説明

ポリウレタン組成物及びその製造方法、表面保護フィルム用粘着剤、並びに表面保護フィルム

【課題】 帯電防止性と透明性に優れたポリウレタン組成物、表面保護フィルム用粘着剤、また該組成物を含む層を有してなる表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】 ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有するか、又は、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物であって、前記アニオン1モルに対して前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下含むポリウレタン組成物及びその製造方法、表面保護フィルム用粘着剤、並びに表面保護フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性を有するポリウレタン組成物及びその製造方法、表面保護フィルム用粘着剤、並びに表面保護フィルムに関し、詳しくは光学分野、医療分野等に好適に用いられる帯電防止性を有するポリウレタン組成物及びその製造方法、表面保護フィルム用粘着剤、並びに表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高い帯電防止性を有するポリウレタン、または粘着剤に関する要求が高まっており、多くの研究がなされている。例えばアルキル硫酸第4級アンモニウム塩及びトリフルオロメタンスルホン酸塩を含有したポリウレタン(例えば、特許文献1を参照)や、塩酸塩や過塩素酸塩等のイオン化合物を含有した粘着剤(例えば、特許文献2を参照)が提案されている。
【0003】
しかしこれらの方法では帯電防止性が必ずしも十分とは言えず、また透明性が悪くなる傾向があるため、適用する用途が限定されてしまい、例えば光学分野、医療分野等の表面保護フィルム用としては使用しにくいという問題があった。
また一般に、高速で剥離可能な軽粘着剤は特に帯電が生じやすい傾向があるが、最近、このような軽粘着剤に対して帯電防止性が求められる機会が増え、現在の性能では必ずしも十分と言えなくなってきた。
【0004】
そこで、リチウム塩を含有するウレタン系粘着剤が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、一般にリチウム塩は有機溶媒への溶解性および溶媒中での解離性に難があり、帯電防止性が発現されにくい。特に塩を構成する陰イオンの半径が小さい場合、イオン結合性が大きいために帯電防止性が十分に発現されないという欠点がある。そのため、実際に使用できるリチウム塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CF3SO22N)等の、陰イオン半径の大きい塩に限られていた。なかにはLiBr等の陰イオン半径の小さい塩を大量に添加して帯電防止能を発現させる方法もあるが、変色や粘着性能への悪影響が指摘されている。
【特許文献1】特開2000−103958
【特許文献2】特開2003−342548
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、粘着性能を損なうことなく高い帯電防止性と透明性が得られるポリウレタン組成物とその製造方法、本組成物を含む表面保護フィルム用粘着剤、及び本組成物を含む粘着剤層を積層してなる表面保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、粘接着剤組成として比較的極性の高いウレタン樹脂を用い、特定の多原子イオンを構成イオンとする塩、または特定のアニオンを生成可能な塩および塩と相互作用する特定の化合物の組合せからなる混合物を配合することにより、上記課題を解決することを見出し本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有するか、又は、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物であって、前記アニオン1モルに対して前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下含むことを特徴とするポリウレタン組成物に存する。
【0007】
本発明のポリウレタン組成物は、ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有する。又は、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有する。好ましくは後者である。より好ましくは、イオン化合物とルイス酸性化合物とを混合した後、これをポリウレタンと混合する。
【0008】
イオン化合物は、金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩であることが好ましく、より好ましくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩であり、更に好ましくはアルカリ金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩であり、特に好ましくはリチウム塩及び/又はアンモニウム塩であり、最も好ましくはリチウム塩である。なお本発明において「及び/又は」とは両者を単独使用するかまたは併用することを言う。イオン化合物は、ポリウレタン1kgあたり0.0005モル以上、2モル以下含まれることが好ましい。
【0009】
ルイス塩基性を呈するアニオンは、好ましくはハロゲンイオンである。ルイス酸性化合物は、好ましくはホウ素を含む化合物であり、より好ましくは三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯化合物である。
ポリウレタンは、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオール由来の単位を含んでなることが好ましい。ポリウレタンは通常、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られる。なお、ポリエチレンオキサイド鎖を含むポリオール化合物を用いたポリウレタンは吸湿性をもちやすい傾向があるため、水分を含みやすい水分の多い環境や、逆に水分を含むことが好ましくない水気を嫌う環境など、水分管理を厳密に行いたい用途に本発明のポリウレタン組成物を用いる場合には、ポリオール化合物としてはポリエチレンオキサイド鎖を含まないものを用いるのが好ましい。
