説明

ポリイミド樹脂組成物

【課題】無色透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスに優れたポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムを提供すること。
【解決手段】ポリイミド(A)と、
有機化層状珪酸塩(B)と、
を含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド(A)中に前記有機化層状珪酸塩(B)が分散し、前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を20重量部を超えて250重量部以下含む、ポリイミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス基板に変わりプラスチックフィルムを基板とした各種フレキシブルデバイスの研究が盛んに行われている。例えば、フレキシブル有機ELディスプレイ、フィルム型太陽電池、電子ペーパー等が挙げられる。これらのプラスチックフィルムには、デバイスの製造プロセス上、高度な耐熱性と透明性、寸法安定性が求められている。
【0003】
機械的強度の向上、熱膨張率の低下、ガスバリア性の向上等を目的として、各種有機樹脂と無機層状化合物との複合化が盛んに研究されており、ポリイミドについても多くの報告がある。
特許文献1には、有機オニウムイオンで有機化された層状粘土鉱物とポリイミドからなるポリイミド複合材料及びその製造方法が開示されている。
特許文献2には、有機オニウムイオンによりイオン交換能対比50〜100%イオン交換され、比表面積が特定範囲に調整された層状珪酸塩が開示されている。
特許文献3には、樹脂に層状珪酸塩を添加することにより、寸法安定性を向上させる技術が開示されている。
特許文献4には、有機化層状珪酸塩の有機化処理を工夫することにより、その分散性を向上させ、有機化層状珪酸塩を配合した場合でも良好な光学特性を有するフィルムを得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−33955号公報
【特許文献2】国際公開2005/028366号パンフレット
【特許文献3】特開2000−7912号公報
【特許文献4】特開2006−37079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に開示されたポリイミド系複合材料又はフィルムは、透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスの観点から、未だ改良の余地がある。
また、層状珪酸塩を無色透明なポリイミドに多量に添加すると、寸法安定性は向上するが、層状珪酸塩同士の凝集が起こり易くなり、透明性が悪化するという問題がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスに優れたポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムを提供することを目的とする。
さらには、優れた寸法安定性と透明性を両立するポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミドと、有機化層状珪酸塩、を含むポリイミド樹脂組成物であって、前記ポリイミド(A)中に前記有機化層状珪酸塩(B)を分散させ、さらに、前記ポリイミド(A)対する前記有機化層状珪酸塩(B)の含有量を特定範囲に調整することにより、透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスに優れたポリイミド樹脂組成物、及びポリイミド系複合フィルムが得られることを見出した。
また、有機化層状珪酸塩をシランカップリング剤で処理することにより、樹脂中に有機層状珪酸塩を多量に配合した場合でも層状珪酸塩同士の凝集を抑制することができることを発見し、その結果、優れた寸法安定性と透明性を両立するポリイミド樹脂組成物、及びポリイミド系複合フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]
ポリイミド(A)と、
有機化層状珪酸塩(B)と、
を含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド(A)中に前記有機化層状珪酸塩(B)が分散し、前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を20重量部を超えて250重量部以下含む、ポリイミド樹脂組成物。
[2]
前記ポリイミド(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とからなる共重合体であり、前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミン化合物の少なくとも一方が脂肪族(脂環構造を含む)化合物である、上記[1]記載のポリイミド樹脂組成物。
[3]
前記有機化層状珪酸塩(B)は、イオン交換容量50〜130ミリグラム当量/100gの層状珪酸塩の交換性陽イオンの50〜90ミリグラム当量/100gが有機オニウムイオンにより置換された層状珪酸塩である、上記[1]又は[2]記載のポリイミド樹脂組成物。
[4]
前記有機化層状珪酸塩(B)がシランカップリング剤で処理されている、上記[1]〜[3]のいずれか記載のポリイミド樹脂組成物。
[5]
前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を100重量部以上250重量部以下含む、上記[4]記載のポリイミド樹脂組成物。
[6]
上記[1]〜[5]のいずれか記載のポリイミド樹脂組成物を含むポリイミド系複合フィルム。
[7]
全光線透過率が85%以上、ヘイズ値が3%以下である、上記[6]記載のポリイミド系複合フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、無色透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスに優れたポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムを提供することができる。
