説明

ポリエステルの合成

【課題】酵素重合を利用することにより、低コストあるいは環境親和的なポリエステル樹脂の合成プロセスを提供すること。
【解決手段】ジカルボン酸、エステル、グリコール、オキソ酸、オキソ酸エステル、ラクトン、ラクチド、マクロライドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の成分を、リパーゼが含まれる酵素および水と接触させることと、前記1種以上の成分を重合させてポリエステル樹脂を形成することと、前記ポリエステル樹脂を回収することと、を含むプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの合成に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼログラフィー(写真複写)印刷は、種々のプロセスで製造されたトナー粒子を利用する。このプロセスの一つに、スチレンアクリレートのようなアクリレート系のトナー粒子の作製方法であって、界面活性剤をラテックスエマルジョンの作製に利用する乳化凝集法(EA法)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,120,967号
【特許文献2】米国特許第5,916,725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクリル系ラテックスは水中で乳化重合反応により共重合するのに対して、ポリエステル系トナー粒子は、溶融相のバルクとして生成した後に冷却してコンポジットを形成し、これを粉砕して樹脂粒子としたポリエステルを利用しうる。ポリエステル樹脂粉末は、その後相転換乳化または溶剤フラッシングにより水中でエマルジョンとなる。
【0005】
相転換乳化法では、樹脂粒子の水分散性を高めるためにポリエステル樹脂をスルホン化してよい。しかし、これらの粒子は吸湿性が高く、その結果摩擦によって帯電しにくい。相転換プロセスではポリエステル樹脂を溶解するために、ケトン有機溶媒およびイソプロパノールを使用する。これにより得られた溶液は、相転換乳化を開始するために次いで水および塩基と混合されてよい。溶媒は、その後蒸留により除去されてよい。
【0006】
溶剤フラッシング法は、ポリエステル樹脂をスルホン化する必要がなく、その代わりに水中で乳化させる前に酢酸エチル等の溶媒に樹脂を溶解することから、相転換乳化法の代わりに用いてよい。相転換乳化法は、陰イオン界面活性剤等の好適な乳化剤を利用してもよい。次いで、高せん断力をかけてエマルジョンの粒子をナノサイズのスケールにまで小さくしてよく、溶媒を蒸留等により蒸発させてよい。上述のように、相転換乳化法や溶剤フラッシング法のプロセスは多くの時間、労力および設備を必要とする。更に、揮発性溶媒の使用によりプロセスが複雑かつ高価なものとなる。
【0007】
EAプロセスでは、非晶性および結晶性ポリエステルの組み合わせが利用されてよい。これらの樹脂を組み合わせることにより、高光沢かつ比較的低融点のトナーとすることができ、ひいてはエネルギー効率が高まり、高速印刷が可能となる。しかしながら、これらの樹脂の合成には、有毒かつ高価な触媒の使用、および高温下で長時間反応させる必要がありうる。このように、ポリエステル樹脂の合成方法には依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある実施態様によれば、トナーの作製に利用できるポリエステルの製造プロセスが提供される。
【0009】
樹脂
本発明のある実施態様では、トナーとして利用可能なラテックスを調製するのに適していれば、いかなるモノマーまたは出発物質を利用してもよい。本発明のある実施態様では、溶媒を用いるか否かに拘わらず、酵素重合によってトナーを製造してもよい。
【0010】
ある実施態様では、ラテックスの樹脂は一種以上のポリマーを含んでよい。ある実施態様では、約1〜約20種のポリマーを用いてよく、更にある実施態様では約3〜約10種のポリマーを用いてよい。
【0011】
ある実施態様では、上記の樹脂は、ジオールと二塩基酸とを有機触媒(ある実施態様では酵素)の存在下で反応させて得られるポリエステル樹脂であってよい。
【0012】
