説明

ポリエステル、高分子金属錯体およびポリウレタン

【課題】製造が容易で、かつ、コストを低減した、βジケトン構造を導入した高分子およびその高分子金属錯体を提供する。
【解決手段】本発明のポリエステルは、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体との重縮合体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、高分子金属錯体およびポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
βジケトン構造を導入した合成高分子は、各種の金属イオンが配位されことで、発光性を示したり、高分子液晶としての特性を有することから、光電子機能材料として、従来から広く検討されている。
【0003】
このβジケトン構造を導入した合成高分子に金属イオンを配位して高分子金属錯体としたものとしては、例えば、特許文献1に記載のものなどが知られている。
【0004】
特許文献1に記載の高分子金属錯体は、まず、炭化水素ポリマーとβジケトンとを反応させて高分子重合体を合成してから、この高分子重合体に有機化合物配位子および金属化合物を反応させて得られる。
【特許文献1】特開2001−220579公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の発明において使用されるβジケトンは、通常、塩基存在下、エステルとメチルケトンとを縮合させる工程を経て合成されるが、この工程は副反応を含むため収率が低く、精製も頻雑となるという問題がある。
【0006】
また、βジケトン構造をポリマーに導入するために、p−クロロメチルスチレンを重合した後、塩基存在下でアセチルアセトンを反応させる手法が採られるが、p−クロロメチルスチレンは高価な材料であり、さらに二段階の工程を必要とする。
【0007】
すなわち、βジケトン構造を導入した合成高分子を得るには、複数の工程や高価な原料が必要であることから、製造が容易ではなく、コストがかかるという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、製造が容易で、かつ、コストを低減した、βジケトン構造を導入した高分子およびその高分子金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体との重縮合体であることを特徴とするポリエステル;ポリエステルを構成する構成単位の一部に、有機化合物を配位子とする金属が配位されてなることを特徴とする高分子金属錯体;および、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数6〜12の芳香族ジイソシアネートまたは炭素数1〜12の脂肪族ジイソシアネートとの重縮合体であることを特徴とするポリウレタンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル、高分子金属錯体およびポリウレタンを作製するために用いるクルクミンは、下記一般式(4)に示す化合物である。
【0011】
【化4】

【0012】
本発明において使用する、テトラヒドロクルクミンは、下記一般式(5)に示す化合物であり、上記クルクミンを還元することで容易に得られる。
【0013】
【化5】