また、本発明により、優れた寸法安定性と透明性を両立するポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は下記本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
本実施形態のポリイミド樹脂組成物は、
ポリイミド(A)と、
有機化層状珪酸塩(B)と、
を含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド(A)中に前記有機化層状珪酸塩(B)が分散し、前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を20重量部を超えて250重量部以下含む、ポリイミド樹脂組成物である。
【0012】
[ポリイミド(A)]
本実施形態におけるポリイミドとしては、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を公知の(溶液重合)方法により縮重合してイミド化することにより得ることができる。
【0013】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物としては、脂肪族化合物、芳香族化合物のいずれも用いることができるが、これらの化合物から得られるポリイミドにより良好な無色透明性を付与する観点から、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の少なくとも一方が脂肪族化合物であることが好ましい。ここで、上記脂肪族化合物には、脂環構造を有するものも含まれる。
【0014】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記の中でも、耐熱性、透明性及び入手の容易さの観点から、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物が好ましい。上記脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
脂肪族ジアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2−ジアミノエタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン等が挙げられる。上記の中でも、耐熱性及び透明性の観点から、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3‘−ジメチルジシクロヘキシルメタン、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサンが好ましい。上記脂肪族ジアミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物等が挙げられる。上記の中でも、耐熱性、透明性及び入手の容易さの観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2‘−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物が好ましい。
【0017】
芳香族ジアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0018】
本実施形態において2種以上のテトラカルボン酸二無水物、又は2種以上のジアミン化合物を用いる場合、それらのうちの少なくとも1種が脂肪族化合物であることが好ましい。本実施形態では、原料として、芳香族酸無水物と脂肪族ジアミン化合物の組み合わせ、脂肪族酸無水物と芳香族ジアミン化合物の組み合わせ、脂肪族酸無水物と脂肪族ジアミン化合物の組み合わせを少なくとも用いることが好ましいが、これらに芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミン化合物等を併用する場合、透明性の観点から、ポリイミド中に、芳香族酸無水物と芳香族ジアミン化合物の連鎖構造が極力存在しないことが好ましく、全く存在しないことがより好ましい。
【0019】
[有機化層状珪酸塩(B)]
本実施形態における有機化層状珪酸塩(B)としては、特に限定されないが、イオン交換容量50〜130ミリグラム当量/100gの層状珪酸塩の交換性陽イオンの50〜90ミリグラム当量/100gが有機オニウムイオンにより置換された層状珪酸塩であることが好ましい。
【0020】
層状珪酸塩としては、特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、及びノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等が挙げられる。上記の中でも、溶媒中での膨潤性に優れることから、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、膨潤性マイカ、及びバーミキュライトからなる群より選択される少なくとも1種が好適に用いられる。これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
層状珪酸塩のイオン交換容量としては、50〜130ミリグラム当量/100gであることが好ましく、より好ましくは80〜120ミリグラム当量/100g、さらに好ましくは100〜105ミリグラム当量/100gである。イオン交換容量が50ミリグラム当量/100g未満であると、カチオン交換により層状珪酸塩の結晶層間にインターカレートされるカチオン性物質の量が少なくなるために、結晶層間が十分に有機化されないことがある。一方、イオン交換容量が130ミリグラム当量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になりすぎて、結晶薄片が剥離し難くなることがある。
【0022】
層状珪酸塩のイオン交換容量は、メチレンブルーの吸着量により測定することができる。具体的には、イオン交換する前の状態の層状珪酸塩を秤量し、1%分散液を作製した後、メチレンブルーで滴定を行い、滴定に要するメチレンブルー量と、使用した層状珪酸塩の量から、メチレンブルーの吸着量を算出することができる。
【0023】
