説明

ポリイミド繊維及びその利用、並びに当該ポリイミド繊維の製造方法

【課題】長期耐熱性に優れるポリイミド繊維を提供する。
【解決手段】芳香族系のジアミン100モルに対し、シロキサンジアミンを1〜30モル併用し、テトラカルボン酸無水物を加え、ポリアミド酸溶液を合成する。これを乾式紡糸で、10℃、50℃、150℃の三段気流で溶剤を除き、たがいに結合することのないポリアミド酸繊維をえる。つぎに加熱炉で200℃、300℃、400℃の三段階の温度で焼成し、ポリアミド酸繊維をイミド化することでポリイミド繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド繊維及びその利用、並びに当該ポリイミド繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性、難燃性、耐薬品性、並びに高い電気絶縁信頼性の観点から種々の用途に用いられている。例えば、フィルム体は高い絶縁信頼性や耐環境安定性を有することから、各種携帯電話用途の電気絶縁基板や、電線被覆材料として広く用いられている。また、ポリイミド成形体等は、耐磨耗性、耐熱性、及び耐薬品性に優れることからベアリング軸受け等に使用されている。また、発泡体や繊維状等のポリイミド樹脂も研究開発が進められている。
【0003】
中でも、ポリイミド繊維は、一般の有機高分子樹脂の繊維に比較して高温安定性及び耐薬品性に優れることから、排ガス処理用の耐熱性バグフィルター(例えば、特許文献1〜3参照。)や耐熱服(例えば、特許文献4参照。)、更には、各種電気絶縁材料の基材として広く用いられている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
ポリイミド繊維としては、有機溶剤可溶性のポリイミド樹脂を乾式紡糸法により紡糸したフィラメント状のポリイミド繊維が用いられている(例えば、特許文献6〜8参照。)。
【特許文献1】特許3133856号明細書(2001年2月13日公開)
【特許文献2】特許3722259号明細書(2005年11月30日公開)
【特許文献3】特許2662735号明細書(1997年10月15日公開)
【特許文献4】特開平1−292120号公報(1989年11月24日公開)
【特許文献5】特開平11−200210号公報(1999年7月2日公開)
【特許文献6】特公昭63−27444号公報(1988年6月3日公開)
【特許文献7】特許2935864号明細書(1999年8月16日公開)
【特許文献8】特開平4−257315号公報(1992年9月11日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成のポリイミド繊維では、ガラス転移温度を有する繊維であるため、長期耐熱性の観点では、まだ不十分であった。
【0006】
本発明は、難燃性、耐熱性及び耐薬品性等に優れるというポリイミド繊維の特性を有することに加えて、ガラス転移温度を有しないポリイミド繊維であり高温時の長期耐熱性に優れる繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するポリイミド繊維を用いることで上記問題点を解決しうることを見出した。
【0008】
すなわち、本願発明のポリイミド繊維は、下記一般式(1)で示す構造を有するポリイミド繊維である。
【0009】
【化5】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【0010】
【化6】

また、本願発明の別の発明は、ポリイミド繊維を用いた不織布である。
【0011】
また、本願発明の別の発明は、ポリイミド繊維を用いた耐熱性フィルターである。
【0012】
また、本願発明の別の発明は、ポリイミド繊維を含む織布である。
【0013】
また、本願発明の別の発明は、下記一般式(2)からなるポリアミド酸溶液を乾式紡糸することで製造することを特徴とするポリイミド繊維の製造方法である。
【0014】
【化7】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【0015】
【化8】

【発明の効果】
【0016】
本願発明のポリイミド繊維は高温下での長期安定性に優れており、これまでのポリイミド繊維では使用が困難であった環境下での使用を可能としており、過酷な耐熱環境下での使用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明のポリイミド繊維は、下記一般式(1)で示す構造を有するポリイミド繊維である。
【0018】
【化9】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【0019】
【化10】