【0014】
一般式(4)および(5)に示すように、これらの化合物はβジケトン構造を有するとともに、ジオールとして用いることもできる化合物であり、ジカルボン酸またはその誘導体との縮合反応でポリエステルが得られ、ジイソシアネートとの縮合反応でポリウレタンが得られる。
【0015】
さらに、上記のようにして得られたポリエステルには構造中にβジケトン部分が含まれていることから、このβジケトン部分に、有機化合物を配位子とした金属が配位されると、高分子金属錯体が得られる。
すなわち、クルクミンを使用してβジケトン構造を導入する高分子を作製すれば、βジケトンを別途作製する必要がない。
【0016】
なお、テトラヒドロクルクミンを使用する場合には、クルクミンを還元する工程が必要ではあるが、従来品に使用されるβジケトンの製造工程と比較すれば、収率よく製造することができ、製造は容易であるといえる。
【0017】
さらに、クルクミンは、ウコンに含まれる成分であるが、精製品が市販されており、p−クロロメチルスチレンと比較すると安価であるし、テトラヒドロクルクミンの製造には、高価な原料は不要である。
したがって、本発明によれば、製造が容易で、かつ、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<ポリエステル>
本発明のポリエステルは、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体との重縮合体である。
【0019】
本発明において使用するクルクミンは、ショウガ科の植物ウコン(Curcuma longa)に含まれる成分であり、βジケトン構造を有するとともに、ジオールとして用いることもできる化合物である。
【0020】
本発明においては、抽出工程が不要であることから、市販のクルクミンを使用することが好ましいが、ウコンなどのクルクミンを含有する植物から抽出したクルクミンを使用することもできる。
【0021】
本発明において、テトラヒドロクルクミンは、クルクミンを還元することで得られ、クルクミン同様に、βジケトン構造を有するとともに、ジオールとしても用いることができる化合物である。
【0022】
本発明において、市販品をそのまま使用でき、工程が少なくて済むという観点からは、クルクミンが好適である。
しかし、クルクミンを使用して製造したポリエステルは、クルクミン由来の黄色を呈し、テトラヒドロクルクミンを使用して製造したポリエステルは、透明色であることから、所望する色に着色可能であるという観点からは、テトラヒドロクルクミンが好適であり、使用用途等によって、両者を使い分けることができる。
【0023】
クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンとの重縮合に用いられるジカルボン酸またはその誘導体としては、重合の際に使用する溶媒(後述する)への溶解性がよく、均一系での重合が可能であることから、炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体(以下、脂肪族ジカルボン酸類ともいう)が用いられる。
【0024】
炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸や、これらのハロゲン化物(セバシン酸ジクロリドなどの塩化物、フッ化物および臭化物)などが挙げられる。
【0025】
これらのうち、炭素数が4〜12のものは、ポリエステル合成の際に使用する溶媒(後述する)への溶解性が良好であることから好適であり、具体的にはセバシン酸ジクロリドが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステルとしては、一般式(1)
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、nは1〜12の整数を示す)に示す繰り返し単位を有するものや、
一般式(6)
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、nは1〜12の整数を示す)に示す繰り返し単位を有するものが例示される。
【0031】
一般式(1)に示す繰り返し単位を有するポリエステルは、クルクミンと脂肪族ジカルボン酸類との重縮合による生成物であり、一般式(6)に示す繰り返し単位を有するポリエステルは、テトラヒドロクルクミンと脂肪族ジカルボン酸類との重縮合による生成物である。
【0032】
上記したように脂肪族ジカルボン酸類としては炭素数が4〜12のものが好ましいことから、一般式(1)および(6)中のnは、4〜12が好ましい。
本発明のポリエステルの数平均分子量(Mn)は、通常1〜3万程度である。
なお、本発明のポリエステルは、クルクミン類と、クルクミン類以外のジオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール 、1,6−ヘキサンジオール 、シクロヘキサンジメタノールなど)との共重合部分が含まれているものであってもよい。
【0033】
次に本発明のポリエステルの合成方法について説明する。
クルクミンまたはテトラヒドロクルクミン(以下、クルクミン類ともいう)を窒素置換してから、トリエチルアミン(以下、TEAともいう)と溶媒(例えば、クロロホルムまたはジクロロメタンなど)とを加え、氷浴中で攪拌しながら冷却し、クロロホルム又はジクロロメタン等の溶媒と脂肪族ジカルボン酸類との混合物を滴下する。
【0034】
滴下終了後、溶媒を留去し、得られた固体をクロロホルムに溶解させ、ヘキサンで再沈殿を行い、沈殿物をクロロホルムに溶解させ、脱イオン水で洗浄したのち有機層を濃縮すると本発明のポリエステルを得ることができる。
【0035】
本発明のポリエステルの合成の際に使用する溶媒としては、クルクミン類の溶解性が良好であるという観点から、ジクロロメタンまたはクロロホルムが好適であり、生成物であるポリエステルの溶解性をも考慮すると、クロロホルムがさらに好適である。
【0036】
ところで、本発明においては、使用する溶媒量(クルクミン類に加える溶媒と脂肪族ジカルボン酸類に混合する溶媒との合計量)を少なくすると、モノマー(クルクミン類や脂肪族ジカルボン酸類)の濃度が高くなるため、重合が進みやすくなって分子量の高いポリエステルが得られる。
【0037】
しかし溶媒の量を少なくしすぎると、クルクミン類や生成するポリエステルの溶解性が低くなって、ポリマーと塩との複合体と考えられる沈殿物が副生するなどの原因で、生成するポリエステルの分子量が低くなる。
本発明のポリエステルの合成に使用する溶媒の量は上記の点を考慮して、最適な量が決定される。
【0038】
次に、本発明の効果を説明する。
本発明において使用される、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンは、βジケトン構造を有するとともに、ジオールとして用いることもできる化合物であるから、ジカルボン酸類との縮合反応でポリエステルを生成する。
すなわち、クルクミンを使用してβジケトン構造を導入する高分子を作製すれば、βジケトンを別途作製する必要がない。
【0039】
なお、テトラヒドロクルクミンを使用する場合には、クルクミンを還元する工程が必要ではあるが、従来品に使用されるβジケトンの製造工程と比較すれば、収率よく製造することができ、製造は容易であるといえる。
【0040】
さらに、クルクミンは、ウコンに含まれる成分であるが、精製品が市販されており、p−クロロメチルスチレンと比較すると安価であるし、テトラヒドロクルクミンの製造には、高価な原料は不要である。
したがって、本発明によれば、製造が容易で、かつ、コストを低減することができる。
【0041】
<高分子金属錯体>
本発明の高分子金属錯体は、本発明のポリエステルを構成する構成単位の一部に、有機化合物を配位子とした金属が配位されてなる。
【0042】
詳しくは、本発明の高分子金属錯体は、有機化合物を配位子とした金属により配位された構成単位と、前記金属が配位されていない構成単位とからなる。そして、金属は、ポリエステルを構成する構成単位のβジケトン部分に配位されている。
【0043】
本発明の高分子金属錯体に配位される金属としては、Ru、Cr、Fe、Cu、B、Os、Ir、Pt、Eu、TbおよびTiなどがあげられる。
【0044】
上記金属の配位子とされる有機化合物としては、アセチルアセトンなどのジケトン化合物、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタンなどのホスフィン系化合物、フェナントロリン、ビスビピリジル、ターピリジル、ピリジン、フェニルピリジン、2−アリールピリジンなどのアリール系置換基を有するピリジン、イミダゾール、トリアゾール、インドール、ピリミジン、キノリン、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられ、これらは配位される金属により選択される。
【0045】
例えば、Ruの配位子としては、ビスビピリジルなどが用いられ、Irの配位子としては、フェニルピリジン等が用いられ、Euの配位子としてはビピリジル、Tbの配位子としては、アセチルアセトンなどが用いられる。Ptの配位子としては、ピリジン、フェニルピリジン、イミダゾール、トリアゾール、インドール、ピリミジン、キノリン、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどの単座配位子が用いられる。
【0046】
本発明の高分子金属錯体の具体例としては、下記一般式(2)および(7)に示す繰り返し単位を含むものなどがあげられる。
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、nは1〜12の整数、MはRu、Cr、Fe、Cu、B、Os、Ir、Pt、Eu、またはTbを示す)。
【0049】
一般式(2)に示す高分子金属錯体は、クルクミンと脂肪族ジカルボン酸類との縮重合体に含まれる繰り返し単位の一部に、ビスビピリジル(有機化合物)を配位子とした金属を配位したものである。
【0050】
【化9】

