説明

ポリウレタンエラストマー組成物

【課題】ポリウレタンエラストマーが本来有する機械的強度の低下を抑えつつ、摩擦抵抗を改善せしめた成形物を与え得るポリウレタンエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させて得られた注型用ポリウレタンエラストマー100重量部当り、焼成PTFEパウダーを1〜20重量部配合してなるポリウレタンエラストマー組成物。このポリウレタンエラストマー組成物は、ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるプレポリマーに、ポリオール中に分散させた焼成PTFEパウダーを加えた後鎖伸長剤を加え、これを加熱した金型中に流し込んで硬化させることによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンエラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、シール用部材の成形材料などとして有効に用いられるポリウレタンエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリウレタンエラストマーは機械的強度、摩耗特性、柔軟性、屈曲性などの特性にすぐれており、パッキンやOリング、その他の各種シール部品等に広く用いられている。しかしながら、ポリウレタンエラストマーは、一般にその他のプラスチック材料に比べて表面摩擦抵抗が大きく、摺動性が要求される機器部品として使用する場合、この摩擦抵抗が大きな問題となっている。
【0003】
かかる欠点を改良するために、これまで注型用ポリウレタンエラストマーにPTFEパウダーのような充填剤を添加するといった方法が行われているが、このような形で充填剤を添加すると、ポリウレタンエラストマーの最大の長所である機械的強度を低下させるだけではなく、添加量によっては粘度増加による成形不良やPTFEパウダーの分散不良が発生するといった問題点が多くみられる。
【特許文献1】特開平11−51194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ポリウレタンエラストマーが本来有する機械的強度の低下を抑えつつ、摩擦抵抗を改善せしめた成形物を与え得るポリウレタンエラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させて得られた注型用ポリウレタンエラストマー100重量部当り、焼成PTFEパウダーを1〜20重量部配合してなるポリウレタンエラストマー組成物によって達成される。かかるポリウレタンエラストマー組成物は、ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるプレポリマーに、ポリオール中に分散させた焼成PTFEパウダーを加えた後鎖伸長剤を加え、これを加熱した金型中に流し込んで硬化させることによって製造される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリウレタンエラストマー組成物より得られる成形物は、PTFEパウダーとして焼成PTFEパウダーを用いることにより、ポリウレタンエラストマー中でPTFEパウダーが凝集、繊維化することがないため、PTFEパウダー添加後の液粘度の増大が小さく、機械的強度の低下を抑え、摩擦抵抗を改善せしめることができる。すなわち、通常用いられる未焼成PTFEは、ポリウレタンとの親和性に乏しく、パウダー状でポリウレタン材料に添加した場合には、後記比較例2に示されるようにPTFE粒子の繊維化により液粘度が増加するため、これを用いた製品加工性が著しく低下する。また、PTFEパウダーの凝集により、基材であるポリウレタンエラストマーの伸び特性が低下し、結果としてエラストマーの機械的強度の低下を招いてしまう場合もある。一方PTFEパウダーとして、焼成したものを用いた場合には、かかるPTFEの凝集を抑えることができるのである。
【0007】
さらに特定の粒径分布および嵩密度を有する完全燃焼PTFEパウダーを用いた場合には、ポリウレタンエラストマーの本来有する機械的強度を損なうことなく、摩擦抵抗を改善せしめるといったすぐれた効果を奏する。かかる成形物は、パッキンやOリング、その他の各種シール部品、特に機械的強度および低摩擦性が要求される機器部品である船舶用舵取りシール部品などとして有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ポリオールとしては、末端活性水素を有する長鎖グリコールである数平均分子量Mnが500〜4000、好ましくは1000〜3000、また水酸基価が30〜150、好ましくは40〜100のものであれば特に限定されず、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、シリコーン系、1,4-ポリブタジエン系、1,2-ポリブタジエン系、ひまし油系等の各種ポリオールおよびこれらの混合物が用いられる。また、ポリオールのMnが500〜4000と規定されるのは、これ以下のMnでは、エラストマーの柔軟性が損なわれて脆くなってしまい、一方これ以上のMnでは、エラストマーの硬度が低下し、十分な材料強度が得られなくなるためである。
【0009】
