説明

ポリウレタンの製造方法、及びスコーチの発生防止方法

【課題】作業環境のみならず、製品の使用時における健康被害の恐れが実質的にない、低揮発性の添加剤を使用して、製造工程中でポリエーテル部分を安定化させたポリウレタンの製造方法、及び同添加剤を使用したポリウレタン製造時におけるスコーチの発生防止方法の提供。
【解決手段】下記式(a)又は(b)


(式(a)又は(b)中のC(O)NHXで表される置換基は、OH基に対して、式(a)中のフェニル環又は式(b)中のナフチル環上のオルト位又はパラ位に結合しており、当該C(O)NHXで表される置換基中のXは、−NH(R1)又は−N=CR23を示し、R1、R2、及びR3は共にH又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基をそれぞれ示す。)で表されるヒドラジン誘導体を、生成するポリウレタン量に対して所定量添加することより達成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンの製造方法に関する。更に詳しくは、ヒドラジン誘導体を添加することにより、製造工程中でポリエーテル部分を安定化させて、より高品質のポリオウレタンを製造するポリウレタンの製造方法、及びヒドラジン誘導体を使用したポリウレタン製造時におけるスコーチの発生防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンの製造に際しては、製造工程中に不可避的に高温を加える工程が含まれており、この工程において原料であるポリエーテルや生成したポリウレタン中のポリエーテル部分が熱劣化することを防ぐため、通常スコーチ防止剤といわれる安定剤が加えられる。従来は、ポリウレタン製造時のスコーチ防止剤としてジクミルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤やBHT等のフェノール系酸化防止剤の併用系などが用いられてきた。
しかしBHTについては、揮発性があるという欠点があるため、製造時での高温下での使用や、製品化後においても、密封空間での使用時に徐々に放出されることにより、雰囲気中に蒸散されたBHTの蒸気が人体に入って健康に影響を与えるという懸念が出てきている。また、BHTよりも揮発性の改善されたフェノール系酸化防止剤の開発もなされているが、その酸化防止性能の点で、BHTのそれに達していない。そこで、BHTと同様の効果を有する低揮発性の酸化防止剤の出現が待たれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、高温に曝される製造時のみならず、製品となった後でも、密封空間で長期間高温に曝される環境下にあっても、極めて低揮発性の為、作業者や製品の使用者に健康上の被害を及ぼす可能性が実質的にない、低揮発性の添加剤を添加することにより、製造工程中でポリエーテル部分を安定化させて、より高品質のポリオウレタンを製造するポリウレタンの製造方法、及び同添加剤を使用したポリウレタン製造時におけるスコーチの発生防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のヒドラジン誘導体をポリウレタンスラブ製造時の発泡〜硬化工程において使用することにより、上記の目的と達成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、ポリエーテルや生成したポリウレタン中のポリエーテル部分が熱劣化することを防ぐ酸化防止などを目的として、下記式(a)又は(b)
【化1】

(式(a)又は(b)中のC(O)NHXで表される置換基は、OH基に対して、式(a)中のフェニル環又は式(b)中のナフチル環上のオルト位又はパラ位に結合しており、当該C(O)NHXで表される置換基中のXは、−NH(R1)又は−N=CR23を示し、R1、R2、及びR3は共にH又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基をそれぞれ示す。)で表されるヒドラジン誘導体を、生成するポリウレタン量に対して、0.0001質量%〜1質量%添加することよりなるポリウレタンの製造方法に関する。
【0006】
本発明においては、ヒドラジン誘導体は、N’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、N’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、及びN’−(1−メチルエチル)サリチル酸ヒドラジドからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。特に、N’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、又はN’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドが好ましく、これらは単独でも、混合して使用しても良い。
【0007】
また、本発明は、下記式(a)又は(b)
【化2】

