説明

ポリウレタン系弾性繊維およびその製造方法

【課題】 紡糸時の口金詰まりや糸切れが生じ難く紡糸性良好であり、かつ、巻糸体内において糸同士の膠着が生じず解舒性が良好であるポリウレタン弾性繊維を提供する。特に、複数本のフィラメントを合着処理して合着ポリウレタン繊維糸を製造して巻上げた場合でも、解舒性が良好であるとともに、合着糸内でのフィラメント合着が十分でフィラメント割れ等のトラブルを生じ難いポリウレタン弾性繊維を提供する。
【解決手段】 シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを、それぞれ、ポリウレタン繊維に対し0.1〜10重量%、0.1〜10重量%、0.05〜5.0重量%含有してなるポリウレタン系弾性繊維である。また、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを混合してなる改質剤をポリウレタン紡糸原液に添加した後、乾式紡糸することにより上記ポリウレタン系弾性繊維を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタン系弾性繊維に関する。さらに詳しくは、乾式紡糸する前の紡糸原液に特定成分を配合することにより改質した、紡糸性、合着性、及び解舒性に優れたポリウレタン系弾性繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンやポリウレタンウレアからなるポリウレタン系弾性繊維は、そのポリマ本来の特性からして粘着し易い繊維であるので、紡糸された繊維を巻上げて巻糸体としたとき、巻糸体からの繊維の解舒が悪くなり易いという問題があった。
【0003】
そこで、解舒性や走行安定性を改善するために、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸を紡糸前のポリマ中に添加して繊維中に含有させることや、また、金属石鹸を紡糸油剤中に添加して繊維表面に付与することが提案されて来ている。
【0004】
例えば、前者としては、ポリウレタン紡糸溶液中に金属石鹸を添加した後に紡糸し、油剤を付与した後に巻き取ることが特許文献1や特許文献2に記載されている。また、後者としては、シリコーンオイルに金属石鹸を添加した特定の油剤を紡糸工程においてポリウレタン繊維に付与する方法が特許文献3に記載されている。
【0005】
しかし、紡糸前のポリウレタン紡糸溶液中に金属石鹸を添加する従来法では、巻糸体からの解舒性は改善されるものの、紡糸工程で複数フィラメントを合着処理して合着糸にして巻上げた場合には、フィラメント同士の合着が不完全となり、後加工工程やポリウレタン繊維使用時において、フィラメント割れや糸切れが生じ易いという問題があった。
【0006】
金属石鹸を添加した油剤を紡糸途中の繊維に付与する方法では、付着した金属石鹸が繊維表面に偏在した状態となるので、金属石鹸による効果が十分に発揮されず、解舒性を十分に改善することが困難であった。
【0007】
また、金属石鹸の滑剤効果を利用して、ポリウレタン繊維を紡糸した後に分繊させる方法が提案されている。例えば、金属石鹸を添加したポリウレタン紡糸溶液から紡糸された複数本のフィラメントを合着させずに巻き取り、その後に分繊させることにより極細繊度のポリウレタンフィラメントを得る方法が特許文献4に記載されている。また、ハイドロタルサイト化合物、金属石鹸及び変性シリコン化合物をポリウレタン紡糸溶液中に配合して紡糸した6フィラメントを、2本ずつエアージェット撚糸機で撚をかけて接合させ、2本接合糸の3本を同時に巻取り、その後に3糸条に分繊する方法が特許文献5に記載されている。
【0008】
特許文献4記載のように紡糸工程途中で合着処理をしない場合にはフィラメント同士を合着させることは困難である。また、特許文献5のようにハイドロタルサイト化合物を併用添加した場合には、繊維中に不溶性異物としてハイドロタルサイトが存在することにより紡糸口金詰まりや紡糸時糸切れが誘発されて紡糸性が悪くなり、スカム発生が多くなるという問題があり、工業的生産には不適当なものである。
【0009】
【特許文献1】特公昭58−44767号公報
【特許文献2】特開昭57−51816号公報
【特許文献3】特開2003−13362号公報
【特許文献4】特開2001−214332号公報
【特許文献5】特開平9−217227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術における上述したような問題点を解消させ、紡糸時の口金詰まりや糸切れが生じ難く紡糸性良好であり、かつ、巻糸体内において糸同士の膠着が生じず解舒性が良好であるポリウレタン弾性繊維を提供すること、特に、複数本のフィラメントを合着処理して合着ポリウレタン繊維糸を製造して巻上げた場合でも、解舒性が良好であるとともに、合着糸内でのフィラメント合着が十分でフィラメント割れ等のトラブルを生じ難いポリウレタン弾性繊維糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明のポリウレタン系弾性繊維は、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを、それぞれ、ポリウレタン繊維に対し0.1〜10重量%、0.01〜5.0重量%、0.05〜5.0重量%含有してなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のポリウレタン系弾性繊維の製造方法は、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを混合してなる改質剤をポリウレタン紡糸原液に添加した後、乾式紡糸することにより上記ポリウレタン系弾性繊維を製造することを特徴とするものであるる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、繊維中に金属石けんを所定量含有していることから巻糸体からの解舒張力が内層部においても小さく、各層ともに解舒性が優れている。しかも、紡糸原液に金属石けんを配合したにも拘わらず、口金孔での詰まりや紡糸時糸切れのようなトラブルがなく紡糸性良好である。さらに、紡糸工程において複数本を合着処理した場合でも、フィラメント同士の合着性が良好であり、解舒性及び合着性がともに良好である合着ポリウレタン弾性繊維糸の巻糸体を製造することができる。また、本発明のポリウレタン系弾性繊維を用いれば、加工工程においてもガイド類へのスカムの付着や蓄積を低減することができる。
