説明

ポリエステルの製造方法、並びに1,4−ブタンジオールの加熱装置及び蒸気発生装置

【課題】加熱された1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分を含む原料からポリエステルを製造するに際し、ポリエステルの重縮合反応を長期間安定に行い、品質良好なポリエステルを得る方法、および装置を提供する。
【解決手段】1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応及び/又はエステル交換反応、並びに、重縮合反応させてポリエステルを製造する方法において、ジオール成分が加熱履歴を受けた1,4−ブタンジオールを含み、前記加熱履歴を与える加熱装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分に、モリブデンを含有するステンレス鋼を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法、並びに1,4−ブタンジオールの加熱装置及び蒸気発生装置に関し、詳しくは、加熱された1,4−ブタンジオールを原料としてポリエステルを製造するに際し、安定して連続的にポリエステルを製造可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸とジオールとを原料として重縮合反応して得られるポリエステルは種々の用途に利用されている。ジオールの主成分として1,4−ブタンジオール(以下、1,4
−BGと表すことがある。)を用いたポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンンサク
シネートなどは、エンジニアリングプラスチックや生分解ポリマーとして有用に利用されている。
【0003】
原料1,4−BG中には微量の不純物が含まれていることがあり、特に1官能物質である2−(4′−ヒドロキシブトキシ)テトラヒドロフラン(以下、BGTFと表すことがある。)は重縮合反応停止剤として働き、又、得られるポリエステルの色調も悪化させるものとして知られ、BGTF含有量の少ない1,4−BGが望まれている。(特許文献1)
一方、重縮合反応、特に溶融重縮合反応は通常高温、減圧下に行われるが、この減圧付加装置に蒸気エゼクターがあり、蒸気として1,4−BGの蒸気を使用することは知られている。(特許文献2)
しかしながら、我々の検討では1,4−BG蒸気を用いたエゼクターを減圧装置として用い、エゼクターに用いた1,4−BG蒸気を凝縮してこれを重縮合反応原料として使用して長期間運転すると、重縮合反応性が低下し、得られるポリエステルの品質も悪化する傾向があるという問題があり、更に、エゼクターに用いた1,4−BG蒸気を凝縮させた後、蒸留精製して使用しても、長期間運転すると重縮合反応性が低下し、得られるポリエステルの品質も悪化する傾向があるという問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−265418号公報
【特許文献2】国際公開第2004/026938パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加熱による1,4−BG中のBGTFの生成を抑制し、加熱された1,4−BGを原料として使用した場合であっても、ポリエステルの重縮合反応を長期間安定に行い、品質良好なポリエステルを得る方法、および装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題に対し鋭意検討の結果、蒸気発生のために1,4−BGを加熱する際や、蒸留精製のために1,4−BGを加熱する際の加熱装置の1,4−BGが接触する部分(以下、BG接液部と表すことがある。)の材質を特定することにより、加熱時のBGTFの生成を抑制できることを見出し本発明に到達した。
即ち本発明の要旨は、下記の通りである。
【0007】
(1)1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とにエステル化反応、エステル交換反応又はその両反応を行わせ、並びに、重縮合反応を行わせ
てポリエステルを製造する方法において、ジオール成分が160℃以上の加熱履歴を受けた1,4−ブタンジオールを含み、前記加熱履歴を与える加熱装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分に、モリブデンを含有するステンレス鋼を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
(2)好ましくは、加熱装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分に、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼を使用することを特徴とする(1)に記載のポリエステルの製造方法。
【0008】
(3)ジオール成分とジカルボン酸成分とにエステル化反応、エステル交換反応又はその両反応を行わせ、並びに、重縮合反応を行わせてポリエステルを製造する方法において、重縮合反応を減圧下で行い、その減圧装置が1,4―ブタンジオールの蒸気エゼクターを備え、該蒸気エゼクターに用いた1,4−ブタンジオール蒸気を凝縮させた後、ジオール成分として使用し、かつ蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
(4)好ましくは、ステンレス鋼のモリブデン含有量が0.1重量%以上であることを特徴とする(3)に記載のポリエステルの製造方法。
(5)好ましくは、蒸気エグゼクターに使用された1,4−ブタンジオールを、1,4−ブタンジオールが接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を用いた蒸留塔を用いて精製し、得られた1,4−ブタンジオールをジオール成分として使用することを特徴とする(3)又は(4)に記載のポリエステルの製造方法。
(6)好ましくは、ジカルボン酸成分の主成分が、テレフタル酸またはそのエステル誘導体であることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【0009】
(7)好ましくは、ジカルボン酸成分の主成分が、コハク酸またはその無水物であることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載のポリエステルの製造方法。
(8)1,4−ブタンジオールを加熱するための装置であって、該装置の1,4―ブタンジオールに接触する部分の材質が、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼であることを特徴とする1,4−ブタンジオールを加熱するための装置。
(9)1,4−ブタンジオール蒸気を発生させるための装置であって、1,4−ブタンジオールに接触する部分の材質が、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼であることを特徴とする1,4−ブタンジオール蒸気を発生させるための装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1,4−BGをジオールの主成分とするポリエステルを製造する際、原料として加熱された1,4−BGを使用した場合であっても、安定して連続的にポリエステルを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で採用するエステル化工程の一例の説明図。
