説明

ポリウレタン用難燃剤組成物ならびにこれを用いて製造される難燃性ポリウレタン及び難燃性ポリウレタンフォーム

【課題】ポリウレタン、特にポリウレタンフォーム用難燃剤として、難燃効果の高い赤リンが均一に分散し、他の原料との混合後の貯蔵安定性にも優れた難燃剤組成物ならびにこれを用いて製造される難燃性ポリウレタン及び難燃性ポリウレタンフォームを提供する。
【解決手段】難燃剤組成物は、(A)赤リン3〜50質量%、(B)沈降防止剤0.2〜15質量%を含む。該沈降防止剤は、カーボンブラック、微粉シリカ、水添ヒマシ油ワックス、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される。難燃性ポリウレタンは、上記ポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れたポリウレタン用難燃剤組成物ならびにこれを添加して製造される難燃性ポリウレタン及び難燃性ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは主にイソシアネート類とポリオールとの反応によって作られ、車両・家具等のクッション材、建築、貯蔵タンク、船舶等の断熱材や構造材等幅広く使用されており、その難燃化にはハロゲン化リン酸エステルや、リン酸エステルが主に使用されてきた。しかし、ハロゲンを含有する難燃剤は、装置の腐食や材料の変色などの原因となり、また環境への影響の点から嫌えんされる傾向にある。リン酸エステルには可塑化作用があるため、圧縮強度などの機械物性の低下や収縮を引き起こすという問題がある。そのため、リン酸エステルの使用量を低減することや、物性に悪影響を及ぼさない難燃剤に代替することが求められている。他の難燃剤として、メラミンと赤リンを挙げることができるが、メラミンはポリウレタン原料全体の30%程度と多量に配合する必要があるため、物性、成形性、経済性の点で問題がある。一方、赤リンは比較的少量を配合することで難燃化でき、例えば、特許文献1では、ポリリン酸アンモニウムと赤リンを組み合わせた複合難燃剤による軟質ポリウレタンフォームの難燃化が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−147623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリリン酸アンモニウムも赤リンも共にイソシアネートやポリオールに不溶の比重の大きな粉末であり、特に赤リンは比重が2.2と大きい。特許文献1の複合難燃剤を添加してから直ちにポリウレタンを生成させる場合はそれほど問題とならないが、この複合難燃剤をポリウレタン原料のいずれかに混合し、反応させるまでに日数がある場合、しばらくすると沈降し、均一な組成物が得られないという問題が生じ得る。
すなわち、ポリウレタンは前述のようにイソシアネートとポリオールの反応によって生成されるので、イソシアネートもしくはポリオール、または難燃剤として使用される有機リン酸エステルのいずれかに粉末状難燃剤を配合した製品形態としたとき、貯蔵、流通過程で粉末状難燃剤が沈降し、ときには攪拌の工程が必要となり、また沈降が著しい場合にはケーキ状に固まるため包装容器から移すことが困難となる。更に、難燃性ポリウレタンフォームを最終目的物とする場合には、得られるポリウレタンフォームは組成が不均一となり、低品質のものになってしまう。現状では、ポリウレタンの原料は、配合されてから使用されるまで通常1ヶ月の期間貯蔵されることが多いので、混合後1ヶ月程度は沈降が起こらない難燃剤が求められている。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ポリウレタン、特にポリウレタンフォーム用難燃剤として、難燃効果の高い赤リンが均一に分散し、他の原料との混合後の貯蔵安定性にも優れた難燃剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は上記難燃剤組成物を用いて製造される難燃性ポリウレタン及び難燃性ポリウレタンフォームを提供することを課題とする。
これにより、難燃剤として赤リンを単独で使用することができ、その場合には、難燃剤の使用量を少量に抑えることが可能となるので物性に与える影響が少なく、また、組成物中で均一に分散するので、最終目的物であるポリウレタンの物性も良好かつ均一なものとなる。また、ハロゲン含有難燃剤を使用しないので、装置の腐食や材料の変色がなく、環境保全に貢献できる。難燃剤として赤リンとリン酸エステルを併用する場合には、リン酸エステルの使用量を低減できるので、物性が良好となり、リン酸エステルの可塑性を活かしつつ、装置の腐食や材料の変色を抑え、環境影響の低減に貢献できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
