説明

ポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物

【課題】 本発明は、ポリウレタン樹脂水性分散体と特定の変性ポリ塩化ビニル樹脂水性分散体からなるポリウレタン複合樹脂水性分散体を用い、塗料・コーティング剤、シーリング剤、接着剤、人工皮革、ホース、制振材等の用途において、有機溶剤を用いないポリ塩化ビニル樹脂とポリウレタン樹脂の相溶性を改善することで、耐薬品性、機械強度、更には優れた粘弾性特性を提供するものである。
【解決手段】 ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、(A)/(B)が、樹脂固形分換算の重量比で、50/50より大かつ95/5以下であること、並びに変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)が、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを共重合させて得られるものであって、(b1)/(b2)が、重量比で、2/98〜20/80の範囲であることを特徴とする水性複合樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂の水性分散体と変性ポリ塩化ビニル樹脂の水性分散体とを混合して得られる水性複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は耐磨耗性、低温特性、耐油性等に優れた樹脂として知られており、塗料、コーティング剤、人工皮革、熱可塑性エラストマー等の様々な分野で利用されている。一方、塩化ビニル樹脂は安価で物性バランスが優れることから、コーティング、塗料、レザー類、ホース、電線被覆材、建築資材等の様々な分野で利用されている。この両者の特徴を活かすため、ポリ塩化ビニル樹脂とポリウレタン樹脂の複合化技術としてこれまで様々な提案がなされている。
【0003】
(1)塩化ビニル樹脂と熱可塑性ポリウレタン樹脂とのグラフト共重合.
塩化ビニル単量体に溶解可能な熱可塑性ポリウレタンと塩化ビニル単量体との懸濁重合(グラフト共重合)による軟質熱可塑性樹脂の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、熱可塑性ポリウレタンを塩化ビニル単量体に溶解させ均一混合する必要があるため、熱可塑性ポリウレタンの組成及び配合量は制約されたとものとならざるを得ない。また、塗料やコーティング剤用途においては、軟質熱可塑性樹脂を有機溶剤に溶解して使用するため、環境問題や労働衛生の観点から問題があった。
【0004】
(2)塩化ビニル樹脂中でのポリウレタン樹脂の生成.
粉末又は粒状塩化ビニル樹脂にポリオールを含浸させ、攪拌下、これにポリイソシアネートを添加し、塩化ビニル樹脂中でのポリウレタン樹脂を生成させることによるポリ塩化ビニル−ポリウレタン系複合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、固体の塩化ビニル樹脂中で原料を自然拡散させるため、原料組成の制限や、ポリウレタン樹脂の生成が不均一となり、ポリウレタンのゲル化や機械強度の低下を招く。また、塗料やコーティング剤用途においては、有機溶剤への溶解が必要となり、環境問題や労働衛生上の問題があった。
【0005】
(3)塩化ビニル樹脂中での溶融状態でのポリウレタン樹脂の生成.
塩化ビニル樹脂とポリオール及びポリイソシアネートとの混合物をせん断力下加熱溶融し、ポリ塩化ビニルの溶融状態下でポリウレタンを生成するポリ塩化ビニル−ポリウレタン複合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法は、過度のせん断力が加わった場合、塩化ビニル樹脂の分解やポリウレタン樹脂のゲル化が生じ、成型時の加工性の低下や、成型体の外観不良、機械物性等の低下が起こり、ポリウレタン樹脂の組成及び配合量は制約される。また、塗料やコーティング剤用途として使用する場合には、有機溶剤に溶解する必要があり、環境問題や労働衛生上の問題があった。
【0006】
(4)ポリウレタン樹脂水性分散体とポリ塩化ビニル樹脂水性分散体とのブレンド.
ポリウレタン樹脂水性分散体とポリ塩化ビニル樹脂水性分散体とを一定の重量比でブレンドして得られる複合樹脂水性分散体組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。同文献によれば、この複合樹脂水性分散体を乾燥することにより、環境問題や労働衛生上の問題がなく成型フィルムが得られるとされているが、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂の相溶性が悪いため、成型フィルムの表面状態が荒い、機械強度の低下が大きい等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−30688号公報
【特許文献2】特公昭59−39464号公報
【特許文献3】特公平07−91456公報
【特許文献4】特開平10−273587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶剤を用いることなく、ポリウレタン樹脂とポリ塩化ビニル樹脂とを複合化することができる水性複合樹脂組成物であって、それを乾燥して得られる複合樹脂組成物の耐薬品性、機械強度、更には粘弾性特性に優れた水性複合樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定のポリウレタン樹脂粒子と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子を含有する水性複合樹脂組成物を見出し、これを乾燥することにより得られるフィルムやシート等の成型品が、上記の課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの水性複合樹脂組成物に関する。
【0011】
[1]ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、(A)/(B)が、樹脂固形分換算の重量比で、50/50より大かつ95/5以下であること、並びに変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)が、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを共重合させて得られるものであって、(b1)/(b2)が、重量比で、2/98〜20/80の範囲であることを特徴とする水性複合樹脂組成物。
【0012】
[2]水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)が、下記式(1)又は(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、下記式(3)又は(4)で示される水酸基含有ビニルエーテル類、並びに下記式(5)又は(6)で示される水酸基含有アリルエーテル類からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[1]に記載の水性複合樹脂組成物。
【0013】
【化1】

