説明

ポリウレタンエマルジョンの製造方法、ポリウレタンエマルジョン及びポリウレタン被覆ガラス

【課題】硬化状態において皮膜強度、被塗装物への密着性、柔軟性及び弾性を兼ね備えたポリウレタンエマルジョンを提供する。
【解決手段】(I)1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、2官能基ポリオール(B1)、または2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、カルボキシル基を有するポリオール成分(C)とを、イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件で反応させてプレポリマー(D)を製造する工程と、(II)得られたプレポリマー(D)を中和後、プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上の条件下において水中に分散させ攪拌しエマルジョンとし、その後この生成物溶液を40〜45℃、12時間還流によって残存ポリイソシアネートと水を鎖延長反応する工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い伸び率を有するポリウレタンを提供するためのポリウレタンエマルジョンの製造方法、ポリウレタンエマルジョン及び該ポリウレタンエマルジョンを被覆したガラスに関する。より詳しくは、密着性及び弾性に優れ、ガラス表面にポリウレタン被覆層を形成させた際に、ガラスが割れてもガラス破片の飛散防止が可能なポリウレタンエマルジョン及びその製造方法に関する。また、前記ポリウレタンエマルジョンをガラス表面に被覆したポリウレタン被覆ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗料或いは接着剤、コーティング剤等に使用してこれを硬化してなる水系ポリウレタンエマルジョンが知られていた。この水系ポリウレタンエマルジョンは、被塗装物へ塗装したときの密着性、被膜強度、硬度等を向上させたものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐アルカリ性、耐加水分解性、耐熱性等を維持しながら、とくに、低温柔軟性や低温屈曲性に優れ、接着剤、コーティング材、塗料、合成皮革、人工皮革に使用するポリウレタンエマルジョンの提供を目的として、有機ジイソシアネート、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール及び1個の親水性中心と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物からなるウレタンプレポリマーと鎖延長剤との反応生成物からなるポリウレタンエマルジョンが記載されている。
【特許文献1】特開2002−179759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のポリウレタンエマルジョンを硬化させて得られるポリウレタン硬化物は未だ柔軟性に欠けるため、例えば、ポリウレタン層を形成したガラスが割れた際に、被覆したポリウレタン硬化物も割れてしまいガラス破片の飛散を防止することができなかった。
本発明は、従来のポリウレタンエマルジョンが有するこれらの欠点を解決することを目的として開発されたものであり、その目的は、硬化状態において、皮膜強度、被塗装物への密着性、柔軟性及び弾性を兼ね備え、且つガラスが割れた際にもガラス破片の飛散を防ぐことができるポリウレタンエマルジョンを提供することである。
また、本発明の他の目的は、このポリウレタンエマルジョンをガラス等の表面に被覆したポリウレタン被覆ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1のポリウレタンエマルジョンの製造方法は、
(I)1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、
2官能基ポリオール(B1)、または前記2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、
カルボキシル基を有するポリオール成分(C)と、
を、
イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件で反応させてプレポリマー(D)を製造する工程と、
(II)得られたプレポリマー(D)を中和後、プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上の条件下において水中に分散させ攪拌しエマルジョンとする工程と、
これを40〜45℃で還流することによって残存ポリイソシアネート成分と水との緩慢な反応によって緩慢に発生するジアミンを残存ポリイソシアネート成分と反応させて反応を完結させることを特徴とする。