【0010】
本発明の別の要旨は、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物の製造方法であって、前記アニオンを構成イオンとするイオン化合物1モルに対して、前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下混合した後、ポリウレタンと混合することを特徴とするポリウレタン組成物の製造方法に存する。
【0011】
本発明の更に別の要旨は、これらのポリウレタン組成物を含む表面保護フィルム用粘着剤に存する。
本発明の更に別の要旨は、これらのポリウレタン組成物を含む粘着剤層を、基材の少なくとも片面に積層してなる表面保護フィルムに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い粘着性能と帯電防止性と透明性を両立するポリウレタン組成物、および表面保護フィルム用として優れたポリウレタン粘着剤を提供でき、更に該ポリウレタン組成物を含む層を持つ表面保護フィルムを提供できる。
従って、帯電防止性と透明性を兼ね備えるので光学分野、医療分野等を含む広い用途の表面保護フィルムとして使用できる利点がある。また高い粘着性能と帯電防止性を有するので、高速剥離性が求められる分野の軽粘着剤としても使用できる利点がある。なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリウレタン組成物は、ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有するか、又は、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物であって、前記アニオン1モルに対して前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下含む。
【0014】
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを用いると帯電防止能が高まる理由は正確には明らかでないが、概ね以下のように推定される。即ち通常のアニオンを用いた場合に比べ、本発明に係わる多原子アニオンはルイス塩基とルイス酸の電子対の授受によりアニオンとしての溶解性が向上し、そのためカチオンの運動性が向上し、帯電防止能が大きく改良されると考えられる。より詳しくは、ルイス酸性化合物の非共有電子対受容能によって多原子アニオンのイオン結合性が弱められ、解離しやすさが格段に高まるため、ポリウレタン組成物にこの多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有させるとイオン化合物は十分に解離し、高い帯電防止性能を与えると推定される。
【0015】
また、本発明者らの検討によれば、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを配合することによっても、ポリウレタン組成物の帯電防止性能が顕著に高まる。つまりこの組合わせでも、ポリウレタン組成物中に上記の多原子イオンが生成していると推定される。
【0016】
なお多原子イオンは、ポリウレタン組成物中で実際に錯形成により生成しているか否かは問わず、ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とから錯形成されうる構造であればよい。
ルイス塩基性を呈するアニオンは、電子対を供与しうるアニオンであれば種類は特に限定されないが、例えばフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、及びヨウ素イオン等のハロゲンイオン;アセテートイオンなどのカルボン酸の共役塩基;メトキシイオン、エトキシイオンなどのアルコキシ塩の共役塩基;パラトルエンスルホン酸塩などの有機スルホン酸塩の共役塩基;等が挙げられる。アニオンは1種を単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、電子供与性が高く入手も比較的容易であるハロゲンイオンから選ばれる1種又は2種以上のアニオンである。
【0017】
ルイス酸性化合物は、電子対を受容することが出来る化合物であれば種類は特に限定されないが、例えば、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、リン、亜鉛、ガリウム、砒素、インジウム、錫、アンチモン、鉛、ビスマス、及び、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、及びニオビウム等の遷移金属の、ハロゲン化物、アルキル化物、アルコキシ化物、アルカノエート化物、及び有機スルホネート化物等が挙げられる。
【0018】
ハロゲン化物を形成するためのハロゲンとしてはフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。アルキル化物を形成するためのアルキルとしては例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜20程度のアルキルが挙げられる。アルコキシ化物を形成するためのアルコキシとしては例えばメトキシ、エトキシが挙げられ、アルカノエート化物を形成するためのアルカノエーととしては、アセテート、プロピオネート、ブチレートが挙げられる。有機スルホネート化物を形成するための有機スルホネートとしては、例えばパラトルエンスルホネート等が挙げられる。
【0019】
具体的には、BF3、BCl3、SbCl5、SbF5、AsF5、PF5、SnCl4、AlBr3、AlCl3、FeCl3、TiCl4、ZnCl2、トリアルキルホウ素、トリアルキルアルミニウム、テトラアルキル錫、等が挙げられる。
また、酸素などのドナー原子を含む化合物、例えば、エーテル、アルコール、エステル、アミン等の基を有する錯体も好ましく用いられる。具体的にはBF3・(C252O(三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ボロントリフルオライドジエチルエテラート)等のBF3錯化合物が挙げられる。
