説明

ポリウレタン発泡体成形装置

【課題】成形型からのポリウレタン樹脂の漏出を防止しながらも、表面凹みやパンクの発生が十分に防止された発泡成形体を生産性よく、かつ簡便に製造する発泡体成形装置を提供すること。
【解決手段】上型11および下型12を有する成形型10;下型を支持し、空気の注入または排出により下型を上下方向で移動させるエアバッグ20;およびエアバッグ内部の空気圧力を低減させ、発泡成形時に型開けと型締めとを瞬間的に起こす減圧機構50を有することを特徴とする発泡体成形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡体成形装置、特にエアバッグにより下型を移動させて型閉鎖および型開放を行うエアバッグ式ポリウレタン発泡体成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン発泡成形体は、自動車のバックシート、クッションシート、アームレスト、ヘッドレストおよびクラッシュパッドなどの用途に広く使用されている。発泡成形体は所望のポリウレタン原料を用いて発泡体成形装置により発泡成形を行うことによって製造され、所望により、独立気泡を連続気泡にするクラッシング処理が行われる。
【0003】
発泡体成形装置としては、例えば、図5に示すようなエアバッグ式の発泡体成形装置が知られている。詳しくは、図5Aにおいて、発泡体成形装置100は、上型111および下型112を有する成形型110;下型を支持し、空気の注入または排出により下型を上下方向に移動させるエアバッグ120;エアバッグ内部への空気の供給およびエアバッグ内部からの空気の排出を行う空気供給・排出手段130;およびエアバッグを支持するエアバッグ支持体140を有してなっている。空気供給・排出手段130には供給装置131と排出装置132とが併設されており、切替弁133により切替可能になっている。
【0004】
発泡成形に際しては、図5Bに示すように、空気供給・排出手段130の供給装置131によりエアバッグ120の内部に空気を注入し、これによって下型112を上方に移動させ、型閉鎖を行う。発泡成形時には発泡だけでなく、所望により、プラスチック原料の反応および硬化が行われる。空気供給時においてエアバッグや配管からの空気漏れは不可避であり、また成形型内部のプラスチック材料の漏出は避ける必要があるので、従来において発泡成形時には継続して供給装置131による空気の供給が行われる。発泡成形が完了すると、空気供給・排出手段130の排出装置132によりエアバッグ120内部の空気を強制的に排出し、これによって下型112を下方に移動させ、型開放を行う。
【0005】
このような発泡体成形装置100において、プラスチック原料115を供給してから、型閉鎖を行い、発泡成形を行った後、型開放するまでの、型締め圧と型内圧の概略的な経時的変化を図6に示す。型締め圧はエアバッグが下型を上方へ押圧する圧力に相当するものであり、図6において実線で示す。型内圧は成形型内部の圧力であり、図6において一点鎖線で示す。発泡体成形装置100において、発泡成形が始まると、発泡により型内圧は上昇する。一方、型締め圧は、発泡によっても発泡材料が漏出しないように、予め型内圧よりも十分に高く設定されているので、発泡により型内圧が上昇しても、型内圧が型締め圧を超えることはない。発泡成形が完了すると、空気供給・排出手段130の排出装置132によりエアバッグ120内部の空気を強制的に排出するので、型締め圧は降下し、これに伴い型開放が起こるので、型内圧も降下する。
【0006】
しかしながら、上記発泡体成形装置において発泡成形は型閉鎖が維持された高圧状態で行われるため、型開放時に一気に内圧が解放される。したがって、型内に溜まっていたガスが一気に放出されることとなるため、成形体の表面および/または内部において気泡が裂けるパンクが起こった。
【0007】