係る課題を解決する、本発明の難燃剤組成物ならびにこれを用いて製造される難燃性ポリウレタンおよび難燃性ポリウレタンフォームは、以下の通りである。
(1)(A)赤リン3〜50質量%、(B)沈降防止剤0.2〜15質量%を含むポリウレタン用難燃剤組成物。
(2)沈降防止剤が、カーボンブラック、微粉シリカ、水添ヒマシ油ワックス、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である上記(1)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(3)沈降防止剤としてカーボンブラックを5〜14質量%含む上記(1)または上記(2)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(4)沈降防止剤として微粉シリカを2〜10質量%含む上記(1)または上記(2)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(5)沈降防止剤として水添ヒマシ油ワックスまたは脂肪酸アミドワックスを0.2〜5質量%含む上記(1)または上記(2)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(6)沈降防止剤として有機クレーを2〜10質量%含む上記(1)または上記(2)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(7)赤リンと沈降防止剤が、リン酸エステル、ポリオールおよびイソシアネートから選択される媒体に分散されている上記(1)乃至上記(6)のいずれかに記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(8)媒体がリン酸エステルであり、かつ、沈降防止剤がカーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である上記(7)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(9)媒体がポリオールであり、かつ、沈降防止剤が、微粉シリカ、カーボンブラックおよび脂肪酸アミドワックスから選択される少なくとも一種である上記(7)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(10)媒体がイソシアネートであり、かつ、沈降防止剤が、微粉シリカ、カーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である上記(7)記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
(11)上記(1)乃至上記(10)のいずれかに記載のポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造される難燃性ポリウレタン。
(12)上記(1)乃至上記(10)のいずれかに記載のポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造される難燃性ポリウレタンフォーム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、組成物中で各成分が均一に分散し、他の原料との混合後の貯蔵安定性にも優れたポリウレタン用難燃剤組成物ならびに、物性が良好かつ均一な難燃性ポリウレタンを提供することができる。また、上記ポリウレタン用難燃剤組成物によれば、物性が良好かつ均一な難燃性ポリウレタンフォームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ポリウレタンは、通常、主成分であるポリオール成分とイソシアネート成分、必要に応じて難燃剤、発泡剤、触媒、硬化剤等の配合成分を混合し、反応させることで製造される。この反応はポリオール成分とイソシアネート成分が混合することで進行するため、これらの原料の流通や貯蔵が行われる場面では、ポリオールを主成分とする液とイソシアネートを主成分とする液の二液に分かれている。主成分以外の配合成分はどちらかの液に添加されるが、通常は、ポリオール成分に難燃剤や他の配合成分を混合したポリオールプレミックスとして流通や貯蔵が行われる。また、イソシアネート成分に難燃剤や他の配合成分を混合したイソシアネートプレミックスとして流通や貯蔵が行われる場合もある。難燃剤として一般的に使用されるリン酸エステルは、通常、ポリオールプレミックスに含有されるが、リン酸エステルを主成分とする液を上記二液とは別に第三液として準備し、流通や貯蔵を行う場合もある。
以下、本発明のポリウレタン用難燃剤組成物ならびに難燃性ポリウレタンおよび難燃性ポリウレタンフォームの実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
(ポリウレタン用難燃剤組成物)
