などが例示できる。
【0016】
(3)環状脂肪族ジアミン化合物と脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物の反応生成物を反応させて得られる場合について
(a)脂環式炭化水素ジアミン化合物については以下の通りである。
1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、2,3-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7-ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3-ビス(アミノメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなど。
(b)脂環式炭化水素テトラカルボン酸もしくはその二無水物については以下の通りである。
シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸もしくはその二無水物等などが例示できる。
【0017】
本発明のポリイミド前駆体ワニス組成物を製造するに際しては、脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質の酸無水物成分とジアミン成分とを有機溶媒中で重合させることにより得ることができる。これについては、例えば、特公昭47−25476号公報、特公昭52−30319号公報などに記載された公知の方法によって製造される。具体的には、以下の通りである。
ポリイミド樹脂前駆体であるワニスを合成する場合には、前記テトラカルボン酸又は二無水物とジアミン成分とを有機溶媒中で、通常−20〜100℃、好ましくは−10〜80℃の温度条件下で反応させる。
【0018】
上記有機溶媒は、生成するポリイミド前駆体であるポリアミド酸を溶解しうるものであれば特に限定されない。具体的には、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非極性溶媒を挙げることができる。
これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。これらの有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸類とジアミン類との合計の量が、溶媒を含めた全体量に対して1〜50重量%になるような量であることが好ましい。溶剤の使用量は、合成されるポリアミド酸ワニス溶液の粘度等を考慮して適宜その量を用いる。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリイミド樹脂前駆体ワニスを脱水閉環してポリイミド化する際の触媒となる化合物を使用することができる。触媒となる化合物としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環式第3級アミンなどが挙げられるが、触媒の選択や、その使用の有無に関しては、特に限定されるものではない。
【0020】
また、ポリイミド樹脂前駆体ワニスには、必要に応じてシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等のような無機フィラーや、粘度調整剤、安定剤、各種カップリング剤、消泡剤などを添加しても構わないが、これら各種添加物の混合については任意であり、特に限定されるものではない。また、上記添加物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができるが、本発明の効果を損なわない範囲の添加量でなければならない。
【0021】
ポリイミド樹脂前駆体ワニスを、公知の方法により、塗布・乾燥させる。
その結果、イミド化反応を完結させ、ポリイミドフィルムを得ることができる。ポリイミドフィルムを製膜する際の方法、条件等は特に限定されるものではないが、例えば、該ワニス組成物をドラム、エンドレスベルト、PETフィルムのようなキャリアフィルム上に、ロールコ−ター、スプレーコーター、カーテンコーター、ダイコーター等で塗布し、200℃以下1〜20分乾燥することにより自己支持性を中間体フィルムとした後、キャリアフィルムより該中間体フィルムを引き剥がす。更に該中間体フィルムの両端を固定し、100〜500℃程度の温度で反応させる方法等が挙げられる。反応温度が150℃を下回ると、フィルムのイミド化反応が不十分となり、500℃以上ではポリイミド分子鎖が熱分解を起こし、フィルムの強度が低下する等の問題が発生する。従って、通常は上記温度条件であるが、好ましくは150〜460℃の温度条件である。以上の様に形成されるフィルムは、その製膜工程中で、クリップ、ピンシート等で把持された状態で適宜に延伸されるが、通常延伸倍率は面倍率で0.8〜8%(延伸前の面積を基準)の範囲であるが、好ましくは0.9〜5%である。また、加熱・延伸して製膜した後には、徐冷することが有効であり、好ましくは、1〜10℃/分の速度で冷却されることにより、目的のフィルムは作製される。
【0022】
前記ポリイミド樹脂組成物のポリイミドフィルムの厚さを25μmとした場合、黄色度35以下(「黄色度」はASTM#D1925に準拠する)であり、400nmでの光線透過率が75%以上であり、500nmでの光線透過率が80%以上であるポリイミドフィルムを得ることができる。
前記ポリイミドフィルムの熱分解温度(Td)が400℃以上である。
前記ポリイミドフィルムの絶縁破壊電圧が200kV/mm以上である。
【0023】
前記ポリイミドフィルムは、電子線照射により屈折率を制御することができる。
具体的には以下の操作によりおこなうことができる。
電子線照射には通常の電子線照射装置を用いて行う。例えば、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン(DCHM)とピロメリット酸二無水物(PMDA)から得られポリイミドフィルムに対して電子線照射を行った結果を図示すると、図1の通りである。すなわち、この電子線照射により屈折率の範囲を変化させることができることがわかる。
実施例1で作製したポリイミドフィルム(電子線未照射)に10MGyの線量で電子線を照射した。このポリイミドフィルムのTEおよびTMモードにおける屈折率をm−line法で計測し、屈折率変化(Δn=Δn10Gy−Δn0Gy)を測定した。この結果より電子線照射により屈折率を変化させることができること、具体的にはその範囲であれば制御できることがわかる。
【0024】
以下、本発明を実施例で更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中の透明ポリイミド前駆体ワニス粘度はB型粘度計を使用し、25℃で測定した。
【実施例1】
【0025】
乾燥窒素で常時パージされる500ccのガラス製フラスコに、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)150mlを入れ、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン(DCHM)をDMAc中に供給して溶解させ、続いてピロメリット酸二無水物(PMDA)を順次供給し、温度上昇を抑制しながら撹拌した。添加後、室温でさらに約20時間撹拌させ、最終的にDCHMのモル数:PMDAのモル数=0.5:0.5である組成成分からなる粘度35000mPa・sのポリアミド酸濃度15重量%の透明ポリイミド前駆体ワニスを得た。このワニスを、未処理PETフィルムにキャストし、120℃のオーブン中で約10分加熱した後、得られた自己支性の薄膜をPETフィルムから剥離して金枠に固定し、200℃で約10分間、その後260℃で10分間加熱して、厚さ25μmの透明ポリイミドフィルムを得た。
【実施例2】
【0026】
