説明

ポリエステルの製造方法およびそれを用いたフィルム

【課題】 低屈折率、熱安定性に優れたポリエステルを効率よくポリエステルを製造する方法であって、それを多層積層フィルムとした際に、光弾性係数が小さく、光反射性に優れたフィルムを提供する。
【解決手段】 脂環族ジカルボン酸アルキルエステルと脂環族ジオール単位を有するポリエステルを製造するに際して、ポリエステルに対してアルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnを金属元素として30〜200ppm添加してエステル交換反応をせしめ、次いで重縮合反応前に触媒としてTi、SbおよびGe元素の少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5〜500ppm、さらにリン化合物をリン元素として50〜500ppm、アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として2〜1000ppm添加してポリエステルを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脂環族成分の化合物を共重合するに際し、アルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物でエステル交換反応をせしめ、特定の重合触媒と特定量のリンを添加し、また重縮合反応以前の工程において特定量のアルカリ金属化合物を添加してなるポリエステルの製造方法である。詳しくは、アルカリ金属化合物の添加がエステル交換反応触媒となり反応促進剤となる他、反応系内をアルカリ性に調整することにより脂環族ジオール成分であるスピログリコールの分解を抑制することが可能となり、反応工程においてゲル化が抑制でき、更に該共重合成分が十分に反応するため、反応工程外への飛散が抑制できるポリエステルの製造方法である。また、該製造方法によって得られたポリエステルは、同時に熱安定性(黒色異物やゲル化の抑制)に優れ、さらには光学等方性や光反射性に優れた光学ポリエステルフィルムを提供することができる。
【背景技術】
【0002】

脂環族成分を含有するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)などの芳香族ポリエステルとは異なった光学特性、結晶化特性、機械特性を有しており、該ポリエステル単独、または芳香族ポリエステルと組み合わせて使用される。
【0003】
例えば、特許文献1、2では、耐熱性を向上させるために、環状アセタール骨格を有するジカルボン酸、ジオール等を共重合するにあたり高圧力下や窒素雰囲気下においてエステル交換反応せしめる製造方法、特許文献3、4では、ジカルボン酸とジオールから得られたエステルに環状アセタール骨格を有するジオールをチタン化合物の存在下でエステル交換反応を進め、安定的に製造するといった方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、該製造方法では環状アセタール骨格を有するジオールを効率良く反応できず、高分子化工程である重縮合反応において環状アセタール骨格を有するジーオル成分が飛散する等の問題が生じ、安定した生産が困難である。また、例えば剛直な分子鎖を有するスピログリコール等を共重合することでガラス転移点を高くすることや高くなることを抑制するため長鎖のジオール成分を更に共重合することが例示されている。しかし、仮に、該樹脂組成物を多層積層フィルムに使用した場合も、Tgが通常のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対して高いことや同等であってもフィルムに成形する際にそれぞれ結晶性が異なることから積層ムラの発生等、加工性に劣る。また、スピログリコールだけでは、十分に屈折率を下げることができず、多層積層フィルムとした際に、光反射率が低くなる。
【0005】
また、特許文献5では、環状アセタール骨格を有したポリエステル樹脂組成物に対してリン系酸化防止剤等をブレンド・混練により配合させたポリエステル樹脂を得る製造方法が示されている。しかしながら、ポリエステル樹脂製造中における熱劣化には対応できず効果が不十分である。
【0006】
さらに、特許文献6では、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物(以下、PEN)に共重合ポリエステル樹脂組成物を積層した光反射性フィルムが、特許文献7ではポリエステル樹脂組成物にナイロン樹脂組成物やアクリル樹脂組成物を積層した光反射性繊維が、特許文献8ではPENと共重合ポリエステル樹脂組成物を積層した多層光学フィルムが、特許文献9では透明性に優れたPEN共重合ポリエステル樹脂組成物からなる写真用フィルムが提案されている。しかしながら、特許文献6、8に記載のポリエステル樹脂組成物はTgが異なるポリエステル同士を積層しているために加工性に劣り、特許文献7の組み合わせはポリマー同士の接着性が劣るために積層フィルムに転用することは不適当であり、さらに特許文献6、8、9に記載のポリエステルは光弾性係数が大きく、液晶ディスプレイ等には使用することができない。
【特許文献1】特開2004−67829号公報(第1〜9項)
【特許文献2】特開2003−183422号公報
【特許文献3】特開2005−314643号公報(第1〜13項)
【特許文献4】特開2006−225621号公報(第1〜19項)
【特許文献5】特開2004−67830号公報(第1〜4項)
【特許文献6】特開2000−141567号公報
【特許文献7】WO98/46815号パンフレット(第2〜5項)
【特許文献8】特表平9−506837号公報(第2〜6項)
【特許文献9】特開平6−295014号公報(第2項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、安定した製造反応工程および得られたポリエステルの熱安定性に優れ、光弾性係数が低く、光学等方性積層フィルムとした際に反射性に優れた特性を得るための、脂環族成分含有ポリエステルの製造方法およびそれを用いたポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した本発明の課題は以下の構成を採用することにより達成できる。
【0009】
ジカルボン酸構成単位に少なくとも脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよびジオール構成単位に少なくとも脂環族ジオールを用い、エステル交換反応を経たのち重縮合してポリエステルを製造する方法において、前記脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよび脂環族ジオールを含むポリエステルに対して、アルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を金属元素として30ppm以上、200ppm以下添加してエステル交換反応をせしめ、次いで重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5ppm以上、500ppm以下となるように添加し、さらにリン化合物をリン元素として50ppm以上、500ppm以下添加し、また、重縮合反応以前の工程においてアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として2ppm以上、1000ppm以下添加して、重縮合反応し下記特性(1)〜(4)を満足したポリエステルとすることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【0010】
示差走査熱量測定によるガラス転移点温度:65℃以上〜90℃以下・・・(1)
ナトリウムD線での屈折率:1.500以上〜1.570以下・・・(2)
ゲル化率:大気下50%以下、窒素下10%以下・・・(3)
示差熱・熱重量同時測定による熱減量率:大気下2%以下、窒素下1%以下・・・(4)