上記の結晶性樹脂は種々の融点を、例えば約30℃〜約120℃、ある実施態様では約50℃〜90℃の範囲で有してよい。前記結晶性樹脂のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した数平均分子量(Mn)は、例えば約1,000〜約50,000、ある実施態様では約2,000〜約25,000であってよく、ポリスチレン基準のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は、例えば約2,000〜約100,000、ある実施態様では約3,000〜約80,000であってよい。前記結晶性樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、例えば約2〜約6、ある実施態様では約2〜約4であってよい。
【0013】
結晶性または非晶性ポリエステルの作製に使用可能な触媒のひとつとして、以下に詳しく述べる酵素が挙げられる。
【0014】
ある実施態様では、樹脂作製に用いるポリマーは、6−、12−、13−、16−および17−員のラクトンまたはマクロライドであってもよい。
【0015】
酵素
上記したように、ある実施態様では、酵素重合によってトナーが製造される。酵素はポリエステル樹脂の作製おいて触媒の役目を果たす。
【0016】
ある実施態様では、リパーゼは多孔質ポリマービーズ、アクリル樹脂、架橋ポリスチレン、あるいはセラミック等からなる公知の好適な支持体上に固定化されてよい。
【0017】
リパーゼは、公知の方法により生物体から取得することができる。ある実施態様では、前記生物体を養分や糖類(例えばグルコース)を供給して培養槽で育ててもよい。適切な生育および処理条件を選択することにより、前記生物体からリパーゼを取得することができる。ある実施態様では、Fluka BioChemika、Novozymesおよび/または Sigma Aldrich等の企業から市販品としてリパーゼを得てもよい。
【0018】
ポリエステル樹脂の作製に触媒として用いるリパーゼは、約10℃〜約100℃、ある実施態様では約20℃〜90℃、別のある実施態様では約45℃〜75℃の温度範囲で使用可能である。他の従来の触媒に対して固定化されたリパーゼが有する利点のひとつに、得られた製品から分離して再利用することができる点がある。
【0019】
ある実施態様では、反応の触媒に利用されるリパーゼ酵素の量は、ポリエステル樹脂を生成する出発物質の約0.1重量%〜約10重量%、ある実施態様ではポリエステル樹脂を生成する出発物質の約1重量%〜約6重量%であってよい。
【0020】
反応条件
ポリエステル樹脂を形成する出発物質、例えば上述の二塩基酸、ジオール、オキソ酸、およびラクトン等を上記の酵素と組み合わせて、酵素重合プロセスによりポリエステルが製造される。前記酵素重合は、溶媒を用いて行っても用いずに行ってもよい。
【0021】
酵素重合プロセスでは、反応物を混合槽等の好適な反応器に添加してよい。適量の出発物質が任意に溶媒に溶解され、リパーゼ系酵素が溶液に添加され、得られたポリエステルがトナーの製造に利用されうる。別のある実施態様では、出発物質をリパーゼ酵素と溶媒なしで混合して、ポリエステルが作製されうる。
【0022】
溶剤を使用する場合、好適な溶媒として水、および/またはトルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、およびそれらの組み合わせなどの有機溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
出発物質が溶液中にある場合、出発物質の濃度は約10重量%〜約90重量%、ある実施態様では、約30重量%〜約60重量%であってよい。
【0024】
反応時間は使用する出発物質の種類や量、使用する酵素の種類や量、温度等によって異なりうる。ある実施態様では、温度を使用するリパーゼの機能する範囲内、ある実施態様では約10℃〜約100℃、またある実施態様では約20℃〜約90℃、またある実施態様では約45℃〜約75℃に保ちながら、反応混合物を約1分〜約72時間、ある実施態様では約4時間〜約24時間かけて混合してよい。
【0025】
ある実施態様では、前記反応は直接水中で進行しうる。
【0026】
別のある実施態様では、出発材料、酵素、界面活性剤および水のうち1つ以上を反応器の中で混合することにより、ポリエステルエマルジョンを直接製造してよい。より具体的には、前記出発物質と上記の酵素とが、水と1種以上の界面活性剤と混合されうる。前記界面活性剤は、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤の中から選択されうる。“イオン性界面活性剤”には陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤とが含まれる。
【0027】
前記エマルジョンの製造にあたっては、出発物質、酵素、界面活性剤および水は、公知のいかなる手段を利用して組み合わせてもよい。ある実施態様では、温度を使用するリパーゼの機能する範囲内、ある実施態様では約10℃〜約100℃、またある実施態様では約20℃〜約90℃、またある実施態様では約45℃〜約75℃に保ちながら、反応混合物を約1分〜約72時間、ある実施態様では約4時間〜約24時間かけて混合してよい。
【0028】
ある実施態様では、例えば合一やオストワルド熟成を防止してエマルジョン中の粗大粒子の生成を抑制し、エマルジョンの安定性を高めることにより微細エマルジョンの製造を補助するために合一抑止剤を添加してもよい。
【0029】
当業者は最適な反応条件、温度、および酵素の量は、生成されるポリエステルの分子量に応じて異なりうること、そして構造的に関連性のある出発物質は、類似する技術によってポリマー化されうることを理解するであろう。
【0030】
ある実施態様では、最終的に得られた水性ポリエステルエマルジョンは更なる処理なしにトナー粒子の作製に利用できる。別のある実施態様では、もしエマルジョン中のポリエステル粒子が大き過ぎる場合、前記エマルジョンを均質化または超音波処理することによりナノ粒子を更に分散させ、凝集体やゆるく結合した粒子を破砕してよい。ホモジナイザー(すなわち、高せん断機器)を使用する場合は、約0.5分間〜約60分間、ある実施態様では約5分間〜約30分間にわたり、約6,000回/分〜約10,000回/分、ある実施態様では約7,000回/分〜約9,750回/の速度で運転してよい。
【0031】
こうして製造された樹脂は、そのサイズが約20ナノメータ〜約1,000ナノメータ、ある実施態様では約50ナノメータ〜約250ナノメータの粒子を含んでよい。こうして製造された樹脂は、約−20℃〜約200℃のガラス転移点(Tg)を有してよい。こうして製造された樹脂は、約45℃〜約100℃、ある実施態様では約55℃〜約95℃の融点(Tm)を有してよい。前記ポリエステルの分子量は、約2,000〜約50,000、ある実施態様では約3,000〜約20,000であってよい。
【0032】
上記したように、水中でポリエステルラテックスを直接作製するために、酵素重合を本発明の開示に従って利用してよい。重合プロセスの間、水は脱水の結果として生じた副産物の一つであってよい。このように、上記したモノマーの従来型の重合反応は質量作用の法則により水中では困難であるのに対し、水中での酵素重合はリパーゼ酵素によって触媒の活性化障壁が軽減されることにより、この問題を回避することができるであろう。リパーゼ酵素は反応物質から水分子を除去して、気相と同様な環境を反応物質のために作り出しうる。更に、リパーゼ酵素は前記反応物質から水分子を除去して、その水分子を自身の活性部位に代用することができ、これはイオン性転移の状態の静電気的安定化に適応でき、イオン性転移の状態を水よりも有効に溶媒和しうる。
【0033】
得られたポリマーの重量は、出発物質、反応条件および使用するリパーゼ酵素の種類によって異なりうる。ある実施態様では、高温(例えば約60℃以上)および長い反応時間(約48時間以上)の条件下で高分子量のポリマーを生じうる。
【0034】
トナー
上記のようにして製造された前記樹脂は、トナー成分の作製に利用しうる。1、2または3種以上のトナー樹脂が使用されてよい。2種以上のトナー樹脂が使用される実施態様では、その比率はいかなる適切な値(例えば重量比)であってもよく、例えば約10%(第1樹脂)/90%(第2樹脂)〜約90%(第1樹脂)/10%(第2樹脂)であってよい。トナー組成物は必要に応じて用いられる着色剤、ワックス、およびその他の添加物を含んでもよい。トナーは、公知のいかなる手法を利用して作製してもよい。ある実施態様では、トナーは乳化凝集トナーを含んでもよい。乳化凝集とはミクロンサイズ以下のラテックスと、顔料粒子とを凝集させてトナーサイズの粒子とすることを含み、粒子サイズの成長は、ある実施態様では、例えば約0.1ミクロン〜約15ミクロンになりうる。
【0035】
界面活性剤
本発明に開示されるプロセスにより樹脂およびトナーを調製するのに利用できる界面活性剤には、陰イオン、陽イオン、および/または非イオン性界面活性剤が含まれうる。これらの界面活性剤は、乳化重合合成法においてラテックス樹脂を形成するのに利用することができるとともに、乳化凝集プロセス、相転換プロセス等においてトナー粒子を作製するのに利用することができる。
【0036】
着色剤
