説明

ポリウロン酸又はその塩の製造方法

【課題】ポリウロン酸又はその塩を、重合度の低下を抑えて、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法、及びポリウロン酸又はその塩を架橋してなる吸水性樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕セルロース含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下に粉砕処理して低結晶性セルロース含有原料を得る工程(1)、及び得られた低結晶性セルロース含有原料を、中性又は酸性条件下で酸化してポリウロン酸又はその塩を製造する工程(2)を有するポリウロン酸又はその塩の製造方法、並びに〔2〕前記方法により製造されたポリウロン酸又はその塩に架橋剤を添加し、架橋反応させる吸水性樹脂の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウロン酸又はその塩の製造方法、及びポリウロン酸又はその塩を架橋してなる吸水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子材料は、粒子の分散・安定化、凝集、粘度調整、及び接着等の機能を有し、様々な分野に応用されている。特にポリカルボン酸は安価に製造できる場合が多いため、多くの品種が製造、使用されている。
また、環境に対する意識が高まるにつれ、環境負荷の少ない材料が強く求められており、再生可能な天然原料から製造される高分子材料等が開発されている。その一つとして、水溶性多糖類やその誘導体が挙げられ、中でもポリウロン酸は、吸水性樹脂、分散剤等への応用が期待されている。
【0003】
ポリウロン酸の製造方法としては、多糖類を2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−1−オキシル(以下、「TEMPO」という)等のN−オキシル化合物触媒を用いて、ピラノース環のC6位の一級水酸基を酸化する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、澱粉等をN−オキシル化合物の存在下、臭化アルカリ金属と酸化剤を用いて酸化する方法が開示されている。特許文献2には、多糖類を水系で分散又は溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化した後、多価カチオンを添加して沈殿させ、水洗、脱塩する開示されている。特許文献3には、N−オキシル化合物とアルデヒド基を酸化する酸化剤とを含む中性又は酸性の反応溶液中で、アルカリ処理セルロース又は再生セルロースを酸化させる工程を有するセルロースの改質方法が記載されている。
しかし、特許文献1〜3の方法では、(i)多糖類として再生セルロースを用いる場合、セルロースを銅−アンモニア溶液に溶解したり、誘導体化した後、再生処理を行う必要がある、(ii)酸化反応が十分に進行しない、(iii)金属を使用するために金属廃棄物が排出され、また煩雑な工程を経るため環境負荷が大きい等という問題がある。
【0004】
特許文献4には、結晶化度が30%以下の低結晶性のセルロース誘導体をN−オキシル化合物の存在下で酸化反応を行うことで、C6位一級水酸基を選択的に効率よく酸化させる方法が記載されている。
一方、特許文献5には、セルロースI型結晶化度が33%を超えるセルロース含有原料を粉砕助剤と共に粉砕処理して、結晶化度を低減する、平均粒径10〜200μmの低結晶性セルロースの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−189924号公報
【特許文献2】特開2006−124598号公報
【特許文献3】特開2009−209217公報
【特許文献4】特開2009−263641公報
【特許文献5】特開2010−37526公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
N−オキシル化合物触媒を用いた特許文献1〜4に記載の多糖類酸化法でピラノース環のC6位の一級水酸基を酸化しようとすると、重合度が大幅に低下することが知られており、高分子量を維持するのは困難であった。
また、ポリウロン酸を化学修飾して、生分解性高機能材料等を製造しようとすると、修飾反応による低分子量化が避けられない場合が多い。一方吸水性樹脂として使用する場合や高分子材料と複合化する場合には、ポリウロン酸が高分子量であることが好ましい。しかしながら、特許文献1〜4に記載の方法では、重量平均分子量が数万程度のポリウロン酸しか製造できず、重量平均分子量が10万以上のポリウロン酸を製造できる方法の開発が望まれる。
本発明は、ポリウロン酸又はその塩を、重合度の低下を抑えて、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法、及びポリウロン酸又はその塩を架橋してなる吸水性樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セルロール含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下で粉砕処理した後、中性又は酸性条件下で酸化することにより、高分子量のポリウロン酸又はその塩を効率的に製造できることを見出した。
すなわち本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕下記工程(1)及び(2)を有するポリウロン酸又はその塩の製造方法。
工程(1):セルロース含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下に粉砕処理して低結晶性セルロース含有原料を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた低結晶性セルロース含有原料を、中性又は酸性条件下で酸化してポリウロン酸又はその塩を製造する工程
〔2〕前記〔1〕の方法により製造されたポリウロン酸又はその塩に架橋剤を添加し、架橋反応させる吸水性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリウロン酸又はその塩を、重合度の低下を抑えて、環境負荷の少ない方法で効率的に製造する方法、及びポリウロン酸又はその塩を架橋してなる吸水性樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリウロン酸又はその塩の製造方法は、下記工程(1)及び(2)を有する。