【0051】
(式中、nは1〜12の整数、MはRu、Cr、Fe、Cu、B、Os、Ir、Pt、Eu、またはTbを示す)。
【0052】
一般式(7)に示す高分子金属錯体は、テトラヒドロクルクミンと脂肪族ジカルボン酸類との縮重体に含まれる繰り返し単位の一部に、ビスビピリジル(有機化合物)を配位子とした金属を配位したものである。
【0053】
高分子金属錯体において、ポリエステルを構成する構成単位全体に対する、有機化合物を配位子とする金属が配位されている構成単位の割合が、高すぎると高分子金属錯体の溶解性が低下することがある。
例えば、一般式(2)に示す高分子金属錯体において、金属としてRuが配位される場合、ポリエステルの構成単位全体に対して、Ruにより配位されている構成単位の割合は、10%未満であることが好ましい。
なお、ポリエステルを構成する構成単位全体に対する、有機金属を配位子とする金属が配位されている構成単位の割合は、配位される金属によって好適な範囲が異なる。
【0054】
次に、本発明の高分子金属錯体の合成方法について説明する。
まず有機化合物と金属化合物とを反応させて、有機化合物に金属を配位した化合物を作製する。
この化合物に、上述のポリエステルを入れ、窒素置換後テトラヒドロフラン(以下、THFともいう)とTEAとを加えて反応させ、反応終了後THFを留去し、固体をクロロホルムに溶解させ脱イオン水で洗い、有機層を濃縮させた溶液をヘキサンにより再沈殿を行うことで本発明の高分子金属錯体が得られる。
【0055】
次に、本発明の効果を説明する。
本発明の高分子金属錯体は、上述したポリエステルを用いて、このポリエステルに含まれるβジケトン部分に、有機化合物を配位子とした金属を配位させることで得られるから、本発明によれば、製造が容易で、かつ、コストを低減することができる。
【0056】
<ポリウレタン>
本発明のポリウレタンは、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジイソシアネートまたは炭素数6〜12の芳香族ジイソシアネート(以下、ジイソシアネートともいう)との重縮合体である。
【0057】
本発明において使用するクルクミンおよびテトラヒドロクルクミンは、上記ポリエステルの発明において記載したものと同様のものを使用することができる。
【0058】
本発明のポリウレタンの合成に使用されるジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートのいずれも使用することができる。 芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4、4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0059】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−プロピレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、リジンジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記ジイソシアネートのイソシアネート基を活性水素化合物と反応させて保護したものも使用することができる。
【0060】
上記活性水素化合物としては、例えば、炭素数10以下のアルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類、ε−カプロラクタム等のラクタム類、オキシム類、マロン酸ジアルキルエステル、アセチル酢酸アルキルエステル、アセチルアセトン等の活性メチレン化合物等が挙げられる。
【0061】
これらのジイソシアネートのうち、本発明においては、溶媒への溶解性が良好であることから、脂肪族ジイソシアネートが好適であり、炭素数が4〜12のものが特に好適である。
【0062】
本発明のポリウレタンとしては、一般式(3)
【0063】
【化10】

【0064】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基または炭素数6〜12のアリーレン基を示す)示す繰り返し単位を有するものや
一般式(8)
【0065】
【化11】

【0066】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基または炭素数6〜12のアリーレン基を示す)に示す繰り返し単位を有するものが例示される。
【0067】
一般式(3)に示す繰り返し単位を有するポリウレタンは、クルクミンと脂肪族ジイソシアネートとの重縮合生成物であり、一般式(8)に示す繰り返し単位を有するポリウレタンはテトラヒドロクルクミンと脂肪族ジカルボン酸類との重縮合生成物である。
【0068】
の炭素数1〜12のアルキレン基としては、−(CH−で表すことのできる基(xは1〜12)であり、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などがあげられ、Rの炭素数6〜12のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
【0069】
溶媒への溶解性が良好であることから、Rとしては、炭素数1〜12のアルキレン基が好適であり、炭素数が4〜12(xが4〜12)のものが特に好適である。
【0070】
本発明のポリウレタンの数平均分子量(Mn)は、通常1〜3万程度である。 なお、本発明のポリウレタンは、クルクミン類と、クルクミン類以外のジオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール 、1,6−ヘキサンジオール 、シクロヘキサンジメタノールなど)との共重合部分が含まれているものであってもよい。
【0071】
次に本発明のポリウレタンの合成方法について説明する。
クルクミン類を窒素置換した後、溶媒を加える。滴下ロートに、溶媒とジイソシアネートとを加え、加熱還流の元、滴下ロートの液量の半量を一度に加え激しく攪拌する。滴下ロートに残った溶液を数時間かけて滴下し、滴下終了後還流を行い、その後放冷し、ろ過の後ジメチルスルホキシド (以下、DMSOともいう)に溶解させジエチルエーテルで再沈殿を行った。
【0072】
本発明のポリウレタンの合成に使用する溶媒としては、クルクミン類の溶解性を考慮するとアセトン、アセトニトリルが好適であり、特にアセトンが好適である。なお、本発明のポリウレタンの合成には、塩基を使用しないので、クルクミン類の溶解性がポリエステルの合成の場合とは相違する。
【0073】
分子量の高いポリウレタンを得ることができることから、ポリウレタンの反応時間(合計)としては3〜4時間が好ましい。
【0074】
次に、本発明の効果を説明する。
本発明において使用される、クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンは、βジケトン構造を有するとともに、ジオールとして用いることもできる化合物であるから、ジイソシアネートとの重縮合反応によりポリウレタンを生成する。
【0075】
すなわち、クルクミンを使用してβジケトン構造を導入する高分子を作製すれば、βジケトンを別途作製する必要がない。
【0076】
なお、テトラヒドロクルクミンを使用する場合には、クルクミンを還元する工程が必要ではあるが、従来品に使用されるβジケトンの製造工程と比較すれば、収率よく製造することができ、製造は容易であるといえる。
【0077】
さらに、クルクミンは、ウコンに含まれる成分であるが、精製品が市販されており、p−クロロメチルスチレンと比較すると安価であるし、テトラヒドロクルクミンの製造には、高価な原料は不要である。
したがって、本発明によれば、製造が容易で、かつ、コストを低減することができる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明を具体的に示した実施例を示す。
クルクミンとしては、市販のクルクミン(関東化学製)を使用した。
<合成例1(実施例1のポリエステルの合成)>
200mlの二口フラスコに、クルクミン[一般式(4)の化合物)](1.84g,5.00mmol)を入れ、窒素置換したのちジクロロメタン(13ml)、TEA(1.40ml,10.0mmol:キシダ化学製)を加え氷浴中で磁気攪拌のもと10分間冷却した。
滴下ロートにジクロロメタン(25ml)とセバシン酸ジクロリド(1.10ml,5.15mmol)とを加え、20分かけて滴下を行った。
滴下終了後、さらに1時間反応させ、溶媒を留去し、得られた固体をクロロホルムに溶解させヘキサンで再沈殿を2回行った。
得られた沈殿物をクロロホルム300mlにもう一度溶解させ、脱イオン水300mlで3回洗浄したのち有機層を濃縮して黄色固体(実施例1のポリエステル;式(1a)に示す繰り返し単位を含む重縮合体)を得た。収率は68%(1.81g)であった。反応式(A1)を以下に示す。一般式(1a)中、mは整数を示す。
【0079】
【化12】

