説明

ポリウレタン樹脂組成物及びポリウレタンベルト

【課題】耐摩耗性及び耐熱性を有するポリウレタン組成物と該ポリウレタン組成物から形成されたポリウレタン製ベルトを提供する。
【解決手段】ウレタンプレポリマー及びアミン系硬化剤又はポリオール系硬化剤を配合してなるポリウレタン組成物において、前記ウレタンプレポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.6〜2.8であることを特徴とするポリウレタン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト用のポリウレタン樹脂組成物及び、このポリウレタン樹脂組成物から形成されたポリウレタン製ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝動用等に用いられるベルトとしてVベルトや歯付ベルトなどが従来から提供されているが、ベルトの材料にゴムよりも強度の高いポリウレタンエラストマーを用いたポリウレタン製ベルトがある。
【0003】
このようなポリウレタン製ベルトにおいて、一般的なポリウレタン組成物はゴムに比べると耐熱性に劣り、高温雰囲気下での動力伝達用ベルトとしての使用は短寿命であることから、ほとんど使用されなかった。特に、VベルトやVリブドベルトのような摩擦伝動ベルトは、カバーケース内での閉め切った状態で高負荷条件下で使用されると、雰囲気温度が80°Cに達するときもあり、ポリウレタン製ベルトの短寿命が問題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性及び耐熱性を有するポリウレタン組成物と該ポリウレタン組成物から形成されたポリウレタン製ベルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願請求項1に記載の発明は、ウレタンプレポリマー及びアミン系硬化剤又はポリオール系硬化剤を配合してなるポリウレタン組成物において、前記ウレタンプレポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.6〜2.8であるポリウレタン組成物にある。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物を成形して形成されてなるポリウレタン製ベルトにある。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記ポリウレタン製ベルトがポリウレタン製Vリブドベルト又はポリウレタン製Vベルトのいずれかである請求項2に記載のポリウレタン製ベルトにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によると、ウレタンプレポリマー及びアミン系硬化剤又はポリオール系硬化剤を配合してなるポリウレタン組成物において、前記ウレタンプレポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.6〜2.8であるポリウレタン組成物であることから、請求項1に記載の発明のポリウレタン組成物は耐摩耗性及び耐熱性に優れたものとなる。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物を成形して形成されてなるポリウレタン製ベルトであることから、プーリに嵌合させてベルトを駆動するときに、ポリウレタン製ベルトが耐摩耗性及び耐熱性に優れたものとなり、長時間の寿命となる。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、前記ポリウレタン製ベルトがポリウレタン製Vリブドベルト又はポリウレタン製Vベルトのいずれかである請求項2に記載のポリウレタン製ベルトであることから、摩擦伝動による熱の発生に加えて、雰囲気温度が高温環境下で使用される場合が多いポリウレタン製Vリブドベルト又はポリウレタン製Vベルトに本発明のポリウレタン樹脂組成物を使用することによって、耐熱性が向上し、ベルト寿命が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
ポリウレタン硬化物は液状のポリウレタン樹脂組成物を注型して加熱・硬化させることによって得られるが、一般に成形法としては、ポリオール、触媒、鎖延長剤、顔料等を混合したプレミックス液と、イソシアネート成分を含有する溶液とを混合し、これを注型して硬化反応させるワンショット法と、予めイソシアネートとポリオールを反応させ、イソシアネートの一部をポリオールで変性したプレポリマーを用い、これに触媒を加えて注型し、硬化反応させるプレポリマー法とがある。本発明では、プレポリマー法が採用される。
【0013】
プレポリマーとしては、従来から提供されているものを使用することができるものであるが、イソシアネートとしてはトルエンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などを好適に用いることができ、ポリオールとしては耐湿性や耐水性に優れると共に強靭な物性とヒステリシスロスの小さい特性を有する成形品が得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を好適に用いることができる。
【0014】