【0014】
このように、本発明のポリウレタン系弾性繊維は、製糸工程における紡糸連続性が高く、得られる巻糸体からの解舒の抵抗力(即ち、解舒張力)が巻糸体の外部から内部まで安定して低くすることができ、その巻糸体を長期間保管する場合でも解舒張力の経時増大を抑制することができる。
【0015】
そのため、本発明のポリウレタン系弾性繊維を布帛の製造工程等で使用する際には製造プロセスへ安定した解舒張力でもってポリウレタン弾性糸を供給することができ、安定して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のポリウレタン系弾性繊維、及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを含有し、その含有量は、それぞれ、ポリウレタン弾性繊維に対し、0.1〜10重量%、0.01〜5.0重量%、0.05〜5.0重量%である。
【0017】
ここで、シリコーンオイルは、紡糸原液中に金属石けんを添加する際の分散媒体として機能するとともに、弾性繊維の紡糸工程における口金詰まり等のトラブル低減のために機能するものである。
【0018】
そのシリコーンオイルはポリジメチルシロキサンで代表されるものである。このポリジメチルシロキサンには、1)ジメチルシロキサン単位から成るポリジメチルシロキサン、2)ジメチルシロキサン単位と炭素数2〜4のアルキル基を含むジアルキルシロキサン単位とから成るポリジアルキルシロキサン類、3)ジメチルシロキサン単位とメチルフェニルシロキサン単位とから成るポリシロキサン類等が包含される。
【0019】
また、シリコーンオイルは、25℃における粘度が10×10-6〜10×10-12 /Sのものが好ましい。この粘度が低すぎるシリコーンオイルの場合(10×10-62 /S未満) では、紡糸原液に添加させる前に、金属石けんを含む改質剤液を調合する際の分散媒体機能が不十分であり、改質剤液中で金属石けんが沈降や2次凝集を生じ易く、金属石鹸を紡糸原液中に均一に分散させ難くなるので、金属石けんの2次凝集物による口金孔詰まり等のトラブルを招く可能性が高い。逆にシリコーンオイルの粘度が高すぎる場合(10×10-12 /Sを超える)では、金属石鹸をシリコーンオイル中に分散させて改質剤としたときに金属石けん粒径を均一で微小にすることが困難であって、例えば、湿式粉砕中の発熱が大きく、改質剤自体の変質を招くこともあり、好ましくない。
【0020】
そのシリコーンオイル粘度は、JIS−K2283(石油製品動粘度試験方法)に記載された方法で測定される25℃での粘度値である。
このシリコーンオイルは、特に、併用添加する金属石鹸の繊維中での均一微分散性を高めるために必要であり、その配合量は、繊維に対し0.1〜10重量%である。なかでも0.5〜5重量%が好ましい。
【0021】
本発明で用いる変性シリコーンは、必須の構成単位として、ジメチルシロキサン単位と変性基を有するシロキサン単位とを含む線状ポリオルガノシロキサンである。この変性シリコーンの種類としては、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、カルボキシアミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、シリコーンレジン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物で使用される。なかでも、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、カルボキシアミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーンが好ましい。
【0022】
この変性シリコーンは、特に、紡糸途中で複数本のフィラメントを合糸させ、合糸性に優れたポリウレタン弾性繊維とするために必要であり、その配合量は、繊維に対し0.01〜5.0重量%である。なかでも0.03〜3.0重量%が好ましい。
【0023】
また、本発明で用いる金属石けんは、高級脂肪酸金属塩等の有機酸金属塩であり、極力微細であること、例えばコロイド状レベルであることが好ましい。コロイドとは、物質が微細な粒子となって、液体などに混合分散している状態であるので、コロイド状レベルの粒子は、一般に、分散粒子の大きさが、略10-7〜10-9m程度の粒子である場合をさす。本発明で用いる金属石鹸の平均粒子径は、1×10-6m未満(即ち、1.0μm未満)であることが好ましい。
【0024】
この金属石けんとしては、具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、アイコサン酸、ドコサン酸、ラウリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、オクタン酸、トール油脂肪酸等の脂肪酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、d−ピマル酸、イソ−d−ピマル酸、ポドカルプ酸、アガテンジカルボン酸、安息香酸、ケイ皮酸、p−オキシケイ皮酸、ジテルペン酸等の樹脂酸又はナフテン酸等の有機酸の金属塩(鹸化物)である。
【0025】
その金属塩を構成する金属の種類としては、アルカリ金属以外の金属が好ましく、例えば、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、銀、バリウム、ベリリウム、カドミウム、コバルト、クロム、銅、鉄、水銀、マンガン、ニッケル、鉛、スズ、チタン等が挙げられる。
【0026】
本発明では、これら種類の金属石鹸の1種又は2種以上を使用すればよいが、なかでも、高級脂肪酸金属塩が好ましく、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等が好ましい。
【0027】
