説明

ポリイミド系ハイブリッド材料

【課題】金属吸着性、陽イオン交換性や疎水性等の各機能基に固有の特性が効果的に発揮され得るポリイミド系ハイブリッド材料を提供すること。
【解決手段】ポリイミド相と、一種以上の機能基を有する無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドにてポリイミド系ハイブリッド材料を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系ハイブリッド材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機高分子及び無機化合物の特性を併有する材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン(PA)、ポリエステル(PET)等の汎用高分子と、タルク(炭酸カルシウム)、クレイ(粘土)、シリカ等の無機化合物との混合物が、複合材料として工業的に広く用いられているが、近年では、そのような従来の複合材料より優れた特性を発揮する材料として、有機高分子相と無機酸化物相とが一体化されて、複合構造となっている(ハイブリッド化された)有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料が、各種開発されている(特許文献1を参照)。
【0003】
かかる有機−無機ポリマーハイブリッドにおける有機高分子としては、従来の汎用高分子以外にも様々なものが用いられている。例えば、優れた気体透過性を発揮し、ガス分離材料等(特許文献2〜4を参照)に利用されているポリイミドは、気体透過性以外にも、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性や成形特性(プロセス特性)においても非常に優れているところから、かかるポリイミドを用いた有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料が、各種提案されている(非特許文献1を参照)。ここで、従来の有機−無機ポリマーハイブリッドに用いられるポリイミドは、一般に、無水ピロメリット酸やビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとから得られる直鎖状(線状)のものが、用いられていた。
【0004】
そのような状況下、本発明者等の一人は、国際公開第06/025327号パンフレット(特許文献5)において、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を、他の発明者と共同して提案している。
【0005】
しかしながら、低コスト化や低環境負荷等が求められている昨今、ポリイミド系ハイブリッド材料に対しても従来以上の特性が求められており、特許文献5に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料においても、改良の必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−277512号公報
【特許文献2】特開昭57−15819号公報
【特許文献3】特開昭60−82103号公報
【特許文献4】特開昭60−257805号公報
【特許文献5】国際公開第06/025327号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山田 保治 他2名、「シリコン含有ポリイミドの特性と応用」、月刊高分子加工 別冊、株式会社高分子刊行会、1997年2月、第46巻、第2号、第2〜11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、金属吸着性、陽イオン交換性や疎水性等の各機能基に固有の特性が効果的に発揮され得るポリイミド系ハイブリッド材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、ポリイミド相と、一種以上の機能基を有する無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドからなるポリイミド系ハイブリッド材料を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、そのような本発明に係るポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、好ましい態様の一つにおいて、前記機能基が、チオール基、スルホン酸基又はフルオロアルキル基である。
【0011】
また、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料における別の好ましい態様の一つにおいては、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン及び/又は芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有するポリアミド酸と、下記式(1)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた化合物をイミド化せしめてなるものである。
1mM(OR2n・・・式(1)
1 :チオール基、スルホン酸基及びフルオロアルキル基のうちの少なくとも一 種以上を有する原子団
2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m、n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
【0012】
