説明

ポリウレタン樹脂水分散体

【課題】 造膜性及び耐水性に優れるポリウレタン樹脂水分散体を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されかつ活性水素を有する化合物(S1)を含有する活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを反応させて得られるポリウレタン樹脂(U1)と水とを含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体、又はポリウレタン樹脂(U2)と一般式(1)で表される化合物(S)とを含有するポリウレタン樹脂組成物(W)及び水を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体。
【化1】


[一般式(1)中、X1及びX2は特定の活性水素含有化合物から特定数の活性水素を除いた残基を表し、a、b及びcは特定の整数を表し、Yは特定の芳香族ポリカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いた残基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料組成物、水性防錆コーティング剤組成物及び水性繊維加工処理剤組成物等に好適な造膜性と耐水性に優れるポリウレタン樹脂水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂水分散体は、ウレタン樹脂の特長である柔軟性と強靭性及び弾性を兼ね備え、かつ被着体への密着性に優れた素材であり塗料、コーティング分野を始め様々な用途に使用されている。また、VOC削減の中で、環境に配慮したポリウレタン樹脂水分散体は今後ますます市場が拡がっていくものと考えられる。
しかし、ポリウレタン樹脂水分散体は親水基などの極性基を含有することから耐水性に課題があり高性能化が要求されている。この解決手段として、架橋剤を利用する方法が報告されている(例えば、(特許文献1〜2参照)が、耐水性の向上に効果はあるものの造膜性が低下してしまうという問題があり、造膜性と耐水性の両立に課題を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−105879号公報
【特許文献2】特開平6−17004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、造膜性及び耐水性に優れるポリウレタン樹脂水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、一般式(1)で表されかつ活性水素を有する化合物(S1)を含有する活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを反応させて得られるポリウレタン樹脂(U1)と水とを含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体;ポリウレタン樹脂(U2)と一般式(1)で表される化合物(S)とを含有するポリウレタン樹脂組成物(W)及び水を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体;前記ポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性塗料;前記ポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性防錆コーティング剤;前記ポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性繊維加工処理剤;である。
【0006】
【化1】