また本発明においてアミン系硬化剤としては、特に限定されるものではないが、1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、3,3´−ジメチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、1−メチル−3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5´−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン4,4´−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(オルト−クロロアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(2,3−ジクロロアニリン)、トリメチレングリコール−ジ−パラ−アミノベンゾエート、4,4´−メチレン−ビス−(2,6−ジエチルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(2,6−ジイソプロピルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(2−メチル−6−ジイソプロピルアニリン)、4,4´−ジアミノジフェニルスルホンなど、1級アミン、2級アミン、3級アミンのアミン化合物を例示することができる。アミン系硬化剤の配合量は、アミン系硬化剤中のNH2のモル数とイソシアネート中のNCOのモル数の比であるα値(NH2/NCO)が1付近になるように、好ましくは0.90〜1.10の範囲になるように設定するのがよい。一般にα値は0.95付近が硬化物の物性が最も良好であり、α値が上記の範囲から外れると、硬化物の物性が低下する傾向がみられる。
【0015】
ここで、前記ウレタンプレポリマーの分子量分布(Mw/Mn)を2.6〜2.8の範囲とする。
分子量分布を2.6〜2.8の範囲に限定することにより、ウレタンエラストマーとなった場合の摩擦係数が低下し、耐摩耗性が良くなる。分子量分布を狭くすることによって、生成ウレタンのハードセグメントの凝集がより均一及び強固となり、耐摩耗性及び耐熱性が向上する。
【0016】
ウレタンプレポリマーの分子量分布を2.6より小さくすると、ウレタンエラストマーの引き裂き力が劣り、一方ウレタンプレポリマーの分子量分布を2.8より大きくすると生成ウレタンのハードセグメントの凝集が不均一となり、耐摩耗性、耐熱性に劣るようになる。
【0017】
上記の各成分の他に、添加剤として、可塑剤、顔料、消泡剤、触媒等を配合することができるものである。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、リン酸トリクレジル(TCP)、塩素系パラフィン、フタル酸ジアルキル等を用いることができる。
【0018】
触媒としては、有機カルボン酸化合物を用いる。有機カルボン酸化合物としては、アゼライン酸、オレイン酸、セバシン酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、トルイル酸などの芳香族カルボン酸を挙げることができるが、これらのなかでも、アゼライン酸、オレイン酸、アジピン酸がより好ましい。これらは一種を単独で用いる他、二種以上を併用することもできる。有機カルボン酸化合物の配合量は、プレポリマー100質量部に対して、0.01〜10.0質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01〜3.0質量部である。有機カルボン酸化合物の0.01質量部未満であると、反応促進効果を十分に得ることが難しくなり、また10.0質量部を越えると、ポットライフが短くなり、各添加剤の混合不足による配合不良を生じ易くなる等の不具合が生じる。
【0019】
ここで、ポリウレタン樹脂組成物は、ウレタンプレポリマーに必要に応じて消泡剤と可塑剤を配合したA液、アミン系硬化剤と有機カルボン酸化合物を配合したB液から調整し、成形を行う際に、A液及びB液を混合して、ポリウレタンを硬化させるようにすることができる。
【0020】
これらのA液及びB液を混合攪拌したものを外金型と内金型とで形成するキャビティに注型後架橋することによって、上記ポリウレタン組成物からなるポリウレタン製ベルトのスリーブを形成するものである。
【0021】
そして、上記ベルトスリーブを金型から取り出し、所定の幅にカットし、求めるポリウレタン製ベルトを得るものである。
【0022】
このとき得られるベルトとして本発明のポリウレタン組成物を好適に使用するものは、図1で示されるポリウレタン製Vリブドベルト1或いは図2で示されるポリウレタン製Vベルト5となる。ポリウレタン製Vリブドベルトは、背部に心線3を埋設し、ベルトの長手方向に沿って所定本のリブ2が延設された構造を有するものである。又、ポリウレタン製Vベルト5は、同じく背部に心線3を埋設し、背面にはコグ4が突設されており、突状部2を有するものである。図2では突状部2がひとつのものを示しているが、複数の突状を幅方向に連ねたマルチタイプのものもある。
【実施例】
【0023】
以下、具体的な実施例を伴って説明する。
【0024】
(実施例)
実施例として分子量分布が2.6であるポリエーテル系ウレタンプレポリマー100質量部に硬化剤として3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタンと導電剤としてケッチェンブラックを30質量部添加し、さらに可塑剤としてDOPを10質量部添加した配合を用いた。
【0025】