この金属石鹸を紡糸原液中に配合して、ポリマ中に金属石鹸が分散含有されたポリウレタン弾性繊維とすることにより、紡糸により得られるポリウレタン系繊維は、破断強伸度や耐薬品性などの特性が良好であるとともに、巻糸体における糸同士の膠着が防止され、巻糸体からの解舒性、特に内層部における解舒性が大幅に向上し、巻糸体の外層部から内層部まで安定した解舒張力でもって解舒することができるようになる。従って、このポリウレタン系弾性繊維を衣服などに使用したとき、外観品位などのバランスが優れた伸縮繊維製品類を製造することができる。これら効果を発揮するためには、金属石鹸は繊維に対しする含有量が0.05〜5.0重量%であることが必要であり、なかでも0.1〜2.0重量%であることが好ましい。
【0028】
シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを紡糸原液中に混合したときのチクソトロピーを抑制し、添加前の改質剤保管時の増粘などの粘度変化を抑制するという点からすると、シリコーンオイルと変性シリコーンとの混合割合は、(100/50)〜(100/0.5)(重量比)であることが好ましい。
【0029】
また、シリコーン混合物(シリコーンオイルと変性シリコーンとの合計)に対する金属石けんの量は、シリコーン混合物100重量部当たり5〜100重量部とすることが好ましい。この割合とすることにより、改質剤中での金属石けんの分離や沈降を抑制し改質剤の安定性を高めることができるし、さらに、金属石けんによる紡糸口金孔詰まりを抑制することできる。さらに好ましい割合は、シリコーン混合物100重量部当たり、金属石けんが10〜70重量部である。この割合の範囲内であれば、特に長期の保管でも改質剤の粘度等の変化が少なく、紡糸性、合着性、スカム抑制のいずれもがバランス良く優れたものとなる。
【0030】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、ポリウレタン重合体を紡糸することにより製造される繊維である。
このポリウレタン重合体は、ウレア結合も含むポリウレタン−ウレアであってもよいし、また、ウレア結合を含まないポリウレタンであってもよい。また、ポリウレタンとポリウレタン−ウレアとの混合ポリマや共重合体であってもよい。
【0031】
より具体的には、このポリウレタン重合体は、2種類の型のセグメント、即ち、(a)長鎖のポリエーテルセグメントやポリエステルセグメント等であるソフトセグメントと、(b)有機イソシアネートとジアミン鎖伸長剤もしくはジオール鎖伸長剤との反応により誘導された比較的短鎖のセグメントであるハードセグメントとを、ポリマ構成単位として含有する。
【0032】
かかるポリウレタン重合体は、通常、ヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体を有機ジイソシアネートでキャッピングすることによって得られるプレポリマー生成物を、ジアミンまたはジオールで鎖伸長させるプレポリマー法、または、それら全ての原料を同一浴に入れて重合させるワンショット法で製造されるが、その他の方法で製造してもよい。
【0033】
ソフトセグメントは、ポリエーテル系ジオール化合物やポリエステル系ジオール化合物のようなポリマージオール化合物から誘導される。
ポリエーテルソフトセグメントを誘導するためのポリエーテル系ジオール化合物としては、次の一般式で表される単位を含む共重合ジオール化合物を含むことが好ましい。
【0034】
【化1】

(但し、a、cは1〜3の整数、bは0〜3の整数、R1、R2はH又は炭素数1〜3のアルキル基)
【0035】
このポリエーテル系ジオール化合物としては、具体的には、ポリエチレングリコール、変性ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)および3−メチル−THFの共重合体である変性PTMG、THFおよび2,3−ジメチル−THFの共重合体である変性PTMG、THF及びネオペンチルグリコールの共重合体である変性PTMG、THFとエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が挙げられる。これらポリエーテル系グリコール類の1種を使用してもよいし、また2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。その中でもPTMGまたは変性PTMGが好ましい。
【0036】
また、典型的なポリエステルソフトセグメントとしては、(a)エチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等と(b)二塩基酸、たとえばアジピン酸、コハク酸等との反応性物が挙げられる。
【0037】
ソフトセグメントは、上記したポリエーテル系ジオール化合物やポリエステル系ジオール化合物から誘導されることが好ましいが、その他に、ポリカーボネートジオール化合物、例えば、ポリ−(ペンタン−1,5−カーボネート)ジオール、ポリ−(ヘキサン−1,6−カーボネート)ジオール等から形成されたポリエーテルエステルのような共重合ジオール化合物から誘導されたものでもよい。
【0038】
本発明におけるポリウレタンの重合に用いる有機ジイソシアネートとしては、通常、ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、ビス−(4−イソシアナートシクロヘキシル)−メタン、へキサメチレンジイソシアネート、3,3,5−トリメチル−5−メチレンシクロヘキシルジイソシアネート等が用いられる。その中でも、特にMDIが好ましい。
【0039】
ポリウレタンウレアを形成させるために用いるジアミン系鎖伸長剤としては、種々のジアミン、例えば、エチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等が挙げられる。ポリウレタンウレアの最終的な分子量の調節を助けるために、鎖停止剤を反応混合物中に含有させることができる。通常、鎖停止剤には、活性水素を有する一官能性化合物、例えばジエチルアミンが用いられる。
【0040】