本実施形態の有機化層状珪酸塩は、上記層状珪酸塩を有機オニウムイオンで処理(イオン交換)したものであることが好ましい。このような有機オニウムイオンを生じる有機オニウム塩としては、例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられるが、着色を可能な限り抑制する観点から、4級アンモニウム塩が好ましい。上記有機オニウム塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、トリメチルアルキルアンモニウム塩、トリエチルアルキルアンモニウム塩、トリブチルアルキルアンモニウム塩、トリオクチルアルキルアンモニウム塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、ジブチルジアルキルアンモニウム塩、メチルベンジルジアルキルアンモニウム塩、ジベンジルジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルメチルアンモニウム塩、トリアルキルエチルアンモニウム塩、トリアルキルブチルアンモニウム塩、芳香環を有する4級アンモニウム塩、トリメチルフェニルアンモニウム等の芳香族アミン由来の4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記の中でも、層状珪酸塩の分散性向上の観点から、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジベンジルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレン−N−ラウリル−N,N−ジメチルアンモニウム塩がより好ましい。これらの4級アンモニウム塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0026】
イミダゾリウム塩としては特に限定されず、例えば、ジメチルブチルイミダゾリウム塩、ジメチルオクチルイミダゾリウム塩、ジメチルデシルイミダゾリウム塩、ジメチルドデシルイミダゾリウム塩、ジメチルヘキサデシルイミダゾリウム塩等が挙げられる。これらのホスホニウム塩、イミダゾリウム塩は、それぞれ単独で用いても、1種のみが4級アンモニウム塩と併用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
本実施形態の有機化層状珪酸塩(B)は、層状珪酸塩中に存在する交換性陽イオンの50〜90ミリグラム当量/100gが有機オニウムイオンにより置換されていることが好ましい。即ち、交換性陽イオンに対する有機オニウムイオンの置換率が50〜90%に調整されていることが好ましい。ここで、交換性陽イオンに対する有機オニウムイオンの置換率が50ミリグラム当量/100g未満であると、有機化層状珪酸塩の分散性が低下する傾向にあり、90ミリグラム当量/100gを超えると、有機オニウムイオンが分解して耐熱性の低下を招くおそれがある。
【0028】
また、本実施形態の樹脂組成物をフィルムとして用いる場合、交換性陽イオンに対する有機オニウムイオンの置換率が50ミリグラム当量/100g未満であると、有機化層状珪酸塩の分散性が低下し、有機化層状珪酸塩の凝集体の影響でフィルムの光学特性が低下するおそれがある。一方、90ミリグラム当量/100gを超えると、樹脂組成物をフィルム状にした後、加熱により溶媒を除去する乾燥工程において、有機オニウムイオンの熱分解が起こりやすくなり、光学特性の悪化を招くおそれがある。
【0029】
交換性陽イオンに対する有機オニウムイオンの置換率を50〜90ミリグラム当量/100gの範囲に調整する方法としては、交換性陽イオン量に、意図的に有機オニウム塩の添加量を調整することで、任意の置換率にする方法等が挙げられる。
【0030】
有機オニウム塩により層状珪酸塩の陽イオンを有機オニウムイオンに置換する処理としては、例えば、水中に分散した層状珪酸塩をイオン交換することにより行うことができる。
【0031】
本実施形態の有機化層状珪酸塩(B)は、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。有機化層状珪酸塩がシランカップリング剤で処理されている場合、有機化層状珪酸塩と樹脂との相溶性が向上し、樹脂中に有機化層状珪酸塩を多量に配合した場合でも層状珪酸塩同士の凝集を抑制することができる。その結果、得られるフィルムに、良好な透明性を維持した状態で、優れた寸法安定性を付与することが可能となる。
【0032】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトシシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトシシシラン、3−メルカプトプロピルエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−グルシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のアルキルシラン等が挙げられる。上記の中でも、ポリイミド樹脂との相溶性をより向上させる傾向にあるため、アミノシランが好ましい。
【0033】
有機化層状珪酸塩をシランカップリング剤で処理する方法としては、例えば、有機化層状珪酸塩が分散している溶液中で処理する湿式法、有機化層状珪酸塩を粉体のまま直接処理する乾式法、有機化層状珪酸塩が樹脂中に分散している樹脂組成物中で処理するインテグラルブレンド法が挙げられる。上記の中でも、シランカップリング剤による有機化層状珪酸塩の凝集を抑える観点から、有機化層状珪酸塩がよく分散している状態で処理できる湿式法、インテグラルブレンド法が好ましく、湿式法ではシランカップリング剤で処理後、有機化層状珪酸塩を溶液から単離することなく、溶液に分散したまま樹脂中に配合するのが好ましい。
【0034】
シランカップリング剤の添加量は、有機化層状珪酸塩に対して、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは1〜5重量%である。シランカップリング剤の添加量が、0.5重量%以上であると、有機化層状珪酸塩と樹脂との相溶性が向上し、有機化層状珪酸塩同士の凝集が抑えられる傾向にあり、10重量%以下であると、シランカップリング剤による有機化層状珪酸塩同士の結合が起こり難くなる傾向にある。
【0035】
本実施形態のポリイミド樹脂組成物は、上記有機化層状珪酸塩(B)を溶媒に分散させた溶液と、上記ポリイミド(A)を含む溶液とを混合して、(B)成分を(A)成分中に分散させることにより得ることができる。ここで、有機化層状珪酸塩(B)はポリイミド(A)中に高度に分散していることが、寸法安定性及び水蒸気バリア性の観点から好ましい。ここで、「高度に」とは電子顕微鏡観察によりクレイの凝集がなく、デラミ及び分散が確認できる状態のことを言う。