また、本発明のポリエステルの製造方法で得られたポリエステルとPETとを交互に積層する積層ポリエステルフィルムにより、光反射率90%以上の特性が達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脂環族成分の化合物を共重合するに際し、アルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物およびアルカリ金属化合物の存在下で効率良くエステル交換反応をせしめ、特定の重合触媒と特定量のリンを添加することで、反応工程においてゲル化が抑制でき、重縮合中に低分子量物が飛散することなく効率良く重縮合することができ、さらに熱安定性(黒色異物、ゲル化の抑制)に優れたポリエステルを製造することができる。
【0012】
本発明により得られたポリエステルは、液晶ディスプレイに好適な低光弾性係数を有し、光反射性に優れた積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸構成単位に少なくとも脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよびジオール構成単位に少なくとも脂環族ジオールを用い、エステル交換反応を経たのち重縮合してポリエステルを製造する方法において、前記脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよび脂環族ジオールを含むポリエステルに対して、アルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を金属元素として30ppm以上、200ppm以下添加してエステル交換反応をせしめ、次いで重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5ppm以上、500ppm以下となるように添加し、さらにリン化合物をリン元素として50ppm以上、500ppm以下添加し、また重縮合反応以前の工程においてアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として2ppm以上、1000ppm以下添加して、重縮合反応し下記特性(1)〜(4)を満足したポリエステルとすることを特徴とするポリエステルの製造方法である。
【0014】
示差走査熱量測定によるガラス転移点温度:65℃以上〜90℃以下・・・(1)
ナトリウムD線での屈折率:1.500以上〜1.570以下・・・(2)
ゲル化率:大気下50%以下、窒素下10%以下・・・(3)
示差熱・熱重量同時測定による熱減量率:大気下2%以下、窒素下1%以下・・・(4)
本発明のポリエステルの製造方法により得られたポリエステル(以下、ポリエステルA)は、ガラス転移点温度(以下、Tg)が65℃〜90の範囲にあることが必要である。Tgが65℃未満の場合、耐熱性が不足するためにポリエステルまたはその成形体の光学特性が経時変化しやすく、またPET等と積層して製膜する際には積層樹脂間のTg差が大きくなるために積層ムラ等が発生し、製膜安定性が損なわれる。積層フィルムとする場合、本発明のポリエステルAのTgを積層ポリマーのTgと合致させることが好ましく、積層ポリマーのTg(Tg1)と本発明のポリエステルAのTg(Tg2)の差(|Tg1−Tg2|)が10℃以内、さらには5℃以内であることが好ましい。一方、Tgが90℃を超える場合には、PET等を積層する際にTg差が大きくなりすぎるために、上記同様、積層ムラ等発生し、製膜安定性が損なわれ、またポリエステルフィルムの屈折率を低くすることが困難となる。よって本発明のポリエステルA樹脂のTgは、70〜87℃の範囲が好ましく、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。
【0015】
なお、本発明におけるTgは、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7型)によって測定し、窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温した後液体窒素を用いて急冷し、再び窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温する。この2度目の昇温過程でのTgを指す。
【0016】
本発明のポリエステルAの屈折率は、1.500〜1.570の範囲であることが必要である。屈折率を1.500未満とすることはポリエステル樹脂では困難であり、1.570を超える場合には、積層ポリマーとの屈折率差が小さくなるため、得られた積層フィルムの光反射性が小さくなる。本発明のポリエステルAの屈折率は、1.510〜1.560の範囲であることが好ましい。なお、本発明における屈折率は、23℃の条件にてナトリウムD線を用いて測定した屈折率を指す。
【0017】
本発明のポリエステルの製造方法では、前記した特性を与えるためには、ポリエステルAはジカルボン酸構成単位に少なくとも脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよびジオール構成単位に脂環族ジオールを用いることが必要である。ポリエステルAに含まれる芳香環はTgを高める効果があるが、同時に屈折率を高め、光弾性係数を高める効果がある。光弾性係数が大きい場合、フィルムに応力が作用した際に位相差が大きく変化するため、液晶ディスプレイ用途のフィルムには不適当である。
【0018】
そこで、本発明のポリエステルAは、この芳香族ジカルボン酸成分の一部を脂環族ジカルボン酸成分やジオール成分の一部を脂環族ジオールで置換することにより、屈折率や光弾性係数を低減させている。
【0019】
本発明における脂環族ジカルボン酸アルキルエステルとしては、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルやデカリンジカルボン酸ジメチル等を挙げることができる。特に入手の容易性や重縮合反応性の観点からはシクロヘキサンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0020】
なお、シクロヘキサンジカルボン酸アルキルエステルなどの脂環族成分には立体異性体として、シス体、トランス体が存在するが、本発明ではトランス体比率が40%以下であることが好ましい。トランス体比率が高いと光弾性係数が大きくなるため劣る傾向にある。また、トランス体は、シス体に比べ、融点が高いため、トランス体比率が高くなると、室温程度で保管、または、輸送中等に、容易に凝固し、沈降してしまい、不均一となり反応性が悪くなるだけでなく、取り扱い上においても作業性が悪くなる。よって、トランス体比率は、好ましくは、35%以下、より好ましくは、30%以下である。
【0021】
本発明における脂環族ジオールとしては、スピログリコールやイソソルビドが好ましく、特に得られるポリエステルの色調の観点からスピログリコールが好ましい。ここでスピログリコールとは3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを指す。
【0022】
本発明において、例えばPETの場合、テレフタル酸成分(芳香環成分)をシクロヘキサンジカルボン酸成分等で置換するとTgが低下する。一方、エチレングリコール成分をスピログリコールやイソソルビドなど脂環族ジオール成分に置換することでTgが上昇し、結果として本発明の積層フィルムに用いる通常のPETと同程度のTgに調整することができる。Tgを上昇させる効果はスピログリコールやイソソルビドにおいて顕著である。
【0023】
本発明のポリエステルAは、屈折率や光弾性係数を低下させるために、ポリエステル1kg中に含有される芳香環モル数を4.8モル以下とすることが好ましい。4.8モルを超える場合には屈折率や光弾性係数が増大する傾向にあるため好ましくない。なお、本発明における芳香環モル数とはベンゼン環モル数を基本単位としている。本発明における定義をPETとPENを例にして説明する。
【0024】
PETの場合、基本繰り返し単位の分子量は192であるため、ポリエステル1kg当たりの基本繰り返し単位数は5.2となる。基本繰り返し単位中にテレフタル酸成分(ベンゼン環1個相当)は1モル含まれるため、PETの芳香環モル数は5.2と計算される。一方、PENの場合、基本繰り返し単位の分子量は242であり、ポリエステル1kg当たりの基本繰り返し単位数は4.1である。基本繰り返し単位中にナフタレンジカルボン酸成分は1モル含まれるが、ナフタレン環はベンゼン環2個に相当するため、PENの芳香環モル数は8.2モルと計算する。
【0025】
