説明

ポリウレタン弾性糸およびその製造方法

【課題】 弾性特性、耐光性、吸放湿性、制電性及び保湿性に優れ、ストレッチ布帛や衣服用などの弾性素材として好適なポリウレタン弾性糸を提供する。併せてその製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンから構成される弾性糸であって、セリシン等の絹タンパク質を含有するポリウレタン弾性糸である。また、そのポリウレタンの溶液に、セリシン分散液を添加して、溶液紡糸することによってポリウレタン弾性糸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿性、吸放湿性、制電性及び耐光性が改善されたポリウレタン弾性糸およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用途に幅広く使用されている。
【0003】
これら用途のうち特にストッキング類やインナーウェア類は着用時に直接肌と接するので、着用快適性の向上のために、ポリウレタン弾性繊維に吸放湿性を付与することが要求される。そこで、ポリウレタン弾性繊維の吸放湿性を高めるための技術として、ポリウレタン中にポリエチレングリコールを共重合させる方法や、ポリビニルピロリトンをポリウレタンに添加する方法が提案されている(それぞれ、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、これら吸放湿性ポリウレタン繊維を用いた伸縮性衣料品の場合、肌に接して着用してもムレやベタツキという不快感は減少するが、冬季や夏季の冷房などによる肌表面の乾燥を防ぎ、保湿効果を与える、いわゆるスキンケアの点では未だ不十分であり、さらなる改善が望まれていた。
【0005】
また、ナイロン糸及びポリウレタン弾性糸で構成されるストッキング製品や、ナイロン糸100%トリコット等の合成繊維に、セリシン水溶液を付着させて乾燥することにより、セリシンを表面に付着させ、吸湿性、制電性、保湿性を付与することにより、スキンケア性能を付与した繊維製品が提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
しかし、この場合、セリシン水溶液に固着剤を併用させた場合でも、セリシンは繊維製品の表面に固着しているだけであるので、着用及び洗濯を繰り返すことによって、セリシン等の機能付与成分は脱落していき、機能性が徐々に低下するという欠点がある。
【0007】
このように、ポリウレタン弾性糸を含む繊維製品に、吸放湿性、制電性及び保湿性を付与する従来技術では、付与機能を長期にわたって保持させることが困難であり、実用上満足できる機能付与ポリウレタン弾性糸を製造することは困難であった。
【0008】
また、ストレッチ布帛を製造する場合にポリウレタン弾性繊維と混用されるナイロン繊維やポリエステル繊維において、吸放湿性や制電性のような機能性を付加するという改良が進んできており、それらと混用されるポリウレタン弾性繊維にも弾性特性の他に、保湿性、吸放湿性、制電性の様な機能も要求されてきている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−144532号公報
【特許文献2】特開2002−249929号公報
【特許文献3】特許第2992802号公報
【特許文献4】特許第2588445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、保湿性、吸放湿性、制電性、耐光性を有するポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のポリウレタン糸は、前記の目的を達成するため、ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンから構成される弾性糸であって、絹タンパク質を含有することを特徴とするものである。
【0012】
また、このポリウレタン弾性糸は、ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンの溶液に、セリシン分散液を添加して紡糸原液を調製し、次いで、溶液紡糸することにより製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリウレタン弾性糸は、優れた弾性特性や伸度特性に加え、耐光性、吸放湿性、制電性、及び保湿性を有するものであり、特に、着用時に直接肌と接触するような衣類に使用される弾性糸として好適である。この弾性糸を用いたストレッチ布帛や衣類は、脱着性、フィット性等とともに、着用快適性にも優れたものとなる。さらに、これら特性は、着用や洗濯を繰り返しても低下することが少なく、長期にわたって機能を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0015】
本発明に使用されるポリウレタンは、主構成成分がポリマジオール及びジイソシアネートである原料組成から重合されるポリウレタンであれば任意のものであってよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。
【0016】
すなわち、例えば、ポリマジオールとジイソシアネートとジアミンとから重合されるポリウレタンウレアであってもよいし、また、ポリマジオールとジイソシアネートとジオールとから重合されるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として、水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。なお、本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されてもよい。