【0036】
上記有機化層状珪酸塩(B)が分散した溶液、及びポリイミド(A)溶液に用いられる溶媒としては、例えば、N−N’−ジメチルホルムアミド、N−N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;及びジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる
【0037】
ポリイミド樹脂組成物中における有機化層状珪酸塩(B)の配合量は、ポリイミド(A)100重量部に対して、20重量部を超えて250重量部以下、好ましくは30〜150重量部、より好ましくは40〜100重量部である。(B)成分の配合量が20重量部以下であると、熱線膨張率が悪化したり、水蒸気透過率が低下する傾向にあり、250重量部を超えると、光学特性が悪化したり、フィルム化が困難となり、フィルムが得られない場合がある。
【0038】
有機化層状珪酸塩(B)がシランカップリング処理されている場合、樹脂中に有機化層状珪酸塩を多量に配合した場合でも層状珪酸塩同士の凝集が起こり難くなるため、より多くの有機化層状珪酸塩を配合することが可能となる。この場合の、ポリイミド樹脂組成物中における有機化層状珪酸塩(B)の配合量は、ポリイミド(A)100重量部に対して、好ましくは100〜250重量部であり、より好ましくは130〜220重量部である。有機化層状珪酸塩(B)の配合量が上記範囲であると、良好な透明性を維持した状態で、寸法安定性をより一層向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態のポリイミド樹脂組成物中には、上記(A)、(B)成分の他に、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等の無機充填材を、(B)成分の分散に影響しない範囲の量でさらに添加してもよい。
【0040】
本実施形態のポリイミド系複合フィルムは、上記ポリイミド樹脂組成物を用いて製造することができる。ポリイミド系複合フィルムの製造方法としては、例えば、上記混合溶液を支持体上に塗布して乾燥させた後、これを支持体から剥離して高温で加熱してフィルム化する方法;支持体が金属製等の耐熱性に優れるものである場合、混合溶液の塗布、加熱して乾燥を支持体上で行った後、これを剥離する方法等が挙げられる。
【0041】
混合溶液を加熱することにより有機溶媒を除去する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。加熱の方法としては、例えば、熱風、赤外線、遠赤外線、輻射、電気ヒーター等で行うことが挙げられる。また、加熱温度は、200〜400℃が好ましく、300〜350℃がより好ましい。
【0042】
本実施形態に係るポリイミド系複合フィルムは、フレキシブル有機ELディスプレイ、フレキシブルプリント基板、フィルム型太陽電池、電子ペーパー等の各種フレキシブルデバイスの基板等として好適に用いることができる。また、フレキシブルプリント基板等の材料として、フレキシブル銅張積層板(CCL)等のような積層体とすることもできる。
【0043】
また、上述のようにして得られたフィルムをさらに延伸することで、より熱膨張率が低く、透明性の高い複合フィルムを得ることができる。また、有機化層状珪酸塩(B)がフィルム面内方向に配向するため、より高度な水蒸気バリア性が得られる傾向にある。
【0044】
ここで用いられる延伸方法としては特に制限されないが、樹脂組成物に含まれる溶媒を残存させて低温で行ってもよいし、樹脂組成物のガラス転移点以上の高温で行ってもよい。また一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、ゾーン延伸等のいずれでもよいが、同時又は逐次二軸延伸が好ましい。高温で延伸を行う場合には、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。延伸倍率としては、1.1倍から10倍が好ましい。
【0045】
本実施形態のポリイミド系複合フィルムの膜厚は、好ましくは1μm以上250μm以下、より好ましくは5μm以上200μm以下、更に好ましくは10μm以上150μm以下である。膜厚が1μm未満であると、ハンドリング性が低下する傾向にあり、250μmを超えると、全光線透過率、ヘイズ値が悪化する傾向にある。特に、樹脂組成物中に有機化層状珪酸塩を多く含む場合、即ち、有機化層状珪酸塩の含有量が上限値の250重量部付近である場合には、フィルムの透明性が低下する可能性がある。従って、このような場合には、フィルムの膜厚を好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは100μm以下、特に好ましくは60μm以下に調整する。
【0046】
本実施形態のポリイミド系複合フィルムの熱線膨張率は、好ましくは30ppm/℃以下、より好ましくは20ppm/℃以下、更に好ましくは15ppm/℃以下である。
【0047】
本実施形態のポリイミド系複合フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上である。また、ポリイミド系複合フィルムのヘイズ値は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。
【0048】
ここで、全光線透過率及びヘイズ値は、以下の実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
[測定方法]
本実施例における物性の測定方法及び測定条件は以下の通りである。
【0050】
[イオン交換容量]
層状珪酸塩のイオン交換容量は、メチレンブルーの吸着量により測定した。イオン交換する前の状態の層状珪酸塩を秤量し、1%分散液を作製した後、メチレンブルーで滴定を行い、滴定に要するメチレンブルー量と、使用した層状珪酸塩の量から、メチレンブルーの吸着量を算出した。
【0051】
[イオン交換率]
有機オニウムイオンによるイオン交換率は、SIIナノテクノロジー製「TG/DTA6200」を用い、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で計測し、有機成分の減少率を求めることにより測定した。
【0052】
[厚み]
複合フィルムの厚みは、ミツトヨ製ダイヤルゲージにより測定した。
【0053】
[全光線透過率]