【0020】
ルイス酸性化合物として好ましくは、水に比較的安定な化合物である、ホウ素含有化合物を用いる。より好ましくはBF3又はBF3錯化合物であり、特に好ましくはBF3又はBF3・(C252Oである。ルイス酸性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンとしては特に限定されないが、例えば上述のルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物との組合せにより得られる多原子イオンが挙げられる。
【0021】
例えば、BF4-、(Br・BF3-、(Cl・BF3-、PF6-、(Br・PF5-、(Cl・PF5-、AsF6-、(Br・AsF5-、(Cl・AsF5-、SbF6-、(Br・SbF5-、(Cl・SbF5-、AlBr4-、BCl4-、SbCl6-、SnCl62-、AlCl4-、FeCl4-、TiCl62-、ZnCl42-、(Br・Al(CH33-、(OCH3・BF3-、(OCOCH3・BF3-、(OCOCH3・AlCl3-、(CH364SO2・BF3-等が挙げられる。なかでも好ましくは、水に比較的安定なホウ素含有化合物と電子供与性が高いハロゲンイオンの組合わせであり、より好ましくはBF4-、(Br・BF3-又は(Cl・BF3-であり、特に好ましくはBF4-又は(Br・BF3-である。多原子イオンは、1種単独でもよいし2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明においては、ポリウレタン組成物に、ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有させる。或いは、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物を含有させる。
多原子イオンが予め形成されてイオン化合物中に存在している状態でポリウレタン組成物に添加してもよいし、組成物製造時に、ルイス塩基性を呈するアニオンを含むイオン化合物とルイス酸性化合物とを別途配合することによって、多原子イオンが形成されうる状態にしてもよい。
【0023】
多原子イオンを予め含むイオン化合物は種類が少ないこと、アニオンとルイス酸性化合物の組合せおよび配合比を要求性能や要求コストによって制御できること、等の点で、後者の別途配合が好ましい。これによれば、単独では解離が不十分なイオン化合物にルイス酸性化合物を組み合わせることで、解離性を高めることができ帯電防止効果が格段に高まる利点がある。
【0024】
配合順序や配合方法は特に問わないが、好ましくは、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物とルイス酸性化合物とを混合した後、ポリウレタン等のその他成分と混合する。
なお高濃度のルイス酸性化合物のみをポリウレタンと直接接触させるのは避けるのが望ましい。ルイス酸性化合物がポリウレタンと接触すると、ポリウレタンの主骨格、例えばポリエーテル構造等に作用し、ポリウレタン組成物の諸特性、例えば、透明性、硬化反応の遅延、粘弾特性等に悪影響を及ぼす虞があるためである。ルイス酸性化合物の量が比較的多い場合は特に、アニオンとルイス酸性化合物を予め混合させておくことが望ましい。
【0025】
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物の量は、帯電防止効果が得られ、かつポリウレタン組成物の粘着力など諸特性に大きな悪影響を及ぼさない範囲であればよいが、好ましくはルイス酸性化合物の量を、ルイス塩基性を呈するアニオン1モルに対して通常0.01モル当量以上とする。イオン性化合物を解離しやすくし帯電防止効果を十分得るためである。より好ましくは0.02モル当量以上であり、更に好ましくは、0.03モル当量以上である。ただし、ルイス塩基性を呈するアニオン1モルに対して通常1.05モル当量以下とするのが好ましい。ポリウレタン組成物の粘着力など諸特性に大きな悪影響を及ぼさないためである。より好ましくは、1.02モル当量以下であり、更に好ましくは1.00モル当量以下である。
【0026】
なおルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物を用いる場合は、上記説明中、ルイス塩基性を呈するアニオンの量をイオン化合物の量と読み替えればよい。
イオン化合物は、通常、塩(えん)とも呼ばれるが、プラスイオンを持つ物質とマイナスイオンを持つ物質が安定を求めて化合したものをいう。
【0027】
本発明で用いうる、多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物としては、発明の目的を逸脱しない限り任意のものを用いうるが、例えば前述の多原子イオンの金属塩又は有機塩等である。例えばLiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6などである。
ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物としては、発明の目的を逸脱しない限り任意のものを用いうるが、例えば前述のルイス塩基性を呈するアニオンの金属塩又は有機塩等である。例えばLiBr、LiCl、LiF、NH4Cl、NH4Br等である。
【0028】
より詳しくは、有機塩類としては、アンモニウム塩;テトラメチルアンモニウム塩、トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩類;1−ヘキサデシルピリジニウム塩、n−ブチルピリジニウム塩等のピリジニウム塩類;イミダゾール塩などが挙げられ、金属塩類としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0029】
有機塩のなかでは、移動度の高いカチオンを有する点でアンモニウム塩が好ましい。
金属塩においても、より価数が小さい1〜2価のカチオンを有することが好ましく、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属塩、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムのアルカリ土類金属塩が好ましく、より好ましくは、より価数が小さい1価のイオンを有するアルカリ金属塩である。更に好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩であり、特に好ましくは、プロトン以外で最も移動度が高いリチウムイオンを有するリチウム塩である。
