説明

ポリウレタン弾性繊維及びその製造方法

【解決手段】 (A)ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーaと、アミン化合物とを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体を含む溶液、並びに
(B)ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーbと、低分子量ジオールとを反応させて得られるポリウレタン化合物を、
(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸してなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
【効果】 本発明のポリウレタン弾性繊維は、熱融着性に優れ、190℃程度で熱処理して繊維どうしを融着させることができ、ほつれや糸抜け等が生じにくく、融着により糸抜けが少ないため、組織の糸がらみを柔らかくでき、非常に柔軟で、しかも実用強度、弾性特性等も兼ね備えた織編地を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維を混用した丸編地、経編地、織物等のストレッチ生地を使用した製品は、伸びが大きく、伸長状態からの回復力やフィット性が良いため広く利用されている。しかし、ポリウレタン弾性繊維を混用した生地を裁断、縫製して作られた製品を繰り返し伸張すると、変形して不均一な生地になり「変形、目ずれ、わらい」、糸が抜け出す「ほつれ」、生地の組織にはしご状の傷やずれが発生した「ラン、デンセン」、生地が湾曲した「カール」等の問題が起きやすい。また、繰り返し伸長により縫製部分でポリウレタン弾性繊維が縫目から抜け出す、いわゆる「スリップイン」も起きやすい。このスリップインが発生して弾性繊維が抜け出した生地の部分は、当然のことであるが、収縮力が無くなるので生地に密度斑が発生し、着用できなくなるといった問題がある。
これらの現象は、ポリウレタン弾性繊維以外の弾性繊維を使用した織編物でも起きるが、伸縮性の強いポリウレタン弾性繊維の場合は特に顕著である。
【0003】
そのため、ポリウレタン弾性繊維の物性を改良すべく、紡糸方法について種々の検討がなされている。ポリウレタン弾性繊維の紡糸方法としては、乾式紡糸、湿式紡糸、化学反応紡糸、溶融紡糸等の方法が知られており(特許文献1:特開昭39−16667号公報等参照)、例えば、特開2002−339189号公報(特許文献2)には、低分子ウレア化合物を添加した紡糸溶液を乾式紡糸することで熱融着性を有するポリウレタン弾性繊維が得られることが報告されている。
【0004】
しかし、通常、乾式ポリウレタン弾性繊維は、200℃程度の熱処理で十分な融着力が発現することがなく、このようなポリウレタン弾性繊維を用いた編地を熱処理すると、編地の端がカールしてしまったり、編地を裁断すると端がほつれてしまうという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭39−16667号公報
【特許文献2】特開2002−339189号公報
【特許文献3】WO2004/053218 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、わらい、カール、糸抜け等の問題が生じにくく、熱処理後も実用強度を保持すると共に、柔軟性にも優れた織編物を得ることができる、熱融着性に優れたポリウレタン弾性繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーaと、アミン化合物とを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体(A)の溶液、並びにポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーbと、低分子量ジオールとを反応させて得られるポリウレタン化合物(B)を、特定の質量割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸して得られるポリウレタン弾性繊維が、フィラメント間の合着性に優れ、カバリング工程等での糸割れトラブル等が減少することを見出した。更に、このポリウレタン弾性繊維を使用した織編地を熱処理することで、ポリウレタン弾性繊維どうしや、ポリウレタン弾性繊維と他の繊維とが熱融着するため、糸抜けが少なく、組織の糸がらみを柔らかくでき、非常に柔軟で、熱処理後も実用強度や弾性を保持した織編地を得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーaと、アミン化合物とを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体(A)を含む溶液、並びに
ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーbと、低分子量ジオールとを反応させて得られるポリウレタン化合物(B)を、
(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸してなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維、
[2]ポリウレタン重合体(A)の重量平均分子量が250,000〜450,000であって、ポリウレタン化合物(B)の重量平均分子量が200,000〜500,000である[1]記載のポリウレタン弾性繊維、
[3]〔I〕ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーaを合成する工程、及び
〔II〕上記両末端イソシアネート基プレポリマーaとアミン化合物とを有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体(A)の溶液を得る工程
と、
〔III〕ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーbを合成する工程、及び