【0080】
得られた実施例1のポリエステルについて、Bruker ARX-400 (400 MHz)フーリエ変換核磁気共鳴装置を使用してH−NMR分析および紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)により構造を確認した。分析結果を下記に示すとともに、図1および図3にも示した。なお、図2(紫外可視吸収スペクトル)には、クルクミンの分析結果を示した。H−NMR のデータにおいて、Arとはフェニル基のことを示す(以下のデータについても、同様)。
【0081】
H−NMR (CDCl, 400MHz):δ(ppm) 1.41−1.45(8H,−OCOCHCHCHCH−),1.76−1.80(4H,−OCOCHCH−), 2.57−2.61(4H,−OCOCH−), 3.86 (6H,CHO−),5.84(1H,−CO−CH−CO−[enol form]),6.53−6.57(2H, Ar−CH=CH−),7.03−7.15(6H,Ar),7.58−7.62(2H,Ar−CH=CH−)
UV−Vis(CHCL):λmax 400nm
【0082】
H−NMRでは、クルクミン由来、セバシン酸ジクロリド由来のピークが観測された(図1を参照)。
図2および図3を対比すると、クルクミンとセバシン酸ジクロリドとを縮重合しても、クルクミン骨格が存在することがわかった。
【0083】
<実施例2>
クルクミンの使用量を0.737g(2.00mmol)とし、セバシン酸ジクロリドの使用量を0.430g(2.01mmol)とし、TEAの使用量を0.56ml(4.03mmol)とし、ジクロロメタンに代えてクロロホルムを合計量で20.4ml使用した以外は実施例1のポリエステルの合成(合成例1)と同様にして、実施例2のポリエステルを得た。
収率は45%(0.477g)であった。
【0084】
<実施例3>
クロロホルムを合計量として17.8ml使用した以外は実施例2と同様にして、実施例3のポリエステルを得た。収率は49%(0.529g)であった。
【0085】
<実施例4>
クルクミンの使用量を0.738g(2.00mmol)とし、クロロホルムを合計量として15.2ml使用した以外は実施例2と同様にして、実施例4のポリエステルを得た。収率は68%(0.723g)であった。
【0086】
<実施例5>
クロロホルムを合計量として13.5ml使用した以外は実施例2と同様にして、実施例5のポリエステルを得た。収率は61%(0.654g)であった。
【0087】
<実施例6>
クロロホルムを合計量として9.0ml使用した以外は実施例2と同様にして、実施例6のポリエステルを得た。収率は63%(0.675g)であった。
【0088】
<実施例7>
クロロホルムを合計量として5.0ml使用した以外は実施例2と同様にして、実施例7のポリエステルを得た。収率は64%(0.687g)であった。
【0089】
<参考例1>
クルクミンの使用量を0.369g(1.00mmol)とし、セバシン酸ジクロリドの使用量を0.220g(1.02mmol)とし、TEAの使用量を0.28ml(2.01mmol)とし、ジクロロメタンに代えてクロロホルムを合計量で7.6ml使用し、滴下時間を5分とした以外は実施例1のポリエステルの合成(合成例1)と同様にして、参考例1のポリエステルを得た。
収率は3.6%(0.0193g)であった。
【0090】
表1には、実施例1〜7および参考例1のポリエステルの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)および得られたポリマーの収率(%)を示した。なお表1中のMn×10−3とは、Mnに10−3を乗じた値であり、収率を記載した欄の上段は得られたポリエステルの量(g)を示し、下段は収率(%)を示す。
【0091】
【表1】

