説明

ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法

【課題】 分子量分布が狭く、水分散時に有機溶剤を使用せず、しかも乾燥皮膜の物理的物性に優れたポリウレタン樹脂水分散体の製造方法及び該製造方法によって得られるポリウレタン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 有機溶剤を使用せずに得られた末端イソシアネート基含量が0.2mmol/g以下であるポリウレタン樹脂(U)を、超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に溶解した後、冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行うことにより体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmのポリウレタン樹脂粒子(U1)を形成させることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体(Q)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法及び該製造方法で得られたポリウレタン樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂水性分散体は、その優れた耐久性、耐薬品性、耐磨耗性等の性能から、高機能水性分散体として、塗料、接着剤、バインダー又はコーティング剤分野に使用されており、今後も環境保全、省資源、安全性等の観点からますます重要性を増していくと考えられる。ポリウレタン樹脂水性分散体の製造方法としては、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを水中へ分散させ、ジアミン等で鎖伸長する方法(いわゆるプレポリマーミキシング法)(例えば特許文献1〜3参照)及びイソシアネート基をほとんど含有しないポリウレタン樹脂(deadポリマー)を水中へ分散させる方法がある。
【0003】
これらの内、前者は分散と同時に(必要により、更にその後に)水中で鎖伸長させるので生成したポリウレタン樹脂の分子量分布が広くなりやすく、結果的に乾燥皮膜の物理的物性が十分ではないという問題点があった。一方、後者は、分子量分布は比較的狭いが、deadポリマーはプレポリマーに比較すると一般的に平均分子量が高くて溶融温度が高い(通常、80〜300℃)ので、有機溶剤で溶解又は可塑化して水性媒体中に分散させることが必要であり、有機溶剤使用使用による環境問題及び人体への安全性の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−2732号公報
【特許文献2】特開2004−59676号公報
【特許文献3】特開2004−307721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、分子量分布が狭く、水分散時に有機溶剤を使用せず、しかも乾燥皮膜の物理的物性に優れたポリウレタン樹脂水分散体の製造方法及び該製造方法によって得られるポリウレタン樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、上記の課題を解決できるポリウレタン樹脂水分散体の製造方法を見出した。即ち本発明は、有機溶剤を使用せずに得られた末端イソシアネート基含量が0.2mmol/g以下であるポリウレタン樹脂(U)を、超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に溶解した後、冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行うことにより体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmのポリウレタン樹脂粒子(U1)を形成させることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体(Q)の製造方法並びに該製造方法で得られ、以下の(1)〜(3)の全てを満たすポリウレタン樹脂粒子(U1)を含有するポリウレタン樹脂水分散体である。
(1)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜3.5である。
(2)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmである。
(3)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径/個数平均粒子径(Dv/Dn)が1.2〜5である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法は、以下の特徴を有する。
(1)分子量分布が非常に狭いポリウレタン樹脂の水性分散体が得られる。
(2)有機溶剤を使用しないため、環境に対する低負荷性、安全性及び低臭気性に優れる。
(3)分散安定性に優れた水性分散体が得られる。
(4)乾燥皮膜の物理的物性が非常に優れた水性分散体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、ポリウレタン樹脂(U)を製造する過程及び該(U)を水へ分散する過程において、有機溶剤を使用しない。従って、本発明の製造方法にて得られるポリウレタン樹脂水分散体は、有機溶剤を実質的に含まない。
【0010】
また、本発明におけるポリウレタン樹脂(U)の末端イソシアネート基含量は、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて0.2mmol/g以下であり、好ましくは0.1mmol/g以下、更に好ましくは0.05mmol/g以下、最も好ましくは0mmol/gである。このような、いわゆるdeadポリマーを使用することによって、従来のプレポリマーミキシング法のように分散系で伸長反応を行う必要がないので、分子量分布の非常に狭いポリウレタン樹脂水分散体が製造できる。
【0011】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)の溶融温度は、ポリウレタン樹脂水分散体の乾燥皮膜の樹脂物性の観点から、好ましくは70〜280℃、更に好ましくは100〜220℃、最も好ましくは130〜200℃である。本発明における溶融温度は、JIS K7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法)において、メルトマスフローレイト測定装置として「メルトインデクサーI型」[テスター産業(株)製]を用いて、荷重2.16kgにてメルトマスフローが10g/10minとなる温度である。