一方、上述した各態様のポリイミド系ハイブリッド材料であって、前記機能基がスルホン酸基であるものからなる固体電解質膜、及び、前記機能基がフルオロアルキル基であるものからなる撥水性フィルムについても、本発明は要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従うポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、ポリイミド相と、一種以上の機能基を有する無機酸化物相とが共有結合によって一体化されて、複合構造を呈するものであるところから、機能基によって発揮される特性が、ポリイミド相に機能基が導入されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドにて構成される材料と比較して、より効果的に発揮されるのである。従って、材料として求められる特性を有する機能基を適宜、選択し、無機酸化物相中に導入することによって、従来以上に優れた特性を発揮する機能性材料となるのである。
【0014】
特に、有機−無機ポリマーハイブリッドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン及び又は芳香族トリアミンと、所定のアルコキシ化合物又はその誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有するポリアミド酸と、所定のアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた化合物をイミド化せしめてなるものであり、このような有機−無機ポリマーハイブリッドからなるポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、無機酸化物相中に多数の機能基を導入することが可能ならしめられるところから、上述した効果をより有利に享受することが可能である。
【0015】
また、本発明に係るポリイミド系ハイブリッド材料のうち、無機酸化物相中にスルホン酸基を有するものは、優れた陽イオン交換性(プロトン伝導性)を発揮するところから、そのようなポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、燃料電池の固体電解質膜を作製する際に有利に用いられ得る。更に、無機酸化物相中にフルオロアルキル基を有する、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料は、優れた撥水性を発揮することから、撥水性フィルムの原材料として有利に用いられることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のポリイミド系ハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドの一例について、その構造を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を適宜、参酌しながら、本発明を詳細に説明する。
【0018】
先ず、図1には、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドの構造が、概略的に示されている。そこにおいて、有機−無機ポリマーハイブリッドは、多分岐ポリイミドからなる多分岐ポリイミド相と、SiO2 単位にて構成される無機重合物からなる無機酸化物相(シリカ相。図1においては点線で囲まれた部分)とが、共有結合によって一体化されて、複合構造を呈している。そして、本発明に従うポリイミド系ハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドにあっては、無機酸化物相(図1に示す有機−無機ポリマーハイブリッドにおいてはシリカ相)が、一種以上の機能基(図1に示す有機−無機ポリマーハイブリッドにおいてはスルホン酸基:−SO3H )を有するものであるところに、大きな特徴が存在するのである。尚、本明細書及び特許請求の範囲において、機能基とは、一般的な官能基のみならず、金属吸着性や陽イオン交換性等の特性を発揮させ得る原子団をも含むものである。
【0019】
図1に示される如き構造の有機−無機ポリマーハイブリッドを始めとする、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドは、例えば、以下の手法に従って製造される。
【0020】
先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン及び/又は芳香族トリアミンとを反応せしめて、ポリアミド酸を合成する。尚、本明細書及び特許請求の範囲において、ポリアミド酸(ポリイミド)とは、芳香族ジアミンを用いて得られる直鎖ポリアミド酸(直鎖ポリイミド)、芳香族トリアミンを用いて得られる、デンドリティック構造を呈する多分岐ポリアミド酸(多分岐ポリイミド)、及び、芳香族ジアミン及び芳香族トリアミンを用いて得られる、部分的に分岐構造を呈する分岐ポリアミド酸(分岐ポリイミド)の何れをも含むものである。
【0021】
ここで、本発明において用いられ得る芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン及び芳香族トリアミンとしては、従来より公知の各種のものであれば、何れも用いることが可能であり、それら公知のものの中から、目的とするポリイミド系ハイブリッド材料に応じた一種若しくは二種以上のものが、適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0022】
具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)等の化合物を、例示することが出来る。
【0023】
また、芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンや9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン等を、例示することが出来る。
【0024】
さらに、芳香族トリアミンとしては、分子内に3個のアミノ基を有する芳香族化合物、例えば、1,3,5−トリアミノベンゼン、トリス(3−アミノフェニル)アミン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、トリス(3−アミノフェニル)ベンゼン、トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジン等を、挙げることが出来る。
【0025】