〔IV〕上記両末端イソシアネート基プレポリマーbと低分子量ジオールとを反応させてポリウレタン化合物(B)を得る工程
とを有し、更に、
〔V〕ポリウレタン重合体(A)を含む溶液と、ポリウレタン化合物(B)とを(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合する工程、及び
〔VI〕ポリウレタン重合体(A)及びポリウレタン化合物(B)を含有する溶液を紡糸する工程
を含むことを特徴とするポリウレタン弾性繊維の製造方法、
[4]更に、工程〔IV〕の後に、ポリウレタン化合物(B)を熱処理し、得られたポリウレタン化合物(B)を粉砕して再溶融し、ペレット化するようにした[3]記載の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィラメント間の合着性が向上し、カバリング工程等での糸割れトラブルが減少したポリウレタン弾性繊維を提供することができる。本発明のポリウレタン弾性繊維は熱融着性に優れるため、織編物等に用いた場合、190℃程度で熱処理して繊維どうしを融着させることができ、ほつれ、ワライ、カール、糸抜け等が生じにくく、融着により糸抜けが少ないため、組織の糸がらみを柔らかくでき、非常に柔軟で、しかも実用強度、弾性特性等も兼ね備えた織編地を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るポリウレタン弾性繊維は、
ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーaと、アミン化合物とを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体(A)を含む溶液、並びに
ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーbと、低分子量ジオールとを反応させて得られるポリウレタン化合物(B)を、
(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸してなるものである。
【0011】
本発明において、ポリウレタン重合体(A)は従来公知の方法で合成することができる。原料であるポリオールは、特に限定されるものではないが、末端にヒドロキシル基をもつ数平均分子量400〜5,000のポリオールであることが好ましく、より好ましくは数平均分子量800〜3,500のポリオールが用いられる。なお、数平均分子量は、JIS K1557に従い、水酸基価より算出できる。水酸基価が280.5mgKOH/gのとき、数平均分子量は400で、水酸基価が22.44mgKOH/gのとき、数平均分子量は5,000となる。
【0012】
このようなポリオールとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、シリコーンジオール等を用いることができる。
【0013】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、テトラヒドロフラン(THF)及び3−メチルテトラヒドロフラン(3−MeTHF)の共重合体である変性PTMG、THF及び2,3−ジメチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG、炭素数1〜8の直鎖状又はランダム状にエーテル結合している共重合ポリアルキレンジオール等のポリエーテルジオール、環状エーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等)の開環重合によって得られるポリエーテルジオール等が挙げられる。
【0014】
ポリエステルジオールとしては、例えば、コハク酸、マロン酸、グルタール酸、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸等の二塩基酸から選ばれる1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチレングリコール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロへキサン、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類から選ばれる1種又は2種以上との重縮合により得られるポリエステルジオール等が例示される。
【0015】
ポリエーテルエステルジオールとしては、例えば、上記したポリエステルジオールに上記した環状エーテルを反応させて製造したものや、上記したポリエステルジオールとポリエーテルジオールを反応させたもの等を挙げることができる。
【0016】
シリコーンジオールとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンジオール、ポリジメチルシロキサンの末端アルキレンオキサイド付加物を挙げることができる。
【0017】
ポリラクトンジオールとしては、例えば、ポリε−カプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等を挙げることができる。
【0018】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート等から選ばれる少なくとも1種の有機カーボネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジオールとのエステル交換反応によって得られるポリカーボネートグリコール等が例示される。
【0019】
上記例示したポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルエステルジオール、シリコーンジオール、ポリラクトンジオール、及びポリカーボネートジオールは、1種単独で又は2種以上を組合わせて用いることができるが、これらのなかでもポリエーテルジオール及び/又はポリカーボネートジオールを全ポリオールの30質量%以上用いるのが、製品を後加工する際に、耐薬品性に優れるため加工が容易となる、或いは耐カビ性に優れる等の点から好ましく、より好ましくは60〜100質量%用いる。