【0012】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)及び親水性基と活性水素原子含有基を含有する化合物(c)を必須成分とし、更に必要により、鎖伸長剤(d)、反応停止剤(e)及びその他の成分(f)等を用いて製造される。
【0013】
ポリオール(a)としては、水酸基当量(水酸基価から算出される水酸基1個当たりの数平均分子量)150以上の高分子ポリオール(a1)及び水酸基当量150未満の低分子ポリオール(a2)が挙げられる。
【0014】
水酸基当量150以上の高分子ポリオール(a1)としては、ポリエーテルポリオール(a11)及びポリエステルポリオール(a12)等が挙げられる。
【0015】
ポリエーテルポリオール (a11)としては、脂肪族ポリエーテルポリオール及び芳香族環含有ポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0016】
脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリオキシエチレンポリオール[ポリエチレングリコール(以下、PEGと略記)等]、ポリオキシプロピレンポリオール[ポリプロピレングリコール(以下、PPGと略記)等]、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0017】
芳香族ポリエーテルポリオールとしては、ビスフェノール骨格を有するポリオール(a121)、例えばビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略記)付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物及びビスフェノールAのEO20モル付加物等]及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略記)付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物及びビスフェノールAのPO5モル付加物等]並びにレゾルシンのEO又はPO付加物(a122)等が挙げられる。
【0018】
ポリエーテルポリオール(a11)は、脂肪族又は芳香族低分子量活性水素原子含有化合物に、付加触媒(アルカリ金属水酸化物及びルイス酸等の公知の触媒)の存在下にEO又はPOを開環付加反応させることで得られる。
【0019】
(a11)の数平均分子量(以下、Mnと略記)は通常300以上、好ましくは300〜10,000、更に好ましくは300〜6,000である。本発明におけるポリオールの数平均分子量の測定は、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、ポリエチレングリコールを標準としてゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)によって測定される。但し、低分子ポリオールのMnは化学式からの計算値である。
(a11)の水酸基当量は、通常150以上、好ましくは150〜5,000、更に好ましくは150〜3,000である。
【0020】
ポリエステルポリオール(a12)としては、縮合型ポリエステル、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール及びヒマシ油系ポリオールが挙げられる。
【0021】
縮合型ポリエステルは、低分子量(Mn300以下)多価アルコールと多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とのポリエステルである。
低分子量多価アルコールとしては、水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール及び水酸基当量が30以上150未満の2価〜8価又はそれ以上のフェノールのAO低モル付加物が使用できる。
縮合型ポリエステルに使用できる低分子量多価アルコールの内好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、ビスフェノールAのEO又はPO低モル付加物及びこれらの併用である。
【0022】
縮合型ポリエステルに使用できる多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸及びマレイン酸等)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸等)及び3価又はそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水トリメリット酸等)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライド等)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル及びフタル酸ジメチル等)及びこれらの併用が挙げられる。
【0023】
縮合型ポリエステルとしては、例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール及びポリネオペンチルテレフタレートジオール等が挙げられる。
【0024】
ポリラクトンポリオールは、上記低分子量多価アルコールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4〜12のラクトンが使用でき、例えばγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン等が挙げられる。
ポリラクトンポリオールとしては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール及びポリカプロラクトントリオール等が挙げられる。
【0025】
ポリカーボネートポリオールは、低分子量多価アルコールへのアルキレンカーボネートの重付加物であり、アルキレンカーボネートとしては炭素数2〜8のアルキレンカーボネートが使用でき、例えばエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネート等が挙げられる。これらはそれぞれ2種以上併用してもよい。
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000,日本ポリウレタン工業(株)製]、T5652[Mn=2,000、旭化成(株)製]及びT4672[Mn=2,000、旭化成(株)製]が挙げられる。
【0026】