また、重合時の鎖伸長剤は、上記ジアミンに限定されず、ジオールを用いてもよい。例えば、エチレングライコール、1,3−プロパンジオール、4−ブタンジオール、ネオペンチルグライコール、1,2−プロピレングライコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオール等である。ジオール系鎖伸長剤は、1種のみのジオールに限定されるわけでなく、複数種のジオールからなるものであってもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。
【0041】
さらに、本発明で使用されるポリウレタンは、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤として、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0042】
このようなポリウレタンを製造するには、溶融重合法、溶液重合法などの各種方法を採用すればよい。その重合の処方についても特に限定されず、例えば、プレポリマー法でもワンショット法でもよい。
【0043】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、重合により調製されたポリウレタン溶液、又はポリウレタンを溶媒に溶解させ若しくは分散媒に分散させたポリウレタン液に、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けん等の添加剤を所定量配合して紡糸原液とし、この紡糸原液から通常の方法で紡糸することにより製造される。その紡糸方法は乾式紡糸法、溶融紡糸法、湿式紡糸法等のいずれあってもよいが、特に乾式紡糸法が好ましい。
【0044】
乾式紡糸の際の紡糸原液の温度、雰囲気温度、吐出速度、口金形状、糸条の引き取り速度等の紡糸条件は適宜選択すればよい。例えば、紡糸口金の孔数は特に限定されないが、紡糸工程で複数本のフィラメントを合糸処理するためには2個以上とすればよい。
【0045】
この紡糸工程に供するポリウレタン液は、ポリウレタン重合体が溶媒に溶解させたポリウレタン溶液であることが好ましいが、分散媒を用いたポリウレタン分散液であってもよい。さらにこれらの混合物を使用してもよい。
【0046】
ポリウレタン重合体を溶解させたり、分散させるために用いる溶媒や分散媒は、ポリウレタンに対して不活性なものであれば特に限定されないが、ポリウレタン重合体の溶解性が高いN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ビニルピロリドン等を用いることが好ましい。
【0047】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されてもよい。
【0048】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0049】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0050】
このポリウレタン溶液に、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんの添加剤を所定量配合するための手段は特に限定されないが、シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを混合して流動性のあるスラリー状改質剤とし、この改質剤をポリウレタン溶液に添加混合する方法が好ましい。
【0051】
このスラリー状改質剤の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、固体であるステアリン酸マグネシウム等の金属石けんと、液体であるシリコーン系成分(シリコーンオイル及び変性シリコーン)とを所定割合で混合し、湿式粉砕して金属石けんを液状成分中に分散させる方法が挙げられる。ここで湿式粉砕に用いる粉砕機としては、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、サンドグラインダー、コロイドミル、ボールミル等の各種の湿式粉砕機が使用できる。
【0052】
このスラリー状改質剤をポリウレタン溶液に添加混合する時期は、紡糸原液の製造工程であり、即ち、ポリウレタン重合工程後から紡糸工程に至るまでの任意の時期に添加すればよい。なかでも、紡糸工程直前の段階で行われることが好ましい。その添加手段は、インジェクション法、バッチ法等を選ぶことができる。
【0053】
このように、添加剤成分を予め混合させた改質剤を紡糸原液へ添加する場合、この改質剤は、その性状が流動性のあるスラリー状であることが、紡糸液と混合する際のエネルギー所用量が少なくてすみ、早く、比較的単純な設備で均質に混合させることができるという利点があるので、好ましい。
【0054】
このようにポリウレタン溶液に改質剤を配合する際の混合割合は、製造されるポリウレタン系弾性繊維中におけるそれぞれの成分の含有量が所定値となるような割合とすればよい。
【0055】
紡糸原液におけるポリウレタン濃度は、特に限定されるものではないが、通常、25〜80重量%であることが好ましい。より好ましくは30〜60重量%の範囲であり、さらに好ましくは35〜55重量%の範囲である。ポリウレタン濃度が25重量%未満である場合には乾式紡糸の際、溶媒等の蒸発に必要な熱量が多くなるため紡糸が困難となる傾向がある。一方、80重量%を越えると紡糸原液の安定性が悪化するので、紡糸性が悪化する。このような高濃度でも紡糸原液の安定化させるために重合体の重合度を下げると糸質が低下する。
【0056】
紡糸原液の粘度は2500〜5500ポイズであることが好ましい。2500ポイズ以上の粘度があれば、乾式紡糸する際の粘度低下による糸切れが少なく紡糸性が良好である。また、5500ポイズ以下の粘度であれば紡糸口金部分での圧損をある程度抑えることができるので、紡糸性や糸質を高めることができる。なお、その粘度値は40℃における鋼球落下式粘度測定法により測定される値である。
【0057】