東京電色製「TC−H3DPK」を用いて3点測定し平均値を求めた。
【0054】
[ヘイズ値]
東京電色製「TC−H3DPK」を用いて3点測定し平均値を求めた。
【0055】
[熱線膨張率(CTE)]
SIIナノテクノロジー製「TMA/SS6100」を用い、窒素雰囲気下、荷重100mN、昇温速度5℃/分で測定し、100℃から200℃の平均値を求めた。
【0056】
[水蒸気透過係数]
ポリイミド複合フィルムについて「JIS K7129」に準ずる透湿度測定を行い、水蒸気透過係数を算出した。
具体的には、60mmφカップにフィルムをセットし、恒温恒湿層としてタバイエスペック製「PL−2KP」を用い、試験温度40℃、試験湿度90%の条件下で24h毎の重量変化量を3点測定し平均値を求めた。
【0057】
[実施例1、2及び比較例1、2]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に69ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量26.1重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STNを5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。
ここで、上記有機物量とは、有機化層状珪酸塩を100重量部としたときの有機オニウムイオンで置換された重量部数を示す。
【0058】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まって3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0059】
(3)合成スメクタイト(STN)含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0060】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表1に示す。
なお、表1中のSTN含有量は、ポリイミド100重量部に対する、合成スメクタイト(STN)の重量部を示す。以下の実施例及び比較例も同様である。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から明らかなように、本実施形態のポリイミド樹脂組成物、及びそれを含むポリイミド系複合フィルムは、透明性、寸法安定性、及び水蒸気バリア性のバランスに優れていることが分かる。
【0063】
[実施例3]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に54ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN(有機物量:19.9重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STN50を5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。
【0064】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まって3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0065】
(3)STN含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0066】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
[比較例3]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に104ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量;38重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、前記STNを5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。
【0069】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まって3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0070】
(3)STN含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0071】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
[比較例4]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に95ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量;34.8重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、前記STNを5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。
【0074】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まってから3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0075】
(3)STN含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0076】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
[実施例4]
(1)シランカップリング剤で処理された合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に67ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量23.6重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STNを5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。引き続きシランカップリング剤による処理を行なった。シランカップリング剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを0.375g(STNに対して2.5重量%)、水をシランカップリング剤に対して0.009g(シランカップリング剤に対して1/3当量)加え、ディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、さらにスターラーで3日間25℃の条件で溶液を攪拌することにより、シランカップリング剤で処理されたSTNを含むγ−ブチロラクトン溶液を調整した。