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は、赤リンを3〜50質量%、沈降防止剤を0.2〜15質量%を含むことを特徴とする。
また本発明の好適実施形態は、リン酸エステル、ポリオール又はイソシアネートを媒体として、赤リン3〜50質量%と沈降防止剤0.2〜15質量%が分散されているポリウレタン用難燃剤組成物である。
【0010】
1.赤リン
本発明において、赤リンは難燃性を付与する目的で添加される。
赤リンとしては、一般的に用いられる未処理の赤リンや、樹脂被膜、金属水酸化物被膜などで被膜処理された赤リン等を使用することができ、特に限定はされないが、取り扱い容易性の観点から被膜処理された赤リンであることが好ましい。またその粒径は、特に限定はされないが、赤リン系難燃剤として流通しているものが使用でき、通常平均粒径100μm以下であり、この粒度で難燃剤として均一に分散するので好ましく、製造時や使用時において、スプレー発泡される工程や、ポンプで反応機に注入される工程を経る場合には20μm以下であることが特に好ましい。
赤リンは、ポリウレタン用難燃剤組成物の全量に対し、3〜50質量%含有される。3質量%未満では難燃性の効果を得ることができず、50質量%を超えると、流動性がなくなり均一な液状またはペースト状混合物が得られないからである。
なお、本発明のポリウレタン用難燃剤組成物またはその予備調製物として、赤リンを高濃度に含有させたマスターバッチを作製する場合、赤リン含有量が高ければ高いほどコスト的に優位である。しかし、上述のように赤リン量が50質量%を超えると均一な混合物が得られなくなるため、配合成分に応じて赤リン含有量を適宜調節し、例えば赤リンを10〜50質量%、好ましくは20〜50質量%含有させることができる。
【0011】
2.沈降防止剤
本発明において、沈降防止剤は、難燃剤の主成分である赤リンを均一に分散させる目的で添加される。
沈降防止剤としては、特に限定はされないが、カーボンブラック、微粉シリカ、水添ヒマシ油ワックス、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーを単独で、または2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、特に、少量で安定した沈降防止性のある脂肪酸アミドワックス系沈降防止剤を用いることが好ましい。
沈降防止剤は、ポリウレタン用難燃剤組成物の全量に対し、0.2〜15質量%含有される。0.2質量%未満では沈降防止の効果が弱くなり、15質量%を超えると粘度が上昇し液状またはペースト状の混合物が得られず、取扱い性が悪くなるからである。
【0012】
また、沈降防止剤は、その種類により最適添加量が異なり、カーボンブラックを使用する場合は5〜14質量%、微粉シリカを使用する場合は2〜10質量%、有機クレーを使用する場合は2〜10質量%添加することがより好ましい。水添ヒマシ油ワックスや脂肪酸アミドワックスを使用する場合は、ワックス有効成分(固形分)で0.2〜5質量%添加することがより好ましく、0.3〜3質量%添加することが特に好ましい。
なお、本発明のポリウレタン用難燃剤組成物またはその予備調製物として、赤リンを高濃度に含有させたマスターバッチを作製する場合、希釈後の赤リン成分の沈降を防止する量の沈降防止剤を予め添加しておく必要があり、希釈後で沈降防止剤が0.2〜15質量%となるように含有させることが好ましい。例えば、赤リン10質量%のポリオールプレミックスを製造するための赤リン20質量%のマスターバッチを作製する場合、希釈後のポリオールプレミックスでカーボンブラックが7質量%必要とすると、マスターバッチで14質量%添加させるといったように、希釈後の貯蔵を考慮し多めに添加することが好ましい。
【0013】
本発明に使用するカーボンブラックは、特に限定されるものでなく、ファーネス法、チャンネル法、サーマル法等、いずれの製法で製造されたものでもよい。
【0014】
本発明に使用する微粉シリカは、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル等と呼ばれるものであり、例えば日本アエロジル社製のアエロジル(登録商標)「90」、「130」、「150」、「200」、「300」、「380」、「R 972」、「R 974」、「R 104」、「R 106」、「R 202」、トクヤマ社製「ファインシール FMシリーズ」等が使用できるが、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明に使用するワックス系沈降防止剤は、水添ヒマシ油ワックス、または植物油脂肪酸とアミンから合成される脂肪酸アミドワックスである。これらは、液体中で膨潤ゲル構造を形成するものであり、チキソトロピック剤、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤等として市販されているものが容易に入手できる。ワックス系沈降防止剤のなかでも、融点が高く凝集物が発生しにくい点で脂肪酸アミドワックスが好ましい。