【0030】
以上を総合して特に好ましくはリチウム塩及び/又はアンモニウム塩であり、最も好ましくはリチウム塩である。
イオン化合物やルイス酸性化合物をポリウレタン組成物に混合する際は、任意の溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよい。
ポリウレタン組成物へのイオン化合物の配合量は、帯電防止効果が得られ、かつポリウレタン組成物の粘着力など諸特性に大きな悪影響を及ぼさない範囲であれば特に限定されないが、高い帯電防止性能を得るためには通常、イオン化合物がポリウレタン1kgあたり0.0005モル以上配合されることが好ましい。より好ましくは0.0007モル以上である。ただし高い透明性が要求される場合にはポリウレタンとの相溶性を良く保つために通常、ポリウレタン1kgあたり2モル以下配合されることが好ましい。より好ましくは1モル以下である。イオン化合物は1種単独でもよいし2種以上を併用してもよい。
【0031】
なおイオン化合物の配合量とは、多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を用いる場合にはその化合物の配合量を、ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物とルイス酸性化合物とを配合する場合には、イオン化合物およびルイス酸性化合物の合計配合量を示す。
ポリウレタンは通常、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを用いて製造することができる。本発明のポリウレタン組成物は、硬化されていても、されていなくてもよい。
【0032】
上記配合量の計算の際、ポリウレタンの量は通常、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、及びそれらの反応物の合計量であり、溶剤は除外される。通常は主剤と硬化剤の合計量として求められる。
ポリオール化合物としては、本発明の目的を著しく損なわないものであれば種類は特に限定されず使用できるが、例えば、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールが挙げられる。また、これらポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応物であるポリウレタンポリオールや、多価アルコールのポリエーテル付加物等も挙げられる。ポリウレタンはポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオール由来の単位を含んでなること、即ちポリエーテル構造やポリエステル構造を持つことが好ましい。
【0033】
ポリエーテルポリオールとしては、メチレンオキサイド鎖、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖、ブチレンオキサイド鎖等のアルキレンオキサイド鎖の繰り返し構造をそれぞれ単独で、あるいは2種類以上有するものが使用できる。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の開環重合やグリコール成分の重縮合によって得られる。メチレンオキサイド鎖をもつものは環状アセタールの開環重合などで得られる。
【0034】
グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール等が挙げられる。
【0035】
ポリエステルポリオールは、例えば、酸成分と、グリコール成分又はポリオール成分とのエステル化反応によって得ることができる。酸成分としては例えばテレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等のカルボン酸類及び無水カルボン酸類が挙げられる。グリコール成分は上述と同様のものを用いうる。
【0036】
またポリエステルポリオールは、ポリカプロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)、ポリバレロラクトン等のラクトン類を開環重合することによっても得られる。
3官能以上のポリオール化合物としては例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ヘキサントリオール、ポリプロピレングリコール、等が挙げられる。
【0037】
なお、ポリエチレンオキサイド鎖を含むポリオール化合物を用いたポリウレタンは吸湿性をもちやすい傾向があるため、水分を含みやすい水気の多い環境や、逆に水分を含むことが好ましくない水気を嫌う環境など、水分管理を厳密に行いたい用途に本発明のポリウレタン組成物を用いる際は、ポリオール化合物としてはポリエチレンオキサイド鎖を含まないものを用いるのが好ましい。
【0038】
本発明では直鎖状、分岐構造等の各種ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールを広く使用することができる。また、分子中あるいは分子末端にイソシアネート基と反応可能な官能基を有していてもよい。使用するポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールの分子量に特に制限はないが、好ましくは数平均分子量が100〜10000の範囲である。数平均分子量は例えばGPCなどを用いて測定できる。
【0039】
本発明においては、超強酸塩が解離することにより生成するイオン(カチオン)が、最終生成物であるポリウレタン架橋体のミクロブラウン運動によって運ばれることにより、導電性が強く発現すると考えられる。このため運動性の高いポリエーテル鎖を含む、ポリエーテルポリオール成分を含むことが望ましい。
またポリウレタン組成物のガラス転移温度が使用条件である室温(通常、25℃)よりも低いことが好ましい。通常、ガラス転移温度が低いとポリウレタン架橋体のミクロブラウン運動性が高い傾向がある。
【0040】