本発明のポリエステルAは、少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含むが、その他ジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分から選択される。少なくとも、一種のジカルボン酸成分を全ジカルボン酸成分に対して20〜95モル%添加することが好ましい。またグリコール成分については、エチレングリコール成分をグリコール成分として20〜95モル%添加することが好ましい。前記した芳香族ジカルボン酸成分が20モル%未満の場合、Tgを65℃以上にすることが難しくなったり、例えばPETやPENと積層する際にはこれらの樹脂との層間接着性が悪化してくる。同様にエチレングリコール成分が20モル%未満の場合、PETやPENと積層した際、これらの樹脂との層間接着性が悪化してくる。一方、芳香族ジカルボン酸成分が95モル%を超える場合、屈折率や光弾性係数を低減することが難しくなり、エチレングリコール成分が95モル%を超える場合にはTgを65℃以上にすることが難しくなる。
【0026】
本発明のポリエステルAにおいて、脂環族ジカルボン酸アルキルエステル、脂環族ジオールの添加量は、前記記載よりそれぞれ5〜80モル%の範囲が好ましく、さらに8〜50モル%が好ましい。
【0027】
本発明のポリエステルAは、大気下熱処理後のゲル化率が50%以下であることが必要であり、好ましくは45%以下である。また、窒素下熱処理後のゲル化率が10%以下であることが必要であり、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。ゲル化率とは、ポリエステルを大気下または窒素下、285℃×2.5hrの条件で加熱処理後、オルト―クロロフェノールに溶解させた際の不溶物重量の全体に対する割合である。特に、スピログリコールを共重合したポリエステルは、酸性、水分含有下、熱により分解しゲル化する特徴がある。
【0028】
よって、大気下熱処理後のゲル化率が50%以上、また窒素下熱処理後のゲル化率が10%以上の場合、ポリエステルが著しくゲル化しやすいポリマーであることを意味し、例えば、重縮合後、ストランド状に吐出する際に、形状がフシ糸状となりカッターでカッティングできなくなることや製膜する際のフィルター濾過工程で多量のゲルにより濾圧が異常に上昇したり、積層フィルムの表面欠点が増加したり、多層積層フィルムの積層厚みが変動する等の問題を生じることがある。
【0029】
また、本発明のポリエステルAは、大気下の熱減量率が2%以下であることが必要あり、好ましくは1.5%以下である。さらに、窒素下の熱減量率が1%以下であることが必要であり、好ましくは0.8%以下である。熱減量率とは、示差熱・熱重量同時測定装置(以下、TG−DTA)により大気下および窒素下、20℃〜400℃(昇温速度:4℃/分)まで温度を上げた時の300℃におけるポリエステル減量重量の全体に対する割合である。
【0030】
上記したように本発明のポリエステルAは、脂環族ジカルボン酸アルキルエステルや脂環族ジオールを共重合したポリエステルであるがために熱安定性に劣る傾向にあり、ポリマーのゲル化や黒色の異物を発生(以下、黒色異物)する特徴がある。よって、大気下の熱減量率が2%を越え、また窒素下の熱減量率が1%越えた場合、ポリエステルが著しく熱安定性に劣るためにゲル化や黒色異物化しやすいポリマーであることを意味し、例えば、重縮合後、ストランド状に吐出する際に、形状がフシ糸状となりカッターでカッティングできなくなることや吐出終了放置後に口金孔に付着したポリエステルが黒色異物となり流動性を失い、吐出孔を閉塞したり、後続ポリエステル中に黒色異物として吐出される等の問題が生ずる。また、製膜する際のフィルター濾過工程で多量のゲルや黒色異物により濾圧が異常に上昇したり、分解ガスが発生したり、積層ムラが生じ積層フィルムの表面欠点が増加したり、多層積層フィルムの積層厚みが変動する等の問題を生じることがある。
【0031】
本発明のポリエステルの製造方法では、脂環族成分、特にスピログリコールは水や酸により官能基が増加し、反応中に分子量分布が広がったり、ゲル化が促進することからエステル交換反応から重縮合反応を進めることが必要である。また、反応系内をアルカリ性領域にするために、重縮合反応以前の工程においてアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として2〜1000ppm添加することが必要である。アルカリ金属化合物の添加時期は、エステル交換反応前、エステル交換反応終了後、重縮合反応前のいずれの工程において添加してもよい。特にはスピログリコールをエステル交換反応前に添加することから、アルカリ金属化合物の中にはエステル交換反応触媒作用もある化合物もあることから添加時期はエステル交換反応前が好ましい。また、アルカリ金属元素の添加量が1000ppmを越えると著しく重縮合反応性に劣り、ポリエステルが濁化傾向にあり、さらにエステル結合の分解が起こり分子量の低下やゲル化により機械的物性の低下が起こり好ましくない。一方、2ppm未満では重縮合反応中にゲル化が促進される傾向にありさらに、反応後の吐出ガットに太細が発生したり、得られたポリエステル成形加工した際にゲル化の発生や促進により成形不良や物性低下が起こり好ましくない。よって、アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素としての添加量は、好ましくは5〜500ppm、より好ましくは10〜200ppmである。
【0032】
本発明の製造方法において、アルカリ金属元素は特に限定されるものではないが、カリウム、ナトリウムおよびリチウムから選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の水酸化物、酢酸塩およびリン酸塩が好ましい。また、ナトリウム、リチウム化合物はポリエステル樹脂を黄色く着色し易い傾向にあり、リン酸塩はポリエステル樹脂を若干濁化させる傾向にある。中でも、カリウムの水酸化物が好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルの製造方法における、エステル交換反応触媒としてアルカリ土類金属、Zn、CoおよびMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を金属元素として30〜200ppm添加することが必要である。200ppmを越える場合、添加する金属量が増えることから耐熱性に劣る傾向にありゲル化や黒色異物化が促進される傾向にある 。一方、30ppm未満の場合は、エステル交換反応が十分完結しなかったり、反応時間が遅延することがある。よって、アルカリ土類金属、Zn,CoおよびMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を金属元素の添加量は、好ましくは32〜190ppm以下、より好ましくは35〜180ppm以下である。
【0034】
なお、アルカリ土類金属のCaは異物を形成し易く、Mgがよい。Zn、Co、MnではMnが異物や色調の点から好ましい。このなかでもMgとMnが樹脂の透明性の観点から好ましく、特にMnが好ましい。
【0035】
前記した金属化合物は、ポリエステルに可溶なものが好ましく、水酸化物や塩化物、酢酸塩が好ましく、特に酢酸塩が好ましい。
【0036】
本発明のポリエステルの製造方法としては、ゲル化や黒色異物抑制の観点から、エステル交換反応から重縮合反応により得られるポリエステルに対して、重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5〜500ppmを添加することが必要である。500ppmを越える場合は、重縮合活性が高すぎることからゲル化や黒色異物化が促進されて好ましくない。また、5ppm未満の場合は重縮合活性が十分に得られないため重縮合時間の延長や十分な重合度のポリマーが得られないため好ましくない。よって、チタン元素および/またはアンチモン元素および/またはゲルマニウム元素の添加量は好ましくは7〜450ppm、より好ましくは10〜400ppmである。
【0037】
前記重縮合反応触媒の中でも、低温反応活性の高いチタン元素を含有した金属化合物がより有効である。
【0038】
本発明の製造方法において、重縮合触媒としてのチタン元素化合物の置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基の少なくとも1種であるチタン化合物が好ましく用いられる。