(式(a)又は(b)中のC(O)NHXで表される置換基は、OH基に対して、式(a)中のフェニル環又は式(b)中のナフチル環上のオルト位又はパラ位に結合しており、当該C(O)NHXで表される置換基中のXは、−NH(R1)又は−N=CR23を示し、R1、R2、及びR3は共にH又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基をそれぞれ示す。)で表されるヒドラジン誘導体を、生成するポリウレタン量に対して、0.0001質量%〜1質量%を添加することにより、ポリウレタン製造時におけるスコーチの発生を防止方法に関する。
【0008】
ポリウレタン製造時におけるスコーチの発生を防止方法に使用されるヒドラジン誘導体としては、R1が、H又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基で、R2、R3が、何れか一方がメチル基で、他方が炭素数1〜4の分岐していても良い飽和アルキル基であるものが好ましい。より具体的には、N’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、N’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、及びN’−(1−メチルエチル)サリチル酸ヒドラジドからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。中でも、N’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、又はN’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドが特に好ましく、これらは単独でも、混合して使用しても良い。
【0009】
上記式(a)又は(b)で示されるヒドラジン誘導体の使用量は、生成するポリウレタン量(理論量)に対して、0.0001質量%〜1質量%、好ましくは、0.001質量%〜0.5質量%程度である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るポリウレタンの製造方法に依れば、上記式(a)又は(b)で示されるヒドラジン誘導体を製造過程において、安定剤として使用するに際しては、アミン系と併用してもよく、BHTと同等又はそれ以上の性能を有する。なお、BHTと比較し、揮発性が少ない点で優れている。したがってこれを添加剤として使用してポリウレタンを調製することにより揮発性成分の存在による作業環境のみならず、製品の使用時における健康被害への懸念の少ないポリウレタンを提供することができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るヒドラジン誘導体を使用することにより、安定化されるポリウレタンとしては、特に制限はないが、ポリオールをその原料とする、スラブフォームが挙げられる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0013】
本発明に係るヒドラジン誘導体の内、Xが−N=CR23であるものは、サリチル酸ヒドラジド又は3−ヒドロキシナフトエ酸ヒドラジドを原料として、アセトン又はメチルイソブチルケトンを反応させて製造することが出来、又、Xが−NHR1であるものは、上記の反応生成物を更に水素添加反応により製造することできる。以下に、代表的な化合物の製造例を挙げる。しかし、本願のヒドラジン誘導体は、下記以外に方法でも製造可能であることは言うまでもない。
【0014】
(製造例1)
N’−(1−メチルエチリデン)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド(化合物1)の合成
水分離機、還流冷却機および攪拌機を備えた反応器に3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド40.4g(0.2mol)、アセトン 232.3g(4mol)を仕込み、加温することで還流脱水を行いながら3時間反応した。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、析出結晶をろ別した。得られた結晶を減圧乾燥して白色結晶として生成物を得た(収量:47.3g、収率:97.6%)。
【0015】
(製造例2)
N−(3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸)−N’−(1−メチルエチル)ヒドラジド(化合物2)の合成
上記と同じ構成からなる反応器に3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドとアセトン232.3g(4mol)とを仕込み、加温することで還流脱水を行いながら3時間反応した。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、析出結晶をろ別した。得られた結晶を減圧乾燥して白色結晶として中間体を得た。得られた中間体およびイソプロピルアルコール145.0g、3%Pt/C 3.0gをオートクレーブに仕込み、水素圧1.5MPa、反応温度100℃にて5時間反応した。反応終了後、ろ過により触媒を除去した後、溶媒を20℃まで冷却し析出結晶をろ別した。得られた結晶を減圧乾燥して白色結晶を得た(収量:24.4g、収率:50.0%)。
【0016】
(実施例1)
安定剤として、それぞれ上記製造例において得られた化合物1又は2、若しくはBHT0.2重量%とステアラーSTAR(精工化学(株)製)0.2重量%及びポリエーテルポリオール99.6重量%からなるウレタン組成物を、JIS K2514 回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT)に供し、得られた酸素吸収誘導時間の結果を同表1に示した。なお、ポリウレタン製造時の劣化(スコーチ)は、原料ポリエーテル又はポリウレタン中に結合したポリエーテル部分で起こるので、ポリエーテルの熱安定性が向上すればスコーチを低減させることができるといえるので、ポリエーテルの熱安定性の向上の有無により、その効果を評価した。なお、酸素吸収誘導時間は、酸化安定性の尺度として測定され、その時間が長ければ長いほど酸化安定性が良い。以下、同様である。
【0017】
【表1】