本発明のポリウレタン系弾性繊維を製造するために好ましい乾式紡糸工程では、紡糸口金から吐出された複数本(例えば2〜248本)のフィラメントを、加熱雰囲気中を通過させて溶媒を除去し、所定本数のフィラメントを合着処理し、必要に応じて油剤を付与した後、巻き上げ、ポリウレタン繊維の巻糸体を形成する。このように紡糸工程において合着処理することにより複数本のフィラメントが合着された状態のポリウレタン弾性繊維を製造することが本発明では好適である。この際の合着処理の手段としては、仮撚り付与、ガイド通過等の通常の手段が適用される。
【0058】
このようにして製造される本発明のポリウレタン弾性繊維の繊度、フィラメント数等は用途に応じて適宜決定すればよい。
【0059】
なお、本発明のポリウレタン系弾性繊維には、必要に応じて、その他の添加剤、例えば、各種安定剤、顔料、無機物などの合成繊維用添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有させてもよい。例えば、耐光剤や酸化防止剤などとして、2,6−ジ−tブチル−pクレゾール(BHT)や住友化学株式会社製の“スミライザーGA−80”などのヒンダードフェノール系薬剤、チバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学株式会社製の“スミライザーP−16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤が挙げられる。また、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、鉱物油などの滑剤、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれていてもよい。また、これらがポリマと反応させられて含有されることでもよい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤などが配合されてもよい。
【0060】
また、乾式紡糸工程における紡糸速度を上げ易いという観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物の微粒子を添加してもよい。また、耐熱性向上や機能性向上の観点から、無機物や無機多孔質(例えば、竹炭、木炭、カーボンブラック、多孔質泥、粘土、ケイソウ土、ヤシガラ活性炭、石炭系活性炭、ゼオライト、パーライト等)を、本発明の効果を阻害しない範囲内で添加されてもよい。
【0061】
これらのその他の添加剤は、ポリウレタン溶液と前記した改質剤との混合により紡糸原液を調製する際に添加してもよいし、また、混合前のポリウレタン溶液中や分散液中に予め含有させておいてもよい。これら添加剤の含有量は目的等に応じて適宜決定される。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例および比較例中の部は重量部、%は重量%を表す。
なお、実施例中の各特性は次の評価方法による。
【0063】
[改質剤の分散安定性]
予め混合したスラリー状改質剤の100mlを密栓付きガラス製100mlメスシリンダーに入れ、40℃にて1週間と1ケ月間放置し、1週間後と1ケ月間後の改質剤の外観を観察し、スラリー状改質剤の分散安定性を下記の基準で判定した。
◎: 均一な分散状態で外観に変化がなかった。
○: 5ml未満の透明層が発生した。
△: 5ml以上の透明層が発生した。
×: 金属石けんの沈殿が発生した。
【0064】
[金属石鹸の平均粒子径]
予め混合したスラリー状改質剤の100mlに、金属石鹸が1000ppmの濃度となるように、25℃粘度が20×10-62 /Sであるシリコーンオイルを添加して希釈し、試料とした。この試料を25℃で超遠心式自動粒度分布測定装置(堀場製作所製CAPA−700)を用いて面積基準の平均粒子径を測定した。
[紡糸性の評価]
乾式紡糸工程途中における糸切れの頻度を測定し、糸切れ発生までの巻き取り距離(繊維長さ)にて表示した。
【0065】
[合着性の評価]
弾性繊維巻糸体を転がしながらポリウレタン系弾性繊維を解舒し、この時、200%伸長状態の弾性糸を50m/分の送り速度で送り、交差ロールを介して糸割れ箇所を拡大して糸割れ箇所数を計測する。糸割れ箇所は曲がった節として観察される。100個の巻糸体を検査して糸割れ箇所の発生数を調べ、弾性繊維100mあたりの糸割れ箇所数(平均値)を求め、下記の基準で評価した。
◎: 100mあたり1箇所未満
○: 100mあたり1箇所以上5箇所未満
△: 100mあたり5箇所以上50箇所未満
×: 100mあたり50箇所以上
【0066】
[弾性繊維の強伸度]
弾性糸の試料サンプルを、“インストロン”4502型引張試験機を用いて引張テストすることにより破断時点の強度、伸度を測定する。
即ち、試料長5cm(L1)の試料糸を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。次にこの長さを30秒間保持した。さらに6回目に試料サンプル糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料長さを(L3)とした。以下、上記の特性は下記式により与えられる。
【0067】
強度=(G3)
伸度=100×{(L3)−(L1)}/(L1)
【0068】
[弾性繊維の解舒張力]
解舒張力は、図1に示す装置によって測定する。チューブ2に巻かれたポリウレタン弾性繊維巻糸体1を図1の様に固定し、そこからポリウレタン弾性繊維3を、45.7m/minの一定速度で巻糸体1の側面から解舒する。その解舒された走行糸3を、ガイド4、セラミック製スロット・ガイド5を通過させ、張力計ローラー6で90度に屈曲した軌跡を描かせ、ローラー12に45.7m/minにてドライブし、90度に屈曲した軌跡を描かせ、サッカーガン13に吸引させる。フリーの張力計ローラー6は電気的な歪みゲージ7に接続されており、その電気信号は導線8を通じ、積分器9で平均化処理され、記録器11にそのデータを蓄積する。このテストは4分間行い、183mの糸道の平均張力を計測する。計測時の温度は25℃、60%RHにて実施する。計測する巻糸体の位置は、巻糸体表層、中央層、最内部層とする。
【0069】