ポリウレタン組成物のガラス転移温度を低くするには、使用するポリオール成分の分子量を大きくすること、又はポリオール成分の配合量を増やすことが好ましい。ただし、ポリオール成分の分子量が大きすぎると、又はポリオール成分の配合量が多すぎると、ポリウレタン組成物の粘度が高くなる傾向があり、塗工性が悪化したり、組成物の硬化が不十分となり膜の強度が低下したりする場合がある。ひいては本組成物を粘着剤として使用した場合、凝集破壊して剥離時の粘着剤残り(糊残り)の原因となる場合がある。
【0041】
従って、使用するポリオール化合物の種類や分子量は、組成物の使用形態や望まれる特性、他の成分に応じて適宜選択することが望ましい。ポリオール化合物は1種単独でもよいし2種以上を併用してもよい。
ポリイソシアネート化合物としては、本発明の目的を著しく損なわないものであれば種類は特に限定されず使用できる。ジイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。なお本発明において脂肪族とは、直鎖または分岐の鎖状のものを言い、脂環族を含まない。
【0042】
芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等が挙げられる。
【0043】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0044】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネートメチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4’−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0045】
なかでも好ましく用いられるのは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)等である。
3官能のポリイソシアネート化合物は、例えばジイソシアネート化合物を反応させて形成することができる。3官能のイソシアネート化合物の形成に供されるジイソシアネート化合物としては、例えば上述のジイソシアネート化合物を用いることができ、これから形成されるトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュレット体、イソシアヌレート環を有する3量体を使用することができる。好ましくは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)等のジイソシアネートから形成されたビュレット体が好ましい。
【0046】
ただし使用するポリイソシアネート化合物の種類や分子量は、組成物の使用形態や望まれる特性、他の成分に応じて適宜選択することが望ましい。ポリイソシアネート化合物は1種単独でもよいし2種以上を併用してもよい。
本発明のポリウレタン組成物は、硬化されていても、されていなくてもよい。通常、硬化させる場合には、3官能以上のポリイソシアネート化合物又は3官能以上のポリオール化合物を添加することにより行う。ポリウレタン組成物の末端官能基としてイソシアネート基が過剰であれば3官能以上のポリオール型の硬化剤を用い、水酸基が過剰であれば3官能以上のポリイソシアネート型の硬化剤を用いればよい。硬化方法は特に問わず、例えば後述の3級アミン化合物、有機金属化合物等の触媒を添加して反応を進行させてもよいし、特に触媒を添加せず、大気中の水分により湿気硬化させてもよい。
【0047】
ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の量は化合物の種類や他の条件に応じて適宜決定すればよいが、通常、架橋を十分にし凝集力を高めるためにはイソシアネート基モル当量1に対して水酸基モル当量が1.5以下となるよう配合することが好ましい。ただし、イソシアネート基モル当量1に対して水酸基モル当量が0.8以上となるよう配合することが好ましい。水酸基に対してイソシアネート基の量を上記適度の範囲とすることで、イソシアネート基が加水分解して表面に硬いウレアが生成する虞が小さくなる。表面に硬いウレアがあるとイオン化合物のカチオンが動きにくくなり、帯電防止性能が低下する場合がある。
【0048】
本発明のポリオール化合物とイソシアネート化合物のウレタン化反応の方法としては種々の方法が可能であるが、例えば1)全量仕込みで反応する方法、2)ポリオールと触媒をフラスコに仕込みイソシアネート化合物を逐次添加する方法、が挙げられる。操作の容易さからは1)が好ましく、反応系の粘度を低く抑えたい場合や、反応を精密に制御したい場合は2)が好ましい。
【0049】
ウレタン化反応の反応温度は、化合物の種類や他の条件に応じて適宜決定すればよいが、反応速度や分子量、分子構造を制御しやすくするためには通常120℃以下が好ましい。より好ましくは110℃以下とする。ただし、反応速度を速めたい場合には通常60℃以上とし、好ましくは70℃以上とする。また、他の諸条件にもよるが、70〜110℃で触媒の存在下であれば、ウレタン化反応時間は1時間〜20時間程度が好ましい。
【0050】
本発明のウレタン化反応触媒としては、特に限定することなく使用することができる。例えば3級アミン化合物、有機金属化合物等が挙げられる。これらは複数種を併用してもよい。
3級アミン化合物としては例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)等が挙げられる。
【0051】
有機金属化合物としては錫系化合物、非錫系化合物を挙げることができる。錫系化合物としては、例えばジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキサイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2−エチルヘキサン酸錫等が挙げられる。
【0052】
非錫系化合物としては、例えばジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライドなどのチタン系、オレイン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛などの鉛系、2−エチルヘキサン酸鉄、鉄アセチルアセトネートなどの鉄系、安息香酸コバルト、2−エチルヘキサンコバルトなどのコバルト系、ナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン亜鉛などの亜鉛系、ナフテン酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0053】