【0007】
[一般式(1)中、X1はm価の活性水素含有化合物からc個の活性水素を除いた残基を表し;cは1≦c≦mを満たす整数を表し;mは1〜20の整数を表し;X2は活性水素含有化合物から1個の活性水素を除いた残基を表し、複数のX2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、X2とX1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yは3価以上の芳香族ポリカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いた残基を表し、Yの芳香環は炭素原子から構成され、その炭素原子にはカルボキシル基以外の置換基及び/又はハロゲン原子が結合していてもよいが少なくとも一つの炭素原子は置換基が結合しておらず;aは1以上の整数を表し、bは0以上の整数を表し、かつ、2≦a+b≦d−2を満たし;dは前記芳香族ポリカルボン酸のカルボキシル基を含む全ての置換基を水素原子に置換した場合の芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の数、即ち芳香環上で置換可能な部位の数を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は造膜性及び耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを反応させて得られるポリウレタン樹脂(U1)を水に分散させたもの、又はポリウレタン樹脂(U2)を含有するポリウレタン樹脂組成物(W)を水に分散させたものであって、前記活性水素成分(A)が一般式(1)で表されかつ少なくとも一つの活性水素を有する化合物(S1)を含有し、ポリウレタン樹脂組成物(W)が一般式(1)で表される化合物(S)を含有することを特徴とする。
前者においては、(S1)がポリウレタン樹脂(U1)の分子骨格に組み込まれることにより本発明の効果を奏し、後者においてはポリウレタン樹脂(U2)に化合物(S)を添加してポリウレタン樹脂組成物(W)とすることにより本発明の効果を奏する。尚、ポリウレタン樹脂(U2)も活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを反応させて得られるが、この場合の活性水素成分(A)は化合物(S1)を含有していても、含有していなくてもよい。
【0010】
一般式(1)で表される化合物(S)は、少なくとも1つの活性水素を有する化合物(S1)と活性水素を有しない(S2)とからなるが、本発明におけるポリウレタン樹脂(U1)には、これらの内の少なくとも1つの活性水素を有する化合物(S1)が用いられ、本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(W)には化合物(S1)、化合物(S2)いずれも用いることができる。化合物(S1)及び(S2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
以下、一般式(1)で表される化合物(S)について説明するが、化合物(S)として好ましい範囲として記載している組成及び数値等は、ポリウレタン樹脂(U1)に組み込まれる少なくとも一つの活性水素を有する化合物(S1)の場合も、ポリウレタン樹脂組成物(W)に添加される化合物(S)の場合も、特に規定しない限り同じである。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(1)におけるX1は、m価の活性水素含有化合物からc個の活性水素を除いた残基を表す。
【0014】
活性水素含有化合物としては、水酸基含有化合物、アンモニア、アミノ基含有化合物及びチオール基含有化合物等が挙げられる。活性水素含有化合物は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
水酸基含有化合物としては、炭素数1〜20の1価のアルコール、炭素数2〜20の多価アルコール、フェノール類及びこれらのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物等が挙げられる。
【0016】
炭素数1〜20の1価アルコールとしては、炭素数1〜20のアルカノール(メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、デカノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコール等)、炭素数2〜20のアルケノール(オレイルアルコール及びリノリルアルコール等)及び炭素数7〜20の芳香脂肪族アルコール(ベンジルアルコール及びナフチルエタノール等)等が挙げられる。
【0017】
炭素数2〜20の多価アルコールとしては、炭素数2〜20の2価アルコール[脂肪族ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−又は1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,10−デカンジオール、等)、脂環式ジオール(シクロヘキサンジオール及びシクロヘキサンジメタノール等)及び芳香脂肪族ジオール[1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン等]等]、炭素数3〜20の3価アルコール[脂肪族トリオール(グリセリン及びトリメチロールプロパン等)等]及び炭素数5〜20の4〜8価アルコール[脂肪族ポリオール(ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン及びジペンタエリスリトール等)及び糖類(ショ糖、グルコース、マンノース、フルクトース、メチルグルコシド及びその誘導体)]等が挙げられる。
【0018】
フェノール類としては、例えば1価のフェノール(フェノール、1−ヒドロキシナフタレン、アントロール及び1−ヒドロキシピレン等)及び多価フェノール[フロログルシン、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、1,3,6,8−テトラヒドロキシナフタレン、1,4,5,8−テトラヒドロキシアントラセン、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物(ノボラック)及び米国特許3265641号明細書に記載のポリフェノール等]が挙げられる。
【0019】
アミノ基含有化合物としては、炭素数1〜20のモノハイドロカルビルアミン[アルキルアミン(ブチルアミン等)、ベンジルアミン及びアニリン等]、炭素数2〜20の脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びジエチレントリアミン等)、炭素数6〜20の脂環式ポリアミン(ジアミノシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン及びイソホロンジアミン等)、炭素数2〜20の芳香族ポリアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン及びジフェニルメタンジアミン等)、炭素数2〜20の複素環式ポリアミン(ピペラジン及びN−アミノエチルピペラジン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等)、ジカルボン酸と過剰のポリアミンとの縮合により得られるポリアミドポリアミン、ポリエーテルポリアミン、ヒドラジン(ヒドラジン及びモノアルキルヒドラジン等)、ジヒドラジッド(コハク酸ジヒドラジッド及びテレフタル酸ジヒドラジッド等)、グアニジン(ブチルグアニジン及び1−シアノグアニジン等)及びジシアンジアミド等が挙げられる。
【0020】
チオール基含有化合物としては、炭素数1〜20の1価のチオール化合物(エタンチオール等のアルカンチオール、ベンゼンチオール及びフェニルメタンチオール)及び多価のチオール化合物(1,2−エタンジチオール及び1,6−ヘキサンジチオール等)等が挙げられる。
【0021】
尚、活性水素含有化合物として、分子内に2種以上の活性水素含有官能基(水酸基、アミノ基及びチオール基等)を有する化合物も使用できる。
【0022】
また、活性水素含有化合物としては、上記活性水素含有化合物のAO付加物を使用することもできる。
【0023】
活性水素含有化合物に付加させるAOとしては、炭素数2〜4のAO、例えば、エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、1,2−プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,3−プロピレンオキサイド、1,2−、1,3−又は2,3−ブチレンオキサイド及びテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)等が挙げられる。これらの内、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点からEO、PO及びTHFが好ましい。AOは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、AOを2種以上併用する場合の付加方法としては、ブロック付加であってもランダム付加であってもよく、これらの併用であってもよい。
【0024】
AOの付加モル数はポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、8〜100が好ましく、更に好ましくは10〜80である。AO付加物の水酸基価は18〜360mgKOH/gであることが好ましい。
尚、本発明において、水酸基価はJIS K 1557−1に準拠して測定される。
【0025】
化合物(S)にX1を導入するための活性水素含有化合物として、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から好ましいのは、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物及びこれらのAO付加物であり、更に好ましいのは、炭素数2〜20の多価アルコール及び炭素数2〜20の多価アルコールにAOを付加したポリエーテルポリオール、炭素数2〜20の脂肪族ポリアミン及び多価のチオール化合物、特に好ましいのは炭素数2〜20の多価アルコール及び炭素数2〜20の多価アルコールにAOを付加したポリエーテルポリオール、最も好ましいのは炭素数2〜20の多価アルコールにAOを付加したポリエーテルポリオールである。
【0026】
活性水素含有化合物の価数mは、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、通常1〜20であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。
【0027】
一般式(1)におけるcは、1〜20でかつ1≦c≦mを満たす整数を表し、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは2である。
【0028】
一般式(1)におけるX2は、1〜20価の活性水素含有化合物から1個の活性水素を除いた残基を表し、複数のX2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
2を構成するために用いられる活性水素含有化合物としては、上述のX1で示した活性水素含有化合物と同様の物が挙げられ、X2とX1はそれぞれ同一でも異なっていてもいがポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、X1と少なくとも1つのX2とは異なる基であることが好ましい。
また、X2の価数はポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、通常1〜20であり、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2、最も好ましくは2である。
【0029】
尚、後述のYを構成するために用いる3価以上のポリカルボン酸に前記活性水素含有化合物を反応させることによりX1及びX2を化合物(S)に導入することができるが、X1及びX2が特に炭素数2〜4のジオール又は繰り返し単位の炭素数が2〜4のポリエーテルポリオールの場合、ポリカルボン酸のカルボキシル基に前記炭素数2〜4のAOを付加することによっても同等の化合物を得ることができる。
【0030】
一般式(1)におけるYは、3価以上の芳香族ポリカルボン酸からすべてのカルボキシル基を除いた残基を表す。Yの芳香環は炭素原子から構成され、その炭素原子にはカルボキシル基以外の置換基及び/又はハロゲン原子が結合していてもよいが、少なくとも一つの炭素原子は置換基が結合しておらず水素原子と結合している必要がある。
【0031】
カルボキシル基以外の置換基とは、アルキル基、ビニル基、アリル基、シクロアルキル基、アミノ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアミノ基、ニトロ基、チオール基、アリール基及びシアノ基等が挙げられる。
【0032】
Yを構成するために用いられる3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、炭素数9〜30の芳香族ポリカルボン酸、例えばトリメリット酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、1,2,4−、1,3,6−又は2,3,6−ナフタレントリカルボン酸及び2,3,6−アントラセントリカルボン酸等のトリカルボン酸;ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−オキシビスフタル酸、ジフェニルメタンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸及び4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフタル酸等のテトラカルボン酸;等が挙げられる。芳香族ポリカルボン酸は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、化合物(S)の製造に当たっては、これらのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)及び酸ハライド(酸のクロライド等)]を用いることもできる。
【0033】
これらの芳香族ポリカルボン酸の内、シーラントの破断伸び及び破断強度の観点から好ましいのは、前記芳香環を構成し置換基が結合していない炭素原子に隣接しかつ芳香環を形成する2個の炭素原子それぞれにカルボキシル基が結合した構造を有するものが好ましく、更に好ましいのは、前記カルボキシル基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子の少なくとも一方に更に1個のカルボキシル基が結合した構造を有するものである。
【0034】
例えば、芳香族ポリカルボン酸の芳香環がベンゼン環の場合、1位と3位にカルボキシル基が結合した構造を有するものが好ましく、更に好ましいのは前記カルボキシル基が結合したベンゼン環の4位及び/又は6位に更にカルボキシル基が結合した構造を有するものである。
【0035】
ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、Yを構成するために用いる芳香族ポリカルボン酸として特に好ましいのは単環式化合物であり、最も好ましいのはトリメリット酸及びピロメリット酸である。
【0036】
一般式(1)におけるaは1以上の整数を表し、bは0以上の整数を表し、かつ、2≦a+b≦d−2を満たし、dは前記芳香族ポリカルボン酸のカルボキシル基を含む全ての置換基を水素原子に置換した場合の芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の数、即ち芳香環上で置換可能な部位の数を表す。例えば、芳香環が炭素原子6個から構成されるベンゼン環の場合、dは6であり、a+bは2〜4の値を取り得、芳香環が炭素原子10個から構成されるナフタレン環の場合、dは8であり、a+bは2〜6の値を取り得る。芳香環が単環の芳香環の場合、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、a+bは2又は3が好ましい。また、ポリウレタン樹脂の造膜性と耐水性の観点から、bはaの1/2以下であることが好ましく、特に好ましいのは0である。
【0037】
本発明における化合物(S)の水酸基価は、ポリウレタン樹脂の破断伸び及び破断強度の観点から、好ましくは0又は70〜500mgKOH/g、(S)が水酸基を有する場合、更に好ましくは75〜350mgKOH/gである。(S)が水酸基を有する場合、水酸基価が70mgKOH/g未満ではポリウレタン樹脂の破断強度が低下する傾向にあり、500mgKOH/gを超えるとポリウレタン樹脂の破断伸びが低下する傾向にある。
尚、化合物(S)の水酸基価が0とは、一般式(1)におけるX1、X2及びYが全て水酸基を有しないことを意味する。
【0038】
化合物(S)におけるYの濃度は、化合物(S)1g中の残基Yのミリモル数を意味し、ポリウレタン樹脂の造膜性及び耐水性の観点から、好ましくは0.5〜8mmol/g、更に好ましくは0.7〜6mmol/g、特にに好ましくは0.9〜4mmol/gである。Yの濃度が0.5mmol/g未満ではポリウレタン樹脂の耐水性が低下する傾向にあり、8mmol/gを超えるとポリウレタン樹脂の造膜性が悪化する場合がある。
【0039】
化合物(S)のカルボニル基濃度は、ポリウレタン樹脂の造膜性及び耐水性の観点から、好ましくは3〜10mmol/g、更に好ましくは3.5〜9.7mmol/g、特に好ましくは4〜9.5mmol/gである。カルボニル基濃度が3mmol/g未満ではポリウレタン樹脂の耐水性が低下する傾向にあり、カルボニル基濃度が10mmol/gを超えると造膜性が悪化する場合がある。本発明におけるカルボニル基濃度におけるカルボニル基とは、一般式(1)におけるYに結合するカルボニル基、即ちYを導入するために用いられる3価以上の芳香族ポリカルボン酸のカルボキシル基並びにこれから誘導されるエステル基、チオエステル基及びアミド基等の官能基中のカルボニル基を意味する。
【0040】
活性水素成分(A)に用いられる場合の化合物(S)のモル平均官能基数は、ポリウレタン樹脂の造膜性及び耐水性の観点から、1〜8が好ましく、更に好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4、最も好ましくは4である。
本発明におけるモル平均官能基数は、組成物中の各成分の活性水素を有する官能基の数に各成分のモル数を乗じた値の総和を各成分のモル数の総和で除した値であり、各成分のモル数は各成分の重量を各成分の分子量で除した値である。計算に用いる分子量としては、低分子化合物の様に分子量に分布がない場合は化学式量を、分子量に分布がある場合は数平均分子量(以下、Mnと略記)を用いる。本発明における化合物(S)及びポリオールのMnは、THFを溶剤として用い、ポリ(オキシプロピレン)グリコールを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、後述のポリウレタン樹脂のMn及び重量平均分子量(以下、Mwと略記)は溶剤としてジメチルホルムアミドを用い、ポリスチレンを標準物質としてGPCにより測定される。
【0041】
少なくとも1つの活性水素を有する化合物(S1)は、一般式(1)におけるX1、X2及びYの内の少なくとも1種が活性水素を有する化合物である。更に詳しくは、少なくとも、X1の価数mとcがm>cを満たすか、Yがアミノ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアミノ基及びチオール基等の活性水素を有する置換基で置換されているか、X2を構成する活性水素含有化合物が2価以上であるか、bが1以上であることにより化合物(S1)は少なくとも1つの活性水素を有する。
【0042】
ポリウレタン樹脂(U1)に用いる化合物(S1)の量は、造膜性及び耐水性の観点から、活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の合計重量を基準として0.01〜10重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜8重量%である。
【0043】
また、ポリウレタン樹脂組成物(W)における化合物(S)の含有量は、ポリウレタン樹脂(U2)の重量を基準として好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0044】
活性水素成分(A)は、化合物(S1)以外のポリオール(a1))並びに必要により親水性基と活性水素を有する化合物(a2)、鎖伸長剤(a3)及び反応停止剤(a4)を含有することができる。
【0045】
(S1)以外のポリオール(a1)としては、化学式量又はMnが300以上の高分子ポリオール(a11)及び化学式量又はMnが300未満の低分子ポリオール(a12)が挙げられる。
【0046】
化学式量又はMnが300以上の高分子ポリオール(a11)としては、ポリエーテルポリオール(a111)及びポリエステルポリオール(a112)等が挙げられる。
【0047】
ポリエーテルポリオール(a111)としては、脂肪族ポリエーテルポリオール及び芳香族環含有ポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0048】
脂肪族ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリ(オキシエチレン)ポリオール[ポリ(オキシエチレン)グリコール等]、ポリ(オキシプロピレン)ポリオール[ポリ(オキシプロピレン)グリコール等]、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ポリオール及びポリ(オキシテトラメチレン)グリコール等が挙げられる。
【0049】
脂肪族ポリエーテルポリオールの市販品としては、PTMG1000[Mn=1,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、三菱化学(株)製]、PTMG2000[Mn=2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、三菱化学(株)製]、PTMG3000[Mn=3,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、三菱化学(株)製]及びサンニックストリオールGP−3000[Mn=3,000のポリ(オキシプロピレン)トリオール、三洋化成工業(株)製]等が挙げられる。
【0050】
芳香族ポリエーテルポリオールとしては、例えばビスフェノールAのEO付加物[ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物及びビスフェノールAのEO20モル付加物等]及びビスフェノールAのPO付加物[ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物等]等のビスフェノール骨格を有するポリオール並びにレゾルシンのEO又はPO付加物等が挙げられる。
【0051】
(a111)のMnは、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の造膜性及び耐水性の観点から、通常300以上、好ましくは300〜10,000、更に好ましくは300〜6,000である。
【0052】
ポリエステルポリオール(a112)としては、縮合型ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール及びヒマシ油系ポリオールが挙げられる。
【0053】
縮合型ポリエステルポリオールは、低分子量(化学式量又はMnが300未満)の多価アルコールと炭素数2〜10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とを反応させて得られる、前記化合物(S)以外のポリエステルポリオールである。
【0054】
低分子量(化学式量又はMnが300未満)の多価アルコールとしては、化学式量又はMnが300未満の2価〜8価又はそれ以上の脂肪族多価アルコール及び化学式量又はMnが300未満の2価〜8価又はそれ以上のフェノールのAO低モル付加物が挙げられる。これらの内好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフェノールAのEO又はPO低モル付加物及びこれらの併用である。
【0055】
縮合型ポリエステルポリオールに使用できる炭素数2〜10の多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸及びマレイン酸等)、脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸等)、3価又はそれ以上のポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、これらの無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水トリメリット酸等)、これらの酸ハロゲン化物(アジピン酸ジクロライド等)、これらの低分子量アルキルエステル(コハク酸ジメチル及びフタル酸ジメチル等)並びこれらの併用が挙げられる。
【0056】
縮合型ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリオキシテトラメチレン)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール及びポリネオペンチルテレフタレートジオール等が挙げられる。
【0057】
縮合型ポリエステルポリオールの市販品としては、サンエスター2610[Mn=1,000のポリエチレンアジペートジオール、三洋化成工業(株)製]及びサンエスター2620[Mn=2,000のポリエチレンアジペートジオール、三洋化成工業(株)製]等が挙げられる。
【0058】
ポリラクトンポリオールは、上記低分子量(化学式量又はMnが300未満)の多価アルコールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4〜12のラクトン(例えばγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン)等が挙げられる。
ポリラクトンポリオールの具体例としては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール及びポリカプロラクトントリオール等が挙げられる。
【0059】
ポリカーボネートポリオールとしては、上記低分子量(化学式量又はMnが300未満)の多価アルコールと、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1〜6のジアルキルカーボネート、炭素数2〜6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6〜9のアリール基を有するジアリールカーボネート)とを、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。低分子量多価アルコール及びアルキレンカーボネートはそれぞれ2種以上併用してもよい。
【0060】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(例えば1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールをジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られるジオール)等が挙げられる。
【0061】
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、ニッポラン980R[Mn=2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール、日本ポリウレタン工業(株)製]及びG4672[Mn=2,000のポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール、旭化成ケミカルズ(株)製]等が挙げられる。
【0062】
ヒマシ油系ポリオールには、ヒマシ油、及びポリオール又はAOで変性された変性ヒマシ油が含まれる。変性ヒマシ油はヒマシ油とポリオールとのエステル交換及び/又はAO付加により製造できる。ヒマシ油系ポリオールとしては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物等が挙げられる。
【0063】
ポリエステルポリオール(a112)の内、好ましいのは、縮合型ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールである。
【0064】
化学式量又はMnが300未満の低分子ポリオール(a12)としては、2価の脂肪族アルコール、3価の脂肪族アルコール及び4価以上の脂肪族アルコールが挙げられる。(a1)の内、造膜性及び耐水性の観点から好ましいのは、2〜3価の脂肪族アルコールであり、脂肪族2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールが特に好ましく、脂肪族3価アルコールとしては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0065】
親水性基と活性水素を有する化合物(a2)としては、アニオン性基と活性水素を有する化合物(a21)及びカチオン性基と活性水素を含有する化合物(a22)等が挙げられる。
【0066】
アニオン性基と活性水素を有する化合物(a21)としては、例えばアニオン性基としてカルボキシル基を含有し、炭素数が2〜10の化合物[ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸及び2,2−ジメチロールオクタン酸)、酒石酸及びアミノ酸(例えばグリシン、アラニン及びバリン)等]、アニオン性基としてスルホン酸基を含有し、炭素数が2〜16の化合物[3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸及びスルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステル等]、アニオン性基としてスルファミン酸基を含有し、炭素数が2〜10の化合物[N,N−ビス(2−ヒドロキシルエチル)スルファミン酸等]等並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0067】
(a21)の塩に用いられる中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜20のアミン化合物又はアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等)が挙げられる。
【0068】
炭素数1〜20のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン、メチルプロパノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルモノエタノールアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0069】
(a21)の塩に用いられる中和剤としては、生成するポリウレタン樹脂水分散体の乾燥性及び得られる皮膜の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、(a21)の塩に用いられる中和剤としては、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジメチルエチルアミンが好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、特に好ましいのはアンモニアである。
【0070】
(a21)の内、得られる皮膜の樹脂物性及びポリウレタン樹脂水分散体の分散安定性の観点から好ましいのは、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸及びこれらの塩であり、更に好ましいのは2,2−ジメチロールプロピオン酸及び2,2−ジメチロールブタン酸のアンモニア又は炭素数1〜20のアミン化合物による中和塩である。
【0071】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物(a22)としては、例えば炭素数1〜20の3級アミノ基含有ジオール[N−アルキルジアルカノールアミン(例えばN−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン及びN−メチルジプロパノールアミン)及びN,N−ジアルキルモノアルカノールアミン(例えばN,N−ジメチルエタノールアミン)等]等の化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0072】
(a22)に用いられる中和剤としては、例えば炭素数1〜10のモノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロパン酸等)、炭酸、炭酸ジメチル、硫酸ジメチル、メチルクロライド及びベンジルクロライド等が挙げられる。
【0073】
(a22)に用いられる中和剤としては、生成するポリウレタン樹脂の水分散体の乾燥性及び得られる皮膜の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から(a22)に用いられる中和剤としては、炭素数1〜10のモノカルボン酸及び炭酸が好ましく、更に好ましいのはギ酸及び炭酸、特に好ましいのは炭酸である。
【0074】
(a21)及び(a22)に用いられる中和剤は、ウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ポリウレタン樹脂の安定性及び水分散体の安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
【0075】
(a2)の使用量は、(U1)又は(U2)中の親水性基の含有量が、(U1)又は(U2)の重量に基づいて、好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.1〜4重量%、特に好ましくは1〜3重量%となるよう調節する。
本発明における親水性基の含有量とは、未中和のカチオン性基又はアニオン性基の重量%を意味し、対イオンの重量は含まない。例えば、(a21)における親水性基の含有量は、2,2−ジメチロールプロピオン酸のトリエチルアミン塩の場合は、カルボキシル基(−COOH)の重量%を、3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸のトリエチルアミン塩の場合はスルホ基(−SO3H)の重量%を指す。また、(a22)における親水性基の含有量は、3級アミノ基中の窒素原子のみの重量%を指す。
【0076】
鎖伸長剤(a3)としては、水、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、炭素数2〜10のポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジン又はその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等)及び炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0077】
反応停止剤(a4)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類及びカルビトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン及びモノオクチルアミン等のモノ又はジアルキルアミン並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミン等のモノ又はジアルカノールアミン等)が挙げられる。
【0078】
本発明における有機ポリイソシアネート成分(B)としては、従来ポリウレタン樹脂製造に使用されているものが使用できる。有機ポリイソシアネート成分(B)としては、2〜3個又はそれ以上のイソシアネート基を有する炭素数6〜20(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様)の芳香族ポリイソシアネート(B1)、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(B2)、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(B3)、炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(B4)及び(B1)〜(B4)の誘導体(例えばイソシアヌレート化物)が挙げられる。
【0079】
炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート(B1)としては、例えば1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−又はp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、クルードMDI等が挙げられる。
【0080】
炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート(B2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0081】
炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート(B3)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート(B4)としては、例えばm−及び/又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0083】
有機ポリイソシアネート成分(B)の内、得られる皮膜の造膜性及び耐水性の観点から好ましいのは(B2)及び(B3)、更に好ましいのは(B3)、特に好ましいのはIPDI及び水添MDIである。
【0084】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U1)には、必要により酸化防止剤、着色防止剤、耐候安定剤、可塑剤及び離型剤等の添加剤を添加することができる。また、本発明におけるポリウレタン樹脂組成物(W)は必要によりこれらの添加剤を含有することができる。これらの添加剤の使用量はポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)の重量に基づいて通常10重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
【0085】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)中のウレタン基含量は、得られる皮膜の造膜性及び耐水性の観点から、(U1)又は(U2)の重量に基づいて、0.5〜5.0mmol/gであることが好ましく、更に好ましくは0.8〜4.2mmol/g、特に好ましくは1.1〜3.4mmol/gである。
【0086】
活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の量を適宜調整することにより、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)のウレタン基含量を所望の範囲とすることができる。
尚、本発明におけるウレタン基含量は実施例に記載の方法で測定される。
【0087】
一般にポリウレタン樹脂の分子末端は、原料の水酸基に由来する水酸基、又はイソシアネート基と水の反応若しくは原料のアミノ基に由来するアミノ基となる。また、ポリウレタン樹脂(U1)及びポリウレタン樹脂組成物(W)を水中に分散する工程において、ウレタン基、ウレア基、アロハネート基又はビューレット基が加水分解することで、末端アミノ基が生成する。この末端アミノ基は末端水酸基と比較して耐水性が悪いため、末端アミノ基の含量が高いポリウレタン樹脂は耐水性が劣る傾向がある。
従って、本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)中の末端アミノ基含量は、、耐水性の観点から、(U1)又は(U2)の重量に基づいて0.35mmol/g以下であることが好ましく、更に好ましくは0.2mmol/g以下、特に好ましくは0.15mmol/g以下、最も好ましくは0.1mmol/g以下である。
【0088】
活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の量を適宜調整することにより、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の末端アミノ基含量を所望の範囲にすることができる。
尚、本発明における末端アミノ基含量は実施例に記載の方法で測定される。
