説明

ポリインジゴフィルムおよびその製造方法

【課題】容易に再加工でき、かつ、高耐熱性を有するポリインジゴフィルムを提供する。
【解決手段】アセチル等基で保護されたジケトベンゾジピールを用い、保護基を切断すると同時に酸化重合し、得られたポリインジゴより形成されるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリインジゴフィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐熱性を有するフィルムとして、ポリベンゾオキサゾールもしくはポリベンゾチアゾール等から構成されるポリベンザゾールフィルムやポリ−p−フェニレンテレフタルアミド等のアラミドフィルム、カプトン(登録商標)として知られているポリイミドフィルム等が知られている。
【0003】
近年、石油資源の問題や廃棄物の問題から、ポリエチレンテレフタレート、6,6−ナイロン等の汎用ポリマーでは、その成形品を使用後に回収して再利用することが活発に研究され、実用化段階に移ってきている。具体的には、これらの汎用ポリマーを燃やして熱エネルギーとして再利用するサーマルリサイクル、再溶融等してフィルムやトレー等に再加工したりするマテリアルリサイクル、回収したポリマーを化学的に処理してモノマーまで分解し、新たに重合して再利用するケミカルリサイクルのため種々の方法が開発され、実用化され始めている。
【0004】
前述のような高耐熱性フィルムの場合は、ポリマーの融点が分解点よりも高いため、再溶融して成形することができるものではない。また、一度成形してしまうと再び溶剤に溶かすことも極めて困難であり、溶剤に溶解して再成形して加工することはほとんど無いのが現状である。
従って、従来の高耐熱性フィルムでは、マテリアルリサイクルが困難であるため、容易に再加工が可能で、耐熱性に優れたフィルムの開発が強く望まれている。
【0005】
一方、耐熱性に優れたポリマー材料として、例えば特許文献1に、下記式
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Arは、炭素数6〜18の芳香族基を示し、XとX’は、N−R’およびC=Oを示し、R’は、水素原子、低級アルキル基、アリル基、アラルキル基を示す。)
で表されるインジゴ様構造を有するポリマー(本発明においては、後述のように当該ポリマーをポリインジゴと呼ぶ。)が開示されている。しかし、このポリマーは、耐熱性、耐溶剤性に非常に優れているため、かえってそれが加工を困難とし、これまでにフィルムの形態で得られることはなかった。
【特許文献1】米国特許3414545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、力学物性や耐熱性に優れたポリインジゴが知られていた。しかしこのポリマーは成形が困難であり、フィルム材料として用いられたことはなく、また、再加工もできなかった。
そこで本発明が解決すべき課題は、ポリインジゴフィルムの製造方法と、当該方法により製造されたポリインジゴフィルムであり、耐熱性に優れた、再加工可能なポリインジゴフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ポリインジゴをいったん還元すれば加工が容易になり、ポリインジゴフィルムが得られることを見出して本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の構成からなる。
〔1〕下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー{以下、ポリマー(1)ともいう}、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー{以下、ポリマー(2)ともいう}、または下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマー{以下、ポリマー(3)ともいう}より形成されるポリインジゴフィルム。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、または置換基を有しても良いベンジル基を示す。)
〔2〕ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)の還元体の溶液を調製し、当該溶液を基材上に塗布した後、当該還元体を酸化することを特徴とするポリインジゴフィルムの製造方法。
〔3〕 前記還元体の溶液が、ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)を、塩基性水溶液中でハイドロサルファイトを用いて還元して得られたものである上記〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 前記還元体の溶液が、ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)を、アルコール中で水素化ホウ素塩を用いて還元して得られたものである上記〔2〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来、加工が困難であったポリインジゴのフィルム化が可能となり、高耐熱性を有するフィルムを製造することができる。そして、本発明のフィルムは、高耐熱性が要求される産業用資材に広く適用可能であり、産業上極めて有用である。また、本発明のフィルムは、再び還元することによって再加工も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、ポリマー(1)、ポリマー(2)またはポリマー(3)より形成されるフィルムである。
【0016】
〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、または置換基を有しても良いベンジル基を示す。
【0017】
〜Rで表されるハロゲン原子の例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
〜Rで表される低級アルキル基とは、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基をいい、例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。これらのうち、メチル基、エチル基、tert−ブチル基が好ましい。
【0018】
フェニル基およびベンジル基が有しても良い置換基としては、メチル基等が挙げられる。
【0019】
〜Rとしては、水素、メチル基が好ましく、水素がより好ましい。
【0020】
ポリマー(1)は、式(1)で表される繰り返し単位において、Rおよび/またはRが上記定義内で異なる2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよいし、Rおよび/またはRが上記定義内で異なる2種以上のホモポリマーの混合物であってもよく、ポリマー(1)は、単独のホモポリマーであることが好ましい。
ポリマー(2)は、式(2)で表される繰り返し単位において、Rおよび/またはRが上記定義内で異なる2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよいし、Rおよび/またはRが上記定義内で異なる2種以上のホモポリマーの混合物であってもよく、ポリマー(2)は、単独のホモポリマーであることが好ましい。
ポリマー(3)は、式(3)で表される繰り返し単位において、R〜Rが上記定義内で異なる2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよいし、R〜Rが上記定義内で異なる2種以上のコポリマーの混合物であってもよく、ポリマー(3)は、R〜Rがそれぞれ1種のみである単独種のコポリマーであることが好ましい。
ポリマー(3)は、共重合体構造を有するものであるが、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。また、ポリマー(3)の共重合組成比については、特に制限はない。
【0021】
ポリマー(1)、ポリマー(2)およびポリマー(3)において、各繰り返し単位間の立体配置には特に制限はない。例えば、ポリマー(1)においては、各繰り返し単位は、隣り合う繰り返し単位に対し、以下のいずれの立体配置をとってもよい。
【0022】
【化5】