工程(1):セルロース含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下に粉砕処理して低結晶性セルロース含有原料を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた低結晶性セルロース含有原料を、中性又は酸性条件下で酸化してポリウロン酸又はその塩(以下、両者を総称して単に「ポリウロン酸塩」という)を製造する工程
以下、各工程、及び各工程で用いられる各成分について、順次説明する。
【0010】
[工程(1)](低結晶化処理工程)
工程(1)では、セルロース含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下に粉砕処理して低結晶性セルロース含有原料を得る。
【0011】
<セルロース含有原料>
本発明の工程(1)で用いられるセルロース含有原料は、一般的に用いられる、セルロースを含む原料を意味する。セルロースには幾つかの結晶構造が知られており、アモルファス部と結晶部の全量に対する結晶部の割合から、結晶化度が算出される。
工程(1)で用いられるセルロース含有原料中に含まれるセルロースの結晶化度に、特に限定はない。しかしながら、通常、セルロースの結晶化度を低下させる処理には、セルロース鎖の切断による重合度低下が伴う。本発明では、製造中の重合度の低下が抑制されるため、従来法に比べ、高分子量のポリウロン酸塩を得ることが可能であり、本発明の製造方法は、高分子量のポリウロン酸塩を得る目的で適用する場合に、より高い価値を発揮する。この観点から、本発明においては、重合度低下の少ない、即ちより結晶化度が高いセルロースを含有するセルロース含有原料を用いることが好ましい。一方、結晶化度が95%を超える極めて結晶化度の高いセルロース含有原料の入手も困難である。よって、セルロース含有原料中に含まれるセルロースの結晶化度は、好ましくは33〜95%、より好ましくは50〜90%、更に好ましくは60〜80%である。
ここで、「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を意味し、セルロース含有原料に粉末X線結晶回折スペクトル法を適用して得られる回折強度値からSegal法により算出したもので、下記式(1)により定義される。本明細書においては、このセルロースI型結晶化度を単に「結晶化度」ということがある。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【0012】
前記セルロース含有原料には特に制限はなく、各種木材チップ;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等が挙げられる。
セルロース含有原料は、該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20重量%以上のものが好ましく、40重量%以上のものがより好ましく、60重量%以上のものが更に好ましい。ここで、セルロース含有量とはセルロース量及びヘミセルロース量の合計量を意味する。市販のパルプの場合、水を除いた残余の成分中、セルロースの他、リグニンを含むが、含量は極わずかであり、パルプから水を除いた残余をセルロースと略同一として扱うことができる。
セルロース含有原料中の水分含量は、セルロース含有原料中のセルロースに対し、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましい。セルロース含有原料中の水分含量が20重量%以下であれば、容易に粉砕できるとともに、粉砕処理により結晶化度を容易に低減させることができる。
【0013】
セルロース含有原料の形状に特に限定はないが、セルロース含有原料中のセルロースの重合度は、粉砕等の処理によっても低下する。よって、高分子量のポリウロン酸を得る観点、及び粉砕処理時の操作性の観点から、セルロース含有原料の形状はチップ状が好ましい。セルロース含有原料の形状をチップ状にするには、シュレッダー(例えば、株式会社明光商会製、商品名:「MSX2000−IVP440F」)、シートペレタイザー(例えば、株式会社ホーライ製、商品名:「SGG−220−3X3」)やロータリーカッターを用いることができる。ロータリーカッターを使用する場合、得られるチップ状セルロース含有原料の大きさは、スクリーンの目開きを変えることにより、制御することができる。チップの大きさは、操作性の観点から好ましくは0.6〜50mm角、より好ましくは0.8〜30mm角、更に好ましくは1〜10mm角である。
【0014】
<低結晶性セルロース>
本発明の工程(1)では低結晶性セルロース含有原料が得られ、これを工程(2)の原料として用いる。ここで、「低結晶性」とは、低結晶性セルロース含有原料に含まれるセルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、具体的には前記式(1)から算出されるセルロースI型結晶化度が33%以下であることを意味し、該結晶化度が0%の完全非晶化の場合を含む。
【0015】
結晶化度は、セルロースの物理的、化学的性質とも関係し、その値が大きいほど、セルロースの結晶性が高く、非結晶部分が少ないため、硬度、密度等は増すが、伸び、柔軟性、水や溶媒に対する溶解性、化学反応性は低下する。結晶化度が33%以下であれば、セルロースの化学反応性が良く、工程(2)において、効率的に酸化反応が進行する。この観点から、低結晶性セルロース含有原料中のセルロースの結晶化度は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、0%が好ましい。なお、前記式(1)で定義されたセルロースI型結晶化度では計算上マイナスの値になる場合があるが、マイナスの値の場合はセルロースI型結晶化度は0%とする。
【0016】
<重合度1〜10の酸化糖>
本発明の工程(1)で用いられる「重合度1〜10の酸化糖」(以下、単に「酸化糖」ともいう)とは、後述する酸化時の反応速度の観点から、カルボキシ基を有する単糖を少なくとも10〜100mol%、好ましくは30〜100mol%、更に好ましくは50〜100mol%含有した重合度1〜10の単糖、オリゴ糖若しくはそれら単糖及びオリゴ糖の混合物、又はそれらの塩を意味する。
カルボキシ基を有する単糖としては、アルドン酸(例えば、D−グルコン酸)、ウロン酸(例えば、D−グルクロン酸)、アルダル酸(例えば、ガラクタル酸)、ケトアルドン酸(例えば、ペント−2−ウロソン酸)、シアル酸(例えば、N−アセチルノイラミン酸)、及びムラミン酸(例えば、N−アセチルムラミン酸)等から選ばれる1種以上が挙げられる。
酸化糖の重合度が1〜10であれば、工程(1)におけるセルロースの重合度低下に対する抑制効果が高いが、重合度1〜10の酸化糖の中では、入手の容易性の観点から、重合度1〜5の酸化糖が好ましく、重合度1〜3の酸化糖がより好ましく、D−グルクロン酸等のウロン酸、グルコン酸等のアルドン酸が更に好ましく、ウロン酸が特に好ましい。このような酸化糖として、ポリウロン酸塩の合成中に生成する低分子量のポリウロン酸塩成分を再利用することも可能である。