そこで、特許文献1では、発泡成形時の圧力を調整するための発泡圧調整手段を設けた発泡成形型が提案されている。発泡圧調整手段は、型閉鎖時に製品キャビティの外端部を閉塞するとともに上型または下型の型合わせ面に密着される発泡圧調整弁と、該発泡圧調整弁を所定圧力で型合わせ面に押圧するための押圧手段(バネ等)とからなっている。このような発泡成形型において、下型と上型との型閉鎖はクランプによる固定によって達成されており、発泡成形時に製品キャビティ内のガス圧力が所定圧力を越えると、発泡圧調整弁が動いて、押圧手段が収縮するようになっている。その結果、閉塞されていたキャビティの外端部および上型または下型の型合わせ面が開き、製品キャビティ内のガス圧力が所定の値となるまで、ガスが成形型外に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−126756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記発泡成形型では、押圧手段の調整により、キャビティ内のガス圧力を制御するため、型ごとや注入原料ごとによって、バネ調整が必要であり、そのような制御はきわめて煩雑であった。
【0010】
本発明は、パンクの発生が十分に防止された発泡成形体を生産性よく、かつ簡便に製造する発泡体成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
上型および下型を有する成形型;
下型を支持し、空気の注入または排出により下型を上下方向に移動させるエアバッグ;および
エアバッグ内部の空気圧力を低減させ、発泡成形時に型開けと型締めとを起こす減圧機構を有することを特徴とする発泡体成形装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡体成形装置を用いると、発泡成形体におけるパンクの発生が十分に防止でき、しかも発泡成形体を生産性よく、かつ簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の発泡体成形装置の発泡成形時における概念図である。
【図2】本発明の発泡体成形装置を用いた発泡成形体製造時における型締め圧および型内圧の経時的変化を示すグラフの一例である。
【図3】減圧機構を作動させなかったこと以外、本発明と同様の条件で発泡成形を行ったときの、型内圧の経時的変化を示すグラフの一例である。
【図4A】本発明の発泡体成形装置の一実施形態の発泡成形前における概略構成図である。
【図4B】図4Aに示す本発明の発泡体成形装置の発泡成形時における概略構成図である。
【図5A】従来の発泡体成形装置の発泡成形前における概略構成図である。
【図5B】図5Aに示す従来の発泡体成形装置の発泡成形時における概略構成図である。
【図6】従来の発泡体成形装置を用いた発泡成形体製造時における型締め圧および型内圧の経時的変化を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発泡体成形装置]
本発明に係る発泡体成形装置は、
上型および下型を有する成形型;
下型を支持し、空気の注入または排出により下型を上下方向に移動させるエアバッグ;および
エアバッグ内部の空気圧力を低減させ、発泡成形時に型開けと型締めとを起こす減圧機構を有するものである。以下、本発明に係る発泡体成形装置1を図1〜図4を用いて詳しく説明する。図1は本発明の発泡体成形装置の発泡成形時における概念図である。図2は、本発明の発泡体成形装置を用いた発泡成形体製造時における型締め圧および型内圧の経時的変化を示すグラフの一例である。図3は減圧機構を作動させなかったこと以外、本発明と同様の条件で発泡成形を行ったときの、型内圧の経時的変化を示すグラフの一例である。図4Aおよび図4Bは本発明の発泡体成形装置の一実施形態の概略構成図である。
【0015】