[上記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜10の整数を表す。]
【0014】
【化2】

[上記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜10の整数を表す。]
【0015】
【化3】

[上記式(3)中、nは1〜10の整数を表す。]
【0016】
【化4】

[上記式(4)中、nは1〜10の整数を表す。]
【0017】
【化5】

[上記式(5)中、nは1〜10の整数を表す。]
【0018】
【化6】

[上記式(6)中、nは1〜10の整数を表す。]
[3]ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)が、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(a3)を反応させて、プレポリマーを合成した後、乳化することで得られるものであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の水性複合樹脂組成物。
【0019】
[4]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥して得られる複合樹脂組成物。
【0020】
[5]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥し、成型して得られる複合樹脂組成物の成型体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水性複合樹脂組成物は、相溶性を改善されているため、塗料・コーティング剤、シーリング剤、接着剤、人工皮革、ホース、制振材等の用途で好適に使用することができる。
【0022】
また、本発明の水性複合樹脂組成物を乾燥し、成型することにより、成型性、機械物性、及び成型品の表面状態に優れた、フィルムやシート等の成型品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明のポリウレタン複合樹脂水性分散体組成物は、
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、(A)/(B)が、樹脂固形分換算の重量比で、50/50より大かつ95/5以下であること、並びに
変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)が、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを共重合させて得られるものであって、(b1)/(b2)が、重量比で、2/98〜20/80の範囲であること
をその特徴とする。
【0025】
まず、本発明で使用されるポリウレタン樹脂の水性分散体(A)について説明する。
【0026】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)は、例えば、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(a3)の反応により得られる。具体的には、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(a3)を反応させて、プレポリマーを合成した後、それを乳化することが好ましい。
【0027】
本発明で使用されるポリイソシアネート成分(a1)としては、通常入手できる各種の脂肪族、脂環族、芳香族のイソシアネート化合物を用いることが可能である。
【0028】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
本発明においてポリオールとは、イソシアネート基に対して反応性を有する水酸基を2個以上含む化合物をいう。
【0032】
本発明で使用されるポリオール成分(a2)としては、通常入手できる各種のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテルポリオール、分子量400未満の低分子ポリオール等を用いることが可能である。
【0033】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、縮合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0034】
縮合ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられる。具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール等が例示される。
【0035】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類との反応物等が挙げられる。具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が例示される。
【0036】
ポリラクトンポリオールとしては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びこれらの2種以上の混合物の開環重合物等が挙げられ、具体的にはポリカプロラクトンジオール等が例示される。
【0037】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーを付加重合させた反応物が挙げられる。2種以上のモノマーを付加重合させる場合は、ブロック付加、ランダム付加、又は両者の混合系でもよい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が例示される。
【0038】
分子量400未満の低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリロトール等の多官能脂肪族ポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族ジオール、これらのアルキレンオキシド付加体のポリオール等が挙げられる。分子量400未満の低分子ポリオールは物性調整を目的として一般に使用される。
【0039】
本発明で使用される活性水素を有する親水基含有化合物(a3)としては、例えば、カルボキシル基を有するジオールを使用することができ、具体的には、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。また、これらを原料の一部として製造したカルボン酸基含有ポリエステルポリオールも好適に用いることができる。さらに、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸等によってスルホン酸基が導入されたポリエステルポリオールを使用しても良い。これらの親水基が導入された活性水素を有する親水基含有化合物を、アンモニア、トリエチルアミン等の有機アミンやNa、K、Li等の金属塩基等によって中和することで、得られるポリウレタン樹脂を水中に分散することができる。
【0040】
また、本発明においては、活性水素としてアミノ基を有する親水基含有化合物を使用することもでき、例えば、2−(2−アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とエチレンジアミンとの付加反応物のナトリウム塩、リジン、1,3−プロピレンジアミン−β−エチルスルホン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明において、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(a3)を反応させて、プレポリマーを合成する際に、反応を均一に進行させるため、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のイソシアネート基に不活性な有機溶剤を、反応中又は反応終了後に添加してもよい。