【0020】
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートの中で、反応条件下で溶解し又は液状を示すものであれば特に制限されずに適用できる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらのなかでもMDIやHMDIが好ましい。
【0021】
有機ジイソシアネートは、ポリオールに対してモル量で1.2〜3.0倍程度過剰に用いることが好ましく、より好ましくは1.4〜2.2倍程度過剰とする。
【0022】
ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーaを合成する場合、反応方式は、合成釜を使用したバッチ方式でも、静的ミキサーや二軸混練機等を用いた連続方式であってもよく、所定モル比で各成分を仕込んだ後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、60〜150℃、特に65〜130℃で、30〜180分、特に40〜120分の条件下で反応させることが好ましい。
【0023】
次に、得られた両末端イソシアネート基プレポリマーaに対して、下記式(1)及び(2)で示されるアミン化合物1,2を所定量添加し、これらを上記プレポリマーaと有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体(A)を合成する。
【0024】
上記両末端イソシアネート基プレポリマーaと反応させて用いるアミン化合物1は、下記式(1)で示されるイソシアネートと反応し得る活性水素原子を少なくとも2個分子中に有するアミン化合物であって、鎖延長剤として用いられる。また、アミン化合物2は、下記式(2)で示され、ポリウレタン重合体の末端を封止する末端封鎖剤として用いられる。
2NR1NH2 (1)
NHR23 (2)
【0025】
ここで、R1は単結合又は炭素数1〜13、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6のアルキレン基、アリーレン基、若しくはこれらが結合した基であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、フェニレン基、キシリレン基、シクロへキシレン基等が挙げられる。R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは1〜6のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0026】
アミン化合物1としては、具体的に、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジンの如きジアミンを挙げることができる。
【0027】
アミン化合物2としては、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−イソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン等のジアルキルアミン等を例示することができる。
【0028】
アミン化合物の使用量は、当量比でアミン化合物1/アミン化合物2=99.5/0.5〜90/10、好ましくは99/1〜93/7の範囲となるように用いる。アミン化合物の当量比が99.5/0.5を超えると、ポリウレタン重合体中のハードセグメントが多くなるので、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性が低下したり、重合中に局部反応が生じやすくなる結果、ポリウレタン重合体溶液中にゲル物が増加する傾向になり、紡糸の際にノズルからゲル物が通過することで断糸したり、溶液のろ過性により操業安定性を低下させる場合がある。逆に、90/10より低くなると、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性は良いが、ポリウレタン重合体の重合度が低下し、糸物性が悪化する場合がある。
【0029】
また、アミン化合物1,2の総添加量については、プレポリマーa中に含まれるイソシアネート基に対して当量以上が好ましく、より好ましくは当量比で1.0以上1.1未満である。アミン化合物の総添加量が当量より低くなると、系内に残るイソシアネート基が経時的に反応することになり、分子量の増大や溶液粘度の著しい上昇を招く場合があり、多すぎると、過剰なアミンによりポリウレタン重合体溶液の黄変が生じたり、溶液粘度の経時的低下が起こる場合がある。
【0030】
アミン化合物1,2は、有機溶剤中でアミン化合物の混合物とすることが、プレポリマーaと反応させやすいので好ましい。アミン化合物をプレポリマーaと反応させる際は、通常、有機溶剤に溶解した溶液としてプレポリマーaの溶液に滴下して反応させるが、プレポリマーa溶液に残るイソシアネート基濃度を事前に測定してアミン化合物の滴下量を決定する方法や、アミン化合物が添加されプレポリマーa溶液の粘度が上昇する状態から、イソシアネート基が無くなり、実質反応が終了し、該溶液粘度の上昇がなくなる状態への変化をモニタリングすることで滴下量を制御することが可能である。
【0031】
なお、鎖延長剤としては、必要に応じてアミン化合物1以外に、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの如きジオール類や、水、ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、β−アミノプロピオン酸ヒドラジドの如きヒドロキシド類等の多官能性活性水素化合物を併用してもよい。また、末端封止剤としては、必要に応じてアミン化合物2以外に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルキルアルコール等を使用してもよい。
【0032】