このとき、DOPとケッチェンブラックとは前もってハンドミキサーを用いて5分以上攪拌することによって、十分混合させケッチェンブラックがDOP中で十分に分散するように導電剤液とした。その後前記導電剤液を60°Cの温度条件下で保管後さらに前記導電剤液と前記ポリウレタンプレポリマーとを60°C温度条件下でハンドミキサーを用い5分以上攪拌し、ポリウレタンプレポリマー中に前記導電剤液を十分に分散させてA液とし、60°C温度条件下で保管した。このとき、導電剤を混合したA液はウレタンエラストマーに成形した場合に、電気抵抗値のバラツキが発生するのを防ぐ為に十分攪拌混合しておいたものであった。
【0026】
さらに、B液として3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン12.5質量部と有機カルボン酸化合物として、アゼライン酸を0.5質量部混合して120°C温度条件下で保管した。
【0027】
また、実施例としてポリウレタン製Vリブドベルト成形する為の金型として、内金型とその内周にリブ部となる溝が刻設されている外金型を準備した。この内金型と外金型との間で形成されるキャビティにポリウレタン原料を注型し、硬化することによってポリウレタン製Vリブドベルトが形成されるものである。
【0028】
次に、上記内金型に抗張体として、ナイロン6を材質とする心線を所定の張力下でスピニングした後、外金型内に内金型を挿入した。そして、上記保管していたA液及びB液を混合攪拌し、前記キャビティに注型した。このとき、内金型及び外金型を真空室内にいれ、真空条件下で前記ウレタン原料を注型することによって、気泡の存在がないベルトが成形できる。
【0029】
そして、前記金型組立て体をオーブン内に挿入し120°C温度条件下で30分架橋を行い、目的のベルトスリーブを得た。
【0030】
作製したVリブドベルトは、212JBT3であった。
(従来例)
従来例として、の分子量分布が2.9であるウレタンプレポリマーを用いてVリブドベルトを作製した。他の配合物は実施例と同じで、製造方法も実施例と同じであった。
【0031】
上記Vリブドベルトを用いて、走行試験を行い、室温時での摩耗量と熱時での摩耗量を測定した。
走行試験条件としては、駆動プーリ径がφ31.5mm、従動プーリ径がφ31.5mm、駆動プーリの回転数を3600rpm、軸荷重を1.8N、負荷を0.39kWとした。
そして、雰囲気温度としては、室温、60°C、70°C、80°Cの温度条件下で行った。その結果を図3及び図4に示す。
【0032】
また、室温で500時間走行させた後、走行前と走行後のベルト質量を測定し、摩耗率を算出した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
また、前記Vリブドベルトを下記条件にて熱分析(以下DSC分析と記す。)した。
(条件)
フローガス(N2)流量:30ml/min
リファレンス(Al23)重量:10.67mg
サンプル重量:実施例10.0mg 従来例9.9mg
温度範囲:25°C〜250°C
昇温速度:10°C
測定した結果は、図5及び図6に示す。
【0035】
表1及び、図3、図4、図5及び図6の結果から、実施例は従来例に比べて室温及び熱時での摩耗量は小さく、特に雰囲気温度が高くなるほど、実施例のベルトの耐摩耗性が向上しているのがわかり、また、DSC分析からも実施例のウレタンのハードセグメントの凝集が従来例と比べてより均一となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のポリウレタン製Vリブドベルトの斜視図である。
【図2】本発明のポリウレタン製Vベルトの斜視図である。
【図3】雰囲気温度80°C下でのVリブドベルトの走行時間と摩耗率との関係である。
【図4】各雰囲気温度条件下でのVリブドベルトの走行時間と摩耗率との関係である。
【図5】実施例のDSC分析の結果チャート図である。
【図6】従来例のDSC分析の結果チャート図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ポリウレタン製Vリブドベルト
2 V形状突部
3 心線
4 背面コグ
5 ポリウレタン製Vベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマー及びアミン系硬化剤又はポリオール系硬化剤を配合してなるポリウレタン組成物において、前記ウレタンプレポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.6〜2.8であることを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物を成形して形成されてなるポリウレタン製ベルト。
【請求項3】
前記ポリウレタン製ベルトがポリウレタン製Vリブドベルト又はポリウレタン製Vベルトのいずれかである請求項2に記載のポリウレタン製ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−246922(P2007−246922A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155261(P2007−155261)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【分割の表示】特願2002−151801(P2002−151801)の分割
【原出願日】平成14年5月27日(2002.5.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】