【図2】本発明で採用する重縮合工程の一例の説明図。
【図3】本発明で採用する蒸気エゼクターシステム及び蒸留精製システムの一例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
本発明におけるポリエステルとは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合した構造を有する高分子であり、ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタ
ル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができ、機械的物性や用途の広さ、原料の入手容易さ等の観点からは、芳香族ジカルボン酸の中では、テレフタル酸、イソフタル酸、脂肪族ジカルボン酸の中ではコハク酸、アジピン酸が好ましい。
【0013】
これらジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、またはジカルボン酸無水物として、またはジカルボン酸のアルキルエステル、好ましくはジアルキルエステルとして反応に供することができ、ジカルボン酸とジカルボン酸アルキルエステルの混合物としてもよい。ジカルボン酸アルキルエステルのアルキル基に特に制限はないが、アルキル基が長いとエステル交換反応時に生成するアルキルアルコールの沸点の上昇を招き反応液中から揮発せず、結果的に末端停止剤として働き重合を阻害するため、炭素数4以下のアルキル基が好ましく、中でもメチル基が好適である。
【0014】
特に、(1)ジカルボン酸成分の主成分が、テレフタル酸またはそのエステル誘導体であるか、又は(2)コハク酸またはその無水物であるのが好ましい。尚、本明細書において、主成分とは、これを含有する成分(ジカルボン酸成分又はジオール成分)中、モル換算で最も多量の成分を意味する。
本発明において、ジオール成分の主成分は1,4−BGである。1,4−BG以外の成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタンなどの植物原料由来のジオール等を挙げることができ、又、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなども植物原料由来のものを使用することができる。
【0015】
本発明では、ジオール成分が160℃以上の加熱履歴を受けた1,4−BGを含む。ここで、160℃以上の加熱履歴を受けたとは、160℃以上に加熱された状態を経ていることを意味する。加熱履歴を受けた1,4−BGとしては、後述の加熱装置で加熱された物が挙げられ、具体的には、例えば、減圧装置の1,4−BG蒸気エゼクターで使用された1,4−BGや、蒸留精製で回収された1,4−BG等が挙げられる。160℃以上の加熱履歴を受けた1,4−BGの、全ジオール成分に対する割合は特に限定されないが、通常、20モル%以上、好ましくは40モル%以上である。少なすぎる場合には、そもそも加熱履歴を受けることによる1,4−BG中のBGTFの量が少ないため、重合阻害や色調の問題も起こりにくいこととなり、本発明の効果が小さいものとなる。一方、上限は本発明の効果の点からは特に限定されないが、ポリエステル製造に消費される1,4−BG量と1,4−BG蒸気エゼクターで使用される1,4−BG量との制御バランスの点から、通常、95モル%以下である。
【0016】
尚、BGTFの副生は、加熱温度が高いほうが多いので、1,4−BGの加熱履歴温度は、200℃以上、特には225℃以上である場合に、本発明の効果はより顕著となる。
加熱履歴の温度の上限は特に限定されないが、設備耐圧の点から、260℃程度である。
本発明においては、さらに、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分(ヒドロキシ基又はカルボキシル基を1ケ有する成分)、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、リンゴ酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトールなどの三官能以上の多官能成分(ヒドロキシ成分及び/又はカルボン酸成分を3ケ以上有する成分)などを共重合成分として用いることができる。
【0017】
中でも、(1)ジカルボン酸単位の50モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上がテレフタル酸単位からなり、ジオール単位の70モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成るポリブチレンテレフタレートや、(2)ジカルボン酸単位の50モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上がコハク酸単位からなり、ジオール単位の70モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成るポリブチレンサクシネートにおいては、生産規模が大きく、本発明の効果が大きい。
【0018】
本発明のポリエステルは、以下の方法で製造できるが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。また、以下に記載の条件は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを用いてポリエステルを製造する際に好適であり、特には、ポリブチレンサクシネートの製造に好適である。
【0019】
ポリエステルの製造方法は大きく分けてジカルボン酸(例えば、コハク酸)を主原料として用いるいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルエステル、好ましくは、ジカルボン酸ジメチル、(例えば、コハク酸ジアルキルエステル、好ましくはコハク酸ジメチル)を主原料として用いるエステル交換法がある。前者は初期のエステル化反応で主に水が生成し、後者は初期のエステル交換反応で主にアルコールが生成するという違いがあるが、反応留出物の処理の容易さ、原料原単位の高さという観点からは直接重合法が好ましい。また、品質の安定化、エネルギー効率の観点からは、原料を連続的に供給し、連続的にポリエステル(例えば、ポリブチレンサクシネート)を得るいわゆる連続法が好ましい。
【0020】
直接重合法の一例としては、ジカルボン酸(例えば、コハク酸)に対する1,4−BGを主成分とするジオール(例えば、1,4−ブタンジオール)の仕込みモル比は通常0.95〜2.0、好ましくは1.0〜1.7、より好ましくは1.05〜1.40である。また、ポリブチレンサクシネートの製造においては、多官能成分(例えば、リンゴ酸)を併用するのが好ましく、コハク酸に対する多官能成分の仕込みモル%は0.001〜0.50モル%が好ましい。
【0021】