ポリウレタン重合反応の際には、不活性な有機溶剤が使用される。この有機溶剤としては、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド等、ポリウレタン重合体の溶解度が高く、かつイソシアネート基やイソシアネート基と反応する活性水素化合物と反応せず、更にポリウレタン重合体溶液中への添加物に対して反応しない有機溶剤が好ましいことは言うまでもない。なかでもポリウレタン重合体との相溶性、紡糸性、溶剤回収性の点からN,N−ジメチルアセトアミド又はN,N−ジメチルフォルムアミドが好ましく使用される。
【0033】
有機溶剤の使用量は、ポリウレタン重合体(A)の固形分が全体の10〜60質量%、特に20〜40質量%となるように調整して使用することが好ましく、10質量%未満又は60質量%を超えると紡糸性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0034】
また、上記重合反応には、必要に応じ、反応を促進するための触媒を用いてもよく、イソシアネートとポリオールやジアミン、ジオールとの反応を活性化させる傾向の強いものや、イソシアネートと水等の鎖延長剤との反応を活性化させる傾向の強いもの、及び両方の性質を有するもの等、適宜使用することができる。このような触媒の代表的なものとして、第3級アミン化合物及び有機金属化合物が挙げられる。
【0035】
第3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン類、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン等のジアミン類、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン等のトリアミン類、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、N−メチルモルホリン等の環状アミン、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール等のアルコールアミン類、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−ジメチル)−アミノプロピルエーテル等のエーテルアミン類が挙げられる。
【0036】
有機金属化合物としては、酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリン酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、オクタン酸コバルト等が挙げられる。
【0037】
これらの触媒は単独使用してもよく、例えば第3級アミン化合物と有機金属化合物の組み合せ等、2種類以上を併用することもできる。触媒の濃度は、ポリウレタン重合体(A)に対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.0005〜5質量%で通常使用するが、反応挙動をみながら適宜添加量を調整すればよい。
【0038】
両末端イソシアネート基プレポリマーaとアミン化合物1,2との反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、0〜80℃、特に10〜60℃で、0.1〜5時間、特に0.5〜3.5時間の反応条件とすることが好ましく、反応方式は合成釜を使用したバッチ方式でも、二軸混練機や静的ミキサーを用いた連続方式であっても構わない。
【0039】
このようにして得られるポリウレタン重合体(A)の重量平均分子量は、塩化リチウムを溶解したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)溶液に完全溶解した可溶分を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて測定することができる。ポリウレタン重合体(A)の重量平均分子量は、250,000〜450,000が好ましく、より好ましくは250,000〜350,000である(ポリスチレン換算)。ポリウレタン重合体の分子量が小さすぎると、耐熱性等の糸物性が低下したり紡糸の曳糸性が乏しく糸切れが多くなったりする場合があり、高すぎると粘度が高くポリウレタン重合体の保存安定性が乏しくなったり、使用する溶剤量を増やす必要が生じ、結果として経済的な生産方法とは言えない場合がある。
【0040】
次に、上記ポリウレタン重合体(A)と混合するポリウレタン化合物(B)も、公知の方法で得ることができ、原料として用いられるポリオール及び有機ジイソシアネートは、ポリウレタン重合体(A)の原料として説明したものと同様のものを使用することができる。
【0041】
有機ジイソシアネートは、ポリオールに対してモル量で1.5〜6.0倍程度過剰に用いることが好ましく、より好ましくは1.8〜3.0倍程度過剰とする。
【0042】
ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーbを合成する反応方式は、合成釜を使用したバッチ方式でも、静的ミキサーや二軸混練機等を用いた連続方式であってもよく、所定モル比で各成分を仕込んだ後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、60〜150℃、特に65〜130℃で、30〜180分、特に40〜120分の条件下で反応させることが好ましい。
【0043】
次に、得られた両末端イソシアネート基プレポリマーbと低分子量ジオールを反応させて、ポリウレタン化合物(B)を合成する。
【0044】
鎖延長剤として用いられる低分子量ジオールとしては、イソシアネートと反応し得る2個の活性水素原子を分子中に有する化合物であれば特に限定されないが、分子量が500以下の低分子量ジオールが好ましく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、作業性や得られる繊維に適度な物性を与える点から1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0045】