【0039】
具体的なアルコキシ基には、テトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。
【0040】
また、アンチモン元素のアンチモン化合物およびゲルマニウム元素のゲルマニウム化合物としては三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムなどが挙げられ、これらは単独であっても併用であっても構わない。
【0041】
本発明のポリエステルの製造方法において、ゲル化や黒色異物抑制のための熱安定性の観点から、エステル交換反応から重縮合反応により得られるポリエステルに対して、リン元素50〜500ppmを重縮合反応前に添加することが必要であり、リン元素量は着色防止剤として用いるエステル交換反応触媒の失活剤として用いるリン化合物中のリン元素量とリン元素を含有した3価のリン化合物であるの耐熱安定剤のリン元素量を含むものである。500ppmを越えると重縮合反応性に劣ることや、ゲル化や黒色異物化抑制に対する顕著な効果が得られず、経済的にも無駄である。50ppm未満ではゲル化や黒色異物化抑制に対する効果が得られないため好ましくない。リン元素の添加量は、好ましくは60〜450ppm、より好ましくは70〜400ppmである。
【0042】
前記したリン化合物については特に限定されないが、リン化合物としては、例えばリン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系化合物等を挙げることができ、中でもこれらのエステル化合物が異物形成抑制の観点から好ましい。
【0043】
また、リン元素を含有した3価のリン化合物である耐熱安定剤を0.005〜1.0重量%加えることにより、よりゲル化や黒色異物化に対する効果がより得られる傾向にあり好ましい。特に3価のリンを含む耐熱安定剤が好ましい。前記した3価のリンを含む耐熱安定剤としては、市販の耐熱安定剤を適用することができ、このようなリン化合物として、例えば亜リン酸エステル、ジアリール亜ホスフィン酸アルキル、ジアリール亜ホスフィン酸アリール、アリール亜ホスホン酸ジアルキル、アリール亜ホスホン酸ジアリールを挙げることができ、具体的にはトリフェニルホスファイト、トリス(4−モノノニルフェニル)ホスファイト、トリ(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス[2,4−(ビス1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、3,9―ビス(2,4−ジクミルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、フェニル−ネオペンチレングリコール−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4―ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0044】
本発明のポリエステルの製造方法としては、ゲル化や黒色異物化抑制の観点から重縮合温度を260〜290℃の出来るだけ低温で実施することが好ましい。重縮合温度とは、通常、230〜240℃から徐々に温度を上げていき、ある目標の温度に到達した後は一定の温度で重縮合するため、その最終の一定温度のことである。290℃より高い場合は、重縮合は促進されるものの、熱劣化が促進しゲル化促進や吐出口金孔等に付着したポリエステルの黒色異物化が促進し好ましくない。260℃より低い場合は、重縮合活性が落ち、重縮合時間が遅延することで同様にゲル化が促進されるため好ましくない。従って、重縮合温度は、好ましくは、270〜288℃、より好ましくは275〜285℃である。また、重縮合における低重合体の飛散を考慮すると、目標の温度に到達までに1時間〜3時間かけることが好ましい。減圧速度は、1時間〜3時間の出来るだけ時間かけることが好ましい。さらに、重縮合最終減圧度は133Pa以下で行うことが好ましい。
【0045】
かくして得られた本発明のポリエステルAは、固有粘度が0.60〜1.0の範囲であることが好ましい。固有粘度が、0.60未満の場合、ポリエステルが脆くなるために好ましくなく、固有粘度が1.0を超える場合にはその溶融粘度が高くなるため、精度の良い積層が困難になる。
【0046】
本発明のポリエステルAは、非晶性であることが好ましく、また前記した共重合範囲では実質的に非晶性である。本発明における非晶性とは、DSC測定において融解熱量が4J/g以下であることをいう。このような非晶性のポリエステル樹脂組成物はフィルム製造においてその光学特性が変化しにくく、好ましい。
【0047】
本発明の製造方法により得られた、非晶性ポリエステルAは乾燥によって熱融着し、塊を作りやすい傾向がある。そこで、結晶性ポリエステルを5〜50重量%含ませることで乾燥による塊形成を抑制することができる。そのような結晶性ポリエステルとしては、示差走査熱量測定における結晶融解熱量が4J/g以上であることが好ましい。
【0048】
結晶性ポリエステルを含ませる方法としては、ベント式押出機による溶融混練が好ましい。すなわち、結晶性ポリエステルと本発明のポリエステルAをベント式押出機で溶融混練してペレットを得る方法である。結晶性ポリエステルとしてはPETやポリブチレンテレフタレート、PENやこれらの共重合体を挙げることができるが、PETが一番好ましい。
【0049】
本発明のポリエステルAに含有される芳香族ジカルボン酸成分は、前記した種類から少なくとも選択されるが、屈折率や光弾性係数の観点からテレフタル酸成分やイソフタル酸成分が好ましく、これらは同時に使用してもかまない。特にテレフタル酸成分はその他ポリエステルとの接着性等の観点から主に使用することが好ましい。その他ジカルボン酸成分としては、特性の許す限り従来公知のものを共重合しても構わない、グリコール成分についても同様である。このような成分としては、例えばアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やそのエステル、4,4’−ビスフェニレンジカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸やそのエステル、ジエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール成分を挙げることができる。さらに無機粒子、有機粒子、染料、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、ワックス等を含有させても構わない。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムは、前記した本発明のポリエステルAを含むものであり、光弾性係数、屈折率が小さく、液晶ディスプレイ用途等に好適に使用できる。
【0051】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、屈折率の異なるポリエステルと積層することで優れた光反射性を発揮するものである。本発明の積層ポリエステルフィルムは、本発明のポリエステルAを少なくとも1層含むポリエステルフィルムであるが、優れた光反射性を得るためには、本発明のポリエステルAとPET樹脂とを交互に積層することが好ましい。本発明のポリエステルAは、屈折率がPET樹脂よりも低く、非晶性であるためにフィルムを延伸しても屈折率はほとんど変化しない。そのため本発明のポリエステルAとPET層との界面で光を効率良く反射するのである。
【0052】
光反射率は高い方がもちろん好ましいが、90%以上であれば光反射性フィルムとして好ましい。優れた光反射性を得るためには、総積層数を250層以上とすることが好ましい。
【0053】
このような積層フィルムを得る方法は、2台以上の押出機を用いて、異なる流路から送り出されたポリマーを多層積層装置に送り込むことで実現する。多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を挙げることができる。特に積層厚みの精度から、マルチマニホールドダイやフィードブロックを用いることが好ましい。このようにして積層されたポリエステルは口金からシート状に押し出され、冷却ドラムなどによって冷却され、未延伸シートを得ることができる。厚みムラや表面状態の良好な未延伸シートを得るには、静電印加法によることが好ましい。