図1に例示の態様では、エステル化反応は1つのエステル化反応槽Aで行われるが、連続する複数の反応槽で行うこともできる。エステル化反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は通常、10kPa〜150kPaであるが、常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは6時間以下、特に好ましくは4時間以下である。
【0022】
一方、エステル交換法の一例としては、ジカルボン酸ジアルキルエステル成分と1,4−BGを主成分とするジオール成分(例えば、コハク酸のジアルキルエステルを主成分とする前記ジカルボン酸エステル成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分)とを、1段または多段のエステル交換反応槽内で、好ましくはエステル化交換触媒の存在下に、通常110〜260℃、好ましくは140〜245℃、より好ましくは160〜235℃、特に好ましくは180〜220℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜120kPa、特に好ましくは60〜101kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜3時間で行う。エステル化又はエステル交換反応は回分法でも連続法でも構わないが、特には連続法が好ましい。
【0023】
上記直接重合法、エステル交換法何れの場合も、初期のエステル化反応、エステル交換反応においては、1,4−ブタンジオール、テロラヒドロフラン、水、アルコール等の留
出量が多いため、留出物から低沸点物質と高沸点物質に分離する精留塔を設けることが好ましい。
次に、得られたエステル化反応生成物またはエステル交換反応生成物としてのオリゴマーは、重縮合反応槽に移される。重縮合反応は、通常、減圧下で行われる。最終重縮合反応槽(図2の例示ではk)の反応圧力は、下限が通常0.01kPa以上、好ましくは0.03kPa以上であり、上限が通常1.4kPa以下、好ましくは0.4kPa以下である。重縮合反応時の圧力が高すぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。一方、超高真空重縮合設備を用いて製造する手法は重縮合反応速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要となるため、経済的には不利である。反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常270℃以下、好ましくは260℃以下の範囲である。この温度が低すぎると、重縮合反応速度が遅く、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となるため、経済的に不利である。一方、反応温度が高すぎると製造時のポリエステルの熱分解が引き起こされ、高重合度のポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。反応時間は、下限が通常1時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不充分で高重合度のポリエステルが得にくく、その成形品の機械物性が劣る傾向となる。一方、反応時間が長すぎると、ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、その成形品の機械物性が劣る傾向となるばかりでなく、ポリエステル樹脂の耐久性に悪影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合がある。
【0024】
上記重縮合反応槽への減圧付加は減圧装置によってなされる。例えば、液封ポンプ、油回転ポンプ、ルーツポンプ、蒸気エゼクター、等、種々の形態のものが知られており、これらを複数組み合わせて、性能の最大化を図る方法も多数実施されている。
中でも、減圧装置が蒸気エゼクターを含むもの、より具体的には、蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(例えば、図3のK)、蒸気エゼクター(例えば、図3のA1)、エゼクター下流部に設置されたコンデンサ(例えば、図3のA2)、及び該コンデンサと大気脚(例えば、図3の25)を介して接続されたホットウェルタンク(例えば、図3のH2)の組み合わせは、装置が単純であり、トラブルを起こしやすい機械的駆動部が少なく、所望の高真空が得られるため、広く用いられている。
【0025】
蒸気源として水が使用されることも多いが、ポリエステル原料のジオールを加熱して蒸気を得、これを用いるエゼクターとエゼクター下流部に設置されたコンデンサ、及び該コンデンサと大気脚を介して接続されたホットウェルタンクの組み合わせを用いる方法も知られている。後者の方法を用いれば、吸引ガス中に含まれる有機成分を、コンデンサの封
液であるジオール中に凝縮させることが可能で、有機成分を凝縮したジオールをそのまま、又は蒸留精製して得たジオールを、ポリエステル原料とすることができる点で有利である。本発明のポリエステルの製造方法では、原料ジオールが1,4−BGを主成分とするジオールであることから、蒸気エゼクターの蒸気源としては、1,4−BGを主成分とするジオールであるのが好ましく、BGTHの副生を抑えるとの効果は、蒸気源が1,4−BGである場合に顕著であることから、1,4−BGが特に好ましい。
【0026】
水蒸気を利用するスチームエゼクターでは、吸引ガス中に含まれる有機成分等が該コンデンサで捕集され、ホットウェルタンクの封水中に凝縮し、ひいては廃水のCOD上昇を招き、環境へ対する負荷が上昇するという問題が起こりやすい。
又、ホットウェルタンク(例えば、図3のH2)に集められた1,4−ブタンジオールを主成分とする液体は、ライン(図3の54)、ポンプ(図3のH4)を通してバッファータンク(図3のH5)に送られ、その全量をポンプ(図3のH6)、ライン(図3の55)を通じて、未精製のまま原料スラリー調製槽へ移送しポリエステル原料ジオールの一部としても、又、バッファータンク(図3のH5)の全量をポンプ(図3のH6)、ライン(図3の56)を通じて、蒸留精製塔(図3のJ1)で精製した後、ポンプ(図3のJ2)、ライン(図3の58)を通じて原料スラリー調製槽へ移送し原料ジオールの一部としても良い。
【0027】
尚、本発明のポリエステルの製造方法を連続法で行う場合、図1に示すように、エステル化反応で生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離し、1,4−ブタンジオールを主成分とする高沸成分を塔底からライン(6)を通じて抜き出し、その一部を原料1,4−ブタンジオールとしてライン(2)よりエステル化反応槽に供給しても良い。
【0028】
本発明では、原料ジオール成分として160℃以上の加熱履歴を受けた1,4−BGを含むが、本発明において、1,4−BGが加熱される装置としては、(1)1,4−BG製造における1,4−BG精留装置、(2)直接重合法、エステル交換法何れの場合も、初期のエステル化反応、エステル交換反応において、1,4−BG、テロラヒドロフラン、水、アルコール等の留出量が多いため、留出物から低沸点物質と高沸点物質に分離する精留塔(例示として図1のC)、(3)エステル化又はエステル交換反応槽、(例示として図1のA)、(4)蒸気エゼクター駆動用の1,4−BG蒸気発生装置(例示として図3のK)、(5)ホットウェルタンクに集められた凝縮液の蒸留精製装置(例示として図3のJ1)などがあげられる。