低分子量ジオールの使用量は、両末端イソシアネート基プレポリマーbに対して、当量比で0.88〜1.0が好ましく、より好ましくは0.9〜0.97である。使用量が多すぎると得られたポリウレタン弾性繊維の伸縮性が低下し編地の風合いが悪化する、強度や耐熱性の低下で加工中に断糸が起こる等の場合があり、少なすぎるとポリマー中のゲル状物が増加する傾向になり、紡糸の際にノズルからゲル物が通過することで断糸したり、溶液のろ過性により操業安定性が低下する等の場合がある。
【0046】
両末端イソシアネート基プレポリマーbと低分子量ジオールとの反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、60〜220℃、特に65〜200℃で、5〜180分、特に10〜120分の反応条件とすることが好ましく、反応方式は合成釜を使用したバッチ方式でも、二軸混練機や静的ミキサーを用いた連続方式であっても構わない。
【0047】
このようにして得られるポリウレタン化合物(B)の重量平均分子量は、200,000〜500,000が好ましく、より好ましくは300,000〜400,000である。重量平均分子量が小さすぎると耐熱性が低下し染色、熱セットなどの加工時に編地中のポリウレタン弾性繊維が断糸する等の場合があり、大きすぎると溶解時の粘度が高くなり、送液が困難になる等の工程上に問題が発生する場合がある。なお、重量平均分子量の測定方法は、塩化リチウムを溶解したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)溶液に完全溶解した可溶分を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて測定することができる
【0048】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、上述したポリウレタン重合体(A)の溶液(紡糸用原液)とポリウレタン化合物(B)とを所定の割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸することで得ることができる。
【0049】
この場合、ポリウレタン重合体(A)に対するポリウレタン化合物(B)の混合割合は、質量比(固形分)で、(A):(B)=80:20〜40:60であり、好ましくは70:30〜50:50である。ポリウレタン化合物(B)の混合量が少なすぎると熱融着強度が不足する場合があり、多すぎると耐熱性が低下し、染色、熱セットなどの加工時に編地中のポリウレタン弾性繊維が断糸する等のおそれがある。
【0050】
ポリウレタン重合体(A)とポリウレタン化合物(B)の混合は、両者が十分に混合されれば特に限定されるものではなく、ポリウレタン重合体(A)にポリウレタン化合物(B)を混合しても、ポリウレタン化合物(B)にポリウレタン重合体(A)を混合しても良い。前者の場合、ポリウレタン重合体(A)の反応が進行してイソシアネート基が実質的に認められなくなった後に、ポリウレタン化合物(B)を混合することが好ましく、ポリウレタン化合物(B)は、ポリウレタン化合物(B)の重合終了後そのままポリウレタン重合体(A)の溶液に混合してもよく、一旦塊状にしてそれを粉砕したもの、或いは粉砕後更に再溶融してペレット化したものを、ポリウレタン重合体(A)の溶液に直接添加してもよい。また、ポリウレタン化合物(B)をポリウレタン重合体(A)の合成に使用する溶剤と同じ溶剤に溶解させて混合してもよい。この場合、前記ペレット化したものは、ポリウレタン化合物が再融解しているため、熱分解が起こり、分子の架橋が切れて溶剤(又はポリウレタン重合体(A)の溶液)に溶解しやすい点で好ましく使用することができる。
【0051】
ポリウレタン重合体(A)とポリウレタン化合物(B)を含む溶液が、ポリウレタン重合体(A)のみを紡糸して得られる従来のポリウレタン繊維よりも熱融着性に優れる理由は、繊維中のポリウレタン化合物(B)がポリウレタン重合体(A)より、低い温度で融解するため、繊維の強度を保持した状態で周囲のポリマーと接着するためである。
【0052】
ポリウレタン化合物(B)を溶剤に溶解させて用いる場合、溶液濃度は特に制限されず、紡糸用溶液の粘度上昇や、紡糸した糸の物性が変化する等の点から、10〜60質量%程度とすることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。
【0053】
ポリウレタン重合体(A)の溶液に対してポリウレタン化合物(B)を添加・混合する方法は、特に制限されないが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、混合温度、時間等の条件を適宜選定して均一に混合することが好ましい。混合する温度は、10〜120℃が好ましく、特に40〜80℃で混合することが好ましい。10℃より低いと混合時の副反応は何等問題ないが、溶解に時間を要したり、冷却コストが高くなるので経済的ではない。120℃より高温で処理すると、液の粘度が低下するので混合速度は早くなるが、ポリウレタン分子の切断が生じ、品質問題が生じるおそれがあるので好ましくない。なお、均一に混合するために少なくとも30分以上撹拌することが好ましい。
【0054】
本発明においては、更に、各種安定剤や無機系金属塩、無機系酸化物、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックス等の無機添加剤を添加することができる。これらの添加物の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で特に制限することなく使用できるが、熱融着性を低減させないためには、ポリウレタン重合体に対して10質量%以下で用いるのが好ましく、より好ましくは7質量%以下である。添加量が多すぎると糸物性の低下を招く場合がある。
【0055】