本発明のポリウレタン組成物は溶剤を含んでいてもよい。例えば上記ウレタン化反応の溶剤や、イオン化合物やルイス酸性化合物の溶剤が含まれうる。溶剤の種類は特に限定されないが、例えばメチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、アセトン、DMF(ジメチルホルムアミド)等が挙げられる。ウレタン化反応の溶剤としては、ポリウレタンの溶解性、溶剤の沸点等の点から、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンが好ましく使用される。
【0054】
本発明のポリウレタン組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、必要に応じて任意の他の樹脂や添加剤を添加してよい。樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、等が挙げられる。
添加剤としては、例えばロジン、ロジンエステルのような粘着付与剤、スメクタイト、カオリン、タルク、マイカ、スメクタイト、バーミキュライト、パイロフィライト、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤、難燃剤、加水分解防止剤、等が挙げられる。また、ポットライフ延長剤として触媒のブロック剤を含んでいてもよい。
【0055】
触媒ブロック剤として働く物質には、触媒の中心金属と錯体を形成して反応性空軌道を塞ぐキレート化合物や、不可逆的な触媒毒として作用する硫黄系の化合物等がある。なかでも、ブロック作用が可逆的であり触媒活性の再生が可能であることからキレート化合物が好ましく用いられる。キレート化合物としては、アセチルアセトン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンなどの1,3−ジケトン化合物、アセト酢酸アルキルエステルなどの3−ケトエステル化合物、マロン酸ジアルキルなどのマロン酸ジアルキル化合物、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミンなどのポリアミン化合物、クラウンエーテル類などのポリエーテル化合物、等が挙げられる。なかでも、有機溶剤への溶解性や、必要に応じて除去が可能な沸点を有していることから、アセチルアセトンが特に好ましい。
【0056】
ポリウレタン組成物中のポリウレタンの量は特に限定されないが、溶剤を除く全重量の、通常は50wt%以上、好ましくは70wt%以上、より好ましくは80wt%以上、更に好ましくは90wt%以上である。
本発明に関わるポリウレタン組成物は、塗工や混練など公知の様々な手法によって、衣料品、靴底、床材、容器等特の種々の用途に限定なく使用できる。例えば、プラスチックフィルム、プラスチックシート、ポリウレタン、紙、ポリウレタン発泡体等の基材に塗工されて種々の用途に用いることができる。例えばプラスチックフィルムに塗工して、テープ、ラベル、シール、化粧用シート、滑り止めシート、両面粘着テープ、表面保護フィルム等として使用できる。また、同種又は異種の基材同士を貼り合わせてなる積層体の、粘着剤層としても用いることができる。
【0057】
なかでも好ましい用途として表面保護フィルム用粘着剤がある。本発明のポリウレタン組成物を含む表面保護フィルム用粘着剤をプラスチックフィルム等の基材の少なくとも片面に塗工し積層することで、表面保護フィルムが得られる。表面保護フィルム用粘着剤中のポリウレタン組成物の量は特に限定されないが、溶剤を除く全重量の通常50wt%以上、好ましくは70wt%以上、より好ましくは80wt%以上、更に好ましくは90wt%以上である。
【0058】
また粘着剤層中のポリウレタン組成物の量は特に限定されないが、溶剤乾燥後の全重量の通常50wt%以上、好ましくは70wt%以上、より好ましくは80wt%以上、更に好ましくは90wt%以上である。
ポリウレタン組成物を含む粘着剤層の基材として剥離シートを用いた場合には、塗布・乾燥後にプラスチックフィルムなどに転写したり、貼り合わせたりすることもできる。
【0059】
基材の種類は特に問わないが、例えばプラスチックフィルムが挙げられる。プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ナイロン、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。更にこれらが共押出されたり、予めラミネートされたりした複合多層フィルムも含まれる。これらのフィルムは延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性を有するものが好ましいことから、ポリエステル、ポリアミドを主材料とした単層あるいは複合フィルムで、二軸方向に延伸されたものが特に好ましく用いられる。また、光学分野では、透明なプラスチックフィルムが好ましく用いられる。
【0060】
これらの基材フィルムは、既存の種々の添加剤や安定剤を含んでいてもよい。例えば可塑剤、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤などである。さらにコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理などの表面処理が施されていてもよく、また種々のアンカーコート剤、濡れ剤、帯電防止剤などが予め塗布されていてもよい。
前記表面保護フィルム用基材フィルムの厚みは特に制限されるものではないが、実用性を考慮すると扱いやすさや表面保護能力の観点から通常3μm以上であり、好ましくは6μm以上である。ただし柔軟性やコストの点から通常200μm以下であり、好ましくは100μm以下である。
【0061】
粘着剤層の乾燥時厚さは特に制限されるものではないが、粘着剤としての物性を十分に発揮させるには通常1μm以上とする。また、導電性の面からは、厚みが増すほど、粘着剤層中に存在するイオン濃度が増し、導電性能は向上する。ただし乾燥効率を高め生産性を向上させること、粘着性能に悪影響を及ぼす残留溶剤量を低減させること、といった観点からは乾燥時厚さは通常100μm以下とする。従って目的とする用途に応じて、粘着剤層の厚さを適宜選択すればよい。