実施例1のPMDAの代わりに、ビフェニル−3、4、3’、4 ’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA)を用い、粘度25000mPa・sのポリアミド酸濃度15重量%透明ポリイミド前駆体ワニスを得た。このワニスを実施例1と同様の方法により処理し、ポリイミドフィルムを得た。
【実施例3】
【0027】
実施例1のPMDAの代わりに3、3’、4、4 ’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)を用い、粘度3000mPa・sのポリアミド酸濃度15重量%透明ポリイミド前駆体ワニスを得た。このワニスを実施例1と同様の方法により処理し、ポリイミドフィルムを得た。
【0028】
比較例1
乾燥窒素で常時パージされる500ccのガラス製フラスコに、DMAc150mlを入れ、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4、4’−ODA)をDMAc中に供給して溶解させ、続いてピロメリット酸二無水物(PMDA)を順次供給し、室温で、約1時間撹拌する。最終的に4、4’−ODAのモル数:PMDAのモル数=0.5:0.5である組成成分からなる粘度50000mPa・sのポリアミド酸濃度15重量%の溶液を調整した。このポリアミド酸溶液を未処理PETフィルムにキャストし、120℃のオーブン中で約10分加熱後、得られた自己支性の薄膜をPETフィルムから剥離して金枠に固定し、200℃で約10分間、その後420℃で10分間加熱して、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
【0029】
〔試験方法〕
次に、本発明の透明ポリイミドフィルムの有効性を示すために評価を行い表1に結果を示した。なお、各物性値評価方法は以下の方法で評価した。
【0030】
〔ポリイミドフィルムの黄色度測定〕
ミノルタ社製分光測色計CM−2002で黄色度を測定した。
【0031】
〔ポリイミドフィルムの透過率測定〕
日本分光製のV−550型 紫外可視分光光度計で測定した。
【0032】
〔ポリイミドフィルムの5%熱分解温度測定〕
セイコー電子製熱分析装置TG/DTA6300を用いて、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
〔電子線照射試験〕
本発明の透明ポリイミドフィルムの有効性を示すために、以下の方法で電子線照射試験を行い、表2に結果を示した。
【実施例4】
【0035】
実施例1で作製したポリイミドフィルム(電子線未照射)に10MGyの線量で電子線を照射した。このポリイミドフィルムのTEおよびTMモードにおける屈折率をm−line法で計測し、屈折率変化(Δn=Δn10Gy−Δn0Gy)を測定した。
【実施例5】
【0036】
実施例1のPMDAの代わりにシクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)を用い、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを作製し、実施例4と同様の条件で電子線を照射し、屈折率を測定した。
【実施例6】
【0037】
実施例5のDCHMの代わりにジアミノジフェニルメタン(DPM)を用い、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを作製し、実施例4と同様の条件で電子線を照射し、屈折率を測定した。
【0038】
比較例2
比較例1で作製したポリイミドフィルム(電子線未照射)に、実施例4と同様の条件で電子線を照射し、屈折率を測定した。
【0039】
比較例3
比較例1のODAの代わりにDPMを用い、比較例1と同様の方法でポリイミドフィルムを作製し、実施例4と同様の条件で電子線を照射し、屈折率を測定した。
【0040】
【表2】

【実施例7】
【0041】
実施例1で作製したポリイミドフィルムに電子線を照射し、実施例4と同様に、ポリイミドフィルムのTEおよびTMモードにおける屈折率をm−line法で測定し、結果を図1に示した。
【0042】
表1、表2、図1から明らかなように、本発明の脂環族環状構造を含む透明ポリイミド樹脂組成物はポリイミド樹脂本来の優れた諸特性を保持したまま、着色が少なく透明性を有し、電子線照射によりポリイミドの屈折率を変化させることが可能である。また電子線のエネルギーを選択することにより屈折率分布も持たせることが可能であり、平面レンズ、光導波路やカラーフィルターをはじめとする各種材料用途への適応が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ポリイミドフィルムのTEおよびTMモードにおける屈折率をm−line法で測定した結果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式炭化水素化合物を含むポリイミド樹脂組成物原料物質から得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、反応させて製造することを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂環式炭化水素を含むポリイミド樹脂組成物原料物質が、(1)脂環式炭化水素ジアミンと脂肪族炭化水素テトラカルボン酸又は芳香族炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物からなるもの、(2)脂肪族炭化水素ジアミン又は芳香族炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸又はその二無水物からなるもの、及び(3)脂環式炭化水素ジアミンと脂環式炭化水素テトラカルボン酸若しくはその二無水物からなるものから選ばれることを特徴とする請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂組成物が、脂環式炭化水素構造を含むポリイミド樹脂組成物原料物質を溶媒中に溶解させて得られるポリイミド前駆体ワニス組成物を、塗布、加熱反応を行なって得られるポリイミド樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムの厚さを25μmとした場合、黄色度35以下(「黄色度」はASTM#D1925に準拠する)であり、400nmでの光線透過率が75%以上であり、500nmでの光線透過率が80%以上であるポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1から3いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂フィルムの熱分解温度(Td)が400℃以上であることを特徴とする請求項1から4いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂フィルムの絶縁破壊電圧が200kV/mm以上である請求項1から5いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリイミド樹脂組成物が電子線照射により屈折率を制御可能であることを特徴とする請求項1から6いずれか記載のポリイミド樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−120869(P2008−120869A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303852(P2006−303852)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000145079)株式会社寺岡製作所 (23)
【Fターム(参考)】