酸化糖、及びセルロースの化学的安定性の観点、及び入手の容易性の観点から、酸化糖は塩であることが好ましい。塩としては、入手の容易さの観点からアルカリ金属塩が好ましく、特にナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
粉砕処理時に用いる酸化糖の使用量は、セルロース含有原料中のセルロースの結晶性を低減する効率、操作性の観点からセルロース含有原料中のセルロースに対して5〜50重量%が好ましく、6〜40重量%がより好ましく、7〜30重量%が更に好ましい。
【0017】
<低結晶性セルロース含有原料の製造>
(前処理)
本発明において、嵩密度が100kg/m3未満のセルロース含有原料を用いる場合は、前処理を行い、嵩密度を100〜500kg/m3にした後、低結晶性セルロース含有原料の製造原料とすることが好ましい。
前処理としては、必要に応じて、粗粉砕処理、押出機処理を行い、セルロース含有原料を適度な嵩密度を有する粉末状にすることができる。
粗粉砕処理は、セルロース含有原料を押出機に投入する前に、チップ状に粗粉砕する処理である。この粗粉砕処理を予め行うことにより、押出機処理をより効率的に行うことができる。押出機に供給するセルロース含有原料の大きさは、好ましくは1〜50mm角、より好ましくは1〜30mm角のチップ状である。
セルロース含有原料をチップ状に粗粉砕する方法としては、前記シュレッダー、ロータリーカッター等を使用する方法が挙げられる。
【0018】
(粉砕処理(低結晶化処理))
セルロース含有原料を酸化糖と共に粉砕機で粉砕処理することにより、セルロース含有原料中のセルロースを効率的に低結晶化させ、低結晶性セルロース含有原料を得ることができる。
粉砕機としては媒体式粉砕機を好ましく用いることができる。媒体式粉砕機には容器駆動式粉砕機と媒体撹拌式粉砕機とがある。
容器駆動式粉砕機としては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられるが、粉砕効率、生産性の観点から、振動ミルが好ましい。
媒体撹拌式粉砕機としては、タワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられるが、粉砕効率、生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。媒体攪拌式粉砕機を用いる場合の攪拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
粉砕機については「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらであってもよい。
【0019】
粉砕機に充填する媒体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。
粉砕機が振動ミル等の容器駆動式粉砕機であって媒体がボールの場合、ボールの外径は、効率的にセルロースの結晶化度を低減させる観点から、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmである。媒体の形状としては、ボール、ロッド、チューブ等を用いることができる。
媒体の充填率は、媒体式粉砕機の機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料とボール、ロッド等の媒体との接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、媒体式粉砕機の攪拌部の容積に対する媒体の見かけの体積の比率をいう。
なお、振動ミルとしては、中央化工機株式会社製の振動ミル、ユーラステクノ株式会社製のバイブロミル、株式会社吉田製作所製の小型振動ロッドミル、ドイツのフリッチュ社製の振動カップミル、日陶科学株式会社製の小型振動ミル等が挙げられる。
【0020】
粉砕処理時間は、粉砕機の種類や、粉砕機に充填する媒体の種類、大きさ及び充填率等により適宜調整しうるが、結晶化度を低減させる観点から、好ましくは0.01〜50hr、より好ましくは0.05〜20hr、より好ましくは0.1〜10hr、更に好ましくは0.1〜5hr、特に好ましくは0.1〜3.5hrである。粉砕処理温度は、特に制限はないが、熱劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃、更に好ましくは15〜150℃である。
粉砕時の系内水分量は、低結晶化効率の観点から、セルロース含有原料中のセルロースに対し20重量%以下であることが好ましい。一方、重合度1〜10の酸化糖の添加効果の局所的な偏りをなくす観点から、粉砕時の系内水分量は、セルロース含有原料中のセルロースに対し0.1重量%以上であることが好ましい。
上記観点から、粉砕時の系内水分量は、セルロース含有原料中のセルロースに対して、0.1〜20重量%が好ましく、結晶化を低減する効率の観点から、1〜10重量%がより好ましく、2〜8重量%が更に好ましい。
粉砕時に添加する酸化糖、水の順番は特に限定されないが、同時に添加することが好ましい。
上記の処理方法により、セルロース含有原料を出発原料として、含有されるセルロースのセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース含有原料を、重合度の低下を抑制して効率よく得ることができ、また、粉砕機処理の際に、粉砕機の内部にセルロース含有原料が固着せずに、乾式にて処理することができる。
【0021】
[工程(2)](酸化反応)
工程(2)では、工程(1)で得られた低結晶性セルロース含有原料を、中性又は酸性条件下で酸化してポリウロン酸又はその塩を製造する。
工程(2)における酸化反応は、セルロース中のグルコース単位のC6位一級水酸基を選択的に酸化し、カルボキシ基を生成させる反応である。
一級水酸基の選択的酸化反応としては、(i)白金触媒を用いる酸素による酸化反応、(ii)窒素酸化物による酸化反応等があり、(ii)の具体例としては、硝酸又はニトロキシルラジカル化合物触媒による酸化反応が挙げられる。これらの中では、反応の高選択性、均質性、及びより温和な条件で酸化反応を円滑に進行させる観点から、ニトロキシルラジカル化合物を触媒として用い、酸化剤、必要に応じて共酸化剤ないし助触媒を用いて酸化反応を行うことが好ましい。
【0022】
<ニトロキシルラジカル化合物>
本発明の工程(2)で触媒として用いられるニトロキシルラジカル化合物は、ヒンダードアミンのN−酸化物であり、その分子内に、下記構造式(1)で表されるニトロキシルラジカルを有し、該構造中の窒素原子のα位に水素原子を有しないものである。
【0023】
【化1】

【0024】