【0092】
<結果と考察>
表1および上記の結果から以下のようなことがわかった。
(1)クルクミン1mmolに対してジクロロメタンを7.6ml使用している実施例1と、クルクミン1mmolに対してクロロホルムを7.6ml使用している実施例4とを比較すると、実施例4のポリエステルのほうが実施例1のポリエステルよりも数平均分子量が高かった。
このことから、本発明のポリエステルの合成には、溶媒としてクロロホルムを使用するのが好ましいということがわかった。
【0093】
(2)実施例2〜7の結果を比較すると、クロロホルムの量(クルクミン類に加える溶媒と脂肪族ジカルボン酸類に混合する溶媒との合計量)が、1mmolのクルクミン類に対して7.6ml以下(実施例4〜7)の場合には、クロロホルムが多くなるにつれ、生成するポリエステルの分子量が高くなるが、クロロホルムの量が7.6mlを超える(実施例2、3)と、生成するポリエステルの分子量が減少する傾向にあった。
これは、クロロホルムの量を1mmolのクルクミン類に対して7.6ml以下にすると、モノマー(クルクミンやセバシン酸ジクロリド)の濃度が高くなるため、重合が進みやすくなって分子量の高いポリエステルが得られるからであると考えられる。
【0094】
このことからクロロホルムの量は、1mmolのクルクミン類に対して7.6ml以下であることが好ましいといえるが、クロロホルムの量が、1mmolのクルクミン類に対して4.5ml未満のもの(実施例7)では、生成するポリエステルの分子量が低くなった。
これは、クロロホルムの量が少なすぎるとクルクミンや生成するポリエステルの溶解性が低くなるため、ポリマーと塩との複合体と考えられる沈殿物が副生することに起因すると考えられる。
【0095】
従って、本発明のポリエステルの合成に使用するクロロホルムの量(合計量)は1mmolのクルクミン類に対して、4.5ml以上7.6ml以下のものが好ましいということがわかった。
【0096】
(3)参考例1では、クルクミン、セバシン酸ジクロリド、TEA、クロロホルムを実施例4と同じ割合で使用し、滴下時間以外の条件も実施例4と同じであるにもかかわらず、収率が悪く得られたポリエステルの分子量も低かった。
これは、溶媒と脂肪族ジカルボン酸類との混合物の滴下時間が短すぎたため不溶物が多く生成し収率が大きく低下したのが原因ではないかと考えられる。このことから滴下時間は6〜20分であることが好ましいということがわかった。
【0097】
<合成例2(実施例8、9の高分子金属錯体の合成)>
(合成例2−1)ビスビピリジルルテニウムジクロリド[以下、Ru(bpy)Clともいう]の合成
50mlの二口フラスコに塩化ルテニウム・n水和物(0.340g,1.30mmol)、2,2’−ビピリジル[0.469g,3.00mmol:一般式(9)の化合物]、塩化リチウム(0.423g,9.98mmol)を入れ、窒素置換後DMF(2.5ml)を加え、175℃で8時間還流したのち、室温まで放冷した。
次に、アセトン(12.5 ml)を加えて撹拌し、その後、0℃の暗所で3日間静置し、ろ過して得られた紫色の固体を、脱イオン水(10ml)で3回洗い、つづいてジエチルエーテル(10ml)で3回洗い真空乾燥をして、Ru(bpy)Cl[一般式(10)に示す化合物]を得た。
収率は23%(0.146g,0.301mmol)であった。反応式(b1)を以下に示す。
【0098】
【化13】

【0099】
一般式(10)に示す化合物(ビスビピリジルルテニウムジクロリド)について、紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)により構造を確認した。分析結果を下記に示すとともに、図5にも示した。
λmax:385nm, 565nm
【0100】
(合成例2−2A)ポリエステルとRu(bpy)Clとの錯体形成
50 mlの二口フラスコに、合成例2−1により得られたRu(bpy)Cl (10.7mg,0.0221mmol)と実施例4のポリエステル(0.0589g,0.110unit mmol)とを入れ、窒素置換後、THF(3.0ml)およびTEA (6.0μl,0.0440mmol)を加えた。
【0101】
これを60 ℃で3時間反応させ、反応終了後にTHFを留去し、固体をクロロホルムに溶解させ、脱イオン水(100 ml)で3回洗った。有機層を濃縮させた溶液をヘキサンで再沈殿を2回行うことにより固体状の高分子金属錯体[実施例8の高分子金属錯体;一般式(2a)の繰り返し単位を一部に含む高分子金属錯体]を得た。
【0102】
実施例8の高分子金属錯体においては、ポリエステルを構成する構成単位全体に対する、Ru(bpy)Clが配位されている構成単位の割合は、8.3%であった。
【0103】
なお、「unit mmol」とは、ポリエステルを構成する1構成単位(1ユニット)を1分子とみなした場合のモル数を示す。
【0104】
ポリエステルとRu(bpy)Clとの反応を示す式(B1)を以下に示す。一般式(1a)中のmは整数を示し、一般式(2a)中のpはmよりも小さい整数を示す。
【0105】
【化14】