着色剤には、トナーに含まれうる種々の公知の好適な着色剤、例えば染料、顔料、染料の混合物、顔料の混合物、染料と顔料との混合物等が含まれうる。着色剤は、例えば前記トナーの約0.1〜約35重量%、または前記トナーの約1〜約15重量%、または前記トナーの約3〜約10重量%の量で含まれていてもよい。
【0037】
ワックス
乳化凝集合成法でラテックスを作製する工程中に、ワックス分散液を添加してもよい。好適なワックスとしては、例えば、水、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤またはそれらの混合物の液相に懸濁された容積平均直径が約50〜約1000ナノメータ、ある実施態様では約100〜約500ナノメータの大きさのサブミクロンのワックス粒子が挙げられる。前記イオン性または非イオン性界面活性剤は、前記ワックスの約0.1〜約20重量%、ある実施態様では約0.5〜約15重量%の量で存在していてもよい。
【0038】
トナーの調製
トナー粒子は、公知のいかなる手法で調製されてもよい。以下の実施態様では、乳化凝集プロセスによるトナー粒子の製造方法が説明されるが、米国特許第5,290,654号、および第5,302,486号に開示された、懸濁やカプセル化等の化学的プロセスなどの、いかなる好適なトナー粒子調製法を利用してもよい。ある実施態様では、小サイズの樹脂粒子を適当なトナー粒子の大きさに凝集させ、その後合一させて最終的なトナー粒子の形状および形態とする凝集合一法によってトナー組成物やトナー粒子を調製してもよい。
【0039】
ある実施態様では、必要に応じて用いられる着色剤と、必要に応じて用いられるワックスと、その他の所望のまたは必要な添加物と、上記の樹脂を含むエマルジョンとの混合物を、必要に応じて界面活性剤中で凝集させ、その後凝集した混合物を合一させる方法などの乳化凝集法によりトナー組成物を調製してもよい。この混合物は、樹脂を含むエマルジョンまたはそれらの混合物に、着色剤および必要に応じて用いられるワックスその他の成分を(所望により界面活性剤を含む分散液として)添加することにより調製してもよい。得られた混合物のpHは、酢酸、硝酸等の酸によって調整されうる。ある実施態様では、前記混合物のpHは、約4〜約5に調整されてよい。更にある実施態様では、前記混合物は均質化されてよい。前記混合物を均質化する場合、均質化処理は約600〜約4,000回転/分で混合することにより行うことができる。均質化は、例えばIKA ULTRA TURRAX T50プローブホモジナイザなどの、任意の好適な手段により行うことができる。
【0040】
上記混合物の調製に続き、混合物に凝集剤を添加してもよい。いかなる好適な凝集剤もトナーの製造に利用することができる。好適な凝集剤としては、例えば2価陽イオンや多価陽イオンの水溶液が挙げられる。
【0041】
凝集剤は、トナーを作製するための前記混合物中に、例えば前記混合物中の樹脂の約0.1〜約8重量%、ある実施態様では約0.2〜約5重量%、別のある実施態様では約0.5〜約5重量%の量で添加されてもよい。これにより、十分な量の凝集剤が添加される。
【0042】
粒子の凝集および合一を制御するため、ある実施態様では、凝集剤を前記混合物に時間をかけて添加してもよい。例えば、所望により前後してよいが、前記凝集剤を約5分〜約240分、ある実施態様では約30分〜約200分の間にわたって混合物中に添加してもよい。更に、ある実施態様では約50〜約1000回転/分、別のある実施態様では約100〜約500回転/分の条件で混合物を攪拌しながら凝集剤を添加してもよい。
【0043】
前記粒子は、所定の粒子サイズが得られるまで凝集及び/又は合一に付されてよい。所定の粒子サイズとは、作製に先立ち定められた得られるべき粒子の望ましいサイズを指し、粒子の成長プロセスを通じてそれが達成されるまで粒子サイズがモニターされる。粒子の成長プロセス中にサンプルが採取され、コールターカウンター等により粒子サイズの平均値を分析してもよい。高温を保ち、または徐々に温度を例えば約40℃〜約100℃の間の値に上昇させ、そして混合物をその温度で約0.5〜約6時間、ある実施態様では約1〜約5時間保ちつつ攪拌を継続して凝集/合一を進行させて、凝集した粒子を得ることができる。所定の粒子サイズが得られた時点で成長プロセスを停止する。ある実施態様では、所定の粒子サイズは上述のトナー粒子サイズの範囲内にある。
【0044】
凝集剤の添加に続いて行われる粒子の成長および整形は、好適ないかなる条件下でも達成することができる。
【0045】