【0089】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)中のウレア基含量は、造膜性及び耐水性の観点から、(U1)又は(U2))の重量に基づいて2.0mmol/g以下であることが好ましく、更に好ましくは0.2mmol/g以下、特に好ましくは0.1mmol/g以下、とりわけ好ましくは0.05mmol/g以下、最も好ましくは0.02mmol/g以下である。
【0090】
ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)中のウレア基含量を所望の範囲とするには、(U1)及び(U2)の原料中のアミノ基含量、水分含量及びイソシアネート基含量を適宜調整すればよい。
尚、本発明におけるウレア基含量は実施例に記載の方法で測定される。
【0091】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)中のアロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値は、造膜性及び耐水性の観点から、(U1)又は(U2)の重量に基づいて0.1mmol/g以下であることが好ましく、更に好ましくは0.03mmol/g以下、特に好ましくは0.01mmol/g以下、とりわけ好ましくは0.003mmol/g以下、最も好ましくは0.001mmol/g以下である。
【0092】
ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)のアロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値を所望の範囲とするには、(U1)及び(U2)の原料中のアミノ基含量、水酸基及びアミノ基の当量に対するイソシアネート基の当量の比、ウレタン化反応温度等を適宜調整すればよい。特に、反応温度については、120℃以下又は180℃以上とすることによりアロハネート基及びビューレット基の生成を抑えることができる。
尚、本発明におけるアロハネート基及びビューレット基の含有量は実施例に記載の方法で測定される。
【0093】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の水への分散前の末端イソシアネート基含量は、(U1)又は(U2)の重量に基づいて好ましくは0.2mmol/g以下、更に好ましくは0.15mmol/g以下、特に好ましくは0.1mmol/g以下、最も好ましくは0.05mmol/g以下である。この範囲であれば、水への分散後の(U1)及び(U2)のウレア基及び末端アミノ基含量を好ましい範囲とすることができる。
【0094】
水への分散前の(U1)及び(U2)の末端イソシアネート基含量は、主に(U1)及び(U2)の原料中のイソシアネート基の当量数と水酸基、アミノ基及び水の合計当量数の比並びにウレタン化反応の反応率によって制御することが可能である。
【0095】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)のMnは、造膜性及び耐水性の観点から、好ましくは1万〜100万、更に好ましくは1万〜50万、特に好ましくは1万〜20万、最も好ましくは1万〜10万である。
【0096】
活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の量を適宜調整することにより、ポリウレタン樹脂(U)のMnを所望の範囲にすることができる。
【0097】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)のMwとMnの比(Mw/Mn)は、造膜性の観点から、好ましくは1.5〜3.5、更に好ましくは1.75〜3.25、特に好ましくは2.0〜3.0である。
【0098】
ポリウレタン樹脂(U)のMw/Mnは、(U1)及び(U2)のウレタン化反応の均一性に関する条件(例えば撹拌・混合)等を適宜調整することにより、所定の範囲にすることができる。
【0099】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の溶融温度は、造膜性及び耐水性の観点から、好ましくは70〜280℃、更に好ましくは80〜200℃、特に好ましくは90〜150℃である。
【0100】
活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の量を適宜調整することにより、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の溶融温度を所望の範囲にすることができる。
尚、本発明における溶融温度は実施例に記載の方法で測定される。
【0101】
本発明において、ポリウレタン樹脂(U1)及びポリウレタン樹脂組成物(W)の体積平均粒子径(Cv)は、ポリウレタン樹脂水分散体の分散安定性の観点から、好ましくは0.01〜1μm、更に好ましくは0.02〜0.7μm、特に好ましくは0.03〜0.4μmである。
【0102】
(U)の体積平均粒子径(Cv)は、(U1)及び(U2)中の親水性基、分散剤量及び分散工程で使用する分散機の種類及び運転条件によって制御することができる。
尚、本発明における体積平均粒子径(Cv)は実施例に記載の方法で測定される。
【0103】
本発明におけるポリウレタン樹脂水分散体は、有機溶剤(S)を含有してもよいが、臭気、経時安定性、環境負荷、安全性及び生産コスト等の観点からは、有機溶剤の含有量は水分散体の重量に基づいて、1000ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下であり、有機溶剤を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0104】
本発明におけるポリウレタン樹脂水分散体が有機溶剤を実質的に含まないためには、ポリウレタン樹脂(U1)及びポリウレタン樹脂組成物(W)の原料及び使用する各種添加剤として有機溶剤を実質的に含有しないものを使用し、(U1)及び(W)の製造工程及び(U1)及び(W)の分散工程において有機溶剤を使用しないことが好ましい。
【0105】
有機溶剤(S)としてはケトン系溶剤(例えばアセトン及びメチルエチルケトン)、エステル系溶剤(例えば酢酸エチル)、エーテル系溶剤(例えばテトラヒドロフラン)、アミド系溶剤(例えばN,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドン)、アルコール系溶剤(例えばイソプロピルアルコール)及び芳香族炭化水素系溶剤(例えばトルエン)等が挙げられる。
【0106】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を製造する方法としては、例えば、以下の[1]及び[2]の方法が挙げられる。
[1]活性水素成分(A)の内、ポリオール(a1)、親水性基を含有する化合物(a2)並びに必要により鎖伸長剤(a3)及び反応停止剤(a4)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを化合物(S)の存在下で、有機溶剤(S)の存在下又は非存在下で一段又は多段で反応させてポリウレタン樹脂を形成し、必要により(a2)により導入された親水基部分を中和又は四級化により塩を形成させ、有機溶剤(S)及び/又は後述の分散剤(C)の存在下又は非存在下で水性媒体に分散する方法。
[2]活性水素成分(A)の内、ポリオール(a1)、親水性基を含有する化合物(a2)並びに必要により鎖伸長剤(a3)及び反応停止剤(a4)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを化合物(S)の存在下で、有機溶剤(S)の存在下又は非存在下で一段又は多段でウレタンプレポリマーを形成し、次いで必要により該プレポリマーの(a2)により導入された親水基部分を中和又は四級化により塩として、有機溶剤(S)、分散剤(C)、鎖伸長剤(a3)及び/又は鎖停止剤(a4)の存在下又は非存在下で水に分散して、イソシアネート基が実質的に無くなるまで反応[水又は(a3)による鎖伸長、及び必要により(a4)による鎖停止]させる方法。
【0107】
ポリウレタン樹脂水性分散体を製造する方法としては、上記[1]及び[2]の方法が挙げられるが、(U1)及び(U2)のウレタン基含量、末端アミノ基含量、Mn、MwとMnの比(Mw/Mn)、溶融温度、ウレア基含量、アロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値、(U1)及び(W)の体積平均粒子径(Cv)並びにポリウレタン樹脂水分散体中の有機溶剤の含有量を上記好ましい範囲とするためには、上記[1]の方法が望ましい。
【0108】
ポリウレタン樹脂水性分散体を製造する上記方法[1]について以下に説明する。
この方法におけるポリウレタン樹脂は、活性水素成分(A)の内、ポリオール(a1)、親水性基を含有する化合物(a2)並びに必要により鎖伸長剤(a3)及び反応停止剤(a4)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを化合物(S)の存在下で、有機溶剤(S)の存在下又は非存在下で反応させることにより得られる。反応温度は好ましくは100〜250℃、更に好ましくは150℃〜250℃、特に好ましくは180℃〜220℃である。化合物(S)が少なくとも一つの活性水素を有する化合物(S1)の場合、ポリウレタン樹脂(U1)が形成され、活性水素を有しない化合物(S2)の場合、ポリウレタン樹脂(U2)と化合物(S2)からなるポリウレタン樹脂組成物(W)が形成される。尚、(W)を形成させるために化合物(S)の非存在下でポリウレタン樹脂(U2)を形成後化合物(S)を添加してもよい。
【0109】
上記ウレタン化反応においては反応を促進させるため、必要により通常のウレタン化反応に使用される触媒を使用してもよい。触媒には、アミン触媒、例えばトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン及び米国特許第4524104号明細書に記載のシクロアミジン類[1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(サンアプロ社製「DBU」)等];錫系触媒、例えばジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレート及びオクチル酸錫;チタン系触媒、例えばテトラブチルチタネート;ビスマス系触媒、例えばトリオクチル酸ビスマス;等が挙げられる。
【0110】
ウレタン化反応を行うための反応容器は、加熱、撹拌可能な反応容器であれば問題なく使用できるが、撹拌強度、密閉性及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機を用いるのが好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、コンティニアスニーダー[(株)栗本鐵工所製]及びPCM30[池貝(株)製]等が挙げられる。
【0111】
ポリウレタン樹脂(U1)、ポリウレタン樹脂組成物(W)又はこれらの有機溶剤溶液を、必要により(a2)により導入された親水基部分を中和又は四級化により塩として、又は後述の分散剤(C)の存在下、水又は水と有機溶剤(S)の混合溶液(以下、水性媒体と表記する場合がある)に分散させることにより本発明のポリウレタン樹脂水分散体が得られる。
【0112】
水との混合して使用される有機溶剤(S)は、分散性の観点から水溶性の有機溶剤であることが好ましい。(S)を使用した場合には、ポリウレタン樹脂水分散体製造後に必要によりこれを留去してもよい。
【0113】
有機溶剤(S)を使用する場合の水と有機溶剤(S)との重量比[水/(S)]は、ポリウレタン樹脂又は組成物の分散の容易性の観点から、好ましくは99/1〜50/50である。
【0114】
ポリウレタン樹脂(U1)、ポリウレタン樹脂組成物(W)又はこれらの有機溶剤溶液を水又は水と有機溶剤(S)の混合溶液に分散させるための分散混合装置としては、回転式分散混合装置、メディア式分散混合装置及び高圧式分散混合装置等が挙げられるが、温度調整、固体粒子の供給及び分散能力等の観点から回転式分散混合装置が好ましい。
【0115】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]等が挙げられる。
【0116】
回転式分散混合装置としては、これらの回転式分散混合装置から選ばれる2種類以上の装置を併用してもかまわない。
尚、これらの回転式分散混合装置を使用する際の回転数は、ポリウレタン樹脂水性分散体の分散安定性の観点から、通常100〜30000rpm、好ましくは500〜30000rpm、更に好ましくは1000〜30000rpm、特に好ましくは2000〜30000rpmである。
【0117】
回転式分散混合装置を用いて分散混合処理する際の分散液の温度は、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の分解や劣化等を防ぐ観点から、ポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度であることが好ましい。
【0118】
回転式分散混合装置に供給されるポリウレタン樹脂と水性媒体の重量比は、目的とする水性分散体の樹脂成分含有量によって適宜選択されるが、通常は、ポリウレタン樹脂/水性媒体=10/2〜10/100であり、好ましくは10/5〜10/50である。
また、ポリウレタン樹脂と水性媒体との回転式分散混合装置内の滞留時間は、通常、0.1〜60分、好ましくは10〜30分である。
【0119】
ポリウレタン樹脂水性分散体を製造する上記方法[2]について以下に説明する。
この方法におけるウレタンプレポリマーは、活性水素成分(A)の内、ポリオール(a1)、親水性基を含有する化合物(a2)、及び必要により鎖伸長剤(a3)、反応停止剤(a4)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを化合物(S)の存在下で、有機溶剤(S)の存在下又は非存在下に、活性水素含有基(カルボキシル基、スルホン酸基及びスルファミン酸基を除く)に対するイソシアネート基の当量比率が通常1.01〜3、好ましくは1.1〜2.0となる割合で、ウレタン化反応させることにより形成される。化合物(S)が少なくとも一つの活性水素を有する化合物(S1)の場合、ポリウレタン樹脂(U1)が形成され、活性水素を有しない化合物(S2)の場合、ポリウレタン樹脂(U2)と化合物(S2)からなるポリウレタン樹脂組成物(W)が形成される。尚、(W)を形成させるために化合物(S)の非存在下でポリウレタン樹脂(U2)を形成後化合物(S)を添加してもよい。
【0120】
ウレタンプレポリマー化反応は、通常20℃〜150℃、好ましくは60℃〜110℃の反応温度で行われ、反応時間は通常2〜15時間である。ウレタンプレポリマーは通常0.1〜5重量%の遊離イソシアネート基を有する。
ウレタンプレポリマー化反応においては反応を促進させるため、必要により上述のウレタン化反応に使用される触媒を使用してもよい。
【0121】
得られたウレタンプレポリマー又はその有機溶剤溶液を、必要により該プレポリマーの(a2)により導入された親水基部分を中和又は四級化により塩として、有機溶剤(S)、後述の分散剤(C)、鎖伸長剤(a3)及び/又は鎖停止剤(a4)の存在下又は非存在下で水性媒体に分散して、イソシアネート基が実質的に無くなるまで反応[水による鎖伸長並びに必要により(a3)による鎖伸長及び(a4)による鎖停止]させることにより本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を得ることができる。
【0122】
ウレタンプレポリマー又はその有機溶剤溶液を水性媒体に乳化分散させる装置の方式は特に限定されず、例えば、(1)錨型撹拌方式、(2)回転子−固定子式方式[例えばエバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、(3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、(4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、(5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、(6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、(7)高圧衝撃式[例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社)]、(8)膜乳化式[例えば膜乳化モジュール]、及び(9)遠心薄膜接触式[例えばフィルミックス(プライミクス社製)]等の乳化機が挙げられる。これらの内、好ましいのは、(2)である。
【0123】
尚、上記方法[2]においては、親水性基を含有する化合物(a2)を使用する代わりに、分散剤(C)を使用することもできるが、耐水性の観点からは(a2)を使用することが好ましい。
【0124】
分散剤(C)としては、ノニオン性界面活性剤(C1)、アニオン性界面活性剤(C2)、カチオン性界面活性剤(C3)、両性界面活性剤(C4)及びその他の乳化分散剤(C5)が挙げられる。(C)は単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0125】
(C1)としては、例えばAO付加型ノニオン性界面活性剤及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤が挙げられる。AO付加型としては、炭素数10〜20の脂肪族アルコールのEO付加物、フェノールのEO付加物、ノニルフェノールのEO付加物、炭素数8〜22のアルキルアミンのEO付加物及びポリ(オキシプロピレン)グリコールのEO付加物等が挙げられ、多価アルコール型としては、多価(3〜8価又はそれ以上)アルコール(炭素数2〜30)の脂肪酸(炭素数8〜24)エステル(例えばグリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンモノオレエート等)及びアルキル(炭素数4〜24)ポリ(重合度1〜10)グリコシド等が挙げられる。
【0126】
(C2)としては、例えば炭素数8〜24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸又はその塩[ラウリルエーテル酢酸ナトリウム及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等];炭素数8〜24の炭化水素基を有する硫酸エステル又はエーテル硫酸エステル及びそれらの塩[ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリル硫酸トリエタノールアミン及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム等];炭素数8〜24の炭化水素基を有するスルホン酸塩[ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等];炭素数8〜24の炭化水素基を1個又は2個有するスルホコハク酸塩;炭素数8〜24の炭化水素基を有するリン酸エステル又はエーテルリン酸エステル及びそれらの塩[ラウリルリン酸ナトリウム及び(ポリ)オキシエチレン(付加モル数1〜100)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等];炭素数8〜24の炭化水素基を有する脂肪酸塩[ラウリン酸ナトリウム及びラウリン酸トリエタノールアミン等];並びに炭素数8〜24の炭化水素基を有するアシル化アミノ酸塩[ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム及びラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム等]が挙げられる。
【0127】
(C3)としては、例えば第4級アンモニウム塩型[塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム及びエチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等]並びにアミン塩型[ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩及びオレイルアミン乳酸塩等]が挙げられる。
【0128】
(C4)としては、例えばベタイン型両性界面活性剤[ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン及びラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタインヒドロキシプロピルリン酸ナトリウム等]並びにアミノ酸型両性界面活性剤[β−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等]が挙げられる。
【0129】
(C5)としては、例えばポリビニルアルコール、デンプン及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体並びにポリアクリル酸ソーダ等のカルボキシル基含有(共)重合体及び米国特許第5906704号明細書に記載のウレタン基又はエステル基を有する乳化分散剤[例えばポリカプロラクトンポリオールとポリエーテルジオールをポリイソシアネートで連結させたもの]等が挙げられる。
【0130】
分散剤(C)は、ウレタン樹脂(U1)又は(U2)のウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、(U1)又はポリウレタン樹脂組成物(W)の水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加してもよいが、(U1)又はポリウレタン樹脂組成物(W)の分散性及び水分散体の安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
【0131】
(C)の使用量はポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)の重量に基づいて通常0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0132】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、更にブロックイソシアネート化合物(D1)及びメラミン化合物(D2)等の架橋剤(D)を含有することができる。(D1)はポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)がヒドロキシル基又はアミノ基を有する場合に使用され、(D2)はポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)がヒドロキシル基、アミノ基又はカルボキシル基を有する場合に使用される。
【0133】
ブロックイソシアネート化合物(D1)としては、特に限定されるものではなく有機ポリイソシアネート化合物に活性メチレン基を有する化合物を付加させることによって得られるものを用いることができ、具体的には旭化成株式会社製の「デュラネートシリーズ」及び三井化学株式会社製の「タケネートシリーズ」等が挙げられる。
【0134】
上記ブロックイソシアネート化合物(D1)の含有量は、造膜性及び耐水性の観点から、ポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)を基準として0.01〜25重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜20重量%である。
【0135】
メラミン化合物(D2)としては、特に限定されるものではなく三井東圧化学株式会社製の「ユーバンシリーズ」、日本サイテック株式会社製の「サイメルシリーズ」及び住友化学株式会社製の「スミマールシリーズ」等が挙げられる。
【0136】
上記メラミン化合物(D2)の含有量は、造膜性及び耐水性の観点から、ポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)を基準として0.01〜25重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜20重量%である。
【0137】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、造膜性及び耐水性に優れるため、水性塗料、水性コーティング(防錆コーティング剤、防水コーティング剤、撥水コーティング剤及び防汚コーティング剤等)、水性接着剤、水性繊維加工処理剤(顔料捺染用バインダー、不織布用バインダー、補強繊維用集束剤、抗菌剤用バインダー及び人工皮革・合成皮革用原料等)、水性紙処理剤や水性インキ等に使用することができるが、その優れた造膜性及び耐水性から、特に水性塗料、水性防錆コーティング剤及び水性繊維加工処理剤用のポリウレタン樹脂水分散体として好適に使用することができる。
【0138】
これらの用途に用いる場合には、必要によりその他の添加剤、例えば塗膜形成補助樹脂、架橋剤、触媒、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤及び凍結防止剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【0139】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を水性塗料に用いる場合、塗膜形成補助やバインダー機能の向上等を目的として、必要により本発明のポリウレタン樹脂水分散体におけるポリウレタン樹脂(U1)及び(U2)以外に、他の水分散性樹脂又は水溶性樹脂を併用していてもよい。
【0140】
水性塗料に併用される他の水分散性樹脂又は水溶性樹脂としては、例えば本発明におけるポリウレタン樹脂以外の水分散性又は水溶性のポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂及びポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの他の樹脂は、水性塗料の用途毎に、各用途で常用されるもの等から適宜選択することができる。
【0141】
水性塗料における本発明のポリウレタン樹脂水分散体の固形分の含有量は、水性塗料の重量に基づいて通常0.1〜60重量%、好ましくは1〜50重量%である。
また、水性塗料における他の樹脂の含有量は、水性塗料の重量に基づいて通常60重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0142】
水性塗料は、更に前記架橋剤(D)、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤、凍結防止剤及び水等を1種又は2種以上含有することができる。
架橋剤の添加量はポリウレタン樹脂水分散体の固形分重量を基準として、通常30重量%以下、好ましくは0.1〜20重量%である。
【0143】
顔料としては、水への溶解度が1以下の無機顔料(例えば白色顔料、黒色顔料、灰色顔料、赤色顔料、茶色顔料、黄色顔料、緑色顔料、青色顔料、紫色顔料及びメタリック顔料)並びに有機顔料(例えば天然有機顔料合成系有機顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、顔料色素型アゾ顔料、水溶性染料からつくるアゾレーキ、難溶性染料からつくるアゾレーキ、塩基性染料からつくるレーキ、酸性染料からつくるレーキ、キサンタンレーキ、アントラキノンレーキ、バット染料からの顔料及びフタロシアニン顔料)等が挙げられる。顔料の含有量は、水性塗料の重量に基づいて通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0144】
顔料分散剤としては、上述の分散剤(C)が挙げられ、顔料分散剤の含有量は、顔料の重量に基づいて通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
【0145】
粘度調整剤としては増粘剤、例えば無機系粘度調整剤(ケイ酸ソーダやベントナイト等)、セルロース系粘度調整剤(Mnが20,000以上のメチルセルロール、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等)、タンパク質系粘度調整剤(カゼイン、カゼインソーダ及びカゼインアンモニウム等)、アクリル系(Mnが20,000以上のポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸アンモニウム等)及びビニル系粘度調整剤(Mnが20,000以上のポリビニルアルコール等)が挙げられる。
消泡剤としては、長鎖アルコール(オクチルアルコール等)、ソルビタン誘導体(ソルビタンモノオレート等)、シリコーンオイル(ポリメチルシロキサン及びポリエーテル変性シリコーン等)等が挙げられる。
【0146】
防腐剤としては、有機窒素硫黄化合物系防腐剤及び有機硫黄ハロゲン化物系防腐剤等が挙げられる。
劣化防止剤及び安定化剤(紫外線吸収剤及び酸化防止剤等)としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系及びベンゾトリアゾール系劣化防止剤及び安定化剤等が挙げられる。
凍結防止剤としては、エチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。
粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤及び凍結防止剤の含有量は、水性塗料の重量に基づいてそれぞれ通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下である。
【0147】
水性塗料には、乾燥後の塗膜外観を向上させる目的で更に溶剤を添加してもよい。添加する溶剤としては例えば炭素数1〜20の1価アルコール(メタノール、エタノール及びプロパノール等)、炭素数1〜20のグリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコール等)、炭素数1〜20の3価以上のアルコール(グリセリン等)及び炭素数1〜20のセロソルブ類(メチル及びエチルセロソルブ等)等が使用できる。添加する溶剤の含有量は、水性塗料の重量に基づいて、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。
【0148】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体を用いた水性塗料は、本発明のポリウレタン樹脂水分散体と上記記載の各成分を混合、撹拌することで製造される。混合の際は全ての成分を同時に混合しても、各成分を段階的に投入して混合してもよい。
水性塗料の固形分濃度は、好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは15〜60重量%である。
【0149】
本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を水性防錆コーティング剤に用いる場合、使用する樹脂として本発明のポリウレタン樹脂水性分散体におけるウレタン樹脂(U1)及び(U2)を単独で用いても構わないが、SBRラテックス樹脂やアクリル樹脂に代表されるウレタン樹脂以外の水分散性又は水溶性樹脂を併用することができる。併用する場合、樹脂全重量におけるポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)の割合は、好ましくは10重量%以上、更に好ましくは50重量%以上である。
【0150】
また、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体を含有する水性防錆コーティング剤の性能を阻害しない範囲で通常の水性防錆コーティング剤に使用される副資材及び添加剤、例えば、架橋剤、可塑剤、充填剤、顔料、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤及び難燃剤等を使用することも可能である。
【0151】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体を水性繊維加工処理剤に用いる場合、必要により公知の消泡剤、湿潤剤、各種樹脂水分散体(本発明以外のポリウレタン水分散体、アクリル水分散体、SBRラテックス等)及び柔軟剤等を配合することができる。これらの配合量は樹脂水分散体の場合は固形分換算でポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)の重量に基づいて30重量%以下、特に20重量%以下であることが好ましく、その他の添加剤の場合はそれぞれ1重量%以下、特に0.1〜0.5重量%であることが好ましい。また、必要により、pH調整剤を添加することもできる。pH調整剤としては、アルカリ性物質、例えば強塩基(アルカリ金属等)と弱酸(pKaが2.0を越える酸、例えば炭酸及び燐酸)の塩(重炭酸ナトリウム等)、又は酸性物質(酢酸等)が挙げられる。pH調整剤の量は通常ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づいて0.01〜0.3重量%である。
【0152】
本発明の水性繊維加工処理剤の固形分(不揮発分)濃度は特に限定されないが、通常10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%である。また、粘度(25℃)は通常10〜100000mPa・sである。
【実施例】
【0153】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下において部は重量部を表す。
【0154】
製造例1 [化合物(S1−1)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、無水トリメリット酸192部及びドデシルアルコール372部を仕込み、180℃で生成する水を留去しながら5時間反応させ、無水トリメリット酸1モルにドデシルアルコールが2モル反応したエステル化物を得た。続いて、アルカリ触媒(N−エチルモルホリン)2.1部及び溶剤としてのTHF269部を仕込み、窒素雰囲気下、EO44部を100±10℃で、圧力が0.50MPa以下となるよう制御しながら、5時間かけて滴下した後、100±10℃で1時間熟成して、前記エステル化物にEOが付加した化合物(S1−1)を得た。
【0155】
製造例2 [化合物(S1−2)の製造]
ドデシルアルコール372部をベンジルアルコール216部に代える以外は製造例1と同様にして化合物(S1−2)を得た。
【0156】
製造例3 [化合物(S1−3)の製造]
ドデシルアルコール372部をベンジルアルコール108部に、EOの仕込量を88部に代える以外は製造例1と同様にして化合物(S1−3)を得た。
【0157】
製造例4 [化合物(S1−4)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、トリメリット酸210部、アルカリ触媒(N−エチルモルホリン)2.1部及び溶剤としてTHFを313部仕込み、窒素雰囲気下、EO88部を100±10℃で、圧力が0.50MPa以下となるよう制御しながら、5時間かけて滴下した後、100±10℃で1時間熟成して、トリメリット酸のカルボキシル基にEOが付加した化合物(S1−4)を得た。
【0158】
製造例5 [化合物(S1−5)の製造]
EOの仕込量を132部に代える以外は製造例4と同様にしてトリメリット酸のカルボキシル基にEOが付加した化合物(S1−5)を得た。
【0159】
製造例6 [化合物(S1−6)の製造]
トリメリット酸210部をピロメリット酸254部に代える以外は製造例4と同様にしてピロメリット酸の2個のカルボキシル基にEOが付加した化合物(S1−6)を得た。
【0160】
製造例7 [化合物(S1−7)の製造]
トリメリット酸210部をピロメリット酸254部に、EOの仕込量を176に代える以外は製造例4と同様にしてピロメリット酸のカルボキシル基にEOが付加した化合物(S1−7)を得た。
【0161】
製造例8 [化合物(S1−8)の製造]
ドデシルアルコール372部をベンジルアルコール108部に、EO44部をPO116部に代える以外は製造例1と同様にして化合物(S1−8)を得た。
【0162】
製造例9 [化合物(S1−9)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、プロピレングリコールのPO/EOブロック付加物(三洋化成工業株式会社製「サンニックスPL−910」;Mn900、水酸基価124.7)900部、無水トリメリット酸384部及びアルカリ触媒(N−エチルモルホリン)2.1部を仕込み、窒素雰囲気下、0.20MPa、130±10℃で5時間反応させ酸無水物基部分のハーフエステル化を行い、プロピレングリコールのPO/EOブロック付加物1モルに無水トリメリット酸が2モル反応したエステル化物を得た。続いてEO176部を100±10℃で、圧力が0.50MPa以下となるよう制御しながら、5時間かけて滴下した後、100±10℃で1時間熟成して、前記エステル化物にEOが付加した化合物(S1−9)を得た。
【0163】
製造例10 [化合物(S2−1)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、ポリ(オキシプロピレン)グリコール(三洋化成工業株式会社製「サンニックスPP−1000」;Mn1000、水酸基価112.2)1000部、無水トリメリット酸384部及びトリエチルアミン404部を仕込み、窒素雰囲気下、0.20MPa、80±5℃で2時間反応させ酸無水物基部分のハーフエステル化を行い、ポリ(オキシプロピレン)グリコール1モルに無水トリメリット酸が2モル反応したエステル化物を得た。続いてベンジルクロリド508部を入れ、70±5℃で、2時間反応させた。その後、分液を行い、前記エステル化物のカルボキシル基をベンジルオキシカルボニル基とした化合物(S2−1)を得た。
【0164】
製造例11 [化合物(S2−2)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、1,10−デカンジオール174部、無水トリメリット酸384部、トリエチルアミン404部及び溶剤としてのTHF246部を仕込み、窒素雰囲気下、0.20MPa、80±5℃で2時間反応させ酸無水物基部分のハーフエステル化を行い、1,10−デカンジオール1モルに無水トリメリット酸が2モル反応したエステル化物を得た。続いてベンジルクロリド508部を加え、70±5℃で、2時間反応させた。その後、80±10℃、10kPaで溶剤を留去することにより、前記エステル化物のカルボキシル基をベンジルオキシカルボニル基とした化合物(S2−2)を得た。
【0165】
製造例12 [化合物(S2−3)の製造]
ポリ(オキシプロピレン)グリコール1000部をエチレングリコール62部に代える以外は製造例11と同様にして化合物(S2−3)を得た。
【0166】
製造例13 [化合物(S2−4)の製造]
撹拌装置、温度制御装置付きのステンレス製オートクレーブに、1,10−デカンジオール174部、無水トリメリット酸384部、トリエチルアミン404部及び溶剤としてのトルエン246部を仕込み、窒素雰囲気下、0.20MPa、80±5℃で2時間反応させ酸無水物基部分のハーフエステル化を行い、1,10−デカンジオール1モルに無水トリメリット酸が2モル反応したエステル化物を得た。続いてベンジルアミン428部を加え、95±5℃、0.06MPa以下となるように制御し、揮発するトルエンと水を冷却器で凝縮させ、トラップで分離したトルエンを反応容器に連続的に戻しながら6時間反応させた。反応後、80±10℃、10kPaで溶媒を留去することにより、前記エステル化合物のカルボキシル基をベンジルカルバモイル基とした化合物(S2−4)を得た。
【0167】
製造例14 [化合物(S2−5)の製造]
1,10−デカンジオール174部をグリセリン92部に、無水トリメリット酸の仕込量を576部に、ベンジルアミン428部をベンジルアルコール648部に変更する以外は製造例13と同様にして化合物(S2−5)を得た。
【0168】
製造例15 [化合物(S1−10)の製造]
ベンジルクロリドの仕込量を254部に変更する以外は製造例11と同様にして化合物(S1−10)を得た。
【0169】
製造例16 [化合物(S2−6)の製造]
1,10−デカンジオール174部をペンタエリスリトール136部に、無水トリメリット酸の仕込量を768部に、ベンジルアミン428部をベンジルアルコール864部に変更する以外は製造例13と同様にして化合物(S2−6)を得た。
【0170】
製造例17 [化合物(S1−11)の製造]
プロピレングリコールのPO/EOブロック付加物900部を1,10−デカンジオール174部に、EO176部をPO464部に変更する以外は製造例9と同様にして化合物(S1−11)を得た。
【0171】
製造例18 [化合物(S2−7)の製造]
ベンジルアミン428部をベンジルチオール496部に変更する以外は製造例13と同様にして化合物(S2−7)を得た。
【0172】
比較製造例1 [化合物(S1’−1)の製造]
無水トリメリット酸192部を無水フタル酸148部に、ドデシルアルコールの仕込量を186部に代える以外は製造例1と同様にして化合物(S1’−1)を得た。
【0173】
比較製造例2
無水トリメリット酸384部を無水フタル酸296部に、ベンジルクロリドの仕込量を254部に代える以外は製造例10と同様にして化合物(S2’−1)を得た。
【0174】
製造例1〜18及び比較製造例1〜2で得られた化合物の分析結果を表1に示す。
【0175】
【表1】