【0017】
ここで、本発明で使用されるポリウレタンを構成する代表的な重合原料構成成分について述べる。
【0018】
ポリウレタンを構成する重合原料構成成分のポリマジオールとしては、ポリエーテル系グリコール、ポリエステル系グリコール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系グリコールが使用されることが好ましい。
【0019】
ポリエーテル系グリコールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)および3−メチル−THFの共重合体である変性PTMG(以下、3M−PTMGと略する)、THFおよび2,3−ジメチル−THFの共重合体である変性PTMG、THF及びネオペンチルグリコールの共重合体のように側鎖を両側に有するポリマジオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましい。これらポリエーテル系グリコールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0020】
また、ポリウレタン糸における耐摩耗性や耐光性を高める観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとポリプロピレンポリオールの混合物をアジピン酸等と縮重合することにより得られる側鎖を有するポリエステルポリマジオールなどのポリエステル系グリコールや、3,8−ジメチルデカン二酸およびは3,7−ジメチルデカン二酸からなるジカルボン酸成分とジオール成分とから誘導されるジカルボン酸エステル単位を含有するポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0021】
また、こうしたポリマジオールは単独で使用されてもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用されてもよい。
【0022】
本発明に使用されるポリマジオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを所望水準とするために、数平均分子量で1000〜8000が好ましく、1800〜6000がより好ましい。この範囲の分子量のポリマジオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を得ることができる。
【0023】
次に、ポリウレタンを構成する重合原料構成成分のジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
次に、ポリウレタンを構成する重合原料構成成分の鎖伸長剤としては、低分子量ジアミンや低分子量ジオールが好ましく、これらのうちの1種又は2種以上を使用すればよい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0025】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果を失わない程度に加えてもよい。
【0026】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上を使用すればよい。特に好ましくは、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性が高く、また、強度の高い糸を得ることができるのである。
【0027】
また、本発明のポリウレタン弾性糸を構成するポリウレタンの分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として40000〜150000の範囲であることが好ましい。なお、数平均分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算した値である。
【0028】
そして、本発明の弾性糸を構成するポリウレタンとして特に好ましいものは、工程通過性も含め、実用上の問題がなく、かつ、高耐熱性に優れたものを得る観点から、ポリマジオールとジイソシアネートとを主構成成分としてなり、かつ高温側の融点が200℃〜300℃の範囲となるものである。ここで、高温側の融点とは、DSCでポリウレタン又はポリウレタン糸を測定した際のセカンドランの値をいい、ポリウレタンのいわゆるハードセグメントの融点が該当する。
【0029】
具体的には、ポリマジオールとして分子量が1800〜6000の範囲にあるPTMGを用い、ジイソシアネートとしてMDIを用い、低分子量ジオールとしてエチレングライコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールからなる群から少なくとも1種を用いて合成されたポリウレタンであって、かつ、高温側の融点が200℃〜300℃の範囲であるポリウレタンから製造された弾性糸は、特に伸度が高くなり、さらに上記のように、工程通過性も含め、実用上の問題はなく、かつ、高耐熱性に優れるので好ましい。
【0030】
なお、ポリウレタン糸の高温側の融点を200℃〜300℃にするための方法としては、事前のテストによって、ジイソシアネートとポリマジオール、低分子量ジオールの比率の最適値を選択する方法が好ましい。本発明で用いるポリウレタンの構成は好ましくはかかるものからなるものである。
【0031】
本発明のポリウレタン弾性糸は、セリシン等の絹タンパク質を含有するものである。即ち、紡糸原液中に絹タンパク質を含有させて製造されるポリウレタン弾性糸であり、これにより、高い保湿性や吸放湿性等の機能が発揮される。