脂肪酸アミドワックスの市販品としては、脂肪酸アミドワックス成分のみの粉末状のものや、溶剤中で脂肪酸アミドワックスをペースト化したプレ膨潤タイプがあり、例えば、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)「A603−20X」、「A603−10X」、「6500」、「6650」、「6700」が使用できる。その他、チキソトロピック性を有する他の成分と複合化されている製品であってもよい。
【0016】
本発明に使用する有機クレーは、添加する媒体との親和性を改良するために有機化合物で処理されたクレーである。クレーとしてはモンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スラベンナイト等があり、第四級アンモニウム処理されたベントナイトが、有機クレーの市販品として容易に入手できる。
【0017】
3.媒体
本発明において、媒体は赤リンおよび沈降防止剤を分散するものであり、特に限定はされないが、リン酸エステル、ポリオールまたはイソシアネートであることが好ましい。これらの媒体は、最終目的物である難燃性ポリウレタンの原料成分となり得るものである。例えば、媒体としてリン酸エステルを用いて赤リンを高濃度に含有させたマスターバッチを「複合難燃剤」として、媒体としてポリオールを用いて赤リンを高濃度に含有させた赤リン系難燃剤マスターバッチとしてや、ポリオールに他の添加剤と共に赤リンを含有させた「ポリオールプレミックス」として、媒体としてイソシアネートを用いて赤リンを高濃度に含有させた赤リン系難燃剤マスターバッチとしてや、イソシアネートに他の添加剤と共に赤リンを含有させた「イソシアネートプレミックス」として使用することができる。ここで「赤リンを高濃度に含有」とは、赤リンを10〜50質量%含有することを言う。
媒体は、ポリウレタン用難燃剤組成物の全量に対し、少なくとも35質量%含有されることが好ましい。この範囲とすることで、配合成分が均一に分散した液状またはペースト状の混合物を容易に得ることができる。
【0018】
本発明に使用するリン酸エステルは、特に限定されるものでなく、例えば、トリス(2−クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、その他含ハロゲン縮合リン酸エステルを挙げることができる。リン酸エステルは、難燃剤としての効果に加え、最終目的物をポリウレタンフォームとする場合にはポリウレタン発泡原液の粘度を低く抑え、攪拌効率の向上や得られる成形体の均質性の向上等の効果を有する。このため、媒体として好適に使用できる。
【0019】
本発明に使用するポリオールは、ポリウレタンの原料となるポリオールであることが好ましく、特にポリウレタンフォームの原料となるポリオールであることが好ましい。最終目的物がポリウレタンフォームである場合、ポリエーテル系ポリオールのポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(以下、「PPG」と言う)やポリマーポリオール、トリメチロールプロパン(TMP)、1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)等が使用できるが、これらに限定されるものではない。尚、PPGは、その官能基数や官能基当たりの分子量を調整することにより、軟質ポリウレタンフォーム、硬質ポリウレタンフォームあるいはポリウレタンエラストマーなどの用途に適用することができる。
【0020】
PPGは活性水素含有化合物にアルキレンオキシドを付加させることによって得られ、硬質ポリウレタンフォーム製造用のPPGとしては、官能基数が3〜8、官能基あたりの分子量が60〜200のものが概ね適しており、軟質ポリウレタンフォーム製造用のPPGとしては、官能基数が3〜8、官能基あたりの分子量が700〜3000のものが概ね適しており、ウレタンエラストマー製造用のPPGとしては、官能基数2〜3、官能基あたりの分子量100〜3000のものが概ね適している。活性水素含有化合物については、2官能としてはエチレングリコールやプロピレングリコール、3官能としてはグリセリンやトリメチロールプロパン、4官能としてはペンタエリスリトール、6官能としてはソルビトール、8官能としてはショ糖を好適に使用することができ、また4官能としてエチレンジアミンやトルイレンジアミン、5官能としてジエチレントリアミンも使用できるが、これらに限定されるものではない。
ポリマーポリオールはPPG中でアクリロニトリルやスチレン等をラジカル重合させることによって得られる。