ヒマシ油系ポリオールには、ヒマシ油及びポリオール又はAOで変性されたヒマシ油が含まれる。変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル交換及び/又はAO付加により製造できる。ヒマシ油系ポリオールとしては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油及びヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物等が挙げられる。
【0027】
ポリエステルポリオール(a12)の内、ポリウレタン樹脂(U)の樹脂物性の観点から好ましいのは、縮合型ポリエステル及びポリカーボネートポリオールである。
【0028】
水酸基当量150未満の低分子ポリオール(a2)としては、脂肪族2価アルコール、脂肪族3価アルコール及び脂肪族4価以上のアルコールが挙げられる。(a2)の内好ましいのは、耐水性、耐熱黄変性の観点から2〜3価の脂肪族アルコールであり、脂肪族2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールが特に好ましく、脂肪族3価アルコールとしては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0029】
ポリウレタン樹脂(U)の必須構成成分のポリイソシアネート(b)としては、従来ポリウレタン樹脂製造に使用されているものが使用できる。ポリイソシアネート(b)としては、2〜3個又はそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数6〜20(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様)の芳香族ポリイソシアネート(b1)、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(b2)、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(b3)及び炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)が挙げられる。
【0030】
芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−又はp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0031】
脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及び2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0032】
脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス (2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート及び2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0033】
芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、例えばm−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)及びα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0034】
ポリイソシアネート(b)の内でポリウレタン樹脂(U)の樹脂物性の観点から好ましいのは(b2)及び(b3)、更に好ましいのは(b3)、特に好ましいのは、IPDI及び水添MDIである。
【0035】
ポリウレタン樹脂(U)は、分散安定性の観点から、親水性基を含有する構成単位を含有する必要があり、この親水性基の含有量はポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて5重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.5〜3重量%である。5重量%以下であれば形成された皮膜の耐水性が低下する傾向が少ないので好ましい。ポリウレタン樹脂(U)中に親水性基を導入するためには、親水性基と活性水素原子含有基を含有する化合物(c)を原料の一つの成分として使用する方法が挙げられ、そのような化合物(c)としては、ポリウレタン樹脂(U)を水中に安定に分散させるための親水性基を有し、かつ、ポリイソシアネート(b)との反応によってポリウレタン樹脂の分子鎖中に組み込まれるような活性水素原子含有基を1分子中に1個、好ましくは2〜3個有する化合物が好ましい。
【0036】
(c)の使用量は、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づく親水性基の含有量が5重量%以下となるような使用量が好ましく、更に好ましくは0.5〜3.0重量%となる使用量である。
【0037】
親水性基と活性水素原子含有基を含有する化合物(c)としては、アニオン性基含有活性水素含有成分(c1)及びカチオン性基含有活性水素含有成分(c2)が挙げられる。
(c1)としては例えば親水性基としてカルボキシル基を含有するもの[ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸及び2,2−ジメチロールオクタン酸)、酒石酸、アミノ酸(例えばグリシン、アラニン及びバリン)等]、親水性基としてスルホン酸基含有するもの[3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸及びスルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステル等]、親水性基としてスルファミン酸基を含有するもの[N,N−ビス(2−ヒドロキシルエチル)スルファミン酸等]及びこれらの塩類が挙げられる。
【0038】
(c1)の塩類としては、例えばアンモニア、炭素数1〜10のアミン化合物及び/又はアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)等の中和剤による中和塩が挙げられる。
炭素数1〜10のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジエタノールアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
(c1)の塩類を形成する化合物としては、生成するポリウレタン樹脂の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アンモニア及び炭素数1〜10のアミン化合物が好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジメチルエチルアミン、特に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、最も好ましいのはアンモニアである。