長鎖グリコールと反応させるジイソシアネートとしては、o-トリジンジイソシアネート、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート〔XDI〕、水添XDI、ジフェニルメタンジイソシアネート〔MDI〕、ポリメリックMDI、1,2-ジフェニルエタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系ジイソシアネートおよびこれらの混合物が用いられ、これらはポリオールのOH当量当りイソシアネート基が2〜12当量となるような割合で用いられる。イソシアネート成分が、これよりも少なく用いられると十分な末端イソシアネート基プレポリマーが形成されず、一方これより多い割合で用いられるとエラストマーの硬度が上昇することで、柔軟性が損なわれて脆くなるため好ましくない。
【0010】
ポリオールおよびジイソシアネートは、約80〜150℃で約10分間乃至約2時間程度反応させてプレポリマーを生成させる。このプレポリマーに、ポリオール、好ましくはプレポリマー形成に用いられたものと同じポリオール中に分散させた焼成PTFEパウダーを加えた後鎖伸長剤を加え、これを加熱した金型中に流し込んで硬化させることにより、ポリウレタン組成物が調製される。
【0011】
PTFEパウダーとしては、未焼成PTFEパウダーを融点以上の温度に加熱して粒子間の隙間を減少させた焼成PTFE樹脂、好ましくは粒子間の隙間を完全に無くした完全焼成PTFE樹脂であって、粒径分布0.5〜20μm、好ましくは5〜15μm、嵩密度約0.4〜0.6g/ml、好ましくは0.5〜0.6g/mlのものが、注型用ポリウレタンエラストマー100重量部当り、1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部の割合で配合される。焼成PTFEパウダーがこれより少ない割合で用いられると、所望の摺動特性を得ることができず、一方これより多い割合で用いられると、エラストマーの機械的強度が低下することとなり好ましくない。ここで用いられるPTFEパウダーの粒子形状は、できるだけ球状のものが好ましい。このようなPTFEパウダーは、ポリウレタン材料中での分散性を向上させるといった観点から、好ましくはポリカプロラクトンジオール、ポリエーテルジオールなどのポリオール中に約10〜50重量%の濃度で分散させ、約60〜150℃に加熱したマスターバッチの形で注型用ウレタンエラストマーに配合され、約30〜120秒間程度攪拌される。
【0012】
鎖伸長剤としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、p-フェニレン(β-ヒドロキシエチル)エーテル等のグリコール、トリメチロールプロパン等のトリオールや3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン等のジアミンおよびこれらの混合物が用いられる。これらの鎖伸長剤は、約40〜150℃の温度に調整された状態で、上記PTFEパウダー添加プレポリマーに添加され、約30〜120秒間程度攪拌される。
【0013】
ポリウレタン化反応に際しては、アミン化合物等を触媒として反応に関与させることができる。上記各成分以外にも、さらに充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、滑剤等を必要に応じて適宜配合して用いることができる。
【0014】
これらのPTFEパウダー、鎖延長剤および必要な触媒は、生成ウレタンプレポリマーに混合された後、金型に流し込まれ、60〜150℃で硬化させ、さらに80〜150℃で6〜48時間アニーリングを行うことにより成形が行われる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例1
水酸基価56.1のポリカプロラクトンジオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に加熱した反応器に仕込み、撹拌しながらo-トリジンジイソシアネート61.2重量部を加えて、30分間反応させてウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーに、完全焼成PTFEパウダー(粒径分布1〜15μm、嵩密度約0.55g/ml)を水酸基価56.1のポリカプロラクトンジオールに33重量%の濃度で分散させ、120℃に加熱したPTFEマスターバッチ68.7重量部を加えて120秒間撹拌した後、60℃の温度に調整した鎖伸長剤としての1,4-ブタンジオール12.4重量部加えて60秒間撹拌した。これを約120℃に加熱した120mm×2mm×60mmの金型に流し込んで硬化させ、さらにこのシート状成形物について125℃、24〜48時間のアニーリングを行った。この場合、注型用ポリウレタンエラストマー100重量部当り、焼成PTFEパウダーが10.4重量部配合されたことになる。
【0017】
実施例2
実施例1において、完全焼成PTFEパウダーとして、粒径分布1〜10μm、嵩密度約0.35g/mのものが同量用いられた。
【0018】
実施例3
実施例1において、完全焼成PTFEパウダーとして、粒径分布40〜100μm、嵩密度約0.45g/mのものが同量用いられた。
【0019】
比較例1
実施例1において、PTFEマスターバッチが用いられず、またo-トリジンジイソシアネート量が42.0重量部に、1,4-ブタンジオール量が8.5重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0020】
比較例2
実施例1において、完全焼成PTFEパウダーの代わりに、未焼成PTFEパウダー(粒径分布1〜15μm、嵩密度約0.55g/ml)が同量用いられた。
【0021】
以上の各実施例および比較例で得られたポリウレタンエラストマーシート状成形物について、次の各項目の試験を行った。