【0029】
本発明においては、1,4−BGを160℃以上で加熱する場合の加熱装置として、その1,4−BGが接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を使用する。ステンレス鋼は、鉄に少なくとも10.5重量%以上のクロムを含有した合金鋼であるが、モリブデンを含有することにより加熱中のBGTF生成を抑制することができる。モリブデンの含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、特に好ましくは1.5重量%以上である。一方、通常10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは4重量%以下である。この値が小さすぎると、長期運転で良質なポリエステル(高粘度、良好な色調)を安定に生産できるという本発明の効果が不十分となり、一方、多すぎると、本発明の効果の改善が、それ以上認められない傾向となり、又、高級鋼材となり高価となる。モリブデン以外の含有金属として、クロム、ニッケルが挙げられる。
【0030】
クロムの含有量は、好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上である。一方、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは25重量%以下である。
ニッケルの含有量は、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは8重量%以上である。一方、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。具体的なステンレス鋼としては、JISG4304に示されるステンレス鋼のうち、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS317、SUS329、SUS436等があげられる。
【0031】
尚、BGTFの副生は、加熱温度が高い方が多いので、200℃以上、特には225℃以上に加熱される場合に、本発明の効果が顕著となる。
又、1,4−BGを160℃以上に加熱する加熱装置が複数ある場合、少なくとも1つの加熱装置の1,4−BG接液部の部材にモリブデンを含有するステンレス鋼を用いることで、本発明の効果は得られるが、複数の加熱装置の1,4−BG接液部の部材がモリブデンを含有するステンレス鋼であることが好ましい。
【0032】
中でも、エゼクターの駆動蒸気として1,4−BGを使用し、エゼクター駆動用の蒸気
発生装置の1,4−BGに接触する部材がモリブデンを含有するステンレス鋼であること
が好ましい。又、1,4−BG蒸気エゼクター下流部に設置されたコンデンサ、ホットウェルタンクにて凝縮された液はそのまま又は蒸留精製して精製1,4−BGとし、これをポリエステルの原料ジオールとすることができるが、この蒸留精製における加熱装置の1,4−BGに接触する部材を、モリブデンを含有するステンレス鋼とすることが好ましい。
【0033】
そして、本発明においては、特に、蒸気エゼクターに使用された1,4−ブタンジオール蒸気を凝縮させた後、ポリエステル製造原料のジオール成分として使用する際に、蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置の1,4−BGに接触する部分にモリブデンを含有する
ステンレス鋼を用いることにより、より好ましくは、これに加えて、蒸気エグゼクターに使用された1,4−ブタンジオールを、1,4−ブタンジオールが接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を用いた蒸留塔を用いて精製し、得られた1,4−ブタンジオールをポリエステル製造原料のジオール成分として使用することによって、長期間の運転においても、良好な品質(固有粘度、色調等)のポリエステルを安定して生産することができ、工業上有利である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り種々の変更が可能であり、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
<ステンレス鋼の金属元素分析>
鋼材表面を研磨した試料を50mg、石英ビーカーに採取し、硫酸および王水を加えホットプレート上で加熱しながら酸溶解し、溶解するまで減少した王水を補いながら、試料を完全に溶解する。ビーカーを冷却後、純水を添加してメスフラスコに全量を注ぎ、100mLにメスアップする。その後さらに10倍に希釈して、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES ULtrace JY−138U型)を用いて定量分析し、鋼材の金属含量(重量%)に換算した。
【0035】
<1,4―ブタンジオール中のBGTF分析>
キャピラリー型ガスクロマトグラフを用いて、BGTF成分に対応するピーク面積よりBGTF成分の含有割合(S重量%)を求め、水分測定で求めた水分濃度(W重量%)を下記式(1)で補正して算出した。
【0036】
X(重量%)=S×(100−W)/100 式(1)
装置は、島津製GC−14BPF(スプリット比:1/90、RANGE:10)を、カラムはJ&W社製のDB−WAX(内径:0.32mm、長さ:60m、膜圧:0.5μm)を使用した。注入部および検出器温度は240℃、カラム温度は70℃で15分保持後、170℃まで10℃/minで昇温し、170℃で45分保持した。キャリヤガスには窒素(1mL/min)を用いた。
また、留出液中の水分濃度(重量%)は、留出液を精秤し、カールフィッシャー水分計にて水分量(μg)を測定し、留出液に対する重量%として表した。
【0037】
<触媒中の金属元素分析>
試料0.1gをケルダールフラスコ中で硫酸存在下、過酸化水素で湿式分解の後、蒸留水にて定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES ULtrace JY−138U型)を用いて定量分析し、触媒中の金属含量(重量%)に換算した。
【0038】
<触媒溶液のpH分析>
東亜DKK社製自動滴定装置(AUT−301型)を用い、大気下でpH電極を液状触媒に浸して測定した。
<エステル化率 %>
以下の計算式(2)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価はエステル化反応物試料0.3gをベンジルアルコール40mLに180℃で20分間加熱させ、10分間冷却した後、0.1mol・L−1のKOH/メタノール溶液で滴定して求めた。
ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
エステル化率(%)=((ケン化価−酸価)/ケン化価)×100 式(2)
【0039】