【0176】
製造例19 [ポリウレタン樹脂水分散体(Q−1)の製造]
表2に記載の各原料を混合後に、窒素雰囲気下で二軸混練機であるKRCニーダー[(株)栗本鐵工所製]に仕込み220℃で10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に加熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断してポリウレタン樹脂(U2−1)を得た。続いて、温度制御可能な耐圧容器に前記ポリウレタン樹脂(U2−1)285.7部、水703.9部及び25重量%アンモニア水10.4部を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて、10000rpmで130℃×3分間分散処理することでポリウレタン樹脂水分散体(Q−1)を得た。
【0177】
製造例20
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表2に記載の各原料を仕込んで85℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行い、ウレタンプレポリマーのアセトン溶液を製造した。ウレタンプレポリマーのアセトン溶液の固形分あたりのイソシアネート含量は0.42mmol/gであった。得られたウレタンプレポリマーのアセトン溶液397.56部を簡易加圧反応装置に仕込み、40℃で撹拌しながら中和剤としてのトリエチルアミン12.85部及び水589.59部を加えた。60rpmで3分間攪拌後、鎖伸長剤としてのエチレンジアミン2.50部を加え、減圧下に65℃で8時間かけてアセトンを留去し、ポリウレタン樹脂水分散体(Q−2)を得た。
【0178】
【表2】