【0042】
プレポリマーがカルボン酸基やスルホン酸基等の塩形成可能な親水基を含む場合は、中和剤を用いて親水化(中和)させることが望ましい。中和剤としては、例えば、塩基性化合物が使用でき、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、N−メチルモルホリン等の第3級アミン類、アンモニア水等が例示される。
【0043】
親水化(中和)の方法としては、特に限定するものではないが、例えば、(1)プレポリマーの合成前、合成中又は合成後に中和剤と反応させる方法、(2)乳化の際に用いる水に中和剤を添加する方法等が挙げられる。
【0044】
本発明において、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)は、例えば、プレポリマーに水を分散しながら水性ポリウレタン樹脂を得る転相乳化や、非イオン性界面活性剤を含む水中のプレポリマーを乳化し水性ポリウレタン樹脂を得る強制乳化等の乳化方法によって得られる。
【0045】
乳化に用いられる界面活性剤としては、一般に非イオン性界面活性剤が用いられ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレンジオールの酸化エチレン付加物、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0046】
非イオン性界面活性剤の添加法については、特に限定するものではないが、例えば(1)乳化前に添加する方法、(2)乳化中に使用する水と共に添加する方法等が挙げられる。
【0047】
本発明において、乳化前、乳化中又は乳化後に鎖延長剤を添加して、プレポリマーを高分子量化することが望ましい。本発明において、鎖延長剤とは、水又は1級若しくは2級のアミノ基を2個以上含有するポリアミン化合物をいう。プレポリマーの残イソシアネート基を鎖延長剤により鎖延長することでプレポリマーの高分子量化が達成できる。このようなポリアミン化合物として、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0048】
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)が低沸点の有機溶剤を含有する場合は、減圧下、30〜80℃で有機溶剤を留去することが望ましい。また、水を追加又は留去することで、水性ポリウレタン樹脂組成物中の樹脂固形分濃度を調整することも可能である。
【0049】
本発明において、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)を製造する際に、更に耐久性を向上させる目的で、架橋剤を配合することもできる。架橋剤としては、通常に使用されるものでよく、特に限定するものではないが、例えば、アミノ樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を挙げることができる。
【0050】
次に、本発明で使用される変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)について説明する。
【0051】
本発明で使用される変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)は、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを、通常の懸濁重合、乳化重合、シード重合を利用して共重合することにより調製することができる。
【0052】
本発明で使用される変性塩化ビニル樹脂水性分散体は、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを、[水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)]/[塩化ビニル単量体(b2)]の重量比として、2/98〜20/80の範囲で反応させて得られる。(b1)/(b2)の重量比を、2/98以上とすることで、水性複合樹脂組成物の成型性が向上し、20/80以下とすることで成型性のみならず機械物性が向上する。
【0053】
本発明で使用される水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)としては、上記式(1)又は(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、上記式(3)又は(4)で示される水酸基含有ビニルエーテル類、並びに上記式(5)又は(6)で示される水酸基含有アリルエーテル類からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物が好適に使用される。上記式中、nを10以下とすることで、得られる水性複合樹脂組成物の成型性や機械物性が向上する。
【0054】
上記式(1)又は(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等が好適なものとして挙げられる。
【0055】
上記式(3)又は(4)で示される水酸基含有ビニルエーテル類としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等が好適なものとして挙げられる。
【0056】
上記式(5)又は(6)で示される水酸基含有アリルエーテル類としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3−ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテル、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
【0057】
このようにして得られるポリ塩化ビニル樹脂の数平均分子量としては、1万〜20万の範囲であることが好ましい。
【0058】
次に本発明の水性複合樹脂組成物について説明する。
【0059】
本発明の水性複合樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と、変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られるものであって、[ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)]/[変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)]が、樹脂固形分換算の重量比で、50/50より大かつ95/5以下の範囲にある。(A)/(B)の樹脂固形分換算の重量比を、50/50より大とすることで、得られる成型体の成型体の機械物性や制振性能が向上し、95/5以下とすることで、成型体の制振性能や耐薬品性が向上する。
【0060】
本発明において、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合する方法としては、特に限定するものではないが、攪拌翼による混合分散、マグネッチクスターラーによる混合分散、ホモジナイザー等による混合分散等が挙げられる。
【0061】
本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて、カルボキシメチルセルロース、親水性基含有合成樹脂エマルション、ウレタン変性ポリエーテル系シックナー、変性ポリアクリル酸系シックナー等の増粘剤、フェノール系老化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、シリコーン系などの帯電防止剤や離型剤、コロイダルシリカ等の無機充填剤、着色剤、顔料、滑剤等の添加剤をフィルムやシート成型時の配合剤として加えても構わない。
【0062】