【0062】
また、乾燥後の塗膜は光学的透明性を有していることが好ましい。この光学的に透明であるというのは、一般に、目視で観察してわずかに霞んでいる程度より透明であることを意味しており、特に好ましいのは無色透明である。
本発明のポリウレタン組成物を基材上に塗布する際には、公知の塗工法を用いることができる。すなわち例えば、ロールコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート等である。これらの塗工方式を用いて、基材の片面あるいは両面にポリウレタン粘着剤を塗布する。各々の塗工法で最適粘度が異なるため、方法に応じて溶剤を加えて適宜組成物の粘度を調節するのが好ましい。
【0063】
乾燥方法は一般的に使用される公知の方法を用いることができるが、例えば熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等が挙げられる。乾燥温度は特に制限されないが、乾燥速度を速くしたい場合には好ましくは50℃以上であり、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上である。ただし基材の劣化を抑え色調変化を避けるためには、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。基材として熱可塑性樹脂を使用するため、乾燥温度はその融点以下であることが望ましい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で使用した材料、および評価方法は以下に示す通りである。以下、「wt%」は「質量%」を表す。
<原材料>
1)主剤(A)
A−1:市販のポリエーテル/ポリエステル系ウレタン粘着剤主剤(東洋インキ製造製「サイアバインSH101」)。 溶剤を除く固形分は60wt%であった。
【0065】
A−2:攪拌機、環流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた四口フラスコに、2官能ポリエチレングリコール(和光純薬工業製、1級試薬)14.43gとトルエン69.08gを仕込み、これにイソホロンジイソシアネート(和光純薬工業製、1級試薬)16.04g、トルエンに10wt%で調製したジオクチル錫ジラウレート(日東化精製、U−810)0.25gを、それぞれ均一になるまで攪拌してから、順次、添加し、その後30分かけて60℃まで昇温させ、60℃で1時間反応させた。
【0066】
次にフラスコを放冷し、トルエン50.0g、3官能ポリプロピレングリコール(第一工業製薬製、数平均分子量3000(公称値))216.49g、トルエンに10wt%で調製したジオクチル錫ジラウレート1.00gを、それぞれ均一になるまで攪拌してから、順次、添加した。その後、再度、30分かけてフラスコを90℃まで昇温させ、90℃で2時間反応させた。赤外分光光度計で、残存NCO基が完全に消えたことを確認した。
【0067】
再度、フラスコを放冷し、トルエン150.0g、ヘキサメチレンジイソシアネート(和光純薬工業製、1級試薬)3.03gの順で加え、均一になるまで攪拌させた後、30分かけて90℃まで再び昇温させ、90℃にて2時間反応した。赤外分光光度計で残存NCO基を確認し、完全に消えたところで反応を終了し、冷却した。この反応溶液はほぼ透明で粘度550mPa・s(温度25℃)、固形分50.0wt%であった。これを主剤溶液A−2とした。
【0068】
2)硬化剤(B)
B−1:脂肪族系多官能イソシアネート(東洋インキ製造製「サイアバインT−501B」) 固形分は75wt%であった。
B−2:脂肪族系多官能イソシアネート(三菱化学製「マイテックNY710A」) 固形分は75wt%であった。
【0069】
3)イオン化合物(C)
C−1:リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4、シグマアルドリッチ製、純度98%)
分子量93.75
C−2:リチウムブロマイド(LiBr、シグマアルドリッチ製、純度99%)
分子量86.85
C−3:アンモニウムクロライド(NH4Cl、シグマアルドリッチ製、純度99.5%)
分子量51.48
4)ルイス酸性化合物(D)
D−1:ボロントリフルオライドジエチルエテラート(BF3・(C252O、シグマアルドリッチ製、精製品)
【0070】
<評価方法>
1、塗工方法
主剤溶液(A)、硬化剤(B)、イオン化合物(C)、アセトンと、必要に応じてルイス酸性化合物(D)を所定の配合比で、所定の順序で混合し、攪拌子を用いて70rpmで30分間、均一になるまで攪拌し、ポリウレタン粘着剤組成物溶液とした。これを、基材であるPETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム製「T100−38」、厚み38μm)上に、乾燥塗膜の厚みが10μm±2μmとなるようにアプリケーターで塗工し、120℃で1分間、セーフベンにて乾燥し、粘着剤層を片面に有する粘着シートを作成した。粘着剤層の厚みは10μmであった。シリコンセパレーター(三菱化学ポリエステルフィルム製「MR25」)を粘着シートの粘着剤面に貼り合わせ、2kgのロールで一往復加重して圧着し、40℃で3日間、状態調節したものを評価用積層体サンプルとした。
【0071】
2、評価方法
1)光学特性:上記の粘着剤を塗工した粘着シートの透明性を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
○:無色透明
△:わずかに霞んでいる
×:白濁している
【0072】
2)帯電圧及び除電時間:上記の粘着剤を塗工した粘着シートを4cm四方に切り取り、スタチックオネストメーター(宍戸商会製「TYPE S−5109」)を用いて、湿度50%RHの恒温室内で、155rpm回転状態で、10kVの印加電圧を2分間かけた後の電圧(帯電圧)と、帯電圧が0kVになる時間(除電時間)を3分間まで測定した。3分間で0kVにならない場合は、「減衰せず」と記した。
3)粘着力:上記の評価用積層体サンプルからシリコンセパレーターを剥離した時の粘着力を剥離試験器で(180度ピール条件)測定した。測定条件は温度23℃、湿度65%RH、剥離速度を30m/minとした。