【0032】
本発明で用いる絹タンパク質としては、繭に由来するセリシンやフィブロインが挙げられる。セリシンは、繭を構成する絹糸の表面を覆っているタンパク質成分であり、繭から採取された絹糸(生糸)を精練処理して得られる処理液から抽出により得ることができる。例えば、繭から採取した絹糸を、セッケンやアルカリ塩を用いたアルカリ水中で高温処理する等の通常の方法で精練処理し、処理液中に含まれるセリシンを抽出等で回収することにより得ることができる。また、このセリシンのような絹タンパク質は、数平均分子量が1万〜30万程度であることが好ましい。
【0033】
絹糸(生糸)から採取した天然の絹タンパク質の分子量が大き過ぎる場合には、次の方法により加水分解して、所望の分子量水準とすることができる。
【0034】
例えば、天然セリシンを、塩酸を用いて50℃で1〜2時間程度処理して分子量を10,000 〜300,000 程度にして、苛性ソーダで中和して活性炭層及び限外ろ過膜を通したろ液を用いることができる。この方法で得られたろ液の成分濃度は0.2%程度であるが、さらに濃縮して用いてもよい。
【0035】
また、絹のフイブロインについても同様に加水分解により分子量を下げ、分子量10,000 〜300,000 として用いることができる。絹タンパク質が角質の保湿効果や皮膚のバリヤー効果を発揮するためには、分子量が大き過ぎないことが好ましく、さらには、製造されるポリウレタン糸の特性を阻害しないためには、分子量10,000 〜100,000 であることがより好ましい。
【0036】
また、絹タンパク質としてセリシンを用いる場合には、その平均粒径が1〜20μmであることが好ましい。
【0037】
本発明のポリウレタン弾性糸中に含まれる絹タンパク質の含有量は、絹タンパク質による機能付与の点から、ある程度以上必要であり、例えば、0.1重量%以上が好ましく、さらに0.5重量%以上が好ましく、特に1重量%が好ましい。また、良好な紡糸性、バランスの良い機械物性や弾性特性を得る観点からは多すぎないことが好ましく、具体的には、20重量%以下が好ましく、さらに10重量%以下が好ましく、特に5重量%以下が好ましい。なお、これらの含有量は、用途に応じて事前にテストし、最適値を適宜決定することが好ましい。
【0038】
この絹タンパク質は、溶液紡糸に供されるポリウレタン溶液中に添加することによって、繊維中に含有させることが好ましく、例えば、セリシンを用いる場合には、ポリウレタン溶液にセリシン分散液を添加して紡糸原液を調製する。
【0039】
セリシンのポリウレタン溶液中への分散を速くし、製造されるポリウレタン糸の特性や色調を阻害せず、しかも、紡糸工程での熱により繊維中のセリシンが変質や散逸しないためには、紡糸溶液に添加するセリシン分散液の20℃での粘度が100センチポイズ以上1000ポイズ以下であることが好ましい。
【0040】
このセリシン分散液は、セリシンをジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させた分散液であることが好ましく、さらに、DMAc可溶性親水基を持つ化合物を併用添加した分散液であることが好ましい。このDMAc可溶性親水基を持つ化合物は、常温でのDMAcへの溶解度が5%以上のものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、その共重合体、ポリビニルピロリドン、その共重合体等を使用することができる。
【0041】
ポリビニルアルコールの共重合体としては、例えば、ポリビニルアルコールの水酸基がエステル化されたもの、また、ビニルアルコールに、エチレン、メタクリル酸エステル、スルホン酸ビニル、スチレンスルホン酸、エチレンスルホン酸ナトリウム、プロピレンスルホン酸ナトリウムが共重合されたものなどが好ましい。より具体的には、ビニルアルコール−酢酸ビニル−スルホン酸ビニル共重合体、ビニルアルコール−酢酸ビニル−リン酸ビニル共重合体、ビニルアルコール−酢酸ビニル−エチレン共重合体、ビニルアルコール−酢酸ビニル−メタクリル酸エステル等が好ましい。
【0042】
これらのポリビニルアルコールおよび/またはその共重合体の数平均分子量は、1000以上1000000以下の範囲が好ましい。
【0043】
また、ポリビニルピロリドンの共重合体としては、例えば、N−イソプロペニル2−ピロリドン、N−ビニル4−メチル2−ピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルエナントラクタム、N−ビニルバレロラクタム、N−ブテニル−2,4−ジ(1−ブテニル)−2−ピロリドンビニルアセテート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレン、スチレン、アクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、エチルスルホン酸、メタクリル酸、マレイン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、メタクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、塩化ジアリルジメチルアンモニウム等を使用して得られるものが好ましい。これらの共重合体はブロック共重合体であってもランダム共重合体であっても何ら構わない。
【0044】
セリシンを含有するポリウレタン弾性糸は、ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンの溶液に、セリシン分散液を添加して紡糸原液を調製し、次いで、溶液紡糸することにより製造することができる。
【0045】