粒子を所望のサイズへと凝集させた後、所望の最終形状に合一されうる。合一は、例えば混合物を樹脂のガラス転移点若しくはそれを超える温度である約65℃〜約105℃、ある実施態様では約70℃〜約95℃まで加熱し、攪拌を例えば約400回転/分〜約1,000回転/分、ある実施態様では約500回転/分〜約800回転/分まで速めることにより達成されうる。温度はこれよりも高温または低温であってもよく、バインダーとして用いられる樹脂の関数であることが理解される。合一は、約0.1〜約9時間、ある実施態様では約0.5〜約4時間で達成しうる。
【0046】
凝集および/または合一の後、前記混合物を室温(例えば約20℃〜約25℃)にまで冷却してもよい。冷却の速度は、所望により速くても遅くてもよい。好適な冷却方法としては、反応槽周りの覆い部に冷水を用いる方法が挙げられる。冷却後、必要に応じてトナー粒子を水で洗浄し、乾燥してもよい。乾燥はいかなる好適な方法で行ってもよく、例えば凍結乾燥等が挙げられる。
【0047】
その他の添加物
その他のさらにトナーと組み合わせて用いてもよい必要に応じて用いられる添加物としては、トナー組成物の特性を強化しうるいかなる添加物、例えば表面添加剤、着色強化剤等が挙げられる。
【0048】
ある実施態様では、ラテックス樹脂粒子を作製し、次いで凝集させ、更に着色剤、必要に応じて用いられるワックス、その他の添加物と合一させてトナー粒子を作製する凝集法が採用されうる。ある実施態様では、このプロセスには、約100グラム〜約500グラムの1種以上の樹脂、別のある実施態様では約150グラム〜約250グラムの1種以上の樹脂に対して約0.5グラム〜約50グラムの着色剤を、ある実施態様では、約1グラム〜約10グラムの着色剤および約50グラム〜約150グラムのワックスを、ある実施態様では、約75グラム〜約125グラムのワックスを混合することが含まれうる。これらの成分はケトン、アルコール、エステル、それらの組み合わせ、およびこれらに類似の物質等の好適な溶媒中で混合してもよく、約50℃〜約90℃、ある実施態様では約60℃〜約80℃、ある実施態様では約70℃の温度まで加熱してもよい。
【0049】
こうして製造された溶液は、別の水溶液、ある実施態様では安定剤と界面活性剤とを含む脱イオン水と組み合わせて、前記の着色剤を含むラテックスエマルジョンを製造することができる。ある実施態様では、前記の2種の溶液は、ある実施態様では約8,000〜約12,000回転/分、別のある実施態様では約9,000〜約11,000回転/分、さらに別の態様では約10,000回転/分の超高速で、ある実施態様では約15分〜約60分間、ある実施態様では約20分〜約45分間、またある実施態様では約30分間混合することによって均質化されてもよい。反応混合物はその後約60℃〜約100℃、ある実施態様では約70℃〜約90℃、ある実施態様では約80℃で、約1時間〜約3時間、ある実施態様では約2時間にわたり蒸留されてよい。その結果生じたエマルジョンは、約12時間〜約18時間にわたり、ろ過、遠心分離、上澄み分取またはそれらの組み合わせ等によって分離された着色剤を含む生成ラテックスとともに攪拌してもよい。
【0050】
本発明に開示されるラテックスを用いて製造されたトナー粒子は、約1ミクロン〜約20ミクロン、ある実施態様では約2ミクロン〜約15ミクロン、またある実施態様では約3ミクロン〜約7ミクロン、さらにまたある実施態様では約5.9ミクロンのサイズであってよい。本発明に開示されるトナー粒子は、約0.9〜約0.99、ある実施態様では、約0.92〜約0.98、またある実施態様では約0.94の真円度を有してよい。
【0051】
使用方法
本発明に開示される酵素重合合成法は、溶媒の存在または非存在下で乳化凝集トナーの合成に利用される樹脂の製造に使用できる。種々の熱力学的・化学的特性を有する結晶性または非晶性のポリエステル樹脂を製造しうる。本発明に開示される酵素重合合成法では更に、従来の触媒が約150℃を超える温度と8時間かそれを超える長時間とを要するのに対し、リパーゼに基づく合成は約10℃〜約100℃、ある実施態様では約4時間という短時間で行われる。よって、反応時間およびエネルギーコストを低減しうる。
【0052】
上記したように、ある実施態様では、リパーゼ酵素はラクトン(ペンタデカラクトンやヘキサデセンラクトン等の大環状ラクトンであっても)の開環重合を触媒して、これらに対応するポリエステルを得るために利用されうる。大環状ラクトンは環歪みが低いため、従来の化学的重合プロセスに対して抵抗性を有する。酵素重合により、従来のラクトン重合プロセスでは得られなかったポリエステルの構造を製造することができる。具体的には、分子量によって異なるが、ペンタデカラクトンの重合によって融点が79℃以上の結晶性ポリマーを製造することができ、更にヘキサデセンラクトンの重合によって融点がはるかに低い57℃であるポリマーを製造することができる。