請求項2のポリウレタンエマルジョンの製造方法は、請求項1において、前記エマルジョンに、さらに水系顔料及び水系増粘剤を添加することを特徴とする。
【0006】
請求項3のポリウレタンエマルジョンは、1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、
2官能基ポリオール(B1)または前記2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、
カルボキシル基を有するポリオール成分(C)と、
を、
イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件で反応させてプレポリマー(D)を得て、これを中和後、該プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上を加えてエマルジョンとしたものを40〜45℃で還流することによって残存ポリイソシアネート成分と水との緩慢な反応によって緩慢に発生するジアミンを残存ポリイソシアネート成分と反応させて反応を完結させたことを特徴とする。
請求項4のポリウレタンエマルジョンは、請求項3において、前記エマルジョンに、さらに水系顔料及び水系増粘剤を添加したことを特徴とする。
【0007】
請求項5のポリウレタン被覆ガラスは、前記請求項4又は5のポリウレタンエマルジョンをガラス表面に塗布したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化後に、被塗装物への高い密着性と、引張破断伸び率が500%以上の柔軟性及び弾性、引張破断強度20MPa以上の強靭性、耐水性を有するポリウレタンエマルジョンを得ることができる。
また、このポリウレタンエマルジョンを用いてガラス表面にウレタン層を形成した場合には、ガラスが割れてもウレタン層は割れることなく、その柔軟性と弾性によりガラス破砕時の衝撃を吸収すると共に、微細なガラス破片をも保持してガラスの飛散を防止することができ、地震時などにおいて安全性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面及び表を参照しながら本発明の構成について詳細に説明する。
本発明のポリウレタンエマルジョンの製造方法は、
(I)1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、
2官能基ポリオール(B1)、または2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、
カルボキシル基を有するポリオール成分(C)と、
を、イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件下で反応させてプレポリマー(D)を製造する工程と、
(II)得られたプレポリマー(D)を中和後、プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上の条件下において水中に分散させ、エマルジョンとする工程と、を含んでなることを特徴とする。
【0010】
得られたポリウレタンエマルジョンはアニオン系ポリウレタン樹脂の水系エマルジョンであり、その硬化物は伸び率500%以上、破断引張強さ20MPa以上のフィルム強さを有するもので、ガラス板、アクリル板、PET等のポリエステル板等への密着性に優れている。このエマルジョンを塗布し、硬化させてポリウレタン層を形成させたガラス板は、ガラスが破砕したときにもその破片が飛散しないという優れた効果を発揮する。
【0011】
本発明に用いる有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)としては、例えば、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)等の脂肪族ジイソシアネート、等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。中でも、後述するプレポリマー(D)中和物を水中に投入時、エマルジョンが安定化するまで、急激な水との反応を避けるのが好ましいため、低活性ポリイソシアネートが好ましく、トリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)がより好ましい。
【0012】
本発明に用いるポリオール成分(B)は、2官能基ポリオール(B1)、または前記2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物(B1+B2)である。
【0013】
本発明に用いる2官能基ポリオール(B1)としては具体的には特に限定しないが、例えば、