本願発明におけるポリイミド繊維とは、上記構造を有するポリイミド樹脂であって、特に構造中にシロキサン骨格を有するポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂にシロキサン骨格を導入する方法として、本願発明のポリイミド樹脂では、下記一般式(3)で示す構造を有するシロキサンジアミンを併用することでポリイミド樹脂の構造骨格中にシロキサン骨格を導入することができる。
【0020】
【化11】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。)。
【0021】
このようなシリコンジアミンを併用することでポリイミド繊維の吸水率を低くすることができ、しかも従来の反応では難しかったポリイミド繊維のイミド化反応を促進することができることを見出した。
【0022】
特に、本願発明で好適に用いることのできるシロキサンジアミンとは、一般式(3)における式中のR、Rがメチル基、エチル基、フェニル基、フェノキシ基から選ばれる有機基であり、mが5〜20の整数、nが2〜10の整数であるシロキサンジアミンを用いることが好ましい。このような構造のシロキサンジアミンを用いることでポリイミド樹脂のイミド化が進みやすくなるので好ましく、その結果、長期耐熱性に優れるポリイミド繊維を得ることができる。
【0023】
尚、上記シロキサンジアミンの使用割合は、全ジアミン量を100モルとした場合に、1モル以上50モル以下の割合で使用することが好ましく、特に、1モル以上30モル以下の割合で使用することが好ましい。シロキサンジアミンの使用割合が1モル以下の場合には、ポリイミド樹脂のイミド化率が低下する傾向がある。また、50モルよりも多く使用した場合、ポリイミド樹脂の耐熱性が極端に低下する傾向がある。
【0024】
また、上記シロキサンジアミンと下記一般式(4)で表されるジアミンを併用することで耐熱性が向上するので好ましい。
【0025】
【化12】

(式中、Rは2価の有機基である。)。
【0026】
本願発明のポリイミド繊維に好適に用いることのできる一般式(4)で表されるジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、(4−アミノフェノキシフェニル)(3−アミノフェノキシフェニル)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,3’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)] −1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、p-フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、m−フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)及びビスフェノールA−ビス(4−アミノベンゾエート)の中から選ばれるジアミンを用いることが好ましい。
【0027】
特に、芳香族系のジアミンである、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン及びビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタンの中から選ばれるジアミンを用いることでポリイミド繊維の耐熱性や耐薬品性が向上するので好ましい。
【0028】
上記一般式(4)で表されるジアミンは、全ジアミン量を100モルとした場合に、50モル以上99モル以下の割合で使用することが好ましく、特に、70モル以上99モル以下の割合で使用することが好ましい。一般式(4)のジアミンの使用割合が50モル以下の場合には、ポリイミド繊維の耐熱性が低下する傾向にある。一方、使用割合が、99モル以上の場合には、ポリイミド繊維のイミド化が進みにくく、長期耐熱性が低下する傾向がある。
【0029】
本願発明のポリイミド繊維は、下記構造を有する酸二無水物を用いることで本願発明に好適なポリイミド繊維を作ることが可能となる。
【0030】
本願発明において好適に用いることのできる酸二無水物とは、下記一般式(5)で表される構造を有するテトラカルボン酸二無水物である。
【0031】
【化13】

(式中、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。
【0032】
【化14】

上記構造を有する酸二無水物を用いることで、ポリイミド繊維の耐熱性が向上するので好ましい。中でも特に好適に用いることのできる酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物である。
【0033】
本願発明のポリイミド繊維は一般式(3)で示されるシロキサンジアミンと、一般式(4)で示されるジアミン、及び、一般式(5)で表される酸二無水物を用いて、下記一般式(2)で表されるポリアミド酸溶液を合成した後、紡糸してポリイミド繊維をえることができる。
【0034】
【化15】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【0035】
【化16】