ニトロキシルラジカル化合物としては、窒素原子のα位に嵩高い基を有するものが好ましく、炭素数1又は2のアルキル基を有するピペリジンオキシル化合物がより好ましく、ジ−tert−アルキルニトロキシル化合物がより好ましい。
ジ−tert−アルキルニトロキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル等の2,2,5,5−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の4−アルコキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン−1−オキシル、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等が挙げられる。
【0025】
これらの中では、ニトロキシルラジカル化合物反応性の観点から4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルが好ましい。
なお、ニトロキシルラジカル化合物を触媒として用いる酸化反応では、後述する酸化剤によりニトロキシルラジカルの一電子酸化体であるオキソアンモニウムイオンが生成し、これが触媒活性種として機能すると考えられる。
工程(2)におけるニトロキシルラジカル化合物の使用量は、工程(2)の反応速度及び酸化効率の観点から、低結晶性セルロース含有原料中のセルロースの一級水酸基1モルに対して、0.00001〜0.2モルが好ましく、0.0001〜0.1モルがより好ましく、0.001〜0.05モルが更に好ましい。
【0026】
かかるニトロキシルラジカル化合物は、市販品を用いることもできるし、公知の方法、例えば、(a)二級アミン類を有機過酸化物を用いて酸化する方法(欧州特許出願公開157738号)、(b)タングステン酸塩の存在下、過酸化水素で酸化する方法(英国特許1199351号)、(c)カーボネート類、ケイ酸塩等の存在下、過酸化水素で酸化する方法(特開2002−145861号)等の方法により製造したものを用いてもよい。
また、ニトロキシルラジカル化合物は、そのまま添加することもできるし、溶媒に溶解又は懸濁させて添加してもよい。
ニトロキシルラジカル化合物を溶解又は懸濁させるための溶媒は、酸化反応に不活性なものであれば特に制限されない。例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル、メチルイソブチルケトン、メチルtert−ブチルケトン等のケトン、水等の単独又は混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量も特に制限されない。
【0027】
<酸化剤>
工程(2)の酸化反応に用いられる酸化剤としては、例えば塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等の次亜ハロゲン酸又はその塩;亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム、亜臭素酸、亜ヨウ素酸等の亜ハロゲン酸又はその塩;過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸又はその塩;ClO、ClO2、Cl26、BrO2、Br37等のハロゲン酸化物、NO、NO2、N23等の窒素酸化物;過酸化水素;過酢酸等の過有機酸又はその塩、酸素等が挙げられる。これらの酸化剤は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
これらの酸化剤の中では、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、次亜ハロゲン酸又はその塩、及び亜ハロゲン酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、次亜塩素酸又はその塩、及び亜塩素酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、次亜塩素酸ナトリウム及び/又は亜塩素酸ナトリウムがより更に好ましい。
酸化剤の使用量は、所望の酸化の程度に応じて適宜調整することが可能であり、特に限定されないが、酸化反応速度及び酸化剤の添加効率の観点から、原料に用いる低結晶性セルロース含有原料中の一級水酸基1モルに対して、0.1〜20モルが好ましく、0.5〜10モルがより好ましく、1.4〜3モルが更に好ましい。
添加時の酸化剤の形態は気体、液体、固体のいずれでもよく、水や有機溶媒に溶解させた状態で用いてもよい。酸化剤の添加は反応初期に一括で添加してもよく、また、酸化反応工程において分割で添加してもよい。
【0028】
<共酸化剤ないし助触媒>
工程(2)の酸化工程においては、より温和な条件でも酸化反応を円滑に進行させる観点から、酸化剤と共に共酸化剤ないし助触媒を共存させることができる。
共酸化剤ないし助触媒としては、例えば、臭化又はヨウ化アンモニウム;臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等の臭化又はヨウ化アルカリ金属;臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウム等の臭化アルカリ土類金属又はヨウ化アルカリ土類金属等が挙げられる。これらの臭化物塩やヨウ化物塩は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中では、臭化ナトリウムが好ましい。
共酸化剤ないし助触媒の使用量は、酸化反応速度及び酸化剤の添加効率の観点から、原料に用いる低結晶性セルロース含有原料中のセルロースの一級水酸基1モルに対して0.0001〜1モルが好ましく、0.001〜0.5モルがより好ましく、0.01〜0.3モルが更に好ましい。
【0029】
<酸化反応条件>
本発明において、反応系のpHは中性又は酸性に維持される。この条件下においては、セルロースのベータグルコキシド脱離反応が抑制される。具体的には、pHは4〜7とすることが好ましく、4.5〜6.5とすることがより好ましい。特にpHが8以上とならないように注意すべきである。
本発明の反応系のpHとは、反応混合物を純水で5倍重量に希釈したサンプルの、25℃におけるpHの値である。
反応は、緩衝剤を用いて反応系のpH変化を抑えた条件で行うことが好ましい。緩衝剤を用いることで、pH維持のための酸やアルカリの添加を抑制することができる。緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、トリス塩等が挙げられる。
酸化反応の温度は、反応の選択性、副反応の抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下であり、その下限は、反応速度の観点から、好ましくは20℃以上である。