なお、本発明においては、上述した芳香族ジアミン及び/又は芳香族トリアミンと共に、シロキサンジアミンや分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物を、芳香族ジアミン等と共重合せしめた状態にて、或いは、ポリアミド酸合成時に芳香族ジアミン等と同時に添加することにより、使用することも可能である。そのようなシロキサンジアミンとしては、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス(アミノフェノキシ)ジメチルシランやビス(3−アミノプロピル)ポリメチルジシロキサン等を、また、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物としては、トリス(3,5−ジアミノフェニル)ベンゼン、トリス(3,5−ジアミノフェノキシ)ベンゼン等を、挙げることが出来る。
【0026】
また、上述した芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、芳香族トリアミン、及び分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物であって、ベンゼン環に炭化水素基(アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン酸基等の置換基を有する誘導体であっても、本発明においては、用いることが可能である。
【0027】
そのような芳香族テトラカルボン酸二無水物と、アミン成分(芳香族ジアミン及び/又は芳香族トリアミン。場合によっては、シロキサンジアミン及び/又は分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物。)との反応は、比較的低温、具体的には100℃以下、好ましくは50℃以下の温度下において実施することが好ましい。また、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分との反応モル比([芳香族テトラカルボン酸二無水物]:[アミン成分])は、1.0:0.3〜1.0:1.2、好ましくは、1.0:0.4〜1.0:1.1の範囲内となるような量的割合において、反応せしめることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明に係るポリイミド系ハイブリッド材料を製造するに際しては、所定の溶媒内にて行なうことが好ましい。本発明において用いられ得る溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒や、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、o−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒等を挙げることが出来、これらは単独で、若しくは二種以上の混合溶媒として、使用することが可能である。
【0029】
次いで、得られたポリアミド酸と、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物(以下、単にアルコキシ化合物とも言う。)若しくはそれらの誘導体とを、反応せしめる。
【0030】
すなわち、ポリアミド酸の末端に存在する酸無水物基又はアミノ基と、アルコキシ化合物中のアミノ基又はカルボキシル基とが反応することにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基を有するポリアミド酸が得られるのである。なお、反応系内に水が存在する場合には、かかる水によって、アルコキシ基の一部が加水分解して水酸基となる。
【0031】
ここで、本発明においては、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物であれば、従来より公知のものが何れも用いられ得る。また、末端にカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物とは、末端に、一般式:−COOH、或いは、一般式:−CO−O−CO−で表わされる官能基を有するカルボン酸、酸無水物であり、それらの誘導体である酸ハライド(一般式:−COX。但し、XはF、Cl、Br、Iの何れかの原子。)も、本発明において用いることが可能である。具体的には、ケイ素のアルコキシ化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノフェニルジメチルメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシリルカルボン酸、プロピルメチルジエトキシシリルカルボン酸、ジメチルメトキシシリル安息香酸等を例示することが出来、アルミニウムのアルコキシ化合物としては、特開平2004−114360号公報中の段落[0085]において示されている如き構造を呈するもの等を、例示することが出来る。また、それらアルコキシ化合物の誘導体としては、例えば、各種ハロゲン化物等が挙げられる。
【0032】
なお、上述したアルコキシ化合物とポリアミド酸との反応は、先に説明した芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分とを反応せしめた際と同様の温度条件にて、実施されることが望ましい。
【0033】
そして、そのようにして得られた、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有するポリアミド酸と、所定の機能基を有するアルコキシドの少なくとも一種以上とから、目的とする有機−無機ポリマーハイブリッドが得られるのである。
【0034】
すなわち、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有するポリアミド酸と、所定の機能基を有するアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下において同一系内に存在せしめると、ポリアミド酸分子中のアルコキシ基とアルコキシドとがゾル−ゲル反応により重縮合するところから、所定の機能基を有する無機酸化物相[図1において、スルホン酸基を有するシリカ相(SiO2 単位にて構成される無機重合物)に相当]を有するポリアミド酸が形成せしめられることとなる。