<固有粘度(IV) dL/g>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dLのポリエステル試料溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(3)より求めた。
【0040】
IV=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC) 式(3)
(但し、ηSP=η/η0−1であり、ηは試料溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。)
【0041】
<カラーb値>
ペレット状ポリエステルを内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Z300A(日本電色工業(株))を使用して、JIS Z8730の参考例1に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色座標によるb値を、反射法により、測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0042】
(実施例1)
[脂肪族ポリエステル重縮合触媒溶液の調製]
撹拌装置付きのガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を100重量部入れ、更に1500重量部の無水エタノール(純度99重量%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を130.8重量部加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを529.5重量部添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、ナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。1時間後に殆ど
のエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体を得た。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、655Paの減圧下で更に濃縮を行い粘稠な液体を得た。この液体状の触媒を、1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子含有量が3.36重量%となるよう調製した。1,4−ブタンジオール中における保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は少なくとも40日間析出物の生成は認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.3であった。
【0043】
[脂肪族ポリエステルの連続重縮合]
図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程を通し、次の要領で脂肪族ポリエステル樹脂の製造を行った。先ず、コハク酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.30モルおよびリンゴ酸0.0033モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽(図示せず。)から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%の脂肪族ポリエステルオリゴマーを充填し230℃に保持した攪拌機を有するエステル化反応槽(A)に、42kg/hとなる様に連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から100℃の精留塔(C)の塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を3.0kg/hで供給した。
【0044】
反応槽(A)の内温は230℃、圧力は101kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。精留塔(C)の塔底からライン(6)を通じて抜き出した高沸物は一部をライン(7)を通じて精留塔(C)に循環した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になる様に、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、水とテトラヒドロフランを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
【0045】
反応槽(A)で生成したエステル化反応生成物としてのオリゴマーの一定量は、ポンプ(B)を使用し、オリゴマーの抜出ライン(4)から抜き出し、反応槽(A)内液のコハク酸ユニット換算での滞留時間が3時間になる様に液面を制御した。抜出ライン(4)から抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽図2(a)に連続的に供給した。系が安定した後、エステル化反応槽(A)の出口で採取した反応物のエステル化率は90.6%であった。
【0046】
予め前述手法にて調製した触媒溶液を更に1,4−ブタンジオールで希釈して、チタン原子としての濃度を0.17重量%とした。この液を供給ライン図2(L7)を通じてエステル化反応物の抜出ライン(4)に1.0kg/hで供給した。
第1重縮合反応槽(a)の内温は240℃、圧力2.66kPaとし、滞留時間が2時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L2)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。ベントライン(L2)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン図3(21)で蒸気エゼクターシステムに接続した。抜き出した反応液は、抜出用ギヤポンプ(c)により抜出ライン(L1)を経由し、第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
【0047】
第2重縮合反応槽(d)の内温は240℃、圧力0.40kPaとし、滞留時間が1.5時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L4)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。ベントライン(L4)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン図3(31)で蒸気エゼクターシステムに接続した。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、第3重縮合反応槽(k)に連続的に供給した。
【0048】