【0053】
それに加えて、大環状ラクトンは他の産業分野、例えば香料、食品添加物等に広く使用されており、酵素重合に適したラクトンを容易に入手することができる。よって出発物質を比較的低価格に抑えることができる。
【0054】
更に、リパーゼ酵素は再利用可能であるために、その使用に関連するコストが低減される。このように、上記の水性ポリエステルエマルジョンの作製を含む、本発明に開示される酵素重合のプロセスは、製造に要するエネルギーを削減することがで、相転換および/または溶剤フラッシング工程を省くことによって溶媒の使用量を低減することができる、環境親和的な技術である。
【0055】
画像形成方法
本明細書に開示されたトナーを用いた画像形成方法としては、例えば、上記の特許文献の一部および米国特許第4,265,990号、第4,584,253号および第4,563,408号に記載の方法が挙げられる。画像形成方法は、電子的印刷のために磁気画像や文字を認識する装置の中にイメージを形成し、その後、本発明に開示されるトナー組成物によって前記イメージを現像する。静電気的手法による感光材料の表面にイメージを生成し現像する方法はよく知られている。基本的なゼログラフィープロセスでは、感光性の絶縁層の上に静電気電荷を均一に付与し、前記層を像様に露光して非露光領域の電荷を消滅させ、生成された静電潜像の上にトナー等の微細な電子顕微鏡的材料(electroscopic material)を付与することによって現像する。前記トナーは通常、前記層の電荷を保持している領域に誘引され、それにより前記の静電潜像に対応するトナー像を生成する。この粉体からなる像は、次いで紙等の支持体へ転写される。転写された像は、熱によって支持体の表面に固着される。均一に感光層を帯電させ、次いで像様に露光することにより潜像を形成する代わりに、前記の層を直接像様に帯電してもよい。その後、粉体からなる像は、粉体像の移転過程を経ずに前記感光層に固定されてもよい。上記の加熱定着に代えて、溶媒や被覆処理等の好適な定着手段を用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸、エステル、グリコール、オキソ酸、オキソ酸エステル、ラクトン、ラクチド、マクロライドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の成分を、リパーゼが含まれる酵素および水と接触させることと、
前記1種以上の成分を重合させてポリエステル樹脂を形成することと、
前記ポリエステル樹脂を回収することと、を含むプロセス。
【請求項2】
溶媒中で前記1種以上の成分を酵素と接触させることをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ジカルボン酸、エステル、グリコール、オキソ酸、オキソ酸エステル、ラクトン、ラクチド、マクロライドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の成分を、リパーゼを含む酵素、水、および必要に応じて用いられる界面活性剤と接触させてエマルジョンを作製することと、
前記1種以上の成分を重合させて、エマルジョン状のポリエステル樹脂を作製することと、
前記ポリエステル樹脂を回収することと、を含むプロセス。
【請求項4】
ジカルボン酸、エステル、グリコール、オキソ酸、オキソ酸エステル、ラクトン、ラクチド、マクロライドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の成分を、リパーゼを含む酵素と接触させることと、
前記1種以上の成分を重合させて、ポリエステル樹脂を作製することと、
前記ポリエステル樹脂を回収することと、
前記ポリエステル樹脂を、1種以上の着色剤、必要に応じて用いられるワックス、および必要に応じて用いられる界面活性剤と接触させてトナー粒子を作製することと、
前記トナー粒子を回収することと、を含むプロセス。

【公開番号】特開2009−270106(P2009−270106A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105019(P2009−105019)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】