イ)ポリオキシポリアルキレンジオール(短分子ジオールに対するアルキレンオキサイドの付加重合によって得られるもの)
ロ)ポリエステル系ジオール(ジカルボン酸とジオールの縮合重合によって得られるもの)
ハ)ポリオキシテトラメチレンポリオール(短分子ジオールとフランの開環重合によって得られるもの)
ニ)カーボネート系ポリオール(短分子ジオールとジアルキルカーボネートとの縮合重合によって得られるもの)
ホ)ラクトン系ポリオール(短分子ジオールに対するラクトンの開環付加重合によって得られるもの)
ヘ)ひまし油系ポリオール(ひまし油若しくはひまし油のエステル交換誘導物)
ト)液状ゴム系ポリオール(ブタジエンゴムの過酸化水素による末端ヒドロキシル化によって得られるもの)
チ)及びこれら2種以上の混合物
等を挙げることができる。中でも、前記イ)、ハ)が、他成分との相溶性、合成系の粘度上昇の抑制、易エマルジョン化性、耐加水分解性等より、好ましい。
2官能基ポリオール(B1)の分子量は1000〜4000であることが必要であるが、これは分子量1000未満の場合、得られたポリウレタン硬化物の伸び率が500以下となり不適当であり、また、分子量4000を超えた場合は、他成分との相溶性、特にイソシアネート成分(A)との相溶性が悪くなり、製造に支障をきたすためである。
この分子量は、より良い効果を得るためには、好ましくは1500〜2000とすることが上記と同様の理由から好ましい。
【0014】
本発明に用いる2〜4官能基ポリオール(B2)としては具体的には特に限定しないが、例えば、
リ)ポリオキシポリアルキレンポリオール(短分子ポリオールに対するアルキレンオキサイドの付加重合によって得られるもの)
ヌ)ラクトン系ポリオール(短分子ポリオールに対するラクトンの開環付加重合によって得られるもの)
ル)及びこれら2種以上の混合物
等を挙げることができる。中でも、前記ヌ)で挙げたラクトン系ポリオールが、他成分との相溶性、易エマルジョン化性等の観点より好ましい。
ここで、短分子ポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメタノールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等を挙げることができる。中でも、特にグリセリン、トリメタノールプロパンが好ましい。
2〜4官能基ポリオール(B2)の分子量は300〜1000であることが好ましい。これは、分子量300未満の場合、プレポリマーの粘度が高くなり、エマルジョン化が困難になり、また、分子量が1000を超えた場合には架橋効果が小さくなり、皮膜強度に欠けるためである。
より良い効果を得るためには、前記分子量は好ましくは500〜800であることが上記と同様の理由から好ましい。
【0015】
本発明において、ポリオール成分(B)の配合量としては、イソシアネート成分(A)1当量に対し、1個の親水性中心と少なくとも2個の活性水素基とを有する化合物が0.3〜0.5当量、好ましくは0.3〜0.4当量であることが必要である。前記配合量が0.3当量未満のとき、得られるポリウレタン硬化物の伸び率が500%以下で不適当である。また、0.5当量を超える時、プレポリマー(D)の粘度が高くてエマルジョン化が困難となる。
【0016】
本発明に使用するカルボキシル基を有するポリオール(C)としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、等が挙げられる。また、ジアミノカルボン酸類、例えばリシン、シスチンおよび3,5−ジアミノカルボン酸等も使用することができる。中でも、ジオールであるためイソシアネートとの反応が緩慢であり扱いやすく、また安価でもあるという理由から、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0017】
なお、2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)の配合量、及びこれらとポリオール(C)との配合量は、イソシアネート1当量あたり、
2官能基ポリオール(B1):0.15〜0.4当量、
2〜4官能基ポリオール(B2):0.06〜0.10当量、
で、B1+B2当量の合計量が0.3〜0.5当量、
ポリオール(C):0.1〜0.4当量(詳細は後述する)
で、B1+B2+C当量の合計量が0.5〜0.9当量(詳細は後述する)、
とすることが好ましい。
【0018】