第3重縮合反応槽(k)の内温は240℃、圧力0.13kPaとし、滞留時間が1時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L6)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。ベントライン(L6)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン図3(41)で蒸気エゼクターシステムに接続した。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(m)により抜出ライン(L5)を経由し、絶対濾過精度40μmを有する積層金属不織布を濾材とするリーフディスクタイプフィルター(n)を通過させ、ダイヘッド(g)からストランド状に抜き出して、ペレタイザー(h)でカッティングして脂肪族ポリエステルペレットを製造した。
【0049】
尚、それぞれの重縮合反応槽(a、d、k)の圧力は図3に示した蒸気エゼクターシステムを用いてコントロールした。
蒸気エゼクターシステムは、市販の1,4−ブタンジオールを外部から供給ライン(19)を通じて、エゼクター駆動用の1,4−ブタンジオールの蒸気発生装置(K)へ連続的に供給し、240℃に加熱し発生1,4−ブタンジオール蒸気を供給ライン(20)を通じて、各エゼクター(第1重縮合反応槽用:A1・A3、第2重縮合反応槽用:B1・B3・B5、第3重縮合反応槽用:C1・C3・C5)へ供給した。蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(K)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にSUS316Lのステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:13.5重量%、モリブデン含量:2.5重量%)を用いた。
【0050】
第1重縮合反応槽(a)から留出したテトラヒドロフラン、水を主成分とするガスはライン(21)を経て、エゼクター(A1)に導入され、この時エゼクター(A1)から排出される1,4−ブタンジオール蒸気は、バロメトリックコンデンサー(A2)で凝縮さ
れ、凝縮液は大気脚(25)を通じてホットウェルタンク(H2)に集められた。一方、バロメトリックコンデンサー(A2)で凝縮しなかった成分は2段目のエゼクター(A3)に送られ、凝縮液は大気脚(26)を通じてホットウェルタンク(H3)に集められた。1段目と同様にバロメトリックコンデンサー(A4)で凝縮しなかった成分は真空ポンプ(A5)を用いてライン(24)から系外に排出した。ライン(22、23)は1,4−ブタンジオールの供給ラインであり、全量をホットウエルタンク(H2、H3)から循環供給した(図示せず。)。
【0051】
第2重縮合反応槽(d)から留出したテトラヒドロフラン、水を主成分とするガスはライン(31)を経て、エゼクター(B1)に導入され、この時エゼクター(B1)から排出される1,4−ブタンジオール蒸気は、バロメトリックコンデンサー(B2)で凝縮さ
れ、凝縮液は大気脚(36)を通じてホットウェルタンク(H1)に集められた。一方、バロメトリックコンデンサー(B2)で凝縮しなかった成分は2段目のエゼクター(B3)に送られ、凝縮液は大気脚(37)を通じてホットウェルタンク(H2)に集められた。1段目と同様にバロメトリックコンデンサー(B4)で凝縮しなかった成分は3段目のエゼクター(B5)に送られ、凝縮液は大気脚(38)を通じてホットウェルタンク(H3)に集められた。2段目と同様にバロメトリックコンデンサー(B6)で凝縮しなかった成分は真空ポンプ(B7)を用いてライン(35)から系外に排出した。ライン(32、33、34)は1,4−ブタンジオールの供給ラインであり、全量をホットウエルタンク(H1、H2、H3)から循環供給した(図示せず。)。
【0052】
第3重縮合反応槽(k)から留出したテトラヒドロフラン、水を主成分とするガスはライン(41)を経て、エゼクター(C1)に導入され、この時エゼクター(C1)から排
出される1,4−ブタンジオール蒸気は、バロメトリックコンデンサー(C2)で凝縮さ
れ、凝縮液は大気脚(46)を通じてホットウェルタンク(H1)に集められた。一方、バロメトリックコンデンサー(C2)で凝縮しなかった成分は2段目のエゼクター(C3)に送られ、凝縮液は大気脚(47)を通じてホットウェルタンク(H2)に集められた。1段目と同様にバロメトリックコンデンサー(C4)で凝縮しなかった成分は3段目のエゼクター(C5)に送られ、凝縮液は大気脚(48)を通じてホットウェルタンク(H3)に集められた。2段目と同様にバロメトリックコンデンサー(C6)で凝縮しなかった成分は真空ポンプ(C7)を用いてライン(45)から系外に排出した。ライン(42、43、44)は1,4−ブタンジオールの供給ラインであり、全量をホットウエルタンク(H1、H2、H3)から循環供給した(図示せず。)。
【0053】
ホットウェルタンク(H1、H2、H3)に集められた1,4−ブタンジオールを主成
分とする液体は、ライン(54)、ポンプ(H4)を通してバッファータンク(H5)に送られ、その全量をポンプ(H6)、ライン(55)を通じて、未精製のまま原料スラリー調製槽へ移送・BR>オポリエステル原料ジオールの一部とした。
ライン(51、52、53)は、ホットウェルタンク(H1、H2、H3)への市販の1,4−ブタンジオールの外部から供給ライン。尚、連続重縮合プロセスの運転安定時の外部からの市販の1,4−ブタンジオールの供給は、ライン(19)とライン(51、52、53)のみであり、それぞれ一定流量に設定した。
以上の条件下で1ヶ月運転を継続した。
運転開始3日目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び脂肪族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(K)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にSUS304のステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:9.5重量%、モリブデン含量:0.0重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを製造した。
運転開始3日目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び脂肪族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例2)
ホットウェルタンク(H1、H2、H3)に集められた1,4−ブタンジオールを主成
分とする液体は、ライン(54)、ポンプ(H4)を通してバッファータンク(H5)に送られ、その全量をポンプ(H6)、ライン(56)を通じて、蒸留精製塔(J1)で精製した後、ポンプ(J2)、ライン(58)を通じて原料スラリー調製槽へ移送し原料ジオールの一部とした以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを製造した。
【0056】
蒸留精製塔(J1)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にSUS316Lのステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:13.5重量%、モリブデン含量:2.5重量%)を用い、塔頂圧力26.6kPa、還流比90、塔底温度215℃で蒸留した。
