説明

ポリエステルから有効成分を製造する方法

【課題】6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分並びに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から、該酸を高収率にて安定して回収する方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分並びに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物を、下記工程(a)〜(c)に順次供して、該酸を回収する。


工程(a):前記ポリエステル組成物をアルカリ金属の水酸化物等とを溶解度パラメータ(SP値)が11以上の溶媒の共存下で反応させる反応工程。工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を得る工程。工程(c):工程(b)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩と酸とを反応させて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を他のジカルボン酸成分から分離し、高収率にて安定して製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートといったポリエステルは優れた耐熱性や物理的特性を有することから幅広く使用されてきているが、市場はさらなる高性能化が求められている。ここで、前述のポリエステルよりも更に高性能のポリエステルとして、特許文献1〜4には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のエステル化合物であるジエチル6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートから得られる芳香族ポリエステル樹脂が提案されている。これらのポリエステル樹脂は非常に優れた機能性を有するが、その原料はテレフタル酸やナフタレンジカルボン酸(ジメチルエステル体も含む)に比べて、非常に高価である。加えて、このポリエステル樹脂は、その重合工程、あるいは糸状、フィルム状に成形する加工工程において不良品、屑等が発生しやすいことなどから、これらの不良品や屑、さらには使用後の製品(これらを総称して、単にポリエステル廃棄物と略称することもある。)を回収し、再利用することが経済的に好ましく、さらには地球環境対策上の観点から必要である。これら回収したポリエステル廃棄物の中には滑剤、難燃剤および他のプラスチック、特に他のジカルボン酸成分骨格を持つポリエステルが混入しており、そのまま溶融成形し再利用することは困難なことが多い。ここで、混入とは単純な混合物のみをではなく、共重合も含んでいる。このような背景から、これら回収したポリエステル廃棄物を反応と同時に大半の他のカルボン酸成分を含む不純物と分離し、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸誘導体成分を有価物として回収すれば、その後の分離精製も容易になり、地球環境保護の観点上からも望ましいし、製造コストの低下にもつながる。
【0003】
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の誘導体を回収する方法については明確な技術は存在していないが、2種類のポリエステル成分から、1種類のポリエステルモノマーを分離回収する方法としては、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと略称することもある)およびポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称することもある)の混合物から2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、NDCEと略称することもある)およびテレフタル酸ジメチル(以下、DMTと略称することもある)を分離回収するに際し、NDCEとDMTとを2基の蒸留塔を活用して、蒸留分離する方法(例えば、特許文献6参照)やPENとPETの混合物をメタノールを反応させるとともに、未反応のメタノールとNDCEとDMTとを同伴蒸発させ、この混合物を再結晶処理した後、固液分離する方法(例えば、特許文献7参照)が知られている。しかしながら、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸誘導体は、非常に高価である、蒸気圧が低いため蒸留精製が困難である、他の溶融カルボン酸エステル類と相互溶解するといった特徴をもっているため、これらの既知の分離回収方法を活用したとしても、収率が向上できずロスが大きい、精製工程が複雑になりエネルギー負荷が大きくなる、高純度の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸誘導体を得られない等といった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平06−145323号公報
【特許文献5】特開2001−139517号公報
【特許文献6】特許第3499598号公報
【特許文献7】特許第3526899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物を反応させるとともに、他のカルボン酸成分を含む不純物を分離し、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を高収率にて安定して製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの研究によれば、「下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を製造するに際し、下記工程(a)〜(c)に順次供することを特徴とする6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法。
【化1】

工程(a):前記ポリエステル組成物をアルカリ金属の単体、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物およびアルカリ土類金属の弱酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを溶解度パラメータ(SP値)が11以上の溶媒の共存下で反応させる反応工程
工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を得る工程
工程(c):工程(b)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩と酸とを反応させて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を得る工程」
により、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の効率的な分離・製造が可能となり、上記目的が達成できることが見出された。