成形型は図1中、10で表され、少なくとも上型11および下型12を有するものである。成形型10は、構成される型の境界からのポリウレタン原料の漏出が防止される限り、その構成は特に制限されるものではない。例えば、成形型10は、上型11と下型12との間に配置される中型を有する構成であっても良いし、または上型11が幾つかの部分に分割された構成であっても良い。上型11は、発泡成形体製造時における型閉鎖工程、発泡成形工程および型開放工程にわたって、下型の上下移動によって型の開閉を達成できるように保持される。なお、成形初期のガス抜きのための、いわゆるベントホールを有する成形型であっても何ら差し支えない。成形型10の構成材料は、発泡体成形装置の分野で通常使用されているものであれば、特に制限されず、通常、アルミニウム等の金属材料からなるいわゆる金型や樹脂型などが使用される。
【0016】
エアバッグは図1中、20で表され、空気が内部に注入されると、膨らんで、下型12を上方に移動させ、成形型10の閉鎖を達成する。一方で、空気が内部から排出されると、収縮して、下型12を下方に移動させ、成形型10の開放を達成する。エアバッグ20の構成材料は、エアバッグ式発泡体成形装置の分野でエアバッグの材料として使用されているものであれば、特に制限されず、通常、ゴム材料、繊維材料などが使用される。
【0017】
エアバッグ20は通常、エアバッグ支持体によって支持される。エアバッグ支持体は図1中、40で表され、エアバッグ20をその下部から支持するものである。エアバッグ支持体40はエアバッグ20の膨張/収縮により下型12を移動させることができるように支持されている。エアバッグ20と下型12との間にはプレート状の下型支持体(図示せず)が配置されてもよい。下型支持体は下型の上下方向への移動を安定に行うものである。
【0018】
減圧機構は図1中、50で表されているように、エアバッグ20と接続され、エアバッグ20内部の空気圧力を低減させることにより、発泡成形時に型開けと型締めとを瞬間的に起こす機能を有するものである。詳しくは、減圧機構50は、発泡成形時に作動させ、エアバッグ20内部の空気圧力を低減させることにより、エアバッグ20が下型12を上方へ押圧する型締め圧を低減させ、その結果、発泡成形時に型開けと型締めとを瞬間的に引き起こす。
【0019】
型開けと型締めとが瞬間的に起こるメカニズムの詳細を図2を用いて説明する。図2において型締め圧は実線で示し、型内圧は一点鎖線で示す。図2において点Aは減圧機構50を作動させたときを示し、このときの型締め圧をP、時間をTで示す。点Bは型開けが瞬間的に起こったときを示し、このときの時間をT、型開け直前の型締め圧をP、型開け直前の型内圧をP'で示す。型開けは後述する関係式(1)が満たされると同時に起こるため、型開け直前の型締め圧Pと、型開け直前の型内圧P'とはほとんど等しい。点Cは瞬間的型開けによって型内圧が低下したときを示し、型開け直後の型内圧をPで示す。点Dは発泡成形体を取り出すためにエアバッグ内部の空気の強制的排出を開始したときを示し、このときの型締め圧をP、時間をTで示す。点Eは型内圧が常圧を示したときを示し、このときの時間をTで示す。
【0020】
型締め圧とはエアバッグが下型を上方へ押圧する圧力である。
型内圧とは成形型内部の圧力である。従来通常の発泡成形工程においては、型締め圧が型内圧より高いため、上型と下型とが密閉され、いわゆるベントホール等のガス抜き部分を除き、成形型内のガスは外部に排出されない。この型締め圧が型内圧以下になる場合に、上型と下型との間にガスが排出される隙間が生じる。
【0021】
図2において、型閉鎖工程により成形型の型閉鎖が達成されているところ、発泡成形工程において減圧機構50を作動させて(点A)、エアバッグ内部の空気圧力を低減させる。その結果、型締め圧を低減し、関係式(1);
型内圧>型締め圧 (1)
の状態をつくり出すことによって、型開けが行われる(点B)。このような型開けにより型内圧は低減されるので(点C)、型開け後に型締め圧を関係式(2);
型内圧<型締め圧 (2)
の状態で維持することによって、型締めが行われる。このように型開けと型締めとは瞬間的に起こる。「瞬間的」とは、型開けにより型開け直後の型内圧Pが後述の範囲にしか低下しない程度の短い時間をいう。なお、型開けとは、上型と下型のシール部分に隙間が生じ、そこからガスが抜ける程度の型開きをいう。視覚的に型開き状態が認識されていなくても、上型と下型のシール部分からガスが抜け、型内圧が瞬間的に低下すれば、それにより型開けが確認される。