【0023】
ポリマー(1)、ポリマー(2)およびポリマー(3)の具体例としては、下記式で表される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
本発明においてポリインジゴとは、例えば、式(1)、式(2)、式(3)で表されるような、ジケトベンゾジピロール類を酸化重合することにより得られる構造と同様の構造を有するポリマー、つまりインジゴ様の構造が繰り返される構造を有するポリマーのことをいう。
【0031】
これらポリマー(1)、ポリマー(2)またはポリマー(3)をフィルム化することによって、高耐熱性のフィルムが得られる。
本発明のフィルムは、ポリマー(1)、ポリマー(2)またはポリマー(3)のいずれか単独で形成されていてもよいし、ポリマー(1)、ポリマー(2)またはポリマー(3)の2種以上から形成されていてもよい。本発明のフィルムは、ポリマー(1)、ポリマー(2)またはポリマー(3)のいずれか単独で形成されることが好ましい。
【0032】
本発明のフィルムの大きな特徴は、高耐熱性を有することである。本発明のフィルムは融点を持たず、その熱分解温度は化学構造に大きく依存するが、400〜900℃と非常に高い値を示す。
なお、本発明において熱分解温度とは、窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA測定)を行った場合に、フィルムの重量が5%減少するときの温度をいう。
【0033】
本発明のフィルムは、高耐熱性が要求される産業用資材に広く適用可能である。
【0034】
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明する。本発明のフィルムの製造方法には特に制限はないが、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー、または式(3)で表されるポリマーの還元体の溶液を調製し、当該溶液を基材上に塗布した後、当該還元体を酸化することを特徴とする方法により製造することが出来る。
【0035】
ポリマー(1)、ポリマー(2)およびポリマー(3)は、公知方法により合成して入手することができる。具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。
一つの方法として、下記反応式に示すように、ジケトベンゾジピロール類を酸化重合することによりポリマー(1)、ポリマー(2)およびポリマー(3)を合成することができる。
【0036】
【化12】

【0037】
(式中、RおよびRは、前記と同義であり、nおよびnは、2以上の整数を示し、mおよびmは、1以上の整数を表す。)
【0038】
この時、ジケトベンゾジピロール類を、水または適度な溶解能を有する有機溶剤や鉱酸に溶解させ、酸素等で酸化せしめる。好ましい有機溶剤としては、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトン等が挙げられる。また、鉱酸としては、硫酸、塩酸、ポリリン酸、メタンスルフォン酸等が挙げられる。この酸化に用いられる溶剤は、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、ジケトベンゾジピロール類の空気中での安定性が悪い場合は、N原子およびカルボニル基部分がアセチル基等の保護基で保護されていてもよい。この場合、酸または塩基により保護基を切断すると同時に酸素を供給して重合する。
【0040】
【化13】