ここで巻糸体表層とは巻糸体表面から約5グラムの糸を除去した所の層である。この理由は巻糸体表面の巻き上げのパターンを故意に変える場合があるからである。最内部層とは巻糸体に巻糸を約5gを残した所の層である。中央層とは巻糸体表層、最内部層の中間のところの層である。解舒張力を測定する巻糸体には、紡糸した後3ヶ月以上、約20℃にて保管したものを使用した。
【0070】
[スカム発生抑制性の評価]
巻糸体をミニチュア整経機に10本仕立て、25℃×65%RHの雰囲気下で糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドに対するスカムの脱落および蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
◎: スカムの付着がほとんどなかった。
○: スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はなかった。
×: スカムの付着および蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった。
【0071】
[実施例1]
分子量2900のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン、およびエチレンジアミンからなる重合原料から通常のプレポリマ法(末端停止剤としてジエチルアミンを配合)により重合を行い、ポリウレタン溶液(溶媒はN,N’−ジメチルアセトアミド(以下、DMACと略する。)、ポリウレタン濃度は35重量%)(A)を調製した。
【0072】
また、酸化防止剤として、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタン溶液(デュポン社製”メタクロール”(登録商標)2462)(B)と、p−クレゾ−ル及びジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製”メタクロール”(登録商標)2390)とを2対1(重量比)で混合し、酸化防止剤DMAc溶液(濃度35重量%)を調整し、これをその他添加剤溶液(C)とした。
【0073】
ポリウレタン溶液(A)とその他添加剤溶液(C)とをそれぞれを94重量%、6重量%の割合で均一に混合し、一旦、溶液(D)とした。
【0074】
別途、シリコーンオイル(S−1)100重量部と、アミノ変性シリコーン(M−1)2.0重量部とを混合してシリコーン混合物とした。ここで、シリコーンオイルには、無変性のポリジメチルシロキサンからなり、25℃における粘度が20×10-62 /Sであるシリコーンオイルを用いた。次に、シリコーン混合物100重量部に対し、ジステアリン酸マグネシウム塩17.5重量部を加えて25〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(T−1)とした。得られたスラリー状改質剤の組成及び特性を表1に示した。
【0075】
前記の溶液(D)に対し、スラリー状改質剤(T−1)をスタティックミキサーを用いるインジェクション法により、均一に混合し、紡糸原液とした。ここでの混合割合は、繊維中の改質剤含有量が4.0重量%となるような割合とした。
【0076】
得られた紡糸原液を紡糸口金の吐出孔(3個)から吐出し、加熱雰囲気中を通過させて溶媒を除去し、エアー交絡によって合着処理した後、油剤付与し、ゴデローラーと巻取機の速度比を1.20、巻取り速度を600m/分の条件で乾式紡糸を行い、3フィラメント22dtexのポリウレタン弾性繊維を長さ58mmの円筒状紙管上に巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェスドライブの巻取機を用いて巻き取り、500gの巻糸体を製造した。
【0077】
ここで紡糸油剤としては、シリコーンオイルを主成分とする通常の油剤を使用し、繊維に対して5.0重量%を付着させた。
【0078】
得られたポリウレタン弾性繊維は3フィラメントが合着した状態のものであり、その合着性は表2に示すとおり優れていた。紡糸性、巻糸体から解舒する際の解舒張力、ポリウレタン弾性繊維の強伸度特性、スカム発生抑制性を評価したところ、表2に示すとおり、いずれも良好であった。
【0079】
この実施例1で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が良好で、しかも、金属石鹸の平均粒子径も小さいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体の特に内層部の解舒張力の低減効果が大きく、各層ともに解舒張力が低くて解舒性に優れ、合着性も優れ、紡糸性にも優れ、スカムの付着が殆どないものであった。
【0080】
[実施例2]
スラリー状改質剤を調合する際、シリコーンオイル(S−1)100重量部に対するアミノ変性シリコーン(M−1)の量を6.0重量部と変更し、シリコーン混合物100重量部に対するジステアリン酸マグネシウム塩(M−1)の量を35.0重量部(実施例1の場合の2倍量)に変更した以外は実施例1の場合と同様に、20〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(T−2)とした。得られたスラリー状改質剤の組成および特性を表1に示した。
【0081】
このスラリー状改質剤(T−2)を用い、繊維中の改質剤含有量が2.0重量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであった。
【0082】
この実施例2で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が良好で、しかも、金属石鹸の平均粒子径も比較的に小さいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体の特に内層部の解舒張力の低減効果が大きく、各層ともに解舒張力が低くて解舒性に優れ、合着性も優れ、紡糸性にも優れ、スカムの付着が殆どないものであった。
【0083】
[実施例3]
スラリー状改質剤を調合する際、変性シリコーン成分をカルボキシアミド変性シリコーン(M−2)に変更した以外は実施例2の場合と同様にしてスラリー状改質剤(T−3)を調製した。得られたスラリー状改質剤の組成および特性を表1に示した。