酸化反応の反応時間は、酸化反応の進行速度及び所望の酸化の程度に応じて適宜調整することが可能であり、特に限定されないが、通常、0.1〜168時間である。生産性の観点からは、72時間以下であることが好ましく、36時間以下であることが好ましい。一方、十分に反応を進行させる観点から、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、12時間以上が更に好ましい。
【0030】
<溶媒>
酸化反応は、低結晶性セルロース含有原料を溶媒に分散させて行うのが好ましい。その溶媒としては、水の他、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数3〜6の2級、又は3級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数1〜6のケトン、直鎖又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、低級アルキルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が挙げられる。上記溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、反応性の観点から水、炭素数3〜6の2級アルコール、炭素数3〜6のケトン及び極性溶媒が好ましく、環境負荷低減の観点から、水が好ましい。
溶媒の使用量は、低結晶性セルロースを分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、低結晶性セルロース含有原料に対して1〜500重量倍使用することが好ましく、2〜100重量倍使用することがより好ましく、10〜80重量倍使用することが更に好ましい。
【0031】
<精製>
上記酸化反応によるポリウロン酸塩の製造においては、ニトロキシルラジカル化合物等の触媒の残存や塩の副生が生じ易い。そこで、純度の高いポリウロン酸塩を得るために、必要に応じて精製を行なうことできる。精製法には限定はなく、酸化反応における溶媒の種類、生成物の酸化の程度、精製の程度を考慮して、最適な方法を採用することができる。例えば、良溶媒として水、貧溶媒としてメタノール、エタノール、アセトン等を用いた再沈殿、ヘキサン等の水と相分離する溶媒への触媒等の抽出、及び塩のイオン交換、透析等による精製等が挙げられる。
【0032】
<ポリウロン酸塩>
本発明方法で得られるポリウロン酸塩は、D−グルクロン酸、及びグルコースがグリコシド結合で連結した重合体、又はその塩で、代表的には下記構造式(2)で表される。
本発明で得られるポリウロン酸塩の重量平均分子量は特に限定されないが、水溶性及び生分解性を付与する観点から、好ましくは100万以下であり、より好ましくは50万以下であり、更に好ましくは20万以下である。
本発明方法によれば、従来法では製造が困難であった高分子量のポリウロン酸塩を環境負荷の少ない方法で効率的に製造することができる。この観点から、本発明で得られるポリウロン酸塩の重量平均分子量は、5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、12万以上が更に好ましく、15万以上がより更に好ましい。なお、本発明においてポリウロン酸塩の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるプルラン換算分子量である。具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
【化2】

【0034】
構造式(2)中、Xは陽イオンを示す。具体的には、水素イオンの他、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、各種アミン又はアミノ酸のプロトン化物が挙げられる。ここで陽イオンの価数(a)が2以上である場合、カルボキシ基1個あたりのXの数は、1/a個である。生成するポリウロン酸塩の水溶性の観点から、Xはアルカリ金属イオンであることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。
構造式(2)中のmは、ポリウロン酸塩を構成する単糖ユニット中におけるアンヒドログルクロン酸塩ユニットのモル分率を示す。該モル分率mは、生成するポリウロン酸塩の水溶性の観点から、0.1〜0.99が好ましく、0.3〜0.90がより好ましく、0.3〜0.80が更に好ましい。構造式(2)において、Xがアルカリ金属である場合、mが0.6を超えればポリウロン酸塩は、高い水溶性を示す。
構造式(2)中のnは、ポリウロン酸塩を構成する単糖ユニット中におけるアンヒドログルコースユニットのモル分率を示し、生成するポリウロン酸塩の水溶性の観点から、nは0.01〜0.9が好ましく、0.01〜0.7がより好ましく、0.2〜0.7が更に好ましい。
これらの観点から、アンヒドログルコースユニットのモル分率nとアンヒドログルクロン酸塩ユニットのモル分率mとのモル分率比(n/m)は、好ましくは0〜0.7、より好ましくは0〜0.5である。
【0035】
本発明においてポリウロン酸塩のカルボン酸置換度は、界面活性能及び水溶性の観点から、0.1〜0.99が好ましく、0.3〜0.9がより好ましく、0.3〜0.8が更に好ましい。ここで、ポリウロン酸塩のカルボン酸置換度とは、ポリウロン酸一分子あたりのカルボキシ基の数を、ポリウロン酸塩の主鎖を構成する単糖ユニットの数で除した数をいい、ポリウロン酸塩の中和滴定に要した塩基性化合物の当量数を用いて算出される。具体的には、実施例記載の中和滴定法により、測定されたポリウロン酸塩単位重量当りのカルボン酸量から、下記計算式(2)によって求められた値である。
カルボン酸置換度=162.1×A/(1−14.0×A) (2)
ここで、Aは中和滴定によって求められたカルボン酸量(mol/g)である。
なお、中和に用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、アンモニアやアミン化合物等が挙げられる。
本発明の製造方法により得られたポリウロン酸塩は、生分解性水溶性高分子材料として、吸水性樹脂、分散剤、等の様々な用途に用いることができる。
【0036】
[吸水性樹脂の製造方法]
本発明の吸水性樹脂の製造方法は、前記本発明の方法により製造されたポリウロン酸塩に架橋剤を添加し、架橋反応させることを特徴とする。
<架橋剤>
架橋剤は、ポリウロン酸塩と、必要に応じて加熱し、架橋反応できるものであれば、特に制限はないが、水溶性架橋剤であることが好ましい。
水溶性架橋剤としては、メチレンビスアクリルアミド、エピクロロヒドリン、ポリグリシジル化合物、アルデヒド化合物、ポリカルボン酸、メチロール化合物、ポリイソシアネート、ポリオキサゾリン化合物等の公知の化合物を用いることができる。