本発明において、プレポリマー(D)を調整するに当たっては、前記カルボキシル基を有するポリオール(C)と塩を形成させるため、中和剤を更に添加することが必要である。中和剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルモルホリン等の3級アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ類が挙げられるが、乾燥後の耐候性や耐水性を向上させるためには、揮発性の高いものがよく、中でもトリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。これらは、単独で使用することもできるし、2種以上を混合して使用することもできる。
中和剤の使用量は、カルボキシル基を有するポリオール(C)1モルに対して、中和剤1〜0.3モルとする。中和剤0.3モル未満のときは、エマルジョン化が困難となるため好ましくない。
【0019】
上記のようにカルボン酸塩を形成させ、プレポリマー(D)に導入する。カルボン酸塩導入量は、イソシアネート成分(A)1当量に対し、1個の親水性中心と少なくとも2個の活性水素基とを有する化合物を0.1〜0.4当量、好ましくは0.2〜0.3当量であることが好ましい。カルボン酸塩導入量が0.1当量未満の場合、エマルジョン化が困難であり、一方カルボン酸塩導入量が0.4当量を超えた場合には、硬化後のポリウレタン皮膜の耐温水、耐アルコール性が低下するため好ましくない。
【0020】
本発明のポリウレタンエマルジョンの製造方法において、プレポリマー(D)を製造する工程としては、例えば、
(i)イソシアネート成分(A)が1当量に対して、
(ii)分子量1000〜4000を有する2官能基ポリオール(B1)、または2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)を0.3〜0.5当量、
(iii)カルボキシル基を有するポリオール成分(C)0.1〜0.4当量を、
公知の方法(例えば、80〜95℃、4時間の反応)で反応させて末端イソシアネート基を有するプレポリマー(D)を得る。
ここで、イソシアネート基と活性水素基の割合としては、イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1/0.5〜0.9、好ましくは、1/0.6〜0.7とすることが好ましい。この割合が1/0.5未満の場合、ポリウレタンエマルジョンの分子量が小さくなり、硬化後のポリウレタン皮膜において、要求される破断引張強さ(20MPa以上)を達成することができない。また、1/0.9を超えた場合、プレポリマー(D)の粘度が高くなり、後の水系エマルジョン化に困難を来すため好ましくない。
【0021】
本発明のポリウレタンエマルジョンの製造方法においては、上記のようにして得られたプレポリマー(D)を中和後、水中に分散させ攪拌してエマルジョンとする。
エマルジョン化に際しての水の量は、プレポリマー(D)100質量部に対して、水130質量部以上が必要である。好ましくは水150〜300質量部である。水の量が130質量部未満の場合、溶液がゲル化するためエマルジョンが形成できず好ましくない。
また、エマルジョン化の際は上記のようにプレポリマー(D)を強制的に直接水に分散させてポリウレタンエマルジョンを得る方法でも良いが、他にも、プレポリマー(D)を、水と相溶する有機溶剤中に溶解後、水を上記分量添加し、その後前記有機溶剤を取り除く方法でもよい。
【0022】
なお、上記のようにして得られたポリウレタンエマルジョンには、必要に応じて公知の添加剤及び助剤を使用できる。例えば、顔料、可塑剤、難燃剤、有機及び無機充填剤、補強剤、ゲル化防止剤、増粘剤、粘度調整剤、帯電防止剤、界面活性剤(レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、ブロッキング防止剤)、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、等を添加することができる。なお、顔料と増粘剤に関しては、後述する本発明のポリウレタンエマルジョンの塗布方法において、絵具を製造する場合の必須成分であるため、詳細は後述する。上記の添加剤及び助剤は、予め原料成分のポリオールに混合して使用できる。
【0023】
次に、上述のようにして得られた本発明のポリウレタンエマルジョンを、硬化させポリウレタン皮膜を作成するためのウレタン化の手順について以下に述べる。
上記のようにして得たポリウレタンエマルジョンは、0.1〜0.5当量の未反応の残存イソシアネート基を残しているため、次いで40〜45℃で12時間以上還流することによって残存ポリイソシアネート成分と水との緩慢な反応によって緩慢に発生するポリアミンを残存ポリイソシアネート成分と反応させて反応を完結させる。