【0035】
そして、そのようにして無機酸化物相が形成されたポリアミド酸に対して、熱処理や化学処理を施すと、ポリアミド酸分子内にその合成時から存在する反応性残基(アミノ基、酸無水物基)によってイミド化が進行し、以て、ポリイミド相と所定の機能基を有する無機酸化物相とが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドが得られるのである。
【0036】
なお、本発明に係るポリイミド系ハイブリッド材料を製造するに際しては、ポリアミド酸と所定のアルコキシドとの間におけるゾル−ゲル反応による重縮合を行なう前に、ポリアミド酸のイミド化を行なうことも、勿論、可能である。また、ポリアミド酸と所定のアルコキシドとの重縮合(ゾル−ゲル反応)と、ポリアミド酸のイミド化とを、連続的に実施すること、具体的には、ポリアミド酸の溶液中にアルコキシドを添加し、所定時間、比較的低い温度を保った状態において、撹拌せしめて、ポリアミド酸とアルコキシドとを重縮合せしめた後、かかる溶液を加熱することにより、溶液内のポリアミド酸(アルコキシドとの間で重縮合したもの)をイミド化せしめることも、可能である。なお、ポリアミド酸とアルコキシドとの間のゾル−ゲル反応を進行せしめる際には、100℃以下、特に50℃以下の温度において、実施することが好ましい。
【0037】
ここで、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料を製造する際には、アルコキシドとして、水の存在下において分子間で重縮合が可能なものであって一種以上の機能基を有するものであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。また、アルコキシドが有する機能基としては、最終的に得られるポリイミド系ハイブリッド材料において、金属吸着性を発現させるチオール基[−SH]、金属吸着性や陽イオン交換性、親水性を発現させるスルホン酸基[−SO3H ]、疎水性を発現させるトリフルオロメチル基[−CF3 ]やパーフルオロオクチル基[−C817 ]等のフルオロアルキル基、陰イオン交換性や殺菌性を発現させる四級アンモニウム基、金属吸着性を発現させるジエチレントリアミン基やアミドキシム基、殺菌性や親水性を発現させるカルボキシル基等を、例示することが出来る。特に、本発明においては、下記式にて表わされるアルコキシドが有利に用いられる。具体的には、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン[TFPTrMOS]、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン等を、例示することが出来る。
1mM(OR2n・・・式(1)
1 :チオール基、スルホン酸基及びフルオロアルキル基のうちの少なくとも一 種以上を有する原子団
2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m、n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
【0038】
また、上述したアルコキシドの添加量の増減によって、得られるポリイミド系ハイブリッド材料中の無機酸化物量が増減し、また、機能基の含有量も増減することから、最終的に得られるポリイミド系ハイブリッド材料の物性にも影響を与える。一般に、かかるハイブリッド材料中の無機酸化物量は、0.05〜95wt%、好ましくは0.1〜50wt%の範囲内にあることが望ましい。ポリイミド系ハイブリッド材料は、含有する無機酸化物量が多くなるに従って、耐熱性、弾性率や硬度等は向上するものの、その反面、材料自体が脆くなり、クラックの生成や耐衝撃性の低下を招く恐れがある。従って、無機酸化物量が適当な範囲内となるようにアルコキシドの添加量が決定されることとなるが、ハイブリッド材料の用途によって範囲は異なるため、材料として使用、応用が可能な限り、無機酸化物量が特に制限されるものではない。
【0039】
本発明のポリイミド系ハイブリッド材料は、無機酸化物相中の機能基の種類に応じて、成形材料、フィルム、コーティング剤、塗料、接着剤、分離膜等、様々な用途に用いられ得るものであるが、例えば、フィルム、コーティング剤、分離膜等として使用することを目的として、薄膜状のものを製造する場合には、一般にポリイミド等の高分子材料の場合と同様に、下記の方法で製造することが可能である。すなわち、1)上述した、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有するポリアミド酸を含有する反応溶液、或いは、かかるポリアミド酸とアルコキシドと水とを含有する反応溶液を、ガラス、高分子フィルム等の基盤上に流延せしめた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、2)反応溶液をガラス、高分子フィルム等の基盤上にキャストした後、水、アルコール、ヘキサン等の受溶媒に浸漬せしめ、フィルム化させた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、3)反応溶液に対して熱処理等を施して、そこに含まれるポリアミド酸を予めイミド化せしめた後、かかる溶液をキャスト法により製膜し、乾燥する方法、4)前記3)におけるポリアミド酸が予めイミド化された溶液を、基盤上にキャストした後、前記2)と同様にポリマーの受溶媒に浸漬し、フィルム化させた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、等が挙げられ、本発明においては、これらの何れも採用することが可能である。
【0040】