【0022】
本明細書中、時間T、T、TおよびTは型閉鎖工程においてエアバッグへの空気の注入を開始してからの経過時間を意味する。図3および図6における時間T、T、Tもまた時間T等と同様にエアバッグへの空気の注入を開始してからの経過時間を意味する。
【0023】
減圧機構50は、発泡成形が行われている時において、エアバッグ内部の空気圧力を低減させることによって、型締め圧を緩やかに低減できる機構を有する。型締め圧を緩やかに低減できるとは、型開けと型締めとが瞬間的に起こり得る程度に徐々に型締め圧を低減できるという意味である。そのような減圧機構を用いることにより、型開け後において上記関係式(2)の状態が瞬間的に回復され得る。発泡成形時において、従来から配設される空気供給・排出手段の排出装置を減圧機構として用いて減圧を行うと、当該排出装置の排出量は大きすぎるために、型締め圧は急速に低減される。その結果、型開け後において上記関係式(2)の状態が回復され得ないため、型開け後に型締めが起こらず、原料漏れが起こる。
【0024】
減圧機構50は、減圧機構50を作動させずに発泡成形を行った場合において型内圧が最大値になる時間の近辺において、型開けが起こるように、エアバッグ内部の空気圧力を低減させることが好ましい。あまりに早く型開け状態が生じると、ポリウレタンフォームのセル形成が完了していない状態で内部エアーの移動が起こるため、成形体表面の状態がきわめて低下するし、発泡途中のポリウレタン樹脂が漏れ出すおそれもあるためである。詳しくは、型内に注入したポリウレタン原料によるポリウレタンフォームのセルの形成が完了した時点以降であって、型内圧が最大値になる時間の近辺に、型開けが起こるようにするのがより好ましい。具体的には、型内圧が最大値になる時間は、使用されるポリウレタン原料のライズタイム等の反応性、成形型内への原料供給量、発泡成形体の製造ラインの長さ等に依存し、一概に規定できるものではないため、当該時間の「近辺」も一概に規定できるものではないが、例えば、予備的に型内圧を上型に設けた圧力センサーにより調査し、それに基づき、型内圧が最大圧となる前後あたりで減圧、すなわち成型型内からガスが瞬間的に排出されるように減圧機構の作動タイミングを設定する。なお、時間的な微調整は得られる製品の良否を確認しながら試行錯誤により行う。
【0025】
について、具体的には、まず、減圧機構を作動させないこと以外、同様の条件で発泡成形体を製造し、型内圧の経時的変化を追跡し、例えば、図3に示すようなグラフを得る。当該グラフより、型内圧が最大値(Px)を初めて達成する時間T(秒)を読み取り、図2において型開けが瞬間的に起こる時間T(秒)が上記範囲内になるように、減圧機構の作動開始時間T(秒)を設定する。そのようなTおよびTは、発泡成形時において型開けと型締めとが瞬間的に起こる限り特に制限されない。
【0026】
図2において、減圧機構50により減圧を開始してから型開けを起こすまで(点A−B間)の、型締め圧の平均減圧速度[(P−P)/(T−T)]および時間(T−T)、減圧機構50により型開けを起こしてから強制的排出を開始するまで(点B−D間)の、型締め圧の平均減圧速度[(P−P)/(T−T)]および時間(T−T)、P、P、およびPもまた、減圧機構50によって発泡成形時に型開けと型締めとを瞬間的に起こすことができる限り特に制限されない。特に点B−D間の型締め圧は、上記関係式(2)の状態が維持される限り特に制限されず、例えば、型開け時の圧力が維持されても、当該圧力から減少しても、または増加してもよいが、生産性の観点から、点A−B間と同程度で減少することが好ましい。
【0027】
排出装置による排出開始時間T(秒)は、本発明では発泡や原料の反応および硬化が十分に行われるので、減圧機構を作動させなかった場合における排出装置による排出開始時間と比較して十分に早い時間に設定できる。このため、型内圧が常圧を示す時間T(秒)もまた比較的早くなる。
【0028】