水溶性架橋剤の好適例としては、(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物、(b)2以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物、(c)2以上のエポキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0037】
(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、ポリオキシプロピレン、ソルビタン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、1,3−プロパンジオール、ソルビトール等が挙げられる。
(b)分子中に2以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物としては、ビス(メタ)アクリルアミド、ポリオールによる(メタ)アクリル酸のジ−又はポリエステル(例えばジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等)、C1−C10多価アルコールとヒドロキシル基につき2〜8個のC2−C4アルキレンオキシドとの反応から誘導される、ポリオールによる(メタ)アクリル酸のジ−又はポリエステル(例えばエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート等)等が挙げられる。
【0038】
(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
これらの中では、反応性及び得られるポリマーの吸水性能の観点から、(b)分子中に2以上の(メタ)アクロイル基を有する化合物、及び(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物がより好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテルが更に好ましい。
【0039】
ポリウロン酸塩と架橋剤の使用割合は任意であるが、架橋剤の割合が、ポリウロン酸塩に対して、好ましくは100重量%以下、より好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。使用割合が上記範囲にあれば、吸水量が多く、吸水速度が速い吸水性樹脂を得ることができる。一方、吸水性樹脂に十分なゲル強度を持たせル観点、また遠心保持量等の吸水性能に優れた吸水性樹脂を得る観点から、架橋剤の使用割合は、ポリウロン酸塩に対して0.01重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、10重量%以上が更に好ましい。
【0040】
<溶媒>
本発明の架橋化反応においては、溶媒を用いることもできる。用いることができる溶剤の種類、及びその好ましい様態は、前記[工程(2)]に記載の溶剤の種類及びその好ましい様態と同様である。
溶剤の使用量は、ポリウロン酸塩に対して1〜500重量倍使用することが好ましく、2〜100重量倍使用することがより好ましく、10〜50重量倍使用することが更に好ましい。
【0041】
<反応条件>
反応温度は、用いる架橋剤の反応性、用いる溶剤の凝固点によっても異なり一概には決められないが、通常−20〜100℃の範囲であり、反応速度、及び副反応抑制の観点から、−10〜60℃が好ましく、0〜40℃がより好ましい。
反応時間は、架橋化反応の速度によって異なり一概には決められないが、通常、0.1〜10時間であり、反応を十分に進行させる観点、及び生産性の観点から、0.2〜5時間が好ましく、0.5〜3時間がより好ましい。
反応は必要に応じて撹拌下に行うことができる。
【0042】
<後処理>
架橋化反応で得られた吸水性樹脂は、必要に応じて精製を行なうことできる。精製法には限定はなく、架橋化反応における溶媒の種類、生成物の各種溶媒への膨潤性の程度、精製の程度を考慮して最適な方法を採用することができる。
架橋化反応で得られた吸水性樹脂は、必要に応じて溶媒の除去を行うことができ、また応用時に最適なサイズ、操作性等を考慮して、粉砕を行うことができる。溶媒の除去法に特に限定はなく、例えば、減圧下、加熱を行うことで溶媒を除去可能である。粉砕の方法にも特に限定はなく、例えば前記[工程(1)]に記載された粉砕機を用いることができる。
本発明の吸水性樹脂は、吸水性に優れていることから、生理用ナプキン、紙おむつ、成人用シーツ、タンポン、及び衛生綿等の衛生材料に有用である。また、この吸水性樹脂は、原料が植物由来であるために、製造時及び廃棄時の排出CO2量が少なく、地球環境への負荷が小さい。更に、この吸水性樹脂は、天然物原料より製造されたことが重要視される化粧品への応用も期待される。
【実施例】
【0043】
以下の実施例において、セルロース含有原料中におけるセルロースの結晶化度の測定、水分含量の測定、セルロース含量の測定、ポリウロン酸塩の重量平均分子量、カルボン酸置換度、赤外吸収スペクトルの測定、吸水性樹脂の遠心保持量の測定、及び吸水性樹脂の吸水時間の測定は、以下の方法により行った。なお、実施例において「%」は特段の断りがない場合は、「重量%」を意味する。
【0044】
(1)セルロース含有原料中、及び低結晶性セルロース含有原料中のセルロースの結晶化度の測定法
株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて、以下の条件で測定した。
X線光源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kV、管電流:120mA
測定範囲:2θ=5〜45°、
測定サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮して作成
X線のスキャンスピード:10°/min
(2)セルロース含有原料の水分含量の測定方法。
セルロース含有原料の水分含量の測定には、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、製品名「FD−610」)を使用した。120℃にて測定を行い、30秒間の重量変化率が 0.1%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量の値を、セルロース含有原料に対する質量%に換算し、水分含量とした。
(3)セルロース含有原料中のセルロース量。
セルロースパウダーから水分量を除いた残余をセルロースと見なした。
【0045】
(4)ポリウロン酸塩の重量平均分子量の測定
実施例又は比較例で得られたポリウロン酸の重量平均分子量(Mw)は、株式会社日立製作所製、L−6000型高速液体クロマトグラフィーを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって下記条件で測定した。