【0041】
(式中、RおよびRは、前記と同義であり、nは、1以上の整数を表す。)
【0042】
得られたポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)を、溶媒の存在下、還元剤を用いて還元することにより、ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)の還元体の溶液を得ることができる。
(これ以後、ポリマー(1)、ポリマー(2)、ポリマー(3)を総じてポリインジゴAと呼ぶことがある。)
【0043】
使用される還元剤は、ポリインジゴAのケト基を還元し得るものであればその種類には特に制限はなく、例えば、ハイドロサルファイト、水素化ホウ素塩(例、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム)、水素化アルミニウム塩(例、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム)等が挙げられる。これらのうち、ハイドロサルファイトナトリウム、水素化ホウ素塩(特に水素化ホウ素ナトリウム)が好ましい。
還元剤の使用量としては、反応が進行し得る使用量であればよく、例えば、還元剤にハイドロサルファイトを使用する場合には、ポリインジゴAのケト基1モルに対し、通常0.55モル程度でよく、還元剤に水素化ホウ素塩を使用する場合には、ポリインジゴAのケト基1モルに対し、通常0.25モル程度でよい。
【0044】
使用される溶媒の種類は、反応を阻害するものでない限り特に制限はなく、還元剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。還元剤が、ハイドロサルファイトの場合には、溶媒は、塩基性溶媒を使用することができる。塩基性溶媒の例としては、水酸化ナトリウム水溶液(好ましい濃度としては、1.5規定程度)等が挙げられる。また、還元剤が水素化ホウ素塩の場合には、アルコール(例、メタノール)等を使用することができる。
溶媒の使用量としては、ポリインジゴA1gに対し、20〜25mL程度である。
【0045】
反応は、酸素が還元反応を阻害するため、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の酸素が存在しない雰囲気下で行うことが好ましい。
還元反応は、通常、約60〜65℃で1時間程度行えばよい。
【0046】
反応混合物について、ろ過等、常法により精製処理を行うことにより、ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)の還元体の溶液が得られる。当該溶液の溶媒は、フィルム化を容易にするため等の理由で、他の溶媒に置換されてもよい。
【0047】
また、ジケトベンゾジピロール類を、前述の還元反応と同様の方法により先に還元しておき(ジケトベンゾジピロール類の還元体を以下ロイコ体ともいう)、水やアルコールを溶媒に用いて重合して、ポリマー(1)、ポリマー(2)、またはポリマー(3)の還元体の溶液を得ることも可能である。具体例としては、水を溶媒として塩基性下でハイドロサルファイトナトリウム等を用いてジケトベンゾジピロール類を還元した後、空気中の酸素や過酸化水素水等により酸化重合せしめる。また別の具体例として、ジケトベンゾジピロール類を、アルコールを溶媒として塩基性物質共存下で水素化ホウ素ナトリウムにより還元してロイコ体とし、このロイコ体溶液を空気中の酸素や過酸化水素水等により酸化重合せしめる。この時、生成したポリマーが極めて高分子量になり、または、酸化が進みすぎて還元体からケトン体を生じて溶解度が減じて析出してしまうことがある。このため、再びハイドロサルファイトナトリウム類や水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を添加してポリマーの還元体を形成させて溶液にする。前述の有機溶剤や鉱酸中で酸化重合を行う場合、過度な高分子量のポリマーが生成して溶解度を減じ析出してしまうことがある。このため、酸化重合後、得られたポリマーを一度取り出し、同様にして還元体にしてこれらポリマーの還元体の溶液を得ることができる。
【0048】
なお、ジケトベンゾジピロール類の合成方法は代表的な方法として次の3つが知られている。1つはp−フェニレンジアミンを出発原料とするナトリウムアミド溶融法である(H.C.Bach,Polymer Preprints,9(2),1679頁(1968)参照)。
【0049】
【化14】

【0050】
(式中の各記号は前記と同義である。)
【0051】
2つ目は、モンサント社により開発されたジクロロベンゼンを出発原料とする方法である(ベルギー国特許第669175号公報参照)。
【0052】
【化15】