常態物性:JIS K-6301に準拠して、硬さ、引張強さおよび破断時伸びを測定
液粘性:PTFEパウダー添加後のプレポリマーについて、110℃での粘度を測定し、測定
された粘度に基づき、下記基準により成形性を評価した
◎:PTFE添加プレポリマー粘度≦1,500mPa・秒
○:1,500mPa・秒<PTFE添加プレポリマー粘度≦2,500mPa・秒
△:2,500mPa・秒<PTFE添加プレポリマー粘度≦4,000mPa・秒
×:4,000mPa・秒<PTFE添加プレポリマー粘度
外観:(PTFEパウダー含有)成形物の表面状態を目視にて判断
摺動特性:鈴木式摩擦摩耗試験機を用い、SUS304鋼板を相手材として接触面積を2.0cm2
とし、次の各条件下おける動摩擦係数および摩耗深さを測定
A条件:線速度20mm/秒、荷重98N、45分間
B条件:線速度500mm/秒、荷重49N、5分間
【0022】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

測定・評価項目 実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2
常態物性
硬さ (JIS A) 90 90 91 94 88
引張強さ (MPa) 38.9 38.4 13.4 41.2 25.5
破断時伸び (%) 420 400 170 450 380
液粘性
粘度 (mPa・秒) 1100 2600 3000 800 5200
成形性 ◎ △ △ ◎ ×
外観 良好 良好 分散状態 良好 PTFE
やや悪い 析出有り
摺動特性〔A条件〕
動摩擦係数 0.2 0.3 0.3 3.5 0.2
摩耗深さ (μm) <10 <10 <10 <10 <10
摺動特性〔B条件〕
動摩擦係数 0.2 0.2 0.3 0.4 0.2
摩耗深さ (μm) 30 30 20 110 20

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させて得られた注型用ポリウレタンエラストマー100重量部当り、焼成PTFEパウダーを1〜20重量部配合してなるポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項2】
数平均分子量Mnが500〜4000のポリオールが用いられた請求項1記載のポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項3】
焼成PTFEパウダーが、完全焼成PTFEパウダーである請求項1記載のポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項4】
完全焼成PTFEパウダーが、粒径分布が0.5〜20μmであり、また嵩密度が0.4〜0.6g/mlである請求項3記載のポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項5】
シール用部材成形材料として用いられる請求項1記載のポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項6】
請求項5記載のポリウレタンエラストマー組成物から成形されたシール部材。
【請求項7】
船舶用舵取りシール部品として用いられる請求項6記載のシール部材。
【請求項8】
ポリオールおよびイソシアネートを反応させて得られるプレポリマーに、ポリオール中に分散させた焼成PTFEパウダーを加えた後鎖伸長剤を加え、これを加熱した金型中に流し込んで硬化させることを特徴とする請求項1記載のポリウレタンエラストマー組成物の製造法。
【請求項9】
ポリオール中に分散させた焼成PTFEパウダーを60〜150℃に加熱して形成させたマスターバッチとして焼成PTFEパウダーが用いられる請求項8記載のポリウレタンエラストマー組成物の製造法。

【公開番号】特開2009−120722(P2009−120722A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296274(P2007−296274)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】