一方、蒸留精製塔(J1)で分離されたテトラヒドロフラン等の低沸点成分はライン(57)を通じて、高沸点成分はライン(59)を通じて系外へ払い出した。
以上の条件下で1ヶ月運転を継続した。
運転開始3日目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び脂肪族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(K)の1,4−ブタンジオールに接触する部材
にSUS304のステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:9.5重量%、モリブデン含量:0.0重量%)を用い、蒸気エゼクターの凝縮させた1,4−ブタンジオールを精製するための蒸留塔(J1)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にSUS304のステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:9.5重量%、モリブデン含量:0.0重量%)を用いた以外は、実施例2と同様にして脂肪族ポリエステルペレットを製造した。
運転開始3回目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び脂肪族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
[芳香族ポリエステルの連続重縮合]
図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程を通し、次の要領で芳香族ポリエステル樹脂の製造を行った。先ず、テレフタル酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.80モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応器(A)に、40kg/hとなる様に連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から185℃の精留塔(C)の塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を18.4kg/hで供給し、チタン触媒供給ライン(3)から触媒として65℃のテトラ−n−ブチルチタネートの6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を127g/hで供給した。この触媒溶液中の水分は0.2重量%とした。
【0059】
反応器(A)の内温は230℃、圧力は67kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になる様に、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、水とテトラヒドロフランを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
【0060】
反応器(A)で生成したオリゴマーの一定量は、ポンプ(B)を使用し、オリゴマーの抜出ライン(4)から抜き出し、反応器(A)内液のテレフタル酸ユニット換算での平均滞留時間が3hrになる様に液面を制御した。抜出ライン4から抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応器(a)に連続的に供給した。系が安定した後、反応器(A)の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.3%であった。
【0061】
第1重縮合反応槽(a)の内温は245℃、圧力2.66kPaとし、滞留時間が2時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L2)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。ベントライン(L2)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン(21)で蒸気エゼクターシステムに接続した。抜き出した反応液は、抜出用ギヤポンプ(c)により抜出ライン(L1)を経由し、第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
【0062】
第2重縮合反応槽(d)の内温は240℃、圧力0.26kPaとし、滞留時間が1.5時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L4)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。ベントライン(L4)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン(31)で蒸気エゼクターシステムに接続した。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、第3重縮合反応槽(k)に連続的に供給した。
【0063】
第3重縮合反応槽(k)の内温は240℃、圧力0.13kPaとし、滞留時間が1時間になる様に液面制御を行い、ベントライン(L6)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。ベントライン(L6)は、湿式凝縮器(図示せず、主に1,4−ブタンジオールを凝縮捕集する。)を経由し、ベントライン(41)で蒸気エゼクターシステムに接続した。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(m)により抜出ライン(L5)を経由し、絶対濾過精度40μmを有する積層金属不織布を濾材とするリーフディスクタイプフィルター(n)を通過させ、ダイヘッド(g)からストランド状に抜き出して、ペレタイザー(h)でカッティングして芳香族ポリエステルペレットを製造した。
【0064】
尚、それぞれの重縮合反応槽(a、d、k)の圧力は図3に示した蒸気エゼクターシステムを用いて、実施例1と同様にコントロールした。
以上の条件下で1ヶ月運転を継続した。
運転開始3日目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び芳香族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(K)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にSUS304のステンレス鋼(クロム含量:19.0重量%、ニッケル含量:9.5重量%、モリブデン含量:0.0重量%)を用いた以外は、実施例3と同様にして芳香族ポリエステルペレットを製造した。
運転開始3日目、1ヶ月運転後に採取した1,4−ブタンジオール中のBGTF含量及び芳香族ポリエステルペレットの品質評価結果を表1に示す。
【0066】
比較例1,2,3は、1,4−BG加熱装置のいずれにおいても、1,4−ブタンジオールが接触する部分にモリブデンを含まないSUS304を使用した例であり、この場合は一ヶ月の長期運転を行うと反応系内の1,4−ブタンジオール中のBGTFが増加し又ポリエステルの固有粘度が低下し、着色も増加した。