検出器:ショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器
カラム:東ソー株式会社製、G4000PWXL、G2500PWXLを直列につないで使用した。
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=90/10(容量比)で0.5g/100mLの濃度に調整し、20μLを用いた。
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
標準ポリマー:プルラン
【0046】
(5)カルボン酸置換度の測定
実施例又は比較例で得られたポリウロン酸塩の2%水溶液を50g調整し、6N塩酸にてpHを1以下とした。この酸性溶液をエタノール500mLに投入し、生じた沈殿物を回収、エタノールで数回洗浄、乾燥した。得られたポリウロン酸を0.1g精秤し、イオン交換水30mLに溶解又は分散させ、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、ポリウロン酸塩単位重量あたりのカルボン酸量を求め、このカルボン酸量から、前記計算式(2)によりカルボン酸置換度を算出した。
(6)赤外吸収スペクトルの測定
株式会社堀場製作所製の赤外分光光度計、FT−710型を用いて、ATRP法により測定した。
【0047】
(7)吸水性樹脂の遠心保持量の測定
遠心保持量の測定はJIS K 7223(1996)に準拠し、次の方法で行った。
ナイロン製の織布(メッシュ開き25、株式会社三力製作所販売、品名:ナイロン網、規格:250×メッシュ巾×30m)を幅10cm、長さ40cmの長方形に切断して長手方向中央で2つ折にし、両端をヒートシールして幅10cm(内寸9cm)、長さ20cmのナイロン袋を作製した。実施例又は比較例で得られた吸水性樹脂1.0gを精秤し、作製したナイロン袋の底部に均一になるように入れた。試料の入ったナイロン袋を、25℃に調製した生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水)に浸漬させた。浸漬開始から30分後にナイロン袋を生理食塩水より取り出し、1時間垂直状態に吊るして水きりした後、遠心脱水器(株式会社コクサン製、型式H−130C)を用いて脱水した。脱水条件は、800rpmで10分間とする。脱水後、試料の重量を測定し、次式に従って目的とする遠心保持量を算出した。
遠心保持量(g/g)=(a−b−c)/c
(a:遠心脱水後の試料及びナイロン袋の総重量(g)、b:ナイロン袋の吸水前(乾燥時)の重量(g)、c:試料の吸水前(乾燥時)の重量(g))
【0048】
(8)吸水性樹脂の吸水時間の測定
吸水時間の測定はJIS K 72240(1996)に準拠して行った。
100mLのガラスビーカーに生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水)50mLとマグネチックスターラーチップを入れ、600±60rpmで攪拌する。測定試料である吸水性樹脂2.0gを、攪拌中の生理食塩水の渦の中心部に投入し、渦が消え、液表面が平らになるまでの時間を測定した。
【0049】
実施例1
(1)ポリウロン酸の製造
セルロースパウダー(KCフロック W−400G 日本製紙ケミカル株式会社製、晶化度60%、水分含量1.2%、セルロース含有量98.8%)20g、グルクロン酸ナトリウム一水和物(和光純薬工業株式会社製)6.0g、イオン交換水1.0gを混合させた後に、遊星ミル(フリッチュ(Fritsch)社製)で10分間粉砕(回転数400rpm)、10分間静置する操作を4回繰り返し、低結晶性のセルロースパウダー(低結晶性セルロース含有原料、結晶化度0%)を得た〔工程(1)〕。
pHメータ、温度計、攪拌器を備えた2Lフラスコに4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(4−アセトアミドTEMPO、和光純薬工業株式会社製)1.92g、0.1M酢酸水溶液20mL、0.1M酢酸ナトリウム水溶液30mL、イオン交換水1L、入れ200rpmの回転数で攪拌を行った。温度を25℃に保ち、工程(1)で得た低結晶性のセルロースパウダー20g、亜塩素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)34g、次亜塩素酸ナトリウム11%水溶液(和光純薬工業株式会社製)20mLを加えた後、60℃、pHを5.0で24時間攪拌し、酸化反応を行った〔工程(2)〕。
反応終了後は、工程(2)の反応終了物にエタノール5Lに注ぎ、白色固体を沈殿させた。沈殿物を回収し、アセトンで洗浄した後に、40℃で乾燥させることで、白色のポリウロン酸ナトリウム塩(1)22gを得た。
得られたポリウロン酸ナトリウム(1)の重量平均分子量は17万、カルボン酸置換度は0.80であった。得られたポリウロン酸ナトリウム(1)の1H−NMRスペクトルは3.0〜4.5ppm付近に糖骨格に由来するピークを示した。また、そのIRスペクトルは、1600cm-1付近にカルボン酸イオンに相当するピークが観察されており、これらの結果から、セルロースパウダー中のセルロースを構成するアンヒドログルコースの6位の一級水酸基が酸化されていることが確認された。
【0050】
(2)吸水性樹脂の製造
上記(1)で得られたポリウロン酸ナトリウム(1)10g、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社社製、デナコールEX−810、エポキシ当量:113)2.0g、イオン交換水200gを加え25℃で1時間攪拌し、架橋反応を行った。得られた水溶液を70℃で減圧乾燥した後に、粉砕器(分析粉砕器R-8、日本理化学器械製)で粉砕し、吸水性樹脂を得た。
この吸水性樹脂の遠心保持量は14g/g、吸水時間は40秒であった。
【0051】
実施例2
使用したグルクロン酸ナトリウム一水和物(和光純薬工業株式会社製)の量を2.2g、に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、白色のポリウロン酸ナトリウム(2)20gを得た。尚、工程[1]の粉砕処理時に得られた低結晶性のセルロースパウダーの結晶化度は0%であった。
得られたポリウロン酸ナトリウム(2)の重量平均分子量は17万、カルボン酸置換度は0.80であった。得られたポリウロン酸ナトリウム(2)の1H−NMRスペクトルは3.0〜4.5ppm付近に糖骨格に由来するピークを示した。また、そのIRスペクトルは、1600cm-1付近にカルボン酸イオンに相当するピークが観察された。
得られたポリウロン酸ナトリウム(2)を用いた点を除き、実施例1の吸水性樹脂の製造と同様の操作を行って製造した吸水性樹脂の遠心保持量は18.0g/g、吸水時間は45秒であった。