上記ポリアミド酸溶液の合成に用いられる有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン、ジオキソラン等の水溶性エーテル化合物、プロピレングリコール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が用いられる。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。中でもN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機極性アミド系溶剤とテトラヒドロフラン、ジオキソラン、アセトン、メタノール、エタノール等の低沸点溶剤を併用することで紡糸直後に低沸点溶剤が揮発して成型しやすくなり、しかも、有機極性アミド系溶剤が残ることでポリアミド酸のイミド化温度を下げる効果があり、イミド化が進み易くなるので好ましい。高沸点溶剤と低沸点溶剤の混合割合は、高沸点溶剤重量/低沸点溶剤重量が0.2〜3.0の範囲で調整することが成型を行う上で好ましい。
【0036】
本願発明におけるポリアミド酸溶液の製造方法では、前記酸二無水物の使用量と前記ジアミン及びシロキサンジアミンの合計使用量がそれぞれのモル数に対する比として好ましくは0.90〜1.10で制御することで本願発明の紡糸に適したポリアミド酸溶液を調整することができる。より好ましくは0.95〜1.05で反応させポリアミド酸とすることが好ましい。このような反応比率で反応させることでポリアミド酸溶液からポリイミドへのイミド化の際に分子量の低下が起きず、耐熱性、耐薬品性に優れるポリイミド繊維を製造することができるので好ましい。
【0037】
ポリアミド酸溶液のポリマー濃度としては、固形分濃度として0.1〜50重量%、特に好ましくは1〜40重量%である。ポリアミド酸の重合条件としては、不活性ガス雰囲気下で−20〜60℃、好ましくは50℃以下で攪拌することで、目的とするポリアミド酸を重合することができる。
【0038】
上記ポリアミド酸溶液もしくは、ポリイミド溶液は、紡糸する前に、脱水剤、イミド化触媒、各種フィラー、酸化防止剤、難燃剤、消泡剤、潤滑材、着色剤等を1種あるいは2種以上、混合しておくこともできる。脱水剤としては、無水酢酸が好ましく用いられる。イミド化触媒としては、3級アミンを用いることが好ましく、より好ましいものは、ピリジン、ピコリン、イソキノリンを用いることが好ましい。
【0039】
尚、本願発明の紡糸用途のポリアミド酸溶液もしくはポリイミド樹脂溶液は、B型粘度計で測定した場合に、23℃で300ポイズ以上10000ポイズ以下の溶液粘度を有することが紡糸したときに安定して紡糸できるので好ましい。特に好ましくは、溶液粘度は500ポイズ以上6000ポイズ以下、特に好ましい溶液粘度は1000ポイズ以上4000ポイズ以下に制御することが好ましい。
【0040】
<紡糸方法>
本願発明のポリイミド繊維の製造方法は、一般的な乾式紡糸方法を用いることが好ましい。乾式紡糸を用いることでポリアミド酸溶液からポリイミドへのイミド化反応が進み易く、ポリイミド樹脂の分子量が低下しにくいので好ましい。
【0041】
具体的な紡糸方法の一例を図示しながら説明する。
【0042】
本願発明における乾式紡糸とは、図1に示す様に、紡糸直後に気流中に紡糸繊維を放出して気流中の熱交換及び溶剤交換により紡糸繊維中の溶剤を揮発させ、それぞれの紡糸繊維同士が結合しないようにする紡糸方法である。
【0043】
より具体的には、ポリアミド酸溶液は、紡糸用のダイス1に供給されて、ダイスに開けられた穴(オリフィス)2から気流中に吐出される。オリフィスの直径は、必要とする繊維径により適宜選定することができる。好ましくは、直径が0.01mm以上5.00mm以下の直径のオリフィス径を有するダイス1を用いることが好ましい。尚、本願発明においては、ポリアミド酸溶液を吐出前にイミド化触媒の混合や、脱水剤を混合することもできる。また、気流は気流発生装置3から発生する気流であって、紡糸円筒4の内部温度を紡糸繊維から溶剤を揮発させる温度に加熱される。本願発明における気流発生装置3から発生させる気流の温度は、0℃以上250℃以下であることが好ましく、特に10℃以上200℃以下であることが好ましい。気流の温度が高い場合には、紡糸直後の繊維の粘度が低くなり繊維形状を維持できない場合がある。一方、気流の温度が低い場合には、溶剤の揮発量が少なく紡糸繊維同士が結合し易くなる傾向にある。