そして、上述の如くして製造された、本発明に従う有機−無機ポリマーハイブリッドからなるポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、従来の、ポリイミド相に所定の機能基が導入されているポリイミド系ハイブリッド材料とは異なり、無機酸化物相に所定の機能基が導入されてなるものであるところから、かかる機能基に応じた各種特性が、より効果的に発揮されるのである。例えば、無機酸化物相にスルホン酸基が導入された有機−無機ポリマーハイブリッドからなる材料は、優れた陽イオン交換性(プロトン伝導性)を発揮するのであり、燃料電池の固体電解質膜を作製する際に有利に用いられ得る。また、無機酸化物相にフルオロアルキル基が導入された有機−無機ポリマーハイブリッドからなる材料は、優れた撥水性を発揮することから、撥水性フィルムの原材料として有利に用いられることとなる。
【0041】
なお、本発明のポリイミド系ハイブリッド材料を使用する場合には、それを構成するポリイミドとは異なる構造のポリイミドや、その他の樹脂、更には、従来より公知の酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等を配合することも、勿論、可能である。
【0042】
また、無機酸化物相中の機能基を変性せしめることも可能である。例えば、無機酸化物相中のチオール基をスルホン化し、スルホン酸基とすることにより、陽イオン交換性(プロトン伝導性)を発現させることも可能である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0044】
先ず、以下に示す各手法に従って、5種類のポリアミド酸溶液(ポリアミド酸溶液A〜E)を準備した。
【0045】
−ポリアミド酸溶液Aの調製−
撹拌棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三ツ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物[6FDA]を0.89g仕込み、20mLのN,N−ジメチルアセトアミド[DMAc]を加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、予め20mLのDMAcに溶解した1,3,5−トリス(アミノフェノキシ)ベンゼン[TAPOB]:0.43gを徐々に加えた後、25℃で2時間、撹拌した。その後、3−アミノプロピルトリメトキシシラン[APTrMOS]:0.0717gを加え、更に1時間、撹拌し、多分岐ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB)溶液:ポリアミド酸溶液A]を得た。
【0046】
−ポリアミド酸溶液Bの調製−
ポリアミド酸溶液Aに、所定量のテトラメトキシシラン[TMOS]を加え、24時間、撹拌することにより、二酸化ケイ素換算で20wt%のシリカを含有する多分岐ポリアミド酸の溶液[PAA(6FDA−TAPOB)TMOS溶液:ポリアミド酸溶液B]を得た。
【0047】
−ポリアミド酸溶液Cの調製−
ポリアミド酸溶液Aに、スルファニル酸[SA]:0.138gと、トリエチルアミン[TEA]:0.094gとを加え、1時間、撹拌し、多数の末端の一部がスルファニル酸で修飾された多分岐ポリアミド酸の溶液[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)溶液:ポリアミド酸溶液C]を得た。
【0048】
−ポリアミド酸溶液Dの調製−
撹拌棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三ツ口フラスコに、2,2’−ベンジジンジスルホン酸[BDSA]:1.033gを仕込み、かかる三ツ口フラスコ内にTEA:0.9148mL、DMAc:10mL及びジメチルスルホキシド[DMSO]:10mLを加え、BDSAを溶解した。この溶液を撹拌しながら、6FDA:1.332gを徐々に加え、25℃で3時間、撹拌し、直鎖ポリアミド酸の溶液[PAA(6FDA−BDSA)溶液]を調製した。この直鎖ポリアミド酸の溶液と、ポリアミド酸溶液Aとを、1:1(重量比)の割合において混合することにより、多分岐ポリアミド酸と直鎖ポリアミド酸との混合溶液[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)溶液:ポリアミド酸溶液D]を得た。
【0049】
−ポリアミド酸溶液Eの調製−
撹拌棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三ツ口フラスコに、6FDA:2.66gを仕込み、DMAc:14.1gを加え、撹拌し、溶解した。この溶液を撹拌しながら、ジアミノジフェニルエーテル:1.1gを徐々に加え、25℃で90分、撹拌した。次いで、APTrMOS:0.179gを加え、更に1時間、撹拌することにより、直鎖ポリアミド酸の溶液[PAA(6FDA−ODA)溶液:ポリアミド酸溶液E]を得た。
【0050】
上述の如くして準備したポリアミド酸溶液を、以下に示すように、そのまま、或いは、更に(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]又はトリフルオロプロピルトリメトキシシラン[TFPTrMOS]を反応させて得られたポリアミド酸溶液を用いて、製膜化し、ポリイミド系ハイブリッド材料からなる膜(以下、ポリイミド膜という)を19種類、作製した。
【0051】
なお、以下に示す実施例及び比較例において、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]又はトリフルオロプロピルトリメトキシシラン[TFPTrMOS]は、最終的に得られるポリイミド膜中のシリカ含有量(二酸化ケイ素換算)が下記表1又は表2に示す値となるような量的割合において、使用した。
【0052】
また、ポリイミド膜の調製は、各ポリアミド酸溶液をPETシート上にキャストし、先ず、85℃で3時間、乾燥させた。次いで、PETシート上に形成されたポリアミド酸フィルムをPETシートから剥がし、かかるポリアミド酸フィルムに対して、窒素雰囲気下、100℃で1時間、200℃で1時間、250℃で2時間、加熱処理を施すことにより、ポリイミド膜とした。
【0053】