【0106】
得られた実施例8の高分子金属錯体(2a)について、実施例1に示すポリエステルと同様に、H−NMR分析および紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)により構造を確認した。分析結果を下記に示すとともに、図4および図6(波長500nm以上の部分)にも示した。
【0107】
H-NMR(CDCl, 400 MHz) : δ(ppm)1.40−1.44(8H,−OCOCHCHCHCH2−),1.73−1.79(4H,−OCOCH2CH2−), 2.56−2.60(4H,−OCOCH−),3.85(6H,CHO−),5.84(1H,−CO−CH−CO−[enol form]),6.52−6.56(2H,Ar−CH=CH−),7.02−7.14(6H,Ar), 7.57−7.61(2H,Ar−CH=CH−),7.64−8.14(H,2,2’−ビピリジル)
UV−Vis(CHCL):λmax 400nm,550nm
【0108】
なお、図5(紫外可視吸収スペクトル)には、合成例2−1で得られたRu(bpy)Clの分析結果を示した。
UV−Visの結果のうち、400nmの吸収はクルクミン由来と考えられ、550nmの吸収は、図6と図5との対比により、ルテニウム錯体の金属−配位子電荷移動に由来すると考えられる。
【0109】
(合成例2−2B)
実施例4のポリエステルの使用量を0.118g(0.221unit mmol)、Ru(bpy)CLの使用量を11.7mg(0.0242mmol)、TEAの使用量を2.0μl(0.0147mmol)とした以外は、合成例2−2Aと同様にして、実施例9の高分子金属錯体を得た。
実施例9の高分子金属錯体においては、ポリエステルを構成する構成単位全体に対する、Ru(bpy)Clが配位されている構成単位の割合は、3.9%であった。
この合成例では、上記合成例2−2AよりもRu(bpy)Clに対するTEAの当量比が低いことから、TEAの当量比を高くしたほうが反応性が向上すると考えられる。
【0110】
<参考合成例1[クルクミンとRu(bpy)Clとの錯形成反応]>
50mlの二口フラスコに、合成例2−1で得られたRu(bpy)Cl(23.3mg,0.0481mmol)、クルクミン(35.7mg,0.0969mmol)を入れ、窒素置換後に、THF(10ml)とTEA(10.0μl,0.0733mmol)とを加えた。
60℃で3時間反応させ、反応終了後にろ過し、固体を脱イオン水で洗った。得られた固体をメタノールに溶かし、カラム(neutral alumina; Brockmann activity III)に通して精製を行い、メタノールを留去し真空乾燥した。収率は46%(55.9mg,0.0685mmol)であった。
得られた金属錯体について、紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)により構造を確認した(測定に使用した機器は実施例1と同じ)。分析結果を下記に示す。
【0111】
UV−Vis(CHCL):λmax 400,415,517nm
なお、上記の合成例ではRu(bpy)Clに対するTEAの当量比が約1.5となるような条件で錯体形成反応を行ったが、この当量比が0.5となるような条件についても検討した。
その結果、当量比を0.5としたものでは、クルクミンとRu(bpy)CLの混合物しか確認されなかった。このことから、ポリマー同様にTEAの当量比が錯体形成に関与していると考えられる。
【0112】
<合成例3(実施例10のポリウレタンの合成)>
50mlの二口フラスコに、クルクミン(0.737g,2.00mmol)を入れ、窒素置換した後、アセトン(6.00ml)を加えた。
滴下ロートにアセトン(4.00ml)とヘキサメチレンジイソシアネート(0.32ml,2.01mmol)を加え、加熱還流下、滴下ロートの液量の半量を、クルクミンとアセトンの入った二口フラスコに一度に加え、激しく攪拌した。残りの溶液を数時間かけて滴下し、滴下終了後1時間還流をした。その後放冷し、ろ過後DMSOに溶解させ、ジエチルエーテルで再沈殿を行って一般式(3a)に示す実施例10のポリウレタンを得た。
反応温度は、クルクミンを溶解させるために、アセトンの還流温度(56℃)に設定し、反応時間(合計)は3時間であった。収率は96%(1.03g,1.02unit mmol)であった。 反応式(C1)を以下に示す。なお一般式(3a)中のmは整数を示す。
【0113】
【化15】

【0114】
得られた実施例10のポリウレタン(3a)について、実施例1と同様に、H−NMR分析および紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)により構造を確認した。分析結果を下記に示すとともに、図7および図9にも示した。
【0115】
H-NMR (DMSO,400MHz):δ(ppm)1.33(4H,−OCONHCHCHCH−),1.48(4H,−OCONHCHCH−),3.05−3.06 (4H,−OCONHCH−),3.83(6H,CHO−),6.13−6.19(1H,−CO−CH−CO−[enol form]),6.94−6.98(2H,Ar−CH=CH−),7.12−7.47(6H,Ar),7.62−7.66(2H,Ar−CH=CH−),7.75−7.76(2H,−NH−)
UV−Vis(CHCL):λmax 410nm
【0116】
H−NMRでは、クルクミン由来、ヘキサメチレンジイソシアネート由来のピークが観測された(図1を参照)。
なお、図8(紫外可視吸収スペクトル)には、クルクミンの分析結果を示した。
図8および図9を対比すると、クルクミンとヘキサメチレンジイソシアネートとを縮重合しても、クルクミン骨格が存在することがわかった。
【0117】
<実施例11>
ヘキサメチレンジイソシアネートの使用量を0.380ml(2.01mmol)、反応時間(合計)を4時間としたこと以外は実施例10と同様にして、実施例11のポリウレタンを得た。収率は86%(0.924g)であった。
【0118】
<実施例12>
クルクミンの使用量を0.738g(2.00mmol)、反応時間(合計)を1.5時間としたこと以外は実施例10と同様にして、実施例12のポリウレタンを得た。収率は55%(0.592g)であった。
【0119】
<実施例13>
アセトンに代えてアセトニトリルを合計量で10ml使用し、反応時間(合計)を2.75時間としたこと以外は実施例10と同様にして、実施例13のポリウレタンを得た。収率は87%(0.928g)であった。
【0120】
表2には、実施例10〜13のポリウレタンの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)および得られたポリマーの収率(%)を示した。なお表2中のMn×10−3とは、Mnに10−3を乗じた値であり、収率を記載した欄の上段は得られたポリウレタンの量(g)を示し、下段は収率(%)を示す。
【0121】
【表2】

【0122】
<結果と考察>
(1)溶剤としてアセトンを使用している実施例10と、アセトニトリルを使用している実施例13とを比較すると、実施例10のポリウレタンのほうが実施例13のポリウレタンよりも数平均分子量が高かった。
このことから、本発明のポリウレタンの合成には、溶媒としてアセトンを使用するのが好ましいということがわかった。
【0123】
(2)実施例10〜12を比較すると、反応時間(合計)が3時間である実施例10のポリエステルの数平均分子量が最も高かった。
このことから、好ましい反応時間(合計)は3〜4時間であることがわかった。
【0124】
<試験例>
(1)溶解性試験
実施例6のポリエステルおよび実施例10のポリウレタンをそれぞれ、12種類の溶媒(1ml)に0.1mgずつ加えていき、溶解性を調べた。
【0125】
1)本発明のポリエステルの溶解性
使用した溶媒は、ヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、エタノール、2−プロパノール、THF、アセトン、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、DMSOの12種類である。結果を表3に示す。
表3中の溶解性の記載について、例えば、「<0.1」とは、ポリエステルを0.1mg加えた場合に溶解しなかったことを示し、「<0.3」とはポリエステルを0.2mg加えた場合には溶解したが、0.3mg加えた場合には溶解しなかったことを示す。
【0126】
溶解性の基準は以下の通りである。
×:溶媒1mlに対して溶解するポリエステルの量が0〜0.1mg未満
△:溶媒1mlに対して溶解するポリエステルの量が0.1mg以上1.0mg未満
○:溶媒1mlに対して溶解するポリエステルの量が1.0mg以上10.0mg未満
◎:溶媒1mlに対して溶解するポリエステルの量が10.0mg以上
【0127】
【表3】