【0179】
実施例1〜10
表3に記載のポリウレタン樹脂用原料を混合後に、窒素雰囲気下で二軸混練機であるKRCニーダー[(株)栗本鐵工所製]に仕込み220℃で10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に加熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断してポリウレタン樹脂(U1−1)〜(U1−10)を得た。続いて、温度制御可能な耐圧容器に得られたポリウレタン樹脂全量と表3に記載の中和アミン及び水を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて、10000rpmで130℃×3分間分散処理することでポリウレタン樹脂水分散体を得た。
【0180】
実施例11
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に表3に記載のプレポリマー用原料を仕込んで85℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行い、ウレタンプレポリマーのアセトン溶液を製造した。ウレタンプレポリマーのアセトン溶液の固形分当たりのイソシアネート含量は0.71mmol/gであった。得られたウレタンプレポリマーのアセトン溶液472.6部を簡易加圧反応装置に仕込み、40℃で撹拌しながらトリエチルアミン(中和剤)15.3部、グリセリンモノステアレート2.0部及び水700.8部を加えた。60rpmで3分間攪拌後、鎖伸長剤であるエチレンジアミン10%水溶液29.9部を加え、減圧下に65℃で8時間かけてアセトンを留去後、架橋剤としてデュラネートMF−K60X(旭化成ケミカルズ製)を5部添加してポリウレタン樹脂水分散体を得た。
【0181】
【表3】