【0053】
(式中の各記号は前記と同義である。)
【0054】
3つ目はサンオイル社により開発されたピロメリット酸二無水物を出発原料とする方法である(米国特許第3600401号公報および第3505353号公報参照)。
【0055】
【化16】

【0056】
本発明に用いるジケトベンゾジピロール類は、どのような方法で合成されていても構わないが、構造異性体含まないジクロロテレフタル酸を出発物質とする合成方法が最も好ましい。
【0057】
このようにして得られる還元体の溶液を、基材上に均一の厚さになるように塗布する。その後、この基材を空気または酸素に曝すことにより、塗布物中の還元体を酸化することができる。還元体が酸化されると、水やアルコールに対する溶解度が減じて系から析出し、フィルム状に成形される。
【0058】
塗布する際の還元体の溶液中の濃度は、酸化された還元体が析出してフィルム状に成形される濃度であれば特に制限はない。
【0059】
溶液を塗布する基材は、フィルム製膜において使用される公知の基材を使用することができ、可撓性高分子フィルムが好適である。可撓性高分子フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂等からなるフィルムおよびこれらの多層成形フィルムが挙げられる。
【0060】
塗布の方法は、通常フィルム製膜において行われる方法を採用すればよい。
【0061】
塗布物中の還元体の酸化は、溶液が塗布された基材を空気中に曝すのみで、行うことができ、酸化を効率よく行うために、当該基材を、酸素を充填した空間中に静置するなどして、酸素に曝してもよい。
【0062】
成形されたフィルムは、水、アルコール等の溶剤により洗浄され、還元剤、酸化剤等が除去される。その後、必要に応じてフィルムを乾燥、熱処理等する。フィルムの乾燥は、常圧または減圧下で加熱することにより行うことができる。この乾燥の際には、フィルムが著しく収縮するため、金属等で作られたフレームに固定する方法を利用しても良い。高温で急激に乾燥すると、内部にクラック等の微細な欠点を生じることがあるため、常温で風乾するか、もしくは緩やかな熱風方式(熱風の温度としては、例えば約100℃)で乾燥することが好ましい。この時の乾燥は真空下で行うこともできる。
【0063】
なお、塗布された還元体溶液と支持体フィルムとを一体化して、一体化した支持体フィルム積層体をテンタークリップで挟み延伸する方法も好ましい。支持体フィルムは、還元体溶液の両側面で一体化してもよく、片側面だけを張り合わせてもよい。両面を張り合わせた場合には、キャスト後に少なくとも片側の支持体フィルムを引き剥がし、ポリマーの酸化を行う必要がある。
【0064】
このようにして得られるフィルムは、高耐熱性を有し、高耐熱性が要求される産業用資材に広く適用可能である。
【0065】
本発明のフィルムは、上記製造方法と同様に、本発明のフィルムを還元し、フィルムの還元体の溶液を、基材上に塗布した後、当該還元体を酸化するという手法により、再加工が可能である。
従って、本発明のフィルムは、高耐熱性を有すると共に、当該フィルムのポリマーを溶液化して成形等することにより容易に再加工でき、マテリアルリサイクルが可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
まず、評価方法は、以下の通りである。
熱分解温度:マックサイエンス社製のTGAを用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で熱重量減少を測定し、耐熱性を評価した。重量が5%減少する温度を熱分解温度とした。
【0068】
また、製膜は以下のようにして行った。
製膜:ロイコ体に還元したポリインジゴ水溶液をエバポレーターで適当な溶液粘度になるように濃縮後、反応溶液を20ml分取して5cm×5cmのガラスプレート上に塗布した。その後、室温で10分間放置してポリマーを空気酸化した。遊離してきたフィルムを流水で洗浄し、フィルムを正方形の枠に固定した。その後、室温、3mmHgで5時間、次いで100℃、3mmHgで1時間乾燥した。得られたフィルムの厚さは30〜50μmであった。
【0069】
実施例1
窒素気流下、水300mlと水酸化ナトリウム48.0gからなる塩基性水溶液に室温で窒素ガスを15分間吹き込んだ。この水酸化ナトリウム水溶液に2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール10gを激しく撹拌しながら加えた。その後、酸素ガスでこの水溶液をバブリングした。70分間撹拌した後、1N塩酸を滴下して反応溶液を酸性にした。生成した黒色物質をろ取した。水30mlで洗浄後、減圧乾燥し、乾燥した黒色ポリマー4.8gを得た。その後、水100mlに水酸化ナトリウム6.0gを溶解させ、窒素ガスを15分間吹き込んだ。そこへ黒色ポリマー4.8gを加えた。60℃に加熱した後、10分間かけてハイドロサルファイトナトリウム5.0gを添加した。60℃で1時間静かに撹拌すると溶液が透明になった。未溶解物をろ別後、上記の方法で製膜した。得られたフィルムの熱分解温度を表1に示す。
【0070】
実施例2
実施例1と同様にして得られたポリマーをメタノール100ml中に4.8g加え、窒素ガスを15分間吹き込んだ。窒素気流下、水素化ホウ素ナトリウム0.42gを撹拌しながら室温で添加した。その後、1時間還流下撹拌して溶液が透明になったところで未溶解物をろ別し、上記の方法で製膜した。得られたフィルムの熱分解温度を表1に示す。
【0071】
実施例3