赤リンを高濃度に含有させたマスターバッチを作製する場合も、上記のポリオールを使用することが好ましい。最終目的物であるポリウレタンに求める物性や特性に応じてポリオール成分も選択されるが、マスターバッチ中のポリオール量がポリウレタン全体において少量であり、求めるポリウレタンの物性や特性を損なわない場合には、ポリウレタンで汎用されるポリオール、例えば、硬質ポリウレタンフォーム製造用には、官能基数が3〜8、官能基あたりの分子量が60〜200のPPG、軟質ポリウレタンフォーム製造用には、官能基数が3〜8、官能基あたりの分子量が700〜3000のPPG、ウレタンエラストマー製造用には、官能基数が2〜3、官能基あたりの分子量が100〜3000のPPGを使用しても差し支えなく、この場合、使用目的に応じてマスターバッチ用ポリオールを使い分ける必要がなく、汎用ポリオールを媒体とした赤リン系難燃剤マスターバッチとなる。
【0021】
本発明に使用するイソシアネートは、ポリウレタンの原料となるイソシアネートであることが好ましく、特にポリウレタンフォームの原料となるイソシアネートであることが好ましい。最終目的物がポリウレタンフォームである場合、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系ポリイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート類を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができ、他の用途にはこれらの他にキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等を使用することができる。また、これらのイソシアネートの重合物(ポリメリック体)も使用することができ、更にこれらの2種以上の混合物も使用することができる。
赤リンを高濃度に含有させたマスターバッチを作製する場合も、上記のイソシアネートを使用することが好ましい。最終目的物であるポリウレタンに求める物性や特性に応じてイソシアネート成分も選択されるが、マスターバッチ中のイソシアネート量がポリウレタン全体において少量であり、求めるポリウレタンの物性や特性を損なわない場合には、ポリウレタンで汎用されるイソシアネート、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートを使用しても差し支えなく、この場合、使用目的に応じてマスターバッチ用イソシアネートを使い分ける必要がなく、汎用イソシアネートを媒体とした赤リン系難燃剤マスターバッチとなる。
【0022】
沈降防止剤は、沈降抑制の観点から、使用する媒体に適したものを選択することが望ましい。媒体がリン酸エステルである場合は、沈降防止剤はカーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種であることが好ましく、媒体がポリオールである場合には、沈降防止剤は微粉シリカ、カーボンブラックおよび脂肪酸アミドワックスから選択される少なくとも一種であることが好ましく、媒体がイソシアネートである場合には、沈降防止剤は微粉シリカ、カーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
4.その他の添加剤
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は他の添加剤を含むことができ、特にポリウレタンフォーム用難燃剤組成物である場合は、ポリウレタンを形成するための硬化剤、架橋剤、触媒、発泡剤、劣化防止剤、可塑剤、整泡剤等を含むことができる。また赤リン以外の難燃剤として、リン酸エステルや、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミンを含むことができる。なお、リン酸エステルについては、上述のように媒体として配合される場合もある。
【0024】
5.製造方法
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は、例えば、赤リン、沈降防止剤およびその他の添加剤を液体媒体に均一に分散することによって、製造することができる。
分散方法としては、配合成分が均一に分散される様々な分散方法を用いることができ、攪拌機としては、汎用攪拌機、ディスパー分散機、ディゾルバー、ニーダー等を使用することができる。沈降防止剤として、水添ヒマシ油ワックスや脂肪酸アミドワックスを使用する場合は、均一に混合するためにある程度のせん断力が必要であり、ホモジナイザー、サンドミル等のせん断力の強い攪拌機を使用することが好ましい。
分散の工程としては、赤リン、沈降防止剤、ポリウレタン原料成分、その他の添加剤等、全ての配合成分を一度の操作で混合、分散することができる。また上記のマスターバッチを予備調製物とする場合や、水添ヒマシ油ワックスまたは脂肪酸アミドワックスをポリウレタン原料成分または溶剤に固形分で数十%含有させた分散液を予め調製した場合は、これらにその他の配合成分を所望の濃度で添加して混合、分散することができる。