本発明においては、水性複合樹脂組成物が低沸点の有機溶剤を含有する場合、減圧下、30〜80℃で有機溶剤を留去することが望ましい。また、水を追加又は留去することで、水性複合樹脂組成物中の樹脂固形分濃度を調整することも可能である。
【0063】
本発明の水性複合樹脂組成物を乾燥することにより、フィルム、シート等の成型体を得ることができる。
【0064】
具体的には、本発明の水性複合樹脂組成物中に金型を浸漬した後、当該金型を取り出してその表面に付着した水性ポリウレタン樹脂組成物を加熱乾燥することにより、フィルムやシートとして成型することができる。また、本発明の水性複合樹脂組成物を金属や木材等の表面に塗布し乾燥することにより塗膜を得ることができる。更には、本発明の水性複合樹脂組成物を押出し乾燥機で乾燥しペレット化後、射出成型機や押出し成型機を用いて成型体を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下の実施例、比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0066】
なお、以下の実施例、比較例における水性複合樹脂組成物及びそれを乾燥後成型したフィルムの評価法は以下のとおりである。
【0067】
<平均粒径の測定方法>
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体のそれぞれの平均粒径は、マイクロトラックUPA150(日機装社製)を用い、分散媒の屈折率を1.33に設定し粒径分布を測定し、メジアン粒径を求め、各々の樹脂粒子の平均粒径とした。
【0068】
<乾燥方法>
ポリウレタン樹脂水性分散体と(変性)ポリ塩化ビニル樹脂水性分散体とを混合して得られた水性複合樹脂組成物をガラス製の流延板上で流延し、130℃の乾燥機で10分間乾燥し乾燥フィルムを得た。
【0069】
<成型性>
乾燥フィルムの表面状態を割れ、ひび割れ等の有無を観察した。
【0070】
<フィルム強度の測定>
乾燥フィルムを用い、170℃で2分間、5MPaの熱プレス成型を行い、恒温室でフィルムを状態調整後JIS4号ダンベルで打ち抜いて試験片を得た。この試験片について、引張り試験機(東洋ボールドウイン社製テンシロンUTM−4−100型)を用い、引張り速度200(mm/分)で引張り試験を行った。
【0071】
<耐薬品性の測定>
乾燥フィルムをイソプロピルアルコール及びトルエンに室温で30分間浸漬後の浸漬前と浸漬後の重量を測定し重量変化率を求めた。
【0072】
<動的粘弾性の測定>
動的粘弾性測定装置(上島製作所社製、VR−7120型)を用い、初期歪1(%)、繰り返し歪0.1(%)、振動数10Hz、温度範囲−50〜200℃の範囲で測定した。
【0073】
調製例1 ポリウレタン樹脂水性分散体の調製.
<ウレタンプレポリマー溶液の合成>
還流冷却器を備えた反応器に、ポリイソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製、ミリオネートMT−F)64.3g、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成製)16.1g、ポリエステルポリオールとしてポリブチレンアジペート(日本ポリウレタン社製、ニッポラン4010)100g、ポリエチレンアジペート(日本ポリウレタン社製、ニッポラン4040)100g、ジメチロールプロピオン酸3.7g、ネオペンチルグリコール15.7g、トリメチロールプロパン1.2g、及びメチルエチルケトン128gを加えて、反応温度80(℃)で固形分70重量%のプレポリマー有機溶剤溶液を調製した。
【0074】
<ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体の合成>
ホモジナイザー(TK.ホモミキサーMARKII、PRIMIX社製)に、純水60g、苛性ソーダ0.22g、ノニオン乳化剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、日油社製、K220)1.08g、消泡剤(サンノプコ社製、デフォーマー440)0.3gを入れた分散水を乳化槽に入れ攪拌回転数6000rpmで乳化循環した。その後、固形分70重量%のプレポリマー有機溶剤溶液をメチルエチルケトンで更に固形分60重量%に希釈した100gのプレポリマー溶液を5分〜10分間滴下し乳化循環を行なった後、同一攪拌回転数で乳化液を10分間循環しエマルションの熟成を行なった。鎖延長反応はピペラジン0.6gを水に溶解した鎖延長剤溶液を、マグネッチクスターラーで攪拌しながら乳化槽中の水性ウレタンエマルションに加えた。そして、乳化槽中の水性ウレタンエマルションから、エバポレーターを用い45℃で減圧条件下攪拌しながら有機溶剤を蒸留除去し、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(以下、「ポリマーA」と称する。)を得た。
【0075】
調製例2 変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製.
2.5L重合缶内に脱イオン水800g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート21g、塩化ビニル単量体679g、過酸化ラウロイル0.6g、15重量%ラウリン酸カリウム水溶液4g、及び15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液10gを仕込み、温度を56℃に上げて重合を進めた。そして、圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、K値67で平均粒径0.15μmの変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(以下、「ポリマーB」と称する。)を得た。
【0076】
調製例3 ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体の調製.
2.5L重合缶内に脱イオン水720g、塩化ビニル単量体600g、過酸化ラウロイル0.6g及び15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液60gを仕込み、当該重合液をホモミキサーにて75分間均質化処理後、温度を64℃に上げて重合を進めた。圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収することにより、K値63で平均粒径0.8μmを有するポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(以下、「ポリマーC」と称する。)を得た。
【0077】
実施例1.
樹脂固形分にしてポリウレタン樹脂70重量部に対し、変性ポリ塩化ビニル樹脂30重量部になるよう調整したポリマーAとポリマーBを100mLビーカーに入れ、マグネチックスターラーで30分間攪拌して、水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1の水性複合樹脂組成物を加熱乾燥して得られたフィルム成型体は、耐溶剤性や機械強度、動的粘弾性[損失正接(tanδ)]の向上が認められ、フィルムとしての制振性が向上した。
【0079】
実施例2〜実施例4.
ポリマーA及びポリマーBを用い、表1に示すブレンド比に変更した以外は、実施例1と同じ条件で水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表1に併せて示す。
【0080】
表1から明らかなように、これら実施例の水性複合樹脂組成物を加熱乾燥して得られたフィルム成型体は、耐溶剤性や機械強度、制振性能に優れていた。
【0081】
比較例1〜比較例3.
ポリマーA及びポリマーCを用い、表2に示すブレンド比とした以外は、実施例1と同様の条件で水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表2に併せて示す。
【0082】
【表2】