【発明の効果】
【0007】
本発明の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物を原料とした6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法によれば、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を高収率で容易に製造・回収するだけでなく、分離精製に必要なエネルギー負荷を削減できるので、コストを削減することも可能となる。これらの効果により、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を安定して分離・製造・回収することができる。より詳細に説明するならば、以下のとおりである。すなわち通常の精製操作で行われている蒸留による精製操作や再結晶による精製操作においては、蒸留操作においては反応生成物全体を目的とする化合物の沸点近傍からそれ以上の温度まで加熱することに多量の熱エネルギーが必要であるし、再結晶操作においては溶媒の乾燥のみならず操作終了後の溶媒の回収・精製に要するエネルギーが多量に必要となる場合がある。一方で本願発明の製造方法においては、水による洗浄のみで高収率・高純度の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を得ることができるという観点から分離精製に必要なエネルギー負荷を削減できることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について1例を用いて説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。本発明に従う方法を実行するためには、まず、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物をアルカリ金属の単体、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物およびアルカリ土類金属の弱酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、反応金属種と略称することがある)とを溶解度パラメータが11以上の溶媒の共存下で反応させることが必要である。なお、弱酸塩の例としては炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩その他の有機カルボン酸塩などが挙げられる。また、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物とは、全重量の80重量%以上が多価カルボン酸と多価アルコールとを重合したポリエステルおよび/またはそのオリゴマーやモノマーであり、ポリエステルを構成する多価カルボン酸のうち、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が占める割合が1〜99mol%であり、かつ他のジカルボン酸成分が占める割合が1mol%以下であるポリエステルのことである。または全重量の70重量%以上が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分とグリコールを含むジヒドロキシ化合物から構成されるポリエステルであり、全重量の0.5重量%以上が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸以外の他のジカルボン酸成分とグリコールを含むジヒドロキシ化合物から構成されるポリエステルであることを表す。なお、この本発明におけるポリエステル組成物における他のジカルボン酸成分の存在態様としては、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含むポリエステルに対して共重合物として存在していている場合、他のジオール成分と共に別種のポリエステルが構成され上記ナフトエ酸成分を含むポリエステルとの混合物である場合、共重合物と混合物の双方の形態で存在している場合であっても特に限定はない。これらの場合のすべてを本発明の製造方法においては含有しているので、本願発明の製造方法においては原料を「ポリエステル組成物」と表現している。
【0009】
そのポリエステルを構成する多価カルボン酸としては、好ましくは2価のカルボン酸であり、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(カルボキシル基の位置が異なる各構造異性体を含む)、ジフェニルジカルボン酸(カルボキシル基の位置が4,4’−に限定されず、カルボキシル基の位置が異なる各構造異性体を含む)、ジフェニルエーテルジカルボン酸(同前)、ジフェノキシエタンジカルボン酸(同前)、ジフェニルスルホンジカルボン酸(同前)、ジフェニルケトンジカルボン酸(同前)、フランジカルボン酸(同前)を挙げることができる。より好ましくは、他のジカルボン酸成分がテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸であることである。一方多価アルコールとしては、好ましくは2価のアルコールであり、より具体的にはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシデカリン、キシレングリコール(ジヒドロキシメチルベンゼン)、p−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2−(β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−(β−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)プロパン、(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。また当該ポリエステルには他に、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシルビフェニル、グリコール酸、乳酸などの各種ヒドロキシカルボン酸が共重合されていたり、ポリエステル組成物中にこれらの成分を含むオリゴマー、モノマーが含まれていても良い。
【0010】