【0025】
6.用途
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は、各種の難燃性ポリウレタンの製造に用いることができ、例えば難燃性ポリウレタンフォームや難燃性ポリウレタンエラストマー等の製造に適している。中でも、難燃性ポリウレタンフォームの製造に適しており、特に軟質ポリウレタンフォーム、半硬質ポリウレタンフォーム、硬質ポリウレタンフォームの製造に好適に用いることができる。
【0026】
(難燃性ポリウレタン、難燃性ポリウレタンフォーム)
本発明の難燃性ポリウレタンは、上に詳述した本発明のポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造することができる。難燃性ポリウレタンフォームの製造方法としては、スラブ発泡、モールド発泡、注入発泡、スプレー発泡、ラミネート等など公知の製造方法を適用することができる。難燃性ポリウレタンエラストマーの製造方法としては、熱硬化性タイプでは注型、反応射出成形(RIM)、コーキング等、熱可塑性タイプでは射出成形、押し出し成形、カレンダー成形、ポリマーブレンド等、公知の製造方法を適用することができる。
【0027】
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物の添加量については、最終目的物である難燃性ポリウレタンの全体量に対し、赤リンが1.5〜20質量%となる範囲であることが好ましいが、ポリウレタンの原料、その配合割合、および要求される難燃化レベルによって必要な赤リン量が異なる。例えば、ポリオール成分とイソシアネート成分の質量比が100:155のポリウレタンフォームの場合、難燃性ポリウレタンフォームの全体量に対し、約7質量%の赤リン含有量で難燃化することができる。
【実施例】
【0028】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(実施例1〜13および比較例1〜3の難燃剤組成物の製造)
表1に示す原料を配合量にしたがって計量し、攪拌機を用いて均一に混合されるまで攪拌し、難燃剤組成物を調製した。なお、脂肪酸アミドワックスを使用した実施例3、実施例5、実施例7、実施例8および実施例12については、予め脂肪酸アミドワックスが10%となる様にポリオール、リン酸エステルまたはイソシアネートを添加し、日本精機製作所社製ホモジナイザーを用いて均一混合後、所定のポリオール、リン酸エステル、イソシアネートおよび赤リンを添加し、攪拌機を用いて攪拌した。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例14〜16の難燃剤組成物の製造)
実施例11〜13の高濃度品とポリオールを表2に示す配合量にしたがって計量し、攪拌機を用いて均一に混合されるまで攪拌し、難燃剤組成物を調製した。
【0031】
【表2】

【0032】
表1及び表2に記載の原料については、それぞれ以下のものを使用した。
ポリオールA:PPG−3000,日油(株)製「ユニオール TG−3000」
ポリオールB:PPG−330,日油(株)製「ユニオール TG−330」
リン酸エステルC:トリス(クロロプロピル)ホスフェート,大八化学工業(株)製「TMCPP」
リン酸エステルD:大八化学工業(株)製「CR−570」
イソシアネート:ポリメリックMDI,日本ポリウレタン工業(株)製「ミリオネートMR−200」
赤リンE:燐化学工業(株)製「ノーバレッド 120UFA」 平均粒径 8μm
赤リンF:燐化学工業(株)製「ノーバエクセル 140F」 平均粒径 11μm
沈降防止剤G:三菱化学(株)製「カーボンブラック MA220」
沈降防止剤H:フュームドシリカ,日本アエロジル(株)製「アエロジル 300」
沈降防止剤I:フュームドシリカ,日本アエロジル(株)製「アエロジル R972」
沈降防止剤J:脂肪酸アミドワックス,楠本化成(株)製「ディスパロン A603−20X」,有効成分20%
沈降防止剤K:有機ベントナイト,(株)ホージュン製「エスベン NZ」
沈降防止剤L:有機ベントナイト,(株)ホージュン製「エスベン NO12S」
【0033】
(沈降性試験)
上記で得た各難燃剤組成物について分散安定性を見るため、以下の沈降性試験を行った。
難燃剤組成物を4週間室温で静置し、その間の1週間、2週間、3週間、4週間経過時点において、全体の液高さと上澄み部分の高さを測定し、上澄み部分の高さが占める割合を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0034】