ポリウレタンを製造する方法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン糸を得やすいからである。また、溶液重合するための紡糸原液を作成する際に、溶液重合法により得られた重合体溶液をそのままポリウレタン溶液として使用することができるという利点がある。
【0046】
例えば、ポリオールとして分子量が1800〜6000のPTMGを用い、ジイソシアネートとしてMDIを用い、ジオールとしてエチレングライコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールのうちの少なくとも1種を使用して、ポリウレタンを合成する場合、これら重合原料を、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする有機溶剤の中で合成することにより製造することができる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが採用され得る。
【0047】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節するための代表的な方法としては、ポリオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールする方法がある。例えば、ポリオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。また、同様にジオールの分子量が低いときはポリオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0048】
ポリオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0049】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0050】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0051】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0052】
このような方法で重合して得られるポリウレタン溶液の濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0053】
このようにして製造されたポリウレタン溶液に、セリシン分散液を添加して紡糸原液を調製する。このセリシン分散液は、前述したとおり、セリシン、及び、ジメチルアセトアミド可溶性親水基を持つ化合物を含有するジメチルアセトアミド分散液であることが好ましい。このような分散液にして添加することが、ポリウレタン溶液への均一な混合を図るために効果的である。
【0054】
ポリウレタン溶液にセリシン分散液を添加する方法としては、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。
【0055】
また、セリシン分散液添加によりポリウレタン溶液の粘度上昇を抑制して紡糸原液の溶液粘度を適正化するために、また、ポリウレタン溶液や紡糸原液を安定化するために、セリシン分散液添加前のポリウレタン溶液中に、或いは、セリシン分散液添加時若しくは添加後の紡糸原液に、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。この末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
また、ポリウレタン溶液や紡糸原液には、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤や酸化防止剤などとして、2,6−ジ−tブチル−pクレゾール(BHT)や住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などのヒンダードフェノール系薬剤、チバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学株式会社製の“スミライザーP−16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤が挙げられる。また、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、シリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれていてもよい。また、これらがポリマと反応させられて含有されることでもよい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤、住友化学株式会社製の“スミライザーGA−80”などの熱酸化安定剤、住友化学株式会社製の“スミソーブ300♯622”などの光安定剤が使用されることが好ましい。
【0057】
上記方法により調製された紡糸原液は溶液紡糸され、ポリウレタン糸が製造される。この紡糸方法としては乾式紡糸や湿式紡糸が挙げられるが、なかでも、乾式紡糸が好ましい。この乾式紡糸方式は特に限定されるものではなく、任意の方法が適用できる。
【0058】
ポリウレタン糸のセット性と応力緩和特性は、特にゴデローラーと巻取機との間の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じてその速度比を適宜決定すればよい。また、一般的に要求されるセット性と応力緩和特性を有するポリウレタン糸とするためには、ゴデローラーと巻取機との間の速度比(=巻取機速度/ゴデローラー速度)は、一般的に1.15〜1.65の範囲が好ましい。