減圧機構50による型開け直後の型内圧Pは型開け直前の型内圧P'の30〜70%であり、好ましくは35〜60%である。型開け直後の型内圧Pがあまり低下しない場合、例えばP/P'が60%を超えるような場合は、型締め後も圧力の高い状態が維持されるため、パンクが生じる恐れが高くなる。また、型開け直後の型内圧Pが低下しすぎる場合は、ガスがその時点で一気に抜けるため、得られる成形品の表面状態が非常に低下する。
【0029】
図2において、型開け直後の型内圧Pおよび型開け直前の型内圧P'は、使用されるポリウレタン原料の種類、成形型内への原料供給量等に依存するため一概に規定できるものではなく、発泡成形時において型開けおよび型締めが瞬間的に起こる限り特に制限されるものではない。
【0030】
減圧機構50は、例えば、発泡成形時において、エアバッグ20への空気の供給を停止することおよび/またはエアバッグ20内部の空気を排出することにより、エアバッグ20内部の空気圧力を低減させる。減圧機構50の具体例として、本発明の発泡体成形装置の一実施形態として以下に示す発泡体成形装置1aに使用される停止弁51および排気弁52等が挙げられる。
【0031】
(第1実施形態)
本発明の発泡体成形装置の一実施形態を図4Aおよび図4Bを用いて説明する。図4Aは本発明の発泡体成形装置の一実施形態の発泡成形前における概略構成図であり、図4Bは図4Aに示す本発明の発泡体成形装置の発泡成形時における概略構成図である。図4Aおよび図4Bにおいて図1と同じ符号は同じ部材を示すものであるので、それらの説明を省略する。
【0032】
図4(以下、図4は図4Aおよび図4Bを包含して意味するものとする)に示す発泡体成型装置1aは空気供給・排出手段30および空気搬送管60を有し、図1における減圧機構50として空気搬送管60に停止弁51および排気弁52を有している。減圧機能を担うのは停止弁51および/または排気弁52である。
【0033】
空気供給・排出手段30はエアバッグ内部への空気の供給およびエアバッグ内部からの空気の排出を行う装置であり、通常、供給装置31、排出装置32および切替弁33を有し、供給装置31と排出装置32とは切替弁33により電磁方式等に基づいて切替可能になっている。供給装置31の具体例として、例えば、コンプレッサー等が挙げられる。供給装置の出力は、後述の型閉鎖工程において下型の上方への移動が達成される限り特に制限されない。供給装置31によって供給される空気の温度は特に制限されない。排出装置32は従来から配設される空気供給・排出手段における排出装置と同様のものが使用され、通常はエアバッグ内部から空気を比較的大きな排出速度で排出する開放口が挙げられる。このため、当該排出装置のみでは、発泡成形時において型開けおよび型締めを瞬間的に起こすことはできない。
【0034】
空気搬送管60はエアバッグ20と空気供給・排出手段30との間をつないで、空気を搬送するための配管である。図4において空気搬送管60は本管61および支管62を有しているが、支管62は必ずしも有さなくてもよい。空気搬送管60の構成材料は、エアバッグ式発泡体成形装置の分野で空気搬送管の材料として使用されているものであれば、特に制限されず、通常、金属管、樹脂管やチューブ状材料が使用される。
【0035】
停止弁51は、閉じることによって空気供給・排出手段30からエアバッグ20への空気の供給を停止する弁である。エアバッグや配管の継ぎ目等からの空気漏れは不可避であるため、発泡成形時において停止弁51により空気供給・排出手段30からエアバッグ20への空気の供給を停止するだけでエアバッグ内部の空気圧力を低減させ、結果として型締め圧を緩やかに低減できる。停止弁51を開けると、空気供給・排出手段30からエアバッグ20への空気の供給を再度行うことができる。
【0036】
停止弁51は空気搬送管60の本管61に形成される。
停止弁51は空気の供給を停止できる限り、空気流量を連続的または段階的に調整できるものであってもよいし、または開/閉のみでしか調整できないものであってもよい。
停止弁51で空気流量を調整することにより、エアバッグ内部の空気圧力の減圧速度および型締め圧の減圧速度を制御できる。
【0037】