さらに、調製に際して(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]を用いたポリアミド酸溶液より得られたポリイミド膜については、過酸化水素水に5日間、浸漬した後、更にイオン交換水に5日間、浸漬することにより、ポリイミド膜中のチオール基をスルホン化せしめた。
【0054】
さらにまた、調製に際してスルファニル酸[SA]又は2,2’−ベンジジンジスルホン酸[BDSA]を用いたポリアミド酸溶液より得られたポリイミド膜については、エタノールと濃硫酸の混合溶液に5日間、浸漬した後、更にイオン交換水に5日間、浸漬することにより、ポリイミド膜中のスルホン酸基を活性化せしめた。
【0055】
一方、得られた各ポリイミド膜の各物性は、以下の手法に従って測定し、算出した。その結果を、下記表1及び表2に示す。
【0056】
−イオン交換容量(IEC)の測定−
イオン交換容量(IEC)は、滴定法により算出した。具体的には、試料(20mm×20mm)を室温下で72時間、濃度:15重量%のKCl水溶液中に浸漬せしめた後、この水溶液を、0.0001NのKOH溶液で滴定することにより算出した。尚、pHの測定は、pHメーター(株式会社堀場製作所製、商品名:pH METER F-51)を用いて行なった。
【0057】
−プロトン伝導度の測定−
得られたポリイミド膜の面方向のプロトン伝導度を評価するために、室温×湿度:100%の条件の下、LCR測定器を用いてインピーダンス値を測定した。測定されたインピーダンス値を用いて、下記式より、プロトン伝導度[S/cm]を算出した。
プロトン伝導度[S/cm]=L[cm]/{Z[Ω]×A[cm2]}・・・式
但し、L[cm]:ポリイミド膜の厚さ、
Z[Ω]:測定されたインピーダンス値、
A[cm2]:ポリイミド膜の面積、である。
【0058】
−接触角の測定−
得られたポリイミド膜と水との接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名:DropMaster DM-300 )を用いて測定した。
【0059】
−実施例1−
ポリアミド酸溶液A[PAA(6FDA−TAPOB)溶液]に、所定量の(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]を加え、更に、MPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例1)を作製した。
【0060】
−実施例2−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例1と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例2)を作製した。
【0061】
−比較例1−
ポリアミド酸溶液A[PAA(6FDA−TAPOB)溶液]をそのまま用いて、ポリイミド膜(比較例1)を作製した。
【0062】
−比較例2−
ポリアミド酸溶液B[PAA(6FDA−TAPOB)TMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]をそのまま用いて、ポリイミド膜(比較例2)を作製した。
【0063】
−実施例3−
ポリアミド酸溶液C[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)溶液]に、所定量の(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]を加え、更に、MPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例3)を作製した。
【0064】
−実施例4−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例3と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例4)を作製した。
【0065】
−実施例5−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例3と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:30wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例5)を作製した。
【0066】
−比較例3−
ポリアミド酸溶液C[PAA(SA導入6FDA−TAPOB)溶液]をそのまま用いて、ポリイミド膜(比較例3)を作製した。
【0067】
−実施例6−
ポリアミド酸溶液D[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)溶液]に、所定量の(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]を加え、更に、MPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例6)を作製した。
【0068】
−実施例7−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例6と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例7)を作製した。
【0069】
−実施例8−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例6と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:30wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例8)を作製した。
【0070】
−比較例4−
ポリアミド酸溶液D[PAA(6FDA−TAPOB/6FDA−BDSA)(1/1)溶液]をそのまま用いて、ポリイミド膜(比較例4)を作製した。
【0071】
−実施例9−
ポリアミド酸溶液E[PAA(6FDA−ODA)溶液]に、所定量の(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン[MPTrMOS]を加え、更に、MPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−ODA)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例9)を作製した。