表2から明らかなように、これら比較例の水性複合樹脂組成物を加熱乾燥して得られたフィルム成型体は、耐溶剤性や機械強度、制振性能が良好ではなかった。
【0083】
比較例4、比較例5.
ポリマーA及びポリマーBを用い、表2に示すブレンド比に変更した以外は、実施例1と同じ条件で水性複合樹脂組成物を調製し、上記したとおり評価した。結果を表2に併せて示す。
【0084】
表2から明らかなように、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子(B)との樹脂固形分換算の重量比が、本発明の範囲外である水性複合樹脂組成物を加熱乾燥して得られたフィルム成型体は、耐溶剤性、機械強度、及び制振性能の全ての性能を満足するものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)と変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)とを混合して得られる水性複合樹脂組成物であって、(A)/(B)が、樹脂固形分換算の重量比で、50/50より大かつ95/5以下であること、並びに変性ポリ塩化ビニル樹脂粒子の水性分散体(B)が、水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)と塩化ビニル単量体(b2)とを共重合させて得られるものであって、(b1)/(b2)が、重量比で、2/98〜20/80の範囲であることを特徴とする水性複合樹脂組成物
【請求項2】
水酸基とビニル基を含有する単量体(b1)が、下記式(1)又は(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、下記式(3)又は(4)で示される水酸基含有ビニルエーテル類、並びに下記式(5)又は(6)で示される水酸基含有アリルエーテル類からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性複合樹脂組成物。
【化1】

[上記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜10の整数を表す。]
【化2】

[上記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜10の整数を表す。]
【化3】

[上記式(3)中、nは1〜10の整数を表す。]
【化4】

[上記式(4)中、nは1〜10の整数を表す。]
【化5】

[上記式(5)中、nは1〜10の整数を表す。]
【化6】

[上記式(6)中、nは1〜10の整数を表す。]
【請求項3】
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(A)が、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及び活性水素を有する親水基含有化合物(a3)を反応させて、プレポリマーを合成した後、乳化することで得られるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥して得られる複合樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水性複合樹脂組成物を乾燥し、成型して得られる複合樹脂組成物の成型体。

【公開番号】特開2012−136606(P2012−136606A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288892(P2010−288892)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】