【0059】
そして、特に高いセット性と低い応力緩和特性を有するポリウレタン糸を得る際には、上記速度比は1.15〜1.4の範囲がより好ましく、1.15〜1.35の範囲がさらに好ましい。一方、低いセット性と高い応力緩和特性を有するポリウレタン糸を得る際には、上記速度比は1.25〜1.65の範囲がより好ましく、1.35〜1.65の範囲がさらに好ましい。
【0060】
また、ポリウレタン弾性糸の強度を向上させるためには紡糸速度を高めることが好ましいので、450m/分以上の紡糸速度をとることが、実用上好適な強度水準とするために好ましい。さらに工業生産の点を考慮すると、450〜1000m/分程度が好ましい。
【0061】
本発明法により製造するポリウレタン糸は、繊度、単糸数、断面形状など特に限定されるものではない。例えば、糸は1単糸で構成されるモノフィラメントでもよく、また複数単糸で構成されるマルチフィラメントでもよい。糸の断面形状も円形でもよく、また扁平でもよい。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
ポリウレタン弾性糸のセット性、応力緩和、強度、伸度、耐光性、吸放湿性、及びポリウレタン糸を使用したストレッチ織物の制電性、保湿性の測定法を説明する。
【0063】
[ポリウレタン糸のセット性、応力緩和、強度、伸度]
セット性、応力緩和、強度、伸度は、ポリウレタン糸を“インストロン”4502型引張試験機を用い、引張テストすることにより測定した。
【0064】
試長5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長し回復させる操作を5回繰返した。このとき、5回目の300%伸長時の応力を(G1)とした。次に試料の長さを300%伸長のまま30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に試料の伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料長さを(L3)とした。以下、上記特性は下記式により算出される。
【0065】
強度=(G3)
応力緩和=100×((G1)−(G2))/(G1)
セット性=100×((L2)−(L1))/(L1)
伸度=100×((L3)−(L1))/(L1)
【0066】
[ポリウレタン糸の吸放湿性]
吸放湿性を示す指標として吸放湿係数ΔMRを次の方法で測定した。
吸放湿係数ΔMRは、試料として、糸を筒状に編成した約1gの編地を用い、絶乾時の重量と、20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下、恒温恒湿器中に24時間放置後の重量とを測定し、それら重量値から、20℃×65%RHの条件での吸湿率(MR1)、および30℃×90%RHの条件での吸湿率(MR2)を、次式で求めた。
【0067】
MR1(%)=[(20℃×65%RH吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量]×100
MR2(%)=[(30℃×90%RH吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量]×100
吸放湿係数ΔMR(%)=MR2−MR1
【0068】
試料が糸の場合の吸放湿係数ΔMRは、衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォースであり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温度と、20℃×65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率差である。ΔMRは大きければ大きいほど吸湿性が高く、着用時の快適性が良好であることを示す。
【0069】
[ポリウレタン糸の耐光性]
スガ(株)製のサンシャインウェザーメーターを使用して紫外線を15時間照射した。紫外線を照射していないポリウレタン弾性糸と、照射したポリウレタン弾性糸を試料として“インストロン”4502型引張試験機を用い、5cm長の試料を50cm/分の引張速度で破断するまで伸長し、各々の破断強力を測定した。強力保持率を下記の式より算出し、比較した。
強力保持率(%)=(照射後のポリウレタン弾性糸の強力/未処理のポリウレタン弾性糸の強力)×100
【0070】
[ストレッチ織物の制電性]
ストレッチ織物を試料とし、制電性を示す指標として摩擦帯電圧を次の方法で測定した。
興亜商会(株)製のロータリースタティックテスターを用い、対象布を木綿金幅3号とし、温湿度を20℃×30%RH、回転速度を400 r.p.m、1分間回転後の帯電圧(摩擦帯電圧)を測定した。
【0071】
[ストレッチ織物の保湿性]
ストレッチ織物から筒状のサポーターを作成し、10名の被験者が肌表面にほぼ常時着用し、さらに1日20分以上の石鹸による肌表面の洗浄を行う着用テストを15日間繰り返し実施し、着用部分の肌について、実施前後の肌表面水分量を測定した。この肌表面水分量の保持率の平均値を算出し、保湿性を評価した。なお、肌表面の水分量測定にはアサヒバイオメッド(株)製の位相差各層水分計ASA−M1を使用した。
肌表面水分保持率(%)=(着用15日間経過後の肌表面水分量/着用前の肌表面水分量)×100
【0072】
[実施例1]
分子量2900のPTMG、MDIおよびエチレングリコールからなるポリウレタン重合原料のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A1とした。
【0073】