【0079】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全に溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まって3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0080】
(3)合成スメクタイト(STN)含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0081】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表5に示す。
【0082】
[実施例5]
シランカップリング剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりにアミノプロピルトリメトキシシランを用い、その添加量を2.5重量%から1.8重量%に代えたこと以外は実施例4と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムを製造した。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表5に示す。
【0083】
[実施例6]
シランカップリング剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりにフェニルトリメトキシシランを用い、その添加量を2.5重量%から1.5重量%に代えたこと以外は実施例4と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムを製造した。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表5に示す。
【0084】
[実施例7]
有機化層状珪酸塩をシランカップリング剤で処理しなかったこと以外は実施例4と同様の方法により、ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムを製造した。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
[実施例8及び比較例5、6]
STNの含有量を変更したこと以外は実施例3と同様の方法により、ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムを製造した。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表6に示す。
【0087】
[比較例7]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に67ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量26.1重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、γ−ブチロラクトン(三井化学製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STNを5重量%含むγ−ブチロラクトン溶液を調製した。
【0088】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(岩谷瓦斯製、商品名「PMDA−HS」)13.45g(60mmol)、γ−ブチロラクトン45g、ピリジン(和光純薬製)0.95g(12mmol)を加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、PMDA−HSが完全に溶けるまで攪拌した。完全に溶解したのを確認後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(JFEケミカル製)12.0g(60mmol)を加えた。その後、トルエン35gを滴下し、同時に反応により生成した水をトルエンとの共沸を利用して系外に除去した。共沸が始まって3時間後、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、その後室温まで放冷させた。
【0089】
(3)合成スメクタイト(STN)含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、160℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0090】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
[実施例9〜11及び比較例8、9]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に67ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量26.1重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、N−メチル−2−ピロリドン(WAKO製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STNを5重量%含むN−メチル−2−ピロリドン溶液を調製した。
【0093】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、4,4’ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(Aldrich製、商品名「6FDA」)4.28g(9.6mmol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学製、商品名「BPDA」4.25g(14.4mmol)、イソホロンジアミン(IPDA)(WAKO製)4.09g(24.0mmol)、m−クレゾール(WAKO製)88gを加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、2時間攪拌した。その後、系内の温度を上げ、4時間還流を行い、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、室温まで放冷させた。