ポリエステル組成物と反応させる反応金属種化合物としては、反応性ならびに反応生成物の操作性の観点から、アルカリ金属の単体、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物およびアルカリ土類金属の弱酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。より具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸ルビジウム、プロピオン酸セシウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸ルビジウム、安息香酸セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ストロンチウム、プロピオン酸バリウム、安息香酸マグネシム、安息香酸カルシウム、安息香酸ストロンチウム、安息香酸バリウムを挙げることができる。これらの中でもナトリウム、カリウムおよびカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、特に好ましくは水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである。なお、これらの反応金属種の使用量としては、反応金属種が少ないと反応が進行しない、反応金属種が多いと反応生成物と反応金属種との分離が煩雑になるという観点より、ポリエステル組成物に含まれるカルボキシル基に対し、0.5〜5mol倍とすることが好ましく、特に好ましくは1〜3mol倍である。
【0011】
このポリエステル組成物と反応性金属種の反応に使用する溶媒としては、反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を固形物で回収し、他のカルボン酸金属塩を液成分に分離するため、溶解度パラメータ(SP値)が11以上であることが必要であり、好ましくは13以上の極性溶媒である。また、コストの観点から、ポリエステルを構成している炭素数が比較的少ない、具体的には炭素数が2〜6の多価アルコールもしくは水を使用することが特に好ましい。なお、溶解度パラメータには様々な算出方法があり、主要な溶媒では同様の値になることが知られているが、本報での溶解度パラメータはHildebrandの溶解度パラメータである。具体的には、溶解度パラメータが11以上の溶媒としては水(23.4)、メタノール(14.5〜14.8)、エタノール(12.7)、イソプロパノール(11.5)、エチレングリコール(14.2)、蟻酸(13.5)、酢酸(12.6)、フェノール(14.5)、クレゾール(13.3)、ジメチルホルムアミド(12.0)、アセトニトリル(11.9)といった各種の溶媒を挙げることができる。なお、カッコ内の数値はそれぞれのSP値を示している。
【0012】
また、溶媒の使用量が少ない場合、ポリエステル組成物の表面と溶媒との接触効率が悪くなる、操作性が悪くなるといった悪影響が発現する。溶媒の使用量が多くなると、設備の規模が大きくなるといった悪影響が発現する。このため、溶媒の量としては、工程(a)に供給されるポリエステル組成物に対し、1重量部以上100重量部以下であることが好ましく、2重量部以上20重量部以下とすることが特に好ましい。
【0013】
反応条件としては、先述のポリエステル組成物と反応金属種との反応させる工程である工程(a)の化学反応が進行すればどのような条件を採用しても問題ないが、反応速度の観点より、反応時の圧力における溶媒の沸点で実施することが好ましい。上述の要件を満たす条件にて当該ポリエステル組成物を反応させることによりポリエステルが分解等されて、反応生成物である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩が得られる。次に、上述の操作により得られたポリエステル組成物と反応金属種とを溶媒の共存下で反応させた反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を得る工程である工程(b)に供する方法が本発明である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩の製造方法である。
【0014】
本発明においては、好ましくは工程(b)において、工程(a)で得られた反応生成物を固体成分と液体成分とに固液分離することができる。固液分離の方法としては、固体成分と液体成分に分離できれば公知の条件のいずれを採用してもかまわない。固液分離の例としては、例えばろ過や遠心分離などが挙げられる。反応生成物である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩は上記の溶媒には難溶であるので、ほとんどの場合には固体成分として得ることができる。固液分離により得られた固体成分には液体成分や不純物が含まれているので、洗浄および/または再結晶することにより精製処理を行うことが好ましい。ここで洗浄とは、得られた固体成分の表面に付着している不純物を含むろ液成分を、ろ液を構成しない他の溶媒(ろ液と同一種類の溶媒であっても異種類の溶媒であっても良い。)で置換することであり、例えば、固体成分を再度ろ液と同一種類または異なる種類の溶媒と混合しスラリー化した後、固液分離することや、シャワリングなどにより固体成分表面に付着した液体成分を洗い流すことをいう。また、再結晶とは結晶に取り込まれた不純物成分を分離、除去するために固体成分の一部または全部を溶媒成分に溶解させた後、再度結晶化させて固液分離することをいう。なお、洗浄および/または再結晶に使用する溶媒量としては、工程(b)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩の重量に対し0.1〜100重量倍とすることが、コストの観点から好ましい。
【0015】
洗浄および/または再結晶した固体成分は、溶媒と混合した後、酸と反応させて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を製造する。ここで、用いる酸の種類としては、有機酸であっても無機酸であっても問題なく、具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸などが挙げられる。また、用いる酸の量は、工程(a)にて使用したアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を中和する当量以上を用いればよい。特に好ましくは、溶媒と混合した後の液体のpHを1.5〜4.5の範囲に保持することである。pHが低いと酸の使用量が増え、一方pHが高いと6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の残留量が増える傾向がある。使用する溶媒としては、反応が進行する限り特に制限はされないが、コストの観点から、ポリエステルを構成している多価アルコールもしくは水を使用することが特に好ましい。溶媒の使用量としては固体成分の重量に対して、1〜50重量倍用いるのが好ましく、特に好ましくは2〜20重量倍である。
【0016】
また、この酸との反応では、反応初期に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を多く含む成分が析出するため、反応初期に析出した化合物を固液分離により除去した後の液体成分を工程(a)に供給して、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩その他の有効成分を製造・回収することが収率向上の観点から好ましい。