【0039】
(c1)の内で好ましいものは、ポリウレタン樹脂(U)の樹脂物性及びポリウレタン樹脂水分散体(Q)の分散安定性の観点から、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸及びこれらの塩類であり、更に好ましいのは2,2−ジメチロールプロピオン酸及び2,2−ジメチロールブタン酸のアンモニア又は炭素数1〜10のアミン化合物による中和塩である。
【0040】
(c2)としては例えば炭素数3〜20の3級アミノ基含有ジオール[N−アルキルジアルカノールアミン(例えばN−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン及びN−メチルジプロパノールアミン)及びN,N−ジアルキルアルカノールアミン(例えばN,N−ジメチルエタノールアミン)]及びこれらの塩類が挙げられる。
【0041】
(c2)の塩類としては、炭素数1〜20のモノカルボン酸(ギ酸、酢酸及びプロパン酸等)等の中和剤による中和塩並びに硫酸ジメチル、炭酸ジメチル、メチルクロライド及びベンジルクロライド等の4級化剤による4級塩が挙げられる。
(c2)の中和剤としては、生成するポリウレタン樹脂の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から(c2)の中和剤としては、炭素数1〜10のモノカルボン酸(例えば酢酸及びプロパン酸等)が好ましく、特に好ましくはギ酸である。
【0042】
ポリウレタン樹脂(U)中の、親水性基を含有する構成単位としては、生成するポリウレタン樹脂の水性分散体の分散性及び乾燥後の皮膜の耐水性とのバランスの観点から、ポリウレタン樹脂(U)の骨格中のアニオン性基をアンモニア若しくは炭素数1〜10のアミン化合物で中和した構成単位又は骨格中のカチオン性基を炭素数1〜10のモノカルボン酸で中和した構成単位であることが好ましい。
【0043】
本発明の(U)の製造において必要に応じて使用される鎖伸長剤(d)としては、水、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、ポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジン又はその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド等の二塩基酸ジヒドラジド)並びに炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン等)等が挙げられる。
【0044】
(U)の製造において必要に応じて使用される反応停止剤(e)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類及びカルビトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン等のモノ又はジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のモノ又はジアルカノールアミン等)が挙げられる。
【0045】
(U)の製造において必要に応じて使用されるその他の成分(f)としては、架橋剤、触媒、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤、可塑剤及び離型剤等が挙げられる。
【0046】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、有機溶剤の非存在下に、好ましくは100〜250℃、更に好ましくは150℃〜250℃、特に好ましくは180℃〜220℃で、ウレタン化反応させて得られたポリウレタン樹脂であることが好ましい。本発明におけるポリウレタン樹脂(U)において、末端イソシアネート基含量を0.2mmol/g以下とする方法としては、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
【0047】
(1)原料中のイソシアネート基の当量数に対して、水酸基及びアミノ基の当量を0.9倍以上(好ましくは1倍以上)にする。
(2)反応停止剤(e)及び/又は水を添加して、イソシアネート基を反応させて消費させる。
(3)高温反応(例えば150〜250℃)によりビューレット結合及び/又はアロハネート結合を生成させ、イソシアネート基を消費させる。
【0048】
一般にポリウレタン樹脂は、イソシアネート基と水酸基の反応に由来するウレタン基と、イソシアネート基とアミノ基(又は水)の反応に由来するウレア基を有するが、ウレア基はウレタン基と比較して凝集力及び親水性が高いため、ウレア基の含量が高いポリウレタン樹脂は造膜性並びに耐水性が劣る傾向がある。
【0049】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、アミノ基を有する原料、原料中に含まれる水分及び/又は水中分散時の媒体の水と、イソシアネート基との反応に由来するウレア基が生成し得るが、造膜性及び耐水性の観点から、ウレア基の含量は0.1mmol/g以下が好ましく、更に好ましくは0.05mmol/g以下、特に好ましくは0.03mmol/g以下、最も好ましくは0.01mmol/g以下である。
【0050】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)において、ウレア基の含量を0.1mmol/g以下とする方法としては、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
【0051】
(1)ポリウレタン樹脂(U)の原料中のアミノ基の含量を0.1mmol/g以下にする。
(2)ポリウレタン樹脂(U)の原料中の水分含量を0.1mmol/g以下にする。
(3)ポリウレタン樹脂(U)のイソシアネート基含量を0.2mmol/g以下にする。
【0052】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)のMn[GPCによって、溶媒としてジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)を用い、標準ポリスチレンを基準にして測定されるもの]は、非架橋型(熱可塑性:架橋剤を使用しないタイプ)の場合には通常2,000 〜2,000,000又はそれ以上、好ましくは5,000〜500,000、更に好ましくは10,000〜100,000である。架橋型(架橋剤を使用するタイプ)の(U)は上記範囲より高いMnのもの、又はGPCで測定できない高いMnのものでもよい。
【0053】