ここで、還流温度が40℃以下の場合は、残存ポリイソシアネートと水との反応が極めて遅く、ポリアミンの生成が進まず、結果として残存ポリイソシアネートが残り、十分な高分子化に至らず、乾燥後のフィルムは脆くなり引張強度が20Mpa以下、伸び率も500%以下となり好ましくない。また、45℃以上の場合は、残存ポリイソシアネートと水との反応が急激に進行するために、副生成物の炭酸ガスが起泡剤となってエマルジョンを泡化・樹脂化させてきれいなエマルジョンの生成を阻害し、また生成したポリアミンと反応すべき残存ポリイソシアネートが少なくなり、結果として十分な高分子化に至らず、乾燥後のフィルムは脆くなり引張強度が20Mpa以下、伸び率も500%以下となり好ましくない。
【0024】
この際、必要に応じて有機溶剤等の溶剤を使用することもできる(使用しないことに越したことは無いが)。使用できる溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、メチレンクロライド等のクロル系溶剤、その他、ジオキサン、ジメチルフルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等のイソシアネートに対して不活性な有機溶媒を用いる事ができる。中でも、ケトン系溶剤は水溶性であり、且つ真空下での脱溶剤がしやすいという観点から好ましい。
【0025】
また、溶剤を使用した場合は、真空下で脱溶剤する。
かくして得られたポリウレタンエマルジョン混合物は、樹脂分濃度が40%以下、液粘度が800cps/23℃以下である。より樹脂分高濃度のポリウレタンエマルジョン混合物を必要とする場合は、さらに真空下で脱水して、樹脂分濃度・液粘度を上げて使用しても支障はない。
【0026】
ウレタン化に際しては、公知のウレタン化触媒を必要に応じて使用することができる。具体的には、ジブチルチンジラウレート、オクチル酸鉛等の有機金属化合物、トリエチレンジアミン、N,N‘−テトラメチルブタンジアミン等の有機ジアミン類を挙げることができる。
【0027】
また、ウレタン化に際しては、前記ポリウレタンエマルジョン混合物に、支障がない限りにおいて、他樹脂系のエマルジョンをブレンドして使用できる。例えば、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、ラテックス等である。この際、必要に応じて染料を添加することも可能である。上記他樹脂系のエマルジョンや、染料の混合は、ボールミル、サンドグラインドミル等を用いて行われる。
【0028】
次に、上記のようにして得られたポリウレタンエマルジョン若しくはその混合物を用いて、板上に被覆する方法、及び、特にガラス表面に塗布する塗布方法について説明する。
得られたポリウレタンエマルジョン若しくはその混合物は、ガラス板やアクリル板、PET板等の表面との密着性に優れ、それ自体でも機械コーティング、ディッピング等で塗布でき、また刷毛、ローラー、スプレー等で塗布することができる。
【0029】
また、得られたポリウレタンエマルジョン(樹脂分濃度40%)を、例えばPETフィルム上に約150μm厚みでコーティングし、室温下で12時間乾燥後、さらに100℃で30分乾燥すると、約60μm厚みの淡黄色透明フィルムが得られる。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が500%以上を有し、引張破断強度20MPa以上の強靭で、しかも耐水性に優れたものである。
【0030】
さらにまた、室温乾燥が必要な場合には、得られたポリウレタンエマルジョン(樹脂分濃度40%)100質量部に、反応性の架橋剤を1〜3%添加したものを、前記と同様の方法でコーティングし、室温下で1時間乾燥すると、約60μm厚みの無色透明フィルムが得られる。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が500%以上を有し、引張破断強度20MPa以上の強靭で、しかも耐水性に優れたものである。
【0031】
ここで、前記反応性の架橋剤とは、ポリウレタンエマルジョンを構成するポリウレタン樹脂鎖に導入されたカルボン酸基に反応する官能基を2個以上有する有機化合物であり、即ちエマルジョンのポリウレタン樹脂と架橋反応する有機化合物を指す。例えば、水溶性のエポキシ樹脂、例えばエポライト(共栄社化学(株)製)、親水性ポリカルボジイミド、例えばカルボジライト(日清紡績(株)製)、オキサゾリドン系反応性ポリマー、例えばエポクロス((株)日本触媒製)等を挙げることができる。
【0032】
これらを常温乾燥にて使用する際には、上記のように、添加量はポリウレタンエマルジョン混合物に対して0.3〜3%であることが好ましい。これは、添加量0.3%未満のときは、引張破断伸び率が500%以上、引張破断強度20MPa以上を達成できるものの、耐水性に劣り、3%を超えるときには引張破断伸び率が500%以下となるためである。
【0033】