あるいはその液体成分にさらに酸とを反応させて得られた析出物の1部または全部を工程(a)に戻すことも好ましい。より好ましい具体例としては、濾液中の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分量を測定し、この当量に対し0.5倍〜2倍量の酸を添加した状態で析出している化合物を分離して、残余の液体成分を工程(a)に供給すること、またはその析出した化合物成分の1部または全部を工程(a)にもどすことが好ましい。その−ナフトエ酸成分量の測定の例としては、予めポリエステル組成物に含まれる6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分量から推算する方法や、濾液の組成やpHを分析する方法などが挙げられる。これらの操作を実施することにより、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を低エネルギー負荷にて安定して分離・回収することが可能となる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、生成物の純度は以下の手法により分析・評価を行った。反応で得られた生成物20mgをN−メチル−2−ピロリドン30mLに溶解した後、内部標準物質として4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジメチルを10mg加えた後、高速液体クロマトグラフィー(株式会社日立製作所製LC−2450)で定量化を行った。なお、高速液体クロマトグラフィーの溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合液を使用した。
【0018】
[実施例1]
ポリエステルを構成する多価カルボン酸として、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が70mol%、ナフタレンジカルボン酸成分が30mol%であり、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いて重合したポリマー(以下、ポリマーAと略記することもある)チップ5.0gに、水酸化ナトリウム3.0gならびにエチレングリコール(SP値:14.2)100gを加え、攪拌付きセパラブルフラスコにて190〜200℃、常圧の条件下、4時間反応させプロダクトを得た。該反応終了後、放冷してプロダクトの温度を40℃とした後、ろ過により固液分離し、ケーク(a)と濾液(b)とをそれぞれ得た。その後、ケーク(a)を水30gと混合し、再度ろ過により固液分離し、ケーク(c)と濾液とをそれぞれ得た。このケーク(c)を乾燥して得た乾燥後のケーク4.13gと純水100gとを混合し、90〜95℃にて97%硫酸を用いてpH3に調整し、同温度にて6時間保持した後、ろ過により固液分離し、ろ紙上にあるケーク成分に洗浄瓶にて、純水53gを均一に散布してケーク成分を洗浄した。洗浄前のケーク成分の乾燥重量は3.70gであった。洗浄後のケークを90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主成分とする化合物を3.57g(純度:99.1%、回収率:93.5%)製造できた。
【0019】
[実施例2]
実施例1において得た、濾液(b)に97%硫酸を5g添加し、90〜95℃にて6時間保持した後、ろ過により固液分離しケーク(d)を得た。次いで、別の反応槽で同一の操作にておこなう実施例1において、ポリマーAと水酸化ナトリウムを反応させる工程にケーク(d)を添加したことを除き、その他は実施例1と同様の回収操作を行なったところ、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主成分とする化合物を3.65g(純度:99.0%、回収率:95.6%)製造できた。なお、硫酸処理直前の固体成分の乾燥重量は4.12gであり、硫酸処理後のケーク成分の乾燥後の重量は3.71gであった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のポリエステル廃棄物から有効成分を回収する方法によれば、非常に高価で、工業上価値のある6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を高い収率で回収するだけでなく、含まれている他のカルボン酸類と効率的に分離できるので、低エネルギー負荷にて実施するが可能となる。これらの効果により、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を安定して回収することができる。この点において工業面で非常に有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分ならびに他のジカルボン酸成分を主成分として含有するポリエステル組成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を製造するに際し、下記工程(a)〜(c)に順次供することを特徴とする6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法。
【化1】

工程(a):前記ポリエステル組成物をアルカリ金属の単体、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の単体、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物およびアルカリ土類金属の弱酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを溶解度パラメータ(SP値)が11以上の溶媒の共存下で反応させる反応工程
工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を得る工程
工程(c):工程(b)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩と酸とを反応させて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を得る工程
【請求項2】
前記工程(b)において反応生成物を固体成分と液体成分とに固液分離し、固体成分として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を得る請求項1記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項3】
工程(b)で得られた固体成分を洗浄および/または再結晶する工程(c)を有する請求項2記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)において回収したろ液と酸とを反応させて、析出物の1部または全部を前期工程(a)に供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−184189(P2012−184189A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47564(P2011−47564)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】