メタノール2Lに再沈殿を行い、沈殿物をろ過、回収し、80℃で24時間減圧乾燥を行った。
【0094】
(3)合成スメクタイト(STN)含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、100℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0095】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表7に示す。
【0096】
【表7】

【0097】
[実施例12、13及び比較例10、11]
(1)合成スメクタイト(STN)溶液の調製
500mLの容器に80ミリグラム当量/100gイオン交換された合成スメクタイト(コープケミカル製、商品名「STN」(有機物量29.2重量部、有機化前のイオン交換容量101ミリグラム等量/100g))15g、N−メチル−2−ピロリドン(WAKO製)285gを加え、アズワン製超音波洗浄機USDを用いて40KHzの振動数を加えた。また同時にディスパにより1000〜1500rpmの回転数で1時間撹拌し、STNを5重量%含むN−メチル−2−ピロリドン溶液を調製した。
【0098】
(2)ポリイミド溶液の調製
300mLセパラフラスコに、窒素気流下、4,4’ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(Aldrich製、商品名「6FDA」)4.28g(9.6mmol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学製、商品名「BPDA」4.25g(14.4mmol)、イソホロンジアミン(IPDA)(WAKO製)4.09g(24.0mmol)、m−クレゾール(WAKO製)88gを加え、系内の温度を80〜90℃まで上昇させ、2時間攪拌した。その後、系内の温度を上げ、4時間還流を行い、末端封止剤を投入し、1時間反応を続け、室温まで放冷させた。
メタノール2Lに再沈殿を行い、沈殿物をろ過、回収し、80℃で24時間減圧乾燥を行った。
【0099】
(3)合成スメクタイト(STN)含有ポリイミド溶液の調製
上記(1)STN溶液と(2)ポリイミド溶液とを混合し、100℃で1時間撹拌して、STN含有ポリイミド溶液を調製した。
【0100】
(4)ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムの製造
上記(3)で調製したSTN含有ポリイミド溶液を、シリコンウエハー上に塗布し、100℃で30分間、オーブン中で乾燥した。その後、半乾燥のポリイミドのフィルムをシリコンウエハーから剥離し、アルミ製の枠に固定して、室温でオーブン内を窒素置換した後(約2時間を要する)、オーブンを300℃に昇温し(昇温時間約30分)、その後約30分保持して本乾燥させた。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表8に示す。
【0101】
[比較例12]
STN溶液を混合しなかったこと以外は実施例12と同様の方法により、ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムを製造した。得られたポリイミド系複合フィルムの物性を表8に示す。
【0102】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本実施形態のポリイミド樹脂組成物及びポリイミド系複合フィルムは、フレキシブル有機ELディスプレイ、フレキシブルプリント基板、フィルム型太陽電池、電子ペーパー等の各種フレキシブルデバイスの基板等としての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド(A)と、
有機化層状珪酸塩(B)と、
を含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド(A)中に前記有機化層状珪酸塩(B)が分散し、前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を20重量部を超えて250重量部以下含む、ポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリイミド(A)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とからなる共重合体であり、前記テトラカルボン酸二無水物及び前記ジアミン化合物の少なくとも一方が脂肪族(脂環構造を含む)化合物である、請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化層状珪酸塩(B)は、イオン交換容量50〜130ミリグラム当量/100gの層状珪酸塩の交換性陽イオンの50〜90ミリグラム当量/100gが有機オニウムイオンにより置換された層状珪酸塩である、請求項1又は2記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機化層状珪酸塩(B)がシランカップリング剤で処理されている、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリイミド(A)100重量部に対して、前記有機化層状珪酸塩(B)を100重量部以上250重量部以下含む、請求項4記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のポリイミド樹脂組成物を含むポリイミド系複合フィルム。
【請求項7】
全光線透過率が85%以上、ヘイズ値が3%以下である、請求項6記載のポリイミド系複合フィルム。

【公開番号】特開2012−107178(P2012−107178A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78608(P2011−78608)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】