このスラリー状改質剤(T−3)を用いた以外は、実施例2と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであった。
【0084】
この実施例3で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が良好で、しかも、金属石鹸の平均粒子径も比較的に小さいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体の特に内層部の解舒張力の低減効果が大きく、各層ともに解舒張力が低くて解舒性に優れ、合着性も優れ、紡糸性にも優れ、スカムの付着が殆どないものであった。
【0085】
[実施例4]
スラリー状改質剤を次の方法で調製した。
シリコーンオイル成分として、無変性のポリジメチルシロキサンからなり、25℃における粘度が20×10-32 /Sであるシリコーンオイル(S−2)を用い、また、変性シリコーン成分として、両末端ポリエーテル変性シリコーンを用いた。このシリコーンオイル(S−2)100重量部と、両末端ポリエーテル変性シリコーン(M−1)10重量部とを混合してシリコーン混合物とした。
【0086】
次に、シリコーン混合物100重量部に対し、ジステアリン酸マグネシウム塩70重量部を加えて25〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(T−4)とした。得られたスラリー状改質剤の組成及び特性を表1に示した。
【0087】
このスラリー状改質剤(T−4)を用い、繊維中の改質剤含有量が2.0重量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであった。
この実施例4で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が良好で、しかも、金属石鹸の平均粒子径も小さいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体の特に内層部の解舒張力の低減効果が大きく、各層ともに解舒張力が低くて解舒性に優れ、合着性も優れ、紡糸性にも優れ、スカムの付着が殆どないものであった。
【0088】
[比較例1]
実施例1で調製した溶液(D)を、スラリー状改質剤を添加することなくそのまま用い、これを紡糸原液とした。この紡糸原液を用いて実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであり、合着性は良好である物の、巻糸体での糸同士の膠着防止性が劣っていて、特に内層部の解舒張力が高く解舒性が不満足なものであった。また、スカム抑制効果も不十分であった。
【0089】
[比較例2]
シリコーンオイルを含有しないスラリー状改質剤を次の方法で調製した。
アミノ変性シリコーン(M−1)100重量部に対し、ジステアリン酸マグネシウム塩17.5重量部を加えて25〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(U−2)とした。得られたスラリー状改質剤の組成及び特性を表1に示した。
【0090】
このスラリー状改質剤(U−2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであり、合着性は良好である物の、巻糸体での糸同士の膠着防止性が劣っていて、特に内層部の解舒張力が高く解舒性が不満足なものであった。また、紡糸性が劣り、スカムの付着が多いという問題があった。
【0091】
[比較例3]
変性シリコーンを含有しないスラリー状改質剤を次の方法で調製した。
無変性のポリジメチルシロキサンからなり、25℃における粘度が20×10-62 /Sであるシリコーンオイル(S−1)100重量部に対し、ジステアリン酸マグネシウム塩35.0重量部を加えて25〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩がコロイド状に分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(U−3)とした。得られたスラリー状改質剤の組成及び特性を表1に示した。
【0092】
このスラリー状改質剤(U−3)を用い、繊維中の改質剤含有量が2.0重量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであり、
この比較例3で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が劣り、しかも、金属石鹸の平均粒子径も大きいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体からの解舒性は良好であったが、合着性に劣り、紡糸性も低く、スカム付着抑制にも問題があった。
【0093】
[比較例4]
シリコーンオイルを含有せずにハイドロタルサイトを含有するスラリー状改質剤を次の方法で調製した。
実施例1で使用したアミノ変性シリコーン(M−1)100重量部に対し、ジステアリン酸マグネシウム塩70重量部と合成ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製DHT−4A)70重量部とを加えて25〜35℃で均一になるまで混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕して固形分が分散された分散液を調製し、これをスラリー状改質剤(U−4)とした。得られたスラリー状改質剤の組成及び特性を表1に示した。
【0094】
このスラリー状改質剤(U−3)を用い、繊維中の改質剤含有量が1.0重量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。その結果は表2に示すとおりであり、
この比較例4で用いたスラリー状改質剤は、分散安定性が劣り、しかも、金属石鹸の平均粒子径も大きいものであった。また、得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体からの解舒性は比較的良好で、合着性もあったが、紡糸性が大きく劣り、スカムの付着が多いという問題があった。
【0095】
[比較例5]