【0067】
これに対して、実施例1〜3は、1,4−ブタンジオールが接触する加熱装置の一部にモリブデンを含むSUS316Lを使用した例(実施例1及び3は、蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置(K)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にモリブデンを含有するステンレス鋼を使用した例であり、実施例2は、これに加えて、蒸留精製塔(J1)の1,4−ブタンジオールに接触する部材にモリブデンを含有するステンレス鋼を使用した例)であり、この場合、一ヶ月の長期運転後も、反応系内の1,4−ブタンジオール中のBGTFの増加がなく、又ポリエステルの固有粘度の低下も、樹脂の着色も認められなかった。
【0068】
【表1】

本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2008年11月5日出願の日本国特許出願(特願2008−284300)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートなどの1,4−ブタンジオールをジオールの主成分とする有用なポリエステルを良好な品質で、安定に生産することができる。よって、本発明の工業的価値は顕著である。
【符号の説明】
【0070】
1 原料供給ライン
2 再循環ライン
3 エステル化反応槽触媒供給ライン
4 エステル化反応物(オリゴマー)の抜出ライン
5 留出ライン
6 抜出ライン
7 循環ライン
8 抜出ライン
9 ガス抜出ライン
10 凝縮液ライン
11 抜出ライン
12 循環ライン
13 抜出ライン
14 ベントライン
A エステル化反応槽
B 抜出ポンプ
C 精留塔
D、E ポンプ
F タンク
G コンデンサー
L1、L3、L5 反応物抜出ライン
L2、L4、L6 ベントライン
L7 触媒供給ライン
a 第1重縮合反応槽
d 第2重縮合反応槽
k 第3重縮合反応槽
c、e、m 抜出用ギヤポンプ
n フィルター
g ダイスヘッド
h ペレタイザー
A1、A3、B1、B3、B5、C1、C3、C5 エゼクター
A2、A4、B2、B4、B6、C2、C4、C6 バロメトリックコンデンサー
A5、B7、C7 真空ポンプ
H1、H2、H3 ホットウェルタンク
H4、H6、J2、J4 ポンプ
H5 バッファータンク
J1 蒸留精製塔
J3 蒸留精製塔のリボイラー
K エゼクター駆動用1,4−ブタンジオールの蒸気発生装置
19、51、52、53 外部からの1,4−ブタンジオールの供給ライン
20 エゼクターへの蒸気1,4−ブタンジオールの供給ライン
21 第1重縮合反応槽からのベントライン
31 第2重縮合反応槽からのベントライン
41 第3重縮合反応槽からのベントライン
22、23、32、33、34、42、43、44 1,4−ブタンジオールの供給ライン
24、35、45 真空ポンプからの吐出ガスライン
25、26、36、37、38、46、47、48 バロメトリックコンデンサーの大気脚
54 ホットウェルタンクからバッファ−タンクへの抜き出しライン
55 バッファータンクから原料スラリー調製槽への1,4−ブタンジオールの供給ライン
56 バッファータンクから蒸留精製塔への1,4−ブタンジオールの供給ライン
57 低沸点成分の抜き出しライン
58 蒸留精製塔から原料スラリー調製槽への1,4−ブタンジオールの供給ライン
59 高沸点成分の抜き出しライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とにエステル化反応、エステル交換反応又はその両反応を行わせ、並びに、重縮合反応を行わせてポリエステルを製造する方法において、ジオール成分が160℃以上の加熱履歴を受けた1,4−ブタンジオールを含み、前記加熱履歴を与える加熱装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分に、モリブデンを含有するステンレス鋼を使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
加熱装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分に、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼を使用することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
ジオール成分とジカルボン酸成分とにエステル化反応、エステル交換反応又はその両反応を行わせ、並びに、重縮合反応を行わせてポリエステルを製造する方法において、
(1)重縮合反応を減圧下で行い、
(2)その減圧装置が1,4−ブタンジオールの蒸気エゼクターを備え、
(3)該蒸気エゼクターに用いた1,4−ブタンジオール蒸気を凝縮させた後、ジオール成分として使用し、かつ
(4)蒸気エゼクター駆動用の蒸気発生装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を使用する、
ことを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項4】
ステンレス鋼のモリブデン含有量が0.1重量%以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
蒸気エグゼクターに使用された1,4−ブタンジオールを、1,4−ブタンジオールが接触する部分にモリブデンを含有するステンレス鋼を用いた蒸留塔を用いて精製し、得られた1,4−ブタンジオールをジオール成分として使用することを特徴とする請求項3又は4に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
ジカルボン酸成分の主成分が、テレフタル酸またはそのエステル誘導体であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
ジカルボン酸成分の主成分が、コハク酸またはその無水物であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
1,4−ブタンジオールを加熱するための装置であって、該装置の1,4−ブタンジオールに接触する部分の材質が、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼であることを特徴とする1,4−ブタンジオールを加熱するための装置。
【請求項9】
1,4−ブタンジオール蒸気を発生させるための装置であって、1,4−ブタンジオールに接触する部分の材質が、モリブデン含有量0.1重量%以上のステンレス鋼であることを特徴とする1,4−ブタンジオール蒸気を発生させるための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−132898(P2010−132898A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253202(P2009−253202)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】