ポリウレタンエマルジョン若しくはその混合物をガラス製品にディッピングにてコーティングする際は、公知の方法で行うことができる。得られたウレタンコーティングガラス製品は、ガラスが割れてもガラス破片が飛散せず安全性が高い。例えば、ポリウレタンエマルジョン混合物(樹脂分濃度40%)をガラスビンの外側に一回ディッピングしてウレタン層を形成し、上述の方法で乾燥させたフィルム付きガラスビンは、鉄ハンマーで打撃すると大きな砕片に破砕されるが、壊れたガラスは飛散しない。比較のため、ウレタン層を形成しないガラスビンを鉄ハンマーで打撃すると、小さな砕片に破砕され、粉々に飛散する。
【0034】
また、上記のポリウレタンエマルジョン若しくはその混合物は、さらに水系顔料と水系増粘剤を加えて、液状やパテ状の絵具を製造しガラスなどの基板に塗布することにより、ステンドグラス調のポリウレタン被覆ガラス板を製造することが可能である。すなわち、上述のポリウレタンエマルジョン(樹脂分濃度25−43%)に、水系顔料と水系増粘剤を加えて、液状の絵具を作成する。水系顔料としては公知の顔料の水系エマルジョンが使用でき、例えばPSMトナー(御国色素(株)製)等を挙げることができる。
また、水系増粘剤としては、水の溶解または分散して粘度を上昇させる材料で、例えばチクゾール(共栄社化学(株)製)、アロマロン(日本合成化学工業(株)製)、スノーテックス(電気化学工業(株)製)等を挙げることができる。
配合量としては、ポリウレタンエマルジョン(樹脂分濃度40%)が100質量部に対して、水系顔料が5〜15質量部(白以外)または40〜60質量部(白)、水系増粘剤が0.3〜0.8質量部(液状絵具)または3〜5質量部(パテ状絵具)とすることが好ましい。
パテ状絵具及び液状絵具の静止時粘度は、それぞれ約9000cpsと3000cps(BH系粘度計)である。
【0035】
このようにして得られた液状やパテ状の絵具を、ガラス等の表面に塗布する。すなわち、図1に示すように、まず、黒又は濃グレー等の濃色を、ガラス板或いはアクリル板など基板上に枠状に配置して外郭1を形成し、次に前記枠の内部2を、前記液状絵具を用いて彩色する。このような塗布方法により、ステンドグラス調のポリウレタン被覆ガラス板を得ることができる。なお、ポリウレタンエマルジョンを複数回塗布することにより、色の濃度を変化させることも可能である。
このようにして得たステンドグラス調のポリウレタン被覆ガラス板は、通常のステンドグラスと比較して安価に作成できる。また、ガラスが破砕された際にも、ポリウレタン層がガラス破片を保持するため、ガラス片の飛散を防止することができ安全性が高い。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、実施例中の「部」及び「%」はそれぞれ質量部、質量%を意味する。また、下記において、ポリオール(1)はポリオキシポリプロピレンポリオール(分子量2000、官能基数2)を示し、ポリオール(2)はポリオキシテトラメチレンポリオール(分子量400、官能基数2)を示し、ポリオール(3)はトリメチロールプロパンのε―カプロラクトン開環重合から得られるポリオール(分子量305、官能基数3)を示す。
後述する引張試験特性試験は、「JIS K6301 3号ダンベル」に基づいて行い、引張試験機は、「(株)島津製作所製、オートグラフS−500」を用い、引張速度100mm/minにて測定した。
【0037】
(実施例1)
攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却器の付いた4つ口フラスコに、メチルエチルケトン150部、ポリオール(1)を170部、ポリオール(3)を13.2部仕込んだ。次いで、イソホロンジイソシアネート100部、ジブチルチンジラウレート0.1部を投入し、80℃で3時間反応させた。次に、予め調整しておいたメチルエチルケトン50部、ジメチロールプロピオン酸19.8部、トリエチルアミン12.5部からなるカルボン酸塩溶液を投入し、さらに80℃で2時間反応させて、生成物溶液を得た。この生成物溶液を40℃まで冷却した後、水を718部仕込んで転相させ、その後この生成物溶液を40〜45℃、12時間還流によって残存ポリイソシアネートと水を鎖延長反応させた。
その後、ロータリーエバポレーターにてメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタンエマルジョン(以下、PE−1とする)を得た。PE−1の固形分は35.1%、粘度600cps/25℃であった。
かくして、得られたポリウレタンエマルジョンをPETフィルム上に150μm厚みでコーテインングし、室温下で12時間乾燥後、さらに100℃で30分乾燥して、約53μm厚みのポリウレタン被覆無色透明フィルムを得た。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が625%を有し、引張破断強度35.6MPaの強靭で、しかも耐水性に優れたものであった。