【0044】
オリフィス2から吐出されたポリアミド酸溶液は、紡糸円筒内4内で乾燥される。乾燥されて繊維形状に成型されたポリアミド酸繊維5は円筒装置から外部に取り出す際には束ねられる。束ねられたポリアミド酸繊維は、加熱炉7の内部で加熱されて乾燥・イミド化が行われる。また、ニップロール6とニップロール8の速度を調整することで炉内でポリアミド酸繊維を延伸することができる。本願発明における延伸倍率は、ニップロール6の搬送速度Aと、ニップロール8の搬送速度Bから算出される値であって、延伸倍率=B/Aで算出することができる。本願発明における好適な延伸倍率は、0.80以上5.00以下の割合で制御することが好ましい。延伸倍率は紡糸繊維の化学構造により適宜選定されることが好ましく、シリコン骨格の含有割合が少ない場合には、延伸倍率が低い方が好ましく、一方、シリコン骨格の含有割合が多い場合には、延伸倍率を高く制御することが好ましい。
【0045】
加熱炉7は複数の加熱炉からなっていてもよく、その場合、低温から高温へと温度を変化させることが好ましい。加熱炉の温度は、樹脂構造により適宜選定することが好ましいが、ポリイミド樹脂の長期耐熱温度を高めるためには、十分にイミド化を進めることが好ましく、そのような制御を行うためには、加熱炉7の最高加熱温度は、300℃以上であることが好ましい。つまり、一例を述べるならば、本願発明のポリイミド繊維の焼成は、4台の加熱炉を設置した場合、200℃、300℃、400℃℃と加熱を行い、焼成後は冷却して巻き取ることが好ましい。
【0046】
本願発明のポリイミド繊維は、ニップロール8を経由した後に、巻き取り装置9により巻き取ることによりフィラメントとして得ることができる。尚、本願発明においてはポリイミド繊維を束ねることなく紡糸することでモノフィラメントとして巻き取ることもできる。
【0047】
本願発明のポリイミド繊維は、フィラメントとして得られるため、その繊維を用いて織布に成型することができ、例えば耐熱服や、耐熱性フィルター等の用途に好適に用いることができる。
【0048】
また、フィラメントをチョップドファイバーに加工して、不織布に加工することで耐熱性のマットや、バグフィルター用途に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<繊度>
得られたポリイミド繊維を1mに切断したものを10本作製した。このポリイミド繊維の重量(A)を測定して下記算出式により繊度を算出した。
繊度(dtex)=A÷10×10000
<弾性率の測定方法>
オートグラフ(島津工業株式会社製 AJS−J)を用いて、測定を行った。
【0051】
<長期耐熱性>
得られたポリイミド繊維を、150℃、4気圧の飽和水蒸気下で24時間、分解加速試験を行った。加速試験後に、繊維の伸びを測定して、10%以上伸びる繊維を合格とした。
【0052】
<耐薬品性試験>
30℃、10%の塩酸水溶液に30分間浸漬した後に、水洗を行い、60℃のオーブン中で30分間乾燥を行った。この繊維の伸びを測定して、10%以上伸びる繊維を合格とした。
【0053】
<難燃性>
ポリイミド繊維を30cm切り出して、垂直になるように設置する。下部より炎を近づけて燃焼させる。燃焼の炎が10秒以内に自己消火する繊維を合格とした。
【0054】
(合成例1)
チッソ置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、シロキサンジアミン(一般式(3)中のR、Rがメチル基、mが9、nが3、分子量910)を13.7g(0.015モル)投入して、その溶液中にN,N−ジメチルホルムアミドを249g投入して溶解した。
【0055】
【化17】