無機系金属塩、無機系酸化物としては、例えばチタン、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、シリカ、鉄、カルシウム、ジルコニウム及び銀からなる群より選ばれる金属元素の塩又は酸化物が挙げられ、天然放射性レア・アース鉱物のセラミックスとしては、遠赤外線、マイナスイオン等を発する鉱物のセラミックス、例えば美濃顔料化学(株)製のイオミックス、日本セラム(株)製の遠赤外線放射セラミックス(レゾニウムFC−0045)等が例示される。
【0056】
上記安定剤、添加剤をポリウレタンに配合する方法としては、ポリウレタン重合体(A)を合成する工程又はポリウレタン化合物(B)を添加する工程の任意の段階で配合することができる。また、添加の際は、直接ポリウレタン重合体に添加しても良く、或いは原料に加えても良く、また、あらかじめ少量の溶剤に分散又は溶解させて加えることもできる。
【0057】
また、本発明においては、ポリウレタン重合体の合成に用いられる公知の有機又は無機化合物を配合することができる。例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物の光安定剤、セミカルバジド系化合物、アミン系化合物等の安定剤、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等のような無機微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、オルガノシロキサン等の粘着防止剤、その他顔料、光沢剤、染色増強剤、ガス変色防止剤、充填剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤、表面処理剤、つや消し剤、着色剤、防カビ剤、軟化剤、離型剤、発泡剤、増量剤、増核剤等を適宜配合することができる。
【0058】
紫外線吸収剤の具体例としては、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール化合物、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート化合物を挙げることができる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0059】
酸化防止剤の具体例としては、6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスルチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス−3(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシ−ベンジル)イソシアネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの重付加体のイソブチレン付加物、p−エチルフェノールとジシクロペンタジエン重縮合体のスチレン化物、p−クレゾールとp−ジビニルベンゼンの重縮合物等が例示される。
【0060】
光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸との重縮合物等を例示することができる。
【0061】
セミカルバジド系化合物、アミン系化合物の具体例としては、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(ヘキサメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレンジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトライソプロピル−4,4’−(メチレンジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−α、α−(β−キシリレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−1,4−(シクロヘキシレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−テトラメチル−1,6−(ヘキサメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−ジテトラメチレン−4,4’−(2,5(2,6)−ビシクロ[2.2.1]へプチレン−2,5(2,6)−ジメチレン)ジセミカルバジド、1,1,1’,1’−ジテトラメチレン−4,4’−(3−メチレン−3,5,5−トリメチル−1,3−シクロへキシレン)ジセミカルバジド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−t−ブチルアミン等が挙げられる。
【0062】
上記各種添加剤は、紡糸工程の前までの任意の段階で添加して使用することができる。
【0063】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン重合体(A)及びポリウレタン化合物(B)を含む溶液(紡糸用溶液)を、乾式又は湿式のいずれの方法で紡糸することができる。紡糸の際に使用する紡糸装置や紡糸条件は、特に限定されるものではなく、ポリウレタンの組成、目的とする繊維の太さ、糸物性等によって、公知の任意の方法を選択して紡糸することができる。例えば、乾式紡糸の場合、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは240℃以上であり、好ましくは320℃以下、より好ましくは270℃以下で紡糸し、フィラメントを集束し、合着させて繊維を得ることができる。本発明においては、乾式紡糸法を好適に採用することができ、これによって繊度が細い糸や均整度の高い糸が得られ、紡速を上げることができ、高い生産性を得ることができる等の利点が得られる。
【0064】
本発明の製造方法により得られたポリウレタン弾性繊維の繊度は、10〜320dtexであることが好ましく、より好ましくは15〜280dtexである。繊度が小さすぎると強力が低くなるため、紡糸工程、加工工程での糸切れが増加するおそれがある。また、得られる製品の伸縮性が劣る等の場合があり、大きすぎると可紡性が落ち、糸の均整度が低下し、生産性が低下する等の場合がある。