また、セリシンとして、高田精練(株)製のセリシンパウダー(数平均分子量5万)を用い、そのDMAc分散液を調整した。その調整には、ポリビニルアルコール(数平均分子量50万、日本合成化学(株)製“ゴーセノール”(登録商標))も併用添加し、水平ミル(WILLY A.BACHOFEN社製のDYNO-MIL KDL)を用い、85%ジルコニアビーズを充填、50g/分の流速の条件で平均粒径1.2μmまで粉砕、均一に微分散させることにより行い、セリシン分散液B1とした。このセリシン分散液中には、セリシンが20重量%、ポリビニルアルコールが0.5重量%、含まれていた。
【0074】
さらにまた、酸化防止剤として、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタン(デュポン社製”メタクロール”(登録商標)2462)と、p−クレゾ−ル及びとジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製”メタクロール”(登録商標)2390)との2対1(重量比)の混合物を用い、これのDMAc溶液(35重量%)を調整し、その他添加剤溶液C1(35重量%)とした。
【0075】
ポリマ溶液A1、セリシン分散液B1、その他添加剤溶液C1を、それぞれ93重量%、5重量%、2重量%の割合で均一に混合し、紡糸溶液D1とした。この紡糸溶液D1をゴデローラーと巻取機との間の速度比1.4で、540m/分の紡糸速度の条件で乾式紡糸し、巻取り、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸(200g巻糸体)を作製した。得られたポリウレタン弾性糸におけるセリシンの含有量は3重量%であった。
【0076】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、吸放湿性(ΔMR)を表1に示した。破断強度、破断伸度、回復性の指標であるセット性、応力緩和は、セリシン未配合の場合(後述の比較例1)と同等であり、耐光性は比較例1の約1.1倍、ΔMRは2.5倍以上であった。
【0077】
さらに次の方法でストレッチ織物を製作し、生地の制電性、及び保湿性を評価した。
【0078】
まず、得られたポリウレタン弾性糸をカバーリング加工した。カバーリング用糸としてカチオン可染ポリエステル168dtex−48filを使用し、カバーリング機を用いてヨリ数=450t/m、ドラフト=3.0の条件で加工してヨコ糸用カバーリング糸を作製した。また、同様に、カバーリング用糸としてカチオン可染ポリエステル168dtex−48filを使用し、カバーリング機を用いてヨリ数700T/M、ドラフト=3.5の条件で加工してタテ糸用カバーリング糸を作製した。
【0079】
次に、整経・製織を行った。タテ糸の5100本(荒巻き整経1100本)を糊付け整経し、レピアー織機を用いて2/1綾組織で製織した。次に、染色加工を行った。製織で得た生機を、常法に従い精練加工、中間セット(185℃)、減量加工、染色加工(カチオン染料、120℃)、乾燥、仕上げ剤処理、仕上げセット(180℃、布速20m/min、セットゾーン24m)を順次行った。
【0080】
得られたストレッチ織物の制電性及び保湿性を表1に示した。制電性はセリシン未配合(比較例1)の約5倍、保湿性は約1.3倍に増大した。
【0081】
[実施例2]
実施例1で調整したポリマ溶液A1、セリシン分散液B1、及び、その他添加剤溶液C1を、それぞれ81重量%、17重量%、2重量%の割合で均一に混合し、紡糸溶液D2とした。
【0082】
この紡糸溶液D2を用いて、実施例1と同様に乾式紡糸し、20dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸(200g巻糸体)を作製した。得られたポリウレタン弾性糸におけるセリシンの含有量は10重量%であった。
【0083】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、吸放湿性(ΔMR)を表1に示した。セリシン未配合の場合(後述の比較例1)に比べ、回復性の指標であるセット性、応力緩和が増大した。また、耐光性は約1.3倍、ΔMRは約7倍に増大した。
【0084】
さらに、この弾性糸を用いて実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作した。その制電性、保湿性は表1に示すとおりであり、制電性は比較例1の約8倍、保湿性は約1.5倍に増大した。
【0085】
[実施例3]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミン、およびジエチルアミン(末端封鎖剤)からなるポリウレタンウレア重合原料のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A2とした。
【0086】
次に、このDMAc溶液A2、実施例1で調整したセリシン分散液B1、及び実施例1で調整したその他添加剤溶液C1を、それぞれ、93重量%、5重量%、2重量%の割合で均一に混合し、紡糸溶液D3とした。この紡糸溶液D3をゴデローラーと巻取機との間の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのマポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。得られたポリウレタン弾性糸におけるセリシンの含有量は3重量%であった。
【0087】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、吸放湿性(ΔMRを)表1に示した。破断強度、破断伸度、回復性の指標であるセット性、応力緩和はセリシン未配合の場合(後述の比較例2)と同等であり、耐光性は比較例2の約1.2倍、ΔMRは3倍以上であった。