実施例1で使用したジステアリン酸マグネシウム塩17.5重量部とDMAc100重量部とを25〜35℃で混合した後、横型ビーズミルを用いて湿式粉砕してジステアリン酸マグネシウム塩が分散された分散液(U−5)とした。この分散液(U−5)をスラリー状改質剤の代わりに用い、紡糸原液中に、繊維中の金属石鹸含有量が0.52重量%となるように配合した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体からの解舒性は良好であったが、紡糸性が大きく劣って連続紡糸が困難であった。しかも、合着性も大きく劣り、マルチフィラメントの単糸が容易に割れてしまう糸割れ現象が見られ、不満足なものであった。
【0096】
[比較例6]
実施例1で使用したアミノ変性シリコーン(M−1)を、スラリー状改質剤の代わりに用い、紡糸原液中に、繊維中の変性シリコーン含有量が0.07重量%となるように配合した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。得られたポリウレタン系弾性繊維は、巻糸体からの解舒張力が劣り、改質剤添加なしの比較例1と同様に解舒性が悪く、全く不満足のものであった。
【0097】
[比較例7]
実施例1で使用したシリコーンオイル(S−1)を、スラリー状改質剤の代わりに用い、紡糸原液中に、繊維中のシリコーンオイル含有量が1.40重量%となるように配合した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン系弾性繊維を製造し、評価した。得られたポリウレタン弾性繊維は、やはり、巻糸体からの解舒張力が劣り、改質剤添加なしの比較例1と同様に解舒性が悪く、全く不満足のものであった。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によるポリウレタン系弾性繊維は、強伸度特性、解舒性、合着性等に優れた特性を有することから、単独での使用はもとより、各種繊維との組み合わせにより、例えばソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、洋服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋や靴下をはじめとする各種繊維製品の締め付け材料、紙おむつ・紙おしめなどサニタニー品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなど、種々の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例において解舒張力を測定する際に用いた装置の概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1.ポリウレタン弾性繊維巻糸体、 2.チューブ、 3.走行糸、 4.ガイド、 5.スロット・ガイド、 6.張力計ローラー、 7.歪みゲージ、 8及び10.導線、 9.積分器、 11.記録器、 12.ローラー、 13.サッカーガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを、それぞれ、ポリウレタン繊維に対し0.1〜10重量%、0.01〜5.0重量%、0.05〜5.0重量%含有してなることを特徴とするポリウレタン系弾性繊維。
【請求項2】
2本以上のフィラメントが合着された状態の弾性繊維糸であることを特徴とする請求項1記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項3】
シリコーンオイルと変性シリコーンとの含有量合計100重量部に対し、金属石けんの含有量が5〜100重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項4】
シリコーンオイルと変性シリコーンとの含有量の重量比が、シリコーンオイル/変性シリコーン=(100/50)〜(100/0.5)の割合であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項5】
シリコーンオイルが、25℃における粘度が10×10-6〜10×10-12 /Sのシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項6】
変性シリコーンが、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、カルボキシアミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーンのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項7】
金属石けんが高級脂肪酸金属塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項8】
シリコーンオイル、変性シリコーン、及び金属石けんを混合してなる改質剤をポリウレタン紡糸原液に添加した後、乾式紡糸することにより請求項1記載のポリウレタン系弾性繊維を製造することを特徴とするポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【請求項9】
改質剤が、シリコーンオイル及び変性シリコーンからなるシリコーン混合物中に金属石けんがコロイド状に分散されたスラリー状であることを特徴とする請求項8に記載のポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【請求項10】
乾式紡糸工程において、口金から紡出された2本以上のフィラメントを合着処理した後に巻き上げることを特徴とする請求項8又は9に記載のポリウレタン系弾性繊維の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−100248(P2007−100248A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292004(P2005−292004)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】