説明

ポリウレタン、該ポリウレタンの製造方法及び該ポリウレタンの組成物を用いた伝動ベルト

【目的】 ポリウレタン製伝動ベルトBの低μ化及び低騒音化を図る。
【構成】 ベルト用ポリウレタンを、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリウレタン、該ポリウレタンの製造方法及び該ポリウレタンの組成物を用いた伝動ベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】工作機械や成形機等の大型加工機の駆動用として高負荷伝動用歯付ベルトが用いられている。近年、高負荷条件で使用できる歯付ベルトの要求が高まってきており、これを受けてゴムよりも強度のあるポリウレタン樹脂を用い、そのポリウレタン樹脂のベルト本体中にアラミド繊維の心体を埋設し、さらに歯部を織布や不織布で補強することにより、高負荷条件に対応させる試みがなされている。
【0003】このようなポリウレタンベルトにおいて、摩擦係数μを下げる低μ化や低騒音化、耐屈曲疲労性の増大等の要求がある。上記低μ化及び低騒音化を図る目的として、従来、伝動ベルト用の樹脂組成物に潤滑剤として脂肪族アミド、芳香族アミド、テフロン(登録商標)又はパラフィンを添加することが知られている。例えば、実開昭57―194946号公報には、グラファイト、テフロン(登録商標)、樹脂パウダー、パラフィン、二硫化モリブデン、木ろう等の潤滑剤を配合してなるポリウレタン組成物によって伝動ベルトを形成することが記載されている。特開平3―346号公報、特開平5−133440号公報には、ポリウレタンに高級脂肪酸エステルを添加した組成物でタイミングベルトを構成することが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、グラファイト、テフロン、二硫化モリブデン等の潤滑剤は、ウレタンマトリックスへの分散が悪く、均一な製品を得ることが難しい。また、高級脂肪酸エステルの添加では、環境履歴によっては滑剤としての効果が失われ、特に高温条件下においたときにその傾向が顕著になる。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明では、ポリウレタン分子中に滑剤成分を取り込むことにより、環境変化による滑剤効果の低減を防ぐことができるようにしたものである。
【0006】すなわち、この出願の発明は、伝動ベルト等に用いられるポリウレタンに関するものであって、それは、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合していることを特徴とする。
【0007】ステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルは、滑剤としての効果を奏するが、それがポリウレタンの主鎖に側鎖として結合しているから、これを用いた製品では、当該滑剤成分が環境特性の変化によって飛散することがなく、長期間にわたって所定の低摩擦特性を維持することができる。また、製品表面が摩耗しても、当該滑剤成分が必ず表面に存在することになるので製品の摩擦摩耗特性の変化が少ない。
【0008】この出願の他の発明は、このようなポリウレタンの製造方法に関するものであって、それは、ウレタンプレポリマーに、水酸基又はアミノ基を有するステアリン酸系又はオレイン酸系のエステル及び硬化剤を添加し、加熱硬化させることを特徴とする。
【0009】これにより、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合してなるポリウレタンを得ることができる。
【0010】この出願のさらに他の発明は、伝動ベルトに関するものであり、それは、ベルト本体がポリウレタン組成物によって形成されていて、そのポリウレタンが、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合してなることを特徴とする。
【0011】この伝動ベルトの場合、滑剤成分としての上記エステルが環境特性の変化によって飛散することがなく、長期間にわたって所定の低摩擦特性を維持することができる。また、伝動ベルトにあっては、その使用によって表面が摩耗するが、その場合でも、滑剤成分が必ず表面に存在することになるので、その摩擦摩耗特性の変化が少ない。
【0012】
【発明の効果】従って、本発明によれば、伝動ベルト等に用いられるポリウレタンが、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合してなるものであるから、滑剤成分(ステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステル)が環境特性の変化によって飛散することがなく、また、製品表面が摩耗しても、当該滑剤成分が必ず表面に存在しているので、摩擦特性ないしは静寂性に永続性を有するポリウレタン製品(伝動ベルト)を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施例に係る高負荷伝動用の歯付ベルトBを示し、このベルトBは、基本的には従来の歯付ベルトと同様の構成で、内面に一定ピッチの間隔の歯部2,2,…を有するポリウレタン組成物からなるベルト本体1を備え、そのベルト本体1の各歯部2の底部に沿って抗張体としてのアラミド繊維からなる心体3が埋設されている。また、各歯部2には織布、編布、不織布等からなる補強材層4が形成されている。
【0014】そして、本発明の特徴とするところは、上記ベルト本体1を構成するポリウレタンにある。すなわち、このポリウレタンは、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合している。
【0015】従って、この実施例においては、ベルト本体1のポリウレタンの主鎖に結合した、ステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが滑剤としての効果を奏ることになり、当該歯付ベルトBの低μ化、低騒音化及びその保持を達成できる。
【0016】上記ポリウレタンは、ウレタンプレポリマーに、水酸基又はアミノ基を有するステアリン酸系又はオレイン酸系のエステル及び硬化剤を添加し、加熱硬化させることによって製造することができる。
【0017】−実施例評価試験−表1に示すポリウレタン組成物で実施例(発明例)及び比較例の各試験片を作成し、摩擦特性、摩耗特性及びベルト騒音特性を評価した。試験片については、熱老化処理を施さないフレッシュのものを発明例1、比較例1とし、当該処理を施したものを発明例2、比較例2とした。熱老化処理は80℃で144時間の加熱処理を行なうというものである。
【0018】
【表1】