ウレタン化反応を行うための反応容器は、加熱、撹拌可能な反応容器であれば問題なく使用できるが、撹拌強度、密閉性及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機を用いるのが好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、コンティニアスニーダー[株栗本鐵工(株)製]及びPCM30[池貝(株)製]等が挙げられる。本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、ウレタン化反応率及び混合性の観点から一軸又は二軸の混練機中で150〜250℃でウレタン化反応させて得られたポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0054】
以下に、ポリウレタン樹脂(U)を水分散したポリウレタン樹脂(U1)からなるポリウレタン樹脂水分散体を製造する方法を示すことにより本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法は、上記のポリウレタン樹脂(U)を、超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に溶解した後、冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行うことにより体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmのポリウレタン樹脂粒子(U1)を形成させることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体(Q)の製造方法である。
【0056】
ウレタン化反応後のポリウレタン樹脂(U)は、70〜280℃の溶融温度を有し、通常は室温では固状であり、(A)への溶解のし易さの観点から、粒径が0.2〜200mmの粒状であることが好ましく、(U)の粒径は、更に好ましくは0.2〜50mm、特に好ましくは0.2〜10mmである。
【0057】
ポリウレタン樹脂(U)を粒状にする手段としては、例えば裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒状化は、水中又は、水の非存在下において実施することができる。
例えば、シート状に圧延したポリウレタン樹脂(U)をストランドカッターで短冊状にカットした後、回転刃で粒状にするという方法が例示される。
【0058】
本発明における超臨界状態の水とは、臨界温度(374℃)以上、且つ臨界圧力(22MPa)以上の温度・圧力条件下にある水を意味し、また亜臨界状態の水とは、200℃以上、且つ、臨界温度未満の温度条件下にある水を意味する。超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)の温度及び圧力条件は、ポリウレタン樹脂(U)を完全に溶解し、且つ、ポリウレタン樹脂(U)の分解速度が大きくない範囲で設定することが好ましい。温度は200〜500℃が好ましく、更に好ましくは250〜400℃である。また圧力は1.5〜40MPaが好ましく、更に好ましくは3〜30MPaである。
超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)は、電気ヒーター、磁気誘導加熱装置及びマイクロ波加熱装置等により目的温度、目的圧力まで加熱、加圧することで得ることができ、場合によりポンプ等で加圧してもよい。
【0059】
超臨界状態状態又は亜臨界状態の水(A)にポリウレタン樹脂(U)を混合して溶解させることにより、ポリウレタン樹脂(U)が溶解した超臨界状態又は亜臨界状態の水溶液(B)が得られる。
(A)に(U)を混合する方法はいかなる方法であっても良いが、例えば下記の方法が挙げられる。
(1)予め水中にポリウレタン樹脂(U)を分散した分散体を調製しておき、これをポンプにより超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に混合する方法。
(2)(A)中に直接ロータリーバルブ等によりポリウレタン樹脂(U)を混合する方法。
上記(1)の方法において、ポリウレタン樹脂(U)の粒子を水中に分散させるために、生産性を悪化させたり環境負荷が大きくならない添加量の範囲で、界面活性剤(S)及び高分子活性剤(T)等を添加してもよい。界面活性剤(S)及び高分子活性剤(T)は水中に添加してもよく、また予めポリウレタン樹脂(U)中に含有させておいてもよい。
【0060】
界面活性剤(S)としては、アニオン界面活性剤(S−1)、カチオン界面活性剤(S−2)、両性界面活性剤(S−3)、非イオン界面活性剤(S−4)等が挙げられる。界面活性剤(S)は2種以上の界面活性剤を併用したものであってもよい。アニオン界面活性剤(S−1)としては、カルボン酸またはその塩、硫酸エステル塩、カルボキシメチル化物の塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩が挙げられる。カチオン界面活性剤(S−2)としては、第4級アンモニウム塩型、アミン塩型等が挙げられる。本発明で用いる両性界面活性剤(S−3)としては、カルボン酸塩型両性界面活性剤、硫酸エステル塩型両性界面活性剤、スルホン酸塩型両性界面活性剤、リン酸エステル塩型両性界面活性剤等が挙げられ、カルボン酸塩型両性界面活性剤は、更にアミノ酸型両性界面活性剤とベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。非イオン界面活性剤(S−4)としては、アルキレンオキシド付加型非イオン界面活性剤および多価アルコ−ル型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0061】
高分子活性剤(T)としては、セルロース系化合物(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびそれらのケン化物等)、ゼラチン、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、アクリル酸(塩)含有ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸の水酸化ナトリウム部分中和物、アクリル酸ナトリウム−アクリル酸エステル共重合体)、スチレン−無水マレイン酸共重合体の水酸化ナトリウム(部分)中和物、水溶性ポリウレタン(ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンジオール等とポリイソシアネートの反応生成物等)等が挙げられる。
【0062】