【0072】
−実施例10−
MPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例9と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−ODA)MPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例10)を作製した。
【0073】
−比較例5−
ポリアミド酸溶液E[PAA(6FDA−ODA)溶液]をそのまま用いて、ポリイミド膜(比較例5)を作製した。
【0074】
なお、下記表においては、各実施例及び比較例に係るポリイミド膜の組成(ポリイミド−シリカハイブリッドの組成)を示しており、各組成の接頭に付した「PI」とは、ポリイミドを示すものである。
【0075】
【表1】

【0076】
かかる表1からも明らかなように、本発明に従って、無機酸化物相たるシリカ相にスルホン酸基が導入されたポリイミド−シリカハイブリッドからなる膜(実施例1〜10)にあっては、優れたプロトン伝導度を有することが、認められたのである。
【0077】
−実施例11−
ポリアミド酸溶液A[PAA(6FDA−TAPOB)溶液]に、所定量のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン[TFPTrMOS]を加え、更に、TFPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB)TFPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例11)を作製した。
【0078】
−実施例12−
TFPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例11と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−TAPOB)TFPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例12)を作製した。
【0079】
−実施例13−
ポリアミド酸溶液E[PAA(6FDA−ODA)溶液]に、所定量のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン[TFPTrMOS]を加え、更に、TFPTrMOSに対して4.5mol%となる量のイオン交換水を加え、24時間、撹拌し、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−ODA)TFPTrMOS溶液、シリカ含有量:10wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例13)を作製した。
【0080】
−実施例14−
TFPTrMOSの使用量(及びイオン交換水の添加量)を変更した以外は実施例13と同様の条件に従い、ポリアミド酸溶液[PAA(6FDA−ODA)TFPTrMOS溶液、シリカ含有量:20wt%]を調製した。得られたポリアミド酸溶液を用いて、ポリイミド膜(実施例14)を作製した。
【0081】
なお、下記表2には、実施例9及び10、比較例1及び5に係る各ポリイミド膜について測定した接触角の値を、比較のために併せて示している。
【0082】
【表2】

【0083】
かかる表2からも明らかなように、本発明に従って、無機酸化物相たるシリカ相にトリフルオロプロピル基が導入されたポリイミド−シリカハイブリッドからなる膜(実施例11〜14)にあっては、特に優れた撥水性を発揮することが、認められたのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド相と、一種以上の機能基を有する無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドからなるポリイミド系ハイブリッド材料。
【請求項2】
前記機能基が、チオール基、スルホン酸基又はフルオロアルキル基である請求項1に記載のポリイミド系ハイブリッド材料。
【請求項3】
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン及び/又は芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有するポリアミド酸と、下記式(1)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた化合物をイミド化せしめてなるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド系ハイブリッド材料。
1mM(OR2n・・・式(1)
1 :チオール基、スルホン酸基及びフルオロアルキル基のうちの少なくとも一 種以上を有する原子団
2 :炭化水素基
M:Si、Mg、Al、Zr又はTiの何れかの原子
m、n:正の整数
m+n:原子Mの原子価
【請求項4】
前記機能基がスルホン酸基である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリイミド系ハイブリッド材料からなる固体電解質膜。
【請求項5】
前記機能基がフルオロアルキル基である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリイミド系ハイブリッド材料からなる撥水性フィルム。


【図1】
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【公開番号】特開2011−111546(P2011−111546A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270001(P2009−270001)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】