【0019】発明例の製法は次の通りである。すなわち、ウレタンプレポリマー100重量部を80℃且つ減圧下(5mmHg)で攪拌しながら30分間加熱することにより、その脱泡を行なう。得られたものをA液とする。一方、硬化剤としてメチレンビスオルソクロロアニリンを用い、この硬化剤15重量部、DOP(ジオクチルフタレート)30重量部及びポリグリセリンオレイン酸エステル10重量部を混合し、攪拌しながら110℃に加熱することによってこれらを溶融状態にする。得られたものをB液とする。このB液と上記A液とを混合機によって混合攪拌した後、予め110℃に加熱した型内に注入し、同温度で60分間放置して硬化させる。
【0020】摩擦特性の評価は、HEIDN 14型試験機を用い、垂直荷重を200g、移動速度を25mm/分として、摩擦係数を測定することによって行なった。
【0021】また、摩耗特性の評価は、テーバー摩耗試験機を用い、摩耗輪の粗さをH22、回転数を1000回、荷重を1kgとして、摩耗量を測定することによって行なった。
【0022】ベルト騒音特性の評価は、図2に示すような騒音測定用の試験装置を用いて行なった。この試験装置は上下に配置された28T プーリからなる駆動及び従動プーリP1 ,P2 を備えており、両プーリP1 ,P2 間に3種類のベルトからなる試験片TA 〜TC を巻き掛け、下側の従動プーリP2 に下方へ160kgf の荷重をかけた状態で、上側の駆動プーリP1 をモータMにより1000rpm で回転させたときの、従動プーリP2 側方で回転軸線上300mmの位置での騒音をマイクロフォンにより測定した。試験片TA 〜TC は15mm幅、100T のS14M型ベルトである。また、暗騒音は62dBであり、等価騒音レベルを聴感補正(A)で補正した。
【0023】結果は表1に併せて示されている。発明例1と比較例1とを比べると、両者には各特性に大きな差がない。しかし、熱老化処理後のデータである発明例2と比較例2とを比べると、発明例2の方は、摩擦特性、摩耗特性及びベルト騒音特性が発明例1とほとんど変らないが、比較例2の方は、それらの特性が比較例1にからみて相当悪くなっている。このことから、発明例の場合は、熱による環境刺激を受けても永続的に摩擦摩耗特性、静寂性を保持し得ることがわかる。
【0024】ステアリン酸系エステルを用いる場合は、上記表に記載したポリグリセリンオレイン酸エステルに代えて、例えばポリグリセリンステアリン酸エステル(例えば日本油脂株式会社製「ユニグリGS−106」)を用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】伝動ベルトの断面図。
【図2】ベルト騒音試験装置の概略図。
【符号の説明】
B 歯付ベルト
1 ベルト本体
2 歯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合していることを特徴とするポリウレタン。
【請求項2】 ウレタンプレポリマーに、水酸基又はアミノ基を有するステアリン酸系又はオレイン酸系のエステル及び硬化剤を添加し、加熱硬化させることを特徴とするポリウレタンの製造方法。
【請求項3】 ベルト本体がポリウレタン組成物によって形成されていて、そのポリウレタンが、ウレタン結合をもつ主鎖にステアリン酸又はオレイン酸を酸成分とするエステルが側鎖として結合してなることを特徴とする伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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