また、得られたポリウレタンエマルジョンに、ガラスビンをディッピング(浸漬)し、ゆっくり引き上げて、エマルジョンの付着した状態で100℃で30分乾燥して、約27μm厚みのポリウレタンが外側に被覆されたガラスビンを得た。このガラスビンを鉄ハンマーで打撃すると大きな砕片に破砕されたが、壊れたガラスは飛散しなかった。一方、フィルムで被覆されていないガラスビンを鉄ハンマーで打撃すると、小さな砕片に破砕され、粉々に飛散した。
【0038】
(実施例2)
実施例1において得られたポリウレタンエマルジョン(PE−1)100質量部に、エポキシ樹脂としてエポライト100E(共栄社化学(株)製)を1質量部を加えて混合した。以下、これをポリウレタンエマルジョンPE−2とする。このポリウレタンエマルジョンPE−2を150μmの厚みで塗布し、室温下で72時間乾燥後、約62μmの厚みの無色透明フィルムを得た。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が550%を有し、引張破断強度28.7MPaの強靭で、しかも耐水性に優れたものであった。
また、得られたポリウレタンエマルジョン(PE−2)に、ガラスビンをディッピング(浸漬)し、ゆっくり引き上げて、エマルジョンの付着した状態で常温で24時間乾燥して、約29μmの厚みの無色透明フィルムが外側に被覆されたガラスビンを得た。これを鉄ハンマーで打撃すると大きな砕片に破砕されたが、壊れたガラスは飛散しなかった。
【0039】
(実施例3)
攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却機のついた4口フラスコに、ポリオール(2)を94部、ポリオール(3)を25部を仕込み、その後イソホロンジイソシアネートを100部、ジブチルチンジラウレートを0.1部、Nメチルピロリドン9部に溶解させたジメチロールプロピオン酸9部を投入し、80℃で3時間反応させた。その後トリエチルアミンを9部を混合して、液状生成物溶液を得た。反応終了後、水を356部加えて転相させ、
その後この生成物溶液を40〜45℃、12時間還流によって残存ポリイソシアネートと水を鎖延長反応させ、ポリウレタンエマルジョン(PE−5)を得た。PE−5の固形分は39.0%、粘度650cps/25℃であった。
このPE−5を150μmの厚みで塗布し、室温下で12時間乾燥後、さらに100℃で30分乾燥して、約62μmの厚みの無色透明フィルムを得た。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が550%を有し、引張破断強度28.7MPaの強靭で、しかも耐水性に優れたものであった。
また、得られたポリウレタンエマルジョン(PE−5)に、ガラスビンをディッピング(浸漬)し、ゆっくり引き上げて、エマルジョンの付着した状態で100℃で30分乾燥して、約29μm厚みの無色透明フィルムが外側に被覆されたガラスビンを得た。これを鉄ハンマーで打撃すると大きな砕片に破砕されたが、壊れたガラスは飛散しなかった。
【0040】
(実施例4)
上記実施例2において得られたポリウレタンエマルジョン(PE−2)100質量部に、水系顔料10質量部(白以外)または50質量部(白)と、水系増粘剤0.5質量部(液状絵具)または3質量部(パテ状絵具)を加えて、絵具を作成した。
顔料及び増粘剤の配合量は表1に示すとおりとし、黒色絵具はパテ状、それ以外の色は液状となるように顔料及び増粘剤の量を調整した。なお、各色の表中の量は、上記の処方質量部に相当する。
【0041】
【表1】

このようにして得られた絵具で、透明ガラス板上に、まずパテ状黒色絵具をプラスチックのスポイトを用いて枠状に配置し、絵の外郭を形成した。十分乾燥した後に、外郭の内部を各色の液状絵具で彩色して、ステンドガラス調被覆板を形成した(図1参照)。
このガラス板に鉄ハンマーを打ち付けガラスを破壊させると、ガラスにヒビが入ったが完全には割れず、破砕片の飛散もなかった。一方、透明ガラス板状に絵を書かずに鉄ハンマーを打ち付けると、ガラスは割れて飛散した。
【0042】
(比較例1)
攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却機のついた4口フラスコに、メチルエチルケトンを150部、ポリオール(1)を72部、ポリオール(2)を30.4部、ポリオール(3)を13.2部仕込み、その後イソホロンジイソシアネートを100部、ジブチルチンジラウレートを0.1部仕込み、80℃で3時間反応させた。
次いで、予め調整しておいたメチルエチルケトン50部、ジメチロールプロピオン酸15.6部、トリエチルアミン9.84部からなるカルボン酸塩溶液を投入し、80℃で2時間反応させて生成物溶液を得た。