排気弁52は開けることによってエアバッグ内部の空気を排出する弁である。発泡成形時において排気弁52からエアバッグ内部の空気を排出することにより、エアバッグ内部の空気圧力を低減させ、結果として型締め圧を緩やかに低減できる。発泡成形時においてエアバッグ内部の空気圧力は大気圧よりも大きくなっているため、排気弁52を開けるだけでエアバッグ内部の空気が排出される。排気弁52を閉じると、エアバッグ20内部の空気の排出は停止される。
【0038】
排気弁52は図4において空気搬送管の支管62に形成されているが、本管61に形成されてもよい。
排気弁52は、空気供給・排出手段の排出装置と比較して極めて小さな排出速度でエアバッグ内部から空気系外に排出する開放口を有するものである。具体的には、空気の排出流量を連続的または段階的に調整できるものであってもよいし、または開/閉のみでしか調整できないものであってもよい。排気弁52の排出速度は、エアバッグ内部の容積等に依存するため一概に規定できるものではなく、発泡成形時において型開けおよび型締めを瞬間的に起こすことができる限り特に制限されるものではない。
排気弁52で排出流量を調整することにより、エアバッグ内部の空気圧力の減圧速度および型締め圧の減圧速度を制御できる。
【0039】
停止弁51と排気弁52とが配設される場合、排気弁52は通常、停止弁51よりエアバッグ側に設けられる。停止弁51のみで本発明の所定の減圧機能を達成できない場合は、排気弁52と組み合わせて使用すればよい。逆の場合も同様であり、すなわち排気弁52のみで本発明の所定の減圧機能を達成できない場合は、停止弁51と組み合わせて使用すればよい。
【0040】
[発泡成形体の製造方法]
上記した発泡体成形装置1aを用いて発泡成形体を製造する方法を図2〜図4を用いて詳しく説明する。発泡成形装置を用いた成形システムは、モールド成形システムとも呼ばれ、型閉鎖工程(いわゆる成形型内にポリウレタン原料を注入する「注入工程」も型閉鎖工程に含む)、発泡成形工程、型開放工程(いわゆる成形品を成形型から取り出す「脱型工程」も型開放工程に含む)を少なくとも有するポリウレタン成形システムである。なお、成形ラインにはターンテーブル型やサークル型など種々のラインがあるが、いずれでも本発泡成形装置が適用できる。なお、通常ターンテーブル型の場合、1サイクルは4〜8分程度であり、サークル型については、8〜15分程度である。
【0041】
(型閉鎖工程)
まず、上11型および下型12を温水等により加熱した後、図4Aに示すように、下型12上にポリウレタン原料組成物15を供給する。このとき、所望により、芯材や表皮材等のインサート材が成形型内に設置されてもよい。その後、図4Bに示すように、空気供給・排出手段30の供給装置31によるエアバッグ20への空気の注入を開始し、これによって下型12を上方に移動させ、型閉鎖を達成する。
【0042】
成形型の加熱温度はポリウレタン原料の種類に依存して決定されるため、一概に規定できるものではないが、例えば、50〜70℃が好適である。なお、ポリウレタンフォーム成形品を得るために用いる原料ポリウレタン原料としては、イソシアネート成分、ポリオール成分を主原料とし、それに発泡剤、触媒、整泡剤等を配合されたものが用いられる。
【0043】
型閉鎖工程において達成される型締め圧は、発泡によって発泡材料が漏出しないように、型内圧よりも十分に高く設定されればよい。
【0044】
(発泡成形工程)
次いで、減圧機構50を作動させずに発泡成形を行った場合において型内圧が最大値になる時間の近辺において型開けが起こるように、減圧機構50(停止弁51および/または排気弁52)の作動を開始し(点A)、上型および下型を上記温度に維持することにより、発泡成形を行う。その結果、エアバッグ内部の空気圧力が徐々に低減されて型締め圧が緩やかに低下し、T秒後において、型締め圧と型内圧は前記関係式(1)を満たすようになり、型開けが起こる(点B)。
【0045】
型開けが起こると、型内圧が急激に低下するが(点C)、型締め圧は急激には低下しないので、型締め圧と型内圧は前記関係式(2)を満たすようになり、型締めが速やかに達成され、結果として、型開けと型締めとが瞬間的に起こる。