【0052】
実施例3
使用した酸化糖をグルコン酸カリウム(和光純薬製)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、白色のポリウロン酸ナトリウム(3)23gを得た。尚、工程[1]の粉砕時に得られた低結晶性のセルロースパウダーの結晶化度は4.9%であった。
得られたポリウロン酸ナトリウム(3)の重量平均分子量は10万、カルボン酸置換度は0.85であった。得られたポリウロン酸ナトリウム(3)の1H−NMRスペクトルは3.0〜4.5ppm付近に糖骨格に由来するピークを示した。また、そのIRスペクトルは、1600cm-1付近にカルボン酸イオンに相当するピークが観察された。
得られたポリウロン酸ナトリウム(3)を用いた点を除き、実施例1の吸水性樹脂の製造と同様の操作を行って製造した吸水性樹脂の遠心保持量は14.0g/g、吸水時間は55秒であった。
【0053】
比較例1
低結晶性のセルロースパウダーとして、実施例1で用いたセルロースパウダー(KCフロック W−400G、日本製紙ケミカル株式会社製)20g、イオン交換水1.0gを混合させた後に、遊星ミル(フリッチュ社製)で10分間粉砕(回転数400rpm)、10分間静置する操作を4回繰り返して得たもの(結晶化度0%)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で合成を行い、ポリウロン酸ナトリウム(4)を得た。
得られたポリウロン酸ナトリウム(4)の重量平均分子量は3万8千、カルボン酸置換度は0.75であった。ポリウロン酸ナトリウム(4)の1H−NMRスペクトルは3.0〜4.5ppm付近に糖骨格に由来するピークを示した。また、そのIRスペクトルは、1600cm-1付近にカルボン酸イオンに相当するピークが観察された。
得られたポリウロン酸ナトリウム(4)を用いた点を除き、実施例1の吸水性樹脂の製造と同様の操作を行って製造した吸水性樹脂の遠心保持量は3.0g/gであった。吸水時間は3分間経ってもゲル化しなかったため、そこで測定を終了した。
【0054】
比較例2
実施例1で用いたセルロースパウダー(KCフロック W−400G、日本製紙ケミカル株式会社製)3.0g、グルクロン酸ナトリウム一水和物(和光純薬工業株式会社製)1.0g、イオン交換水0.5gを混合させた後に、遊星ミル(フリッチュ社製)で10分間粉砕(回転数400rpm)、10分間静置する操作を4回繰り返し、低結晶性のセルロースパウダーを得た(結晶化度0%)。〔工程(1)〕
pHメータを備えた1Lビーカーに2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(商品名:TEMPO、アルドリッチ社製)0.20g、水100g、工程(1)で得た低結晶性のセルロースパウダー3gを加え、攪拌子を用い200rpmの回転数で攪拌した。温度を25℃に保ち、次亜塩素酸ナトリウム溶液(和光純薬工業株式会社製)29gを滴下して投入した。酸化反応が進行するに従い、pHが低下するので、0.5N NaOH水溶液をマイクロチューブポンプを用いて徐々に添加して溶液のpHを8.5に維持した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液を滴下終了した段階でほぼ均一透明な溶液が得られた。
反応終了後は、前記酸化反応終了後の反応混合物にエタノール1Lに注ぎ、白色固体を沈殿させた。沈殿物を回収し、アセトンで洗浄した後に、40℃で乾燥することで、白色のポリウロン酸(5)3gを得た。
得られたポリウロン酸(5)の重量平均分子量は2万5千、カルボン酸置換度は0.80であった。ポリウロン酸(5)の1H−NMRスペクトルは3.0〜4.5ppm付近に糖骨格に由来するピークを示した。また、そのIRスペクトルは、1600cm−1付近にカルボン酸イオンに相当するピークが観察された。
得られたポリウロン酸(5)を用いて製造した遠心保持量は4.0g/gであった。吸水時間は3分間経ってもゲル化しなかったため、そこで測定を終了した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び(2)を有するポリウロン酸又はその塩の製造方法。
工程(1):セルロース含有原料を、重合度1〜10の酸化糖の共存下に粉砕処理して低結晶性セルロース含有原料を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた低結晶性セルロース含有原料を、中性又は酸性条件下で酸化してポリウロン酸又はその塩を製造する工程
【請求項2】
重合度1〜10の酸化糖が、アルドン酸、ウロン酸、アルダル酸、ケトアルドン酸、シアル酸、及びムラミン酸から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のポリウロン酸の製造方法。
【請求項3】
粉砕処理を媒体式粉砕機で行う、請求項1又は2に記載のポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【請求項4】
工程(2)で、ニトロキシルラジカル化合物の存在下で酸化反応を行う、請求項1〜3のいずれかに記載のポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【請求項5】
工程(2)において、酸化剤として次亜ハロゲン酸又はその塩、及び亜ハロゲン酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種を使用する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【請求項6】
工程(1)の粉砕処理時に共存させる重合度1〜10の酸化糖の量が、セルロース含有原料中のセルロースに対して5〜50重量%である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【請求項7】
ポリウロン酸又はその塩の重量平均分子量が10万以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリウロン酸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造されたポリウロン酸又はその塩に架橋剤を添加し、架橋反応させる吸水性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−18917(P2013−18917A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155176(P2011−155176)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】