【0128】
表3より、本発明のポリエステルは、ジクロロメタン、クロロホルムに対して比較的高い溶解性を示すことがわかった。
【0129】
2)本発明のポリウレタンの溶解性
使用した溶媒は、ヘキサン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、2−プロパノール、THF、アセトン、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、DMSOの12種類である。結果を表4に示す。
表4中の溶解性の記載について、例えば、「<0.1」とは、ポリウレタンを0.1mg加えた場合に溶解しなかったことを示し、「<0.3」とはポリウレタンを0.2mg加えた場合には溶解したが、0.3mg加えた場合には溶解しなかったことを示す。
【0130】
溶解性の基準は以下の通りである。
×:溶媒1mlに対して溶解するポリウレタンの量が0〜0.1mg未満
△:溶媒1mlに対して溶解するポリウレタンの量が0.1mg以上1.0mg未満
○:溶媒1mlに対して溶解するポリウレタンの量が1.0mg以上10.0mg未満
◎:溶媒1mlに対して溶解するポリウレタンの量が10.0mg以上
【0131】
【表4】

【0132】
表4より、本発明のポリウレタンは、DMSOやDMFのような極性の高い溶媒に高い溶解性を示すことがわかった。
【0133】
(2) 生分解性試験
(2−1)酵素分解性試験
実施例3のポリエステルと実施例6のポリエステルについて、酵素分解性試験を行った。酵素としては、pseudomonas sp. lipase(ア)、pseudomonas sp. choresterol esterase (イ)、pseudomonas sp. lipoprotein lipase(ウ)、Proteinase K(エ)、Papain(オ)を用いた。
【0134】
まず、リン酸二水素カリウム水溶液とリン酸水素二ナトリウム水溶液を混合することにより、リン酸緩衝液(pH7、以下、「PB」という)を調製した。
【0135】
次に、(ア)(イ)の酵素を12.5unit mmol/ml、(ウ)、(エ)および(オ)の酵素は、125unit mmol/mlとなるようにPBで溶解した。次に、この酵素溶液を、それぞれ2mLずつ、25mgのポリエステルを入れたサンプル瓶に加えた。ブランクとしてPBと酵素、PBのみ、PBとポリエステルの3種類を用意した。
なお「unit mmol/ml」とは、ポリエステルまたはポリウレタンを構成する1構成単位(1ユニット)を1分子とみなしたときの、酵素溶液1ml中の酵素のモル濃度を示す。
【0136】
ポリエステルとしては、酵素(ア)に対しては、実施例6のポリエステルをフィルム状にしたもの、酵素(イ)および(ウ)に対しては、実施例6のポリエステルをディスク状にしたもの、酵素(エ)および(オ)に対しては実施例3のポリエステルをディスク状に成形したものをそれぞれ用いた。
【0137】
これらすべてを恒温槽で37℃、80ストローク/分に保ち、24時間反応させ、全有機体炭素量(TOC)を、島津製作所製TOC-5000A型全有機炭素計を使用して測定した。
TOCの測定結果を以下の式に従い補正して、酵素溶液のTOCを算出し、結果を図10に示した。
【0138】
酵素分解によるTOC(補正値)=
(サンプルのTOC)−[ブランク(PBと酵素)のTOC]−
[ブランク (PBとポリマー)のTOC]+[ブランク(PB)のTOC]
図10中、加水分解によるTOCとは、PBとポリエステルのみの反応液のTOC値のことをいう。
図10に示すように、すべてのサンプルにおいて、酵素による分解がほとんど起きていないことがわかった。
【0139】
(2−2)生物化学的酸素要求量(BOD)試験
試料として実施例4のポリエステルと、実施例11のポリウレタンをそれぞれ、粉末状にしたものを15mgずつ用いて、以下の手順によりBOD試験を行った。
活性汚泥として、名古屋市名東区の西山下水処理場から採取したものを使用し、JISK 6950に準じて懸濁濃度が30mg/lになるように活性汚泥溶液を調製した。試料と活性汚泥溶液150mlをふらん瓶にとり試験を開始し、25℃で31日間の酸素消費量を、タイテック製 BOD TESTER 200Fを使用して測定し、試料が完全に酸化されるのに必要とする理論酸素消費量(TOD)に対する酸素消費量(BOD)の割合(BOD生分解度)を下式より算出して生分解性を評価し、結果を図11に示した。
BOD生分解度(%)=(SBOD - BBOD) /TOD×100
(式中、SBODとは試料のBOD値、BBODとはブランクのBOD値、TODとは試料を完全に酸化するのに必要とする酸素消費量を示す)。
【0140】
ポリエステルでは31日間を通じで分解性を示さなかったが、ポリウレタンでは14日目ごろから少しずつ分解がはじまり、18日目には約10%の値を示すことがわかった。
【0141】
(2−3)光分解性試験
実施例1のポリエステル0.181gをクロロホルム60mlに溶解させ、光反応装置の5口フラスコに注ぎ入れた。装置を設置したのち低圧水銀ランプ (USHIO;ULO−6DQ;6W;253.7nm) を点灯し、所定時間ごとに1mlずつ取り出して、その溶液についてSEC測定を行うことにより分解性の試験を行った。
なおSEC測定には、東ソー製高速液体クロマトグラフSD−8020(カラム、東ソー、TSK−gel G2000HXL、G3000HXL、及びG5000HXL;溶出液、クロロホルム;温度 40℃;流速 1.0ml/min)、及びJASCO製高速液体クロマトグラフィー DG-980-50 (カラム、東ソー、TSK−gel α−5000及びα−3000;溶出液、DMSO;温度、50℃;流速、1.0ml/min)を使用した。結果を表5に示す。
【0142】
【表5】