窒素気流下、水300mlと水酸化ナトリウム48.0gからなる塩基性水溶液に室温で窒素ガスを15分間吹き込んだ。この水酸化ナトリウム水溶液に2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシ−4,8−ジメチルベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール10gを激しく撹拌しながら加えた。その後、酸素ガスでこの水溶液をバブリングした。70分間撹拌した後、1N塩酸を滴下して反応溶液を酸性にした。生成した黒色物質をろ取した。水30mlで洗浄後、減圧乾燥し、乾燥した黒色ポリマー4.5gを得た。その後、水100mlに水酸化ナトリウム6.0gを溶解させ、窒素ガスを15分間吹き込んだ。そこへ黒色ポリマー4.5gを加えた。60℃に加熱した後、10分間かけてハイドロサルファイトナトリウム5.0gを添加した。60℃で1時間静かに撹拌すると溶液が透明になった。未溶解物をろ別後、上記の方法で製膜した。得られたフィルムの熱分解温度を表1に示す。
【0072】
実施例4
窒素気流下、水300mlと水酸化ナトリウム40.0gからなる塩基性水溶液に室温で窒素ガスを15分間吹き込んだ。この水酸化ナトリウム水溶液に2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシ−4,8−ジフェニルベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール10gを激しく撹拌しながら加えた。その後、酸素ガスでこの水溶液をバブリングした。70分間撹拌した後、1N塩酸を滴下して反応溶液を酸性にした。生成した黒色物質をろ取した。水30mlで洗浄後、減圧乾燥し、乾燥した黒色ポリマー4.2gを得た。その後、水100mlに水酸化ナトリウム6.0gを溶解させ、窒素ガスを15分間吹き込んだ。そこへ黒色ポリマー4.2gを加えた。60℃に加熱した後、10分間かけてハイドロサルファイトナトリウム4.5gを添加した。60℃で1時間静かに撹拌すると溶液が透明になった。未溶解物をろ別後、上記の方法で製膜した。得られたフィルムの熱分解温度を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1より明らかなように、本発明のフィルムは高耐熱性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、高耐熱性のフィルムを提供できるため、産業用資材として実用性を高め利用分野を拡大する効果が絶大である。即ち、消防服、耐熱フェルト、プラント用ガスケット、耐熱織物、各種シーリング、耐熱クッション、フィルター等の耐熱耐炎部材、シリコンチップを実装するための高密度高性能回路基板等の電子材料用部材など、広範にわたる用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー、または下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーより形成されるポリインジゴフィルム。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、または置換基を有しても良いベンジル基を示す。)
【請求項2】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー、または式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーの還元体の溶液を調製し、
当該溶液を基材上に塗布した後、当該還元体を酸化することを特徴とするポリインジゴフィルムの製造方法。
【化4】

【化5】

【化6】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、または置換基を有しても良いベンジル基を示す。)
【請求項3】
前記還元体の溶液が、前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、前記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー、または前記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーを、塩基性水溶液中でハイドロサルファイトを用いて還元して得られたものである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記還元体の溶液が、前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、前記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマー、または前記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーを、アルコール中で水素化ホウ素塩を用いて還元して得られたものである請求項2記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−161968(P2007−161968A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363942(P2005−363942)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】