【0054】
得られた未延伸シートは、次いで一軸または二軸延伸することができる。二軸延伸では同時二軸延伸や逐次二軸延伸をおこなうことができる。
【0055】
次に本発明のポリエステルの製造方法およびフィルムの製造方法について詳しく説明する。
【0056】
本発明のポリエステルAは、スピログリコールが酸や水によって分解しやすいためジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させて低重合体を合成し、次いでこれを重縮合する方法を用いる。
【0057】
原料として、例えばテレフタル酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、エチレングリコール、スピログリコールを所定のポリエステル組成となるように反応装置へ仕込む。この際、グリコール成分は全ジカルボン酸成分に対して1.6〜2.5モル倍添加することにより反応性が良好となる。
【0058】
前記原料からなるポリエステルに対して、酢酸マンガン・四水塩等の金属元素含有金属化合物をエステル交換反応触媒として仕込み、またカリウム元素を含有した水酸化物の水酸化カリウム等のアルカリ金属元素化合物を添加し、必要に応じて重縮合反応触媒として三酸化アンチモン等のアンチモン元素化合物を添加して、150℃程度でモノマー成分は均一な溶融液体となる。次いで、反応缶内を235℃まで4時間かけて徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。このようにして、エステル交換反応が終了し、エステル交換反応触媒の失活剤としてトリメチルリン酸やトリエチルホスホノアセテートなどのリン元素化合物やリン元素を含有した3価のリン化合物である耐熱安定剤等を添加する。次いで、余剰のエチレングリコールを留出させた後、クエン酸キレートチタン化合物やテトラ−n−ブチルチタネート等のチタン化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物および二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物の重縮合反応触媒添加する(三酸化アンチモンの添加時期は前記記載のどちらかを選択する)。その後、反応物を235℃の重縮合反応装置へ仕込み、缶内温度を285℃まで1.5時間かけて徐々に昇温し、昇温と同時に缶内圧力を常圧から133Pa以下まで2時間かけて減圧する。重縮合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定のポリエステル粘度は、撹拌トルクを目安に重縮合反応を終了し、重縮合装置吐出口金孔よりポリエステルを水槽へ吐出する。吐出されたポリエステルは、水槽で急冷され、カッターでチップとする。
【0059】
このようなポリエステルの製造方法により本発明のポリエステルAを得ることができるが、上記は一例であって、モノマーや触媒および重縮合条件はこれに限定されるわけではない。
【0060】
次にポリエステルフィルムの製膜について説明する。
【0061】
製膜方法には、厚みムラが良好なT−ダイ法を好ましく用いることができる。
【0062】
ポリエステルの製造方法により得られたポリエステルAを真空乾燥する。溶融押し出しには単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。積層フィルムとするには、2台以上の押出機を用い、マルチマニホールドダイやフィードブロック等で溶融ポリエステルを積層し、押し出すことで製造することができる。
【0063】
キャスト方法は、溶融したポリエステルをギヤーポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム上に、それ自体公知の密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させて室温まで急冷し、未延伸のフィルムを得ることが好ましい。特に平面性や均一な厚みを得るには、静電印加法が好ましく用いられる。
【0064】
得られた未延伸フィルムは、さらに一軸延伸または二軸延伸することができる。
【0065】
二軸延伸の延伸方式は特には限定されず、逐次二軸延伸方式、同時二軸延伸方式などの方法を用いることができる。
【0066】
逐次二軸延伸により延伸する場合は、得られた未延伸フィルムをポリエステルの(ガラス転移温度Tg−30℃)以上、(ガラス転移温度Tg+50℃)以下に加熱されたロール群上で接触昇温させて、長手方向に1.1〜4.0倍延伸し、これを一旦冷却した後に、テンタークリップに該フィルムの端部を噛ませて幅方向にポリエステルの(ガラス転移温度Tg+5℃)以上、(ガラス転移温度Tg+50℃)以下の温度雰囲気下の中で1.1〜4.0倍延伸し、二軸配向したポリエステルフィルムを得る。
【0067】
延伸の終了した二軸配向フィルムはさらにTg+50℃〜Tg+150℃の範囲の温度で熱処理すると寸法安定性が向上する。
【0068】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、光弾性係数が低く、液晶ディスプレイ用フィルムとして好適である。また、PET等を交互に積層したフィルムは光反射性に優れ、反射材用途に好適である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0070】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
(1)ポリエステルの熱特性(ガラス転移点、結晶融解熱量)
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パン、パンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7型)によって測定した。測定においては窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温した後液体窒素を用いて急冷し、再び窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温する。この2度目の昇温過程でガラス転移点を測定した。
【0071】
また、結晶融解熱量は、2度目の昇温過程で現れる結晶融解ピークの面積から算出した。
(2)ポリエステルの屈折率
ポリエステルを溶融押し出しすることで厚さ100μmの未延伸シートを得る。ついで光源としてナトリウムD線を用い23℃の温度条件にて株式会社アタゴ製「アッベ式屈折率計 NAR−4T」で屈折率を測定した。
(3)固有粘度
固有粘度はオルトクロロフェノール(以下、OCP)を溶媒とし、25℃で測定した。
(4)ポリエステル樹脂組成物中の金属元素の含有量
堀場製作所社製蛍光X線装置(型番MESA−500W)を用い、ポリエステルの蛍光X線の強度を測定した。なお、値は含有量既知のサンプルを予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算した。
【0072】
また、アルカリ金属は島津製作所社製原子吸光光度計(型番AA−6300)を用い、ポリマーの吸光度を測定した。なお、値は含有量既知のサンプルを予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算した。
(5)ゲル化率
測定するポリエステルサンプルを凍結粉砕して直径300μm以下の粉体状にして真空乾燥する。この試料1gを、オーブン中で、大気下または窒素下、285℃で2.5時間熱処理する。これを、50mlのOCP中、160℃の温度で40分間溶解させる。続いて、ブフナー型ガラス濾過器(最大細孔の大きさ20〜30μm)で濾過し、洗浄・真空乾燥する。濾過前後の濾過器の重量の増分より、フィルターに残留したOCP不溶物の重量を算出し、OCP不溶物のポリエステル重量(1g)に対する重量分率を求め、ゲル化率(%)とした。
(6)ポリエステルの熱減量率
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パンに入れ、60℃で24時間真空乾燥した後改めてサンプル重量を測定し、アルミニウム製パンを用いて、示差熱・熱重量同時測定計(セイコーインスツルメンツ社製 TG/DTA6200型)によって測定した。測定においては大気下または窒素下で20℃から400℃まで10℃/分の速度で昇温した時の300℃における減量重量の全体に対する割合を求め、熱減量率(%)とした。