【0073】
(実施例1、比較例1)
表−1に示すイオン化合物(C)をアセトン3mlに溶解し、同じく表−1に示す主剤(A)、硬化剤(B)を加え、前述の塗工方法に従って基材PETフィルムに塗布、乾燥して粘着シートを作成し、前述の評価項目に従って評価した。透明性、帯電圧、除電時間、及び粘着力の評価結果を表−1に示す。
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成される多原子イオンからなる陰イオンを含む実施例1に比べ、含まない比較例1は帯電圧が高く、除電時間も非常に長く、ともに劣る結果が得られた。
なおC−1(LiBF4)は、ルイス塩基性を呈するアニオン1モルに対してルイス酸性化合物を1モル当量含むものと解される。
【0074】
(実施例2、3、比較例2、3)
表−1に示すルイス酸性化合物(D)をアセトン1mlに溶解し、アセトン2mlに溶解した同じく表−1に示すイオン化合物(C)に加えた後、同じく表−1に示す主剤(A)、硬化剤(B)を加えた以外は実施例1と同様の操作を行った。透明性、帯電圧、除電時間、及び粘着力の評価結果を表−1に示す。
比較例2は、ルイス酸性化合物(D)がイオン化合物(C)に対して0.001モル当量と少なすぎるため、帯電圧が高く、除電時間も非常に長く、ともに劣る結果が得られた。
逆に比較例3は、ルイス酸性化合物(D)がイオン化合物(C)に対して1.1モル当量と過剰なため、粘着力が大きく増加し、粘着剤残りが発生してしまった。
【0075】
(実施例4)
表−1に示すルイス酸性化合物(D)をアセトン1mlに溶解し、DMF2mlに溶解した同じく表−1に示すイオン化合物(C)に加えた後、同じく表−1に示す主剤(A)、硬化剤(B)を加えた以外は実施例1と同様の操作を行った。透明性、帯電圧、除電時間、及び粘着力の評価結果を表−1に示す。
イオン化合物(C)としてアンモニウムクロライドを用いた実施例4は、実施例1〜3よりやや劣るが耐電圧、除電時間、粘着力ともに実用範囲内であった。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
上述のように、本発明によれば、高い粘着性能と帯電防止性と透明性を両立するポリウレタン組成物、および表面保護フィルム用として優れたポリウレタン粘着剤を提供でき、更に該ポリウレタン組成物を含む層を持つ表面保護フィルムを提供できる。
従って、帯電防止性と透明性を兼ね備えるので光学分野、医療分野等を含む広い用途の表面保護フィルムとして有用である。また高い粘着性能と帯電防止性を有するので、高速剥離性が求められる分野の軽粘着剤としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有するか、又は、
ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物であって、
前記アニオン1モルに対して前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下含むことを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項2】
ルイス塩基性を呈するアニオンとルイス酸性化合物とにより錯形成されうる多原子イオンを構成イオンとするイオン化合物を含有する、請求項1に記載のポリウレタン組成物。
【請求項3】
ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有する、請求項1に記載のポリウレタン組成物。
【請求項4】
前記イオン化合物と前記ルイス酸性化合物とを混合した後、ポリウレタンと混合することにより製造されてなる、請求項3に記載のポリウレタン組成物。
【請求項5】
前記イオン化合物が、金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項6】
前記イオン化合物が、アルカリ金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項7】
前記イオン化合物をポリウレタン1kgあたり0.0005モル以上、2モル以下含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項8】
前記ルイス塩基性を呈するアニオンがハロゲンイオンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項9】
前記ルイス酸性化合物がホウ素を含む化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項10】
前記ルイス酸性化合物が三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項11】
ポリウレタンが、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオール由来の単位を含んでなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項12】
ルイス塩基性を呈するアニオンを構成イオンとするイオン化合物と、前記アニオンと錯形成して多原子イオンを生成しうるルイス酸性化合物とを含有するポリウレタン組成物の製造方法であって、前記アニオンを構成イオンとするイオン化合物1モルに対して、前記ルイス酸性化合物を0.01モル当量以上、1.05モル当量以下混合した後、ポリウレタンと混合することを特徴とするポリウレタン組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物を含むことを特徴とする、表面保護フィルム用粘着剤。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物を含む粘着剤層を、基材の少なくとも片面に積層してなることを特徴とする、表面保護フィルム。

【公開番号】特開2006−307076(P2006−307076A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133345(P2005−133345)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】