【0182】
実施例12〜22
温度制御可能な耐圧容器に表4に記載の各原料を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて、10000rpmで130℃×3分間分散処理することでポリウレタン樹脂水分散体を得た。尚、表4におけるポリウレタン樹脂(U2−1)は製造例19におけるポリウレタン樹脂(U2−1)であり、上記分散処理中に化合物(S)はポリウレタン樹脂(U2−1)中に取り込まれ、ウレタン樹脂組成物が形成される。
【0183】
【表4】

【0184】
実施例23
製造例20と同様にしてウレタンプレポリマー397.56部を合成後、化合物(S1−11)を10部プレポリマーに配合溶解後、簡易加圧反応装置に仕込み、40℃で撹拌しながらトリエチルアミン(中和剤)12.85部及び水589.59部を加えた。60rpmで3分間攪拌後、鎖伸長剤であるエチレンジアミン2.50部を加え、減圧下に65℃で8時間かけてアセトンを留去後、架橋剤としてデュラネートMF−K60X(旭化成ケミカルズ製)を30部添加してポリウレタン樹脂水分散体を得た。
【0185】
比較例1
製造例20で得られたポリウレタン樹脂水分散体(Q−2)を比較例1のポリウレタン樹脂水分散体とした。
【0186】
比較例2
表3に記載のポリウレタン樹脂用原料を混合後に、窒素雰囲気下で二軸混練機であるKRCニーダー[(株)栗本鐵工所製]に仕込み220℃で10分間混練してウレタン化反応を行った。反応物を取り出し、180℃に加熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断してポリウレタン樹脂を得た。続いて、温度制御可能な耐圧容器に得られたポリウレタン樹脂全量と表3に記載の中和アミン及び水を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて、10000rpmで130℃×3分間分散処理することで比較例2のポリウレタン樹脂水分散体を得た。
【0187】
比較例3
温度制御可能な耐圧容器に表4に記載の各原料を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて、10000rpmで130℃×3分間分散処理することでポリウレタン樹脂水分散体を得た。尚、表4におけるポリウレタン樹脂(U2−1)は製造例19におけるポリウレタン樹脂(U2−1)であり、上記分散処理中に化合物(S2’−1)はポリウレタン樹脂(U2−1)中に取り込まれ、ウレタン樹脂組成物が形成される。
【0188】
実施例1〜23及び比較例1〜3のポリウレタン樹脂水分散体の各種物性値及び評価結果を表5及び6に示す。尚、本発明における各種物性値の測定方法及び評価方法は以下の通りである。
<ウレタン基含量及びウレア基含量>
ポリウレタン樹脂のウレタン基含量及びウレア基含量は、窒素分析計[ANTEK7000(アンテック社製)]によって定量されるN原子含量と1H−NMRによって定量されるウレタン基とウレア基の比率及び後述のアロハネート基及びビューレット基含量から算出する。1H−NMR測定については、「NMRによるポリウレタン樹脂の構造研究:武田研究所報34(2)、224−323(1975)」に記載の方法で行う。即ち1H−NMRを測定して、脂肪族を使用した場合、化学シフト6ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト7ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を測定し、該重量比と上記のN原子含量及びアロハネート基及びビューレット基含量からウレタン基及びウレア基含量を算出する。芳香族イソシアネートを使用した場合、化学シフト8ppm付近のウレア基由来の水素の積分量と化学シフト9ppm付近のウレタン基由来の水素の積分量の比率からウレア基とウレタン基の重量比を算出し、該重量比と上記のN原子含量からウレア基含量を算出する。
【0189】
<末端アミノ基含量>
以下の方法でポリウレタン樹脂の全アミン価及び3級アミン価を求めて、次式により末端アミノ基含量(mmol/g)を算出する。
末端アミノ基含量(mmol/g)=(全アミン価−3級アミン価)/56.1
(1)全アミン価
100mlのフラスコ中でトルエン50mlにポリウレタン樹脂を溶解後、無水酢酸20mlを加えて、キシレンシアノールFF・メチルオレンジ混合指示薬を用いて、0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液で滴定を行い(終点は、指示薬の色が緑色から赤褐色になった点)滴定ml数を読み取り、次式により全アミン価を算出する。
全アミン価=a×f/(S×28.05)
a:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の滴定ml数。
f:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の力価。
S:ポリウレタン樹脂採取量(g)
(2)3級アミン価
100mlのフラスコ中でトルエン50mlにポリウレタン樹脂を溶解後、無水酢酸20mlを加えてよく振とうし、30分間室温にて放置。キシレンシアノールFF・メチルオレンジ混合指示薬を用いて、0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液で滴定を行い(終点は、指示薬の色が緑色から赤褐色になった点)滴定ml数を読み取り、次式により3級アミン価を算出する。
3級アミン価=a×f/(S×28.05)
a:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の滴定ml数
f:0.5mol/l塩酸・メチルアルコール滴定用溶液の力価
S:ポリウレタン樹脂採取量(g)
【0190】
<アロハネート基及びビューレット基の含量>
ポリウレタン樹脂のアロハネート基及びビューレット基の含量の合計は、ガスクロマトグラフ[Shimadzu GC−9A{島津製作所(株)製}]によって算出する。0.01重量%のジ−n−ブチルアミンと0.01重量%のナフタレン(内部標準)とを含む50gのジメチルフォルムアミド(以下、DMFと略記)溶液を調整する。サンプルを共栓付き試験管に測り取り、上記のDMF溶液を2g加え、試験管を90℃の恒温水槽で2時間加熱する。常温に冷却後、10μlの無水酢酸を加え10分間振とう攪拌する。更に50μlのジ−n−プロピルアミンを添加し、10分間振とう後、ガスクロマトグラフ測定を行う。並行してブランク測定を行い、試験値との差よりアミンの消費量を求め、アロハネート基及びビューレット基の含量の合計を測定した。
(ガスクロマトグラフ条件)
装置 :Shimadzu GC−9A
カラム:10%PEG−20M on Chromosorb WAWDMLS 60/80meshガラスカラム 3mmφ×2m
カラム温度:160℃、試料導入部温度:200℃、キャリアガス:窒素 40ml/分
検出器:FID、試料注入量:2μl
(アロハネート基及びビューレット基の含量の合計の算出式)
アロハネート基及びビューレット基の含量の合計={(B−A)/B}×0.00155/S
A:試料の(ジ−n−ブチルアセトアミドのピーク面積/ナフタレンのピーク面積)
B:ブランクの(ジ−n−ブチルアセトアミドのピーク面積/ナフタレンのピーク面積)
S:ポリウレタン樹脂採取量(g)
【0191】
<Mw及びMn>
ポリウレタン樹脂又はポリウレタン水分散体を、DMF中にポリウレタン樹脂固形分が0.0125重量%となるように加えて、常温で1時間撹拌溶解後、0.3μmの孔径のフィルターでろ過して、得られたろ液に含まれているポリウレタン樹脂のMwとMnを、DMFを溶媒として、また、ポリスチレンを分子量標準として用いて、GPCにより測定した。
【0192】
<溶融温度>
本発明におけるポリウレタン樹脂の溶融温度は、JIS K7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法)において、メルトマスフローレイト測定装置として「メルトインデクサーI型」[テスター産業(株)製]を用いて、荷重2.16kgにてメルトマスフローが10g/10minとなる温度である。
【0193】
<体積平均粒子径(Cv)>
ポリウレタン樹脂水分散体を、イオン交換水でポリウレタン樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定した。
【0194】
<乾燥皮膜の耐水性>
ポリウレタン樹脂水分散体10部を、縦10cm×横20cm×深さ1cmのポリプロピレン製モールドに、乾燥後のフィルム膜厚が200μmになる量を流し込み、室温で12時間乾燥後、循風乾燥機で80℃で3時間加熱乾燥することによって得られるフィルムを、80℃のイオン交換水に30日間浸漬した後、目視にて皮膜の表面状態を観察した。変化が無い場合を○、白化した場合を×とした。また、取り出したフィルムを乾燥して、乾燥皮膜の物性測定を行った。浸漬前に対する浸漬後の破断伸びの変化率が0.95倍以上の場合は◎、0.9倍以上0.95倍未満の場合は○、0.8倍以上0.9倍未満の場合は△、0.8倍未満の場合は×とした。尚、破断伸びの測定は、JIS K7311に記載の5.引張試験に基づいて行った。
【0195】
<ポリウレタン樹脂水分散体の造膜性>
ポリウレタン樹脂水分散体10部を、縦10cm×横20cm×深さ1cmのポリプロピレン製モールドに、水分乾燥後のフィルム膜厚が200μmになる量を流し込み、25℃で48時間乾燥後に造膜しているかどうかを判定した。造膜している場合は◎、ほぼ造膜している場合は○、造膜していない場合は×とした。
【0196】
【表5】