(7)シクロヘキサンジカルボン酸のシス、トランス体比率
試料をメタノールで5〜6倍に希釈し、その希釈溶液を0.4μlを液体クロマトグラフィーで下記条件にて測定した。
装置:島津製LC−10ADvp
カラム:キャピラリーカラム Agilent Technologies社製DB−17(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)
昇温条件:初期温度110℃、初期時間25分、昇温速度6℃/min、最終温度200℃
(8)光弾性係数(×10−12Pa−1
短辺1cm長辺7cmのサンプルを切り出した。このサンプルの厚みをd(μm)とする。このサンプルを(株)島津製作所社製TRANSDUCER U3C1−5Kを用いて、上下1cmずつをチェックに挟み長辺方向に1kg/mm(9.81×10Pa)の張力(F)をかけた。この状態で、ニコン(株)社製偏光顕微鏡5892を用いて位相差R(nm)を測定した。光源としてはナトリウムD線(589nm)を用いた。これらの数値を光弾性係数=R/(d×F)にあてはめて光弾性係数を計算した。
【0073】
光弾性係数が100×10−12Pa−1未満の場合を合格とした。
(9)反射率
日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotometer)にφ60積分球130−0632((株)日立製作所)および10°傾斜スペーサーを取り付け反射率のピーク値を測定した。なお、バンドパラメーターは2/servoとし、ゲインは3と設定し、187nm〜2600nmの範囲を120nm/min.の検出速度で測定した。また、反射率を基準化するため、標準反射板として付属のBaSO板を用いた。なお、本評価法では相対反射率となるため、反射率は100%以上となる場合もある。
(10)剥離性
JIS K5600(2002年)に従って試験を行った。なお、フィルムを硬い素地とみなし、2mm間隔で25個の格子状パターンを切り込んだ。また、約75mmの長さに切ったテープを格子の部分に接着し、テープを60°に近い角度で0.5〜1.0秒の時間で引き剥がした。ここで、テープにはセキスイ製セロテープ(登録商標)No.252(幅18mm)を用いた。評価結果は、格子1つ分が完全に剥離した格子の数で表した。また、試験フィルムの厚みが100μmより薄い場合には、厚さ100μmの二軸延伸PETフィルム(東レ製“ルミラー”T60)に試験フィルムを接着剤で強固に貼りあわせしたサンプルを剥離試験に用いた。この際には、試験サンプルを貫通しないように試験サンプルの面に格子を切り込んでテストを実施した。剥離個数が4個以下を合格とした。
(11)黒色異物
同一水準のポリエステルを連続して、2回バッチ重縮合し、この2バッチ目のガット状ポリマーを水槽へ吐出、カッテイングチップ化してから10分後のポリエステルチップ1kgを採取して、このチップ中に含まれる大きさ1ミリ以上の黒色異物数を目視でカウントする。なお、黒色異物の大きさとは、この異物を囲む最も小さな長方形の短辺の長さとする。
【0074】
黒色異物が0〜3個/kg(ポリマー)以下の場合・・・○
黒色異物が4〜9個/kg(ポリマー)の場合・・・△
黒色異物が10個/kg(ポリマー)以上の場合・・×
なお、大きさが5ミリ以上の黒色異物が観察されれば、異物の個数に関係なく×とした。
以下に触媒の合成方法を記す。
【0075】
なお、以下に触媒の合成方法を記す。
【0076】
参考例1(チタン触媒A.クエン酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(284g、1.0モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留・留去した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、その溶液を撹拌しながらNaOHの32重量%水溶液380gを滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、8.1モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。
【0077】
参考例2(チタン触媒B.乳酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた2Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(284g、1.0モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(218g、3.51モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応混合物を15分間撹拌し、その反応フラスコに乳酸アンモニウムの85重量%水溶液252gを加え、透明な淡黄色の生成物(Ti含有量6.54重量%)を得た。
【0078】
参考例3(チタン触媒C.チタンアルコキシド化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた2Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(284g、1.0モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(496g、8.0モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応フラスコに、NaOHの32重量%水溶液125gを滴下漏斗によりゆっくり加えて透明な黄色の液体を得た(Ti含有量5.2重量%)。
【0079】
実施例1
(ポリエステルの合成)
テレフタル酸ジメチル(以下、DMT)を67.6重量部、シス/トランス体比率が75/25であるシクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、CHDC)を17.4重量部、エチレングリコール(以下、EG)を50重量部、スピログリコール(以下、SPG)を19.9重量部をエステル交換反応(以下、EI反応)装置に仕込み、EI反応触媒として酢酸マンガン・四水塩(以下、酢酸Mn)0.06重量部含んだEG溶液を仕込み、水酸化カリウム(以下、水酸化K)0.01重量部を含んだEG溶液を添加し、内容物を150℃で溶解させて撹拌した。
【0080】
撹拌しながら反応内容物の温度を235℃まで4時間かけてゆっくり昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールを留出させ、EI反応を終了した。その後、トリメチルリン酸(以下、TMPA)を0.01重量部含んだEG溶液および旭電化工業(株)製ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)(以下、PEP36)0.12重量部含んだEGスラリーを添加した。TMPA等を添加した後、余剰なEGを30分間撹拌しながら留出させた後、チタン触媒Aをチタン元素として30ppm添加した後、余剰なEGを10分間撹拌しながら留出させ、反応を終了した。
【0081】
その後、EI反応物を重縮合反応装置に移行した。続いて、1バッチ目同様に2バッチ目のEI反応を進めた。
【0082】
次いで、重縮合反応装置内容物を撹拌しながら減圧および昇温し、EGを留出させながら重縮合反応を行った。なお、減圧は120分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は90分かけて235℃から285℃まで昇温した。重縮合反応の間に減圧回路不良の発生はなく、重縮合反応時間210分で撹拌トルクが所定の値に達し重縮合反応装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、重縮合反応装置下部のバルブを開けてガット状のポリマーを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、チップ化した。1バッチ目の重縮合反応が完了した後、重縮合反応装置の温度を初期状態に戻し、チップ化終了後、重縮合反応装置内の残ポリマーを約30分間垂れ流しした後、重縮合反応装置下部のバルブを閉じ、ポリマーの酸化防止のために吐出孔周辺に微量の窒素を流した。2バッチ目の重縮合反応を実施した。また、重縮合反応装置の減圧回路を解体したところ、回路への飛沫付着物は観察されなかった。