ポリウレタン樹脂(U)は、(A)中に速やかに溶解されることが好ましく、公知の分散機構を使用することができ、例えば、超音波分散、攪拌式の分散、メディア式の分散等を挙げることができる。ポリウレタン樹脂(U)を(A)中に分散させる場合、レイノルズ数は500以上が好ましく、更に好ましくは1000以上、特に好ましくは2000以上である。
【0063】
ポリウレタン樹脂(U)を超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に完全に溶解させる際、ポリウレタン樹脂(U)の分子量が分解により著しく低下しない範囲内で、溶解時間を設定することが好ましい。また、溶解後冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行う時点までの時間についても同様である。
超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に溶解する前のポリウレタン樹脂(U)の重量平均分子量(Mwi)と、冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行った後の重量平均分子量(Mwe)の関係は、樹脂粒子ポリウレタン樹脂(U)の物性の観点より、Mwe/Mwiが0.5以上となることが好ましく、更に好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.9以上である。
本発明において、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量は、GPCにより、溶媒としてジメチルホルムアミドを用い、ポリスチレンを標準として測定される。
【0064】
ポリウレタン樹脂(U)が溶解した超臨界状態又は亜臨界状態の水溶液(B)を冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行うことにより、(B)が超臨界状態又は亜臨界状態を脱し、ポリウレタン樹脂(U)が過飽和状態となり、ポリウレタン樹脂粒子(U1)が析出してウレタン樹脂水分散体(Q)が得られる。係る方法により、有機溶剤を使用せずに分子量分布が狭いポリウレタン樹脂の水性分散体を得ることができる。
【0065】
冷却及び減圧の操作は、(B)の入った容器、又は(B)が流動する配管を外部から冷媒により冷却することによって行ってもよく、また(B)を通常0〜90℃、好ましくは0〜50℃の温度の常圧の水中や空気中に吐出させてもよい。容器又は配管を冷却する場合、冷媒の温度は、内部が0℃以下とならないように設定することが必要であり、その温度は好ましくは0〜100℃、更に好ましくは5〜50℃である。
(B)を吐出させる方法は、特に限定されず、ノズル、キャピラリー又はオリフィス等を介して噴霧する方法が挙げられる。(B)を吐出させる場合、析出した樹脂粒子同士の凝集を抑制するために、上記の界面活性剤(S)及び高分子活性剤(T)等を予め(B)が吐出される常圧の水に添加しておいてもよい。
冷却速度は、樹脂粒子の目標粒径に応じて適宜設定することが好ましい。通常、冷却を急速に行うほど、微細な粒径の樹脂粒子が得られる。ポリウレタン樹脂(U)の溶解温度[(B)の温度]からポリウレタン樹脂粒子(U1)が析出する温度まで冷却する時間は、1秒〜30分が好ましく、更に好ましくは5秒〜15分である。
【0066】
本発明の樹脂水分散体を製造する装置としては、回分式、半回分式、連続式のいずれの形態であってもよいが、生産性の観点から連続式であることが好ましく、連続的に水を加熱、加圧して超臨界状態又は亜臨界状態にする部分(X1)、超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に連続的にポリウレタン樹脂(U)又は(U)の水分散体を混合する部分(X2)、(A)中にポリウレタン樹脂(U)を一定温度、一定圧力で均一に溶解する部分(X3)、(A)中に(U)を溶解した(B)を連続的に冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行う部分(X4)、並びに冷却及び/又は減圧された流体を貯留する部分(X5)を有することが好ましい。ここで(X2)及び(X3)を超臨界状態又は亜臨界状態で保持することが好ましく、(X4)に圧力調製弁等の圧力調整機構を設けることが好ましい。
【0067】
樹脂水分散体を製造する際の、ポリウレタン樹脂(U)と水の重量比は、目的とする水分散体の樹脂成分含有量によって適宜選択されるが、通常は、(U)/水=10/2〜10/100であり、好ましくは10/5〜10/50である。
【0068】
樹脂水分散体を製造する際、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤及び離型剤等から選ばれる1種以上を添加することができる。また必要に応じて、分散後に濃縮又は希釈を行ってもよい。
【0069】
本発明の製造方法で得られたポリウレタン樹脂水分散体(Q)はその製造過程において、有機溶剤を実質的に使用しないため、残存する有機溶剤も実質的に存在しない。
【0070】
本発明の製造方法で得られるポリウレタン樹脂水分散体(Q)の固形分濃度は、好ましくは20〜65重量%、更に好ましくは25〜55重量%である。固形分濃度は、水分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算することにより得ることができる。
【0071】
本発明の製造方法で得られるポリウレタン樹脂水分散体(Q)の粘度は、使用時の操作性の観点から、好ましくは10〜100,000mPa・s、更に好ましくは10〜5,000mPa・sである。粘度はB型回転粘度計を用いて、25℃の定温下で測定することができる。
本発明の製造方法で得られるポリウレタン樹脂水分散体(Q)のpHは、保存安定性の観点から、好ましくは2〜12、更に好ましくは4〜10である。pHは、pHMeterM−12[堀場製作所(株)製]で25℃で測定することができる。
【0072】
本発明の製造方法で得られるポリウレタン樹脂水分散体(Q)は、通常、以下の(1)〜(3)の全てを満たすポリウレタン樹脂粒子(U1)を含有するポリウレタン樹脂水分散体である。
(1)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の重量平均分子量/数平均分子量(以下、Mw/Mnと略記)が1.5〜3.5である。
(2)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmである。
(3)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径/個数平均粒子径(Dv/Dn)が1.2〜5である。
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、特に分散安定性及び乾燥後の樹脂物性に優れている。