【0197】
【表6】

【0198】
実施例24 [水性塗料の製造]
イオン交換水90部、増粘剤[「ビスライザーAP−2」、三洋化成工業(株)製]70部、顔料分散剤[「キャリボンL−400」、三洋化成工業(株)製]10部、酸化チタン[「CR−93」、石原産業(株)製]140部、カーボンブラック[「FW200P」、デグサ(株)製]及び炭酸カルシウム160部をペイントコンディショナーにより30分間混合分散した。ここに1−ノナノール20部、アクリル水分散体[「ポリトロンZ330」、旭化成(株)製]200部及び実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体200部を仕込み、10分間混合分散した。更にイオン交換水を用いて25℃での粘度が150mPa・sとなるよう調整し、水性塗料(E−1)を得た。
【0199】
実施例25 [水性塗料の製造]
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例8で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例24と同様にして水性塗料(E−2)を得た。
【0200】
実施例26 [水性塗料の製造]
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例12で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例24と同様にして水性塗料(E−3)を得た。
【0201】
比較例4
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに製造例20で得られたポリウレタン樹脂水分散体(Q−2)を用いる以外は、実施例24と同様にして比較用の水性塗料(E’−1)を得た。
得られた水性塗料(E−1)〜(E−3)及び(E’−1)について、下記試験方法に基づいて塗膜の耐水性及び塗料の造膜性を評価した結果を表7に示す。
【0202】
<塗膜の耐水性評価方法>
水性塗料を10cm×20cmの鋼板にスプレー塗布し、80℃で10分加熱して厚さ20μmの塗膜を作製した。この塗装した鋼板を80℃のイオン交換水中に30日間浸漬した後、取り出して表面を軽く拭き、塗膜表面を目視により以下の評価基準で評価した。
○:浸漬前後で塗膜表面の変化がない。
×:浸漬後、塗料が一部剥げ落ちている。
【0203】
<塗料の造膜性評価方法>
水性塗料を10cm×20cmの鋼板にスプレー塗布し、80℃で3分加熱して厚さ20μmの塗膜を作製した。この塗装した鋼板を25℃のイオン交換水中に10分間浸漬した後、取り出して布で表面を軽く拭き、目視により以下の評価基準で評価した。
○:布に色移りしない。
×:布に色移りがみられる。
【0204】
【表7】