【0046】
型開けと型締めとが瞬間的に起こった後は、上型および下型を上記温度に維持することにより、発泡成形を継続して行う。このとき、型内圧は、減圧機構を作動させなかった場合における発泡成形時の型内圧と比較して十分に低いので、発泡や原料の反応および硬化が促進される。
【0047】
(型開放工程)
その後、空気供給・排出手段30を切替弁33により排出装置32に切り替え(点D)、当該排出装置32によりエアバッグ20内部の空気を強制的に排出する。このとき、停止弁51は開いた状態であり、排気弁52は閉じた状態である。これによって下型12を下方に移動させ、型開放を行い(点E)、発泡成形体70を取り出す。
【0048】
発泡成形体を得た後は、所望により、クラッシング処理を行う。クラッシング処理とは、独立気泡を連続気泡にするための処理である。クラッシング処理は、発泡成形後、発泡成形体温度が室温に冷却されるまでに行うことが好ましい。
クラッシング処理の具体例として、例えば、発泡成形体を減圧環境下で保持する方法、発泡成形体を1対又は2対以上のローラー間で挟む方法等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の実施例/比較例によりさらに詳しく説明する。
【0050】
(実施例1)
・予備実験
型内圧が最大値(Px)を達成する時間Tを測定するために、予備実験を行った。
詳しくは図4Aおよび図4Bに示す発泡体成形装置を用いて通常のターンテーブル型ラインにてポリウレタンフォームを製造した。予備実験において発泡体成形装置は全工程にわたって停止弁51を開け、かつ排気弁52を閉じた状態で用いた。予備実験において型締め圧および型内圧の経時的変化を追跡したところ、図6と同様のグラフが得られた。
【0051】
ポリウレタン原料として、イソシアネート成分およびポリオール成分を主原料とするポリウレタン原料を用いた。なお、使用したポリウレタン原料のライズタイムは50秒であった。
【0052】
図6において、点Xは型内圧が最大値を初めて示したときを示し、このときの型内圧をP、時間をTで示す。点Yは排出装置32によるエアバッグの強制的排出を開始したときを示し、このときの型締め圧をP、時間をTで示す。点Zは型内圧が常圧を示したときを示し、このときの時間をTで示す。
【0053】
具体的には、上型および下型を50〜70℃に加熱した後、図4Aに示すように、下型12上に組成物15を供給した。その直後から、図4Bに示すように、空気供給・排出手段30の供給装置31によるエアバッグ20への空気の注入を開始し、これによって下型12を上方に移動させ、型閉鎖を達成した(型閉鎖工程)。その後、エアバッグ20への空気の注入を継続して行いながら、上型および下型を上記温度に維持することにより、発泡成形を行った(発泡成形工程)。発泡成形が完了したら、空気供給・排出手段30を切替弁33により排出装置32に切り替え(点Y)、当該排出装置32によりエアバッグ20内部の空気を強制的に排出した(型開放工程)。これによって下型12を下方に移動させ、型開放を行い、発泡成形体を取り出した。
【0054】
・本実験
発泡成形工程において停止弁51を閉めてエアバッグ20への空気の注入を停止したこと、および型開放工程において停止弁51を全開したこと以外、予備実験と同様の方法により発泡成形体を製造した。排気弁52は全工程にわたって閉じた状態で用いた。本実験において型締め圧および型内圧の経時的変化を追跡したところ、図2に示すグラフが得られた。得られた成形体は、速やかにクラッシング処理を施した。
【0055】
発泡成形工程において詳しくは、型開けが起こる時間Tが予備実験におけるTになるように、停止弁51を完全に閉めてエアバッグ20への空気の注入を停止し、上型および下型を所定の温度に維持することにより発泡成形を行った。本工程においてエアバッグ内部の空気圧力は徐々に低減され、T秒後において、型締め圧および型内圧は前記関係式(1)を満たすようになり、型開けが瞬間的に起こった(点B;P=70.0kPa、P'=70.0kPa)。その直後、型内圧が低下することによって、型締め圧および型内圧は前記関係式(2)を満たすようになり、型締めが達成された(点C;P=40.0kPa)。