この生成物溶液を40℃以下まで冷却させた後水を474部仕込んで転相させ、常温まで冷却させた。ここに、予め調整しておいた水50部、ヒドラジン水和物15.3部からなるアミン液を滴下したのち、1時間鎖延長反応させた。反応終了後、その状態のまま室温で12時間放置して、残存イソシアネート基とセル内に浸透する過剰量の水との反応により反応を終了させた。その後、ロータリーエバポレーターにてメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタンエマルジョン(CPE−1)を得た。CPE−1の固形分は35.1%、粘度450cps/25℃であった。
かくして、得られたポリウレタンエマルジョンをPETフィルム上に150μmの厚みでコーテインングし、室温下で12時間乾燥後、さらに100℃で30分乾燥して、約51μmの厚みの無色透明フィルムを得た。このフィルムは、柔く引張破断伸び率が300%を有し、引張破断強度44.4MPaの強靭で、耐水性に優れたものであったが、得られたポリウレタンエマルジョンに、ガラスビンをディッピング(浸漬)し、ゆっくり引き上げて、エマルジョンの付着した状態で100℃で30分乾燥して、約25μm厚みの無色透明フィルムが外側に被覆したガラスビンを得た。
これを鉄ハンマーで打撃すると大きな砕片に破砕され、壊れたガラス片が飛散した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上、本発明のポリウレタンエマルジョンの製造方法により得られたエマルジョンを硬化させたポリウレタン硬化物は、被塗装物への高い密着性と、引張破断伸び率が500%以上の柔軟性及び弾性、引張破断強度20MPa以上の強靭性、耐水性を有する。
このポリウレタン硬化物は、ガラス、アクリル、PET等や、フィルムなどへのコーティングや塗料に適用することが可能である。このポリウレタンエマルジョンを用いてガラス表面にウレタン層を形成した場合には、ガラスが割れてもウレタン層は割れることなく、その柔軟性と弾性により、ガラス破砕時の衝撃を吸収すると共に、微細なガラス破片をも保持して飛散を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1:外郭
2:枠の内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、
2官能基ポリオール(B1)、または前記2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、
カルボキシル基を有するポリオール成分(C)と、
を、
イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件で反応させてプレポリマー(D)を製造する工程と、
(II)得られたプレポリマー(D)を、プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上の条件下において水中に分散させ攪拌しエマルジョンとする工程と、
を含んでなるポリウレタンエマルジョンの製造方法。
【請求項2】
前記エマルジョンに、さらに水系顔料及び水系増粘剤を添加することを特徴とする請求項1に記載のポリウレタンエマルジョンの製造方法。
【請求項3】
1種またはそれ以上の有機ポリイソシアネートからなるイソシアネート成分(A)と、
2官能基ポリオール(B1)、または前記2官能基ポリオール(B1)と2〜4官能基ポリオール(B2)との混合物からなるポリオール成分(B)と、
カルボキシル基を有するポリオール成分(C)と、
を、
イソシアネート基/活性水素基(当量比)=1.0/0.5〜0.9の条件で反応させてプレポリマー(D)を得て、これを中和後、
該プレポリマー(D)100質量部に対して水130質量部以上を加えてエマルジョンとしたものを40〜45℃で還流することによって残存ポリイソシアネート成分と水との緩慢な反応によって緩慢に発生するジアミンを残存ポリイソシアネート成分と反応させて反応を完結させることを特徴とするポリウレタンエマルジョン。
【請求項4】
前記エマルジョンに、さらに水系顔料及び水系増粘剤を添加したことを特徴とする請求項3に記載のポリウレタンエマルジョン。
【請求項5】
前記請求項4又は5のポリウレタンエマルジョンをガラス表面に塗布したことを特徴とするポリウレタン被覆ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96876(P2009−96876A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269575(P2007−269575)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(506104943)有限会社ポリシス研究所 (5)
【Fターム(参考)】