【0073】
(1)のポリウレタン樹脂(U1)のMw/Mnは、好ましくは1.5〜3、更に好ましくは1.5〜2.5である。Mw/Mnが、この範囲であれば、分子量分布が狭いので乾燥後の樹脂物性及び乾燥時の造膜性が更に良好となる。
(2)のポリウレタン樹脂(U1)のDvは、分散安定性の向上の観点から、好ましくは0.005〜4μm、更に好ましくは0.02〜2μm、特に好ましくは0.03〜1μm、最も好ましくは0.03〜0.8μmである。
(3)のポリウレタン樹脂(U1)のDv/Dnは、好ましくは1.2〜4、更に好ましくは1.2〜3である。Dv/Dnが、この範囲であれば分散安定性及び乾燥時の造膜性が更に良好となる。
本発明におけるポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径(Dv)及び個数平均粒子径(Dn)は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750{堀場制作所(株)製}]、又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定できる。
【0074】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、塗料組成物、接着剤組成物、繊維加工用のバインダー組成物(顔料捺染用バインダー組成物、不織布用バインダー組成物、補強繊維用集束剤組成物及び抗菌剤用バインダー組成物等)やコーティング組成物(防水コーティング組成物、撥水コーティング組成物及び防汚コーティング組成物等)及び人工皮革・合成皮革用原料組成物等に使用することができる。
【0075】
塗料組成物には、必要によりその他の添加剤、例えば塗膜形成補助樹脂、架橋剤、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤及び凍結防止剤等の1種又は2種以上を添加することができる。
【0076】
抗菌剤用バインダー組成物、コーティング組成物及び人工皮革・合成皮革用原料組成物として用いる場合の、添加剤、処理液の濃度、繊維への適用手段、繊維への付着量及び処理条件等は、用途に応じて適宜採択することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下において部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0078】
溶融温度の測定法は、前述のように、JIS K7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法)に準拠し、「メルトインデクサーI型」(テスター産業株製)を用いて、荷重2.16kgにてメルトマスフローが10g/10minとなる温度を溶融温度とした。
【0079】
実施例1
二軸混練機のKRCニーダー[栗本鐵工(株)製]に、Mnが1,000のポリカーボネートジオール「旭化成PCDL−T4671」[旭化成ケミカルズ(株)製]189.0部、2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略記)21.5部及び4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記)90.2部を窒素雰囲気下で導入した。その後220℃に加熱し、10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレット機[(株)ホーライ製]にて裁断してポリウレタン樹脂(U−1)を得た。続いて、図1の水タンク(T1)よりポンプ(P1)を介し、リアクター(R1)内にイオン交換水を流量40ml/minで送液し、ヒータ(H1)及び圧力調整バルブ(V1)でリアクター(R1)内部の温度が400℃、圧力が30MPaとなるように制御し、また、クーラー(C1)で、(V1)出口温度が30℃となるように制御し、定常状態とした。一方、図1の原料タンク(T2)に、裁断したポリウレタン樹脂(U−1)300.7部、イオン交換水688.4部及び25%アンモニア水(中和剤)10.9部を入れ、攪拌混合した。次に、原料タンク(T2)より、スラリーポンプ(P2)を介して、(T2)内のスラリーをリアクター(R1)内へ流量60ml/minで送液し、更にヒータ(H1)及び圧力調整バルブ(V1)で内部の温度が400℃、圧力が30MPaとなるように制御した。温度・圧力が安定した時点からスラリーを30分間回収タンク(T3)内に回収し、ポリウレタン樹脂水分散体(Q−1)1,000部を得た。なお、リアクター(R1)での流体の滞留時間は2分であり、またクーラー(C1)により冷却され、出口温度(30℃)となるまでの時間は5秒であった。各工程における条件及び分析値等を表1に示す。
【0080】
比較例1
撹拌機及び加熱器を備えた簡易加圧反応装置に、Mnが2,000のポリカーボネートジオール「旭化成PCDL−T4672」[旭化成ケミカルズ(株)製]183.8部、DMPA21.8部、水添MDI100.0部及びアセトン204.1部を窒素を導入しながら仕込んだ。その後85℃に加熱し、10時間かけてウレタン化反応を行い、プレポリマーを製造した。ウレタン化反応終了時の樹脂固形分のイソシアネート含量は0.83mmol/gであった。反応混合物を40℃に冷却後、簡易加圧反応装置内で撹拌しながらトリエチルアミン(中和剤)16.4部及び水683.6部を加え、30℃でプレポリマーを水に分散させた。続いて、減圧下に65℃で8時間かけてアセトンを除去し、ポリウレタン樹脂水分散体1,000部を得た。各工程における条件及び分析値等を表1に示す。尚、表1中の比較例1における(U)のNCO含量は、プレポリマーのイソシアネート含量を示し、(U)の溶融温度は最終的に得られたポリウレタン樹脂水分散体の乾燥物の溶融温度を示す。
【0081】
上記で得られた水分散体について、以下の測定方法で測定した各物性値を表1に示す。
<Mw及びMn>
水分散体を、DMF中にポリウレタン樹脂固形分が0.0125重量%となるように加えて、常温で1時間撹拌後、0.3μmの孔径のフィルターで加圧ろ過して、得られたろ液に含まれているウレタン樹脂を、DMFを溶媒として分子量標準としてポリスチレンを用いて、GPCにより測定した。
<ウレア基含量>
ポリウレタン樹脂のウレア基含量は、窒素分析計[ANTEK7000(アンテック社製)]によって定量されるN原子含量と1H−NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率から算出する。1H−NMR測定については、「NMRによるポリウレタン樹脂の構造研究:武田研究所報34(2)、224−323(1975)」に記載の方法で行う。すなわち1H−NMRを測定して、脂肪族を使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を測定し、該重量比と上記のN原子含量からウレタン基及びウレア基含量を算出する。芳香族イソシアネートを使用した場合、化学シフト8ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト9ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出する。