【0065】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、高強度再生セルロース繊維(例えば、商品名テンセル)等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ乳酸等の化学合成繊維等の1種又は2種以上の繊維と組み合わせて使用することができ、平織、綾織、朱子織等の織物、天竺編み、ゴム編み、パール編み等の丸編地やその他の緯編地、クサリ編、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編地等の1種又は2種以上を組み合わせた織編地に混用し、編織することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、重量平均分子量の測定は島津製作所社製LC−VP(GPC)によるものであり、窒素含有率はヤナコ社製CHNコーダーMT−6により測定した値である。また、下記例において、部は質量部を、%は質量%を示す。
【0067】
[実施例1]
(1)ポリウレタン重合体の合成
数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)19.91部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)4.55部を窒素ガス雰囲気下で65℃にて100分間撹拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成した。得られた両末端イソシアネート基プレポリマーにジメチルアセトアミド(DMAC)57.07部を加えて溶解し、プレポリマー溶液を調製した。次に、鎖延長剤としてエチレンジアミン(EDA)0.49部と末端封鎖剤としてジ−n−ブチルアミン0.05部をDMAC17.93部に溶解したアミン混合溶液を、前記プレポリマー溶液に滴下しながら加え、撹拌して重量平均分子量300,000、窒素含有率2.99%のポリウレタン重合体を含む溶液(紡糸原液;濃度25%)を得た。
【0068】
(2)ポリウレタン化合物の合成
数平均分子量2,000のPTMG70.81部とMDI24.11部を窒素ガス雰囲気下で130℃にて60分撹拌しつつ反応させ、両末端イソシアネート基プレポリマーを合成した。その後、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール5.08部を加え、撹拌して重量平均分子量350,000、窒素含有率2.7%のポリウレタン化合物を得た。得られたポリウレタン化合物を100℃で24時間熱処理した後、粉砕し、210℃で再溶融して、いすず化工機械(株)SV−65−32によりペレット化した。このポリウレタン化合物のペレットをDMACに溶解して濃度25%の溶液を調製した。
【0069】
(1)で得られたポリウレタン重合体溶液24kg(固形分換算で6kg)と、(2)で得られたポリウレタン化合物の溶液16kg(固形分換算で4kg)を窒素ガス雰囲気下で60℃にて2時間かけて混合し、十分撹拌して紡糸用溶液を得た。
【0070】
紡糸方法
紡糸溶液を紡糸ヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.2mm、14ホールのノズルから毎分27.34gの速度で長さ10mの紡糸筒内に吐出させ、油剤を付与しながら500m/分の速度で巻き取り、156dtex/14fのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0071】
編地の作成
上記のようにして得たポリウレタン弾性繊維とナイロン糸(商品名:プロミラン33T26,東レ(株)製)を用い、LONATI社製L416/Rにより丸編地を作成した後、付着油分を除去するため常法によりソーピングを行った。
【0072】
熱処理
得られた編地を縦1.0倍、横1.1倍に固定し、熱セット機を用いて表1に示す温度及び時間の条件下で乾熱処理した。
【0073】
熱融着性の評価方法
熱処理後の編地を20%塩酸水溶液で処理し、ナイロンを溶解除去した後、ポリウレタン弾性繊維を引き抜くときの応力をオートグラフ(島津製作所社製AG−I)にて、引っ張り速度100mm/分で測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1]
実施例1の(2)で合成したポリウレタン化合物を使用しない以外は実施例1と同様にして得られた156dtexのポリウレタン弾性繊維を用いて編地を作成し、熱融着力測定(強力測定)を行った。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
実施例1の(2)で合成したポリウレタン化合物を100℃で24時間熱処理し、次いで粉砕、乾燥した後に210℃で再溶融し、紡糸ヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.6mm、4ホールのノズルから毎分9.35gの速度で長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:37.38g/分)、油剤を付与しながら600m/分の速度で巻き取り、156dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。吐出直後のポリウレタン弾性繊維のNCO基含有率は0.16%であった。
得られた156dtexのポリウレタン弾性繊維を用いて実施例1と同様に編地を作成し、熱融着力測定(強力測定)を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

単位:cN
完全融着:糸相互が一体化しており、糸が引き抜けない状態を示す。
【0077】
図1に、実施例1で得られた編地(190℃×60秒処理後)の部分拡大写真を示す。この写真からは、熱融着していることが見て取れる。
また、図2は、比較例1で得られた編地(190℃×60秒処理後)の部分拡大写真である。写真からは、熱融着をしていないことが見て取れる。