この溶液中に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル57.2g(0.285モル)を投入して溶解させた。ジアミンを溶解した溶液中に、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも言う。)32.8g(0.150モル)を投入して完全に溶解した。この溶液にアセトン373gをポリアミック酸が析出しないように注意しながら、少量ずつ添加した。この溶液に32.8g(0.150モル)のPMDAを投入して1時間均一攪拌を行い、紡糸用のポリアミド酸溶液を得た。
【0056】
(合成例2)
チッソ置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、シロキサンジアミン(一般式(3)中のR、Rがメチル基、mが9、nが3、分子量910)を2.7g(0.003モル)投入して、その溶液中にN,N−ジメチルホルムアミドを233g投入して溶解した。
【0057】
【化18】

この溶液中に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル59.6g(0.297モル)を投入して溶解させた。ジアミンを溶解した溶液中に、ピロメリット酸二無水物32.8g(0.150モル)を投入して完全に溶解した。この溶液にアセトン350gをポリアミック酸が析出しないように注意しながら、少量ずつ添加した。この溶液に32.8g(0.150モル)のPMDAを投入して1時間均一攪拌を行い、紡糸用のポリアミド酸溶液を得た。
【0058】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液を用いて紡糸実験を行った。紡糸実験は図1と同様の装置を用いて行った。ダイス1のオリフィス2の数は10孔として実験を行った。オリフィスの直径は0.2mmのダイスを用いた。オリフィスの形状は円形の形状のものを用いた。ポリアミド酸溶液の吐出量は、0.05g/分/1孔に調整して紡糸を行った。
気流発生装置3の温度は、3段の温度で紡糸を行い、紡糸円筒4上段の気流発生装置から中段の気流発生装置、下段の気流発生装置の各温度を10℃、50℃、150℃に調整を行い紡糸を行った。各オリフィスから吐出される繊維はお互いに結合することの無い繊維として取得された。
成型されたポリアミド酸繊維5は、束ねられてニップロール6により引き取られた。ポリアミド酸繊維は、ニップロール6を通過した後に、加熱炉7中で加熱された。加熱炉の温度は、200℃、300℃、400℃の3段階の温度で焼成した。
焼成炉内でポリアミド酸繊維はポリイミド繊維へとイミド化された。イミド化工程の途中で延伸するために、ニップロール8でポリイミド繊維を延伸した。延伸倍率は、1.10で延伸を行ってポリイミド繊維を得た。
ポリイミド繊維は、巻き取り装置9により巻き取った。
得られたポリイミド繊維の物性評価を行った。その結果を表1に纏める。
【0059】
(実施例2)
合成例2で得られたポリアミド酸溶液を用いて紡糸実験を行った。紡糸実験は図1と同様の装置を用いて行った。ダイス1のオリフィス2の数は10孔として実験を行った。オリフィスの直径は0.2mmのダイスを用いた。オリフィスの形状は円形の形状のものを用いた。ポリアミド酸溶液の吐出量は、0.05g/分/1孔に調整して紡糸を行った。
気流発生装置3の温度は、3段の温度で紡糸を行い、紡糸円筒4上段の気流発生装置から中段の気流発生装置、下段の気流発生装置の各温度を10℃、50℃、150℃に調整を行い紡糸を行った。各オリフィスから吐出される繊維はお互いに結合することの無い繊維として取得された。
成型されたポリアミド酸繊維5は、束ねられてニップロール6により引き取られた。ポリアミド酸繊維は、ニップロール6を通過した後に、加熱炉7中で加熱された。加熱炉の温度は、200℃、300℃、400℃の3段階の温度で焼成した。
焼成炉内でポリアミド酸繊維はポリイミド繊維へとイミド化された。イミド化工程の途中で延伸するために、ニップロール8でポリイミド繊維を延伸した。延伸倍率は、1.10で延伸を行ってポリイミド繊維を得た。
ポリイミド繊維は、巻き取り装置9により巻き取った。
得られたポリイミド繊維の物性評価を行った。その結果を表1に纏める。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】乾式紡糸装置の模式図
【符号の説明】
【0062】
1 紡糸用のダイス
2 穴(オリフィス)
3 気流発生装置
4 紡糸円筒
5 ポリアミド酸繊維
6 ニップロール
7 加熱炉
8 ニップロール
9 巻き取り装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の構造を有するポリイミド繊維。
【化1】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【化2】

【請求項2】
請求項1記載のポリイミド繊維を用いた不織布。
【請求項3】
請求項1記載のポリイミド繊維を用いた耐熱性フィルター。
【請求項4】
請求項1記載のポリイミド繊維を含む織布。
【請求項5】
下記一般式(2)からなるポリアミド酸溶液を乾式紡糸することで製造することを特徴とするポリイミド繊維の製造方法。
【化3】

(式中、R、Rは炭素数1〜12のアルキル基もしくは芳香族基であり、R、Rは同一であっても異なっていても良い。mは1〜40の整数、nは1〜20の整数を示す。R、Rは下記一般式群(1)より選ばれる4価の芳香族基である。式中Xは、O、C=O、SOから選ばれる基である。Rは2価の有機基である。a、bは1以上の整数を示す。)
【化4】


【図1】
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【公開番号】特開2009−228190(P2009−228190A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78776(P2008−78776)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】