【0082】
<Dv及びDn>
ポリウレタン樹脂水分散体を、イオン交換水でポリウレタン樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定した。
<固形分濃度>
ポリウレタン樹脂水分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算する。
<粘度>
ポリウレタン樹脂水分散体粘度をB型回転粘度計を用いて、25℃の定温下で測定する
<分散体の臭気>
25℃に温調したポリウレタン樹脂水分散体の溶剤臭気を官能評価した。溶剤臭気が感じられない場合は○、溶剤臭気が感じられた場合を×とする。
<分散体の分散安定性>
25℃に温調したポリウレタン樹脂水分散体を12時間静置しておき、沈降物の発生を目視にて評価した。沈降物が発生しない場合を○、沈降物が発生した場合を×とした。
【0083】
<乾燥皮膜の物性(100%応力、引張強度及び破断伸び)>
JIS K7311に記載の5.引張試験に基づいて行った。測定試料は、ポリウレタン樹脂水分散体10部とN−メチルピロリドン1部を均一に混合し、10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに、水分乾燥後のフィルム膜厚が200μmになる量を流し込み、室温で12時間、循風乾燥機で105℃で3時間加熱乾燥することによって得られるフィルムを基に、JIS K7311に記載の5.1試験片に基づき作製した。
<乾燥皮膜の耐水性>
前記の乾燥皮膜の物性測定と同様にして得られたフィルム上を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出したフィルムの状態を目視により評価した。まったく変化しない場合は◎、白化が見られる場合は○、白化し原型をとどめていない場合は×とした。
<分散体の低温乾燥性>
ポリウレタン樹脂水分散体10部を、10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに、水分乾燥後のフィルム膜厚が200μmになる量を流し込み、室温で48時間乾燥後に造膜しているかどうかを判定した。造膜している場合は◎、造膜していない場合は△とした。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法で得られたポリウレタン樹脂水分散体は、塗料組成物、接着剤組成物及び繊維加工用のバインダーとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0086】
T1:水タンク
T2:原料タンク
T3:回収タンク
P1:ポンプ
P2:スラリーポンプ
H1:ヒーター
R1:チューブリアクター
C1:クーラー
V1:圧力調整バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を使用せずに得られた末端イソシアネート基含量が0.2mmol/g以下であるポリウレタン樹脂(U)を、超臨界状態又は亜臨界状態の水(A)中に溶解した後、冷却及び減圧の少なくとも一方の操作を行うことにより体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmのポリウレタン樹脂粒子(U1)を形成させることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体(Q)の製造方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂(U)が70〜280℃の溶融温度を有し、粒径が0.2〜200mmの粒状である請求項1記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂(U)が、ポリオールとポリイソシアネートを一軸又は二軸の混練機中で100〜250℃でウレタン化反応させて得られたポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項4】
前記ウレタン化反応に引き続いて、前記ポリウレタン樹脂(U)の粒径を0.2〜200mmにする粒状化及びポリウレタン樹脂水分散体(Q)の製造を連続で行うことを特徴とする請求項3記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂(U)が、親水性基を含有する構成単位を含有し、親水性基の含有量が、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて5重量%以下である請求項1〜4のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項6】
前記親水性基を含有する構成単位が、前記ポリウレタン樹脂(U)の骨格中のアニオン性基をアンモニア若しくは炭素数1〜10のアミン化合物で中和した構成単位又はカチオン性基を炭素数1〜10のモノカルボン酸で中和した構成単位であることを特徴とする請求項5記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂(U)中に含まれるウレア基の含量が0.1mmol/g以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の製造方法で得られ、以下の(1)〜(3)の全てを満たすポリウレタン樹脂粒子(U1)を含有するポリウレタン樹脂水分散体。
(1)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜3.5である。
(2)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径(Dv)が0.005〜5μmである。
(3)ポリウレタン樹脂粒子(U1)の体積平均粒子径/個数平均粒子径(Dv/Dn)が1.2〜5である。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−172010(P2012−172010A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33367(P2011−33367)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】