【0078】
[実施例2〜5]
ポリウレタン重合体溶液とポリウレタン化合物の溶液の混合比を以下のように変えた以外は実施例1と同様にして44dtexのポリウレタン弾性繊維を得、それぞれ編地を作成し、表2に示した熱処理条件で熱処理し、熱融着力測定(強力測定)を行った。また、下記方法により糸(原糸)の強力保持率を算出した。結果を表2に併記する。
実施例2:ポリウレタン重合体溶液80%、ポリウレタン化合物の溶液20%
実施例3:ポリウレタン重合体溶液70%、ポリウレタン化合物の溶液30%
実施例4:ポリウレタン重合体溶液60%、ポリウレタン化合物の溶液40%
実施例5:ポリウレタン重合体溶液40%、ポリウレタン化合物の溶液60%
【0079】
<1>(乾)熱処理条件
1.糸を40℃×20分乾燥機にて静置する。
2.糸を無伸長の状態で長さ8cmで枠に固定する。
3.糸を100%伸長(この場合16cm)にして熱処理温度(190℃)に設定する。
熱セット機にて45秒間、乾熱処理する。
4.30秒間、室温で放置する。
5.その後、糸を50%伸長(この場合12cm)にして5分30秒放置した後に、糸を取り出す。

<2>熱融着力(強力測定)
1.熱処理した糸を把握長4cmの長さでオートグラフ(島津製作所社製AG−I)にセットする。
2.引出速度100mm/minで強力(糸が切れたときに掛かる力を測定:単位はcN)を測定する。

<3>強力保持率
強力保持率=(熱処理した糸の強力)/(熱処理していない糸の強力)×100(%)
【0080】
[比較例3]
径0.6mm、1ホールのノズルから毎分2.67gの速度で長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:42.74g/分)、繊度を44dtexとした以外は比較例2と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。次いで実施例1と同様にして編地を作成した後、表2に示した熱処理条件で熱処理し、熱融着力測定(強力測定)を行った。
【0081】
また、比較例1及び3で得られた糸(原糸)について、実施例2〜5と同様の方法で強力保持率を算出した。結果を表2に併記する。
【0082】
[実施例6〜8]
編地の熱処理時間を次の条件とした以外は実施例1と同様にポリウレタン弾性繊維を得た後、それぞれ編地を作成して熱処理し、熱融着力測定(強力測定)を行った。結果を表2に示す。
実施例6:繊度156dtex、熱処理時間80秒
実施例7:繊度156dtex、熱処理時間100秒
実施例8:繊度156dtex、熱処理時間60秒×2回
【0083】
【表2】


比較例3の熱融着力は、熱処理中に編地中の糸が断糸した。糸のみの耐熱性(強力保持率)は熱処理中に糸が切れたので測定不可能であった。
また、図3は、実施例8で得られた編地(190℃×60秒(2回))の部分拡大写真である。この写真からは、熱融着が十分していることが見て取れる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1で得られた編地(ナイロン除去後)の熱融着状態を示す写真である(190℃×60秒)。
【図2】比較例1で得られた編地(ナイロン除去後)の熱融着状態を示す写真である(190℃×60秒)。
【図3】実施例8で得られた編地(ナイロン除去後)の熱融着状態を示す写真である(190℃×60秒(2回))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーaと、アミン化合物とを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体(A)を含む溶液、並びに
ポリオール及び有機ジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーbと、低分子量ジオールとを反応させて得られるポリウレタン化合物(B)を、
(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合してなる紡糸用溶液を紡糸してなることを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
ポリウレタン重合体(A)の重量平均分子量が250,000〜450,000であって、ポリウレタン化合物(B)の重量平均分子量が200,000〜500,000である請求項1記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
〔I〕ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーaを合成する工程、及び
〔II〕上記両末端イソシアネート基プレポリマーaとアミン化合物とを有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体(A)の溶液を得る工程
と、
〔III〕ポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーbを合成する工程、及び
〔IV〕上記両末端イソシアネート基プレポリマーbと低分子量ジオールとを反応させてポリウレタン化合物(B)を得る工程
とを有し、更に、
〔V〕ポリウレタン重合体(A)を含む溶液と、ポリウレタン化合物(B)とを(A):(B)=80:20〜40:60の質量割合で混合する工程、及び
〔VI〕ポリウレタン重合体(A)及びポリウレタン化合物(B)を含有する溶液を紡糸する工程
を含むことを特徴とするポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項4】
更に、工程〔IV〕の後に、ポリウレタン化合物(B)を熱処理し、得られたポリウレタン化合物(B)を粉砕して再溶融し、ペレット化するようにした請求項3記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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