比較例1の結果が示すように、ポリオールに赤リンを混合したのみの難燃剤組成物では、1週間後には沈降が始まっているが、実施例1〜5の結果が示すように、沈降防止剤としてカーボンブラック、微粉シリカ、脂肪酸アミド、有機クレーを添加することによって少なくとも4週間の間沈降が防止できた。また、実施例6、7、13のようにリン酸エステルを含有する媒体においても、カーボンブラック、脂肪酸アミド、有機クレーの添加により沈降が防止できた。比較例2の結果が示すように、イソシアネートに赤リンを添加したのみの難燃剤組成物においても、1週間後には沈降が始まっているが、実施例8〜10の結果が示すように、微粉シリカ、脂肪酸アミド、有機クレーを添加することによって少なくとも4週間の間沈降が防止できた。
さらに、マスターバッチを想定して赤リンを高濃度含有させた実施例11〜13においても沈降防止剤を添加することによって少なくとも4週間の間沈降が防止でき、また、マスターバッチを希釈してプレミックスにすることを想定した実施例14〜16においても沈降が防止できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は、赤リンを含有するものであって、ポリウレタンの難燃剤として使用できる。本発明のポリウレタン用難燃剤組成物は、難燃性ポリウレタン、特に難燃性ポリウレタンフォームの製造に使用でき、寝具・自動車等のシート・クッション材、吸音材、制振材、電気冷蔵庫・建材等の断熱材、工事用床材等の用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)赤リン3〜50質量%、
(B)沈降防止剤0.2〜15質量%
を含むポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項2】
沈降防止剤が、カーボンブラック、微粉シリカ、水添ヒマシ油ワックス、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である請求項1記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項3】
沈降防止剤としてカーボンブラックを5〜14質量%含む請求項1または2記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項4】
沈降防止剤として微粉シリカを2〜10質量%含む請求項1または2記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項5】
沈降防止剤として水添ヒマシ油ワックスまたは脂肪酸アミドワックスを0.2〜5質量%含む請求項1または2記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項6】
沈降防止剤として有機クレーを2〜10質量%含む請求項1または2記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項7】
赤リンと沈降防止剤が、リン酸エステル、ポリオールおよびイソシアネートから選択される媒体に分散されている請求項1乃至6のいずれか一項記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項8】
媒体がリン酸エステルであり、かつ、沈降防止剤がカーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である請求項7記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項9】
媒体がポリオールであり、かつ、沈降防止剤が、微粉シリカ、カーボンブラックおよび脂肪酸アミドワックスから選択される少なくとも一種である請求項7記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項10】
媒体がイソシアネートであり、かつ、沈降防止剤が、微粉シリカ、カーボンブラック、脂肪酸アミドワックスおよび有機クレーから選択される少なくとも一種である請求項7記載のポリウレタン用難燃剤組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項記載のポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造される難燃性ポリウレタン。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか一項記載のポリウレタン用難燃剤組成物を添加して製造される難燃性ポリウレタンフォーム。

【公開番号】特開2012−219127(P2012−219127A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83941(P2011−83941)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000251196)燐化学工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】