【0083】
このようにして得られたポリエステルAの組成および特性、さらにフィルム特性を表1〜4に示す。なお、得られたポリエステルの特性は、1バッチ目の特性である。
【0084】
(単層2軸延伸フィルムの製膜)
1バッチ目のポリエステルAチップを真空乾燥したが、一部に塊状物が見られたため、これを崩してから、押出機に供給した。押出機に供給されたポリエステルAは280℃で溶融されて金属不織布フィルターによって濾過されたのち、Tダイから溶融シートとして押し出した。溶融シートは静電印加法(電極は直径0.15ミリのタングステンワイヤーを使用)によって表面温度が25℃に制御された鏡面ドラム上で冷却固化され、未延伸シートとなった。該未延伸シートを用いて、屈折率および光弾性係数を測定した。
【0085】
屈折率は1.552、光弾性係数は85×10−12Pa−1であった。
【0086】
(積層ポリエステルフィルムの製膜)
前記ポリエステルAおよびPET樹脂をそれぞれ真空乾燥した後、2台の押出機にそれぞれ供給した。
【0087】
ポリエステルAおよびPET樹脂は、それぞれ、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤーポンプおよびフィルターを介した後、101層のフィードブロックにて合流させた。このとき、積層フィルムの両表層がPET樹脂層となるようにし、積層厚みはポリエステルA層/PET樹脂層が1/2となるように交互に積層した。すなわちポリエステルA層は50層、PET層は51層となるように交互に積層した。
【0088】
このようにして得られた101層からなる積層体を、ダイに供給し、シート状に押し出し、静電印加(直流電圧8kV)にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0089】
得られたキャストフィルムは、ロール式縦延伸機に導き、90℃に加熱されたロール群によって加熱し、周速の異なるロール間で長手方向に3倍に延伸した。縦方向に延伸が終了したフィルムは、次いでテンター式横延伸機に導いた。フィルムはテンター内で100℃の熱風で予熱し、横方向に3.3倍に延伸した。延伸されたフィルムはそのままテンター内で200℃の熱風にて熱処理した。このようにして厚さ50μmのフィルムを得ることができた。得られたフィルムの特性を表4に示す。
【0090】
以上、本発明のポリエステルAを用いた単層フィルムは光弾性係数が100−12Pa−1未満であり、積層フィルムとした際、剥離性に問題なく、光反射率は100%と優れていた。
【0091】
実施例2〜15
実施例2〜4は、実施例1のエステル交換反応触媒である金属化合物種および重縮合反応触媒であるチタン触媒を変更した以外は実施例1と同様にしてEI反応および重縮合反応を行い、ポリエステルAおよびフィルムを得た。特性を表1〜4に示す。なお、実施例2の金属化合物の酢酸マグネシウム(以下、酢酸Mg)は0.04重量部のEG溶液、実施例3の酢酸亜鉛(以下、酢酸Zn)は006重量部のEG溶液、実施例4の酢酸コバルト(以下、酢酸Co)0.04重量部のEG溶液、また重縮合反応触媒であるテトラ−n−ブチルチタネート(以下、TBT)0.022重量部のEG溶液を用いた。
【0092】
実施例5〜8、12および15は、実施例1のアルカリ金属量、重縮合反応触媒種およびリン化合物種・量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応を行い、ポリエステルAおよびフィルムを得た。特性を表1〜4に示す。なお、重縮合反応触媒である実施例5の三酸化アンチモン(以下、三酸化Sb)は0.04重量部含んだEGスラリーにてEI反応前に添加した。実施例6の二酸化ゲルマニウム(以下、二酸化Ge)は、二酸化Ge0.01重量部を三洋化成工業(株)製のテトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド20%水溶液0.0375重量部で完溶させた後、EGを加えたEG溶液を用い、実施例1のチタン触媒A同工程に添加した。
【0093】
また、実施例12は実施例1のTMPAの代替としてトリエチルホスホノアセテート(以下、TEPA)を用いた。実施例15は、実施例1のPEP36の代替として旭電化工業(株)製テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイトテトラ(以下、AS1500)0.2220重量部含んだEGスラリーを用いた。
【0094】
実施例9〜11は、実施例1のアルカリ金属種を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応を行い、ポリエステルAおよびフィルムを得た。特性を表1〜4に示す。なお、実施例1の水酸化Kの代替として、実施例9の水酸化ナトリウム(以下、水酸化Na)は0.002重量部含んだEG溶液、実施例10の酢酸リチウム(以下、酢酸Li)は0.01重量部含んだEG溶液とし、水酸化K同工程に添加した。また、実施例11の第一リン酸カリウム(以下、第一リン酸K)は0.01重量部含んだEGスラリーを用いTMPA等と同工程に添加した。
【0095】
実施例13、14は、実施例1の重縮合温度を表2のとおり変更した以外は実施例1同様にポリエステルAおよびフィルムを得た。特性を表1〜4に示す。
【0096】
実施例16〜19
実施例1のDMT、CHDC、EG、SPGの量比を変更すると同時に触媒量等を若干変更した以外は実施例1と同様ポリエステルAおよびフィルムを得た。実施例16,17は、TgがPETよりもそれぞれ10℃程度異なるため積層フィルムを2軸延伸する際に若干のムラが発生したが本発明の範囲内にあった。実施例18は、芳香環モル数が大きいために光弾性率が若干増加した。実施例19は、芳香環モル数が小さいため屈折率が低下し優れた光反射性を示したが、共重合成分量が増加したためにPETとの相溶性が若干低下し、層間剥離性が弱くなった。特性を表1〜4に示す。
【0097】
実施例20〜21
実施例20〜21は、実施例1の固有粘度を変更したものであり、実施例20は固有粘度が0.65であり、製膜時の積層性に若干のムラが見られ、屈折率の割に反射率は大きくはなかった。実施例21は、固有粘度が0.90と高いために製膜時の積層性に若干のムラが見られ、屈折率の割に反射率は大きくなかった。特性を表1〜4に示す。
【0098】
実施例22
実施例1のCHDCのシス/トランス比率が60/40であるCHDCを用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。実施例1に比較してCHDCのトランス比率が高いため、光弾性係数は実施例1よりも高い値となった。特性を表1〜4に示す。
【0099】
実施例23
実施例1の積層総数101層を積層総数251層に変更した以外は実施例1同様にしフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの厚みは50μmであり、積層増加により光反射層が増え、優れた光反射性を示した。特性を表1〜4に示す。
【0100】
比較例1
実施例1のSPGを含まず、さらにCHDC成分の代わりにイソフタル酸ジメチル(以下、DMI)を15mol%共重合した以外は実施例1と同様ポリエステルおよびフィルムを得た。脂環族ジカルボン酸成分、脂環族ジオール成分のいずれも含有しないために屈折率、光弾性係数が大きく、積層フィルムの反射率も小さいものであった。特性を表5〜8に示す。
【0101】
比較例2
実施例1のCHDCを含まず、さらにSPG成分の代わりに1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を30mol%共重合した以外は実施例1と同様ポリエステルおよびフィルムを得た。屈折率は低下したものの、若干光弾性係数が大きく、積層フィルムの反射率も若干劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0102】
比較例3
実施例1のCHDCを含まず、さらにSPG成分の量を45mol%に変更した以外は実施例1と同様ポリエステルおよびフィルムを得た。Tg、ゲル化率、熱減量率が非常に高く、積層フィルムの剥離性も劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0103】