【0205】
実施例27 [水性防錆コーティング剤としての評価]
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体を「ジンコート」(エンジニアリングテストサービス社製亜鉛メッキ鋼板、サイズ10cm×5cm×0.08cm)上に乾燥後の膜厚が5μmとなるようにバーコーターを用いてに塗布し、150℃の乾燥機で1分乾燥することにより得られた試験片を用いて下記試験方法に基づいて塗膜の防錆性を評価した結果を表8に示す。
【0206】
実施例28
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例8で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例27と同様にして得られた試験片を用いて下記試験方法に基づいて塗膜の防錆性を評価した結果を表8に示す。
【0207】
実施例29
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例12で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例27と同様にして得られた試験片を用いて下記試験方法に基づいて塗膜の防錆性を評価した結果を表8に示す。
【0208】
比較例5
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに製造例20で得られたポリウレタン樹脂水分散体(Q−2)を用いる以外は、実施例27と同様にして得られた試験片を用いて下記試験方法に基づいて塗膜の防錆性を評価した結果を表8に示す。
【0209】
<塗料の防錆性評価方法>
樹脂コーティング剤をJIS Z 2371に従い塩水噴霧試験を行い45時間後の外観を目視により評価した。
判定基準:
○:錆発生なし
△:一部錆発生あり
×:錆発生あり
【0210】
【表8】

【0211】
実施例30 [水性繊維加工処理剤としての評価]
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体100部に対して、粘弾性調整剤[「SNシックナー618」サンノプコ(株)製]8.9部、シリコン系消泡剤[「SNデフォーマー777」サンノプコ(株)製]0.9部、水35部、酸化チタン44.6部及び顔料[「NLレッドFR3R−D」山宋実業(株)社製]18.9部を混合して、顔料捺染糊(F−1)を得た。顔料捺染糊(F−1)について、下記試験方法に基づいて顔料捺染された繊維布の耐水性及び顔料捺染糊の造膜性を試験した結果を表9に示す。
【0212】
実施例31
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例8で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例30と同様にして顔料捺染糊(F−2)を得た。顔料捺染糊(F−2)について、下記試験方法に基づいて顔料捺染された繊維布の耐水性及び顔料捺染糊の造膜性を試験した結果を表9に示す。
【0213】
実施例32
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに実施例12で得られたポリウレタン樹脂水分散体を用いる以外は、実施例30と同様にして顔料捺染糊(F−3)を得た。顔料捺染糊(F−3)について、下記試験方法に基づいて顔料捺染された繊維布の耐水性及び顔料捺染糊の造膜性を試験した結果を表9に示す。
【0214】
比較例6
実施例1で得られたポリウレタン樹脂水分散体の代わりに製造例20で得られたポリウレタン樹脂水分散体(Q−2)を用いる以外は、実施例30と同様にして比較用の顔料捺染糊(F’−1)を得た。顔料捺染糊(F’−1)について、下記試験方法に基づいて顔料捺染された繊維布の耐水性及び顔料捺染糊の造膜性を試験した結果を表9に示す。
【0215】
<顔料捺染された繊維布の耐水性評価方法>
顔料捺染糊を綿金巾の型の上に縦2cm×横10cmで膜厚が0.2mmとなるようにバーコーターを用いて塗布した。これを140℃に温調されたテンターで5分乾燥することにより顔料捺染された繊維布を得た。この顔料捺染された繊維布を、60℃のイオン交換水中に3日間浸漬した後、取り出して表面を捺染処理していない繊維布で軽く拭き、目視により以下の評価基準で評価した。
○:捺染処理していない繊維布に色移りしない。
×:捺染処理していない繊維布に色移りがみられる。
【0216】
<顔料捺染糊の造膜性評価方法>
顔料捺染糊を綿金巾の型の上に縦2cm×横10cmで膜厚が0.2mmとなるようにバーコーターを用いて塗布した。これを120℃テンターで3分乾燥することにより顔料捺染された繊維布を得た。この顔料捺染された繊維布を、捺染処理していない繊維布で表面を軽く拭き、目視により以下の評価基準で評価した。
○:捺染処理していない繊維布に色移りしない。
×:捺染処理していない繊維布に色移りがみられる。
【0217】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明のポリウレタン樹脂水分散体は、造膜性及び耐水性に優れるため、水性塗料、水性コーティング(防錆コーティング剤、防水コーティング剤、撥水コーティング剤及び防汚コーティング剤等)、水性接着剤、水性繊維加工処理剤(顔料捺染用バインダー、不織布用バインダー、補強繊維用集束剤、抗菌剤用バインダー及び人工皮革・合成皮革用原料等)、水性紙処理剤や水性インキ等に使用することができるが、その優れた造膜性及び耐水性から、特に水性塗料、水性防錆コーティング剤及び水性繊維加工処理剤用のポリウレタン樹脂水分散体として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されかつ活性水素を有する化合物(S1)を含有する活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)とを反応させて得られるポリウレタン樹脂(U1)と水とを含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体。
【化1】

[一般式(1)中、X1はm価の活性水素含有化合物からc個の活性水素を除いた残基を表し;cは1≦c≦mを満たす整数を表し;mは1〜20の整数を表し;X2は活性水素含有化合物から1個の活性水素を除いた残基を表し、複数のX2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、X2とX1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yは3価以上の芳香族ポリカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いた残基を表し、Yの芳香環は炭素原子から構成され、その炭素原子にはカルボキシル基以外の置換基及び/又はハロゲン原子が結合していてもよいが少なくとも一つの炭素原子は置換基が結合しておらず;aは1以上の整数を表し、bは0以上の整数を表し、かつ、2≦a+b≦d−2を満たし;dは前記芳香族ポリカルボン酸のカルボキシル基を含む全ての置換基を水素原子に置換した場合の芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の数、即ち芳香環上で置換可能な部位の数を表す。]
【請求項2】
前記化合物(S1)の水酸基価が70〜500mgKOH/gである請求項1記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項3】
前記化合物(S1)におけるYの濃度が、0.5〜8mmol/gである請求項1又は2記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項4】
前記化合物(S1)のカルボニル基濃度が3〜10mmol/gである請求項1〜3のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項5】
前記3価以上の芳香族ポリカルボン酸が、前記芳香環を構成し置換基が結合していない炭素原子に隣接する2個の炭素原子にカルボキシル基が結合した構造を有する請求項1〜4のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項6】
前記カルボキシル基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子の少なくとも一方に更にカルボキシル基が結合した構造を有する請求項5記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項7】
前記活性水素成分(A)が、前記(S1)以外のポリオール(a1)並びに必要により親水性基と活性水素を有する化合物(a2)、鎖伸長剤(a3)及び反応停止剤(a4)を含有する請求項1〜6のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項8】
前記化合物(S1)の含有量が、前記活性水素成分(A)と有機ポリイソシアネート成分(B)の合計重量を基準として、0.01〜10重量%である請求項1〜7のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項9】
ポリウレタン樹脂(U2)と一般式(1)で表される化合物(S)とを含有するポリウレタン樹脂組成物(W)及び水を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂水分散体。
【化2】

[一般式(1)中、X1はm価の活性水素含有化合物からc個の活性水素を除いた残基を表し;cは1≦c≦mを満たす整数を表し;mは1〜20の整数を表し;X2は活性水素含有化合物から1個の活性水素を除いた残基を表し、複数のX2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、X2とX1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yは3価以上の芳香族ポリカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いた残基を表し、Yの芳香環は炭素原子から構成され、その炭素原子にはカルボキシル基以外の置換基及び/又はハロゲン原子が結合していてもよいが少なくとも一つの炭素原子は置換基が結合しておらず;aは1以上の整数を表し、bは0以上の整数を表し、かつ、2≦a+b≦d−2を満たし;dは前記芳香族ポリカルボン酸のカルボキシル基を含む全ての置換基を水素原子に置換した場合の芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子の数、即ち芳香環上で置換可能な部位の数を表す。]
【請求項10】
前記化合物(S)の水酸基価が0又は70〜500mgKOH/gである請求項9記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項11】
前記化合物(S)におけるYの濃度が、0.5〜8mmol/gである請求項9又は10記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項12】
前記化合物(S)のカルボニル基濃度が3〜10mmol/gである請求項9〜11のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項13】
前記3価以上の芳香族ポリカルボン酸が、前記芳香環を構成し置換基が結合していない炭素原子に隣接する2個の炭素原子にカルボキシル基が結合した構造を有する請求項9〜12のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項14】
前記カルボキシル基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子の少なくとも一方に更にカルボキシル基が結合した構造を有する請求項13記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項15】
前記化合物(S)の含有量が、前記ポリウレタン樹脂(U2)の重量を基準として0.01〜10重量%である請求項9〜14のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項16】
更に、架橋剤(D)を含有し、前記ポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)がヒドロキシル基、アミノ基又はカルボキシル基を有する請求項1〜15のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項17】
前記架橋剤(D)がブロックイソシアネート化合物又はメラミン化合物である請求項16記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項18】
前記ポリウレタン樹脂(U1)、(U2)又はポリウレタン樹脂組成物(W)が、以下の(1)〜(6)の全てを満たす請求項1〜17のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
(1)(U1)又は(U2)中のウレタン基含量が(U1)又は(U2)の重量に基づいて0.5〜5.0mmol/gである。
(2)(U1)又は(U2)中の末端アミノ基含量が(U1)又は(U2)の重量に基づいて0.35mmol/g以下である。
(3)(U1)又は(U2)の数平均分子量(Mn)が1万〜100万である。
(4)(U1)又は(U2)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.5〜3.5である。
(5)(U1)又は(U2)の溶融温度が70〜280℃である。
(6)(U1)又は(W)の体積平均粒子径(Cv)が0.01〜1μmである。
【請求項19】
前記ポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)中のウレア基含量が(U1)又は(U2)の重量に基づいて2.0mmol/g以下である請求項1〜18のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項20】
前記ポリウレタン樹脂(U1)又は(U2)中のアロハネート基及びビューレット基の含有量の合計値が、(U1)又は(U2)の重量に基づいて0.1mmol/g以下である請求項1〜19のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項21】
有機溶剤の含有量が1000ppm以下である請求項1〜20のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性塗料。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性防錆コーティング剤。
【請求項24】
請求項1〜21のいずれか記載のポリウレタン樹脂水分散体を含有する水性繊維加工処理剤。

【公開番号】特開2013−60582(P2013−60582A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175427(P2012−175427)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】