【0088】
さらに、この弾性糸を用いて実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作した。その制電性及び保湿性は表1に示すとおりであり、制電性は比較例2の7倍、保湿性は約1.3倍に増加した。
【0089】
[実施例4]
実施例3で調整したポリマ溶液A2、及び、実施例1で調製したセリシン分散液B1、その他添加剤溶液C1を、それぞれ81重量%、17重量%、2重量%の割合で均一に混合し、紡糸溶液D4とした。
【0090】
この紡糸溶液D4を用いて、実施例3と同様に乾式紡糸し、20dtex、2filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。得られたポリウレタン弾性糸におけるセリシンの含有量は10重量%であった。
【0091】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、吸放湿性(ΔMR)を表1に示した。セリシン未配合の場合(比較例2)に比べ、回復性の指標であるセット性、応力緩和は増大した。耐光性は比較例2の約1.3倍、ΔMRは約10倍に増大した。
【0092】
さらに、この弾性糸を用いて実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作した。その制電性、保湿性は表1に示すとおりであり、制電性は比較例2の約9倍、保湿性は約1.6倍に増大した。
【0093】
[比較例1]
実施例1で調整したポリマ溶液A1、及びその他添加剤溶液添加剤溶液C1を、それぞれ、98重量%、2重量%の割合で均一に混合し、紡糸溶液E1とした。この紡糸溶液E1をゴデローラーと巻取機との間の速度比を1.40として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、18dtex、モノフィラメントのポリウレタン弾性糸を作製した。さらに、この弾性糸を用いて実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作した。
【0094】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、ΔMRを表1に示し、また、ストレッチ織物の制電性及び保湿性を表1に示した。耐光性、ΔMR、制電性、保湿性は、セリシンを含有する場合(実施例1〜4)に比べ、劣るものであった。
【0095】
[比較例2]
実施例3で調整したポリマ溶液A2、及び実施例1で調整したその他添加剤溶液添加剤溶液C1を、それぞれ、98重量%、2重量%の割合で均一い混合し、紡糸溶液E2とした。この紡糸溶液E2をゴデローラーと巻取機との間の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、2filのポリウレタン弾性糸(500g巻糸体)を作製した。さらに、この弾性糸を用いて実施例1と同様の方法でストレッチ織物を製作した。
【0096】
得られたポリウレタン弾性糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、耐光性、ΔMRを表1に示し、また、ストレッチ織物の制電性及び保湿性を表1に示した。耐光性、ΔMR、制電性、保湿性はセリシンを含有する場合(実施例1〜4)に比べ、劣るものであった。
【0097】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリウレタン弾性糸は、他の繊維と組み合わせて、また単独で使用され、優れたストレッチ布帛を得ることが可能であり、編成、織成、紐加工で使用される弾性糸として好適である。
【0099】
使用可能な具体的用途としては、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、洋服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋や靴下等の各種繊維製品の締め付け材料、さらには、紙おしめなどサニタニー品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンから構成される弾性糸であって、絹タンパク質を含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
【請求項2】
絹タンパク質の含有量が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
絹タンパク質の数平均分子量が10000〜300000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項4】
絹タンパク質がセリシンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項5】
セリシンの平均粒径が1〜20μmであることを特徴とする請求項4に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項6】
ポリマジオール及びジイソシアネートを主構成成分にして重合されたポリウレタンの溶液に、セリシン分散液を添加して紡糸原液を調製し、次いで、溶液紡糸することによりポリウレタン弾性糸を製造することを特徴とするポリウレタン弾性糸の製造方法。
【請求項7】
セリシン分散液が、セリシン、及び、ジメチルアセトアミド可溶性親水基を持つ化合物を含有するジメチルアセトアミド分散液であることを特徴とする請求項6記載のポリウレタン弾性糸の製造方法。