比較例4
実施例1のSPGを含まず、CHDC成分の量を25mol%に変更した以外は実施例1と同様ポリエステルおよびフィルムを得た。屈折率は目標範囲内であるが、Tgが下がり、積層フィルムの剥離性に劣り、反射率も小さいものであった。特性を表5〜8に示す。
【0104】
比較例5、6
比較例5は、実施例1のアルカリ金属を用いない以外は実施例1同様にEI反応を行い、重縮合反応を進め重縮合反応装置下部のバルブを開けてガット状のポリマーを水槽へ吐出した。その際、吐出後半に吐出孔より太細ガットが吐出される状況にあり、ポリエステルガットはカッターにてカッティングすることが不可能となり、チップ化を中断した。また、後続バッチのポリマーに大きな黒色異物が観察され、さらにゲル化率や熱減量率の高いものであった。また、フィルム表面や積層厚みムラが認められ剥離性や反射率に劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0105】
比較例6は、本発明範囲よりアルカリ金属を多く添加した以外は、実施例1同様にエステル交換反応を行い、重縮合反応を進めたが目標の重縮合反応が進まないため反応を中止した。特性を表5〜8に示す。
【0106】
比較例7,8
比較例7は、実施例1のEI反応触媒である酢酸Mnを本発明範囲より少ない量添加したところEI反応において所定量のメタノールが得られないため反応を中止した。
【0107】
比較例8は、実施例1のEI反応触媒である酢酸Mn量を本発明範囲より多く添加した以外は実施例1同様にEI反応および重縮合反応を進めた。また、後続バッチのポリマーに大きな黒色異物が観察され、さらにゲル化率や熱減量率の高いものであった。フィルム表面や積層厚みムラが認められ剥離性や反射率に劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0108】
比較例9、10
比較例9は、実施例1の重縮合反応触媒であるチタン触媒Aを本発明範囲より少ない量添加したところ、真空度不良が発生し目標の重縮合反応が進まないため反応を中止した。
【0109】
比較例10は、実施例5の重縮合反応触媒である三酸化Sb量を本発明範囲外より多く添加した以外は実施例1同様にEI反応および重縮合反応を進めた。しかし、吐出後半に吐出孔より太細ガットが吐出される状況にあり、また後続バッチのポリマーに大きな黒色異物が観察され、さらにゲル化率や熱減量率の高いものであった。また、フィルム表面や積層厚みムラが認められ剥離性や反射率に劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0110】
比較例11、12
比較例11は、実施例1のTMPAを用いず、さらにPEP添加量をリン元素添加量として本発明範囲外より少ない量とした以外は、実施例1同様にEI反応および重縮合反応を進めた。しかし、後続バッチのポリマーに大きな黒色異物が観察され、さらにゲル化率や熱減量率の高いものであった。フィルム表面や積層厚みムラが認められ剥離性や反射率に劣るものであった。特性を表5〜8に示す。
【0111】
比較例12は、実施例15のAS1500の添加量増量し、合計リン元素添加量を本発明範囲より多く添加した以外は、実施例1同様にEI反応および重縮合反応を進めたところ、目標の重縮合反応が進まないため反応を中止した。特性を表5〜8に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
【表5】

【0117】
【表6】

【0118】
【表7】

【0119】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸構成単位に少なくとも脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよびジオール構成単位に少なくとも脂環族ジオールを用い、エステル交換反応を経たのち重縮合してポリエステルを製造する方法において、前記脂環族ジカルボン酸アルキルエステルおよび脂環族ジオールを含むポリエステルに対して、アルカリ土類金属、Zn、CoまたはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を金属元素として30ppm以上、200ppm以下添加してエステル交換反応をせしめ、次いで重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5ppm以上、500ppm以下となるように添加し、さらにリン化合物をリン元素として50ppm以上、500ppm以下添加し、また重縮合反応以前の工程においてアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として2ppm以上、1000ppm以下添加して、重縮合反応し下記特性(1)〜(4)を満足したポリエステルとすることを特徴とするポリエステルの製造方法。
示差走査熱量測定によるガラス転移点温度:65℃以上〜90℃以下・・・(1)
ナトリウムD線での屈折率:1.500以上〜1.570以下・・・(2)
ゲル化率:大気下50%以下、窒素下10%以下・・・(3)
示差熱・熱重量同時測定による熱減量率:大気下2%以下、窒素下1%以下・・・(4)
【請求項2】
アルカリ金属化合物がカリウム、ナトリウムおよびリチウムから選ばれた少なくとも1種の金属元素化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属化合物の水酸化物、酢酸塩およびリン酸塩から選ばれた少なくとも1種の金属元素化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属化合物の添加時期が、特にエステル交換反応前であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
チタン元素を含むチタン化合物がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
チタン元素を含むチタン化合物のアルコキシ基がβ−ジケトン系官能基、ヒドロキシカルボン酸系官能基およびケトエステル系官能基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
リン化合物として3価のリン化合物を0.005〜1.0重量%添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
脂環族ジカルボン酸アルキルエステル成分がシクロヘキサンジカルボン酸ジメチルであり、全ジカルボン酸成分中5〜80モル%添加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項9】
シクロへキサンジカルボン酸ジメチルとして立体異性体のシス、トランス体を含有し、トランス体の含有量が40%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項10】
脂環族ジオール成分がスピログリコールであり、全ジオール成分中5〜80モル%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項11】
ポリエステル繰り返し単位に含まれる芳香環モル数がポリエステル樹脂1kg当たりに換算して4.8モル以下である請求項1〜10のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項12】
重縮合反応時、重縮合温度を260〜290℃で実施することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法で得たポリエステルと
ポリエチレンテレフタレートとを交互に積層した積層ポリエステルフィルム。
【請求項14】
光反射率が90%以上である請求項13に記載の積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2009−1656(P2009−1656A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163338(P2007−163338)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】