【0143】
ポリエステルの数平均分子量は、約6000ほど減少し、紫外光による有意な分解が観測された。
【0144】
(3)熱安定性試験
実施例1のポリエステルおよび実施例11のポリウレタンについて、セイコーインスツルメンツ製TGA−6200熱重量分析計を使用して熱分析を行った。
分析の結果、5%重量減少温度は、実施例1のポリエステルでは297℃、実施例11のポリウレタンでは229℃であり、熱安定性は比較的高いということがわかった。
【0145】
(4)まとめ
1)ポリエステル
本発明のポリエステルは、ジクロロメタン、クロロホルムに対して比較的高い溶解性を示すことから、精製しやすく、フィルムなどへの加工成形、金属化合物との錯体形成、および高分子触媒などに好適に使用することができる。
また、本発明のポリエステルは、比較的、熱安定性が高いことから、熱的耐久性の必要とされる用途にも好適であるといえる。
【0146】
2)ポリウレタン
本発明のポリウレタンは、DMSOやDMFのような極性の高い溶媒に高い溶解性を示すことから、精製が容易で、フィルムなどへの加工成形、金属化合物との錯体形成、および高分子触媒などに好適に使用することができる。
また、本発明のポリウレタンは、BOD試験の結果、10%ほどのゆっくりとした生分解性を示した。このことから適度な生分解性を示す環境調和型材料として様々な用途に有用であるといえる。
さらに、本発明のポリウレタンは、比較的、熱安定性が高いことから、熱的耐久性の必要とされる用途にも好適であるといえる。
<他の実施形態>
【0147】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、クルクミンをモノマーとするポリエステル、ポリウレタンおよび高分子金属錯体を示したが、テトラヒドロクルクミンをモノマーとしたものも本発明に含まれる。
【0148】
(2)上記実施例においては、ビスビピリジルを配位子としたルテニウムをポリエステルに配位したものを示したが、他の有機化合物を配位子とし、別の金属を配位したもの、例えば、フェニルピリジンを配位子としたイリジウムをポリエステルに配位したもの、ビピリジルを配位子としたユーロピウムをポリエステルに配位したもの、アセチルアセトンを配位子としたテルビウムをポリエステルに配位したもの、フェニルピリジンを配位子とした白金をポリエステルに配位したものなどであってもよい。
【0149】
(3)上記実施例においては、脂肪族カルボン酸類としてセバシン酸ジクロリドを用いたが、シュウ酸ジクロリド、マロン酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリドなどであってもよい。
【0150】
(4)上記実施例においては、ジイソシアネート化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いたが、テトラメチレンジイソシアネートやフェニレンジイソシアネートなどであってもよい。
【0151】
(5)本発明のポリエステル、高分子金属錯体及びポリウレタンは、上記したように、光電子機能材料、触媒などへの利用が可能である以外に、化粧品などへの利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】実施例1のポリエステルのH−NMRチャート
【図2】クルクミンの紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図3】実施例1のポリエステルの紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図4】実施例8の高分子金属錯体のH−NMRチャート
【図5】合成例2−1で得られたRu(bpy)Clの紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図6】実施例8の高分子金属錯体の紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図7】実施例10のポリウレタンのH−NMRチャート紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図8】クルクミンの紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図9】実施例10のポリウレタンの紫外可視吸収スペクトル(UV−Vis)
【図10】酵素分解性試験の結果を示すグラフ
【図11】BOD試験の結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体との重縮合体であることを特徴とするポリエステル。
【請求項2】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、nは1〜12の整数を示す)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル。
【請求項3】
前記一般式(1)において、nが4〜12であることを特徴とする請求項2に記載のポリエステル。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステルを構成する構成単位の一部に、有機化合物を配位子とする金属が配位されてなることを特徴とする高分子金属錯体。
【請求項5】
前記有機化合物が、フェナントロリン、アセチルアセトン、ビスビピリジル、ターピリジル、ピリジン、2−アリールピリジン、イミダゾール、トリアゾール、インドール、ピリミジン、キノリン、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、またはジフェニルホスフィノブタンであることを特徴とする請求項4に記載の高分子金属錯体。
【請求項6】
下記一般式(2)
【化2】

(式中、nは1〜12の整数、MはRu、Cr、Fe、Cu、B、Os、Ir、Pt、EuまたはTbを示す)に示す繰り返し単位を一部に含有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の高分子金属錯体。
【請求項7】
クルクミンまたはテトラヒドロクルクミンと、炭素数1〜12の脂肪族ジイソシアネートまたは炭素数6〜12の芳香族ジイソシアネートとの重縮合体であることを特徴とするポリウレタン。
【請求項8】
下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基または炭素数6〜12のアリーレン基を示す)に示す繰り返し単位を有する請求項7に記載のポリウレタン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−280418(P2008−280418A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124880(P2007−124880)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載アドレス http://www.spsj.or.jp http://www.spsj.or.jp/nenkai.html 掲載日 2007年3月6日
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】