【0018】
(実施例2)
上記化合物1又は2、若しくは、BHT0.2重量%とノンフレックスOD−3(精工化学(株)製)0.2重量%及びポリエーテルポリオール99.6重量%からなるウレタン組成物を、上記実施例と同様に、JIS K2514 回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT)に供し、得られた酸素吸収誘導時間の結果を同表2に示した。
【0019】
【表2】

【0020】
(実施例3)
上記化合物1又は2、若しくは、BHT0.2重量%とノンフレックスDCD(精工化学(株)製)0.2重量%及びポリエーテルポリオール99.6重量%からなるウレタン組成物を、上記実施例と同様に、JIS K2514 回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT)に供し、得られた酸素吸収誘導時間の結果を同表3に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
上記の結果から明らかなように、本発明に係るヒドラジン誘導体は、同時に使用した添加物の種類により若干の効果上のふれはあるものの、比較例として使用したBHTと比較して、ほぼ同等の効果を示した。
【0023】
なお、本発明に係るヒドラジン誘導体の内、化合物1と2の2種の誘導体の揮発性試験を実施した。試験は、上記2種の誘導体とBHTを使用し、それぞれ2gずつ精秤した各化合物を直径30mmの秤量瓶に入れ、120℃の恒温槽中で所定の時間で保持し、各時間経過後に取り出し、放冷した後秤量し、残存率を求めた。その結果は、以下の表4通りである。
【0024】
【表4】

【0025】
上記の結果から明らかなように、本発明に係るヒドラジン化合物は、極めて揮発性が低く、作業環境への放出は、実質的にないといえる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係るヒドラジン誘導体を添加して製造されたポリウレタンは、劣化(スコーチ)発生程度において、実質的に、BHTを添加した場合と同程度であり、加えて、揮発性も実質的にないことから、ポリウレタンの製造に際して有用であり、又、このヒドラジン誘導体を製造時に添加することでスコーチの発生が防止出来ることから、本発明に係る方法は、産業上各種の利点をもたらす製品であり、方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)又は(b)
【化1】

(式(a)又は(b)中のC(O)NHXで表される置換基は、OH基に対して、式(a)中のフェニル環又は式(b)中のナフチル環上のオルト位又はパラ位に結合しており、当該C(O)NHXで表される置換基中のXは、−NH(R1)又は−N=CR23を示し、R1、R2、及びR3は共にH又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基をそれぞれ示す。)
で表されるヒドラジン誘導体を、生成するポリウレタン量に対して、0.0001質量%〜1質量%添加することよりなるポリウレタンの製造方法。
【請求項2】
ヒドラジン誘導体がN’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、N’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、及びN’−(1−メチルエチル)サリチル酸ヒドラジドからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のポリウレタン製造方法。
【請求項3】
下記式(a)又は(b)
【化2】

(式(a)又は(b)中のC(O)NHXで表される置換基は、OH基に対して、式(a)中のフェニル環又は式(b)中のナフチル環上のオルト位又はパラ位に結合しており、当該C(O)NHXで表される置換基中のXは、−NH(R1)又は−N=CR23を示し、R1、R2、及びR3は共にH又は炭素数1〜6の分岐していても良い飽和アルキル基をそれぞれ示す。)
で表されるヒドラジン誘導体を、生成するポリウレタン量にたいして、0.0001質量%〜1質量%を添加することよりなるポリウレタン製造工程中におけるスコーチの発生防止方法。
【請求項4】
ヒドラジン誘導体がN’−(1−メチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、N’−(1−ブチルエチル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、及びN’−(1−メチルエチル)サリチル酸ヒドラジドからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項3記載のスコーチの発生防止方法。

【公開番号】特開2007−138043(P2007−138043A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334544(P2005−334544)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000195616)精工化学株式会社 (28)
【Fターム(参考)】