型開放工程は、空気供給・排出手段30を切替弁33により排出装置32に切り替えると同時に、停止弁51を全開したこと以外、予備実験においてと同様の方法により行った。
【0056】
実施例1の本実験において、成形型からのポリウレタン樹脂の漏出は起こらず、また得られた発泡成形体にはパンクは発生しなかった。
【0057】
(実施例2)
発泡成形工程において、停止弁51を完全に閉めたと同時に、排気弁52を作動したこと、および型開放工程において排気弁52を閉じたこと以外、実施例1の本実験と同様の方法により、発泡成形体を製造した。実施例2において型締め圧および型内圧の経時的変化を追跡したところ、図2と同様のグラフが得られた。なお、P/P'=51%であった。
【0058】
実施例2において、成形型からのポリウレタン樹脂の漏出は起こらず、また得られた発泡成形体にはパンクは発生しなかった。しかも発泡成形体の製造完了時間Tが実施例1よりも早く、生産性がより一層良好なことが明らかであった。
【0059】
本発明においては、発泡成形時の型開けにより型内圧が有効に低下するので、発泡成形完了後の型開放工程における成形型内部の圧力低下が緩和され、成形体の表面および/または内部におけるパンクの発生が十分に防止される。さらに発泡成形時に減圧機構を作動させて型開けと型締めとを瞬間的に起こすだけで、型内圧を有効に低減できるので、型内圧の制御が簡便である。
【符号の説明】
【0060】
1:発泡体成形装置
10:成形型
11:上型
12:下型
20:エアバッグ
30:空気供給・排気手段
31:供給装置
32:排出装置
33:切替弁
40:エアバッグ支持体
50:減圧機構
51:停止弁
52:排気弁
60:空気搬送管
61:本管
62:支管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型および下型を有する成形型;
下型を支持し、空気の注入または排出により下型を上下方向に移動させるエアバッグ;および
エアバッグ内部の空気圧力を低減させ、発泡成形時に型開けと型締めとを起こす減圧機構を有することを特徴とするポリウレタン発泡体成形装置。
【請求項2】
型開けが、関係式(1);
型内圧>型締め圧 (1)
を満たす状態で行われる請求項1に記載のポリウレタン発泡体成形装置。
【請求項3】
型締めが、型開け後に関係式(2);
型内圧<型締め圧 (2)
を満たす状態で行われる請求項1または2に記載のポリウレタン発泡体成形装置。
【請求項4】
エアバッグ内部への空気の供給およびエアバッグ内部からの空気の排出を行う空気供給・排出手段;および
空気供給・排出手段とエアバッグとの間をつなぐ空気搬送管をさらに有し、
減圧機構が、空気供給・排出手段からエアバッグへの空気の供給を停止すること、および/またはエアバッグ内部の空気を排出することによって構成される請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン発泡体成形装置。
【請求項5】
減圧機構が、発泡成形時に型開けと型締めとを瞬間的に起こして、型内圧を、型開け直前の型内圧の30〜70%に減圧する請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン発泡成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−135974(P2012−135974A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290635(P2010−290635)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(511001367)中国化成工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】